第22話 ロリ王女?
「お兄様、よろしくお願いします」
ガイアグネの妹、ガイアスタを紹介されて、慎二は戸惑ってしまった。彼女はガイアグネに似てとても可愛いかったのだが、可愛すぎたのだ。彼女は、まるで天使のように思えるほどに可愛かった。慎二は、思わず抱きしめて頬ずりしたくなる衝動を、堪えるのに必死だった。
彼女は、10歳ほどだろうか。思わず守ってあげたくなるような細くて華奢な身体、さらさら流れるような長い金髪、つぶらで大きく開いたエメラルドグリーンのくりっとした瞳、キリリと締まった細い眉、マシュマロのような白くて可愛らしい頬、小ぶりで可愛らしい唇。ガイアスタの顔は、美しさと可愛さとを兼ね備えていた。肌は姉と同じく雪のように白く、瑞々しい肌をしている。
「ああ。よろしくね、ガイアスタ」
慎二は、自分の声が上ずっているのに気が付いていた。心の中で『お、俺はロリコンじゃない!ちっ、違うんだっ』と叫びつつ、『でも、将来が楽しみだな~』などと思ってしまうのだから、男と言う生き物はしょうがない。
「素敵なお兄様と一緒に暮らせて、とっても嬉しいですわ」
彼女が微笑むと、慎二の頬も緩んでしまう。しかし、なんだか殺気を感じて横を見てみると、ガイアグネが慎二を睨んでいた。まさか焼き餅かと思ったが、さすがにこんな子供にと思ってその考えを打ち消し、ガイアスタとの話を続ける。
「そうそう。もうすぐ歳の近いお友達も出来るからね」
慎二は、近いうちにホワイティーの子供を受け入れることを説明した。そうすれば、今は広くて寂しく感じるこの家も、きっと賑やかになるだろうと言う。
「まあ。一体、どんな子がくるのでしょうか?」
ガイアスタは、楽しみですと言ってにっこり笑った。
「いやあ、参ったねえ。いきなり子持ちになるとはね」
謙介は、慎二に会うなり苦笑する。謙介も慎二と同じで、ホワイティーの子供を受け入れることになったからだ。謙介はガルフ族のイオナとその家族と暮らすことになっているのだが、隣の家が婚約者のサリナであるのは慎二と似たり寄ったりだ。その両家で、子供達を受け入れることになっている。
子供を受け入れる理由は、要は早く手なずけようということだ。ホワイティーの大人は洗脳でもされているのか、ダークエルフを裏切ろうとしない。そんな親の元では、将来ガルフ族のために戦おうなんて気になることはないだろう。ならば、こちらで育てて取り込もうということだった。
「悪ガキが来ないといいけどな」
慎二も、実は少し不安に思っている。特に、子供がいきなり親から離れて、全く環境が違う場所に放り出されて大丈夫なものかと思うのだ。もっとも子供であれば、大人よりは適応能力はあると思われるのだが。それでもどういう子供が来るのかわからないうちは、なんとなく不安である。
「それにしても、一人も裏切り者が出ないなんて、あまりにも異常だな。こりゃあ、何か裏があるな」
謙介も、何かおかしいと思い始めているようだった。慎二も、何か嫌な予感がする。このままでは、当初の目論見は全く崩れてしまう。ホワイティーのうち、5%でも戦力に出来れば上出来だと予測を立てていたのだが、まさか全く戦力に出来ないとは想定外だった。
偵察した者から聞いた印象では、ホワイティーは好戦的では無かったといことだったので、後方支援を担ってもらう腹づもりであったのだが。それでも農業に従事してもらうことには成功したので、現在農作業を行っているエルフや獣人を彼らに置き換えていくことで、戦力の充実を図ることが可能になったのは大きな前進である。
あとは、5万人まで減ったガルフ族の人口をどう増やすかが課題である。最悪の場合、エルフィン王国から移民を募るという方法も考えられるのだが、ガイアノーラは間違いなく反対するだろう。
「やっぱり、もう少し待つべきだったか。いや、そうも言ってられないか」
慎二は、もっと徹底的に帝国のことを調べてからにすればと言いかけたが、そう出来ない事情があったことを思い出した。慎二達の中隊が設置して、今は艦長がいる基地は、ナムアから東南の方向に少し行った場所にあるからだ。ナムアに帝国の勢力が入り込んできた場合、なにかと厄介な状況になりかねない。そんなこともあって、艦長は今回の作戦を支持したのだ。
「しかし、これからは捕虜が増える一方だろ。本当になんとかなるのかな」
