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No.43115の一覧
[0] その手に槍を、持つならば[sn](2018/09/04 22:06)
[1] [sn](2018/07/09 02:36)
[2] [sn](2018/07/09 22:15)
[3] 3[sn](2018/07/10 23:30)
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[7] 7[sn](2018/07/17 22:29)
[8] [sn](2018/07/18 22:57)
[9] 9[sn](2018/07/23 01:11)
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[14] 14[sn](2018/08/28 22:25)
[15] 15[sn](2018/09/04 22:03)
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[43115] 11
Name: sn◆be94cdbe ID:72c65576 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/08/05 10:36



兵士たちの作戦は完遂を迎えていた。教会からバンに乗り込みアインツベルンの森へ向かう。それから、あらかじめ森の入口に用意していたバギーカーに乗り、森に入る。ヘリとの合流地点である、アインツベルン城の中庭に着きさえすれば、後は空の旅だ。ヘリでロシアへと向かう。そして「ウサギ」と「ネコ」をいけ好かない研究者たちに引き渡せば任務終了。そのはずだった。

「大佐」

兵士たちが辺りを窺う。目の前の城は闇に沈んでいる。かつて何があったのかは分からないが、入り口周辺がまるで戦場跡のように破壊されている。とはいえ、銃弾や爆弾がさく裂した形跡はなく、巨大なハンマーが壁に凄まじい力で叩きつけられたような有様だ。見れば見るほど不思議だ。こんな惨状はかつて出会ったことはない。大佐はライトであたりを照らした。神話の怪物でも現れて、人間の伝統と権威の象徴である城を破壊したのだろうか。かつて子どもだったころに聞いた話を思い出す。

小さかった時、ひと睨みで生物を石に変え、何本もの手足を持ち、鋭い牙で人を食らう、そんな怪物を想像しては背筋を震わせた。思えば自分の危機感はそこで養われたのかもしれない。「死」が身近にあった、「死」が生きる証しだった。己の生の証明は、他人の「死」によって彩られ、己の「死」によって完成する。必要なのは、死に場所なのだ。

大佐の脳裏にひとりの女性が浮かぶ。己が愛した最初で最後の女性だ。たった5分間の花嫁、銃弾が飛び交う戦場での、儚い契だった。ドレスは用意できなかった。指輪だけはずっと持っていた。汚い布で彼女の血を拭い、そっと薬指に指輪をはめた。弱弱しく笑う彼女を脳裏に焼き付け、モルヒネを打った。体温が急速に失われていく。その呆気なさに、絶望したのだ。最期に、彼女が何と言っていたか、聞きとることは叶わなかった。




「大佐」

「わかっている。散れ」

大佐の指示で兵士たちが散開する。アインツベルン城の入り口に数名の兵士が張り付いた。入り口から覗く内部は吸い込まれそうなほどの闇に染まっている。大佐の感覚を持ってせずとも、兵士たちはこの気配に気づいていた。経験が語りかける、不吉の予感。合流地点へ行くためにはアインツベルン城内部に行く必要がある。そして、それを阻む何かがいる。

兵士のひとりがホールへスタングレネードを投げる。一瞬、ホールが明るく照らされる。暗闇が戻った後も反応はない。これで、中に人がいないことが確認できた。しかし、だからとはいえ、中に侵入すべきか。作戦を忠実に遂行する兵士たちにしては珍しい迷いがあった。その判断を支えるように、大佐からの突入命令がない。

「……」

停滞は続く。散開した他の兵士からの合図がない。左右に二人移動したはずだ。それに、ヘリの到着も遅れている、アクシデントが多い、計画に穴があったのか、それとも――

どんっどん、ごろごろごろ、ごとり。

空から何かが降ってきた。球状のそれは二度バウンドし、ころころと転がって大佐の足元にたどり着いた。

「――――」

それは、まぎれもなく先ほど散開した兵士だった。首から下を失い、ゴミのように投げ捨てられた。

大佐は素早く銃を構えた。兵士たちに指示を出しす。方法はわからないが、ここに敵が潜んでいるのは確認できた。それも、とびきり凶悪な奴だ。

この生首はメッセージだ。加持のようにひとりひとり静かに消すつもりなどまったくない。あらん限りの恐怖を植え付けて、心臓が止まる寸前に握りつぶすつもりだ。この手の敵は厄介だ。まっとうな神経回路を持っていない。ゆえに思考が読みづらい。

