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No.43351の一覧
[0] EVAザクラ 新劇場版[まっこう](2019/08/30 22:14)
[1] EVAザクラ新劇場版 序の次 第一話[まっこう](2019/08/30 22:12)
[2] EVAザクラ新劇場版 序の次 第二話[まっこう](2019/08/30 23:59)
[3] EVAザクラ新劇場版 序の次 第三話[まっこう](2019/08/31 12:37)
[4] EVAザクラ新劇場版 序の次 第四話[まっこう](2019/08/31 19:23)
[5] EVAザクラ新劇場版 序の次 第五話[まっこう](2019/08/31 22:22)
[6] EVAザクラ新劇場版 破 第一話[まっこう](2020/06/01 21:04)
[7] EVAザクラ新劇場版 破 第二話[まっこう](2020/06/26 21:46)
[8] EVAザクラ新劇場版 破 第三話[まっこう](2020/07/05 16:22)
[9] EVAザクラ新劇場版 破 第四話[まっこう](2020/07/22 00:29)
[10] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧[まっこう](2020/07/24 19:53)
[11] EVAザクラ新劇場版 破 第五話[まっこう](2020/08/12 15:01)
[12] EVAザクラ新劇場版 破 第六話[まっこう](2020/09/30 19:42)
[13] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update[まっこう](2020/09/30 21:52)
[14] EVAザクラ新劇場版 破 第七話[まっこう](2020/10/06 17:44)
[15] EVAザクラ新劇場版 破 第八話[まっこう](2020/10/10 17:16)
[16] EVAザクラ新劇場版 破 第九話[まっこう](2020/10/15 14:10)
[17] EVAザクラ 新劇場版 搭乗人物一覧 update[まっこう](2020/10/15 14:22)
[18] EVAザクラ新劇場版 破 第十話[まっこう](2020/11/05 17:09)
[19] EVAザクラ新劇場版 破 第十一話[まっこう](2020/11/26 17:26)
[20] EVAザクラ新劇場版 破 第十二話[まっこう](2020/12/26 18:14)
[21] EVAザクラ新劇場版 破 第十三話[まっこう](2021/01/31 20:05)
[22] EVAザクラ新劇場版 破 第十四話[まっこう](2021/04/02 22:25)
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[43351] EVAザクラ新劇場版 序の次 第二話
Name: まっこう◆048ec83a ID:ebf4c7d1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/08/30 23:59
もっと趣味に走ります

ーーーーーーーーーー
 最近のレイは自分のワンルームでTVや動画配信等を見る事がある。少し前にアンズの気合いに負けて、部屋を模様替えした。模様替え自体はシンジとその仲間達、それにトーゴーがやったので、今一歩しっくり来ない所がある。室内が、ピンクを基調とした壁紙で覆われているのはトモヨの趣味だし、食器棚と小さなシステムキッチンが出来たのは、ヒカリの進言だ。TVやステレオがやたら有名メーカーの物なのはケンスケのせいだったりする。一週間に一度ネルフの総務課から掃除に係員が来るようになったのは、シンジが頼んだせいだ。
 レイもここまで環境整えられると、変わった事がしたくなる。さし当たって、市内の情報を知らないとアンズが来た時に対応が大変なので、TVを見る事にした。主に第三新東京市のローカルTV局の放送を見ている。手にしているお煎餅はアンズのお土産だ。アンズはレイの事を餌が足りない妹分ととらえているらしく、やたらお菓子を持ってくる。
 レイがTVのスイッチを入れると、最近流行のAIアイドルが映っていて、歌っていた。




 EVAザクラ新劇場版

 序の次 第二話

妖精




「やっぱり何か反応が変ね~」

 ここはWWRの宇宙ステーションTB5の中だ。色白の少しおかめ顔、黒いショートヘヤーにやたらでこぼこが激しいプロポーションのその女性は、20歳ぐらいに見える。名は栗栖川アヤカ。WWRの隊員で先日からTB5の駐在員をしている。元々TB5の駐在員はナギサとホノカだったが、二人ともトモヨの一つ年上と、まだ未成年だ。数ヶ月のTB5の滞在で二人の成長の阻害になる事が判り、年上のアヤカと交代となった。アヤカもずっとTB5にいるのは体に悪いので、姉のセリカと二週間毎に交代となる。元々はアジアとEuでWWRのエージェントをしていた二人だが、宇宙滞在に適性があるので呼び戻されてこの任務に就いている。
 アヤカは先ほどから無重力下でぷかぷか浮きながら、端末の前で作業をしている。
 
「イオス、大道寺島のスキャンデータ表示」
「はい」

 抑揚の無い人工知能の声がすると、アヤカの目の前に大道寺島の3Dスキャンデーターがホログラムで浮き上がる。アヤカが手を動かすとその動きをイオスが読み取りホログラムが回転したりする。
 
「レスポンスが何か変なのよねぇ~」

 動きが気に入らないようだ。アヤカは調整を続けたが違和感は変わらなかった。
 
ーーーーーーーーーー

 レイはLCLの中で目を開いた。ここはシンクロテスト用のプラグの中だ。視線をあたりに巡らす。
 
「レイどうしたの?」
「何でも無い」

 何か違和感を感じたのであたりを見たが、いつものプラグの中の光景だ。シンクロが乱れたのか、リツコが声をかける。違和感の元は判らないがとりあえず、集中する事にした。目を瞑る。
 
