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No.43115の一覧
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[43115]
Name: sn◆be94cdbe ID:b6566aa1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2018/07/12 22:24


それからシンジたちはショッピングモール周辺を散策し、5時まで時間をつぶした。「時間だよ。みんな」とシンジがのたまい、ホテルに戻ることになった。

「ふふふ、ようやく始まるんだね」

シンジが怪しい笑みをこぼす。よほど楽しみなのか、キャラが崩壊しかけている。

「外に車を用意しているから、それに乗っていこう」

「車?」

ホテルの入り口のほうに目を向ける。そこにはロールスロイス・パークウォードが一台停車していた。

「カヲル、まさか……アレ?」

「もちろんだよ」

「はあ、一体あんたこの旅行にいくら使ってるのよ。さすがに私も気が引けてきたわ」

アスカはため息をつく。彼女は度が過ぎた行動をすることもあるが、根っこには思いやりと優しさがある。

「気にする必要はないよ。みんなが楽しむことができればいい、それだけさ」

「って言われてもねえ」

カヲルに促され、4人は車に乗り込んだ。行先は深山町のマウント商店街である。「泰山」という中華料理店の横に店があるそうだ。てっきり新都の中心に店があると考えていたシンジたちは大層驚いていた。とはいえ、完全予約会員制で、一日一組しか客を取らないそうなので、よっぽど変わった店なのであろう。そう納得して、大人しく車に揺られていた。

「ここね」

レイがマウント商店街の入り口に立つ。15分ほど車に揺られ目的地に到着した。ちょうどこの時間は夕飯の買い出しで商店街がごった返す時間帯であるので、車で直接店の前に行くことはできない。そのためシンジたちは商店街を歩くことになった。

5分ほど歩くと「泰山」の前に到着した。その両隣を確認するが、店らしき建物ではない。看板もなく、見た目は普通の民家と変わらない。3人は眉をひそめた。

「カヲル、本当にここであっているのよね?」

「もちろんさ」

カヲルは泰山の左側にある建物の扉に手をかける。「じゃあ、入るよ」と躊躇なく扉を開いた。

「わ」

「おおー」

扉を開けて目に飛び込んできたのは、一言でいえば「和」であった。この家の製作者の趣味であろうか、暖色を基調とした落ち着いた玄関が、来る者を温かく迎え入れている。靴箱の上には花が生けられ、向かって右側に通路が続いている。その壁には様々な手法で描かれた花の絵が飾られていた。

「これ、滝沢俊平じゃないかしら」

絵をじっと見ていたレイが呟いた。

「滝沢俊平?」

「110年前に生きた画家よ。ちっとは勉強しなさい」

首を傾げるシンジにアスカの辛らつな言葉が突き刺さる。シンジは不満そうにぶつぶつ言いながら靴を脱いだ。

「レイは、絵が好きだったわね」

「ええ、この人の画集は持っているわ。油絵を好んで描いた人で、明るいタッチの絵が多いわ。目を弾きつけるような華麗さはないのだけれど、穏やかな気持ちにさせてくれるの」

うっとりとしてレイは呟く。普段感情を見せないレイであるが、それは感情が凍りついているのではなく、心の蛇口が小さいだけである。それを人は大人しい、と評する。それゆえ、ひとりで静かに楽しむことに適した本や絵などには人一倍関心が強いのだ。学校では、美術の時間にこのような感情をこぼしたレイの表情がたまに見られる。ファンの間ではその姿を天使だの何だの称しているが、シンジはそんなレイに一向に気づくことはない。当然レイも気づいていない。この4人の中では、アスカとカヲルだけだ。カヲルはそもそも無関心であるし、アスカはシンジにそのことは決して言わないだろう。理由は推して知るべし。レイが語っている間もアスカは半ば無意識にシンジの頬をつねっていた。

「でも、滝沢俊平は翳りのある絵を描くの。ほら、碇君。このあじさいの絵も、花自体は色鮮やかでも背景が沈んでいるでしょう? きっと彼の生きた時代、育った境遇が影響しているのね」

アスカから理不尽な攻撃を受けもんどりうっているシンジに気付かず、レイは続けた。その時、廊下から声がした。

「そう。この人は終年貧しさに苦しんだ人でした。彼の作品の価値が見いだされるのは、彼の死後数十年たってからなのです」

4人が振り向くと、そこに女性が静かに微笑んで佇んでいた。

「両親との死別、不治の病、妻の早過ぎる死。そして、貧困。不幸、孤独という言葉がぴったり。笑った顔なんて見たことがないって、彼を知る人が言っていたらしいわ。それでも、彼は絵を描き続けた――」

