「はじめまして~。おばさんが冥子の母の六道冥華です~~」
この子が報告にあった子ね~。六道家の誇る12神将の間をかいくぐって冥子のパニックを鎮めて~、道路を修復した~。まだ中学生か高校生くらいにしか見えないのに~。
「横島忠夫です。はじめまして」
確かに~普通の高校生ではない感じね~。でも強い霊力は感じないわね~。
……危険な子かしら~。
「ごめんなさいね~。冥子ったらもう中学生になるって言うのに子供っぽくて~」
「お母様ひど~い~~」
まったく。この子ったらすぐに式神を暴走させるんだから~。
「横島君はとてもしっかりしてておばさんうらやましいわ~。何歳なのかしら~?」
「15歳、今年16歳になります」
思った通り若いのね~。
……配置の方はもう済んだようね~。
「そうだ~。冥子、ちょっとユミさんを呼んできてちょうだいな~」
「わかりましたお母様~」
あまりあのこにはまだ聞かせたくない類の話になるかもしれないものね~。
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「それで、お話は何ですか?」
横島君の雰囲気が急に険しくなったわ~。
「なんのことかしら~」
「冥子ちゃんを人払いして、彼女に聞かせたくない類の面白くもない世間話がしたいんでしょう?」
頭の切れる子ね~。でも少し若いかしら~。
「そうね~。単刀直入に聞くけど貴方はゴーストスイーパーなのかしら~?」
「違いますよ」
「でも~、うちの子たちの暴走をかいくぐったり~、道路の修復なんかを普通の人はできないわよね~」
「見られてたのか?いや、式神達から報告されたのか。・・・確かに霊能力は持ち合わせていますが、ゴーストスイーパーではありません」
「あら~、でも一瞬で道路を修復するなんて並みの霊能力者じゃ無理よ~。いったいどなたから教わったのかしら~」
「特に師匠はいません。どうやったかについては今は秘密です」
「自己流でそこまでできるって言うの~?霊能力の隠蔽なんて普通現役のゴーストスイーパーでもできないのに~」
「強い霊力をさらけ出して霊的事件にかかわりたくはなかったんですよ」
六道家の当主である私のプレッシャーを受け流して対等にわたりあうっていうの横島君は~。
「・・・そんな話がしたいんじゃないでしょう?」
「あら~、どうして~?」
「この部屋を8人で囲んで、六道家の誇る12神将を冥子ちゃんから奪ってそんな話がしたいんじゃないでしょう」
まずいわ~、そこまでばれてるの~。
「……確かに六道家の権力や12神将の力をもってすれば何とかならないことなんて、まして高校生のガキ1人の口割らすことなんて簡単でしょうよ。でもね、世の中にはそうやって強い力で無理を押し通されるのが……死ぬほど嫌いなやつもいるってことを忘れないでください」
なんなのこの子の瞳は~。暗い、闇が深すぎて見えないわ~。こんなの高校生がする瞳じゃないわ~~!!
だめ、抑え切れない~。
殺気も何も感じないのに死んじゃう~。
私の意識が死ぬことを認めてるっていうのかしら~?
だめ~。
式神達が暴走する~!!
