『六十五年、飛騨国に一人有り。宿儺と曰ふ。其れ為人、体を一にして両の面有り。面各相背けり。頂合ひて項無し。各手足有り。其れ膝有りて膕踵無し。力多にして軽く捷し。左右に剣を佩きて、四の手に並に弓矢を用ふ。是を以て、皇命に随はず。人民を掠略みて楽とす。是に、和珥臣の祖難波根子武振熊を遣して誅さしむ』
※
数十体の鬼達がひしめく戦場。ついさっきまで、明日菜と刹那にとって絶望しかなかったその場は、助けに来てくれた仲間達によってその状況を一変させていた。
龍宮真名。
物静かな佇まいの美しい少女。だがその実は、銃火器を操り、数多の戦場を駆け抜けた本物の傭兵。
古菲。
中武研部長。バカイエロー。その年に似合わぬ拳椀を持つ少女。
茶々丸&チャチャゼロ姉妹。
人に非ずの姉妹。【闇の福音】の従者達。最先端の科学と最古の樞と言う、正反対な二体。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
【闇の福音】を始めとした、幾つもの二つ名を持つ最強の吸血姫。金色の髪を靡かせ、青い瞳を慧慧と光らせて、戦場を見下ろしている。
そして――。
「神楽坂、桜咲。無事か?」
仮面を右手に付け替えた千雨が、静かな口調で問いかけた。明日菜達は慌ててこくこくと頷きながら声を返す。
「う、うん!平気よ!」
「は、はい!」
「そうか。所で、ネギ先生の姿が見えないが、どうした?」
周囲をぐるりと見回した千雨は、そこに赤い髪の小柄な影を見つける事が出来ず、首を傾げる。
「ネギには、先に木乃香を助けに行ってもらったの」
「そうか。だが……」
千雨の瞳が、遠くに立ち上がる光の柱を映す。もしネギが首尾よく木乃香の救出に成功しているならば、あの光の説明がつかない。
「あれは、何だ?」
千雨が首を傾げる。そして、魔法的な疑問に関しては他の追随を許さないエヴァンジェリンまでもが首を傾げる。
「わからん。この国に何がどういった状態で眠っているのか、私は把握しておらんからな」
そんな二人の疑問に答えたのは、敵側の外法剣士、月詠であった。
「あれは大昔に封印された、巨躯の大鬼、【リョウメンスクナ】ですえ~」
「【リョウメンスクナ】?」
その名に再び首を傾げる千雨とは対称的に、何かを思い出して手を打ったのはエヴァンジェリンである。
「聞いた事があるな。仁徳天皇の時代に飛騨に現れた、手足が合計八本、頭が二つの異形の鬼神。だが、その記述は類稀なる武勇を現した物とも言われ、一部では神として崇められているとか」
「詳しいな」
「ふふん、私は古文も嫌いではない」
大の日本通であるエヴァンジェリンは、こう言った民話や神話の類も網羅している。
「だが、その飛騨に眠っている筈の鬼神が、何故ここに居るのだ?」
その尤もな疑問に答えたのも、やはり月詠である。
「千草はんの言う事には、あれは大昔の術者が飛騨の鬼神、【両面宿儺】を模して造り、その神性の一部を写す事に成功した強力な式神の一種らしいですえ~」
修験道の開祖とも言われる役小角が残した『前鬼』、『後鬼』。そして陰陽道の天才、安倍晴明が一条戻橋に隠した『十二神将』など、強力な力を持つ術者の式神は、術者の死後もその力を維持したまま、存在し続けたと言われている。【リョウメンスクナ】もまた、そんな式神達の一体である、と言うのが、千草が長年の研究から辿り着いた考察である。
「18年前に、今の長とサウザンドマスターが倒して封印した言う話を聞いてから、ますます確信したらしいですけどな~」
「……成程な。あれが本来の神であるならば、いくらナギと詠春であっても、そんな事は不可能だからな」
得心したのか、何度も頷くエヴァンジェリン。
「そうなのか?」
やはりよく判らない千雨は、ますます首を傾げる。因みに、その後ろでは同じ様に明日菜が首を傾げていた。
