第8話 品定め
亮治は、ベッドの上でガイアノーラに腕枕をしながら横になっていた。もちろん、二人とも服など着ていない。いわゆるすっぽんぽんの上に、毛布をかけている状態だった。
「亮治には、いくら感謝してもし足りません。妹を助けていただき、本当にありがとうございます」
彼女は、亮治の胸板を軽く撫でながら感謝の言葉を口にする。彼女の妹であるガイアグネは、婚約を解消されても文句を言えないことを仕出かしたのだが、彼女がなんとかしてくださいと泣いて亮治に頼んだ結果、首の皮一枚で何とか助かったような次第である。
もちろん、スパイ云々というのは亮治の創作だ。ガイアグネには、悪酔いすると自ら服を脱ぎ捨てたり、誰彼構わず抱きついたりするという悪癖がある。しかし彼女は女同士でしか酒を飲まなかったので、これまで問題が露見することは無く本人も自覚していなかったのだ。謙介の妻も下戸であるため、先に酔いつぶれていたので知らなかったという。ガイアノーラは妹の悪癖が問題を起こさないようにと自分の配下を監視役として送り込んだのだが、慎二によって阻まれてしまっていた。ガイアノーラがそのことを知った時には、後の祭りだったというわけだ。
慎二の報告を受けた亮治から事の顛末を聞いた彼女は、亮治に助けを求めて彼はそれに見事に応えたのだ。もっとも、謙介の妻を通じてガイアグネが最後の一線を越えたかどうかの確認はした。さすがの亮治でも、酔って見知らぬ男とエッチするような女は救いようがないと考えたからだ。
もっとも全身、特に下半身の一部に唾液がべっとり付いていたり、身体中にキスマークが付いていたというから、彼女の身体が大勢の男に好き勝手に弄ばれたのはほぼ間違いないらしい。それでも決定的な一撃を食らわなかったのは、未経験者であったこと、ガルフの賓客であったこと、婚約者が慎二だったこと、王族だったこと、などという好条件が重なったからのようだ。いずれの条件が欠けていても、大勢の男に慰み者にされていた可能性が高いという。
おそらく彼女の某所に舌を入れた時に、男は彼女が未経験者であることに気付いて、一撃を食らわすことをためらったのだろうと謙介の妻は言う。ためらった時に、相手がガルフの王族で婚約者持ちであることに思い出し、我が身の破滅を招きかねないと考えて断念したのだろうと。その場合、熱く滾った液体が彼女の上の口に注がれたはずだが、それでも不幸中の幸いだったという。相手が獣人でなければ、彼女が未経験者であることに気付かなかった可能性が高いというのだから。
もちろん、亮治はこんな話は慎二にはしなかった。聞いて気分の良い話ではないし、慎二とガイアグネとの仲が決定的に壊れる可能性が高いからだ。心の中で慎二に何度も謝り、何か見返りを与えなければならないなと思いながら、亮治は慎二に彼女との婚約を解消しないように頼んだのだ。そこで深く恩義を感じた彼女は、結婚前なので最後の一線こそ越えなかったのだが、かなり際どい方法で亮治にお礼をしたというわけだ。
「ははは。あなたの頼みなら、お安い御用です。それよりも、本当に良かったんですか?」
亮治は、彼女が出した交換条件について尋ねた。彼女は頼みを聞いてくれたお礼に、王族の一人を亮治の妾として差し出したいと言うのだ。最初は固辞した亮治だったが、それでは大きな借りを作ってしまうので困ると彼女がしつこいほどに言うので、結局受け入れることにしたのだ。もっとも、亮治としても本音は嬉しいのだが。
「もちろん、良いに決まっています。あなたみたいな素敵な方を私が独占するなんて、許されることではありませんから。それならば、私と仲の良い者を娶っていただいた方が嬉しいですから。それよりも、こちらの事情で妾という形になってしまい申し訳ありません」
亮治の質問に、彼女は問題無いと答えるのみならず、謝りさえしたのだ。これには、さすがに亮治も驚いた。
「そういう事情なら、いいのですが。ただ、一つだけ聞かせてください。あなたも酒乱なんですか?」
亮治の質問に、彼女は笑って誤魔化した。それを見た亮治は、彼女には決して酒を飲ませないようにしようと心に誓うのだった。
慎二の願いは、十分ではないがかなえられられた。条件付ではあるが、気に入った女との婚約を二人まで許されたのだ。もちろん、相手が王族やポリスの代表者で無い限り、新たな婚約者とのエッチについても許可が下りた。