冷たい汗が流れる。次はどこから来るのか、まったく持って読めない。ふと、大佐が木々の向こうに気配を感じた。銃口を向ける。それと同時に、微かな足音が静寂を叩いた。

「!!」

兵士たちが驚いて銃を向ける。当然だ。敵が少数なのは明らかだ。多勢なら、すでに銃撃戦になっている。こちらの出方を窺っているということは、物量に勝らないことを自ら吐露しているようなものだ。だが、その予想は裏切られた。敵は姿を現したのだ。こんなことは経験にない。兵士たちは大佐を見る。大佐も戸惑いの表情を浮かべている。

じゃり、じゃりと歩く音が近づく。誰かが唾を飲み込んだ。音の出所はわかっている。そこに銃弾を撃ち込めばいい話だ。だが、誰ひとりそれが出来なかった。

やがて、月の光が何者かの足を照らした。か細い足首からのびる足先には、ベージュのパンプスが覗いた。ひざ下のふくらはぎはロングスカートで隠れている。そうして現れたのは、ただの女だった。教会で「犬」の横にいた女だ。兵士の頭に不可解な疑問がよぎる。間違いなく我々がこの女より先に教会を出たはずだ。渚カヲルの足止めを突破して追いかけてくるとは思えない。いつ先回りされたのだ? 渚カヲルが裏切ったのか? それはない。やつが我々を裏切るメリットはない。足止めはやつの最後の仕事だ。教会で別れ、ロシアで落ち合う予定のはずである。我々はやつから実験材料を受け取り、やつは我々から必要な情報を受け取る。ギブアンドテイクの関係だ。ならば、目の前の女はなぜ我々に追い付いたのか。

女はゆっくりと歩いてくる。その顔は感情の色がなく、今誰かが引き金を引けば途端に撃ち殺されることすら気づいていないようであった。それか、撃ち殺されることを望んでいる自殺志願者か。いや、囮なのだろうか。めぐる思考に兵士たちは躊躇する。大佐は銃を構えたまま動かない。
相対するまで残り20メートルを切った。兵士たちは一刻も早く引き金を引いてしまいたい気持ちでいっぱいだった。しかし、彼らは上官の命令は命よりも重い、そう叩き込まれている。習慣が、彼らの指を止めていた。やがて、大佐は銃を降ろし、一言つぶやいた。

「アレを使え」

「!」

兵士たちが驚きのあまり視線を大佐に集めた。だがそれも一瞬、前方の二人はすぐに腰のポーチから小型のケースを取り出した。ケースの中には注射器が入っていた。二人の兵士はちらりと針を見やり、己の首につきたてた。




桜は歩みをとめた。二人の兵士がアンプルを取り出し注射器にはめ込み、それを躊躇なく首に打ったからだ。その奇怪な行動に、桜は警戒心を強めた。まだ奥の手がある、そう受け取った。やがて、二人の兵士の体が淡く輝きだした。両腕に輝く模様が浮かぶ。桜は驚いた。見たことがある。まさにそれは、魔術回路ではないか。

「――!」

兵士のひとりが銃を捨て跳躍した。5,6メートルはあろうかという木の頂点に到達し、幹を蹴って姿を消す。生身の人間が為せる業ではない。可能なのは、人外の化け物か魔術師くらいだ。

そうか、桜は理解する。あの注射はそのためのものだ。

「行くぞ」

大佐と残りの兵士が遠ざかる。すぐにでもこの場を離脱して追いかけなければならない。けれども、シンジとミサトがここに向かっている。あの二人は一般人だ。外法の者たちの相手にはならない。自分がここで、始末せねばならない。桜は魔術回路をフル回転させた。

