日曜日と水曜日に私は化け物と修行する。
普段は母さんの先生だった唐巣神父っていうおじさんが私の先生なのだが、日曜日と水曜日には六道の家に行って修行することになっている。
メンバーはこの家の子で式神使いの六道冥子。
化け物の妹でなんとなく私とはソリの合わない横島エミ。
そして母親譲りの亜麻色の髪をなびかせる私、美神令子。
そして化け物こと横島忠夫さんだ。
はっきり言って横島さんの力は異常だ。
私と3つしか歳が離れていないというのに既にAランクのG・Sとして認定されている。
G・Sとなってまだ1年。
しかも週に数件の依頼しか受けていない、現役の高校生なのにだ。
おそらく、来年のうちにでもSランクの認定を受けるだろう。
私が見てもそれくらいの、いや、他のG・Sとは明らかに格が違うのが判る。
ママでさえ、まともにやり合ったら勝てないといっていたのだ。
「先生。今日はどうするんですか?」
「苗字で呼んでくれれば良いよ。令子ちゃん」
相変わらず先生と呼ばれるのは抵抗があるようだ。
まぁ、他の2人は兄と呼んでるのだから一人だけ先生と呼ぶのもおかしいかもしれない。
「とりあえず前回の復習だ。それぞれ練習を始めて」
これで意外に教えるのが上手い。
はっきり言って性格が甘ったれている冥子は昔はすぐに式神を暴走させていたそうだが最近は、少なくとも私がここに来るようになってからはまだ2回。
どちらもすぐに横島さんが抑えてくれたが、それでも瞬間的な被害は大きい。
……悪い子じゃないんだけどね。
・
・
・ 「いいかい。まずは12神将を水で作って、それぞれバラバラに動かすんだ。12神将たちの動きは誰より知っているだろう?」
「でも~むずかしんですもの~」
「いや、動き自体は流石に普段から一緒にいるだけあって俺なんかよりずっと上手だ」
「嬉しい~」
「ほとんど無意識に動かしているだけでも十分にイメージが伝わってるみたいだ。そうだな、……そのまま水でできた12神将だけを連れて30分お散歩してきてくれるかな?」
「は~い~」
そういって水でできた12神将を伴って庭の中を散歩に行った。
その動きはとてもスムーズで、今の私では水を固めるまではできてもあそこまでスムーズに動かせないし、あれだけの数を維持することもできないだろう。
1年以上横島さんに教わってるだけはあるということか。
・
・
・
横島エミは呪術の専門家だ。
理由はわからないが六道の家にホームステイをしている。
まぁ、かくいう私もそうなのだが。
私の場合はママも父さんも世界中を飛び回っているので仕方なくなのだが。
エミも両親はナルニアにいるが横島さんは近くにで暮らしているというのに。
横島さんも頻繁に六道家に足を運ぶようになったと聞いているし、何より2人を見ていれば兄妹仲は悪くないようなのだが。
まぁ、深く詮索はしないが。
「正直俺は呪術は門外漢だからエミの方が詳しいだろう?」
「でも、私の呪術を防いでたのは忠にぃなワケ」
「俺のは力技だよ。俺の方がエミより霊格が高いからね」
「それはそうかもしれないけど」
「まずは、エミ。方向性を決めよう」
「方向性?」
「将来どんなG・Sを目指すかということだ。エミは呪術の下地ができているし、才能もある。だからそれを活かさない手はないけど。例えば呪術では誰にも負けない完全な呪術のエキスパートになるのも一つの選択しだし、一人である程度何でもできるように呪術以外もある程度学ぶというのも手だ。霊体貫通波はともかく、霊体撃滅波は一人で撃つにはタメが長すぎるだろう?」
「そうね。確かに呪術の聞かない相手や使えない場合には私の戦力は激減するワケ」
「基本は抑えているからある程度はどうにかなっているけど、決め手にかけるだろう?まぁ、重大な決断だから今答えを出さなくてもいいけど心の隅には止めておいた方がいい。とりあえず今日のところは令子ちゃんと同じ訓練をしようか」
「わかったワケ」
私の番だ。
・
・
・
「それじゃ、令子ちゃんもエミもチャクラを開こうか」
「いつも思うんですけど、これってやる意味あるんですか?」
「う~ん。確かに古臭くて面倒な上、チャクラが開かなけりゃ意味もないからはっきり言って今のG・Sでこれをやってる奴はあんまいないんだけど。チャクラさえ開けば霊格が上がるからね。やっておくべきだと思う」
「もっとこんな面倒くさい奴じゃなくてもっと一気にバ~ンと強くなる方法とかないの?」
横島さんならもっと急速に強くなる方法を知ってるんじゃないかしら。
「……まず最初に言っておくべきだったな。令子ちゃん。君には俺や冥子ちゃん。エミのような才能はない」
な……こいつ!
