第25話 機甲師団その2
慎二達と打ち合わせた翌日は、機甲師団の隊長を集めての打ち合わせとなる。ガイアグネは、第52戦車連隊と第53戦車連隊のトリーネ大佐、第5特科連隊のイオナ大佐、第11普通科連隊のフィーネ大佐、第5後方支援連隊のサリナ大佐、第5施設大隊の中佐、第5特殊偵察隊の中佐を集めて、機甲師団編成のための打ち合わせを行った。
「私が初代師団長となる予定のガイアグネです。皆さん、ダークナー帝国打倒のため、共に戦いましょう」
ガイアグネ少将は、そう言って皆に軽く頭を下げる。
彼女は、緑の『ディードリットタイプ』のノースリーブのワンピースに、濃紺の胸当て、肩当てとマントを加えた格好をしている。頭には、緑のベレー帽を被っている。普段着と比べると、威厳や風格が増して見える。今後、平時の軍務では、彼女はこの格好で通すことにしている。但し、戦闘時は迷彩服を着ることになるが。
彼女は簡単な自己紹介をすると、皆にも自己紹介を促す。彼女は、最初にトリーネを指名した。
「私は、第52戦車連隊と第53戦車連隊の連隊長であるトリーネです。副師団長でもあります。皆で頑張りましょうね」
トリーネ大佐は、笑顔であいさつする。機嫌がいいのは、昨日慎二と一緒に寝たからだ。彼女はワーキャットでも珍しい、左目が緑で右目が青のオッドアイであるためか、2人の中佐から注目を浴びているようだ。
彼女は、青い『ディードリットタイプ』のセパレートタイプに、濃紺の胸当て、肩当てとマントを加えた格好をしている。ベレー帽も黒い。彼女自身は『ティファニアタイプ』が動きやすくて良かったのだが、慎二のたっての頼みで渋々この格好をしている。
「私は、第5特科連隊の連隊長であるイオナです。よろしくお願いします」
イオナ大佐は、エルフにしては珍しく獣人並に豊かな胸を揺らしながら頭を下げる。夫である謙介の手によって、更に胸が大きくなったとの噂もちらほら。そんな彼女は、謙介の頼みで緑の『ティファニアタイプ』のワンピースに、緑のベレー帽を被っている。
「私は、第11普通科連隊の連隊長フィーネです。大丈夫、きっと勝てるわ」
フィーネ大佐は、赤い瞳を輝かせている。
彼女は、赤い『ディードリットタイプ』のセパレートタイプに、濃紺の胸当て、肩当てとマントを加えた格好をしている。ベレー帽も赤だ。彼女も慎二に頼まれて、嫌々ながらこの格好をしている。
「私は、第5後方支援連隊のサリナです。頑張ります」
サリナ大佐は、ちょっと自信が無さそうだ。なんだかおどおどしている。
彼女は、黄色い『ティファニアタイプ』のワンピースという格好だ。ワーバニー特有の長い耳を持っているため、ベレー帽は被っていない。
「私は、第5施設大隊イーダです。まだ何をしていいのか分かりませんが、頑張ります」
イーダ中佐は、謙介の部下を夫に持つワードッグだ。茶色の『ティファニアタイプ』のワンピースという格好をしている。
「私は、第5特殊偵察隊のトアです。これからも、勝ち続けましょう」
トア中佐は、慎二の部下を夫に持つワーキャットだ。黒い『ディードリットタイプ』のセパレートタイプに、濃紺の胸当て、肩当てとマントを加えた格好をしている。ベレー帽も黄色だ。彼女の部隊は、既に勝利に貢献しているからか、自信満々である。
「早速だけど、今後の予定を言いいます。3日後に師団の結成式、7日後に実戦になるわ。前回と同じように上手くいけばいいのだけれど、戦闘になることも十分考えられるでしょう。ですから、気を引き締めていきましょう」
真剣な表情のガイアグネを前にして、隊長陣も表情が引き締まる。こうして、機甲師団結成の動きは着々と進んでいく。
ガイアノーラも、亮治に頼まれたことを次々とこなしていた。特に重要だったのは、他の同盟ポリスに対する更なる兵士の増員要請だ。最終的に人口の2割を兵士にしたいというガイアノーラに対して、各ポリスは色々と条件を付けてきた。
だが、条件を付けるのも当然だった。ワーウルフの場合、人口の2割というと2万人になるのだが、20代の男を全て兵士にしたとしても8千人強にしかならないので、途轍もない負担になるからだ。そのうえ、その世代の者を全員兵士にすることが出来るはずもない。社会に様々な歪みが生じるからだ。
とはいえ、ガイアノーラの方にも事情がある。毎月1個師団を結成することを目標にしているため、毎月7千人の兵士が
必要になるのだ。帝国が50万人都市4つの植民を終えるのには、1年半かかると思われる。しかし、こちらが4都市を占領しているのが知られるのは、どんなに長く見積もっても1年後が限度。だから、それまでに12個師団を結成して、守りを万全なものにしたいのだ。
