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No.8570の一覧
[0] ALTERNATIVE 愚者と罪人 <注:多重クロスxfate xEVA>[NOCK](2009/05/08 00:58)
[1] 第一話「召還」[NOCK](2009/05/11 23:44)
[2] 第二話「慟哭」[NOCK](2010/07/17 23:26)
[3] 第三話「意志」[NOCK](2009/05/11 23:40)
[4] 第四話「驚異」[NOCK](2010/07/17 23:27)
[5] 第五話「因果」[NOCK](2009/05/11 23:38)
[6] 第六話「戦場」[NOCK](2009/05/11 23:38)
[7] 第七話「危機」[NOCK](2009/05/11 23:37)
[8] 第八話「背中」[NOCK](2009/05/11 23:36)
[9] 第九話「守護」[NOCK](2009/05/11 23:45)
[10] 第十話「雷霆」[NOCK](2009/05/11 23:52)
[11] 第十一話「方向」[NOCK](2010/07/17 23:29)
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[8570] 第八話「背中」
Name: NOCK◆b833a99e ID:dc728d93 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/11 23:36
「二万だとっ!? 何故……何故今まで報告が無かった!?」

 作戦司令部に、中将の怒声が響く。

「当初は戦闘地域で無かった筈の地域ですっ。それでも予定では安全区まで避難できた筈なのですが、進行方向に土砂崩れが多発したらしく、迂回ルートを取らざるを得なかったようです!」

「莫迦なッ! それでも通信は入れるべき……重金属雲か!」

 重金属雲の電波遮断性能はチャフ程でない程にしろ高い。戦術機などに搭載されている高出力通信装置ですら、味方機を中継機とした通信方式によって遠距離通信を行うのだ。

だが、通常の歩兵大隊の持つ通信機の電波では、重金属雲を突破することは叶わない。

「はい、ポイントCに展開した重金属雲が、風によって流れたようです……」

 予想が当たっても全く嬉しくは無い。CPの報告を聞いて中将は悪態をつく。

「ちぃっ! BETAとの接触の可能性は!?」

「このままでは一時間後に、京都から東進するBETAの一部と接触する可能性があります! 幸い山間部なので大型種の進行は遅れそうですが……対人級は確実に襲撃してくるでしょう。……どうなさいますか? 中将」

 困惑し焦燥を浮かべた女性士官のその言葉に即答せず、脇で指令を飛ばしていた師岡に言を飛ばす。

「っく、師岡! 救援に迎える部隊はあるか?」

「距離的には神宮司……マッドドッグ中隊がぎりぎり間に合う所におります。ですが……」

 即座にCPがそのルートを出力する。が、そのルートの上には大きく赤文字で「DANGER」と表示されていた。

「……光線級か!」

「はい、このルートは山間部を行く為に、一時的に光線級の射線に入ってしまいます」

 赤文字に彩られたルートを見て、苦虫を噛み潰したように師岡が答える。

「だが、この中隊以外に間に合う部隊は無いぞ。迂回ルートは取れないのか?」

 中将がCPに尋ねる。CPは額に汗を浮かべながら幾つかのルートをコンピュータに表示させた。

「地形データのみからの参照ですが、光線級の射線を避けると、このルートが最も現実的かと」

 三本現れたルートの内一本を示す。確かに、射線を最低限考慮した上では最高に近いルートではある。しかし、その横に表示されている到達予定時刻に皆の表情が暗くなる。

「一時間半、か。補給を入れるならばさらに掛かるか……」

 その場が一瞬沈黙する。そこに、先ほどから黙って様子を伺っていた少女が割り込む。自分には実権も、発言権も存在しないことは分かっていたが、民草がみすみすと失われようとしている様を見過ごすことはできなかった。

