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No.8570の一覧
[0] ALTERNATIVE 愚者と罪人 <注:多重クロスxfate xEVA>[NOCK](2009/05/08 00:58)
[1] 第一話「召還」[NOCK](2009/05/11 23:44)
[2] 第二話「慟哭」[NOCK](2010/07/17 23:26)
[3] 第三話「意志」[NOCK](2009/05/11 23:40)
[4] 第四話「驚異」[NOCK](2010/07/17 23:27)
[5] 第五話「因果」[NOCK](2009/05/11 23:38)
[6] 第六話「戦場」[NOCK](2009/05/11 23:38)
[7] 第七話「危機」[NOCK](2009/05/11 23:37)
[8] 第八話「背中」[NOCK](2009/05/11 23:36)
[9] 第九話「守護」[NOCK](2009/05/11 23:45)
[10] 第十話「雷霆」[NOCK](2009/05/11 23:52)
[11] 第十一話「方向」[NOCK](2010/07/17 23:29)
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[8570] 第十一話「方向」
Name: NOCK◆b833a99e ID:dc728d93 前を表示する
Date: 2010/07/17 23:29
 やんごとなき人間が乗る特別車とはいえども、軍用車というものはどうしてもその重量故、普通車以上の振動をもたらす。さらに言えば、この車両は迅速に同乗した者を京都から新たに遷都された都、東京に運ぶという任務を授かっていた。自然、エンジンは相当数の回転を起こし、その音は車自体の振動音と共に車内での話し声を阻害する原因となっていた。

 だからこそ、その中で黒い斯衛服を着た通信兵が通信機に向かって何かを喚いていたとしても、その声が車内に通ることは無く、傍目には少し滑稽にも見える様相を呈していた。

「どうした。通信兵?」

 同乗していた赤服の斯衛が、その斯衛に叱咤の意味も込めて状況を問いかけた。肩に乗った翡翠の髪が、車の振動に合わせて揺れている。

「はっ! 申し訳ありません。中尉殿。実は……」

 通信兵は声を大にして何らかの報告をしようとしたが、残念なことに彼の坐しているのはエンジンとサスペンションのある後方部である。よって、その声はエンジンの駆動音と振動音で掻き消されてしまい、断片的にしか聞き取ることができなかった。このような状態ではまともな報告にはならない。

 しかしそれでも、情報とは生物である。その内容が戦略的に価値のあるものなのか否か、その判断は出来得る限り早くした方がいい。さらには、このように座る他に特に仕事が無い場合には何かしていないといまいち落ち着かないのが、彼女の性だった。

 通信兵はいいかげん声を張り上げるのを憚って、紙媒体に移した通信結果を赤服の斯衛――月詠真那に手渡した。

「……!」

 赤服の斯衛は、紙面に目を走らせ、怪訝な表情をしたのち、次いでその鋭い眼を大きく見開いた。

「……? どうしました? 月詠」

 彼女の奇妙な雰囲気を感じ取ったのか、前の席でシートベルトにしっかりと固定された、彼女の主たる少女がその小柄な体をよじった。

「いけません! 殿下、御身体を痛めますぞ」

 少女、煌武院悠陽の隣に座っていた侍従長がその行為を叱咤する。この振動だ。仮に大きめの段差にでも乗りあげようものなら、少女の細い身体に負担がかかる。場合によっては大怪我を被る可能性だってあるのだ。さらに言えば、悠陽を叱咤した侍従長にしても年の為か既に腰にダメージを受け始めている。

