第18話 猛訓練
結論から言うと、ガイアグネは余裕で、トリーネ達は苦心してなんとか兵士をかき集めることができた。元々ガイアグネは軍の高官でありなおかつ王族であるため、優秀な兵士や近衛兵を引き抜くことが容易に出来たのだ。彼女は、イオナの分も含めてガルフ族兵士を300人も用意してみせた。
一方、ワーバニーであるサリナは最も苦労した。同盟結成直後にガイアサレム内に設置された通信システムを使い、都市長の全面的な協力を得られたまではいいのだが、敵の都市に攻め込むと正直に言ってしまったため、尻込みする者が相次いでしまったからだ。結局、足りない兵士集めは謙介に泣きついて協力してもらった。その結果、ワーピッグやワードッグ、そしてワーシープの兵士をなんとかかき集めて、数を確保することができた。
サリナと比べると、ワーウルフであるフィーネはまだ楽だったと言える。時間はかかったが、なんとか同族の兵士をかき集めることが出来たからだ。しかし、ワーキャットであるトリーネは、サリナほどではないがやはり兵士集めに難儀した。このため、結局慎二に無理だと泣きついて、兵士集めを協力してもらった。慎二はこんなこともあろうかと、ガイアグネに予備の兵士を集めるよう頼んでいたため、ガルフ族兵士は予定よりも増えることになった。
訓練初日の早朝、宮殿の大広間に兵士全員が集められた。ガルフ族は昨夜興奮して眠れなかった者が多く、獣人族は夜間に強行軍でガイアサレムに来たため睡眠不足のものが殆どだったが、女王ガイアノーラの訓示を真剣な表情で聞いていた。
エルフの男女からなるアグネ中隊180人は、近衛兵から引き抜いた者が殆どで、ガルフ軍の最精鋭という。女は皆ガイアグネと同じ服装──ディードリットタイプ──であり、男はスカートの部分が短パンになっている。色は緑・赤・黒に分かれており、それぞれ戦車兵、騎兵、装甲車兵をであることを示している。
エルフの男女からなる第1中隊80人は、ガルフ軍から優秀な兵士を選りすぐったという。女は皆イオナと同じ服装──ティファニアタイプ──であり、男はアグネ中隊と同じだ。色は緑・赤に分かれており、それぞれ戦車兵、騎兵である。
ワーキャットとエルフの男女からなる第2中隊80人は、服装はちぐはぐに見えた。エルフの男女はアグネ中隊と同じだが、ワーキャットの女は皮の胸当てとミニスカート、男は丈の短い皮ジャンに皮の短パンという出で立ちだった。ワーキャットの細長い尻尾が、緊張のためか殆ど揺れていない。
ワーウルフの男女からなる第3中隊80人は、服装は統一されていた。女は毛皮の胸当てとミニスカート、男は毛皮のシャツに毛皮の短パンである。
多様な獣人族からなる第4中隊80人は、ちぐはぐを越えて雑多な集団という感じ。服装も色もばらばらだった。耳や尻尾の種類も様々である。
だが、彼らを見るガーアノーラの目は輝いていた。今まで敗北に次ぐ敗北を重ねてきたが、ようやく反撃するチャンスを掴んだのだから、喜びも格別なのであろう。作戦が成功すれば、一気に戦局が変わる。滅亡の日が来るのを恐れて震える毎日から、ようやく解放されるかもしれないのだ。ガイアノーラは、精一杯兵士達を鼓舞し、その勇気を称える。
「──勇者のみなさん。憎きダークナー帝国を、必ずや倒してください」
みなさんなら、必ず出来ます。締めくくりのガイアノーラの言葉に、兵士達は歓呼で応じた。
その日の午前中は、体操とランニング、その他筋トレを行った。さすがに現役の軍人だけあって、特に脱落者は出なかった。ところが、午後から戦車を使った実地訓練は悲惨だった。まともに戦車を運転できる者はおらず、まっすぐ走らせることすら出来なかったのだ。
「おい、謙介。これって、まずくないか?」
慎二は、冷や汗が止まらない。そう言っている間にも、1台の戦車がひっくり返ってしまっている。それを見た慎二は、慌てて元に戻す。
「まあ、これも想定内だな。最悪、外部からコントロールすればいい。そうすれば、操縦手がいらなくなるしな。他にも、色々手段はある。まあ、なんとかなるさ」
対する謙介は、全く問題視していない。戦車同士の戦闘であればそうも言っていられないが、相手が騎兵や歩兵ならば高度な操縦テクニックは必要ないからだ。決められたレールの上を走るようにコース設定し、外れれば自動で元に戻るよう設定すればいいからだ。
むしろ、最初のうちは外部コントロールとコース設定が必須だと謙介は考えていたくらいだ。この方法ならば、操縦手が他の役割を担えるという利点もある。戦車は車長、操縦手、砲手、通信手の4人編成にしたが、攻撃の要である砲手を担える者は、出来れば2人欲しい。砲手は誤射を防ぐためや統制の取れた作戦行動を行う必要から、完全自動化は難しいという事情があるからだ。
「そうか、なんとかなるか。それじゃあ、装甲車も同じかなあ」