「私の護衛の斯衛を向かわせなさい。ここから最速で向かえば間に合う筈……」

 そこまで言った悠陽の台詞だったが、傍に控えていた鬚を蓄えた老人に遮られる。

「恐れながら、殿下」

 くっ、と歯噛みしながら、悠陽が問い返す。やはり、口を挟まれたか。と苛つく内心を韜晦する。

「何です」

「いかな殿下といえども、未だ十五に至らぬ身。軍を動かす実権は御身にはありませぬ」

 予想通りの言葉に心中で歯噛みする。現在の日本でも二十歳で成人と見なされるが、将軍家や、古くからの家は未だに十五を成人と定めていた。しかしそれでも、自分は未だ数カ月は成人に届かない。それまでではいかな将軍といえどもその権力を行使できない、子供のままだった。

 だが、そうは言ったものの、この老人が所属する城内省上層部が彼女が十五となった時にその力を与えるかどうかは疑問であるのだが。

「ですがっ! 民を守るのは帝国の務め。なれば、ここにおいてこそその力を使うべきではありませんかっ」

 悠陽の言に、老人は恭しく頭を下げる。しかし、傍から見ている人間にはそれに真に敬意がこもっているようには見えなかった。

「殿下、既に斯衛の者は瑞鶴に搭乗を開始しております」

「……え?」

 紡がれた言葉は、意外なものだった。彼の言からして、斯衛の出撃は許されないと思われていたのだから。悠陽が老人を希望の籠った目で見つめる。が、その希望は即座に悲哀に落とされた。

「城内省より通達でございます。陛下、即座に帝都に帰られますよう」

「なっ!?」

 悠陽が思わず声を荒げる。培われた品位も少し乱れるほどに、その言葉は少女に衝撃を与えた。

「今、この国において御身は何を置いても優先させるべきものなのです。ここも、あまり安全とは言い難い」

 その言に、その場に居た者たち全員が不快なものを感じた。いたいけな少女に希望を持たせた後に、その希望を取り去るその手口にはとてもでないが許容できない。そもそも、老人が優先しているのは将軍の身では無く、自分たちの権威だろうと、周りにいる人間は心中で察していた。

 失意に項垂れた悠陽に老人は一礼すると、その場から立ち去った。

老人と入れ替わりに、紅い斯衛の制服を身にまとった女性と侍従長が姿を見せる。

「殿下、お迎えに参りました」

「月詠……」

 何所か焦点の合っていない目で自分を見つめる悠陽の心中を察して真耶は苦虫を噛む。

 俗物が、とごちる侍従長も同じことを少女から察しとったのだろう。彼女は嫌悪の目で老人の去った方向を睨めつけていた。

 真耶に支えられつつ、ややふらついた足取りで指令部の扉から出、VIP用の優先通路の半ばに至った所で、少女は立ち止った。

「殿下?」

「二人とも、ひと時だけ、私を一人にして頂けませんか?」

「それは……」

 いけません、と答えようとして、月詠は少女の目に溜まった涙に気づく。臣下の前では絶対に涙を流すまいという、誇りと言うよりは意地のようなものが少女の目から読み取れた。

 時間はある。少しの間、悠陽が少しの間、将軍からただの少女に戻るくらいの時間なら。

「五分ほど、お暇をいただきます」

 そう言って、頭を下げる。隣の侍従長も。

 そしてその場には、慟哭を漏らす少女だけが残された。

 がり、と硬いセメントの壁にその華奢な拳をぶつける。ついに、瞼から涙が溢れる。

「私……は…なんて……弱…い」

 再度、硬い壁に拳を打ち付ける。硬い鉄筋と石で造られたそれは、少女の小さな拳を容易く傷つける。

「何が征夷大将軍……」

 白い、滑らかな肌に血がにじむ。それでも悠陽はそれを振り上げる。

「何が、帝国元首……」

 膝がくず折れる。頬を流れる涙を自覚しながら、少女は尚も壁を叩く。

「あの子が、聞いたら失望するでしょうね……」

 自嘲気味に悠陽は、言葉すら交わしたことのない妹に思いを馳せる。彼女が私だったら、もっと上手く出来るのではないか。城内の傀儡などに甘んじず、もっと良い将軍に成れたのでは……。