女性は一瞬表情を消すと、改めてこちらに向き直った。

「ごめんなさい。自己紹介が遅れました。私は、衛宮桜と申します。本日は、遠方より本店へご来店いただき誠にありがとうございます」

桜、と名乗った女性は深々と頭を下げた。

「それから、彼女は使用人のライダーです」

顔を上げた後、桜はシンジたちの後ろ、つまり玄関のほうに手を向けた。驚いてシンジたちが振り向くと、そこには透き通るような紫の髪の美女が立っていた。ライダーと呼ばれたこの女性は、言葉を発することなく深々とお辞儀をした。

「では、中へ案内いたします」

桜はライダーに目配せをすると、すたすたと奥へ歩いて行ってしまった。ぽかーん、としているシンジたちの横をライダーが通り過ぎ、付いてきてくださいとばかりに一瞥し、桜の後に続いた。

無言でライダーの後に続く。廊下を右へ一度曲がると、15畳ほどの広い部屋に到着した。奥には簡素な厨房と流し台があり、中央には大きめのテーブルが一台配置されていた。室内は若干強めに空調が設定されており、心地よい空気がシンジたちの肌を撫でた。

部屋の隅にはユリやスイートピーといった控えめな色調の花が20センチ四方の小さなテーブルの上に飾られ、壁には1メートルを等間隔にして絵画が掛けられていた。

この花や絵画を利用した部屋のコーディネイトは、レイの好奇心を刺激した。対照的に、アスカはレイの視線の先にはまったく興味を示していなかった。彼女の部屋のコーディネイトと言えば、ぬいぐるみがベースだからである。生物は世話が面倒だ、という彼女の考えにレイは決して賛同しない。この二人の感覚の違いは、ある伝統的な美的感覚の差異に似ている。

シンジとレイがきょろきょろしていると、ライダーにテーブルの椅子に座るよう指示された。桜が厨房に入り、コンロに向かって難しい顔をしている青年に声をかけた。青年はこちらをちらりと見るとぎこちない笑みを浮かべ、手を洗ってテーブルのほうへ歩いてきた。

「こんばんは。今日はわざわざ来てくれてありがとう。俺は厨房係の衛宮士郎だ。よろしくな」

士郎と名乗った青年は、手をタオルで拭きながらぶっきらぼうに挨拶をした。

「もう少しでできるから、待っててくれ。じゃ、ライダー、あとはよろしく」

「はい」

シンジたちの目の前に湯のみが置かれた。士郎はさっさと厨房に戻り、笑顔で桜に話しかけ料理を再開した。その姿をシンジたちがぽかんとしていると、湯呑を配り終えたライダーが初めて口を開いた。

「気を悪くしないでください。ああいう性分なものですから」

湯呑にお茶が注がれる。この時シンジはまじまじとライダーの顔を見た。吸い込まれるような美人だ。シンジはつい、ライダーを見入ってしまった。

シンジは、生まれたころから身の回りの人間が美女であったため、多少、いや、かなり美人に対して耐性があるはずなのだが、ライダーに関してはシンジも息をのんだ。シンジの母であるユイも抜群の美人である。幼馴染のアスカも、レイも将来が楽しみな美人である。さらにいえば、担任のミサトと副担任のリツコもこれまた美人である。だが、目の前でお茶を注ぐこの美女は、シンジのまわりの女性陣ですら霞むほどの美貌を携えている。

余りにも均整のとれた人間には、非人間的な冷たさが宿る。彼女は完璧であるが故、ヒトの枠を超えた美しさを宿している。いつもなら、ここでアスカの嫉妬パンチが飛んでくるのだが、彼女もライダーの美貌に見とれ、我を忘れていた。

「煎茶です。熱いうちに、どうぞ」

そう言って、ライダーは壁のほうへ控えた。シンジは一口お茶を飲み、程よく緊張がほぐれてきたため、好奇心が沸々と湧いてくるのを感じた。

「あ、あの」

ライダーの視線がシンジを捉えた。ついで他の4人の視線もシンジに集まった。まるで石になってしまいそうな重圧に、シンジは一瞬発言を取り下げようかと思ったが、見ればライダーの表情は続きを催促しているようにも見える。シンジはためらいながら口を開いた。

