「……」
どうやら、彼女が昨日母さんが言っていた、アスカという子らしい。睨み付けるようにしながら、僕を見ていた。
「ええと……」
「……ママ。早く行こ」
反応に困ってると、彼女は我関せずのようにその場を歩き始めた。
「あ、ちょっと待ってアスカ」
そんな彼女を、キョウコさんは引き留める。
「アスカ、こちらは同じ職場の、碇さん。で、隣にいるのが、息子さんのシンジくん」
「今更だけど、よろしくね」
キョウコさんの紹介に、母さんは笑顔で会釈する。どうやら、母さんはアスカとも知り合いのようだ。
「……ヨロシク」
一応、形式的な挨拶する彼女。相変わらずの不愛想ぶりで。
「……アスカ、シンジくんを学校まで案内してあげて」
突然、キョウコさんは言い出した。言い出してしまった。
「……え?」
「はぁ!?なんで私が!」
それを聞いたアスカは、声を荒げる。だがキョウコさんは、ニコニコしながら続けた。
「だって、シンジくん、学校の場所をよく分からないじゃない。私もユイも、これから仕事だし。同じ学校なんだから、別にいいでしょ?」
「で、でも……!」
「アスカ―――“お願い”」
舌を出しながら、キョウコさんはアスカの頭を撫でる。
「……」
少しだけ顔を赤くしたアスカは、凄く小さめに頷いていた。
「……キョウコ、あなた、アスカに何も言ってなかったでしょ」
横で母さんが、小声でキョウコさんに聞いていた。
「うん。そうよ」
「そうってあなた……」
「だって、そっちの方がロマンチックじゃない!隣に引っ越してきた年頃の男の子と恋に落ちる……!――ん~、素敵!」
「あなたって人は……」
呆れる母さんと、頭上にお花を咲かせるキョウコさん。対照的な2人の前で、僕は固まりアスカは僕を睨んでいた。