装甲車の方も、戦車同様悲惨な状況である。まっすぐ運転されている車両は皆無で、衝突している車両すらある。
「そうだな。兵士の輸送を行うだけだし、落とし穴とかをつくられなければ大丈夫だろう。操縦手は、前進と後進、それに停止の判断だけ出来れば御の字かな」
謙介は、さらっと重要なことを言う。そう、戦車と装甲車の大きな欠点は、落とし穴などのトラップなのだ。そもそも、危険な都市攻めをする理由の一つでもある。作戦目標の4つの都市が敵の基地として機能しだしたら、ガイアサレムと敵基地の間の峡谷に、トラップを仕掛けられる恐れがある。そうなると戦車の機動性が活かせなくなり、戦況は一気に絶望的になってしまうのだ。戦車部隊を活かすためには、4つの都市は是非とも確保したいところなのだ。ある意味、ここが勝負の分かれ目とも言える。
もちろん、敵にトラップを仕掛ける能力が無い可能性もある。能力はあっても、戦車や装甲車の弱点に気付かない可能性もある。しかし、そんな希望的観測に縋るわけにはいかないのだ。
「でもなあ。有望なのは、騎兵だけか。まあ、それだけが救いかな」
慎二は、ワーウルフやワーホースら勇ましい騎兵を見て、少しだけほっとするのだった。
その日の夜は、夕食後グループ毎に反省会を開かせた。それから車長が集まってその結果を集約し、更に中隊長に報告し、それから中隊長会議という手順を踏んだ。メンバーは、中隊長5人に慎二と謙介を加えた7人だ。
中隊長会議では、みんな暗い雰囲気だった。素人目にも、まだ敵と戦える状態ではないとわかったのだろう。だから慎二は、あえて苦言を呈しなかった。
「今日の訓練だけど、初日にしてはよくやったよ。そこで、君たちには一つだけお願いしたいことがある」
慎二は何かわかるかなと聞くが、誰もわからないという。まあ当然だろう。
「慎二様。一体、何をお願いしたいというのでしょうか?」
ガイアグネが尋ねると、慎二は元気を出して欲しいのだと言う。
「君たちに元気がないと、士気が下がってしまう。空元気でもいいから、元気を出して欲しいんだ。笑顔で大丈夫、きっと勝てると言い続けて欲しいんだ。そうすれば、少なくとも次の作戦ではきっと勝てる。俺が保証するよ」
そう慎二が言うと、ガイアグネ達の表情がぱあっと明るくなった。トリーネの細長い尻尾やフィーネのふさふさとした尻尾も元気に動き出し、しおれていたサリナのウサ耳もぴんと立った。
「俺も、次は絶対に勝つと保証するよ」
謙介の言葉に、更に彼女達の表情は明るくなった。
「ようし。それじゃあ、これから勉強だ」
しかし、勉強しようという慎二の言葉に、再び彼女達の顔は暗くなるのだった。
それから1週間後、慎二と謙介は驚いていた。なぜならば、既に半分の戦車が、自由自在に動き回るようになっていたからだ。
「エルフや獣人って、運動神経がいいのかな」
慎二は、彼らの急な上達に舌を巻く。
「いやあ、俺も意外だったよ。いい意味で、作戦を見直す必要があるかもな」
謙介にとっても、彼らの上達は予想外だったようだ。予定よりも、更に高度な作戦が実行可能かもしれないという。
「これなら、そろそろ次の段階に移ってもいいだろう」
慎二は、実弾射撃訓練の開始を決断した。
その日の中隊長会議では、最初からトリーネの尻尾が元気良くくねくね動き、フィーネの尻尾もふぁっさふぁっさと動いていた。
「慎二様。主砲の威力って、物凄いですね」
ガイアグネは、大きな目を更に大きく輝かせていた。主砲であるコイルガンの威力に、度肝を抜かれたようだ。
「あれなら、ダークナー帝国の奴らなんか怖くないよね」
トリーネも、猫耳をぴくぴく動かしながら興奮している。これには、他の娘達も強く頷いている。
「ようし。それじゃあ、もっと勉強しよう。そうすれば、もっと怖くなくなるぞ」
慎二の言葉に、今日は誰も嫌な顔をしなかった。むしろ、熱心に勉強したいと言い出した。
「明日は雪かなあ……」
彼女達の豹変ぶりを見て、謙介は思わず呟いていた。
*あとがき*
今回は18話まで来ましたが、20話になったらこの板を去ろうと思います。
・今のところ、オリ板に移動する可能性が高いです。
その際、タイトルを変更するかもしれません。
「エルフ娘と獣人娘と未来の自衛隊」とか「エルフ機甲師団と自衛隊3199」とかです。
自衛隊3199だと、現代自衛隊が3199年に行くような誤解を与えかねないと思ったからです。
(例えば『戦国自衛隊1549』は、現代自衛隊が戦国時代の1549年に行く物語です)
・ただし、その後もしかしたら、大幅に改訂して18禁板に行くかもしれません。
・もしかしたら、他の場所(小説家になろう等)に移転するかもしれません。
オリ板を見ると、戦記ものがあまり人気が無いようなので……
以上、まだどうするか決まっていませんが、現状の考えをお伝えします。