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No.18953の一覧
[0]  マブラヴ+SRW α アフター (チラシの裏から移転)[まくがいば~](2014/03/30 23:28)
[1]  マブラヴ+SRW α アフター  プロローグ[まくがいば~](2014/03/30 02:06)
[2]  マブラヴ+SRW α アフター  第一話[まくがいば~](2014/09/14 03:31)
[3]  マブラヴ+SRW α アフター  第二話[まくがいば~](2014/03/30 02:04)
[4]  マブラヴ+SRW α アフター   第三話[まくがいば~](2014/03/31 20:49)
[5]  マブラヴ+SRW α アフター   第四話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[6]  マブラヴ+SRW α アフター  第五話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[7]  マブラヴ+SRW α アフター  第六話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[8]  マブラヴ+SRW α アフター  第七話[まくがいば~](2014/03/30 02:02)
[9]  マブラヴ+SRW α アフター  第八話[まくがいば~](2014/03/30 02:02)
[10]  マブラヴ+SRW α アフター  第九話[まくがいば~](2014/03/30 02:01)
[11]  マブラヴ+SRW α アフター  第十話[まくがいば~](2014/03/30 02:01)
[12]  マブラヴ+SRW α アフター  第十一話[まくがいば~](2014/03/30 02:00)
[13]  マブラヴ+SRW α アフター  第十二話[まくがいば~](2014/03/30 02:00)
[14]  マブラヴ+SRW α アフター  第十三話[まくがいば~](2014/03/30 01:59)
[15]  マブラヴ+SRW α アフター  第十四話[まくがいば~](2014/04/12 00:53)
[16]  マブラヴ+SRW α アフター  第十五話[まくがいば~](2014/04/24 01:00)
[17]  マブラヴ+SRW α アフター  第十六話[まくがいば~](2014/06/16 21:14)
[18]  マブラヴ+SRW α アフター  第十七話[まくがいば~](2014/08/24 21:53)
[19]  マブラヴ+SRW α アフター  第十八話[まくがいば~](2014/08/24 21:56)
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[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十二話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:691aec15 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/30 02:00
「ふぁ~~、生き返る!」
 熱めの湯を、頭から勢いよく浴びる。声にしたとおり、生き返る思いをシンジは味わっていた。
 シンジが加賀に乗艦し、月詠真那率いる独立警護小隊に周りを囲まれて、連れてこられたのが、このトイ
レ・シャワールーム完備の個室だった。
 まず、汗をゆっくりお流しください、と言う真那のススメに従い、真っ先にこのシャワーを使っているシ
ンジ。まだ、会う予定の要人たちがこの加賀に来るまでには、時間がかかるとのこと。今は、難しいことは
頭から追い出して、色々とリフレッシュしようとシンジは決めていた。
 思えば激動の一日だ。日が変わるころに招集され、それから大怪球との戦闘、そして異世界へ跳ばされ、
そこでもBETAとやらと戦闘、そして逃避行の末、名も知らぬ島に辿りつき、そこで色々な出会いを経て、
今は海に浮かぶ巨大戦艦の一室にいる。
 こんなに変化にとんだ一日は、この先、そうあるものではないだろうし、あってたまるかとも思う。しか
も、まだ今日は終わってない、メインイベントがこれから残っている。
「まぁ、なるようになるさ」
 シンジは、白銀武や鑑純夏、それにあの島にいたまりもを筆頭にした訓練兵の面々を信じると決めていた。
彼らが示してくれた指針に乗った今、ジタバタする気はない。
 それに万が一これが罠だったとしても、大作、それに隼人が居る。いきなり殺されない限り、どうにかな
るだろう。
 極めて楽観的に、シンジはこの場に望んでいた。


「むむむ……」
 月詠真那は悩んでいた。
 シンジに持っていく服一式のチョイスで。
 帝国海軍が自由に使ってくれと通してくれた制服各種を収納している、艦内倉庫の中。眉間に皺を寄せて
悩んでいた。
 ここにあるのは、当たり前だが海軍の制服のみ。シンジの会う前はここで適当に部下の三少尉に見繕わせ
ようと思っていたが、今の真那にシンジについて、他人任せにする気は微塵もない。
 海軍の一級礼装、これが悠陽に拝謁する際には一番ふさわしいのかもしれない。でも真那は納得できない
でいた。
頭の中でシンジにこの服を着せてみる。悪くはない。白基調の制服はむしろ似合うかもしれない。だが、
堅いイメージが拭えないし、いかにも軍人めいた服はシンジにそぐわない気がする。
 いっそ、と艦内でパーティをする際、士官がダンス等を楽しむ為に着るタキシードを手に取り、また頭の
中でシミュレーション。これも似合うだろうが、場に明らかにそぐわない。
 なら、とガサゴソと部屋を漁る真那。シンジに最高に合う服を着せて、悠陽の前に立たせる。それが今の
真那にとって、至上の命題になっていた。

