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No.527の一覧
[0] 終わりの終わり[ブロッケン](2005/11/16 23:10)
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[527] 終わりの終わり
Name: ブロッケン
Date: 2005/11/16 23:10
勝ち目など無かった。
基本性能は五分と五分。
ならば己は消耗しているだけ分が悪かろうとルシオラは踏んでいた。
それでも敗けるわけにはいかぬ、と心をきつく引き絞る。
敵の、かつては最も近しい存在でもあったその敵の、呼吸を読もう試みる。
自分にはあと一撃だけしか許されない。
相手の初撃に合わせて、必殺の一撃でもって抗するつもりであった。
失敗は敗北と同義。
敵もそう何度も機会はくれないだろう。
背筋を冷たいものが流れるのを感じた。
己の生存を計算に入れぬ相打ち狙い。
死ぬことは怖くない、そう思っていた。
けれども生きられないのは恐ろしい。
叶うならば、今しばらくこの世界に留まっていたいと思った。

ほんの僅かな睨みあい、それが破れる時が来た。
膨れ上がる霊力。
それは攻撃の予兆。

(まだ、あと少し)

一瞬が無限に引き伸ばされているような感覚。
それはルシオラが極限の集中がもたらした現象である。
最強の一撃を、決して避けられぬタイミングで放つ。
それだけを彼女は考えていた。

そして、その時は訪れた。
頃合いや好し。
もはや我も彼女も生還は叶わぬ、そう確信する。
しかし、術を放つその瞬間に、信じられぬものを見た。
馬鹿な、そう呆然とした。
何故お前がそこにいる―――?

愛した男がそこにいた。
二度と会えぬはずであった彼は、致死の妖毒をその身に受けながら自分を見つめていた。
倒せと、搾り出すような叫び。
叫びながら放った一撃は、当初の目論見どおりべスパを粉砕した。




馬鹿なことを、なんという馬鹿なことをする。
そう繰り返した。
これでは何の意味も無いではないか。
折角お前を守れると思ったのに、よくも台無しにしてくれた。
脱力した体を抱きかかえる。
ぞっと、血の気の引く音がした。
命が消えていくのがわかってしまう。
毒が彼の体の細胞という細胞を殺していく。
どうして、なんで。
心が絶望に震えた。

自失していたのはほんの僅かだった。
時間にすればそれこそ一秒か二秒、五秒ということはあるまい。
たったそれだけの間にルシオラは強い眼差しを取り戻していた。
何も出来ぬ小娘ならば呆けているのもよかろう。
だが自分は一体何なのか。
父たるあの方から強大な力を与えられたのではなかったか。
自分には彼を助けることが出来る。
ならばそれをすべきであろう。
目の前の男の顔へ自らのそれを寄せていく。
少し顔を赤らめながら口を合わせた。
このような状況だというのに少し幸福を感じてしまう自分がおかしかった。




嘘をついた。
大切な人だから、だから必死に嘘をついた。
自分はもう助からない。
傷ついた身体は、すでに崩壊しかかっている。
本当に大丈夫なのかと問う男に苦笑を漏らした。
だってこんなときに限って、こんなにも鋭い―――
それでも泣きそうなところをすんでで堪えて、一世一代の嘘をつく。
それでようやく安心したのか、気が抜けたのか、塔から足を踏み外す彼を見て笑った。
本当に、ああいうところは変わらない。
間が抜けていて、頭が悪くて、助平で、けれども人が良くてなにより優しかった。
嗚呼、と声を漏らす。
死にたくないな、今更になってそんなことを思ってしまう。
もっともっと、あの人の傍にいたかった。
だけどもうここで終わり、後は自分の残骸が彼を守ることだろう。
わたしがしんでも、おまえはいきる。
それは祈りであった。
ルシオラと呼ばれた少女の、その最後の祈り。

死の淵に落ちるその瞬間に、ルシオラはこれまでの出来事を残らず思い起こしていた。
逆転号に乗っていたあの日々。
青い空、緑の大地。
見るもの全てが美しくて。
深い、海の青、荒れ果てた荒野の、煤けたような赤。
どれもこれも、必死で目に焼き付けたものだ。
それでも、と思う。
美しいものはいくらでもあったけれど、その中でもっとも好きだったのはあの夕焼けの赤だ。
昼から夜へ、その僅かな間だけ見られる美しさは、どうしようもなくこの胸に迫ったものだ。

(そこへおまえがやってきて、最初は疑ってたっけ)

自分を助けた時の彼の顔が忘れられない。
迷うようなその顔。
黒を黒と断じ切れないその甘さ。
最後は自分の信じることを行う強さを、とても貴いと思った。
そして、あの方を裏切った。
裏切り者として戦って、死ぬ時はひとりぼっち。
それでも自分は幸せだった、今ならばそう胸をはって言えるだろう。

(ほんとうに、夢のようだった)

目を閉じようとは思わなかった。
大好きだったこの世界を、せめて最後まで見続けていたかったのだ。

(あっ・・・)

終わりの終わり。
闇へと落ちる瞬間に、彼の姿を幻視した。


































なんというか、自分の心を抑えきれず、こっぱずかしい文章を書いてしまいました。
てきとうに読み流して馬鹿にしてくれたらありがたいです。
題名通り、彼女のことについて書きました。


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