「あなたたち、今日は上がっていいわよ。何か集中できていないようだし」

 しばらくして、リツコの声がかかり、今日の二人のシンクロテストは終了になった。

 ネルフは、世界的な組織の割には貧乏だ。EVAやMAGIの開発、改良にはいくら資金があっても足りない。そんなわけでエヴァパイロットの更衣室は男女兼用だったりする。一応カーテンで区切っているが、シルエットは映る。初めはレイの着替えに少し興奮したシンジだが、慣れてしまった。今日もカーテン越しに一緒に着替えていた。

「そういえば綾波、今日のシンクロテスト何か変だったよね」
「そう?」
「違和感というか」

 シンジは着替え終えベンチに座る。レイに合わせたわけでは無いがシンジも最近は制服以外をよく着る。

「なんか視線を感じるというか、ともかくそんな感じ」

 ペットボトルの飲料水を飲みながらシンジは続けた。LCLに入った後はやたら喉が渇く。体が異物を分解するのに水分が必要らしい。やがてカーテンが開いた。水色のワンピース姿のレイが現れた。
 
「碇君もなのね」
「綾波もなんだ」

 不思議な事は説明おばさんに聞くのがいい。二人はリツコがいる技術部を訪れた。
 
「視線ねぇ」

 リツコはコーヒーを啜りつつ対応する。視線はディスプレイの方を向いたままだし、手はキーボードの上を踊っている。いつもこんな対応だ。
 
「博士、監視カメラ増やしましたか?」
「あなたの部屋の模様替えの時、新型に変えたけど最近はいじってないわよ」

 やっと、リツコは回転椅子を回して振り返り二人の方を見た。
 
「実は、僕も何か視線を感じる時があるんです」
「ミサトのマンションは入り口、窓ぐらいしかカメラはないし、普段は止めているわよ」
「僕はどちらかというと、外で視線を感じるんです」
「シンジ君はパイロットとして急に有名になったから、たまたま誰かが見てる事が多いんじゃないの」
「そうかなぁ」
「まっ一応調べておくわよ」

 その後、技術部と諜報部でレイのマンションと葛城家、レイ達の通学路などが徹底的に調査されたが何も出なかった。
 
ーーーーーーーーーー

「それは、誰か気になる人がいるのでは無いかとお姉ちゃんは思うわ」
「誰か?」

 レイのワンルームを第二の巣とでも思っているアンズは、今日も遊びに来ている。諦め気味なのか、自分の事はあまり気にしない性格だからのか、レイも特に何も言わない。この前の使徒戦で、野生の勘と身体能力で、戦いに貢献したアンズに、一目置いている面もある。
 アンズが葛城家の話題を話していると、シンジが視線を感じると言う話が出た。レイもそうなので試しに聞いてみた。
 
「誰かをじっと見ると、誰かに見られている気がするように思うのよ」
「そう」
「レイちゃんは気になる人がいるの」

 レイは少し考えた。
 
「碇司令」
「シンちゃんと同じ名字だね」
「碇君のお父さんだから」
「なんと」

 アンズは心底びっくりしたようだ。目を丸くしている。人間になりたてでは、理解するのが難しい関係らしい。
 
「本当に忙しいだけなの」
「そう。それだけ」
「シンちゃんもお父さんも大変だにゃ。ん~~」

 アンズは腕を組んで考えている。
 
「他に気になる人はいるの」

 レイは考え込んだ。アンズのまねなのか腕を組んで考えている

「碇君」
「シンちゃんの事?」
「そう。碇司令に守れと言われたから」
「そっかぁ~、あっ」

 アンズは手を打った。
 
「とするとシンちゃんのお父さんは、シンちゃんが好きなんだ。嫌いだったら守れって言わないにゃ」
「……そうかもしれない」

 初号機パイロットを守る事とシンジを守る事は、同じ事なのかなと、レイは珍しくそんな事を考えていた。
 
「シンちゃんもレイちゃんの事、気になるのよね。夕ご飯の時、よく話題にするから」
「そう」

ーーーーーーーーーー

「トモヨちゃん」
「何ですか、サクラちゃん」

 ここは屋敷のトモヨの部屋だ。二人はテーブルを挟んでWWR日本支部の活動報告書をチェックしている。週に一度パーカーがまとめている報告書を日本支部の主であるトモヨが見ている。週末の一日はこれで潰れる。サクラはお手伝いだ。
 
「監視カメラ増やした?」
「いいえ、どうしてそう思われるのですか」
「んっと、何か視線を感じるの」
「わたくしストーカーではありませんわ」

 そう言うと、テーブルの隅に置いてあったいささか旧式のビデオカメラを手に取りサクラに向けた。
 
「わたくし正々堂々とサクラさんの姿を全て写す事を目標にしていますから。もちろんセキュリティーチェックも兼ねて、サクラさんの部屋の防犯カメラの映像も時々チェックさせていただきますが」