「っ! 失礼しました、殿下」

 その二人のやりとりで思考から帰ってきた真耶は、主人にいらぬ世話をかけたことを恥じつつその手の書類の束を悠陽に手渡した。

「この書類は正式な報告書ではありません。不確定な部位が多く、あまり信の置けない考察も入っております。……ですが」

 珍しく曖昧な真耶のその言葉に、悠陽はなんの事かと首を傾けて紙面を読み始めた。そして、その表情が徐々に驚喜に染まっていく。

「『緊急救助対象、無事に安全区域に到達』非難中の民間人はほぼ全員無事……」

 ほっとした表情になって、悠陽は前線基地を離れてから初めてその表情を緩めた。

 誰かがやってくれたのだ。あの不可能と言われた救出劇を……。

「救護の実行部隊は……『狂犬部隊(マッドドッグズ)』」

「恐らくは、富士教導隊からの出向部隊かと」

 称えるような声音でその部隊名を口にした悠陽だったが、その後の記述に眉を顰める。

「『同部隊の現場への到着時刻は○五二六、到着時、既にBETAによる襲撃で民間人救助は絶望かと思われたが、正体不明のイレギュラーにより師団規模のBETAが壊滅。レーダー等からもその当時の状況は不明』……? どういうことです? 現地に間に合う部隊は他に居なかった筈」

 見当がつかないと首を振った悠陽に、それは自分も同じであることを真耶は伝えた。

「戦場痕、レーダー及びその他通信設備からの情報を織り込んだ考察によると、これらのBETAを壊滅に追い込んだのは戦術機では無い可能性が高いそうです」

 書類には、BETAの死骸には弾痕らしきものは存在したものの、肝心の砲弾が見つかっていないとも記されている。だったら、その弾痕はどうしてできたのか?

「でしたら、一体何が……?」

「で、あるからこその『状況不明』『イレギュラー』であるのだと思われます」

 つまりはお手上げである。平時ならまだしも、この切迫した戦時下において直接戦略に関係のないこの程度の問題の証明・考察はこれ以上行われないだろう。現地で何が起こったのかは、もはや確かめる術は無い。

「……『イレギュラー』」

『なればこそだ。君の弱さを肩代わりしよう。なに、簡単な等価交換だ。私達が今、君が護ることができない物を護る代わりに、君が真の強者になった時には君がそれを護れ』

 普通なら世迷い言を、と切って捨てられる台詞である。だが……。

 衛士ではなかった。兵士にも見えなかった。だが、その男はただの法螺吹きにもまた見えなかったのだ。

「彼らが、やったのですね……」

「彼ら?」

 悠陽のつぶやきに反応した月詠に、しかし悠陽は応えずに正面を向いた。その口元は淡く微笑みを形作っていた。

 混乱しつつも、信じられないと思いつつも、何故か心の底で納得をしてしまった悠陽はどうしようもなく波立ってしまった心を落ち着ける為にそっと目を閉じた。

 その瞼に移るのは、どこか遥かな境地に在るように感じた、赤く遠い背中だった。








「それで、お二人のその怪我の理由をお聞きしましょうか?」

 じとっとした湿度を含んだ目でにらんでくるまりもに冷や汗をかく男と少年。

 先の戦闘が終わってから三日経ち、久しぶりに顔を合わせたまりもと英霊二人だっが、しかし早々にまりもが隠しようもない二人の怪我を発見し、二人のその、右腕を覆う包帯や、体の所々に張り付けられたガーゼについての弁解を催促していた。

「い、いや、だからさっきから言っているだろう? 私はついうっかり煮立った鍋をひっくり返してしまったのだ」

包帯を巻いた右腕を持ち上げて、エミヤが普段飄々としている彼らしくない固まった笑みを浮かべつつ弁明する。

「そ、そうです。僕もついうっかり、フライを揚げていた時に油の温度を間違えてしまいまして、油が全身に飛び散っちゃったんです」

 同じく、普段は年に似合わぬ超然とした態度をとっている少年も、まりもから視線を逸らしたままわざとらしくその頭を掻いていた。

 明らかに怪しい二人に、しばらくまりもはその視線を鋭くし続けていたが、数分もそうした後に、溜息を吐いてPXの椅子に腰を下ろした。

「……まあ、何か事情があるのでしょうし、聞かないでおいておきましょう」

 基地内のセキュリティをみれば、確かにこの二人が戦闘中常に基地内の自室に待機していたと記録されている。少なくとも、この二人は外に出たり、機密区域に入ったりはしていない。

