幕間 「フェイト・T・ハラオウンのふわふわでぽやぽやな一日」
ミッドチルダ新暦72年 10月◎日 天気 晴れ
05:54 起床
寝起きのあまりよくない私の朝は、決まってユーヤに起こされることから始まる。
日課のジョギング帰りの彼におはようしてじゃれつき、しばし甘える。……実は毎朝起こされるまで寝たフリしてるのはナイショだ。
ぼーっ、とぼんやり頭をシャキッとさせるために、熱いシャワーを浴びる。ユーヤといっしょだから、その……ごにょごにょ……。
そ、それからっ、歯磨きとか髪のセットとか軽くお化粧とか、身支度をいろいろする。洗面台で、黄色と青色の歯ブラシが並んでいるの見るのが朝の密かな楽しみだ。
ユーヤに手伝ってもらっててるんだけど、支度にはとても時間がかかる。
女の子の朝はたいへんです。
08:00 朝食
制服に着替えたら、ダイニングへ。
朝ご飯の準備が整うまで、今日のスケジュールの確認をしたり、バルディッシュがまとめてくれていた朝刊のニュースを斜め読みしたり。一人前の執務官ともなると、世相世情には人一倍敏感でなくっちゃ……お兄ちゃんの受け売り。
今朝の献立はフレンチトーストにお野菜のスープ、それとごく普通のサラダ。
サラダのトマトを残そうとしたら叱られた。……ユーヤはいじわるだ。
08:25 植物の水やり
出かける前に、植物のお世話をするのも最近の日課。サボテンの植木鉢とか花瓶のお花とかの観葉植物を日当たりのいいところに置いて、霧吹きお水をあげる。肥料はもちろん適量で、剪定が必要ならするし、害虫にも気をつけなくっちゃ。
このごろ、休日とかに街に出たときに生花店でちまちまと買い集めてるんだ。もちろん、ユーヤからもらったのもたくさんあるけど。
……いつか広いお庭で、真っ白なバラを育ててみたいな……。
08:30 出勤
ユーヤと二人で部屋を出る。目的地はいうまでもなく、同じ敷地内の隊舎本館。すぐ目と鼻の先だ。
今日のユーヤ、午前中はヴィヴィオのお世話をしてるとのこと……なんだかちょっとうらやましい。どっちに、なのかは……ヒミツ。
08:40 ミーティング、指示出しおよび打ち合わせ
出勤してまず最初にやることは全体ミーティング。各部署の主な管理職クラスが集まって、職務方針の決定・確認する大事な会議だ。毎日あるわけじゃなくて、そういう日ははやてのところで会議というか、いろいろ相談している。
ちなみになのはは参加しない。一応、私の部下ということになってるから。階級的にも一段低いし。
それが終わったら、今度はフォワードチームのミーティング。こっちはほぼ毎日やっている。
会議で決まったことがあるならみんなに連絡・指示出ししないといけないし、なのはと今日の訓練予定を確認も忘れちゃだめだ。それに、いまはギンガたちが出向してきてるから、そっちの面倒もみないと。
……ほんと、提督としてたくさんの人を率いているクロノには頭が下がる思いだ。私じゃ絶対ムリだな、うん。
10:00 外出、会議
この日は地上本部でえらい人たちとの会議の予定があった。
と、いうわけではやてを助手席に乗せて、中央区の本部ビルまで自動車で移動。
時には本局まで行ったりして、午前中は結構忙しかったり。こういう政治的な事柄をユーヤがさばいてくれていなかったらと思うと、ぞっとする。
……だってほら、ここに来るとときどきなんか粘っこい視線を感じるんだもん……。
12:30 昼食
地上本部の食堂でお昼ご飯。会議が長引いちゃって、帰れなかった。
今日もユーヤが持たせてくれた愛情いっぱいのお弁当を食べる。はやてに「おいしそうな愛妻弁当やなぁ」なんてからかわれるのも、もうなれっこだ。学生時代からだし。
それにしても、はやてのお弁当はシャマルが作ったって聞いたけど、だいじょうぶなのかな……?