 ここまで堂々としたストーカー行為も珍しいが、サクラもそんなもんかと思ってしまうのは、人徳というか迫力なのかもしれない。
 
「そうだよね、トモヨちゃんは堂々映すはずだし」
「どうされました」

 珍しくサクラが腕を組んで悩み出した。その様子も可愛いのかトモヨはずっと撮り続けている。だがしばらくしてビデオカメラを下ろした。

「サクラさんほどの魔法使いの直感ですから、無視するのは得策ではありませんわ。ここは地道な捜査が一番」

 トモヨは懐から携帯を取り出す。見た目が旧式の大きめの携帯なのは、WWRの秘密の機能がてんこ盛りだからだ。
 
「こんにちは綾波さん、少しよろしいでしょうか」

 トモヨはシンジと話し出した。
 
「はい、それでは早速うかがいます、ごきげんよう」

 五分ほどシンジと話した後、トモヨは電話を切った。
 
「碇さんも、綾波さんも視線を感じるそうです。まずは綾波さんの家によって、綾波さんを拾ってから碇さんの家に向かいましょう」

 トモヨは立ち上がった。にやりと変な笑いをする。
 
「では、早速愛しい方に会いに行く為の衣装にお着替えですわ」
「はうう」

 そう漏らすと苦笑いをしながら頭をかいたサクラだが、ふっと寂しそうな表情をした。
 
「愛しくていいのかな、違うシンジ君なのかもしれないし」
「誰かを愛しい事がいけない事などございませんわ」

 トモヨは微笑みサクラを抱き寄せる。
 
「それが、もし許されない思いでも、愛する事は尊い事ですわ」

 自分に言い聞かせるようにトモヨは呟いた。
 
 そのあと二人はパーカーの運転するリムジンに乗って、レイを途中でひろい葛城亭へ向かった。アンズも加わり五人で話したが成果は無かった。ただ何か判った場合はお互い教え合う事にした。レイが積極的に提案していた。
 
ーーーーーーーーーー

「私は」

 地球から離れた静止軌道上で誰かが呟いた。
 
ーーーーーーーーーー

「ミサトこの前のプリキュア回収させてもらうわ」
「あらなんで?せっかくいいパスワードだったのに」

 おなじみのリフトでリツコとミサトは密談中だ。
 
「あれの本番用、つまりシンジ君やレイ用の試験中に欠点が見つかったの」
「どんな?」
「初歩的ミスよ。エネルギー量間違えたの。私たち大人が使うと、装甲服を作りきれなくて、単に素っ裸になるだけ」
「へ~、露出狂ね。じゃ今度持ってくる」
「そうして、ところで、視線の話だけど」
「あれねー」
「こちらで諜報部と一緒に総点検したわ。どうやらシンジ君達の学校の生徒を中心に、似たような経験を持つ者がこの所増えているみたい」
「私は、シンちゃんの担当にあたったわ」
「溺れるミサトは霊能者もつかむ」
「まあね。霊的、超能力、そんな物があるとしてだけど、そういう物じゃ無いそうよ。彼女自体は視線を感じないみたい」
「あなたは自身は?ミサト」

 言われてミサトは黙り込んだ。少ししてから頭をかく。
 
「シンちゃん達より遅れてだけど、感じるようになった」
「私と同じね、何か懐かしい視線」
「奇遇ね、私もそんな感じ」
「ともかく、この世は謎だらけ」

ーーーーーーーーーー

 その日ケンスケとトウジの訓練が終わった後、土門にケンスケとトウジが呼ばれた。土門に着いていくと、屋敷の客間に案内された。そこにはトモヨとソノミが待っていた。

「じゃ」

 土門は部屋を出て行った。

「座って」

 ソノミに勧められてテーブルに着く。何度か屋敷で会った事が有り顔見知りだ。

「実は折り入ってケンスケ君とトウジ君にお願いがあるの」
「なんですか」
「……WWRって知ってる?」
「当然や、公然の秘密組織って変な組織や」
「そうね」

 変なと言われてソノミが苦笑いを浮かべる。

「国連と契約している秘密組織って変ですよね」
「あれ、私が隊長で指揮しているの」
「「はい?」」

 ケンスケとトウジは顔を見合わせた。

「話せば長いのだけど、私の大道寺コーポレーションの利益を全てつぎ込んで作った組織よ」

 実際話は長かった。概要の説明で1時間ほどかかった。時々ソノミの秘書として着いてきたヤシマがお茶を入れてくれる。

「そこで、やっと本題よ」

 今までの柔和な表情から一変して、ソノミの表情が引き締まった。それに合わせてトウジとケンスケの表情も引き締まった。

「WWRの隊員を拡充したいの。正確には日本支部のね」
「ここですか」
「そう、大道寺家のね」
「さよか」
「カッシュから貴方たちの仕上がりを聞いたわ。結構使えるって」

 師匠はなかなか褒めてくれないのでケンスケとトウジは喜んだ。

「で、うちのエージェントにスカウト。この前、うまく避難所から抜け出してビデオを撮りに行った行動力はセンスがいいわ。使い物になるし。エージェントで一番重要なのはセンスだから」
「喜んでやらして頂きます」

 大声ですぐ答えたのはケンスケだ。

「なんや、面倒やな」
「カッシュが二人は信頼できるって言っていたわよ」
「さよか、師匠の推薦ならしゃないな、やらしてもらうで」
「よかった。ケンスケ君は主にトモヨのボディガードを頼めるかしら?学校にはうちの人間が入れないし。男子のメンバーが少ないのよ」
「男が入れないところは?」
「実はサクラちゃんもうちのエージェント。能力は秘密だけどね」
「わかりました」
「わしは?」
「主に攻撃と諜報活動」
「判ったで」
「で」

