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No.8570の一覧
[0] ALTERNATIVE 愚者と罪人 <注:多重クロスxfate xEVA>[NOCK](2009/05/08 00:58)
[1] 第一話「召還」[NOCK](2009/05/11 23:44)
[2] 第二話「慟哭」[NOCK](2010/07/17 23:26)
[3] 第三話「意志」[NOCK](2009/05/11 23:40)
[4] 第四話「驚異」[NOCK](2010/07/17 23:27)
[5] 第五話「因果」[NOCK](2009/05/11 23:38)
[6] 第六話「戦場」[NOCK](2009/05/11 23:38)
[7] 第七話「危機」[NOCK](2009/05/11 23:37)
[8] 第八話「背中」[NOCK](2009/05/11 23:36)
[9] 第九話「守護」[NOCK](2009/05/11 23:45)
[10] 第十話「雷霆」[NOCK](2009/05/11 23:52)
[11] 第十一話「方向」[NOCK](2010/07/17 23:29)
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[8570] 第五話「因果」
Name: NOCK◆b833a99e ID:dc728d93 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/11 23:38
 エミヤとシンジの二人が、仮説前線基地にやってきた次の日の朝、二人にあてがわれた部屋にやってきたまりもは、済まなそうな表情をして二人にとある事情を説明した。

「ふむ、つまり、当分この基地から動くことが出来ないと」

「はい。本当に申し訳ありません」

「いえ、謝らないでください。神宮司さんのせいじゃないんですから」

 そう言って頭を下げたまりもにフォローを入れて、二人は先を促す。昨日この基地に連れてこられた二人の英霊は、相談の結果今日中にでも早々にこの場を立ち去るべきかと方針を定めかけていたのだ。

「はい、この基地は防衛線の中でもかなりの前線に位置しています。ですから、先日から散発的に起こっている戦闘で交通ラインの安全性が保てておらず、しばらく後方に下がる車が出せないのです」

 普段ならたとえ前線であったとしても、相互の交通手段はそれなりに出ているのであるが、今の戦況はかなり切迫している。補給を滞りなく行うために後方からの通行はかなり頻繁にあるのだが、変わりに前線から退く数はかなり減ってきている。これは、安全の確保をし、護衛の手間を省くために後方への移動を一纏めにする必要があってのことなので、まりもに責任はない。だが、彼女は一般人である二人をこの前線に拘束することに強い自責の念を感じていた。

「次回の後方への移動はおよそ二週間後に行われます。それまで、ここに居て頂かなければならないのですが……」

 済まなそうに言うまりもにシンジは気にすることはない、と告げる。

「神宮司さんに責任はありませんよ。そもそも僕たちは後方に行ったとしても行くあてもないですし」

 肩をすくめてシンジがエミヤを見やると、かれも同じ考えらしく頷いた。

「……まあ、そうだな」

 そもそも、二人に行くあてなどあろう筈が無い。せいぜい考えつくのがBETAの本拠地であるハイヴに奇襲でもかけてみるかという詮無いことである。もちろん、行った所で数に呑まれて終わるだろうが。

「申し訳ありません……。皆さん国民の生命と、財産を守ってこその軍人だというのに」

 シンジ達の言葉に、自分たちが京都を守れなかったことについてまで思いを巡らせてしまったまりもが項垂れる。

「そういうのは言いっこなしですよ。神宮司さんたちは精一杯頑張ってるんですから」

 そんなまりもに苦笑して、シンジはフォローを入れる。

「ですよね、衛宮さん」

「ああ、誰にとっても今は生き難い世の中だ。誰が誰に不平を言うことも無いさ」

 そもそもこの世界の住人では無い二人であったが、彼らは戦う者と護られる者、それぞれの苦悩を識っていた。だから、まりもの力足りず救いたいものを救えない苦悩も良く分かっていた。特にエミヤは、そのジレンマにに生涯をかけて晒されていたのだから。

「そう言ってもらえると、ありがたいです」

 まりもも二人の心遣いが伝わったのか、少し困った様に微笑んだ。

「お二人に出会ってから、迷惑かけてばかりですね」

「気のせいだ」

「気のせいでしょう」

 まりもの言葉に異口同音に返して、エミヤとシンジはお互い苦笑して顔を見合わせる。それを見たまりもがぷっ、とふき出して、部屋に明るい雰囲気が戻ってくる。

 シンジは笑いを洩らしながらふとまりもに問う。

「ええっと、そうなると僕たちは滞在中はどうすれば良いのでしょうか」

 その問いに、まりもは表情を真剣なものに戻して二人に向きなおる。

「はい、お二人には申し訳ないのですが、この基地には食客として滞在して頂きます」

「食客……ですか?」

 シンジが意味をよく理解できずに聞き返す。

「はい……」

「成る程、体の良い言い方をしているが、要は何もするなと言うことでいいのか?」

 まりもの言葉に困惑したシンジに代わってエミヤがその視線を鋭くして尋ねる。

「おおむね、その通りです」

 まりもが少し表情を強張らせて答える。食客という言葉の意味。一般人に軍属の仕事をしろと言うのももちろん無理があるが、それ以上に不審な人物の行動を制限することが目的となっている。それを気取られたことを感じてまりもは消沈した。出来れば二人とは友好的な関係のままでいたかったのだが、そのような意図を察されればそうは行かないだろう。