13:00 訓練
出先から六課に帰って、なのはたちの訓練に途中参加する。
エリオを始めとした接近タイプのみんなと手合わせ。半年前よりずっとずっと強くなってて、何度かヒヤッとさせられた場面もあった。さすがなのはの教え子たちだ。
機動六課は、“冥魔”と戦い駆逐するために説利された実戦部隊(難しい言葉だとタスクフォースかな?)。その隊長として、エースの一人として、私も腕が鈍らないように気をつけないと。
15:00 シャワー
訓練でかいた汗を流すために、シャワールームへ。そこで偶然、シグナムと出会した。
追跡任務の帰りだという彼女とシャワーを浴びながら世間話していたら、「そうだ、テスタロッサ。お前がよければ、久しぶりに手合わせでもしないか? 明日から数日、私はこちらで交替部隊の指導に当たる予定なんだが……」と模擬戦に誘われた。
彼女との模擬戦は得るものがたくさんあるし、最近たるんでいる気がしてたからナイスタイミングだった。こっちからお願いしたいくらいだし……ちょっと楽しみ、ふふっ♪
15:20 子守り
まだ訓練中のなのはに変わって、ヴィヴィオの面倒を見る。
場所は、六課の裏手の空き地にいつの間にかできていた公園。……なんかここ、ユーヤがポケットマネーで造ったとか言ってたけど……。
ブランコとかジャングルジムとかで遊んだり、「あんたがたどこさ」「げんこつやまのたぬきさん」「ちゃつみ」など、地球、日本の昔ながらの遊びを二人でした。全部ユーヤから教えてもらった遊びだ。
ヴィヴィオ、今日の昼間は寮母のアイナさんと過ごしてたみたい。他にもはやてやシャマル、ザフィーラ、メガーヌさんに部隊長補佐の宇佐木さん、あと不可解だけどベール・ゼファーとか、たくさんの人が彼女のお世話をしてくれている。
ともかく、ヴィヴィオは六課のみんなに大人気。やっぱり、ヴィヴィオがかわいいからかな?
それとたまに訓練終わりのエリオとキャロが遊びに来たりして、そういうときは三人に勉強を教えてあげている。
しっかりしてるけど10歳のふたりはまだまだ子ども、本格的なデスクワークには参加させてない。そんなことより、道徳とか世間の常識、一般教養を学ぶほうがずっとずっと大切だ。……実体験だから、説得力あると思う。
16:30 書類整理、事務処理
ヴィヴィオとお別れして、オフィスでデスクワーク。私はこれでも隊長なので、処理しないといけない書類は毎日山ほどある。
残業なんてしたくないから、気合いを入れてがんばりますっ。
こういう仕事は得意な方だし、苦にならない。……こう言ってはなんだけど、法務関係の案件の処理はともかく(私は執務官、六課の法務担当だ)、事件の捜査はしてないから楽勝だ。
うーん、六課が今の形じゃなかったら――たとえば古代遺失物管理部とかだったら、たいへんだったんだろうなぁ……。
18:20 日報、打ち合わせ
一日の業務の締めくくりは、なのはとの打ち合わせ。
今日一日の訓練などの経過報告を受けて、明日以降のスケジュールを二人で相談しながら作成・修正する。あと、みんなの様子を教導官としての観点から聞いたり。
……実はこの時間、なのはとお仕事関係以外の話題でもお話できる貴重な時間だったりする。
で、報告によると、エリオとキャロがちょっと不安定な以外、おおむね良好とのこと。
なんだろう、いやな感じだな……。
19:00 入浴
19:30 夕食
外出先から戻ってきたユーヤと合流、いっしょに食堂でお夕飯。ご飯を食べながら、その日あったことを話し合う。
今晩のメニューは純和食。ユーヤの勧めで、サンマの塩焼きに大根おろしを乗せて食べたらとってもおいしかった。
味が薄いのが難点だけど、かわりにヘルシーなのでイーブンだ。美容には、それなりに気を使ってる。私も女の子だし、いちおう。
会話の流れでなにげなく、「今日はなにしてたの?」って聞いてみたんだけど、曖昧にはぐらかされた。いつもはちゃんと教えてくれるのに。
たとえば昨日は本局で、第3管理世界の外務大臣を迎えるための打ち合わせをしていたそうだ。
今夜はこんな感じだけど、普段はどうしてもお仕事関係の難しい話題ばかりになってしまう。お互い責任ある立場だし、なんていうかこう……仕事人間だから、私もユーヤも。
20:50 帰宅
ようやく私たちの部屋に帰ってきた。今日も無事何事もなくてよかったと安心する。
まずユーヤとお風呂に入って、一日の疲れを流す。上がったら、髪を乾かすついでにマッサージしてもらった。
毎日の習慣なんだけど、これがもうすっごく気持ちよくって……なんだか私、ダメになっちゃいそう。
ユーヤはほんとうになんでもできるひとだ。指圧だけじゃなく、管理栄養士や美容師、あとネイルとかそんな感じの資格をたくさん持ってるらしい。なんでも、ルーさんのお世話をするために勉強したんだって。
……案外、尽くすタイプ?