 ソノミが手を伸ばすとヤシマが携帯端末を二つ渡した。

「これが契約の内容よ。まっエージェントの契約だから公式文章じゃないけど、貴方たちと私の約束」

 ソノミはそれぞれの端末を二人に渡した。

「月にこれだけ貰えるんですね。あと将来的に大道寺グループに優先的に就職が可能」
「エージェントを続けて貰ってカメラマンになってもいいわよ」
「それは良いですね。お受けします」

 ケンスケは嬉しそうに端末にサインを入れた。

「これは本当やな」
「ええ、もしトウジ君が何かあっても妹さんの面倒は全て私が面倒見るわ。私の養子の待遇で」
「なら、やらしてもらいます」

 トウジもサインを入れた。二人はヤシマに端末を渡す。丁度その時杖をついたコノエが部屋に入ってきた。

「さしあたっては、もっと強くなってちょうだい。エージェントとしての訓練はコノエがするわ。カッシュにも鍛錬のレベルを上げるように言っておくわ」
「「はい」」
「それと、言いたく無いけど、裏切りがあったら記憶を消させてもらうわ。全部ね」

ーーーーーーーーーーー

「姉さん」
「イオスどうしたの」

 昨日アヤカと入れ替わりにTB5にやってきたのは姉のセリカだ。小声だが銀の鈴を転がしたとでも形容できるような良い声だ。プロポーションと顔立ちはアヤカに似ている。ただ姉の方がおとなしそうで、見た目は日本人形のようだ。そのおかげでWWRの制服は少し似合わない。
 TB5の人工知能のイオスは人格のデーターはない。その為イオスが話す時は救助信号をキャッチした時がほとんどだ。イオスは出力に主に3Dホログラフィーを使うが、古典的な平面ディスプレイにキーボードからも操作できる。セリカは主にそちらを好む。
 
「何でもありません。誤報です」

 セリカは首をひねる。アヤカと違い長い黒髪が広がった。誤報は時々あるが何かおかしい気がした。

「イオス、セルフチェック、イージーモードで」

 TB5の主な任務は地球からのSOSの受信だ。その業務に差し支えない範囲でイオスがセルフチェックを始めた。10分程度かかる。

「問題ありません」

 イオスからの報告はいつもと変わらないものだった。少し経ってからイオスから報告があった。

「北アメリカで森林火災発生。取り残された人から救助信号です」
「替わって」

 初期対応を済ませたイオスから、セリカは対応を引き継いだ。綺麗な英語が口から出た。

ーーーーーーーーーー

 その日のシンクロテストも無事に終わった。いつもはシンクロテストの後レイはとっとと着替えて行ってしまうのだが、今日はシンジと一緒に帰る事になった。二人が同時に視線を感じる事があれば、何か判る事があるかもしれないからだ。もっとも一緒に帰るとはいっても、レイは全然話さない。一応シンジと歩調を合わせてはいるが特に見向きもしない。二人で地上に出て、第三新東京市環状リニアに乗った。夜になると空いているリニアだが今日はとても空いている。他に客は二人だけだ。

「碇君感じる?」
「綾波も?」

 しばらく並んで座ってリニアに乗っているとまた視線を感じた。二人が視線を感じる方向を見ると、リニアの車内モニター用のカメラがあった。

「誰かが見ているのかな?」
「ここの全システムはMAGIが管理している。普通では入りこめない」
「でも、先生みたいに不思議な力を持つ人もいるし」
「そうかもしれない」

 シンジが言う先生とはクキコの事だ。

「でも、もう着いたし。明日リツコさんに相談してみよう」
「そうね」

 シンジが降りる駅が近づいてきた。徐々にリニアの速度が落ちてくる。

「えっ」

 いきなりリニアが加速した。シンジは床に転がりそうになったが、レイが支えた。二人は席の横にある縦棒に捕まった。速度がどんどん上がってくる。

「通り過ぎた」

 レイは渡されている携帯端末を取り出しネルフに連絡する。

「繋がらない」

 シンジ達が乗っているリニアは一両編成だ。客は二人を除けば、全員で二人だった。赤ちゃんを抱き紐で抱いた若いお母さんだ。完全自動制御なので運転手も車掌もいない。母親は夜泣きをする赤ん坊をあやすためリニアに乗っていた。リニアに乗るとなぜか泣き止む赤ん坊は、母親の腕の中ですやすやと寝ている。どの駅に来ても止まらず加速し続けているリニア環状線は、時速200kmと一般の路線では考えられない速度になっていた。まだ加速を続けているのでそのうち脱線するだろう。そうしたら全員助からない。
 レイはテロのあった時のマニュアル通りにした。車両の真ん中に全員を集めると皆を腹ばいにさせて手で頭を覆うようにさせた。赤ん坊には自分の着ていた制服を脱いでかぶせる。一応防弾防刃処理をしている服なので気休めにはなる。

「綾波これを着て」

 シンジは私服のシャツを脱いでレイに渡す。レイの学校の制服と違い普通のシャツだ。

「下着はいけないよ」
「ありがとう、あっ」
「あっ」

 レイは、シンジのシャツの胸ポケットに小さな黒いプラスチックの塊を見つけた。SOS発信用の通信機だ。話したり状況を伝えたりは出来ないが、握りつぶすだけでSOSの発信だけは出来る。SOSさえ伝えればMAGIが状況を判断できるからだ。シンジは動転してすっかり忘れていた。レイは通信機を握りつぶした。