「ふむ……」

 まりもの返答を受けて、エミヤは少し思索する。思った通りではある。自分たちへの疑いはそれなりにあるのだろう。むしろ、疑わない方が不自然である。やはり召喚された場所が悪かったか、と思案する。

 だが、とその思案を否定する。仮に自分たちがあの場に召喚されていなければ、まりもはまず助からなかっただろう。流石に彼女を助けずとも違う場所に召喚されたかったと思うほど、彼の性根は曲げられていない。

 そこまで考えてふとエミヤはある可能性に気づいた。自分たちが召喚されたことによって神宮司まりもは命を永らえた。と、いうことは……?

「どうしたんですか? 衛宮さん」

 急に表情を変えたエミヤに対してシンジが問いかける。エミヤが面を上げればそこには彼の表情に何かを察したようなシンジと、困惑を漂わせたまりもの表情があった。

「いや、少々深く考えすぎた。因はともあれ暫くの間世話になるな。よろしく頼む、神宮司まりも」

 そう言って片手を挙げる。

「は、はい。こちらこそ……」

 先ほどの鋭い表情を崩して、急に態度を変えたエミヤに少し困惑しながらまりもも返事を返す。

「まあ、それ以外に無いでしょうね。そもそも、おかしな行動を取らなければ問題ないんですし」

 シンジが笑って締めくくった後、その場は散会となった。

「それでは、私はこれで。ああ、朝食の方ですが、正規兵たちの後PXにお越し下さい。時間は」

 まりもは腕の時計を見て時間を確認する。

「あと一時間ぐらいでしょうか。少し遅くなってしまうのですが……」

「構いませんよ。いろいろありがとうございます。ここまでしていただいて、感謝してもしきれません」

 そのシンジの礼に若干照れて、職務ですので。と返したまりもは一度敬礼をするとその場から立ち去った。それを見送ったシンジは、まりもの足音が遠くに去ったのを確認すると溜息を吐いた。

「……目と耳は封じました」

 出会ってからまだ一日と経っていない彼らであったが、シンジにはエミヤの雰囲気からある程度の心象を察することが出来るようになっていた。シンジが赤い騎士に向きなおれば、彼の表情が、何か重大な事実に気づいたことを物語っていた。

 まりもはただ雰囲気の変化を感じ取っただけのようだが、幼い頃から人の表情を読み取ることに敏く、さらにはとある理由によって『人の心』を敏感に感じ取ることができるシンジの感覚は、エミヤが何かに思い至ったことを明確に感じ取った。

「何かわかったんですか?」

 エミヤは暫く虚空を見つめて思索していたが、ある程度考えが纏まったらしく、シンジに向き合った。

「私たちがどうしてあの場に召喚されたのかについて考えていた」

 なぜ、あの場所に召喚されたのか。それはシンジにとっても疑問だった。だがそれ以外に重大なイレギュラーがありすぎた。情報の欠如、魔力供給の不備、そして―――その状況で尚存在する『複数の英霊』

「相当の召喚を受けてきた私だったが、今回の召喚は異常だらけだ」

 シンジは頷く。彼にしても、この様な召喚に経験はない。

「ええ、世界意思の介在にしては片手落ちもいいところですね」

「ああ、私もこれがトラブルである可能性は高いと思っていた。だが、それにしては状況の修正が今なお起こらないのはおかしい」

 そう。世界意思という存在にもミスがあるかもしれない。だが、そのミスを放っておくほど世界は不完全なものでは無い。さらに言えば、魔力供給の無い状態で二人が存在していることも不審なのだ。もともとが魔力の塊である自分たちが、何故魔力供給無しに現界できているのか。

「おそらくだが、これは正規の召喚だ」

 エミヤの言葉にシンジは困惑の表情を浮かべる。

「正規の召喚、ですか? でも、状況はかなり異常ですよ。イレギュラーが多すぎますし」

 シンジの反論に、しかしは首肯する。

「ああ、その点は確かに。これが普通の召喚ではないことは否定しない。だが、不完全な召喚と断じるにしてはお膳立てが出来過ぎている」

「お膳立て?」

「ああ」

 ますますわからない、と首を傾げるシンジに向かってなおも続ける。

「この身は授肉しているんだ」

 シンジは驚いてエミヤを見つめる。

「そ……うなんですか?」

「ああ。……自分の身のことだろう。気付かなかったのか?」

「いえ、僕は、厳密には死んで無いんです。それで……」

 そう、世界に独り残った少年は、ただ一人、生も死も無い世界の中存在していたのだ。死ぬことも生きることも許されない世界。そこで世界と契約をし、反英雄として英霊と成ったのだから。