「――黒魔術の呪詛(ゲーティア)」

桜の影が立ったままの兵士に伸びる。影は立体の波となり、兵士を襲った。

「ふっ!!」

兵士は身体をねじり、迫る影に回し蹴りを叩きこんだ。その嵐のような一撃に影は霧散する。桜は驚愕に目を見開いた。体制を整えた兵士の両手両足から、目に見えるほどの魔力があふれている。だが、いくら魔力を駆使したとて、「影」を退けることができようか。

アレは、ただの魔術ではない。近寄らせてはいけない。

「――深紅の女(ベイバロン)」

桜の周囲に影が広がった。それは、桜を中心とした半径2メートルの結界である。それは、「はじく」結界ではない。「飲み込む」結界である。

兵士は躊躇した。魔術を扱う者なら一目でわかる。この結界は触れてはならないものである。捕まれば最後、魂ごと咀嚼される。

兵士は立ち止まり、足元の卵大の石を拾った。左足を軸に腰を捻り、大きく振りかぶって桜に投げつけた。たとえ子どもでも、思い切り投げつけられた石は十分な攻撃力を秘める。投げるふりだけで相手を怯ませることもできる。人の頭部の大きさの石になれば、使い方により殺傷力さえ持つ。その汎用性と効果を馬鹿にすることはできない。ただの人間でも、だ。

兵士から放たれた石は、弾丸に迫るスピードで桜の眉間を捉えていた。普通の人間には決して為し得ぬ業だ。魔術によって強化された手足がそれを可能にした。

半端な魔術師ならば、このまま眉間を貫かれ絶命することは必至だ。石は桜の眉間に迫り、そのまま飲み込まれた。

「……!」

兵士は己の目を疑った。確かに石は女の頭を貫いた。しかし、まるで何事もなかったかのように女は立っている。傷口もない。石はどこかへ消えた。

「――偽の使徒団(プセウド・アポストリ)」

結界の影が蠢き、水が沸騰するように、ぼこぼこと泡立つ。その波の中から、影がいくつも盛り上がった。細長く1メートルほど伸びたところで、蠢動を止めた。今度はゆっくりと、兵士に向かってその身体をねじる。

「――施錠(コンキアーヴェ)」

桜の声とともに、十を超える影が兵士を襲った。結界から身体をのばし、空中を走る。まっすぐではなく、不規則な動きで迫る。

兵士は地を蹴った。徒手空拳で防げる数ではない。むしろ、この影を隠れ蓑にして、本体に近付くべきだ。真横に飛び、円をえがくように桜の横へ回り込もうとする。

「!?」

しかし、そこに桜の姿はなかった。結界だけが生きている。彼を狙った「偽の使徒団(プセウド・アポストリ)」は向きを変え彼に追尾する。

魔術とはいえ、所詮は物理攻撃だ。兵士は「偽の使徒団(プセウド・アポストリ)」を迎撃した。悲鳴のような音をあげ迫ってくる影に、兵士は魔術で強化された拳を叩きこむ。捌くことが出来ない影はかわし、次に顔を出す影に回し蹴りを叩きこんだ。金属と金属がぶつかるような甲高い音を出し、影は地面に溶けていく。兵士は気がつかなかった。足元に落ちたしみが、消えずに広がっていることを。

「――つかまえた」

そうして、兵士の足が急にぬかるみにはまったように地面に沈んだ。足は抜けない。まるで地面の一部になってしまったようだ。腰を捻り、右拳を地面に叩き込む。しかし、右腕も影に飲み込まれ、抜けなくなった。

細腕が地面から伸びる。白く、陶磁のような皮膚。そのなめらかさは、タールのような影から浮かび上がり、兵士の腕を掴んだ。腕に激痛がはしる。まるで薬品で溶かされているような痛みだ。