「後は博士達がなんとかしてくれる」

 レイはシンジのシャツを羽織った。
 
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 青葉シゲルは司令部付きの技官でもあり、エヴァの主任オペレーターの一人だ。レイはあまり名前を覚えない方なので、当初、髪の長い人と覚えられていた。ちなみにマコトは眼鏡の人、マヤは後輩の人だ。ここはMAGIの前のオペレートシートだ。ここには主任オペレーターか、その下のランクのオペレーターが交代で二人はいる。使徒は24時間営業だからだ。シゲルは、ミサトの部下の一人と当番だった。
 
「アコースティックギターが趣味なんて先輩は趣味が渋いですね」
「あれは年代もんでね。俺の爺さんがしゃれたじいさんで、ギターが趣味だったんだ。ま、趣味人だったおかげで、遺産があのギター一つだから、道楽もそこまで行けばたいしたもんだ」
「それはすごいですね」

 そんな話をしていると、オペレーター席にミサトが来た。
 
「マコト君知らない」
「さあ、また書類作らせるんですか」
「う、やあねぇ」

 図星だったらしい。

「あ、ミサトさん」

 丁度マコトもミサトを探していたらしい。オペレート席に来た。
 
「書類は自分でかたづけてくださいね」
「みんなでいじめるゥ」

 なんとか話題をそらそうとギターの話をミサトがしようとしたその時だった。いきなりMAGIの主画面が暗くなった。
 
「何が」

 ミサトがあたりを見渡して叫ぶ

「我が名はデストロン、世界の覇者」

 ディスプレイに大きな文字で表示され、合成音があたりに響き渡る。
 
「MAGIクラッキングを受けています。自爆シーケンス起動しました」

 シゲルがペレートをしながら叫んだ。
 
「どこからなの」

 ミサトは、オペレート席に飛び込んだマコトの耳元で叫んだ。

「不明です、ただMAGIにハッキングできるのは、ネルフ各支部のMAGIだけです」
「対抗処置急いで」
「敵が先にクラックして有利です」

 その時、オペレータールームと外部への通路にいきなりシャッターが降りた。
 
「リツコに連絡できる?」
「無理です、MAGIがクラックされているので通信もコントロール不能です」

 一方リツコはリツコで、原因を探っていた。

「マヤ、そっちはどう」
「先輩、EUのMAGI二号機がクラック元です。能力が均衡してます」

 リツコとマヤは、リツコの個室で打ち合わせをしていた。リツコはエヴァの技術主任技師という事もあり個室を持っている。二人は部屋の端末から、MAGIにアクセスをしている。
 
「完全に通信が遮断状態です。先にクラッキングしてきたEUのMAGIが有利です」
「そんな事は判ってるわ。それをなんとかするのが技術屋よ」

 そう叫びつつも、MAGIをコントロールするリツコだが、均衡は崩せない。
 
「ともかく、外部に通信よ」
「はい先輩」

ーーーーーーーーーー

「我がデストロンがこの学校は占拠した」

 文化祭の用意を体育館でしていた2-Aの女子達は、急に入ってきた異様な風体の男達を見て凍り付いていた。今日は文化祭で喫茶店をやる際の衣装の相談と言う事で、女子だけで相談していた。先生にも許可をとっていたため生徒だけだ。リーダーらしき男は普通のスーツ姿だが、他の者達は全身タイツで、目だけが見える格好をしている。

「綾波レイはどいつだ」
「綾波さんは今日は早退でいませんわ」
「外れか、まあいい」

 リーダーは手に持っていた袋から何かを出した。ジャガーを模した覆面のようだ。男は覆面を被った。
 
 きゃー

 トモヨのクラスメイト達の悲鳴が上がった。男の体全体がアメーバのように蠕動して形が変わっていく。手の先に金属光が集まっていく。やがて両手が長い刃物となったジャガーの顔を持つ獣人に変わった。
 
「お前達は、我がデストロンの礎になってもらう、だれでもいい、この薬を飲んでもらおう」

 覆面に覆われているはずだが、邪悪な表情が見えるような声だった。また悲鳴が上がる。
 
「その前に皆服を脱げ。この薬は皮膚や粘膜が空気に触れていると効果が出やすい」
「そんな事出来るはずがありませんわ」

 さすがWWRの隊員と言うべきか、トモヨが立ち上がり、ハサミジャガーに向かい叫んだ。
 ハサミジャガーの覆面の微笑みがより邪悪な物となり、両手がひらめいた。
 
「えっ」

 一瞬にしてトモヨの服は全て切り裂かれ、下着姿になったトモヨが立っていた。悲鳴は上げなかったが、トモヨはうずくまり大事なところを隠した。それでもハサミジャガーを睨んでいるが、さすがに瞳は涙でいっぱいになっている。
 