「お母様~。ユミさんどこにもいないわ~」
冥子が入ってきて場の空気が元に戻ったわ~。助かったのかしら~。
「お母様どうしたの~!顔が真っ青~!」
呼吸~、呼吸することも忘れていたのかしら~。おばさん息が苦しいわ~。
「・・・冥華さんの調子が悪いみたいだし俺はもう帰らせてもらうよ」
「もういっちゃうの~?」
「ごめんね。俺もそろそろ帰らないといけないし」
冥子と話してるときはとても優しい空気ね~。まるでさっきのが悪い夢見たい~。
「それじゃあお暇させてもらいます」
「ごめんなさいね~。たいしたおもてなしもできないで~」
「いいえ。……俺がさっき言ったこと、忘れないでください」
……あの子について少し調べる必要があるみたいね~。
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古ぼけたアパートの一部屋があの子が一人で暮らしてるお家なのね~。
あの後あの子について調べてみても~、あの子が言った以上のことはわからなかったわ~。隠してるんじゃなくて本当に何にもないの~。
そして私は一人であの子の部屋の前に立っているのね~。
・・・入れてくれるかしら~。
「ごめんください~~~」
ドアが開いて横島君が出てきたわ~。私の顔を見て驚いたようだけど~。こういう顔は普通の高校生ね~。
ううん、とってもかわいいわ~。
「六道さん」
「いきなり押しかけてごめんなさいね~。」
「それはかまわないですけど。……何もないとこですけど立ち話も何なんで中、どうぞ」
思ったより簡単にいれてくれたわ~。おばさん嬉しい~。
中は狭いながらも綺麗に片付いているみたいね~。
横島君は座布団を出してお茶を淹れてくれたわ~。
「この間はすいませんでした」
あら~。謝るつもりが先に謝られてしまったわ~。
「何で横島君が謝るのかしら~?」
「得体の知らない霊能力者が六道家の嫡子に近づいて、家にまで上がりこんだなら警戒されてもしかたないことでした。少なくとも、実際に脅迫される前からああいう行動にでるべきではなかった」
……この子~、いい子ね~。
「いいえ~。おばさんの方こそ謝りにきたのよ~。冥子を助けてくれたのに疑うようなまねしてごめんなさいね~」
「いいえ。・・・俺について調べがつきましたか?」
「そうね~。あなたが言ったとおりだったわ~。本当にごめんなさいね~」
私が深く頭を下げると横島君も土下座をするように頭を下げて~。
「今ね~。六道家は少し微妙な立場にあるのよ~」
言い訳がましい用だけど~、この子に聞いてもらいたいの~。
「横島君、陰陽寮って知ってる~?」
「平安時代に陰陽師を集めた役所のような場所ですね。都の霊的トラブルを解決するための。確か、明治天皇が崩御したときになくなったと思いますが」
「そうね~。六道家は元々陰陽寮の出で阿部晴明の流を汲む土御門家の流を汲んでるのよね~」
「日本のゴーストスイーパー協会は陰陽寮出身の陰陽師や高野山、比叡山等の密教系宗派、役行者の系統の修験道者、神道系の術者が結んで陰陽寮に代わる退魔組織として作られたのが元だと聞きました」
「そうね~。でも実際にはもっとドロドロした政争の歴史なのよね~。陰陽寮という公式の退魔機関が廃れた後~、表立たないところでは術者どうしの野試合、殺し合いが頻繁に起きたわ~。それに依頼されての呪殺を取り締まることもできなくなったし~」
「ゴーストスイーパー協会はそれを取り締まるために作られたと?」
「少なくとも~、前身の日本退魔協会はそうね~。無駄に互いの戦力を減らさないように牽制させるためのものだと聞いてるわ~」
「……」
「今でも~、そのときの名残で派閥というものが残ってるわ~。今では表立って争うようなことはないけど~」
「裏で、権謀術数は渦巻いてるんですね。……つまり俺はどこかの派閥の手のものと間違えられていたと?」
「本当にごめんなさいね~」
「……冥子ちゃんを守りたかったんでしょう?」
「えぇそうね~。あの子は本当に頼りないから~」
「……そういう理由なら、俺は怒れませんから」
この子ったら~、本当になんて瞳をするのかしら~。
この瞳はとても深くて~、
とても優しい瞳なの~。
やっぱりこの子に頼むしかないわ~。
「今日はあなたに謝りに来たのと~、お願いがあってきたの~」