22:00 自由時間
まず、実家や友達にメールする。毎日じゃないけど、週に最低二回は送ってる。
どうやら、双子ちゃんは元気にすくすく育ってるみたい。アルフいわく「毎日が戦場」だって。
ちょっと関係ないけど、お母さんと話してて思うのは、私たちには政治的インテリジェンスが乏しいってこと。一線を退いても、管理局内外に影響力を残す「リンディ・ハラオウン提督」の手腕はさすがという他ない。
お母さんやクロノたちに、影に日向に守られてなかったら今ごろいったいどうなってたんだろうと、不安に思う。
――だからこそ、ユーヤはそういう道を選んだのかなぁ……あ、でもはやては世渡りうまいから、なんとかしそうかも?
いつもはユーヤとお話して過ごしたり、部屋のお掃除――家事は同棲してたときと同じで分担している――したり、エリオやキャロ、なのはとヴィヴィオのところに遊びに行ったりするんだけど、今夜は真面目に勉強してみることにした。
さて、勉強と一口に言ってもいろいろ種類がある。
今夜の私が選んだのは、ガーデニングのハウツー本。……うん、趣味の勉強なんだ。
園芸は、食べ歩き以外、趣味らしい趣味のない私にとっては数少ない趣味の一つ。始めたばかりで、まだまだ本格的な園芸学に手を出すのは早いけど、少しずつ学んでる。
あと、私が勉強してる間、ユーヤもなにやら難しそうな学術書を読んで、レポートらしきものを書いていた。気を使ってくてるんだね、うれしい。
ちなみになのはの趣味は電気屋さん巡りとネットサーフィン。……なのは、子どものころからお休みの日とかぜんぜん外に出なかったもんね……。
0:30 就寝
深夜、日付も変わって夜の帳が降りたころ……これからは、オトナの時間だ。
朝に響かないように、時間から隔離するゲッコウを創ってくれる。この中にいると、ユーヤに包まれてるみたいですごく落ち着くから好き。
「こういう力の使い方してるって姉さんに知られたら殺されるな」とは彼の言葉。ときどき悪ノリして、分身したり変身魔法使ったり――それでナニをするかは、想像にお任せする――するんだから、いまさらだと思う。
彼のは太くて、熱くて、硬くて、たくましくて。しっかり奥まで届いて。すっごく男らしくて――って、違う違うっ!
……最近なんだか、私のほうからユーヤを求めることが多くなってる気がする。
――たぶん、原因は彼女……“アリシア”。
忙しく働いてたり、なにかに熱中している間は忘れていられるけれど。こうして夜、眠ろうと目をつむると聞こえてくるんだ。
彼女の声が、私を糾弾する声が。
――――出来損ないのおまえに、幸せになる資格なんてない。
……だからこうして、今夜も温もりを求めてる。そうでもしないと、ひび割れたココロが壊れてしまいそうで。
めちゃくちゃになるくらいに愛して……、なにも考えられなくなるくらい愛し合って――
甘く切ない幸せに浸って、溺れてる。与えられる快楽に縋って、甘んじてる。
――――私は、ずるい。