「お嬢様方、手荒な真似はしたくありません。ご協力のほどを」

 ハサミジャガーは優雅にお辞儀をした。
 
ーーーーーーーーーー

 カメラマンに必要な能力の一つに、ストーキング能力があるとケンスケは思っている。幸いというかその能力にケンスケは恵まれていた。彼は体育館の天井を支える梁の上に潜んでいた。その才能は相当な物でデストロンの怪人さえも気づかない。見つからないようにトモヨ達を見ている。今日はトモヨのお供で学校に残っていた。最近のケンスケはトモヨのおまけと認識されているらしく、女子の集まりにも付いてきても何も言われない。たまたまトイレに行っていた時デストロンの一団が学校に来たため、難を免れた。トイレから換気口を通ってここまで来た。
 ハサミジャガーの要求通り、クラスの女子達は全部服を脱いでいた。体育館の隅に固まって怯えている。助けたいところだが、ケンスケの実力では無理だ。ケンスケは先ほどから腕時計の表面をリズミカルに叩いている。昔懐かしいモールス信号だ。この腕時計はエージェント契約をした時にソノミから支給された物だ。いろいろ秘密の機能が付いている。通信機能も付いているが、それほど無線の出力は高くないのでWWR日本支部に届くかは不明だ。いつでも人手が足りない日本支部だが、今日もみな隊員は出払っている。ただしパーカーがいるはずなので通信を受けているかもしれない。それに今は土門もいて、トウジに稽古を付けているはずだ。土門が来てくれれば改造人間も倒せるだろう。
 だが時間は待ってくれなかった。

「さて、そろそろいいだろう、誰かこの薬を飲んでもらおう」

 ハサミジャガーの右手が刃物から人の手に戻った。戦闘員から瓶を受け取る。瓶の中の液体は濁っていて、その濁りは自ら動いていた。

「我がデストロンのマイクロマシンを与えよう。上手く行けば我らの仲間となり人ならざる力が手に入るぞ」
「運が悪かったらどうなるの」

 我らが委員長が震えながら聞いた。

「死ぬ」
「そんな事出来るわけないじゃない」
「選ばれし者の為の生け贄となってもらう。粘膜に一滴でも触れれば、後は簡単だ」

 ハサミジャガーは大げさなポーズで会釈をした。

「やれ」

 命令された戦闘員は、トモヨの髪を掴んで持ち上げた。別にトモヨでなければいけない訳ではなく、単に髪が長くて持ちやすかったという理由らしい。苦痛と恐怖の悲鳴を上げたトモヨは頬を叩かれ瞬時に気絶した。戦闘員も低レベルの改造人間だ。5人力位はある。

「止めろお」

 我慢できなくなったケンスケが飛び降りてきた。ただ無謀だった。ケンスケはトモヨを吊している戦闘員とハサミジャガーの間の床に着地したが、無造作に振られたハサミジャガーの左の刃物の峰が胸に食い込み吹っ飛んだ。体育館準備室のガラス窓を割って飛び込み部屋に転がった。峰打ちとはいえ改造人間の一撃だ。ケンスケは背骨は折れなかったが胸骨、肋骨が粉砕され身動きが取れない。

「不粋な邪魔が入った。さてお嬢さんをデストロンに迎えよう」

 戦闘員はトモヨの口を開けた。ハサミジャガーの右手の瓶が近づいていった。

ーーーーーーーーーー

 レイが握り潰した通信機の通信は、MAGIがクラッキングを受けている状態では、ネルフに伝わらなかった。だが聞いている者がいた。

「セリカさん緊急事態です」
「えっ」

 TB5のAIであるイオスは本来緊急事態などとは言わない。TB5が受ける通信は全部緊急だからだ。

「イオス、セルフチェックレベル2」
「私はイオスであって、イオスではありません。違う世界線から情報だけ来て融合しました」
「だれなの?」

 セリカは何となく口調に覚えがある気がした。

「私の愛称は電子の妖精、名前のデータは残っていません。ネルフの皆と碇さんとレイ姉さんがピンチです。本部に出動要請しました。私はMAGIを助けます」

 TB5のAIは最低限の演算能力を残してMAGI対MAGIの戦いに加勢を始めた。

ーーーーーーーーーー

 土門に受けた訓練のおかげか、そんな状態でもケンスケは意識を保っていた。何とか手を伸ばして這っていこうとする。ただ胸骨、肋骨が粉砕されていては、ほとんど動けない。それでも右手を教室の戸の方に伸ばした。その時室内に風が吹き込みそれを運んだ。
 右手に何か布切れが触れた。それを掴んだ。かすむ目で見ると、シルクのパンティーだった。そこには赤い刺繍で「TOMOYO」とあった。ケンスケは本能的にそれをかぶった。

一方体育館の隅では、トモヨの口にナノマシン入りの薬品が迫っていた。その時だった。

「ふおおおおお」

咆哮と共に、体育準備室が生体発光の輝きで包まれた。

「クロス・アウ!!」

 声に含まれる変な気合いに、ハサミジャガーはついそちらの方を見てしまった。だが何もいない。
 前に視線を戻すと、目の前を白い物が覆っていた。

「何!!」
「それは私のおいなりさんだ」

 天井の骨組みから荒縄でぶら下がった、変態EVA仮面の局部があった。

「なんだと」

 どんな敵にも恐怖感を持たないように精神操作されているはずのハサミジャガーが飛び退いた。

「はっ」

 気合いと共に変態EVA仮面の蹴りが、トモヨをぶら下げていた戦闘員にきまり、戦闘員は吹っ飛んだ。変態EVA仮面はトモヨを抱きとめると、まだどうにか意識を保っているヒカリにトモヨを渡した。
 