「よーし、さっさと選ぶぞ」
慎二は、早速気に入った女の子を呼び出して、品定めを始めた。
ワーウルフは、気が強くて身体は筋肉質だった。ワードッグは大人しくて、犬耳が可愛くてスタイルは普通だった。ワーキャットは甘えん坊で、猫耳が可愛くてスタイルが良かった。ワーホースは気が荒く、背は高いが可愛さはいまひとつだった。ワーピッグは大人しくて、ぽっちゃりしていた。鼻が低いところが大きなマイナスだった。ワーシープはのんびりした性格で、スタイルは普通だった。ワーバニーは明るくて、ウサ耳が素敵だった。
「うーん、誰にしようか」
慎二は悩んだ。顔で決めるか、性格を重視するか、それともスタイルか。エッチの相性も知りたかったが、婚約しないとわからないのでしょうがない。
慎二は、最初にワーピッグを候補から外した。やはり見た目も重要だからだ。次にワーホースを外した。これも可愛さがイマイチだったからだ。次にワーバニーを外した。可愛さは合格だったが、謙介が既にワーバニーを選ぶと聞いていたので、重なるのもまずいと思っったからだ。
残ったのは、ワーウルフ、ワードッグ、ワーキャット、ワーシープの4人。いずれも可愛い女の子だったが、ガイアグネの美しさと比べるとかなり差がある感じだ。
「そうだ。君達、ちょっと脱いでくれないかな」
慎二は、彼女達に裸になるよう頼んだ。すると4人共、恥ずかしいと言いながらも応じてくれた。手を後ろに組むように頼んでも、断られなかった。おかげで、彼女達の身体をバッチリと観察することが出来た。慎二の人生の中で、こんなにおいしい場面はこれまでに無かった。もしかしたら、これが最後のチャンスかもしれない。そう思うと、慎二は絞ることが出来なかった。
「うーん、迷うなあ」
慎二は迷った末に、彼女達に幾つか質問をして、その反応で絞ることにした。
「夫が他の女の子と浮気したら、どうする?」
慎二は、ワーウルフから順番に聞いてみた。
「噛み切る」
「噛み付く」
「引っかく」
「泣く」
慎二は、冷や汗をかく。ナニを噛み切るのか、怖くて聞けなかった。
「夫が殺されそうになったら、どうする?」
今度もワーウルフから順番に聞いてみた。
「相手を殺す」
「相手に吠える」
「相手を引っかく」
「逃げる」
慎二は、質問が悪かったと後悔する。
「結婚前に、酔って知らない男に抱かれたらどうする?」
「相手を殺して死ぬ」
「死ぬ」
「死ぬ」
「死ぬ」
慎二は、今回も質問が悪かったと反省する。
「結婚後に、酔って知らない男に抱かれたらどうする?」
「相手を殺して死ぬ」
「夫に詫びて殺してもらう」
「夫に詫びて殺してもらう」
「夫に詫びて殺してもらう」
慎二は、彼女達の貞操観念に驚く。
「結婚前に、酔って知らない男に裸を見られたらどうする?」
「相手の腕を折る」
「相手に噛み付く」
「相手を引っかく」
「泣く」
慎二は、ちょっと考え込む。
「今の場合で、婚約者がいた場合はどうする?」
「相手の腕を折って婚約者に詫びる」
「婚約者に詫びる」
「婚約者に詫びる」
「婚約者に泣いて詫びる」
慎二は、なんとなく彼女達の考えがわかってきたような気がした。それから幾つかの質問をした後で、慎二は今夜一緒に寝ようと提案する。結果は、全員がノーだった。結婚前に、婚約もしていない男と寝る訳にはいかないと言うのだ。慎二は、少し考えてから結論を出すことにした。
「いーよな、慎二は。結局、あいつは良い思いをするんだよな」
謙介は、少しだけ落ち込んでいた。謙介も一人に限って結婚が認められたのだが、結婚してから間もないこともあり、少なくとも1か月は待つようにという条件を付けられたのだ。
「ごめんね、ケンちゃん。私じゃ満足させられないのね」
謙介の妻は、申し訳ないと言って謝る。それを聞いた謙介の方が慌てる。
「そ、そんなことないよ。俺はお前に満足してるよ。だけど任務を遂行するのには、妻の数が多いほうが有利なんだよ」
謙介は、口から出任せを言って誤魔化そうとする。ところが、彼女は謙介の嘘に全く気付かないようだ。
「良かった。それじゃあ、一緒に寝よ」
今日は頑張るからと言う妻に、謙介は健気だなあと思って感動した。