「め…い……やぁ」

 思わずその名前を口にする。そうすることで、彼女は少しでも妹を感じたかった。口に出して、再度自らの弱さを自覚する。

「私は……弱い」

 ぱたり、と、涙が床に落ちる。

「強くなりたい……」

 強く強く、民も、臣下も、妹も救えるくらいに。

「強く……なりたい」

 神頼みのように、いや、並行世界にて子供がサンタクロースに祈るように悠陽は力を求めた。もちろん。この世界にて神も、赤い服を来た老人も彼女に助けを与えない。もしもかの様な者たちが存在するのならば、この様な絶望に彩られた世界は存在しないだろう。

 だが、その少女の言葉は、神には届かなかったが、赤い服の男に届いてしまった。その男はサンタクロースではなかったが、しかしそれでもある意味では、『子供のユメ』の体現者ではあったかもしれない。

「……ふむ、強くなりたい、か」

 突然聞こえた男の声にどきり、と心の臓を波打たせる。その時まで人の気配にすら気付かなかったことに動揺する。

「えっ? あ、」

 ここで声を上げるべきか、悠陽は少しの間迷った。助けを呼べば必ず月詠が迅速に駆けつけてくるだろう。だが、なぜか悠陽は男に脅威を感じなかった。

「なぜ、君は力を欲する?」

 君、と聞かれたことに少し驚く。それは、自分がどのような人間か知らないことを示していたから。その様な言葉で呼ばれたことなど彼女には無かった。

「わた…しは……」

 答えるべきか、そもそも、相手をするべきかと少し悩む。だが、それ以上に現在の状態に頭が行っていなかった。気付けば、答えを口にしている自分が居た。

「全てを守りたいからです。国を、国民を、大事なものを全て守れるくらいに強くなりたいのです」

 言ってしまって後悔する。自分は一体、不審人物相手に何をしているのかと。恐る恐る見上げた男の顔の表情は、憮然としていた。

「それは不可能だ。君は、いや、人は、全てを救えるほど強くなることは出来ない」

 その言葉に、むっとする。そんなことはわかっているつもりだ。それでも強くなりたいと思うのは間違いなのか。強くなれば強くなるほど、救えるものは多くなるというのに。

「救えば救っただけのものが、掌から零れ堕ちる。当たり前だ、掌が大きくなればなるほど、指の隙間もまた大きくなるのだからな」

 男は何所か皮肉気な声音を崩さずに続ける。

「ですが、私は……強くならなくては、いけないのです」

 征夷大将軍として。そして――彼女の姉として。

「ふむ、だが、君の細腕ではBETAは倒せまい?」

 当たり前ではないか、どこの世界に、素手でBETAを倒せる人間がいる――。そこまで考えて、悠陽は気づく。

 自分は何をもって強くなればいいのか。

 それが、わからない。

「そう、何をもってして強者になるのか? 腕力では、腕の届かない相手を救えない。知力では、己の知らないものを救えない。権力では、踏みつけた者たちを救えない。ならば、全てを極めてみるか? 否、例え全能の神でさえ、全ての人間を救うことはできない」

 ならば、君は何をもって強くなり、『何』を救うのか。

 そう問われて、悠陽は項垂れる。

「わた……しは」

 言い返せない。

 なぜだか、悠陽の言葉の全てを否定できるだけの経験を、相手は持っているように感じた。

 ……でも、これだけは言える。誓ったのだ、征夷大将軍となった時に。

「この日本を守ります。力は足りなくても、私一人では何もできないとしても、それでも守ろうとしなければ、それに手がとどくこともないでしょう」

 そうだ、煌武院悠陽は、征夷大将軍はそのために存在するのだから。だから――。

「この身を投げ売ってでも、私はこの国とその民を護ります」

 後に、彼女を赤子の頃から世話してきた侍従長は語った。彼女が本当の意味で『将軍』と成った時を挙げるのなら――この日のこの時間、ほんの僅かの間にまみえたこの男との会話が発端に違いないと。