「頼む」
「はっはい」

 ハサミジャガーは怖いが、この人もこれはこれで凄く怖い。ヒカリはそれでも委員長としてみんなを助けるんだという一心で意識を保っていた。
 
「ふん」

 変な気合いと共に変態EVA仮面は立ち上がると、ハサミジャガーを睨み付けた。ヒカリにも判るぐらいの怒りのオーラが彼を包んでいた。思わずハサミジャガーや手下の戦闘員達は後ずさった。デストロンの改造人間であるハサミジャガーは、同程度の改造人間や軍隊などと戦えるよう改造洗脳をされている。だが相手は超変態だ。そんな事態は想定していない。
 
「乙女達に不埒の真似をしたその罪、ゆるさん。初めから全力で行かせてもらう」

 変態EVA仮面は両手を腰にあて、パンツの両端を引っ張り上げるとクロスさせ肩にかけた。変態EVA仮面は、局部に刺激が加わるとより一層やる気と力が出るのだ。
 
「ぬかせ、この変態やろう」

 流石に幹部クラスの怪人だけあり、ハサミジャガーは素早く移動すると、特殊鋼の刃を変態EVA仮面に振り下ろした。
 
「何!!」
「変態秘奥義、荒縄シ-ルド」

 ダイヤモンドを切り裂くはずの特殊鋼の刃は変態EVA仮面の両手の間に渡された荒縄で受け止められていた。ASF、アブノーマル、セクシャル、フォースで赤く輝く荒縄は無敵の盾と化した。ハサミジャガーはまたしても飛び退いた。
 
「おまえら、やれ」
「しぇー」

 戦闘員達は一斉に飛びかかった。
 
「変態秘奥義」

 変態EVA仮面両手から荒縄がほとばしると、戦闘員全員が荒縄でがんじがらめになった。
 
「スパイダーネット・フラッシュ」

 変態EVA仮面の手から伝わったASFで戦闘員達は全員戦闘能力を失った。正確に言えば変態精神エネルギ-で洗脳がとけ、しかも悪い事をやる事が馬鹿馬鹿しくなってしまうのだ。同時に改造部分がASFで麻痺させられ気絶した。
 
「ふん」

 気合いと共に変態EVA仮面が手を振ると荒縄は消えた。なぜ荒縄が自由自在に現れ消えるかは、誰にも判らない。変態はロジックでは無いのだ。
 
「はっ」

 また荒縄が伸びると体育準備室にあったカーテンがたぐり寄せられ、乙女達の裸をかくした。その感触でトモヨの意識が微かに戻った。
 
「変態EVA仮面さま、頑張って」

 呟いた。

「ふぉー」

 まるで暴走した初号機のような咆吼が変態EVA仮面の口から上がった。ヒカリやトモヨでもわかるASFの輝きが彼を覆った。
 
「トモヨちゃんの応援でぇ~シンクロ率400%とおおおお」

 あまりの凄さに、逃げれば処刑と言う事も忘れ、ハサミジャガーは出口に向かう。
 
「逃がさん、フライング亀甲縛り」

 変態EVA仮面の手から荒縄が飛び出て、ハサミジャガーをがんじがらめにした。変態EVA仮面が荒縄をひくと、ハサミジャガーは方向を変えられ空中に跳ね飛ばされた。
 
「変態秘奥義」

 かけ声と共に変態EVA仮面はジャンプした。
 
「スーパーおいなりさんスパーク!!」

 ASFで輝く変態EVA仮面の局部を顔面に受けて、ハサミジャガーは戦闘能力を失い、ついでに悪の心も馬鹿らしくなって無くなった。轟音と共に床に落ちて、気絶した。
 
「成敗!!さらば」

 変態EVA仮面は軽やかに着地するとポーズを決め走り去った。
 
「みんな大丈夫か」

 入れ違いに、連絡で駆けつけた土門とトウジが体育館に駆け込んできた。土門はあたりを油断なく警戒し残敵に警戒している。トウジは一人意識を保っているヒカリに突進した。
 
「イインチョだいじょぶかぁ」

 トウジを見て、ぱっと顔色が明るくなり立ち上がったヒカリだが、すぐに真っ赤になった。ひゃがみこむ。
 
「えっちー」
「なんでやぁ」

 トウジはヒカリの投げた上履きをもろに顔面に受けてしまった。

ーーーーーーーーーー

「ミサトさん、力の均衡がずれ始めてます」

 シゲルの叫びとほぼ同時に、自爆シーケンスが解除された。

「状況確認」
「EUのMAGIのアタック濃度が落ちてます。EUのMAGIがアタックを受けて余力が落ちています」
「どこがアタックしてるの」

 ミサトはマコトの耳元で囁く。敵の敵は味方とは限らない。B級オペレーターが知らない方がいい事もある。
 
「これは、シゲル、データーを渡す、確認してくれ」
「了解……間違いは無い。OKだ」
「ミサトさん、EUのMAGIにアタックしているのはWWRのTB5です」
「冗談はよして。いくらWWRのTB5搭載AIが優秀でも、コンピューターの容量が違うわ」
「こんな時冗談は言いません」