この状況を打開するため、ガイアノーラは兵士が抜けた穴の一部をホワイティーで埋めるよう提案した。12歳以上のホワイティーならば、十分労働力の穴埋めになるという計算だ。試算では、200万人の植民者が来た場合、12歳以上のホワイティーの子供は8万人になるため、一応見合う。実験的に子供をエルフや獣人の家庭に迎え入れたところ、獣人の家庭にはすんなり溶け込んでいるというので、なんとか上手くいきそうなのだ。
大人の方も、今のところは大人しく働いている。だから、農作業ならばすぐにでも代替がきくし、それ以外の労働についても、時間をかければ代替がきくだろう。ホワイティー自体は既に3万5千人いるため、あと2回植民隊を捕虜にすれば、数的には十分補える計算になる。ガイアノーラは、ポリス長を集めてそう説明した。
「ふむ。それならば、なんとかなるかもしれんな」
ガイアノーラの説明に、ワーウルフのポリス長は頷く。彼はポリス住民からの信頼も厚く、彼の協力を得られれば兵士の募集もすんなりいくことが確実だと思われている。
「しかも、女性兵士の割合が半分でいいというのは本当か?常識では考えられないが」
ワードッグのポリス長は、未だに半信半疑のようだ。だが、ガイアノーラはにっこり笑って答える。
「これから結成する予定の、ガルフ同盟軍最初の機甲師団は、半数以上が女性兵士です。それでも、帝国に対して互角以上に戦えます。既に、敵兵士1万を捕らえたという実績もあります。ですから、どうぞご心配なく」
ガイアノーラが説明するまで、彼らは女性兵士はわずかしか必要とされていないと思い込んでいた。だが、男女同数でもいいならば、夫婦揃って又は恋人同士で兵士になるということも可能で、2つの家族で1組の兵士を出せばいいことになる。
「既に我々は、大勢の女性兵士を提供している。しかも、立派に成果をあげている。心配する必要は無いだろう」
ガイアノーラに、ワーキャットのポリス長が加勢する。これを聞いた他のポリス長も、賛成に傾く。その時、ガイアノーラは最後の一押しをした。
「それから、申し上げたいことがあります。兵士とその家族は、リニアカーに無料で乗ることが出来ます。しかも、兵士に対して毎月給金が支払われます」
それを聞いたポリス長達は、どよめいた。彼らの常識では、給金を受け取る兵士は傭兵だけであったからだ。
当然ながら、ポリスを守る兵士に対して給金が支払われることはない。もっとも、その代わりに常時兵役の義務があったわけではない。敵地に攻め込むこともなかったので、それで今までは事足りたのだ。だが今回はポリスを離れて兵役に就くので、家業を犠牲にするしかないと思われたのだが、支払われる給金次第では兵士の募集がやりやすくなる。
そこでガイアノーラが口にした金額は、一般の6人家族──夫婦と父母と子供2人──が1か月は優に暮らせる金額だった。これならば、裕福ではない者達がこぞって兵士に応募するであろう金額だった。
「ばかな。そんな給金を誰が支払うのかね?我々では、とてもじゃないが負担できないぞ」
だが、ワーホースのポリス長が真っ赤になって反対する。自分達が負担すると思ったからだ。しかし、ガイアノーラはやんわりと誤解を解く。
「ええ、もちろんです。給金は、全てガルフ族から支払います。それから、兵士の衣食住も最低限は負担します。この条件ならいかがでしょうか?」
微笑むガイアノーラに、反対する者などいないと思われた。しかし、ワーシープのポリス長が難しい顔をした。
「そんなに金があるなら、傭兵を雇った方がいいのではないか?」
すると、ガイアノーラは笑顔で返す。
「ええ、もちろんです。傭兵は、別口で雇いたいと思います。今のところ、10万人の傭兵を2年雇うだけの財宝がありますから」
すると、当然ながらどうやってそんな財宝を手に入れたのかと聞かれる。
「これまでは、傭兵を雇うだけの金は無いと言っていたではないか?」
そう問われて、彼女はこれまた笑顔で返す。
「婚約者から頂きましたの。彼は、思った以上にお金持ちだったんです」
それを聞いたポリス長達は、皆思った。自分の家族にも、ガイアノーラ並みの美女がいたらなあと。だが、それは無い物ねだりだった。
その頃、亮治は盛大なくしゃみをしていた。
「ん?誰か俺の噂でもしているのかな」
だが、その場に居合わせていた藤次はそんなことはないと笑う。
「それよりも、慎二の奴はいいことに気付きましたね」
慎二は、この惑星では宝石の価値が高いことに気付いたのだ。もちろん、材料とエネルギーさえあれば宝石の製造は簡単に出来るので、それを暴落しない程度に生産することにしたわけだ。他にも、ウルフガイ王国に対して高く売れそうな物がたくさんあるため、物資の生産計画を見直すことも検討している。
「あとは、本当に傭兵を雇えるかどうかだな。まあ、とりあえず最低限の兵士は集まりそうだがな」
亮治は、しばらくは楽が出来るかもしれないとほっとした。もっとも、亮治の部下である慎二や謙介は、色々な意味で大変なのだが。
ともかく、機甲師団結成の準備はこうして着々と進んでいた。