翌朝。玄関を出れば、相変わらずの朝日が見渡す景色を明るく照らしていた。
近頃は学校にも慣れたこともあり、陽の光が余計に眩しく見える。
何気なく、アスカの家の方を見てみた。
扉は閉められ、開く気配はない。キョウコさんは仕事だろうが、アスカはどうだろうか。学校に行ったのか、はたまた寝てるのか……。これまで数日、遅刻はしたことなかったみたいだから、おそらくは前者だろう。
(待つのもあれだし、僕も行くかな……)
軽快に階段を降りる。
背中にはリュック。片手には手提げ袋。その中には、青いハンカチに包まれた弁当箱。そして――
「……あれ?」
「――遅いわよ。何してたのよ」
階段を降りた道路。その壁際には、アスカが立っていた。
腕を組み、相変わらずご機嫌ななめの御様子。ていうか、未だかつて機嫌がよかったところを見たことがない。
彼女も、笑うことがあるのだろうか……。
「……と、何してるの?こんなところで」
「……別に。ただ、なんとなくよ」
(全然答えになってない……)
その時、彼女に用件があることを思い出した。理由は分からないけど、こうして目の前にいるのはちょうどいい。
「はい、これ……」
彼女に、手提げ袋の中のもう一つの弁当箱を差し出す。
「……また、作ったわけ?」
「うん。いらなかった?」
少しだけ、彼女は弁当箱を見つめていた。何を想ってるのだろうか。同じ体勢で、大きな瞳をピンク色のハンカチに包まれたそれに向けていた。そして――
「――仕方ないわね。受け取ってあげるわ」
彼女は、弁当を受け取る。――笑顔を見せながら。
「あ……」
「……何よ。バカみたいな顔して……」
「いや、アスカも笑うんだなって思って……」
「え?」
「初めて見たよ。アスカのその表情。……うん、いいと思うよ。とっても」
「~~~~ッ!!」
突然、彼女はたじろぎ始める。その場を後退りながら、手で顔を隠そうとしていた。
「……?どうしたの?」
「な、なんでもないわよ!」
「いやでも……」
「なんでもないって言ってるでしょ!」
彼女はそっぽを向いて、学校へと向かう。一瞬見えた彼女の顔は、真っ赤に染まっていた。
そして彼女は、顔を見せないまま声を荒げる。
「ほら!さっさと行くわよ!――シンジ!!」
「……え?」
(今、僕のことを名前で……)
……どうやら、彼女は自分の感情を表すのが“かなり”苦手なようだ。もちろん僕も人のことは言えないけど、彼女の場合、段違いにそれが強い。
女帝なんて言われてるけど、とても人間くさい。でも、なんだかとても安心した。
そんな不器用な彼女を、僕は追いかける。なだらかな上り坂を駆けあがって……。
「遅いわよ!シンジ!」
「待ってよ!アスカ!」
空には雲一つない。今日もよく晴れそうだ。