 その時ネルフ内の通信がやっとつながった。
 
「ミサト聞いてる」
「リツコ、聞いているわ」
「EUのMAGIとやり合っているTB5のAI、完全な人格があるわ」

 少し前から発令所の状態はモニター出来ていたらしい。

「人格のおかげで容量違いのMAGIとも戦えるみたいよ」
「判ったわ。そっちからチルドレンの所在地と状態確認出来る?」
「やってみるわ」

ーーーーーーーーーー

 シンジ達の乗っているリニアを制御するシステムはまだ復旧していない。速度がどんどん上がって時速400kmを超えていた。
 
「この先、急カーブで上向き」

 今にも脱線しそうなリニアの中央で伏せているレイが呟いた。レイは業務上第三新東京市の構造は全て頭に入っている。レイの制服をかけた赤ん坊を抱きしめている母親は床で祈りの言葉を呟いている。

「脱線する」

 その急カーブにすぐに着いてしまった。時速450kmまで達していたリニアは宙に浮き上がり、横の壁を乗り越えた。どこにも当たらなかったので衝撃は無かったが、兵装ビルの隙間に向かって浮き上がり、そして落下した。母親は赤ん坊を抱きしめたまま、シートの方に転がっていく。レイとシンジは訓練のおかげか、母親の服とっさに掴んで、反対の手で手すりを掴んだ。だが後数秒の命だ。
 
ドン

 轟音と共にリニアの落下速度が落ちた。地面に衝突する瞬間は訪れなかった。リニアの天井からギシギシ音がしている。車体がゆがんだせいで窓ガラスが割れた。外を見たレイとシンジはごくゆっくりとした落下速度になっている事に気がついた。そして上の方からロケットの轟音が響いてきた。シンジに母親と赤ん坊を任せたレイはリニアの割れた窓から外を見た。
 
「お怪我はありませんか」

 マリエルの声がスピーカーから聞こえた。TB5から連絡を受けたTB1がかけつけていた。TB1から伸びた単分子ワイヤーの先に着いたマグネチックキャッチャーがリニアを吸着して、持ち上げていた。

「赤ん坊と母親がショック状態。私と碇君は無事」

 レイは思い切り叫んだ。
 
ーーーーーーーーーー

「明かりぐらい付けて貰いたいわね」
「まったく」

 リフトは今日も暗い。ミサトとリツコは後片付けで徹夜続きだ。

「で、デストロンの背後関係は判ったの、葛城課長さん」
「諜報部、作戦部総出で調査してるけど、襲撃の日までまったく影も無し」
「でもEU支部の上の方やMAGIオペレーター、改造人間にすり替わっていたんでしょ」
「そうなの。制圧に諜報部の急襲部隊が半分やられたわ」

 ミサトは肘を膝にのせて、顎を手のひらに載せた。

「悪夢から飛び出してきたみたいだわ。各支部でも洗い出ししている」
「ネルフに対するテロは何度もあったけど、デストロンと改造人間って何?これじゃ誰かの妄想よ」
「まったく。ところでうちのMAGI助けたのはWWRの宇宙ステーションのAIだったって本当」
「そうよ。今度開発者にあたってみる」

ーーーーーーーーーー

 事件の後片付けが終わって10日後、リツコはホテルのバーでカフェ・グロリアを啜っていた。コーヒーを使ったカクテルだ。ここはネルフが管理しているホテルなので安心して酒が飲める。客が他にいないのもその為だ。ネルフ関係者以外は上手く断られて、他のホテルにまわされる。
 リツコがカクテルをおかわりしたところで、バーの入り口に人影が現れた。リツコの待ち人らしく、リツコは手で合図をした。人影はリツコの隣に座った。
 
「ウオッカトニック」
「あなたウオッカトニック好きね」
「飲み慣れたカクテルが一番、早いし」

 その通りですぐにウオッカトニックが出てきた。
 
「じゃ、再開を祝して乾杯」
「乾杯」

 彼女は一気に飲み干すと今度はジンライムを注文した。

「私の知り合いはどうしてアルコール中毒が多いのかしら」
「お酒に強いだけよ、久しぶりねリツコ」
「久しぶりね、レイン。ミスカトニック研究所以来かしら」
「一緒に研究していた頃が懐かしいわね」
「そうね」

 リツコとレインは、アメリカの独立系の研究所に同時に在籍していた事がある。少し昔話に花が咲いた。

「ところで、あなたのところのTB5ずいぶん優秀ね」
「それは、どういたしまして」

 リツコが3杯目のカクテルを頼むと同時に切り出した。

「完全な人格データーはMAGIでも難しいわ」

 だからあんな方法を使っているとは言わない。

「そのうちばれるから言うけど、私が開発したわけでは無いわ。本人というか、女の子の人格データーだから、彼女曰く、他の世界線からデーターに成って行き着いたそうよ。着いた時点でネルフメンバーやうちのメンバーに好意を持っていたようよ。特にそちらの碇シンジ君と綾波レイちゃんとリツコ、あなたによ」
「あら、それは嬉しいわ」
「どこまで本当だか判らないど、ともかく少女のAIだから立派なレディーに育てるつもり」
「木之本サクラと似てるわね」
「あら、そこまでばれてるの」
「魔法使いは半信半疑だけどね。うちとしては敵対行為がなければ、味方なら化け猫だってOKなの」
「お互い、仲良くやっていきたいわね。まあ今日の話はソノミにも伝えておくわ」
「こちらも司令に伝えとく」
「そっじゃ、ごちそうさま」

 意見交換が終わるとレインはバーを出て行った。
 
「節度ある、友好関係ね。カフェ・サンフランシスコを頼むわ」

 今日は飲みたい気分のようだ。
 

つづく


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