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No.40706の一覧
[0] ボクラノセカイ (エヴァ二次創作)[名無し](2014/11/17 23:42)
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[40706] 9
Name: 名無し◆df6f5276 ID:ab7f50ab 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/11/19 13:12
それから数日後の夕暮れ時、玄関からチャイムが響いた。

「――はぁい」

僕は夕食作りを一旦中断し、玄関へと向かう。そしてエプロン姿のまま扉を開ければ、そこには見知った人物が立っていた。

「……」

どこか申し訳なさそうに立つ彼女。長い髪はポニーテール状にまとめられ、風に靡いていた。視線を逸らし、目を合わせようとしない。
もしかしたら、躊躇しながらようやく来たのかもしれない。
だから僕は、彼女――アスカに笑顔を向けた。

「……いらっしゃい」

僕の顔を見て、少し安心したのかもしれない。ここでようやく、彼女は口を開いた。

「……き、来てやったわよ」

「うん。上がってよ。ご飯、もうすぐ出来るからさ」

「……」

家の中に彼女を招く。でも彼女は、その場を動こうとしない。

「ん?どうしたの?」

「……変なことしないでしょうね?」

「しないよ!するわけないだろ!」

「ちょっと!それってどういう意味よ!」

「どうって……!――ああもう!とにかく入ってよ!」

「言われなくても入るわよ!」

……僕は、変態か何かと思われたのだろうか……。


「へえ……綺麗にしてんのね」

アスカは部屋の中を見渡しながら、キッチンへ入ってきた。

「適当に座っててよ。もうすぐ母さんたちも帰って来るからさ」

「ええ。そうさせてもらうわ」

席に座ったアスカは、一度体を伸ばした後に、もう一度キッチンを見渡した。よほど人の家が珍しいのだろうか……。
ある程度首を動かした後、今度は彼女は、僕の方を見はじめた。

ご飯を作っていると、背後から視線をひしひしと感じる。しばらく様子を見たけど、いっこうに視線が収まる気配がなかった。

「……ええと……なに?」

僕の問いに、彼女は不機嫌そうに言った。

「……あんた、本当に料理出来るのね」

「信用してなかったの?」

「そういうわけじゃないけど。ただ、男子で料理をする奴が珍しいだけよ」

「ん……アスカは、料理したりしないの?」

「……したことない」

少しだけ、言い悪そうにしていた。

「そっか。今度作ってみる?」

「気が向いたらね……」

それから、彼女は口を閉ざした。時折僕の方を見ながら、机につっぷくしたりして時間を潰していたようだ。
室内には料理の音と、時計の音だけが響く。ぐつぐつ……じゅーじゅー……いつも聞いている音ではある。でもどこか、その音は僕の心を緊張させていた。


「ただいま。……あら?」

母さんは帰るなり、そのお客さんに気が付いた。そして優しく彼女に微笑みかけた。

「――いらっしゃいアスカ。待ってたわよ」

「気が向いただけよ。それに、ご飯食べたら帰るし」

「相変わらず、素直じゃないわね……」

母さんは笑顔のまま呟き、テーブル上に荷物を置く。アスカはというと、何だか言い負けたような複雑な顔をしていた。
これぞ、大人の対応って言うのかもしれない。

「もうすぐご飯出来るよ」

「ありがとう、シンジ。……あらあら。いつもよりも気合入れちゃって」

クスリと笑う母さん。それは言わないで欲しかった。
今の、当然アスカも聞いてたよな……。
ちらりとアスカの方を見てみたが、そっぽを向いていた。ホッとしたような、がっかりしたような……。人の気持ちとは、かくも難しいものなのかもしれない。

それから父さんも家に帰り、四人で食卓を囲む。
一応キョウコさんはいいのかとアスカに聞いてみたが―――

「ああ、ママはいいのよ。どうせ遅くなるし、勝手に食べてるだろうし」

――とのことだった。
これも一種の信頼関係なのかもしれない。ただどことなく、そう話すアスカが寂しそうにも見えたのは、僕が気にし過ぎてるだけだろうか。

「……アスカ、どう?シンジのごはん、美味しいでしょ?」

相変わらずの、母さんスマイル。アスカはご飯をもぐもぐと噛みながら、素っ気なく答える。

「まあまあね。悪くないわ」

「あら。アスカとしては、最高の褒め言葉ね。よほど気に入ったみたいね」

クスクスと微笑む母さんを、ジト目で見つめるアスカ。

(……凄い。完全にアスカを圧倒している。さすが母さん……)

……ここでふと、父さんの方を見てみた。

「……ユイ、醤油……」

ぼそぼそと呟くが、アスカと話す母さんには届いていなかった。

「……ユイ。醤油……ユイ……しょ……」

しばらく呟いていた父さんだったが、戦意を喪失したのか、最終的には自分で取りに行ってしまった。

(……父さん……)

僕が、取ってあげれば良かったかもしれない。ごめん、父さん……。


 ◆


「……一応、お礼言ってて上げる。まあまあだったわ」

(いや、それはお礼とは言わないんだけど……)

「――あ、そうだ。アスカ、これ……」

僕は彼女に、小さな鍋を渡す。

「……これは?」

「今日の夕飯の残り。キョウコさんがお腹空いてたらいけないし。もし食べなかったら、明日にでも食べてよ」

「……あんた、つくづく変わってるわ」

「そ、そうかな……」

褒められたような、バカにされたような……。まだ僕には、母さんみたいに上手い返しは出来ないようだ。

「アスカ。キョウコによろしくね」

「ええ。分かったわ。――じゃあね」

最後まで彼女らしく、玄関は閉められた。
それと同時に、母さんが言ってきた。

「……あの子はね、寂しいのよ。キョウコは忙しくて、小さい頃から一人で過ごすことが多かったし。誰かに甘えるっていうのが、よく分からないのよ」

「……」

「シンジ。アスカをよろしくね。一番近くにいれるのは、たぶんあなただから」

「……よろしくって言われても、こんな感じだからね」

「ええ、そうね。凄くいい感じよ」

「ええ……嘘でしょ……」

「いずれ分かるわ……」

小さく笑みをこぼした母さんは、そのまま奥へと歩いて行った。
母さんの背中を見送った後、僕はもう一度閉められた玄関に視線を戻す。

誰もいない部屋。暗い部屋。そこへ帰る彼女は、どういう気持ちなのだろうか……。それはきっと、父さんも母さんもこうして家に長くいる僕には、分からないのかもしれない。

(……明日も、弁当作るかな……)

そして僕は仕込みをするために、キッチンへ向かって行くのだった。


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