「本物の神が、例えナギクラスの英雄や、私クラスの大魔法使いであっても、人間や妖魔如きに負ける筈がないだろう。ってゆーか、相対した瞬間に消し炭になるわ」
人と神の間に横たわるのは、それほど深い次元の違いなのである。そんな神々であっても、人の信仰とその移ろいによって、零落していくのは、何とも皮肉な話である。
「その鬼神もどきを制御するために、近衛木乃香を攫ったのか」
「その通りですえ~。やんごとなきお嬢様の血脈、そして神の力を宿した式神。それらがあれば、千草はんが関西呪術協会を乗っ取る事も不可能ではありませんえ~」
月詠の言葉に、刹那の顔が怒りで歪む。噛みしめた歯がぎりりと音を立てる。
「そんな、そんなことの為に、お嬢様を……!」
「そんな事、なんて言うたらあきませんえ、センパイ。千草はんにも、どうしても退けん事情があるみたいやしな~」
「そちらの事情なぞどうでもいい。とりあえず、あの光が何なのかは判った。恐らく、近衛木乃香の魔力を使って、【リョウメンスクナ】とやらを強制的に揺り動かしているのだろう。あの光は、【リョウメンスクナ】が溜めこんでいた魔力が吹き上がっているだけだ」
「ならば、まだ完全に手遅れ、と言う訳でもないのか。長瀬を先行させた甲斐があったな」
その言葉に、刹那と明日菜が驚く。まさか、まだ助っ人がいるとは思ってもみなかったのである。
「長瀬もここに来ているのですか!?」
「ああ。念のため、一人先行させた。更に先行している筈のネギ先生が、未だ何のリアクションもない所を見ると、途中で何かあったのかもしれない。だが、助けるにしろ何にしろ、長瀬ならば大丈夫だろう」
「まぁ、忍者だしね……」
「忍者ですからね……」
すっかり正体がばればれの隠密(笑)、長瀬楓であった。
「とは言え、ここで手を拱いているつもりもない。さっさとこいつらを片づけて、私達も儀式の場に向かうぞ」
ギラリと瞳を輝かせたエヴァンジェリンが、周囲の鬼達を睥睨する。それだけで、格の低い妖達は身震いする。
「さぁて、そう簡単にはいかないと思うけどなぁ」
不意に、闇の奥から男の声が聞こえてきた。その場にいた者達が思わず注視する中、パシャリ、パシャリと水を歩く音を響かせて現れたのは、【傀儡師】呪三郎であった。
「呪三郎……!」
エヴァンジェリンの顔が険しい物に変わる。昼間の戦闘においては、自身の経験を持って圧倒したが、目の前に居る男の天才は、決して油断できる物ではない。ましてや、何の策も準備も無く、不用意に姿を現す筈もない。
「昼間はどーも、【人形遣い】。少し早い再会だけど、丁度こちらの準備も整っている。リベンジと行かせてもらうよ?」
呪三郎はエヴァンジェリンを見つめて、にたりと笑う。その際に放出された殺気と鬼気に、どちらかと言えば一般人よりの古菲が、ぞくりと背筋を粟立たせる。
「な、何アルか、あいつ……!気持ち悪くて、怖いアル……!」
「気をつけろ、古。あいつはこの場に居る鬼達のような甘い奴じゃない。正真正銘、真正の【殺し屋】で、【殺人鬼】だ……!」
真名からの酷評に、呪三郎は顔を顰める。
「本人を前にして、誰も彼も言いすぎだよ。それに、そんなに硝煙と血の匂いを染み着かせている君のような人間に、言われる筋合いもないと思うけど?」
「お前に言われなくても、判ってるさ。そしてそんな人間だから、躊躇なく引き金を引く事が出来る!」
言うなり、腰にあったホルスターからの神速の抜銃。一ミリともぶれない銃口の先に呪三郎を捕えた真名は、引き金を引こうとして。
「……っ!!」
突如として感じた危険信号に、咄嗟に地を蹴って後方に飛ぶ。直後、真上から降って来た影が、先程まで真名がいた空間に轟音と共に降り立つ。その際に振るわれた何かが、真名の手にしていた拳銃を真っ二つに切り裂いていた。手首に激しい衝撃を感じ顔を苦痛に歪めた真名だが、それすらも許さぬように、影が再び襲い掛かる。十分に体を構えられない真名を、影が蹂躙するかと思われた瞬間。