「衛宮さんたち、お二人は、夫婦なんですよね」

「はい」

「な、何年になるんですか?」

「何年といいますと?」

「結婚、です」

「もう10年になるかと」

「そ、そうなんですね。じゃあ、衛宮……士郎さんはおいくつなんですか?」

「32歳です」

「あ、お若いんですね」

「――」

シンジはついに言葉を詰まらせてしまった。淡々とスピーディーに会話は進むのであるが、波がない故鎮まるのも速い。シンジが話題に困って口をパクパクさせていると、アスカが「あの」と口をはさんだ。

「衛宮夫妻のことはわかったわ。じゃあ、あなたはアルバイトなの?」

アスカが質問する。シンジはビクリとしてアスカのほうを向いた。彼が聞きたかったことは、実はライダー自身のことであったからだ。

「先ほど桜が申しましたように、使用人でありますが」

「servant、ね。それって、住み込みってこと? ちょっと珍しくてさ、興味があるんだけど」

「いえ」ライダーはそっけなく答えた。

アスカは疑問符を浮かべる。

「じゃあ、あなたはボランティアでここにいるってわけ?」

「……」

ライダーはなにやら考え込んでしまった。ますますアスカが混乱する。この使用人は自分が今どんな仕事をしているのかわかっていないのか。

「そうですね」

ライダーが顔を上げた。

「私は二人の家に住み込みで働いています」

「住み込み? 変わってるのね」

アスカの質問はあっけなく収まった。料理の盛り付けがされていることに気がついたからだ。シンジが短く歓声を上げた。厨房へ向かうライダーの後を目で追い、お互い顔を見合わせる。聞きたいことは数々あったが、空腹には勝てない。4人は目をらんらんと輝かせ、テーブルに料理が運ばれてくる瞬間を待った。




「どうぞ」

衛宮夫妻とライダーの三人が次々と料理を運んでくる。湯気を上げる白米、豆腐やわかめ、油揚げ、ねぎ、大根と具だくさんの味噌汁、小鉢には揚げ豆腐のあんかけとほうれん草の御浸し、出汁巻き卵、そして大根おろしの添えられたぶりの照り焼きがテーブルに並べられる。シンジはごくりと唾を呑んだ。こぽこぽと新たに注がれるお茶を待つ時間すら惜しい。

ただ、この料理はレストランのそれではなく、一般的な家庭料理である。アスカとレイはどんな料理が来るのか期待に胸を躍らせていたが、肩すかしを食らった気持ちになった。食事という面で考えるならば申し分はない。しかし、カヲルは「極上の和食」と言っていた。てっきり寿司とか飛騨和牛とかそのあたりを想像していたのだが、目の前にあるのはどう見ても突撃隣の晩御飯である。滂沱の涙を流すシンジを横目に、カヲルにこっそりと耳打ちした。

「ちょっと、これどういうことよ。ただの晩御飯じゃない」

「そうだよ。だって僕らは夕食を食べに来たんだからね」

「ふざけないで。私の言っている意味、わかるでしょ」

「もちろんわかっているよ。まあ、とりあえず食べてみなよ。文句はそれから聞くからさ」

アスカの凄みなどどこ吹く風のカヲル。味噌汁を手に取り、鼻を近づけた。

「うん、いい香り。士郎さん、出汁はかつおですね」

「ああ、知り合いから良い枯本節を仕入れたんだ。香りがいいだろ? カビを何度も生やして旨みを凝縮するんだ。ご飯には魚沼産のコシヒカリ、深沢米を使ってる。それからこのほうれん草は冬木で有機栽培された――」

さきほどまで寡黙に料理をしていた士郎が饒舌にしゃべりだす。アスカとレイは面食らって士郎の顔を見上げた。

「なるほど。いつも遠くから食材を取り寄せているのかと思いましたが、全てがそうというわけではないのですね」

「肉や野菜はともかく、野菜はできるだけ地元でとれるものを使ってる。昔っからここの商店街にはお世話になっているからな」

「…先輩」

桜が士郎の横腹をつつく。士郎は桜の顔を見た後、彼女の視線が料理に向いていることに気がついた。

「おっと、料理が冷めちまうな。さあ、ゆっくり召し上がってくれ」

その言葉に4人は箸を手にし、目の前の料理に向かった。



「ああ、美味しかった。ごちそうさまでした」

「……ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」

1時間ほどかけてシンジたちは食事を終えた。アスカとレイも料理を口に運んだ瞬間、表情が変わった。衛宮夫妻はその反応も慣れたものらしく、ニコニコとその様子を眺めていた。

