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No.5163の一覧
[0] 日常の続き(GS美神後日談)[材木](2008/12/12 08:12)
[1] 続・日常の続き 第1話 (GS美神後日談)[材木](2008/12/11 21:53)
[2] 続・日常の続き 第2話 (GS美神後日談)[材木](2012/01/27 00:43)
[3] 続・日常の続き 第3話 (GS美神後日談)[材木](2012/02/01 00:34)
[4] 続・日常の続き 最終話 前篇 (GS美神後日談)[材木](2012/02/01 00:35)
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[5163] 続・日常の続き 第1話 (GS美神後日談)
Name: 材木◆040defa1 ID:593f3ebe 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/11 21:53

 ドクター・カオスの手引きによって乗船した貨物船の底の底。臭気と国籍不明な人々に囲まれ、すぐさま襲ってきた
船酔いに殺されそうになりながらの船旅。それは数週間後にようやくの終わりをみせた。
 ああ畜生、やっぱり金をためてから飛行機を使えばよかった愚痴をこぼしつつ、横島は転がり出て、すぐに事前の
計画どおりに動き始める。
 カオスの頼りない地図を片手に歩き、列車に乗り、日本語と英語と中国語のちゃんぽんな会話で道を尋ね、時には
無駄金を使って通訳を雇いながら目的地へと向かう。
 大陸に着いてから旅はわりあい順調であった。少なくとも船旅よりはだが。そして、特に障害もなくたどり着く。が、

 カオスのかつての知り合いであるところの霊魂の専門家は、すでに他界していた。それも十年も前に。

「うっそーぉ……」

 あれだけ、あれだけ格好つけて旅立ったというのに、初手から躓いてしまった。あまりにも惨めすぎる。なんとなく
自分らしいと思えてしまうのがより情けない。
 だがまあ、死人に死んだっぽい人を生き返らせてくださいと頼むわけにもいかない。かなりの労力をもって頭を
切り替えて、横島は今晩の宿を探すべく街へと戻った。






 夕方。ホテルのチェックインを済ませてから、空いた腹を満たすべく、ホテルより路地を二つ跨いだ区画にある
屋台群へと足を延ばす。
 わずかな隙間も勿体ないと、小規模の屋台がぎゅうぎゅうに詰まっている。赤や緑の原色で彩られた作りは、
鮮やか、というよりも日本人的な感覚からはやや毒々しく感じられる。いや、色はまだいい。横島が辟易したのは。
発酵させた豆腐、臭豆腐の匂いだった。イカだの羊だの、または昆虫のさなぎやバッタの串焼きの香りまで、
全てかき消してしまっている。
 鼻をつまみながら、少しでも臭豆腐に臭いから遠ざかろうと、横島は店を探す。そして腰を落ち着けた場所を
ふと見回してみれば、観光客ばかりであった。やはり、考えることは似かよるらしい。

 煎餅と適当な焼き串を三本注文して、届いたそれらを頬張りながら今後のことへ思考を飛ばす。
 ケセラセラ、なるようになる、との考えで飛び出したが、いきなり現実にぶち当たってしまった。実のところ、他に
当ても特にない。己の考えの浅さに、いまさらながら戦慄してしまった。なにしろ、旅費もすでに尽きかけている
のである。どうしよう。

 泣きたい心地でもぐもぐと焼き串を咀嚼していると、ふと視線を引かれて、首をまわす。ちょっとお目にかかれない
美女が通りを歩いていた。
 ややざんばらな長髪は腰まで伸びている。遊びの多いズボンが腰の細さを際立たせている。豊満な胸元は扇情的に
大きく開けていた。なにより特徴的な、筆を走らせたような細い目と眉は、絶妙な角度で……いや、待て。ちょっと待て。
 知った顔だった。その両目から覗く縦長の瞳孔は、見間違えようがない。なんでお前が生きてるんだとか、なぜ
人間だらけのこの街にいるのだとか、疑問が次々と脳裏に弾けていく。だが、今はそんなことを詮索する余裕などない。
ぐっと息を詰めて、横島は覚悟を決めた。

(よし。逃げよう)

 即断だった。迷いもない。
 なにしろ相手は、あの小竜姫様を相手に五分に戦えるような女である。不意打ちするにしても、たった一人でそんな
冒険をする度胸は、とても横島にはない。
 背を向け、小さくなりながら文珠を一つ現す。刻む文字は『透』。周囲の視線が自分に向いてないことをこそこそと
確認してから、文珠の力を発動させる。瞬きほどの一瞬の後、すっ、と音もなく横島の姿が空気に混じり、透けていく。
 完全に透明になった横島は、再びこそこそと席を立ち、音を立てたり人にぶつかったりしないよう細心の注意を
払いながら、去っていく。ちらちらと頭が見える女の姿を気にしながら歩き、路地を一つ越え、物陰に隠れながら
(透明になっているというのに)背後を窺う。彼女の背中は雑踏に紛れ、完全に消えてくれた。
 はあー、と横島は盛大な安堵の息を吐いて、文珠の力を解除し、