「ふむ、自らを軽視し、自らを救えぬ者は他のものも満足に救えない。覚えておくといい。これは減点だが……まあいい、及第点だ」

 そう言って男は口元を歪める。

「あがき続けるがいい。全てを救ってみるがいい。例え届かぬ道とはいえども、そこまでに至った路は『ホンモノ』だ」

「届かぬ道ではありません。必ず至ってみせます」

 即座に言い返す。自分はここまで勝気な人間だったか、そんなことを考えながら口元に意志の籠った笑みを乗せて悠陽は赤い男を見上げた。もうその目から涙は流れない。

 少女の決然とした表情に、男は目を見開くと、くっくっと笑いだす。

「……なにがおかしいのです」

 少し拗ねた表情をして、少女は男を睨む。

「いや、なに」

 男は笑みをこらえて続ける。

「昔の私の知り合いに、君がよく似ている気がしたまでだ。しかし、そうだな……、彼女もやはり同じ言葉を云うだろうな。くっ、ああ、確かに君は至るかもしれない」

 なおも時折こらえきれずに笑いを零して話す男に、悠陽は文句を言おうとするが、眼前を手で制される。

「なん、……ですか?」

「志は立派だ。君なら、かの王のように優秀な支配者になれるかもしれない。だが、今現在の君はあまりに脆弱だ」

 ぐっと悠陽は詰まる。そうだ、現に今、まさに自分の弱さのために多くの民が逝こうとしている。再度暗い闇に染まりかける悠陽の心に再度、男は待ったをかける。

「なればこそだ。君の弱さを肩代わりしよう。なに、簡単な等価交換だ。私達が今君が護れない物を護る代わりに、君が真の強者になった時には君がそれを護れ」

 それが等価交換としてまったく成立していないことは傍目に見ても明らかだった。仮にこの赤い男の師の女性がこの場に存在していたら、男は間違いなくはっ倒されていただろう。

 悠陽が男の言葉の真意がわからずに困惑していると、駆けてくる足音が耳に入った。見ればそこには、目の前の男と同じくらいに場にそぐわない、自分と同じくらいの年をした、訓練予備校の制服に似た服を着た少年が現れた。少年は悠陽をちらりと見たあと、男に向きなおる。将軍に対する礼儀としてはあまりなものだったが、生憎悠陽にそれに思い至る余地は無かった。

「衛宮さん、軍用ジープを一代『借り』られました。ここから飛ばして山の麓まで、四十分です。麓から現地まで、僕らなら二十分で着くでしょう。丁度一時間といったところですか」

「ふむ、ぎりぎりだな」

「まあ、なんとかしますよ。いざとなったら、どうにでもやり様はあります」

 山、一時間、ぎりぎり――その単語が意味するところに悠陽は目を見開く。

 見た限り二人は衛士には見えない。それに仲間も居るように見えない。彼らは、一体……。

「何、深く考える必要は無い。君は先の誓いを覚えていればいい」

 困惑の表情を浮かべている悠陽にそう言って、男は赤い外套を翻す。その背中は、どこか遠い所に挑む修練者のような裂帛の迫力があった。

「私は、全てを救う者になり得なかった。礎が歪んでいたのだからな、それに届く前に瓦解するのは当たり前だった。――だが、君は、君なら、もしやすると届くかもしれんな」

 何に、とは言わない。悠陽も男も、お互いその至るべき頂がはっきり見えているのだから。

 既に立ち去った少年を追おうとした男の背中に、悠陽は問いかける。彼にも自分にも時間が無いのがわかっていながら、彼女にはその問いを押しとどめることが出来なかった。

「あのっ! 貴方は、一体……?」

 呼び止められて、少しだけ振り返った男は口元を歪めた。

「なに、私はただの……」

 英霊・衛宮士郎とは何者か、その問いには、とうの昔に答えが出ている。

「正義の味方の、成り損ないだ」


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