 しかし、そのまりもの言葉にほっと安堵の息を吐いた二人を、再度まりもは睨みつける。……今度は少し拗ねたような上目づかいで。

「わたしのこと、信用してくれてないんですね」

 うっ、と胸に手を当ててのけぞる英霊二人。その捨てられた子犬のようなまなざしは基本的に善人な二人には結構堪えた。

「い、いやー。まりもさんを煩わせるほどのことでもないですし」

「う、うむ。同感だ。そもそもこの怪我は我々の不注意で起きたものだ。君が気にするべきものじゃあない」

 わたわたと慰めにかかる二人。その様子を見ていた周りの兵士達からも苦笑が漏れる。この場面を見て誰がこの二人を生身で師団規模のBETAを始末した者たちだと思うだろうか。いや、そもそも生身でBETAと渡り合える人間が居るという理屈事態がこの世界に存在しない以上、その認識に至ることができる存在は世界意志ぐらいのものだろう。

 しばらくそうやっていじけていたまりもだったが、エミヤの「今日の呼び出しの本題は?」との言葉に居住まいを正して二人に相対した。

「すみません。少し話が逸れてしまいましたね」

 そう言ってばつが悪そうに眉を垂れてまりもが本題に入る。

「今日お二人を呼び出した理由は、今後のお二人の身の振り方について明確にしておくようにと命令されたもので」

「我々の身の振り方?」

 はい、と少し言い辛そうに表情を歪めてまりもが話し出した。

「今回の戦闘を経て、BETA達を琵琶湖周辺に抑え込むことに成功しました。現在は重慶ハイヴからの後続も途絶えていますから、少しの猶予が生まれたことになります。しかし、それも一時的なものでしょう。いずれ近畿、関東へと大々的な侵攻が始まります」

 そこで言葉を切り、まりもは二人をみつめる。

「これから帝国軍、国連軍問わず、大規模な軍部再編が行われます。かくいう私も、此度国連軍に出向することに相成りました」

 そこでエミヤとシンジの二人は眉を潜めた。自分たちが召喚された理由を解明するためのキーたる彼女が、この基地から姿を消す。それはすなわち、彼らがまた手がかり零の状態から任務をこなさなねばならない可能性が現れたことを意味する。

「つまり、僕たちの当面の身元保証人であるまりもさんが軍から離れるわけですから、その後の僕たちの処遇が問題なんですね」

 まりもは頷きながらそのシンジの言葉を肯定する。

「はい。特に軍からの制限等は課されていないので、安全地帯まで後退した後は殆ど一般人と変わらない生活をしていただいて結構なのですが……」

「ふむ……」

 エミヤが眉間に皺を寄せて腕を組む。ここからの判断は難しい。まりもの状態を把握する為には側にいるか、少なくとも連絡することが可能な場所に在ることが必須なのだが、いかんせん、軍属でない上身元も確かとは言えない二人がこのまままりもにひっついてまわるのは不自然である。