食事中、シンジの士郎への質問、カヲルのうんちく、アスカとレイのじゃれ合いなど、笑いの絶えない和やかな時間が流れた。士郎と桜はシンジたちが食事を終えるまで食器の片付けをしたり、会話に加わったりした。時折、桜がライダーに話題を振る。ライダーは片付けを手伝いながら、一言二言返事をする。とろけるほど和やかに、時間が過ぎていった。

食事はただの栄養補給ではない。つくる者、そして食べる者の笑顔があってこその食事だ。士郎の洗練された料理の腕や、選りすぐられた食材が紡ぐ感動。身体に沁みいるその味わいは、お腹だけではなく心も満たすのだ。そして、「おいしく食べていただきたい」というまごころが、衛宮邸の食卓における最高の調味料なのだ。

「と、とてもおいしかったです! か、か、感動しました」

シンジはどもるほど緊張しながら、士郎に握手を求めた。士郎はその手に笑顔で答えた。

「ありがとう。聞くところによると、シンジ君も料理が得意らしいな。いつか君の料理も食べてみたいよ」

「いいいいやあああそそそんなああああ」

ぶんぶんと首を振るシンジ。その後ろからにょきりとカヲルが顔をだした。

「そうだ、士郎さん。シンジ君に料理のアドバイスをしてもらえませんか?」

ね、とシンジの顔を覗き込む。シンジの目が点になった。

「いいぞ。それなら、俺の携帯電話の番号を教えておくよ。聞きたいことがあれば、いつでも電話できるだろ」

言われるがままシンジは相棒を差し出し、電話番号を登録した。顔を真っ赤にするシンジに、士郎は優しく肩をたたいた。

「そういえばシンジ君たちは旅行って言ってたかな。冬木は初めて?」

「あ、はい。初めて来ました。しばらく滞在するつもりですが」

「そうかそうか」士郎は頷いた。

「まだしばらくここにいるんだろ? 行くところがなかったらうちにおいで。場所は……カヲル、お前が知ってるだろう」

「ええ、もちろん。じゃあ、そろそろ失礼します。中学生はもうホテルに帰らないとね」

「ホテル? 冬木にはあまりホテルはないが、どこに泊まるんだ?」

「遠野グループのホテルです」

「う。あんなとこに泊まるのか。お前、本当に不思議な奴だな」

士郎は呆れ顔でカヲルを見る。その横でシンジはひきつった笑いを上げた。



ライダーは客人たちにお茶を注いでいた。その間、ちらりと桜に目をやる。彼女の主人(マスター)は、二人の少女と談笑していた。

「ごちそうさまでした。こんなに美味しい料理は初めてだったわ」

「……ごちそうさまでした」

「ふふ、ありがとう」

桜は柔らかく微笑む。

「ところで、桜さんっていくつなの? まさか30代なんて言わないわよね」

「あら。私は今年で31よ」

「ええーー全然そう見えない! まだ20代前半じゃないっ!」

「――」

「あらあら」

会話の断片がライダーの耳に入る。桜はともかく、自分にいろいろと質問をされたら困る。いろいろな意味で。彼女たちの好奇心の矛先が己に向く前に、ライダーはそそくさと自分の仕事に戻った。

「……じゃあ、ライダーさんはいくつなんですか」

「あ、それ、私も気になる」

ライダーは聞こえないふりをして、キッチンに引っ込む。

「ライダーはね、教えてくれないの」

「え?」

「でも、履歴書とかで、確認できるはずじゃ……?」

「知らないわ。貰っていないから」

アスカが肩を落とす。レイもライダーをちらちらと見ながら首をかしげた。

「人は、話したくないことの1つや2つはあるわ。それがどんな些細なことでもね」

「そうだけど……」

「ライダーはね、秘密が多いのよ」

桜はライダーを見てウインクをした。

「(…桜、あまり妙なキャラにしないでください)」

ライダーは口に出さず桜にメッセージを送る。しかし、桜からは笑顔以外なにも返ってくることはなかった。






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