「お願い、ですか?」
「そうなのよ~。あなたが将来ゴーストスイーパーになったらおばさんとこの派閥に入ってくれないかしら~?」
「……正気ですか?」
「悪い話じゃないと思うんだけど~。おばさんとこは最大規模の派閥だし~、それにどこかの派閥に入らないとゴーストスイーパーの仕事があまり流れてこなくなるわ~。みんなどこかしらかの派閥に入ってるもの~」
「俺はまだゴーストスイーパーにもなっていないですし、……俺が劇薬みたいなものだって、この間わかったでしょうに」
「劇薬も~、使い方さえ間違えなければお薬になるわ~。ううん、今の六道家に必要なのは劇薬のように強い薬なのよ~」
将来~、冥子を守ってくれる強い薬を多くそろえないとね~。冥子を守るためにも~。
「三つほど条件を出させてもらってもいいですか?そんなに迷惑をかけるようなことじゃないんで」
「言って~、御覧なさ~い~~」
「一つは俺のことをあんまり詮索しないで下さい。答えたくないことがいくつかありますんで。誓っておきますが、俺は六道の家にも冥子ちゃんにも仇なすつもりはありませんから」
「いいわよ~。聞くことはあるかもしれないけど~。無理に聞いたりはしないから~」
「二つ目はゴーストスイーパー試験を受けるときに後見人になってくれる人を紹介してくれないでしょうか?この間言ったとおり、俺には師匠がいないんで今のまんまじゃ試験受けられないんです」
「だったらそのときが来たらおばさんがなってあげるわ~」
「ありがとうございます。最後に、六道家の所蔵するオカルト本を貸してもらえませんか?門外不出の品や見せられないようなものはいいですから。師匠がいないもんだからオカルト知識についてはこれから勉強しなおさなくちゃいけないんです」
「それもかまわないわ~。六道女学園にある本や書斎にある本ならいつでも貸してあげるわよ~。でもそんなことでいいの~?」
「六道の派閥に入ることじたいたいしたことじゃないですし」
「わかったわ~。おばさんの方から聞いてもいいかしら~?横島君は霊能力者としては何ができるの~?」
「それは話しておいた方がいいですね。俺の能力は霊力の収束がメインというか、今のところそれくらいしかできないです」
「やって見せてくれるかしら~。」
私が頼むと横島君は霊力を解放したんだけど~。……予想以上に強いわ~。
100マイト以上でてるんじゃないかしら~。
「す、すごいのね~」
「これがサイキック・ソーサー。霊力を一点に集中して作り出した盾です。それ以外の部分の霊的防御が極端に甘くなるのが難点ですが」
横島君が出した霊気の盾は~、とても濃密な霊気の塊になってこれなら下級の神魔の攻撃なら問題なく跳ね返せそう~。
「これが栄光の手。霊波刀の一種です」
次に見せてくれた霊波刀は手の形をしたものと剣の形をしたものの2つの形態をとる霊波刀だったわ~。こちらもすごい収束力で極めて強力な霊波刀だとわかる。すごいわ~。でも本当にすごかったのは最後に出した小さな玉だったわ~。
「これが文珠」
「文珠って~、あの文珠のことかしら~」
この子って何者なのかしら~。文珠といったら一部の神族の神器の一種じゃないの~。
「知ってるなら話は早いですね。俺の霊力を集めて作ったものです。この間道路の修復をしたのもこいつです」
「横島君すごいのね~。もう日本TOPクラスの術者じゃないの~。しかも文珠なんてすごいもの作れるなんて~」
「霊力の収束系が極端に相性が良かったみたいです」
それですむ問題じゃないでしょう~。
「それと、これは俺の能力じゃなくてある方から譲り受けたものなんですが。……ユリン」
横島君が呼ぶと~。彼の陰の中から一羽の鴉が飛び出してきたわ~。この鴉も単独だったらうちの式神たちと同じくらいの能力がありそうね~。
「使い魔のユリンです」
「横島く~ん。あなたって何者~?」
「ただの高校生です。普通の高校生じゃないかもしれませんけど」
結局教えてくれなかったけど~。……いいわ~。私は横島君を信用することに決めたんだから~。
横島君は~、劇薬どころか特効薬になってくれそうだし~。
こんな子六道家に欲しいわ~。
でも無理強いしたら今度こそ嫌われちゃいそうだし~。
まだ冥子は中学生だから~、3年後が勝負ね~。
逃がさないわよ~。