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No.43499の一覧
[0] 学生街の喫茶店のババア[ガロ](2020/03/16 07:22)
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[43499] 学生街の喫茶店のババア
Name: ガロ◆e9bd7a34 ID:84954ba9
Date: 2020/03/16 07:22
学生街の喫茶店のババア



「なんだい、またオムライス食べに来たのかい」

「‥‥‥」

「サービスしとくよ、今やこの店に来てくれるのはあんたくらいのものだからねぇ」

「サービスっつったって、茶菓子なら要らねぇぜ」

「ちぇ、そうかい」

店の3分の2割程を占める、でかい木の机が特徴のこの喫茶店は、すっかりしけちまった。

来るのは老いたジジババか大学生の俺だけ。

落ち着くから来てやっているんだが、ここ最近、店のババアが話しかけてくるようになりやがった。

「なぁ、あんたはどうしてこの店に来るんだい?」

「‥‥‥」

「あんたみたいな学生、若いのに、もっとお洒落なカフェに行った方がいいんじゃない?」

「‥‥‥うるせぇっ、話しかけてくんなっ」

その時、俺はババアに聞こえない位小さな声で言ったつもりだった。

「‥‥‥あらっ、口が悪いね」

「‥‥‥えっ、聞こえたんすか?」

「‥‥‥いいや、何となくそういう事言ってる気がしたの」

「‥‥‥」

そのとき、気でも狂ったのか俺は、このババアと何となく波長が合うような気がしたんだ。

そして、今に至るまで、俺は暇を見つけては、この喫茶店に入り浸っていた。


「‥‥‥なぁ、あんた、彼女とかつくらないのかい?」

「‥‥‥チッ」

ババアは、俺が飯を食ってると、たまに話しかけてくる。

「こんなとこに入り浸ってないで、服とか買ったら? 若いんだから」

「‥‥‥いいでしょうが、俺の金何ですから。だいたい、好きでここにきてるんすから‥‥‥」

「へぇ、変わったお客さんだねぇ‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥あ、いらっしゃあい」

ババアは、たまに、客の顔を覚えているのかどうか不安になるときがある。

俺なんて常連なのに、よく「学生さん?」なんて聞かれる。

年は取りたくねぇな。

「‥‥‥なぁ、バアさん」

「‥‥‥なに?」

「‥‥‥いつもの、頼むよ」

「‥‥‥いつもの?」

「‥‥‥コンビーフだよ、コンビーフスパゲッティ」

「ああ、あれね‥‥‥」

「たくっ‥‥‥」

この店のコンビーフスパゲッティは、学生に代々食べられてきたものらしい。

最初のころは、ずっとこれを推されてた。

今じゃ、誰も頼みゃしない。

何故だ? コンビーフ。上手いじゃないか。

粉チーズと、玉ねぎとの相性も抜群だ。

甘さとまろやかさとコンビーフの塩気がたまんなくマッチしてやがる。

俺は、この店で一番好きだね。



「‥‥‥なぁ、あんた」

「‥‥‥」

大学に入って三年が経つ頃、俺の脳裏に、嫌な予感がよぎった。

「‥‥‥わたしね、店、畳もうと思ってるの」

「‥‥‥なんで?」

「‥‥‥」

「‥‥‥まぁ、仕方ないよな、客、こないもん‥‥‥」

「‥‥‥ありがとうね」

「なんだよっ‥‥‥。ただの客だよ‥‥‥俺は」

「‥‥‥」

俺は、ババアの寂しそうな横顔が忘れられなかった。




この店は、コーヒーに生クリームを注ぐんだ。

俺はコーヒーにうるさいわけではないし、詳しくもなんともない。

だから、この店のコーヒーしか知らない。

俺は、白い陶器から、コーヒーに生クリームが注がれていくのを見て、幸せを感じていた。

今日で、このコーヒーともお別れだった。

「‥‥‥またな、バァさん」

「‥‥‥ええ、またいらっしゃい」


「また」なんてない。

本当に、年だけは取りたくねぇ。





そのバァさんが倒れたのを知ったのは、通りがけ、担架で運ばれていくバァさんを見たからだった。



「‥‥‥おい、バァさん」

「‥‥‥おや、いらっしゃい」

「何言ってんのさ、ここは店じゃないよ」

「‥‥‥」

バァさんは、深刻な状態だった。

特に驚かなかった。

持病が有ることは、聞いていたからーーー。

「‥‥‥なぁ、‥‥‥なぁ、バァさん」

「‥‥‥」

「俺が、誰だか‥‥‥わかるかい?」

「‥‥‥いらっしゃい」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥ごめんな、バァさん。結局俺、最後まであんたの名前、聞かずじまいだったな」

「‥‥‥」

「‥‥‥俺、もっとさ、あんたの話、聞いてりゃよかったな‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥はは、バカみてえ。あんたの言う通り‥‥‥カフェにでも通っておくべきだったよ」

「‥‥‥」

「‥‥‥じゃあ、な」



「‥‥‥コン、ビーフ?」

「‥‥‥」

「‥‥‥はい、いつ、もの‥‥‥コンビー、フ‥‥‥」

「‥‥‥バァさん!!」

「‥‥‥」

「起きろよ!! バァさん!!」

「‥‥‥」

「‥‥‥バァさん、俺‥‥‥あの店が好きだったっ!!‥‥‥ あの店の、黒電話とか、レジスターとかっ、壁にかかってたギターとかっ!‥‥‥好きだったんだ‥‥‥好きだったんだっ!!‥‥‥ああっ‥‥‥ああああっ‥‥!」

「‥‥‥あ、あり‥‥‥が‥‥‥」

「あ、あああっ‥‥‥」

「‥‥‥」


ありがとう。


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