「……」
「……」
母さんたちと別れ、僕達は学校に向け歩いていた。……いや、“僕達”ってのは、少し違うかもしれない。
二人の間に、およそ数メートルの距離を保ったままだった。傍から見れば、きっと何一つ関係のないように見えるだろう。もっとも、昨日今日会ったばかりの僕らに、もともとそこまでの関係はないだろうが。
でも、こう重苦しい初日は嫌だったりする。まったくこちらを振り向かず歩き続ける彼女に、声をかけてみた。
「……ね、ねえ。その中学校ってどんなところ?」
「……」
「生徒は何人くらいいるの?先生はどんな人?」
「……」
……まったく反応がない。完全に無視されている。もしかしたら聞こえていないのかもしれない……そんな、雀の涙ほどの可能性にすがって、もう一度声をかける。
「ね、ねえ……」
「――一つ、言っておくわ!」
突然、彼女は足を止め、僕の方を振り返る。腕を組み、仁王立ちをする彼女。なだらかな上り坂で、彼女は僕を見下ろしていた。
「確かに、あんたのお母さんと私のママは友達だけど、私とあんたには一っっ切関係はないんだからね!そこんとこ、勘違いしないでよね!」
そう言い放った彼女は、踵を返し、再び歩き始めた。
僕はというと、彼女のなんとも言えない迫力に圧倒されていた。
◆
学校に着くなり、アスカはどこかへ行ってしまった。まあ、おそらく自分の教室に行ったんだろうが……。
それにしても、ずいぶんと嫌われたようだ。何か思い当たる節があるかと胸に手を当ててみたが、何も思い浮かばない。
……それも当然だろう。何しろ僕は、挨拶くらいしかしていないのだから。だとしたら、あの不愛想っぷりは元からなのかもしれない。
あそこまで露骨にされると、なぜか清々しくすらもある。見た目は可愛いが、あれでは彼氏などいないのかもしれない。いるとするなら、それはきっと、菩薩のような男なんだろう。
そんなことをぐだぐだと考えながら、僕は職員室に向かった。担任の先生に会うためだ。
「――失礼します」
ガララとドアを開ければ、中では先生たちがせわしなくそれぞれ動き回っていた。これから学校が始まるから、その準備なのかもしれない。
「――あ、来た来た!おーい!こっちこっち!」
並べられた机の一角から、僕に向かって声がかかる。その声に向かって、職員室の中を歩いて行った。
そしてその人の前に着いた時、その人は、僕に笑顔を向けた。
「碇……シンジくんね?」
「あ、はい……」
「私が、担任の葛城ミサト。ミサトでいいわよ。よろしくね」
「……」
ずいぶんと、軽い人のようだ。さすがに先生を名前で、しかも呼び捨てで呼ぶわけにもいかないだろうに……。