「小竜姫、ならびにヒャクメ。竜神王様の命により参上いたしました。」
「そう堅苦しい挨拶は良い。見ての通り今はわしらの他に誰もおらぬ。」
「はぁ。」
「あの~竜神王様~私はいったいなんで呼ばれたのね~?」
うむ。おぬしの役どころはいうなれば小竜姫のつけあわせじゃな。
「ふむ。その前に小竜姫よ。お主、人間についてどう思っておる?」
「護るべきものだと思っておりますが。」
悪くはない。神族としてはな。しかしそれはあくまで見下した見方に過ぎん。
「わしが昔、人間の乗馬であったことは知っておろう?」
「はい。玄奘三蔵法師の足となりてハヌマン様と法師を妖魔の手より守りて経典を天竺より持ち帰られましたことですね。」
「その通りじゃ。まぁ、わしも猿もかつては人間の弟子に過ぎなかったと言うことじゃな。これがどういう意味かわかるか?」
「・・・あいにく。」
「神族と人間の間柄も時には逆転することも、或いはパートナーとして対等の関係を築くこともできると言うことじゃ。例えばわが師は坊主の癖に酒は呑む、女は抱くと言う破戒坊主じゃったが妙になれなれしいと言うか人も妖魔も区別せんような奴でのう。」
「はぁ。」
「と、まぁこの話は長くなるからとりあえずやめるとして、実はわしの妻が自らの技を誰かに伝授したいと申しての、まぁ、技と言っても家事炊事といった技じゃが。おぬしらはまだ神族として歳若くまだ未婚ゆえそういったことを覚えておいても損はないじゃろう。のう?」
「いや、あの、大叔父様。私には妙神山の管理人としての役割が。」
「私にも文官としての仕事があるのね~。」
「妙神山については猿のやつに既に頼んである。文官の仕事の方も正式にわし預かりに昇進させたからわしの腹一つじゃ。」
「昇進は嬉しいけどこういうのは嫌なのね~。」
2人は釈然としないまでも仕方なく妻の下に行く。
その間に妙神山のバリヤーを断末魔砲に耐えられるように強化しとかんとのう。猿にも小竜姫の修行を少しきつめにしてもらって、小竜姫とヒャクメの下界での権限を少し強くして。・・・
やれやれ。横島ほどではないにしろやらねばならぬことが多いのう。
しかしなぁ。オーディンよ。
うちには小竜姫だけではなくヒャクメというオプションもついてくるのじゃ。
この勝負もらった。もらったぞオーディン!
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「閣下。ワルキューレ大尉。ご下命により参上いたしました。」
「ワルキューレよ。ここはわしのプライベートルームだ。意味はわかるな?」
「わかりましたお父様。それで用件はなんでしょう?」
「お前、人間と言う生き物についてどう思う。」
「はぁ、正直虫唾がはしるとしか。」
むぅ、これはまずい。
「人間と言うものはそう馬鹿にしたものではないぞ?我らがまだ神族であったころ、私は魔法を良く使うとはいえフレイドマールという人間に捕らえられてしまったことがあるし、お前の弟のジークフリードも元人間だ。それにお前が戦場を駆け巡り見つけ出してきたベルセルク達も人間であったろう?」
「確かにそうかもしれませんが彼らは人間である前に戦士でした。しかし、今の世の中のいったいどこに戦士がいるのですか?」
これならまだ救いはあるか。
「ふむ。まぁその話はいい。ワルキューレ。お前に近いうちに極秘任務を受けてもらうことになる。」
「ハッ!」
「その為の訓練を明日から行うから明朝0800にここへ出頭するように。」
「イエス!サー!」
さて、ワルキューレに人間界の作法や家事を覚えてもらう間にアシュタロスに気取られぬように軍の装備品の強化をせぬとな。それになにか超加速への対抗手段を考えておかねば。
それはそれとして竜神王よ。ワルキューレはこれまで幾多のミッションを完璧にこなしてきたのだ。負けはせぬ!負けはせぬぞ竜神王!
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「なんやしらんけど竜神王やオーディンが動き出したようやのう?」
「そうですね。まぁ、あのお程度の動きなら規制するほどではないでしょう。むしろサッちゃん貴方のほうが問題なのでは?」
「なんやキーやん。わしが何かしたっちゅうのか?」
「聞いてますよ?リリムやサキュバスに家事やなんやを覚えさせているようじゃないですか。」
「それは・・・あれや。あいつらが男を落としやすうするためにやなぁ。」
「そんな言い訳が通るとでも?」
「くっ・・・そういうキーやんかて何人かの天使に花嫁修業させとるっちゅう話やんか!」
「・・・私はあの時『他の神魔は彼に気がついた頃から順次参戦していくでしょう。』と言ったはずですよ?」
「汚!最初からしっとった癖に気がついた頃からでとおすんかい。」
「・・・まぁそれはいいでしょう。」
「・・・せやな。」
「それで、アシュタロスの方はどうです?」
「いまんところ大きな変化はないで。遅延工作が功をそうして、っちゅうても気がつい取ることを気がつかれんようにせなあかんからな。伸ばせても数年っちゅうとこや。」
「私達にとっては瞬く間のような時間ですが、それでも横島にとっては貴重な時間でしょう。引き続きよろしくお願いします。」
「わかっとる。それより計算のほうはどないや?いつまでもあんなもん横島ん中いれとくんは酷過ぎるで。」
「二万八千百六十四回検算しましたがあれを私達2人で受け止めることは不可能と言う結果が出ました。」
「そないか。・・・なぁキーやん。神魔の最高指導者っちゅうてもなんとも無力なもんやのう?」
「そんなこと、彼が戻ってきたときからわかっていたことでしょう?」
「わかっとる。わかっとるけど悔しいやないか。わしら2人雁首そろえて人間一人救ってやれへんのやぞ?」
「私達では傷口を広げるだけですからね。いま、横島を癒してあげられるのはかつての仲間だけです。」
「わしらにできるのは、これ以上横島が外的要因で傷つくんを防いだることだけか。・・・悔しいのう。」
「できることをやりましょう。」
「せやな。」