 シャワー室をでると、バスローブと新品の下着が畳んでおいたプラグスーツの横に置いてあった。
 ありがたくそれを身につける。さきほどまで控えていた白い独特の服を着たお姉さんがいなくなっていた。
気を利かせて出てくれたのだろう。
 バスローブを手に取り、自分には似合わないなぁとシゲシゲと眺める。が、下着姿でいるのは抵抗がある
ので、それを羽織るシンジ。こんなものを羽織ると、何だか場違いな気がして、こそばゆい思いがある。
 とりあえず、ベッドに腰をかける。やることがなくなり完全に手持ち無沙汰になってしまう。
 今後の予定を訊きたいのだが、先ほどの人たちは部屋の外に控えているのだろうか。着替えを用意してく
れるとのことだが、どんな服を用意してくれるのだろうか。
 部屋の外に声をかけ、訊いてみようかとも考えたが、急かすようで気が進まない。
 と、なると…… 腰をかけたベッドに手を置くシンジ。世界を跨ぐという体験のせいで、時間経過の感覚
が狂ってしまっているが、自分は正味二十時間くらい、活動しっぱなしではないだろうか。
 すると、今まで気にならなかった疲れが、眠気というかたちで出てくる。こうなると、抗えないし抗う気
もない。肝心の会談の時にアクビでもしようものなら、それこそ失礼。
 ということで、とシンジはそのままベッドに潜り込み、夢の世界に行くのだった。


「碇様、よろしいですか?」
 胸に熟考三十分におよんだ服を胸に抱いて、コンコンと軽くドアをノックする真那。
 …………
 だが、中から反応はない。
「碇様?」
 再びノックを三度。だが、中から反応はない。扉の横に立番よろしく控える神代巽少尉に顔を向けるが、
自分に何の心当たりもないと首を横に振る。
 もしや体調を崩されたのか?
 思えば、強化服も着ずに戦術機に乗られていたのだ。体調が急変してもおかしくない。
 無礼なのはわかっているが、いまは危急とドアのノブに手を掛ける。施錠はしていないようで、あっさり
とノブは回った。
「碇様、失礼します」
 声に焦燥をのせないように抑え、中に入ると……
 碇シンジは、ベッドに横たわり、軽い寝息を立てていた。
「うわ……」
 一緒に入ってきた神代が、シンジのあまりに豪胆な行動に驚嘆し、同意を求めるように傍らに立つ真那に
目を向けると……
 なぜか、彼女らの尊敬すべき上官は、頬を紅潮させ、口元に手をあて、完全停止していた。いや、小声で
何か呟いてはいるが、はっきり聞き取れない。
 何となく、声をかけづらい、いや、声をかけたくない状況だが、立像のように固まっている真那をこのま
まにしてはおけないと意を決し、声を掛ける神代。
「つ、月詠中尉、あ、あの……」
 神代の声に我に返ったのか、取り繕うように咳払いをする真那。
「ま、まぁ、寝ているのを邪魔するのは失礼だ。神代、下がってよい。ここは私が見ていよう」
 いつもの威厳はどこへやらの真那、神代は真那をここに置いていいのかという漠然とした不安を感じたが、
命令を反故する理由も特にないので、
「はい、では外に控えておりますので……」
 一礼し、部屋をでる神代。自分の選択は正しいはずなのに、なぜか不安を覚える彼女だった。


