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No.40706の一覧
[0] ボクラノセカイ (エヴァ二次創作)[名無し](2014/11/17 23:42)
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[40706] 8
Name: 名無し◆df6f5276 ID:ab7f50ab 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/11/19 13:09
結局、学校では、昨日と同じようにアスカは僕と接することはなかった。
昼御飯の時は、他のクラスの友達のところへ行っていたようで、姿は見えなかった。きちんと食べてくれたのだろうか……。

「――はい、これ」

「え?」

「弁当箱。返すわよ」

……そんな割とどうでもいい疑問を払拭するかのように、放課後の正門で、彼女は弁当箱を渡してきた。
手に取ってみれば、明らかに軽い。ちゃんと食べてくれたようだ。

「なかなかだったわよ。あんた、料理できるのね」

彼女は視線を合わさないまま、“お褒めの言葉”を授けてきた。
美味しいなら美味しいと言ってほしかったけど、女帝なんて言われる彼女なりの、精一杯のお礼なのかもしれない。そう思うと、自然と頬が緩んだ。

「……うん。家で作ってるからね」

「ふ~ん……。変わってるわね」

「そうかな?……でも、こうやって誰かに食べてもらうの、悪くないよ」

「……やっぱ、変わってる」

そのまま彼女は、歩き始めた。

別に他意はあったわけじゃない。ただなんとなく、作ってみた弁当。
それでも、これで今の関係が多少なりとも改善されれば、少なくとも、朝から憂鬱になることは減るだろう。

(……なんて、そんなに都合よくは……)

「――なにしてんのよ」

ふと、彼女の言葉が聞こえた。慌てて視線を向けると、僕から少し離れたところで、彼女は立ち止まり、僕を見ていた。

「……え?」

「あんたも帰るんでしょ?」

「あ、うん。帰るけど……」

「だったら早く行くわよ」

そして、彼女は再び歩き出した。

「……」

……やっぱり、よくわからない人だ。

「……」

「……」

帰り道は、いつものとおり僕らは無言のままだった。
それでも、朝よりも二人の距離は近い。付かず、離れず。リードに繋がれた犬みたいに、僕は彼女の2歩後ろを歩いていた。
心なしか、雰囲気が柔らかくなった気がする。それは単に、僕の勘違いかもしれないが。
黄昏の光に照らされた彼女の足元からは、長い影が僕の近くまで伸びる。
特に意味はないが、なんとなく、僕は彼女の影を踏まないように気を付けながら、後ろを歩いていた。

「――なんでわざわざ作ったの?」

ふいに、彼女の方からそう聞こえた。

「え?」

「弁当。なんで私に作ったのよ」

これも、いつも通りの光景だった。
けっして振り返ることなく、僕を見ることなく、彼女ははなしかけてくる。

トウジ達は言っていた。やりとりをする奴は珍しいと。ゆえに女帝と。
でも実際は、なんてことはない、少し無愛想なだけの、普通の子なのかもしれない。

……そう思うと、なぜか嬉しくなった気がした。

「……ご飯、つまらなさそうだったから」

「は?」

「昨日、パン食べてたよね?その顔が、凄くつまらなさそうだったから、なんとなく。美味しいものを食べたら、少しは楽しくしてくれるかなって思って……」

「……」

「僕の家じゃ、ご飯を食べるときは楽しいんだ。母さんは笑顔で話しかけてきて、父さんは時々母さんに怒られてる。僕は、それを見て笑うんだ。
食事って、食べ物を食べるだけじゃないと思うんだ。きっと食べ物と一緒に、いろんなものを取り入れるんだよ。きっと」

「……詭弁ね。食事なんて、しょせんは栄養やエネルギーの補給でしかないわ」

「まあ、それもそうなんだけど。ただ、それでも、楽しいと食事もいいもんだよ」

「……よく、わかんないわ、その感覚」

「アスカは、お母さんとご飯食べないの?」

「……ママは、忙しいのよ。優秀だからね。仕事で必要とされてるし、その期待に応えるだけの能力がある。
私は、そんなママを誇りに思うわ。だから、特になんとも」

「……」

彼女は、毅然とそう言った。でもどこか、寂しそうにも聞こえた。
まるでガラス細工みたいだ。見た目は綺麗だけど、どこか脆くも見える。

そう考えると、なんだかほっとけなくなった。

「――アスカ、うちでご飯食べる?」

「……は?」

あまりに驚いたのか、彼女は振り返った。

「一人の時とか、僕の家に来なよ。父さんも母さんも、きっと賛成してくれるだろうし。
一緒に、ご飯食べようよ」

「な、なんで私が……」

「いいじゃない。ご近所さんだし、母さんとアスカのお母さんも友達だし」

「で、でも……」

「無理にとは言わないよ。良ければってこと。気が向いた時でいいから。あったかいスープ、作っておくからさ」

「……考えとくわ」

そう言った後、彼女はプイッと背中を見せて歩き出した。

それから、また僕達の間には沈黙が流れる。
だけど、周囲の空気は、一段と柔らかくなった気がした。


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