液晶ディスプレイが垂れ流すテレビ番組──どれもこれも似たり寄ったりの内容だ。ジャギの胸板に頬を寄せるレイ。
レイは静かにジャギの鼓動に耳を澄ませた。力強い脈動、ドクンっ、ドクンっ、ビートを刻むジャギの心臓。
少女はすでにゲンドウの手で女にされていた。だが、それだけだ。ゲンドウはレイの処女を散らしても少女にオーガズムを与える事はできなかった。
今は違う。レイは陶酔の味を知った。ジャギの手によって。激しいリズムとともに踊り狂い、レイはフロアを飛び回った。
それまで埋もれていた感情を現すかのごとく。筋肉の鎧に覆われたジャギの引き締まった肉体はゲンドウの身体とは大違いだった。
ゲンドウの身体は中年相応の衰えを見せており、貧弱だった。腹周りには脂肪がつき、その癖、腕と脚は細かった。
ジャギの肉体は違った。まるで鋼のように熱く硬かった。六つに割れた腹筋に熱い胸板。いくつものワイヤーを束ねたような強靭な肢体。
雄々しくみなぎっている。あの晩、レイは生まれて初めて、滾るような熱い姫クルミの喜びに包まれた。
ジャギがリモコンのスイッチを押して、テレビの電源を切った。
「は、あいかわらずくだらねえ番組ばっかだな」
「そうね……」
ジャギの言葉に同意するレイ。
「へへ、レイ、お前も言うようになったじゃねえか」
レイのセリフにジャギが皮肉そうに笑みを浮かべた。
「ねえ、ジャギ、私、あなたの顔が見たい……」
途端にジャギが難色を示し、レイの言葉を突っぱねる。
自分を睨みつけるジャギにレイはわかったわとだけ、静かに言い、それ以上は何もいわなかった。
レイがジャギの両眼を見返し、それならキスをしてと囁いた。ジャギは黙ってレイの頬に触れた。ジャギとレイが互いの唇を重ね合わせる。
口づけしながら、ジャギはエヴァに搭乗した時のような、あの不思議な感覚を覚えた。何やら懐かしいような、それでいて物悲しくなるような感覚だ。
唇を離し、ジャギが顎をしゃくった。
「腹減ったな。レイ、飯でも食いにいこうぜ」
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「死ねええっ!」
レザージャケットに身を包んだパンクファッションの男達が敵対するグループに向かって怒鳴り散らしながら次々に銃弾とクロスボーの矢を放ち、火炎瓶を投げつける。
「くそおっ、ジャッカルのグループかっ!」
モヒカンヘアの大男が忌々しげに吐き捨てた。肌が露出した頭部の脇には、ジードのメンバーを意味するZのタトゥーの文字が見えた。
「おい、例のもん用意しろっ」
隣にいたドレッドヘアの若者が脇に抱えたケースを素早く開け、何丁かの短機関銃を取り出す。
若者から手渡された二丁のMP5を構えるとモヒカンヘアの大男が猛然と反撃に出た。
現在の第三新東京市では、ジャッカルとジードが互いの縄張り争いを繰り広げていた。血で血を洗う激しい抗争だ。
「ジャッカルのクソ共がぁっ、このシマは俺達ジードのもんだっ!
ジャッカルのグループの何人かが、銃弾の雨に血と内臓をばらまきながら吹っ飛んだ。
「蜂の巣にしてやるぜっ!」
その光景を遠巻きに眺めていたジャッカルが縄で連ねた手榴弾を取り出し、ピンを引き抜く。
「こいつは弾丸の礼だっ、受け取れっ、ジードの雑魚どもがぁっ!」
そう叫ぶと同時にジャッカルが相手に向かって投げつける。炸裂する手榴弾の爆音、舞い上がる砂塵、
手榴弾の破片を浴びるジードのメンバー達。何人かが手榴弾の洗礼を受け、ミンチ状に千切れ飛んだ。
「へへ、派手にやってんじゃねえか。俺も混ぜろよ」
二つのグループの抗争を静観していたジャギが、ジードとジャッカルの間に割って入る。