謙介が心配するのも当然だ。この地を目指す移民は、これからも次々と来るだろうから。いずれは敵に知られてしまうだろうが、それまでは捕虜は増え続けるはずだ。ガルフ族と獣人族が合わせて45万に対して、捕虜が200万という事態も考えられる。そんな大勢の捕虜を抱えて戦えるのかどうか、とっても心配ではあるのだが。
慎二が謙介の家を訪れて話し込んでいる時、ガイアグネとガイアスタの姉妹は冷戦状態に陥っていた。
「ねえ、アスタ。わかっていると思うけど、慎二様は私の婚約者なんですからね。そこんとこをようく理解しておくのよ」
ガイアグネが諭すように言うと、ガイアスタはわかりましたと返す。
「お姉さまの大事な婚約者なのですから、きちんとおもてなししないといけませんね。そうそう、早速今夜にでも、お風呂でお背中を流しましょう」
ガイアスタは、外見は天使のように可愛いが、心の中までは天使と同じでは無かったようだ。慎二のお世話をしなければと言い、ガイアグネの怒りを買う。
「いいえ、アスタ。そういうことは、私がやります。あなたは子供らしく、ホワイティーの子供の相手をしていればいいんです」
少し裏返った声でガイアグネは話す。しかし、ガイアスタはくすりと笑う。
「お姉さまだけ、未だに慎二様とは何もないと聞いていますけど。本当だとしたら、どうしてなんでしょうかねえ」
ガイアスタは、ガイアグネの胸をちらりと見る。すると、ガイアグネの肩がふるふると震えだす。
「あなただって、ツルペタでしょう。条件は同じだわ」
すると、ガイアスタは言い返す。
「まあ、いやだ。子供としか胸の大きさを比べられないなんて。情けなくて涙が出ますわ」
ふふふっと笑うガイアスタに、ガイアグネはいつかとっちめてやると心に誓うのだった。
翌日、慎二と謙介は亮治に呼び出された。そこには2人の小隊長、それに藤次や他の分隊長がいた。
「実は、重大な事実が分かった。まずは、これを見て欲しい」
亮治はそう言って、立体映像を流した。そこには、ダークエルフや獣人の男達と歓喜の表情で絡み合うホワイティーの女達の姿が、大勢映し出されていた。もちろん、サイズは適当に縮小してある。
「なんだよ、これ」
「敵地でよくやるなあ」
「そういうことか」
分隊長達が騒ぎ出すと、亮治は映像の音量を落とした。
「これを見ればわかるように、彼女達はダークエルフや獣人に愛情を抱いているようだ。そこで音声を分析してみたところ、彼女達が若いうちは、皆ご主人様『だけ』に身も心も捧げていることがわかった。15歳から20年ほどご主人様に尽くすと、ようやく同族の男と結婚するそうだ。だがな、そんな女が同族の男に愛情を抱くとは思えない。子供に対してもだ」
そこまで言って、亮治は部下の顔を見回した。皆驚きの表情を浮かべている。
「では、若い男は一体どうしているんですか?ひたすら我慢ですか?」
分隊長の一人が質問すると、亮治は頷いた。
「ホワイティーの男は、なんと30歳になるまで結婚できない。そして、帝国の男は兵士を除いて、妻や奴隷以外とは性交渉はしない。性病を防ぐためらしいが。ここまで言えば分かるな。男どもは、おそらく相当な不満を抱えているだろう。そこに付け込むことが出来るはずだ」
亮治の言葉に、皆力強く頷いた。もてない男の鬱憤がどれほどのものか、悲しいことに彼らの多くが実感をもって知っていたからだ。だから、ホワイティーの男達の悲哀が手に取るように──分かりたくはないが──分かるのだ。
ここまで分かれば、後はやりようはいくらでもある。『結婚』を餌にして、男達を兵士に仕立て上げるとか。女達をご主人様から引き離して、会いたければ言うことを聞けと言うとか。他にもやましい手段はいくらでも考えられるのだ。
「しっかし、ダークエルフって羨ましいよなあ」
謙介がそう呟くと、皆から恨みがましい視線を浴びた。他の分隊長は皆、お前が言うなという表情をしている。美人の巨乳エルフ妻と可愛いワーバニーの婚約者を持つ謙介は、慎二ともども他の隊員からは、上手いことやった野郎として羨望と妬みの対象だったからだ。
「まあ、確かに羨ましいよな。だがな、ホワイティーの男女比は、1対2から1対3で女の方が多いらしい。だから、お前達にも十分チャンスがあるぞ」
亮治の言葉に、もてない野郎共が歓声を上げた。