幼いときから体を動かすことが好きだった。
その思いは歳をへるごとに強くなる。
いや、むしろそれは焦りにも似た感情となる。
幼いときはひどく感激屋だった。
ちょっとした事が泣くほど嬉しかったりして、よく泣いていた。
それは時間とともになりを潜めていき、ちょっとした事で自己嫌悪に陥るようになっていた。
なぜ自分はそうなのだろうと疑問に思わなかったわけではない。
でも、その疑問は10歳に近づく頃にはだんだんと解けていった。
俺は。横島忠夫は全てを思い出した。
将来ゴースト・スイーパーになるといったときは両親に反対された。
確かに血筋的にゴースト・スイーパーの家系でもないので才能など望めないし、よしんばなれたとしても大成はしないだろうと考えるのは当たり前だ。しかし、それ以上に二人とも俺の身を心配してくれたのだろう。それでも真剣に話し合った結果、条件付で認めてもらった。条件は大学まできちんと卒業すること。義務教育が終了するまでは積極的にオカルト関係のものに近づかないことなどだ。義務教育の間も自己鍛錬のほうは認めてもらったのでその条件は飲むことにした。幸い前の人生でアシュタロスの反乱のあとしばらく妙神山で修行したこともあって基礎鍛錬なんかの方法は知っていたので問題はない。
小学校の時はその後も銀ちゃんや夏子(時間をずらしたというのに銀ちゃんと夏子だけはクラスメイトとして存在した。神魔の差し金だろうか?)と馬鹿をやったり普通の小学生をやる傍ら、体を鍛えることに従事した。多分、お袋達から少しでも横島忠夫という子供を奪いたくなかったんだろう。俺は横島忠夫だが、お袋達の知っている横島忠夫ではないのだから。欺瞞に満ちていても、お袋達の子供でありたかった。
そして小学生のときに一度転校して銀ちゃん達と2度目の別れをしたころ、オーディンからもらった卵が孵った。名前は彼女(雌だった)の両親、フギンとムニンに音を合わせてユリン。今では大切なパートナーとなってくれた。ユリンはいつもは俺の影の中に待機して、時折外にでては気ままに飛び回ったり俺の肩の上で羽を休めたりしている。意思の疎通はできるし、下手な妖怪よりも強く、多少なら大きさや数を変えたりもできる。俺の霊力が強くなればまだまだ強く育つこともできるというから頼もしい限りだ。
俺はというと、すでにアシュタロスの反乱のときよりは大分強くなっていると思う。詳しく計ったわけではなく自分での感触だが、霊圧も100マイトは超えている、つまり人間界ではトップクラスの霊力を持ち合わせていることになるとおもう。それ以上にあの時とは体のできや、戦うときの気構え、戦術、戦略が違うのだから。
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「さて、どうするかな」
今日、晴れて高校生となった。つまりお袋達との約束を一つ果たしてこれからは積極的にオカルトとの接触がとれることとなる。
そこで困った。
「師匠をどうするか・・・」
すでに俺の霊力は普通の霊能者をはるかに超えている。一流の霊能者がだいたい60マイト程だというのに自分はそれをゆうに超えている。ユリンという強力な使い魔もいるし、並みの師匠では役に立たないだろう。かといって超一流のゴーストスイーパーにコネがあるわけでもない。
両親も時間のずれはともかく歴史どうりナルニアに転勤。前回と違って最低限の生活費は仕送りされているため多少の無茶はできるが適当な人材が思い当たらない。
「唐巣神父は能力も人格も信頼できるしお人好しだからいきなり行っても弟子にしてくれそうだが系統が違いすぎるし、あの人はキリスト教系だしな」
今でも、神魔は好きになれない・・・
肩に止まってひとり言の話し相手をしてくれていたユリンが頬に頭を摺り寄せるのを撫でてやる。慰めてくれているのだ。
「紹介状がないから妙神山に行くわけにはいかない。・・・手詰まりか」
あまり今のうちから派手に行動したくはないしな。そのために普段は霊力を5マイト程に抑えているのに。
力を求めるだけなら師匠などにつかなくても良いが、師匠でもいなければゴーストスイーパー試験は受けられないし、ゴーストスイーパーでもなければアシュタロス事件のときにおおっぴらに動けないだろう。それに一般人のままではどうしてもオカルト知識を深いところまで得るのは難しいし。
オカルトGメンという手段もあるがそれは後3年待たねばならないし、組織に入ることは好ましくない。
不意に大きな霊力を感じた。
人間にしては大きな霊力・・・この感じは冥子ちゃんか。
霊力の感じる方に走り出す。
はたしてそこに冥子ちゃんはいた。周囲で12神将たちが破壊活動を行っている。・・・暴走させたのか。
文殊に【鎮】の文字を作ると12神将の攻撃をかいくぐり彼女に押し当てた。すぐに彼女と12神将はおとなしくなった。
「どうしたんだい?」
冥子ちゃんが相手だと自然とくちようが優しくなる。
「いきなり~、怖いお兄ちゃんたちに囲まれて~、私~私~~」
カツアゲかなにかか?見回してもそれらしい姿がないことを見るとすでに逃げた後なのだろう。
騒ぎを聞きつけて人が集まる前に消えた方が良いだろう。
「もう怖いお兄ちゃんたちはいないみたいだ。送っていくからもう帰ろう」
優しく微笑んでやると冥子ちゃんは嬉しそうにうなづいた。
冥子ちゃんが手を出してきたので握ってやる。・・・冥子ちゃんももう12歳くらいのはずだが子供っぽいな。まぁ、昔の彼女は二十歳過ぎてても子供っぽかったのだが。
冥子ちゃんに見えないように文殊で道を復元すると六道家に向かって歩き始める。
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「お兄ちゃんありがとう~」
六道家の前まで送って行ってやると冥子ちゃんは笑顔でお礼を言ってきた。
「私~六道冥子っていうの~お兄ちゃんは~?」
「俺は横島忠夫っていうんだ。それじゃあ冥子ちゃん今度は気をつけてね」
そういって去ろうとする俺の手を冥子ちゃんはしっかり握って放してはくれなかった。
「もういっちゃうの~?ちゃんと御礼もしてないし~、お母様にも人に良くして貰ったらちゃんとお礼しなさいって言われてるの~」
「お礼はもう言ってもらったし、たいしたことをしたわけじゃないから」
「でも~。でも~」
冥子ちゃんは捨てられた子犬のような瞳でこちらを見ている。もう完全にウルウルきて今にも暴走しそうだ。
結局冥子ちゃんに押される形で六道家の屋敷に案内されることになってしまった。