「あ、あの……、私にはお二人に対して命を助けていただいたという恩があります。私にできることは少ないですが、何か力になれることがある筈です」

 二人の沈黙をこの先の身の振り方を不安に感じてのものだと誤解して捉えたまりもが協力を申し出る。シンジはその申し出に微笑んで、ありがとうございます、と、返した。

「そうですね。申し訳ないですけど、この先のことについてはもう少しじっくり考えてみたいと思います。二、三日中には答えをだしますので、それでいいでしょうか?」

「ええ、それはもちろんです。……ごめんなさい、力になれなくて」

 軍人としての顔から、神宮司まりもとしての顔に戻して、まりもは二人に頭を下げる。

「なに、君には十分に良くしてもらった。これから先のことは君が負担する必要はない」

「そうですよ。あそこでまりもさんと遭えなかったら、僕たちは途方に暮れたままだったでしょうし」

 二人のその言葉に虚言は無い。確実に、まりもは二人にとっての標となっていたのだから。

「そう……ですか、そう言ってくださると有り難いです。……あ、すみません、そろそろ職務がありますので失礼しますね」

二人のフォローによって多少照れが入ったまりもが事後処理を理由にその場から去ったあと、エミヤとシンジは厳しい表情でお互いを視線を合わせた。






「それで、どうします?」

「ふむ……少々、厄介だな。なんらかの理由をつけて神宮司についていく事が出来ればいいのだが」

「……それは無理そうです。先程国連軍のネットワークに侵入してみたんですけど、まりもさんが行くと言っていた白陵基地、どうやら普通の軍事基地とは違うようなんです」

 シンジの言葉に、エミヤが怪訝な表情を浮かべた。

「普通とは違う?」

 はい、と頷いてシンジが続ける。

「表向きは日本に散在する一般の軍事基地と装備、設備、編成に変わりは殆どないです。ですが、資金の流入がそれらの基地よりも格段に多くなっているのが確認されました」

 それらの資金は、とても誤差の範囲と言えるものではなく、明らかに何らかの目的で収集されていることが分かった。というシンジの説明にエミヤが自らの顎に手を添える。

「ふむ、となると、その基地はそれらの資金を用いた、他の基地とは違った役目を持っている。ということか?」

「ええ、その特殊な資金の出資者の内訳は、国連から六割、帝国から三割、その他から一割といったところでしょうか。それらが何に使用されたのかは書類等に記されてません。もちろん、ダミーは存在しましたが」

 表向きは、それらのデータは単純な設備費に偽装して、それらの資金は使用されていた。

「ごく一部の者だけが知っており、かつ多大な資金を必要とする物……。普通に考えれば新兵器かその類だと思うが……」

 だが、違うのだろう? という意味を込めて、エミヤが片眉を上げた。

「僕も最初はそう思って、その特殊な役割を割り出そうとそこの基地コンピュータに侵入しようとしたのですが……」

 シンジが肩をすくめる。

「その様子では、上手くいかなかったのか? だが、君の情報処理能力はおよそこの世界の技術力では真似ができない程の代物だろう」

「そこまで大したものじゃないんですけど……。まあ、実際にただ侵入して情報を取ってくるだけなら十分可能な防壁だったんです。ですが、セキュリティシステムを組んだ人物に気づかれずにハッキングを行うことは不可能だと判断したんです。ソフトもハードも、この世界の水準を一段超えたものでした」

 この世界での国連中枢ネットワークや、帝国城内省のセキュリティすら凌駕する情報防御機構を白陵基地は所有していたのだ。

「それほどのセキュリティで隔離された事柄……。ただの兵器の類では無いということか」

「はい、それで、国連中枢にハッキングしたときに、関係のありそうな情報を見つけたんです」

「さっきは謙遜していたが、十分に反則的な能力だと思うぞ」

 間違っても、国連の機密情報というものは、そうほいほいとハッキングされていいものではない。エミヤのその言葉に、あははと乾いた笑いを漏らしたのち、シンジは真顔に戻った。

「それらの情報の中に、他のカテゴリとは明らかに隔離された上に、厳重なセキュリティで防護されていた情報群がありました」

 そう、それこそが、BETAの侵略が始まった三十年前から人類が、なんとかして状況を打開しようと苦心して実行してきた秘密計画。

「『オルタネイティヴ計画』というものが、このBETA戦争が始まる前、奴らが出現してから進行されています」

Altanative<二者択一>計画。人類が生き残るか、BETAに撲滅されるか。それを決定する計画である。現在までに三つの計画が発動したが、どれも目的を達成できずに瓦解することになった。

一九六六年に行われた第一計画。あらゆる言語、信号、思考派等を用いてBETAとの意思疎通を図る試み。しかし、それは何も効果を得ることができずに失敗する。

一九六八年、BETAを捕獲しての調査・分析を目的とした第二計画が行われた。捕獲に際し多大な犠牲を払うも、解明できたのは彼らが人間と同じく炭素を主体とした生命体であることだけだった。

一九七三年、BETAの地球襲来にて発動された第三計画。度重なる人体実験を行い、ESP能力者を育て上げ、BETAに対してリーディングと呼ばれる能力を使用し、BETAへ和解を呼びかけ、さらに彼らの情報入手を試みた。しかしその能力者生還率六%という悲惨な結果を残すほどの大規模作戦も報われず、BETAに対するあらゆる訴えは無効だった。