「……そうか、確かに、そういった存在に前例がないわけではないからな」

 エミヤはシンジの事情には触れず、過去の経験と照らし合わせてそう言った。脳裏を過ぎるのは、剣精たる騎士王の姿。彼女も死を賜る前に世界と契約した英霊の一人だった。

 そしてあの聖杯を賭けた戦争から還った彼女は恐らく―――。

 一瞬感慨に耽りかけたエミヤだったが、自分が今話していることを思い出して再度思考を召喚についての話に戻す。

「それで、僕たちが授肉していることと、この事態とで何か関係があるんですか?」

 エミヤの思考が帰ってきたのを確認して、シンジが仕切り直して訊ねる。その表情は未だに答えに至っていないのか、困惑を表したままだった。

「ああ、授肉しているということと、魔力供給が行われないことは関係性がある」

 そこでやっとシンジは何かに思い至ったようだった。表情に明かりが差す。

「ああ、なるほど。授肉していれば、魔力供給が無くても現界できますからね」

 その通り、と言ってエミヤは頷く。シンジはそこから更に考えを進めていく。

「成る程、確かに。そうなるとイレギュラーの幾つかは理由に検討がつきますね」

 授肉した状態であるのなら魔力供給の必要性は薄い。その上、長期間の現界が可能だ。つまり、今回の召喚はもともと時間をかけての任務として設定されているのだろう。と、なると、情報収集もその任務に含まれる可能性が高い。となれば、一柱の英霊より数が居た方が効率は上である。そこまで考えて、シンジは眉をしかめる。

「どちらにしても、随分まだるっこしい任務ですね。……結局のところこの召喚の異常性は変わらないんじゃないんですか?」

「ああ、それは確かに。だが、論点はそこでは無い」

 エミヤは筋道を立てて説明を始める。

「この召喚がイレギュラーであることは否定しない。だが、尋常ではないとしても、私たちが授肉していることから鑑みるに、ただのミスで召喚が行われた訳ではなく、ある程度の目的を持って召喚されたと考えられる」

「それは、解ります。でも、結局の所、何の指標も無いのは変わらないですよね?」

 シンジが、エミヤの言わんとしていることがわからずに苦悩する。そんなシンジの発した反駁にエミヤは真顔で否定する。

「指標ならある」

「えっ?」

 意表のつかれたシンジは気の抜けた声を上げた。

「先に言ったことから鑑みるに、召喚自体に正当性がある可能性が高い。ならば、あの場に召喚されたことについても何らかの意味があるはずだ」

 そうでなければ、召喚自体の意味が無くなる。情報も、手掛かりも、理由も、そして思考の制限も無い状態での英霊の召喚など、場合によっては殆ど災害に等しくなる。守護者たる英霊が、破滅者となりかねない事象を、間違っても世界が起こすだろうか?

「あの場に召喚された、意味?」

 シンジは考える。あの場に召喚された、その事に意味があるのなら、自分たちが何らかの事象に変化をもたらしている筈だ。

 自分たちは召喚されて何をした? エミヤとの邂逅事態に何か意味があったのか、いや、彼も英霊である。この世界への干渉としては意味が無い。

 その後に二人が、戦闘している機械兵器と異形の集団を認めた。兵器は有人であったので、それに迫る異形―――BETAを駆逐した。それ自体にもあまり意味があるとは思えない。
 BETAの個体数が膨大であることは分かっている。ならば、精々十数体の個体を滅ぼしたところで、この世界に干渉できるとは思えない。しかし、他に自分たちが行ったことと言えば、戦術機からまりもを助け出し、基地まで送り届けただけ―――!?

「神宮司さん、ですか……?」

 まさか、と言った声色でシンジが問う。だがその目は、彼が確信に近い感慨を得ている事を物語っていた。

「ああ、まず間違いない」

 おもむろに頷くエミヤの表情はどこまでも真剣だ。

「神宮司まりもは、私たちが召喚されていなければ高確率で死んでいた。だが、現実として彼女は私たちの干渉の末生きている」

 つまりは、まりもの生存を起点として、この世界に二人の英霊による変遷がもたらされている。エミヤが語っているのは、つまりそういうことである。

「僕たちがあの場所に召喚されたのは、彼女を助けるため……?」

「正確には、彼女を助けることによって、後の歴史の流れに変化をもたらせる事だな。抑止の守護者の仕事の中には、未来に災いをもたらす人間を前もって始末するというものがあるが、今回のことはその逆に位置するのだろう」

 つまり、この世界の未来に、神宮司まりもという女性は必要とされているのだ。と繋げると、エミヤは大方のことを話し終えたのか、壁に背を預ける。シンジも何とか得心が行ったのか、同じように部屋に備え付けられた椅子に腰を沈める。

「だいたい理解しました。神宮司さんを起点に、僕たちが干渉すべき事象が関わっていく、ということですね」

 朝も未だ明けたばかりというのに、シンジは若干の疲労を感じさせる表情で言った。

「未だ穴だらけの理屈ではあるがな」

 エミヤもそれだけ言って、少年と同じ様に嘆息した。

 世界は、力も与えず、知識も渡さずに、この二人の英霊に何をさせるつもりなのだろうか。

 ……そんな、詮無いことを考えながら。


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