「落ち着いて。話は最後まで聞くんだ!俺は霊力の収束に、冥子ちゃんは式神の扱いにエミは呪術に才能が特化しているが令子ちゃんにはそれがないんだ。だから霊力を収束させても俺ほどにはならないし、式神を使っても冥子ちゃんほど上達するのは難しい。呪術を学んだところでエミに追いつくのは用意じゃないだろう」
……確かにそうかもしれない。
でも私はママの娘よ。
「……話は変わるが。地上で1番強い動物が何かわかるかい?」
「……ライオンじゃないの?」
「いいや。地上で1番強い動物は人間だ。地球上で最も多くの場所に生息しているのは人間だよ。その理由がわかるかい?」
「……道具を使うから」
「50点ってとこだね。……人間は弱い。肉食獣のような鋭い牙も爪もない。猛禽類のように空を飛んで鋭い嘴をつきたてることもできない。足だってどんなに速くても時速36kmそれもそう長くはもたないし、他の動物に比べて視力も、聴覚も、嗅覚も動物のそれには遠く及ばない。2足歩行は4足歩行に比べて安定感がないし、膂力ではゴリラにかなわない。人間は生物としてこんなにも弱いんだ」
何が言いたいのよ。
「だけど人間は最強だ。令子ちゃんが言うように道具を用いる。2足歩行は高山でも、砂漠でも、ジャングルの中でも歩けるし、泳ぐこともできる。自分にできないことは道具を生み出して補い、力が足りなければ技を生み出した。動物はそれぞれの環境に特化して進化した生き物だが人間は様々な状況に応じて適応できる生物だった。だから最強なんだ」
「何が言いたいのよ」
「令子ちゃんもそうだって言うことだよ。令子ちゃんは何かに特化していない分、苦手なものがとても少ない。どんな状況にも対処できるオールラウンダー。それが令子ちゃんの才能だ」
……話が回りくどいのよ。
「無論ただの器用貧乏に終わってしまうかもしれない。逆に万能の天才になるかもしれない。一流のG・Sになる為には令子ちゃんは戦術、戦略、道具の扱い、体術、様々なオカルトの知識を身につける必要がある。でも、令子ちゃんなら大丈夫。令子ちゃんはそういうことのできる超一流のG・Sをずっと見てきたんだろう?」
それは……ママのことだ。
「つまり、私が目指す方向性はママっていうこと?」
「美智恵さんのスタイルは令子ちゃんみたいなタイプの一つの完成形であるのは間違いないね。でも、そっくりそのまま美智恵さんみたいになるんじゃなくて、令子ちゃんは令子ちゃんのスタイルを自分で作っていくべきだと思う。美智恵さんの様になるんじゃなくて、令子ちゃんの様になるんだ」
「……わかったわ。一応考えておく。自分がどういうG・Sになるかっていうことを」
「ありがとう。それでチャクラの話に戻ろうか。エミも令子ちゃんも必殺というべき武器は持たない。でも、地力が上がれば基本的な技が十分に武器になる。……そうだな」
横島さんが霊力を放出した。
……すごい霊圧。
「これが霊力をただ垂れ流している状態」
これで!?
「第1のチャクラ。ムラダーラを開放してチャクラを廻すとこうなる」
グッ!
私とエミの体が押し戻されそうになった。
霊圧の力が全然違う。
「一つチャクラが開くだけでこれだけ違うんだ。霊力は高い方が何かと便利だろう?」
「忠にぃ。忠にぃはいくつのチャクラを開けているワケ?」
「俺か?俺は最近アジャニュー(眉間)がやっと開けるようになったからあと一つだな」
……知っていたけど格が違うわ。全力を出したらどれだけの霊圧してるのよ。
結局、私はおとなしくチャクラを開く修練を始めた。
あれだけ格の違いを見せられたらしょうがないじゃないの。
「た~だ~い~ま~」
冥子が帰ってきた。水の12神将は4体にまで数を減らしている。
「お帰り。……4体か……冥子ちゃん。冥子ちゃんは4鬼までなら問題なく式神を扱えるみたいだ。4鬼の式神を使う練習を始めようか」
「はい~」
そこまで考えてのお散歩だったというわけか。……いいわ。当分の間は信用してあげるからしっかり私を強くしなさいよ。
・
・
・
1年と数ヵ月後、横島さんからチャクラの開放、体術、戦術、戦略、オカルト知識、道具の扱いにまで教えてもらった私は自分でもわかるくらいに強くなっていた。
私もエミも第2のチャクラ、スワディスターナまで開くようになっている。
私の方が早かったけどね。
そして六道女学園のクラス対抗マッチは私と冥子とエミの3人が圧倒的な強さで優勝した。