―――そして……。

「現在、そのオルタネイティヴ計画の四番目と五番目の計画が同時進行されているようです。そのうち、オルタネイティヴ5は、地球全土を対象にした重力兵器G『弾』を使用した超大規模焦土計画。一応残存人類から十万人を選抜して地球外に脱出する計画が付属して存在するようですが、まあそれはただの気休めみたいなものでしょう」

「まあ、そうだろうな。絶滅は免れるとて、それは人類の敗北に違いない」

 エミヤが重々しく頷いた。だが、その第五計画、少々不審な部分がある。

「待て、シンジ。そのオルタネイティヴ5と言ったか、その計画で焦土計画が行われるのは本当に地球全土なのか?」

 エミヤのその疑問に、シンジは答えを苦々しげに吐きだした。

「もちろん、建前でしょう。BETAの侵略が行われていない地域でそれを行う意味がない」

「……ふむ、確かアメリカやオーストラリアにはまだBETAは進行していなかったな?」

 成程、どこの世界に言っても、かの国は相も変わらず傲慢らしい。エミヤもシンジと同じ想像に至り、心中で苦い表情をする。

「結局のところ、自分たちが救われれば他の国は二の次になるってことですね。……まあ、理解できない考えではないですが。ただ、もちろんただそれだけでは他の国からの莫大な反感を買いますから、地球外の脱出という項目を設けて反発を緩衝しているんでしょうね」

「そう簡単に納得できる話ではないだろうがな」

 だが、米国やその他まだBETAに侵攻を許していない国々にとっては文字通り死活問題になっていると想像できる。たしかに、自国に攻め入られる前に敵性体を根絶したいという気持ちは理解できなくもない。だがそれも、件のG弾という兵器が本当にBETAに有効だったらの話だ。もし、G弾すら効果が挙げられなければ、文字通り人類は終末を迎えることになる。

「だが、先ほどの話だとそれとは別の計画が存在するのだろう?」

「はい。前置きが長くなってしまいましたが、この『オルタネイティヴ5』計画に拮抗する形で、第四計画『オルタネイティヴ4』が、発動しています」

「ふむ……。それで、そのオルタネイティヴ4は何を目的にした計画なのだ?」

 それが、とシンジは困った表情で肩を落とした。

「わからないんです。第三計画の成果を接収していることは掴めたんですが……。第四計画の内容は世界最高のセキュリティで保護されていたんです」

 そこで、エミヤは得心がいった。

「成程、『最高のセキュリティ』、か。……つまりは、件の白陵基地がその計画の実行機関だと?」

 ようやく、白陵基地の特殊性が表れてきた。

「はい。資金源も主に現在BETAに対して明確な危害を被っている国連諸国や、帝国からですから、第五計画と対をなす第四計画への出資としては妥当だと思います」

 何より、とシンジが確定的な論拠を述べる。

「オルタネイティヴ4の主席研究官が現在白陵基地の副司令として任官しています」

「……成程、それは最早間違いないな」

「ええ。名前は香月夕呼博士、帝国大学にて応用量子物理学研究室に所属、因果律量子論という理論を研究していたらしいです」

「その理論が、オルタネイティヴ4になんらかの関係を持っている、ということか」

「はい。残念ながら、その理論についての情報もほとんどが白陵基地に保管されていた為手が出せませんでした……」

 シンジはため息を吐いたが、気を取り直して続ける。

「冗長になってしまいましたが、帝国と国連からの神宮司まりも中尉に対する辞令が、その女性から発されていることが分かったんです。二人の関係は訓練予備校――僕らの世界で言う中学校ですかね――での同級生。それが召喚の理由だと断定はできませんが、無関係でもないでしょう」

