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No.530の一覧
[0] ヒイラギの詩[キロール](2004/12/23 03:17)
[1] Re:ヒイラギの詩[キロール](2005/07/22 00:47)
[2] Re[2]:ヒイラギの詩[キロール](2005/11/22 01:53)
[3] Re[3]:ヒイラギの詩[キロール](2006/03/21 01:15)
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[530] ヒイラギの詩
Name: キロール 次を表示する
Date: 2004/12/23 03:17
 
吹けよ 吹けよ 冬の風 お前はそんなに惨くはない。
 
アシュタロスの反乱からおよそ100年。
デタントは順調に進み、神・魔族も極少数ながら人界に生きるものがいる。
元々デタントに反対していた魔族たちがはぐれ魔族として人界を荒らすこともあるために魔族と神族の中から治安維持戦力が人界に派遣されている。
世界は問題を抱えながらも平和な時間を作り上げていた。
 
ただ一人を除いて。
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「出て行け、ですか。」
 
「あぁ、その通りだ。」
 
フランスの小さな山村の村長が額に汗をかきながらそう切り出してた。
村長が応対しているのは体のところどころを黒い外骨格に身を包ん男、はぐれ魔族だった。
 
「約定を違えたつもりはありませんが。」
 
7年前、魔族がこの村に住み始めた。
最もこの魔族は村の外に小さな小屋を作ってそこに住み、村と交流を持つことは少なかったのだが。
一日の大半は小屋の中で暮らし、晴れた日の夕方になると村の外れの丘に座って詩を歌う。
小屋の外には小さな墓を作り、そこに夏の間は山から一輪の花を摘んできては供えていた。
それが魔族の7年間だった。
 
「確かにあんたは約束を守っているよ。確かにあんたはこの村に来て7年間村へ危害を加えなかった。だが、あんたの約束の中にはこの村をほかのはぐれ魔族や魔獣から守るということが含まれていたはずだ。しかしどうだ、確かにあんたが来る前までは頻繁に魔獣に襲われていたこの村もこれまで一度も襲撃にあっていない。もう危機は去ったと感じている。そうなると村の中にあんたというはぐれ魔族がいることこそ村にとって不安の種なんだ。」
 
「・・・確か、出て行くように言われればすぐに出て行くのも約束のうちでしたね。俺は約束を守りますよ。だからこの部屋を囲んでいる人たちを下がらせても危害は加えたりはしませんから。」
 
村長は額の汗をさらに多くする。暴れられたときのことを考えてG・Sをやとったのがばれていたからだ。
 
「ただ、ひとつだけお願いを聞いてもらえませんでしょうか?」
 
「なんだね?」
 
村長は内心の不安をごまかすように威厳をこめて聞き返す。
声が上ずっていて聞いている魔族は苦笑を返すが。
 
「あと一時間もすれば日が沈みます。俺はこの七年間村の外れの丘から夕日を眺めるのを日課にしてきたので日が沈みきるまでそこに滞在することを許可願えないでしょうか。」
 
「あぁいいだろう。ただし、日が沈んだらすぐに出て行ってくれ。」
 
「わかりました。」
 
魔族が一礼して部屋を出て行くと村長は安心したように椅子にへたり込んだ。
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咬んでもそんなに痛くはない お前の牙は 眼に見えないから。
 
いつものように丘に座り、いつものように夕日を眺める。
口から紡がれるのはいつもの詩。
 
「兄ちゃん。」
 
魔族が振り返るとそこには村の子供達が立っている。
 
「村を出て行くって本当なの?」
 
「あぁ、そういう約束だったからね。」
 
村の大人達とは違い、子供達は魔族とも少なからず親交があったらしい。
最も、大人たちに禁じられていたからおおっぴらに会うことはなかったし、魔族自身それを理由に会おうとはしていなかったのだが。
 
「これ・・・。」
 
少女が小さな花束を渡す。
カンパヌラ・コクレアリフォリア。この辺りではありふれた花で、魔族が夏の間毎日摘んでいた花でもある。
 
「ありがとう。」
 
夕日の照り返しで魔族の目元が僅かに光っていた。
 
「お礼にこれをあげるよ。でも俺からもらったことがばれたら大人達に棄てられてしまうかもしれないから村のどこかに隠しておくといい。」
 
魔族が子供達の代表の少年、村長の孫に小さなガラス球のようなものを渡した。
六色が混ざり合い虹色のそれには複雑な文様が描かれていた。
 
「もうすぐ日が沈みきってしまう。暗くならないうちにおうちにお帰り。俺は太陽が沈んだら出て行くから、これでお別れだ。」
 
魔族は子供達を帰すと、日が沈みきるまで歌い続けていた。
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凍てよ 凍てよ 冬の空 お前が刺しても 傷は浅いが。
 