兵士はたまらず声をあげた。激痛が腕全体に広がる前に、何かが影へと降り注いだ。

「!!」

兵士のまわりの地面が抉れる。魔術のこもった一撃だった。結界が破られ、足と手が解放される。兵士はもう一人いた。木の上で様子を窺っている。桜は姿を消した。あと2秒あれば、息の根を止めることが出来たのに……。

兵士の右腕はまるでミイラのように萎びていた。感覚がない。完全に死んでいる。あの女は生命力と呼ぶものをごっそりと持っていったのだ。使い物にならない右腕をぶら下げ、左腕に力を込める。

兵士の目の前の地面から影が現れた。こちらに向かうかと思ったが、城へと移動している。兵士はその影の先に回り込む。自分たちの任務はここで足止めすることだ。木の上からも援護が入る。影に向かってまた何かが降り注がれる。

途端、影が凄まじい速さで木に登り始めた。簡単なことだった。木の上にいる兵士をおびき寄せたのだ。影は木の上部へ消え、兵士が木から下りてきた。

「影には触るな」

「わかっている」

木から下りてきた兵士が死んだ右腕を見る。その顔に表情はなかった。

『そうそう、……大人しくしてもらわないと、困ります』

どこからか声がする。どこを見ても声の位置がつかめない。森全体に反響しているようだ。

この女の狙いは我々だ。大佐ではない。理由はわからないが、我々を確実に仕留めようとしている。加えて、影を使った虚数の魔術。初めて相手をするタイプだ。

二対一とはいえ、不利な状況であろう。兵士たちは、月の光があたる城の入口へと移動した。我々の目的は女の足止めだ。攻撃されなければそれでいい。

「ジョー、アンプルはまだあるか?」

「ああ」

ジョーと呼ばれた兵士は頷いた。アンプルの入ったケースを撫でる。残り二本、時間はない。

「スキナー、今どれくらい経った?」

「3分だ」

そう言ってスキナーと呼ばれた兵士はアンプルを取り出し、注射器にはめて打った。再び身体が輝きだす。

『お話は終わりですか?』

「!!」

また声がした途端、暗闇から影が伸びてきた。宙を舞い、兵士たちを貫かんと進む。横っ跳びで回避すると、影は城壁に突き刺さった。

「離れろ!」

壁が黒に染まっていく。やがてその影が人の形をかたどると、水面から浮き上がるように女が壁から浮き上がった。

「――深紅の女(ベイバロン)」

二人の兵士を飲み込まんと地面に影が広がる。意表をついた攻撃だった。捕まえてしまえば飲み込むだけだ。桜の魔術にはそういう特性があったし、それは物理攻撃を主体にする相手には最も有効な手段だった。だが、「捕まえてしまえば」という思考の甘さがあった。

「それは、もう見た」

スキナーは地を蹴って、3メートルほど跳躍していた。右手の指先を一点に絞り、肘に左手を添える。右腕に魔力が集約していく。その輝きが直径一メートルほどの大きさになると、まるでマシンガンのようにスキナーの右腕から放たれた。

無色透明の力の塊が地面を蹂躙していく。その様はまさに絨毯爆撃と言うにふさわしかった。一分の隙もなく、桜を蜂の巣にせんと際限なく放たれる。

「――偽の使徒団(プセウド・アポストリ)」

影が盛り上がる。桜を爆撃から守るように覆いかぶさった。だが、スキナーの攻撃の前に、影は一枚一枚剥がされていった。爆撃が終わるころ、桜は丸腰になっていた。

「しまっ――」

「ふっ!」

ジョーの左フックが桜を捉えた。僅かに身をよじり、桜は急所への直撃を避けた。ジョーの左拳が桜の右肩にめり込む。骨が砕かれ、組織が潰される音が響く。その凄まじい一撃に、桜はボールのように吹き飛ばされていった。