「ハイ」

 目の前で、明るく片手を上げる女に身を凍らせた。

「本当に久しぶり。また会えて嬉しく思うよ。ああ、ちなみにこれ皮肉じゃないから」

 にやにやと、舌舐めずりするような笑顔は、本当に以前のままだった。
 メドーサ。神界のブラックリストに名を連ねる堕した竜神。アシュタロス配下であった上級魔族。
 その彼女が、なぜか少女ではなく妙齢の女性の姿で、横島の前に立っていた。






 高級そうな食器が小さく鳴る。仰々しい門構えを潜り、案内された高級中華料理店。白色を基調とした内装や、
足音のしない絨毯などは、横島の思う中華料理店のイメージとは少々はずれていた。
 あらゆる意味で状況に慣れていない、また状況を掴めていない少年は、メドーサの真向かいに腰をかけて
だらだらと嫌な汗を掻いている。
 上品に春雨の酢の物を箸で啄んでいた女が、意地悪げに微笑む。

「どうした? 救世の立役者殿。ここの料理は人間が作ったにしちゃあ、割といけるよ。試してみるといい」

 まな板の鯉とはこのような心境かと、馬鹿なことを考える。胃が痛い。死にたくない。たまたま通りかかった
美神さんが助けてくれたりしないかなあと、輪をかけて馬鹿な事を考える。
 メドーサは箸を置き、手酌で高粱酒を注ぐと実に旨そうに飲みほした。

「いい女の前で緊張してるのかい? まあ安心おしよ。なにもいきなり取って食いやしないから」

 言外に、いつでも殺せると匂わせるその台詞に、奇妙なことだが横島は返って落ち着いた。目前の女はいまだ
自分を敵と見ている。その本来のお互いの立ち位置は、むしろ平静さを与えてくれた。

「ちょっとあんたと話がしてみたいと思ってね」
「乳もませてくれたら聞いてへぶし」

 言い終わる前に、予備動作なしの直突きが顔面を襲った。
 多少ずれたような気さえする鼻骨を擦りながら、即座の暴力的なつっこみに横島はなんとなく懐かしくなる。
 やや呆れた様子でメドーサが、

「あんたまさか、小竜姫にも同じようなこと言ってんの?」
「はは、まさかぁ。服脱ぐの手伝おうとしたりキスを強請ったりしたぐらいっすよ」

 絶句したメドーサに、隙を感じたわけでもないが、初見のときから抱いていた疑問をぶつけてみた。

「そういや何であんた、もとの歳にもどってるんだ?」
「たいした理由じゃないよ。燃費の問題さ」

 特に抵抗もなく彼女は答える。尋ねたことを、また尋ねた以上のことさえすらすらと。

「幼体のほうが霊力魔力のキャパは多い。月みたいな霊気で満ちた場所なら、あっちの姿のほうが都合が良かった
んだが……代わりに、霊力を馬鹿食いするんでね。地上じゃ、低消費のこっちのほうが具合がいいのさ」

 ガソリン車の馬力みたいだなと失礼な感想を抱きつつ、黙って聞く。

「あの時、あんたに殺されかけたあと、」
「……!?」

 ぶわっと顔中に汗を滴らせた横島を見て、多少の溜飲を下げたのか、メドーサが笑いつつ、

「気がついた時にはもう、大方の流れは決してたからね。戦後裁判に出頭するほど殊勝なわけもなし、アシュ様への
義理立ても何百年も仕えたことで済んだだろうし、そのまんま逃げだしたってわけ。ご納得?」

 女優のように両腕を広げる女へ、頷く。
 確かに。小竜姫と互する堕神を、たかだか人間の作った文珠ひとつで滅しきれるはずはない。改めて、背筋が
寒くなった。手持ちの文珠は四つ。すべて使い切っても、果たして逃げることさえ叶うかどうか。
 顔色をさまざまに変える横島を、実に満足そうに眺めた後、メドーサは一つの品物を取り出し、机上に置く。