魔族が去って、3日目の朝方だった。
 
「うわぁぁぁ!」
 
村の外の畑を見に行った農夫の一人が血まみれになって村に駆け込んできた。
 
「どうした!」
 
「魔獣だ、魔獣が来たぞ。」
 
「何!」
 
農夫が逃げてきた方向から数匹の狼の姿をした魔獣が農夫の後を追うようにに走ってくる。
それは7年前までこの村を時折襲っていた魔獣であった。
 
恐慌をきたし逃げ惑う村人。
 
魔獣たちが村に入り込もうとしたとき、突如虹色の光がその侵入を阻んだ。
村の中央に生える木から虹色の光が零れると、それはそっくりと村全体を覆いつくす。
魔獣たちがどれだけ侵入を試みようとしても、光が村を守り通した。
 
「ちくしょう!何だこの光は。あの魔族がいなくなって安心して人間を食えると思っていたのに。」
 
村人達はわけもわからない事態に呆然と見守るほかはなかった。
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水を凍てさす力はあるが お前の針は 鋭くはない。
 
「反応があったのはあの村か。」
 
「間違いないのね~。今でもバシバシ反応があるもの。」
 
「ここまでくれば流石にわかる。・・・あれは魔獣か?」
 
「大変です。すぐに向かいましょう。」
 
5人の人影が空を飛んでいた。
魔族が住んでいた村に急接近すると村を取り囲む魔獣をあっという間に蹴散らした。
虹色の光はこの5人には反応しなかった。
 
「私は治安維持部隊のワルキューレ大尉だ。その他ジークフリード少尉、神族の小竜姫、ヒャクメ、それとオカルトGメンのピエトロだ。村の代表に聴きたいことがある。」
 
ピートがオカルトGメンの手帳を見せて身分の証を立てた。
 
「私が村長です。」
 
村長がおっかなびっくり前に進み出てきた。
 
「この村に魔族が来なかっただろうか?」
 
「はい、7年前から3日前までこの村にはぐれ魔族が住み着いていましたが。何かあったんでしょうか?危険な魔族だったのでしょうか?」
 
「いや、そうではない。・・・どこにいったか心当たりはあるか?」
 
「いえ、まったく。・・・しかしはぐれ魔族を追い出して村が平和になると思ったのになんだってこんなことに。それにさっきの光は一体?」
 
村長の言葉を聴いて5人のうちの何人かが悔しそうに拳を握り締めた。
 
「じいちゃん。これだよ。」
 
村長の孫が小さな球をもってきた。
それは先ほどの光と同じ虹色の光を放っていた。
 
「なんだ?それは。」
 
「魔族の兄ちゃんがお礼にってくれたんだ。」
 
「棄てろ!そんなもの。」
 
「ちょっと待ってほしいのね~。」
 
ヒャクメが村長を押しとどめる。
 
「ちょっとそれを見せてほしいのね~。」
 
球を受け取るとそれを観察する。
 
「凄いのね~。ひとつの文珠の中に6文字も入っている。それに周囲の地脈を吸って充電できるようになってるのね~。これなら充電時間によって力の大小はあるけど、半永久的に作動することができる。」
 
「危険なものではないのですか?」
 
「この文珠に刻み込まれた文字は【外/敵/進/入/阻/止】この村に敵意を持ったものは入ってこれないように結界が作動するようになっています。込められた力から察するに中級以下の魔族ではよっぽど連続して侵入を試みない限り村に入ってこれないようになっています。」
 
