夕立の後。暗くなり始めた空は雲に覆われてその雲の隙間からは晴れ間と夕陽が差し込む。辺りにはぬるりとした水気の含んだ重い湿気と雨の香りが漂っている。
第3新東京市にある市営住宅の一部屋にエヴァンゲリオン零号機パイロット・綾波レイは居を構えていた。
この日彼女はNERVにて赤木博士からサプリメントの錠剤と機能性ゼリー飲料を受け取り帰宅したのだった。
美しい人形のような容姿に無機質な佇まいではあるが、白いうなじに流れた一筋の汗がかろうじて彼女が人間であると証明した。
汗を流そうと制服のリボンを解きシャツのボタンを途中まで外した所で誰かがこの部屋のドアをノックした。
(誰?)
淡々と扉のほうに行き彼女はドアを開けた。
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「やっほー。こんちわ〜。」
「弐号機予備パイロットの人」
「その呼び方呼びにくくない?」
「…メガネの人?」
「うーん。まぁそれで勘弁してあげようかな!零号機パイロットさん?」
真希波・マリ・イラストリアス。NERVユーロ支部から日本支部へ弐号機予備パイロットとして彼女はやってきた。
物怖じしない飄々とした態度と赤縁のメガネが印象的な女性である。
「……。」
解けたリボンとはだけた胸元から白雪のように色素の薄い肌とそこに通る青い血管がうっすらと見て取れた。
「何か用?」
疑問に満ちた深紅の眼が上目遣いにマリを見た。
対してマリの視線は彼女の胸元を捉えていた。
ゾクりとした感覚が走るのを感じてマリはレイにこう言った。
「今日はちょっと君と親睦を深めようと思ってにゃ〜♪」
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打放しのコンクリートの壁と最低限の家具。薄暗く机すらもないこの無機質な空間が彼女の心の中を表しているかのように思えた。
レイは来客をもてなす為に紅茶の用意をしていた。
その姿を椅子に腰掛けたマリが見つめていた。
「はい。」
「ありがとー!」
「…」
「あれ?レイの分は?」
「私はいい。」
「ふーん…。」
部屋には紅茶を啜る音だけが響いていた。
碇シンジと式波アスカラングレーの出会いは彼女の心境に大きな変化を与えていた。彼等の温もりが彼女に通うことによって人間的なモノが彼女の中に芽生え始めていた。
その為か彼女は彼女なりにこの無言の雰囲気に気まずさを感じていた。
「それ…。」
「うん?」
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レイはマリの荷物に目をやった。バッグの口の間から何か棒状のものが飛び出している。
「あーこれ〜?これはね〜♪」
マリは鼻唄を唄いながらソレを取り出してみせた。
「これをね〜、ここをこうしてこうやってっと…」
どうやらソレはスマートフォン用の三脚であった。
アタッチメントにスマートフォンを取り付け何やら画角の調整を行なっている。
「こんなもんかな〜?ちょっと薄暗い気もするけど、まぁ、それくらいの方が雰囲気あるか。」
レイは彼女のやっている事をキョトンとした表情で見ていた。
なぜ何故三脚を持ち込んだのか。雰囲気があるとはどう言う事なのか。
「レイ〜?ちょっとそこのベッドに座って見てくれない?」
そう言われ彼女は素直に従った。
「おっけー!よーし!じゃあ……。」
「本番と行こうか、 ニャ?」
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