「……成程、な」

 エミヤが椅子の背もたれを軋ませ、その身を預ける。溜息を吐いて、一言。

「確かに、そうなると神宮司についていくのは難しいな」

 世界的に大規模で、かつ最高機密の計画。そしてその計画を仕切る者からの召喚辞令。確実に、ただの異動とは勝手が違うだろう。恐らくは、件の基地に出入りする者には、厳しい審査が行われている筈。そしてほぼ間違いないなく、表面的に繕った個人情報しか持たない二人ではその基地に入り込むことは不可能だろう。何より、まりもに二人が白陵基地についていくことを納得させる理由がない

「だが、分かったこともある」

「分かったこと、ですか?」

 エミヤのおもむろな宣言にシンジが問い返す。

「ああ。この予測は、我々が召喚された理由が神宮司に関係する事柄であることを前提としたものではあるが……。神宮司が関わる事象で、間違いなく最大の事物になるだろう

『オルタネイティヴ第四計画』。彼女がその中で何の役割を行うのか知ることはできないが……」

「……ああ! 確かに、そう考えるのが自然ですね」

 そう。神宮司まりもが、『あの時』死んでいたとすれば、その役割を果たす者は存在しなくなっていた。

「まりもさんが、オルタネイティヴ4に影響を与え得る存在だった。それはつまり、僕たちの召喚された理由にも幾分かオルタネイティヴ4が関係している、ということでしょうか」

「まだ分らんが、国連を挙げての計画だろう? この世界に我々が存在する限り、大なり小なり影響を受けることになるだろう」

 そしてその逆も然り。二人が介入することにより、第四計画に影響を与えることも可能なのだ。

「ですが、どうします? 僕たちのような存在が、こちらの世界の一組織と同調するのは……危険ですよ?」

「うむ……、それに、召喚理由に見当が立ったといえども、肝心の我々の役割が未だに分らんからな」

 人間同士の争いの中、片方に英霊が介入することの不条理を二人はよく知っていた。しかし、今回は人間相手の戦いでは無く、あくまで敵は全貌の未だ掴めぬ異形の軍団である。その不条理も今回の召喚ではあまり気にする必要は無いのかもしれない。だが、肝心の彼らの使命がやはり見えてこないのだ。

 先の戦闘でのようにBETAにゲリラ戦を仕掛けるのにも限界がある上に、大局的に効果があるとは言い難い。だからと言って、自分たちには卓越した知識・知能も、政治力等の武力以外の力も存在しないのだ。強いて言えば、シンジの情報収集力ぐらいであるが、それもまた、明確な目的を見いだせない今では宝の持ち腐れである。

「今更ながら、世界が何故、他でもない我々を召喚したのか……。少々理不尽な物を感じるな」

 ただ武力を求めるのなら、かの英雄王でも召喚んだ方が随分と効果的である。

 だが、召喚されたのは二人とも、神話に名を残すこともない中途半端な英霊二人。

 片方は、摩耗しきった理想を抱いて、それでも尚それを捨て切れない愚者で。

 もう片方は、継ぎ接ぎだらけの心と、重すぎる十字架を背負った罪人で。

「それでも、僕たちは動かなければいけません。役割(ロール)も使命(ミッション)も分からないですが、それでもそれは確実に存在し、そしてその為に僕たちは召喚されたのですから」

 そうだな。と、エミヤがごちる。

「指針は未だ何処(いずこ)も指さず、道らしき道も無い……。くくっ、なんだ、私の人生と同じではないか」

 エミヤが自嘲にしては晴れやかな表情で笑う。それにシンジも釣られて笑い出す。

「あはは、僕の人生もそんな感じでした」

 二人に宛がわれた狭い部屋に、暫く愉快気な笑い声が響いた。なんのことは無い、これまでと、これからの生き方に違いなどありはしない。ただ、ただ―――答えを求めてひたすら走り抜けるだけ。

「足掻いてみようか、碇シンジ。この際、『我々らしく』」

「そうですね、今はただ最善だと思える行動を」

 過去の二人がその人生で『最善』を選択してきたとは思えないが、それでも二人は進まなければならない。その方向が前だろうが、後だろうが、二人は立ち止まることができない。それが彼らに課せられた性であり、そして共通項だった。


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