小竜姫が村人には読めない漢字の意味を教える。
 
「・・・そういえばさっきの魔獣、魔族がいなくなったおかげで村が襲えるって言ってたぞ。」
 
魔獣に襲われた農夫を手当てしていた村人がそう漏らした。
 
「・・・そんな、あの魔族はそんなこと一言も。」
 
頭を抱える村長。
 
「その魔族が7年間、この村で何をしていたか教えてもらえないだろうか?」
 
ワルキューレの言葉に村長の孫が答える。
 
「魔族の兄ちゃんは普段は家から出てこなかったよ。でも、俺たちが森で道に迷ったときや怪我をしたときは兄ちゃんが助けに来てくれたんだ。」
 
村の大人達は知らなかった。
魔族の名前を口に出すだけで叱りつけられたから子供達は家で魔族の名前を口にしなかったから。
 
「夏の間は山に花を摘みに行ってたけどね。この球もお別れのときにその花をあげたお礼にもらったんだ。ほら、この花だよ。」
 
カンパヌラ・コクレアリフォリア、和名は蛍袋。
 
「それと、毎日夕方になると丘の上で夕日を見ながら詩を歌っていたんだ。」
 
「詩?」
 
「うん。こんな詩。」
 
少年が歌いだす。
その詩を聞くと、小竜姫は泣き崩れ、ヒャクメが介抱する。
そのヒャクメも涙を流し、ワルキューレの握り締めた拳からはポタポタと血が流れていた。
ジークフリードとピートの顔からも後悔の顔色が色濃く滲み出ていた。
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アシュタロスの反乱から1年。ベスパとパピリオが相次いで急逝した。それと同時に大戦の英雄、横島忠夫が体に取り込んだ魔族因子が急激に活発化し、横島忠夫は神族でも魔族でも、人間でもない魔人へと変貌していった。
神界、魔界の共同研究班から横島忠夫に関する研究結果が出たのもそのころで、提出された研究結果の中には横島忠夫に関する危険性が書き連ねてあった。
曰く、横島忠夫は人間の成長能力をもったまま魔人化しており、この先も生きている限りどんどん強くなり続けていくということ。
そしてアシュタロスを文珠で【模】した結果、10年以内にアシュタロスと同じく環境不適合を犯し世界をひっくり返そうとする存在になってしまう可能性が極めて高いということだ。
それを受けて、神・魔界の最高指導者は横島忠夫を捕らえる決定をした。
それが末端に伝達されたときには抹殺命令に変わっていた。
人間界にもそのことは伝えられ、G・S協会やオカルトGメンからも追われることになってしまった。
かつての仲間達もそれぞれに複雑な理由があったとはいえ、誰一人横島を手助けするものはいない。
脅迫されたり、強要されたりと抹殺作戦に参加させられるものはいてもだ。
横島忠夫は、最愛の女性と引き換えに助けた世界から見捨てられた。
 
10年たっても横島忠夫は逃げ続けた。
20年たっても、だ。
そのころになるとおかしいと思いはじめるものが出始めた。
これまで何度となく戦闘になったにもかかわらず、神族にも、魔族にも、人間にも死者はおろか重傷者すら出なかったからだ。
横島忠夫はとっくにアシュタロスと同じものになっているはずなのに、だ。
それから数年後、おかしく思って別の研究班を発足して横島忠夫に関する調査を秘密裏にやり直したところ、研究班の調査報告が一部の強硬派によって捏造されたものであること、ベスパとパピリオの延命措置が見せ掛けだけのものだったことが判明した。
すぐに関係者は捕らえられ、横島忠夫の指名手配も解かれ、必死の捜索がされた。
しかし時はすでに遅すぎた。
どれほどヒャクメや他の神・魔族が霊視しても横島忠夫を見つけることはできなくなっていた。
すでに死したるかつての仲間は死ぬまで捜索と後悔をし続け、死せぬものもまた、後悔と捜索を続ける。
見捨てたことが罪ならば、許されないことが罰だった。
誰も傷つけないように必死に逃げるもの。
逃げなくてもいいことを伝え、謝るために追うもの。
誰もが望まない鬼ごっこは、誰も望まぬままに続いていく。
横島忠夫の冬が終わるまで。
無類のお人よしの彼が、もう一度他人を信用する気になるその日まで。
 
吹けよ 吹けよ 冬の風
お前はそんなに 惨くはない
恩を忘れる 人間ほどには
咬んでもそんなに 痛くはない
お前の牙は 眼に見えないから
お前の息は 荒いけど・・・
ヤッコラサと歌おう ヒイラギは緑よ
友情は見せかけ 恋すりゃ馬鹿見る
されば ヤッコラサの ヒイラギさまよ
さてもこの世は 楽しゅうござる
凍てよ 凍てよ 冬の空
お前が刺しても 傷は浅いが
忘恩の痛手は 骨までしみる
水を凍てさす 力はあるが
お前の針は 鋭くはない
友の裏切りに 比べたら・・・
ヤッコラサと歌おう ヒイラギは緑よ
友情は見せかけ 恋すりゃ馬鹿見る
されば ヤッコラサの ヒイラギさまよ
さてもこの世は 楽しゅうござる
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                   ・
                   ・
あとがき
文の最後に書かれている詩はシェイクスピアのヒイラギの詩を和訳したもの、だったはずです^^;
中学か高校のときに書いた半オリジナルの駄作(^^;)に使用しているのを見つけたため、むりやりG・S美神SSの短編にでっち上げてみました^^
短い奴も難しいですね^^;
この作品の横島はちょっと世の中に拗ねてます。まぁかつての仲間が本気ではなかったことには気がついていたんでその程度で済んでますし、ベスパ、パピリオについてはまだ知らされていないので暴走したりもしてないですね。
逆にかつての仲間達は横島が本気でなかったことに気がついている。ということに気がついてないので後悔しまくりですね。
なお、『よこしまなる者』のキャラとは何にも関係ないですので。
 
追伸 私がシェイクスピアに造詣があるということは欠片もないです。
ですので知識もないし、この詩の解釈もわかりません^^;


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