「させません!」
「ケケケケケケケーッ!!」
茶々丸とチャチャゼロの姉妹が、影の進行を弾き飛ばす。影はそれ以上の追撃をせず、そのまま後方に下がると、呪三郎のすぐ近くに控えた。
「惜しい惜しい。この子の彩りには、最高の獲物になるかと思ったんだけどなぁ」
動きを止めた事で、ようやく影の全貌が明らかになる。
「どうだい【人形遣い】。美しく生まれ変わった、僕の愛し児達の姿は!」
誇るように叫ぶ呪三郎の近くに控えるのは、異形の人形である。一つの胴体から生えた二つの頭。それぞれが、かつて『安寿』と『厨子王』と呼ばれていた者達の頭である。そして肩口からは四本の腕。通常の物に加え、掲げられているのは、手首から先が鋭く、そして巨大な刃となった腕である。
二面四手。奇しくも、封印された【リョウメンスクナ】と似通った姿となったそれは、呪三郎が対エヴァンジェリンに向けて組み上げた、新たな人形であった。
「この子達と共に、今度こそ貴女を越えて行こう、【人形遣い】!!」
挑みかかる呪三郎の声に応え、二面四手がじゃきりと刃を構える。それを見て、エヴァンジェリンの顔が、ますます難しい物になる。何故ならば、呪三郎の人形繰りが、明らかに昼間戦った時に比べて上手くなっているのである。エヴァンジェリンとの戦いの最中吸収した技術の数々を、もう自分の物にしている証左でもある。
(ちっ、まだ繰りの腕は私が上だと思うが、人形の性能がその差を埋めるかもしれん)
エヴァンジェリンが見るに、呪三郎の新たな人形は、彼が誇るだけの事はある、素晴らしい出来栄えの物である。人形としての性能だけならば最初期のチャチャゼロでは、対抗しきれないかも知らない。ましてや、繰り人形として作られていない茶々丸は論外である。
呪三郎の登場によって、傾いていた天秤が再び揺れ始める。そのように場が混沌とし始めていた、その時。
「「「「「っ!!!??」」」」
その場にいた者達に、凄まじいまでの魔力の波動が届いた。その源に目を向けた者達の瞳に、天を突く、巨大な光の巨人の姿が映った。
「【リョウメン、スクナ】」
千雨がその名を呼んだ。
彼方に見えるは身の丈60m以上の巨体。天に翳した四手と、前後に向いた二つの鬼面。青白く輝く体は、その全てが魔力に覆われ、そこに在るだけで凄まじいまでの威圧感を発している。
神を宿した大鬼、【リョウメンスクナ】。18年の眠りから覚めた異形が、そこに居た。
「間に、合わなかった……?」
茫然と刹那が呟く。
「そんな……!」
明日菜も同様の表情を浮かべる。そんな二人を横目に、千雨は相も変わらぬ無表情のまま、遠くに見える鬼神を見る。そして、二人に向けて口を開く。
「桜咲、神楽坂。やる事はまだ変わってはいない」
「で、でも……」
「こちらの目的は近衛の救出だ。あの鬼神とやらが復活しようがしまいが、それは変わらない筈だ」
淡々と告げる千雨。だが、刹那の顔は俯いたままだ。
「……私は、ここで鬼共を食い止めます。お嬢様の救出は、長谷川さんや、明日菜さんにお任せします」
「刹那さん!?」
明日菜が目を丸くして驚いた。そして千雨は、視線を静かに刹那に注ぐ。
「私は、結局お嬢様を守る事が出来なかった。むざむざと敵に奪われ、今もこうして利用されているお嬢様を、遠くから阿呆のように見る事しかできていない。……それに、私よりも強い長谷川さんや、私よりもお嬢様と親しい明日菜さんが助けにった方が、お嬢様も」
「お前は、どうしたいんだ?」
千雨は、刹那の言葉を遮って、唐突にそう問うた。問われた刹那は、きょとんとした様な顔になる。自分の考えは、今述べた通りだったからだ。
「で、ですから私はここで……」
「神鳴流の『剣士』、そして近衛の『護衛』としてのお前はそうなのだろう。なら、近衛の『幼馴染』としてのお前はどうなんだ」