「……? なんすかこれ?」
「教養がないね。香炉だよ」

 三つ足の上に、平べったく歪んだ球が乗っている。球には側面に二つずつ、開口した筒があった。横島は
知らなかったが、内部で香料を焚き、香気を発散させる道具とのことだ。
 優雅にその表面を指で撫でたあと、なんでもないようにメドーサは言う。

「魂天に帰して魄地に返さず。もって鬼となり殭屍となる。……まあ要するに、ゾンビ製造機さ。というわけでこれ、
しばらく預かってもらうよ」
「はい?」

 間抜けな言葉が脳を通らずに零れる。さっきから何もかもいきなりすぎて、横島の頭の処理能力では、とてもじゃ
ないが追いつかない。

「ちょっと今、厄介な連中に追われててね。一週間でいいから預かっとくように」
「いやあんた、あんたが厄介なんていうのは天界の討伐隊くらいじゃ……、ってゆーか、そんなのに襲われたら俺
死んじゃうじゃ……」
「あら、駄目?」

 両手を組み、その上に傾けた顎を乗せ、とても悲しそうにメドーサは眉尻を下げる。改めて見てみると、彼女は
本当に整った顔をしていた。人に換算すれば三十手前ほどの外見年齢だが、その青白い容姿には皺や染みなど
欠片すらない。
 若干小首をかしげたその姿は、可愛らしさよりも色気が勝る。そして、その哀しげな両眼を見て、横島は確信した。

 ああ、いま断ったら、討伐隊より先にこの女に殺されるわこれ。

「ううう、……分かりました」
「そうそう。坊やは素直なのが一番だよ」

 積年の恨みをわずかでも晴らせたのか、機嫌よくメドーサは立ち上がる。
 ほんの一矢でも報えないかと、未練がましく横島は声をかけた。

「あのー、」
「もう用は済んだよ」
「お仕事終了後の報酬とかないの?」
「厚かましい坊やだね」
「すんません。目の前に人参がぶら下がってないとやる気でないんです」
「あっそ。じゃあ終わったら、胸触らせてやるよ」
「――二言はないな?」
(そ、そんなんでいいんだ……)






 結構なやる気を取り戻した横島は、足取りも軽くホテルへ戻る。靴底の汚れを落としてから自動ドアを開き、中へ入り、
すぐさま異変に気づく。別に気づいたのは自分が霊能力者だからではない。この場を見れば、誰でも気がつくだろう。
 時刻は夜の八時。だというのに、ホテル内には誰もいなかった。ラウンジで煙草を吹かす地元の人も、明日の予定を
賑やかに話し合う観光客も、フロント内の従業員さえも、誰一人。
 先ほどまでの浮ついた気持ちが急速に冷めていく。ごくりと喉を鳴らし、警戒しながらホテルの外へじりじりと向かう。

 ――その刹那の反応は、まさしく、実戦と師に鍛えられた霊能力者のものだった。
 凄まじい速度の何かが、横島へ向かってくる。右手に顕現させた栄光の手を全力で突き出す。固い音と、硬い感触。
右手が弾かれる。ほんの少しだけ生まれかけていた自負が萎えそうになるのを無視して、左手に文珠を一つ現す。
数は四つ。無駄撃ちはできない。いまさらながら、文珠に頼りすぎだという美神の叱咤が脳裏で響いた。

 向かう先、視線の先に、男がいる。薄く光る、流線形の鎧を全身に纏ったそいつは――、

「はっはあ! なかなか骨がありそうじゃねえか! ……って、あれ? お前、何やってんの?」
「全力でこっちの台詞だろうがてめえ!」

 魔装術を使う自分の知り合いなど、そうそういない。唐突に襲いかかってきた男は、知人であるGS、伊達雪之丞で
あった。
 さらに何か言おうとした横島を、光が遮る。雪之丞を懐が眩く輝き、一瞬後、宙に一人の女性が出現する。軽やかに
着地するその姿にも、横島は見覚えがあった。

 妙神山修行場の管理人。超加速を使いこなす数少ない竜神。小竜姫、その人であった。
 短く切りそろえられた髪をさっと揺らし、清廉な瞳で横島を見る。これまで向けられたことのない鋭い眼差しに、
いつものように飛びかかろうとした横島は意気を飲まれた。……なぜか、彼女は抜き身の神剣を携えている。

「身内に剣を向けるは不義なれど、竜神王の下命に私事を挟むことならず。猿神に、この問答が平穏のうちに終わる
ことを祈ります」

 言い、彼女は横島へ問いかける。

「釈明を求める。何故あなたから堕竜メドーサの匂いを感じるのか。……どうか横島さん、正直に答えてください」

 決死の眼差しに、ひょっとしなくても嵌められたのかと、横島はひどく寂しくなった。



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