致命傷ではないが、このまま戦闘が続けられることはできない。ジョーは拳から伝わる手ごたえからそう感じていた。ただ、本来ならジョーの左フックは桜のこめかみを捉え、脳を割れたスイカのようにブチ撒けていたはずだ。それが出来なかったのは、桜が身をよじったこと、そしてジョーの右腕が死んでいたことに原因がある。右腕の感覚を失い、身体全体のバランスが崩れたのだ。とはいえ、この一撃で腕の骨のみならず、鎖骨、肋骨もへし折ってやったはずだ。折れた骨は肺や胃に突き刺さり、瀉血、吐血を伴う激しい痛み、そして呼吸困難に苦しむ。自分のような鍛えられた兵士でもない限り、戦闘続行は不可能だ。どこの世界に、死を目前にして向かってくる人間がいる――。

今度はジョーとスキナーが油断した。「今頃ぼろ屑のようになって呻いているはずだ」――そう決めつけ、警戒を解いた瞬間だった。

『深紅の女(ベイバロン)』が揺らぎ、スキナーの足に絡みついた。驚く暇もなく、影はスキナーの身体を覆い、口から体内へ侵入した。その姿は焼夷弾で焼け焦げた人間のように黒く染まり、スキナーは苦痛に身をよじり、のたうちまわった。呼吸器を潰され、粘膜を犯され、神経を焼かれる。喉を掻き毟り、全身を激しく痙攣させた。

ジョーは無我夢中で影から離れた。信じがたいことであるが、女はまだ攻撃の意志を失っていない。今すぐにでもとどめを刺さなければ、スキナーの命が危ない。だが、彼は意識の奥底では確信していた。スキナーはもう助からない。ジョーはアンプルを注射器にセットし、もう一度注射した。身体に力が漲る。最期の一撃だ。何としてもあの女を消す。ジョーは決意を固めた。

暗視ゴーグルをつけると、あっさりと女は見つかった。木にしがみつくようにして立っている。右腕はだらりと垂れ下がり、左腕で右のわき腹を抑えている。こちらの姿を確認し、ごぶりと血を吐いた。思った通りだ。女はあと数刻を待たず命を落とすだろう。しかし、それでは収まらない。この手で頭蓋をかち割ってやらねば、スキナーも浮かばれぬ。ジョーは一足で桜との間合いを詰めた。

桜が左手を掲げる。それを合図に、影が立ち上がる。致命傷を受けてなお、この女は折れない。その点は敬意を表する。しかし――

「言っただろう。それは、もう見た――!」

一瞬が戦いの天秤を傾けた。血を染めた漆黒、せりあがる影、触れれば終わり。魔力を吸い取られる。それは、魔術に対する絶対防御であり、最も有効な攻撃である。この壁を突破することはできない。ジョーはよくわかっていた。

だから、ジョーは桜の3メートル手前で飛んだのだ。

高い跳躍ではない。影を避けるためではないからだ。攻撃をまともに食らう覚悟で、ジョーは桜に突っ込んだ。『深紅の女(ベイバロン)』は地に伸びている。それが弱点だ。ジョーは桜の寄りかかる木に着地した。

同時に、ジョーは桜の首を掴んでいた。渾身の力を込め、その細い首を握りつぶす。骨が砕かれる感触が伝わる。桜は、膝を折って倒れ伏した。

ジョーは受け身もとることができずその場に落下した。手足を覆っていた輝きが消え、激しく痛み始める。皮膚が裂け、血が噴き出す。「副作用、か」ジョーは呟いた。そして、一度えずくと血の塊を吐きだした。自分の命も、長くは持つまい。

彼らが打った注射には激しい副作用があった。というよりも、人ならざる力を与える代償である。ドクターからは「3日に1本まで」と強く念を押されていた。一度に2本以上使えば、どうなるかわからない。スキナーも、桜に殺されずともいずれは副作用で死ぬ運命にあった。ジョーは力を振り絞り無線をとる。スイッチを入れ、大佐に「目標殲滅」と短く報告した。「御苦労」返ってきたのはそれだけだ。その言葉を聞いて、彼は静かに目を閉じた。

――俺はここで死ぬ。しかし、それに見合うだけの仕事はできた。俺はプロだ。任務を遂行すること、それがすべてだ。

ジョーの心臓の鼓動が止まる。彼の顔に、表情はなかった。







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