「え……」
言葉を詰まらせる刹那に向けて、千雨は更に言葉を紡ぐ。
「『剣士』としてのお前も、『護衛』としてのお前も、始まりはそこからだった筈だ。だからその『幼馴染』としてのお前に聞くんだ。お前は一体、どうしたいのか」
「わ、私は……」
千雨の言葉に、刹那の心が揺れた。刹那が刹那としてある原点は、ずばりそれであったからだ。だから、刹那は考える。本当の自分、一番幼く、それ故に、一番素直な自分は、どうしたいのか。気がつけば、刹那の口から、言葉が滑り落ちていた。
「たすけ、たい」
一度口にした言葉は取り返せない。刹那は、一瞬いつものように自制しようとしたが、極限の状態であるが故に溢れてきた思いを押しとどめる事は、出来なかった。
「助け、たい、助けたい!今度こそ!お嬢様を、私の、うちの大切な、『友達』を!」
「……皆、ここを任せても、大丈夫か?」
「千雨?」
「私も、桜咲と神楽坂について行く」
「む……」
静かな千雨の言葉に、エヴァンジェリンの眉根が寄せられる。
「向こうには、あの鬼神に加えて、あいつが、フェイト・アーウェルンクスがいる」
それは、未だ姿を現さない、千草一派の最大戦力であろう、謎の魔法使いの少年。その実力は、おそらくエヴァンジェリンクラス。ネギや明日菜、そして刹那では、対抗できない。現に、ネギ達が本山の屋敷内で木乃香を攫われる原因となったのも、彼の少年の力であった。対抗するのは、千雨やエヴァンジェリンでなければ、まず無理であろう。
だが――。
「……どうしても、お前が行かねばならないか、千雨」
「ああ」
千雨の短い答えに、エヴァンジェリンは益々美しい柳眉を寄せ、難しい顔になった。正直な所、エヴァンジェリンがここに居るのは、木乃香の為と言う訳ではなく、千雨が無茶をしないよう、そのフォローに回るためである。この中で唯一、エヴァンジェリンは千雨の能力が万能無敵な物でない事を知っている。強力すぎる仮面の力は、未成熟な千雨の体を蝕み、傷つける。だからこそ、エヴァンジェリンは、今からの千雨の行動を止めたかった。謎の魔法使いに鬼神。どちらも、一筋縄でいく相手ではない。千雨は必ず無茶と無理をするだろう。
(だが、私がここを離れる訳にもいかん)
そんなエヴァンジェリンのしたい行動を、呪三郎が制限する。月詠や鬼達ならば、この場に居る者達に任せても大丈夫かもしれないが、目の前に居る【傀儡師】だけは、そうはいかない。下手をすれば、この場に居る者たち全てが皆殺しの憂き目にあう可能性もあるのだ。エヴァンジェリンは、呪三郎と言う男を、決して過小評価するつもりはなかった。
どうすれば、と思い悩むエヴァンジェリンだが、その時、そんな主の姿を見かねたのか、最古の従者が肩を竦めて言った。
「オイ、ゴ主人。ゴ主人モ一緒ニ行ケ」
「! チャチャゼロ……」
チャチャゼロは、困惑する表情の主を見上げて言う。
「先ニ行ッテルラシイ小僧モ含メテ、素人ト半人前ノ剣士ノオ守ヲ、ソコノ眼鏡一人ニ任セル訳ニモ行カネェダロウ」
「だが!」
「オイオイゴ主人。我ガ偉大ナル主、真祖ノ吸血鬼ニシテ大魔法使イ、【闇ノ福音】、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様ヨォ」
チャチャゼロは、小さな親指を立て、己を指して胸を張った。
「俺ハ誰ダ?【闇ノ福音】最古ニシテ第一ノ従者、チャチャゼロ様ダゼ?チンケナ妖怪ドモヤ、多少腕ガ立ツクライノゴスロリ剣士、ソシテヒョロイモヤシミテェナ人形使イニ負ケルワケネェダロ」
絶句した主に、従者は更に告げた。
「モーチョイ、自分ノ従僕ヲ信ジロヨ、ゴ主人」
従者の人形の言葉に、エヴァンジェリンの口元に、ジワリと笑みが浮かんだ。
「……そう、だな。確かに、私の従僕が、あんな者達に負ける筈もないな……」
エヴァンジェリンは、久々となる第一の従者の『覚悟』を受け取った。
「ならば命じる。我が第一にして最古の従者、【殺戮人形《キリングドール》】チャチャゼロよ。この場の全てを任す。そして、もう一つ」
エヴァンジェリンは、限りない慈愛を込めて、チャチャゼロに二つ目のオーダーを告げた。
「決して、壊れるな」
「承リマシタ、我ガ主。ドウゾ、ゴ存分ノオ働キヲ」
エヴァンジェリンの前に跪き、恭しくチャチャゼロは頭を垂れた。
「ああ。……茶々丸、お前も、姉を助けてやれ」
「はい、マスター。ご武運を」
こちらも一礼を持って応えた茶々丸である。
「……いいのか?」
千雨の確認に、エヴァンジェリンは軽く頷いた。
「大丈夫だ。私の従者達は、強い」
「……わかった。桜咲、神楽坂、私が包囲網に穴をあける。その隙に儀式の場に向かうぞ」
「判りました!」
「おっけー!」
明日菜と刹那がそれぞれ頷くと同時に、千雨はコートから新たな仮面を取り出し、装着する。額に生えた二本の角と、厳つい顔の造作。鬼のそれとよく似た仮面である。
『嵐を呼び、雷を生む、インドネシアの雷神仮面』
襲い掛かって来た鬼の喉笛を掴む千雨。その掌から、夜闇を斬り裂く雷光が迸る。驚く刹那達を尻目に、千雨は更に仮面の力を行使する。
『雷雲、招来』
ごごっ、と天が鳴く。瞬時に湧き上がった黒雲が、瞬間、周囲に凄まじい稲妻の雨を降らせる。大地を焼き焦がした雷光によって、十体以上の鬼達が絶叫を上げて消滅した。
『行くぞ』
「うむ。刹那、神楽坂明日菜、遅れるなよ!」
「承知!」
「ま、待ってー!」
内心、強い仮面の力を使った千雨を心配しつつ、エヴァンジェリンは飛び出した千雨と並走した。そのすぐ後を、刹那と明日菜が追走する。だがその時。
「行かせると思うかい!?」
呪三郎駆る二面四手の人形と。
「そうは問屋が卸しまへんえ~!」
刹那を逃がすまいとする月詠が追撃を掛ける。しかし、それら二人の行動を、チャチャゼロ・茶々丸姉妹と、真名が阻止する。
「コッカラハ立チ入リ禁止デスッテナ!キャハハハハッ!」
「マスターの命により、ここは通しません!」
人形の繰り出す刃を、姉妹がナイフとブレードで押しとどめれば、無言で放たれた銃弾が、二刀の連撃を弾き飛ばす。
「わ、わ」
慌てず、飛来した銃弾を弾く月詠だが、その隙に刹那達の離脱を許してしまった。
「むむー。また邪魔しはってー。それに、神鳴流に飛び道具は効きまへんえー」
むくれる月詠に銃口を向けながら、真名は油断なく構える。
「知ってるさ。よぉく、な」
学園の見回りの際、組まされる事の多い刹那と真名はそれだけ相手の事をよく知っている。故に、真名にしてみれば、銃撃で神鳴流を倒せない事など、百も承知である。だがそれでも。
「だからこそ、越えてみたいと思わないか?『銃は剣よりも強し』、と言うくらいなのだから」
歴戦の傭兵中学生は、嫣然と笑った。
一方、こちらもエヴァンジェリンを逃がした呪三郎は、不快気に顔を歪めた。
「やってくれるね。人の手に括られずに動く、無粋な人形の分際で」
「ホザキナ、根暗野郎」
大振りのナイフを担いで、チャチャゼロは呪三郎を見据える。その後ろでは、油断なく茶々丸が構える
「……まぁいいさ。大事な君達の首を送りつけてやれば、【人形遣い】も今度こそ僕との再戦に応じるだろうさ」
滴るような笑みと鬼気を放ち、呪三郎は嗤う。
「目ェ開ケタマンマ、寝言垂レ流スンジャネェヨ、モヤシガ。大事ナ人形ト一緒ニ寸刻ミデバラシテヤルカラ、覚悟シヤガレ」
それをそよ風と受け止めて、チャチャゼロは毒づく。
遠くに聳える【リョウメンスクナ】が放つ魔光が辺りを照らす中、それぞれの戦いが始まろうとしていた。
【あとがき】
流石僕らのチャチャゼロさん!そこに痺れるあこがr。
更新が遅れて申し訳ありません。今回は思った以上の難産でした。次の更新は、もう少し早くできるように頑張ります。
それでは、また次回。