 そして二人きりになった部屋。真那はベッドに眠るシンジの寝顔を凝視していた。あどけない、と言って
もいい寝顔。自分が入ってきたのも気づかず、熟睡している。
 先ほどの、凛々しさは潜み、愛らしさが寝顔に出ていると、真那は感じている。このまま、ずっと寝顔を
見ていたいという願望も湧き出している。
 いやいや、と邪念を振り払うように頭を振る真那。
 この高鳴る胸の鼓動は憧れの現れなのか? 真那自身、自分が何でこのようにこの少年に惹かれているの
か自覚できていなかったりした。
 スヤスヤと規則正しい寝息をたてるシンジ。その額にかかる髪に無意識で手が伸びでしまう真那。触れる
前に躊躇いで手が止まってしまったが、変わらぬ様子のシンジに意を決しその髪に触れる。
「ん、んん……」
 真那の手が触れた瞬間、シンジは覚醒の兆しを見せる。迂闊だったと慌てて手を引っ込めるのと、シンジ
の瞼がゆっくりと開くのは同時だった。
「あ、あの……」
 何と声を掛けようかと口ごもっていると、
「……疲れていたので、寝てしまいました」
 とシンジは照れたように笑って上体を起こす。自分が触れたことには気づいているのかいないのか、不快
を訴えてこなかったことに真那はとりあえず胸を撫で下ろす。
「あの…… お召し物をお持ちしました」
 頬の紅潮を自覚しながらも、平静を装って真那はシンジに胸に抱いていた服を差し出す。
 お手数かけます、とその服を受け取ったシンジ。広げてみると……
「学生、服ですか?」
 真那がシンジの似合うと渾身のチョイスしたのは、なぜかこの艦に置かれていた国連軍新潟基地内にある
衛士訓練校の学生が着る制服だった。真那はその服を手にとった瞬間、これしかない!! と天啓を受けた
思いだった。
「えぇ、碇様にお似合いかと」
「まぁ、色違いのを、着ていますし。これなら、肩が凝らないかもしれませんね。ありがとうございます」
 シンジは然したる疑問も抱かず、真那の選択を受け止めてくれた。その事実に知らず、また頬が紅潮して
しまう真那だった。
「えっと、月詠中尉……」
 シンジは制服の上着を広げたまま、真那を見る。その視線が何かを求めているのはわかるが、何を求めて
いるのか、真那には察することができない。
「着替えたいんですが……」
 そこまで言われてシンジが何を求めているのか、真那はようやく察することができた。
 私に構わずお着替えください、と口走りそうになるのを、間一髪で押し込め、
「失礼しました! 外で控えておりますので、着替えが終わりましたら、声をかけてください!」
 まくし立てるように言って、慌てて部屋を飛び出す真那。部屋の外で、ハァハァと胸に手を当て呼吸を整
える。いかん、今日の自分はどうかしていると、動揺しまくっている自らの心を叱責する。
 そんな尊敬すべき上官の奇行を、困惑気味に見つめている神代。声をかけたほうが良いのだろうかと、迷
っていると、
「月詠中尉!」
 と、巴 雪乃少尉が早足で歩いてきたので、このまま沈黙を決め込むことにする。
「どうした?」
 応じる真那も、先ほどの様子は微塵も感じさせない、凛々しさを取り戻している。ホッと胸を撫で下ろす
神代。
「香月副司令が、到着されました」
 耳打ちするように間近で報告する巴。真那の顔に警戒の色が浮かぶ。
「……早いな」
  新潟から、ここまで軍用ヘリで四時間以上かかるはず。今の日本を取り巻く状況下において、彼女、香
月夕呼も諸事に忙殺されているはずなのに、この時間に到着するとは、真那の想定外の出来事だった。
「それが……」
 と、巴が続けて口にした内容に、真那は思わず絶句してしまった。
 夕呼は、身分にそぐわないとんでもない手段で、この加賀に訪れていたのだ。


「……もう、フラッフラよ。二度と乗りたくないわ、こんなのに」
「……同感です」
 出迎えた武、純夏の前で、愚痴をブツブツと呪いのように呟いているのは、夕呼と、随伴してきた社霞。
「そりゃ……」
 と武は呆れたように、二人が加賀にやってきた方法に目を向ける。
「ろくに訓練もしてない人が、不知火に乗ったら、強化装備を着てもそうなりますって」
 見事へたりこんだ二人の後ろには、二人をここまで運んで来た不知火二機が、片膝立ちで駐機している。
「だってぇ、これが一番早かったんだもん」
 と口を尖らせて反論する夕呼に、子供ですかと呆れ顔になる武。
「まぁまぁ、博士も霞ちゃんも無事で何よりだよ」
 純夏が両者の間を取り持つように、笑顔で言う。だが、そう言った純夏自身、夕呼と霞のとった行動に、
半ば以上呆れ返っていた。
 彼女たちが、この加賀に来る手段として選択したのは、自身が武に指示したように、戦術機『不知火』を
利用することだった。この行動によって、彼女は、考えうる最短時間での加賀到着に成功した。
 しかし、その強行軍の代償として、甲板にへたりこんだまま、動けないという今の状況だった。
「で、アンタが来ているってことは、イカリシンジっていうのも着いているのね。あっちはどうなの?」
 夕呼が白銀に訊く。
「アイツは見た目よりずいぶんタフみたいで、喜んで乗っていましたよ。体調も問題なしです」
「ふぅ~~ん……」
 言葉にはだしていないが、自分がこんな状態なのにシンジがピンピンしているのが明らかに不満な様子の
夕呼。
「まぁ、こんなところで座っていても時間の無駄ね。ほら、白銀」
 と、夕呼は武に手を伸ばしてきた。武は、苦笑しながら、その手を引っ張り、夕呼を立たせる。すると、
となりでヘアバンドのウサギ耳をまでショボンとさせた霞が、捨てられた子犬のような目つきで手を伸ばし
てきた。
 こちらも苦笑まじりで引っ張りあげる武。まだ足元が覚束無いのか、フラフラしている霞をそのまま小脇
に置いて支えた。夕呼の方は立てるくらいには回復しているようで、よいしょと何度も屈伸している。
「白銀、久しぶりだな」
 降着姿勢の不知火から、強化装備に身を包んだ二人の女性衛士が降りてきて、武たちに近づいて声を掛け
てきた。一人は白銀とも親交がある夕呼直属の特務部隊A―01、伊隅ヴァルキリーズ所属の宗像美冴中尉、
もう一人の大きめのトランクを両手で持った少女とは、武は初対面だった。
「宗像中尉、お久しぶりです」
 宗像と最後に会ったのは、ヴァルキリーズと合同演習をした半年程前。夕呼と悠陽の繋ぎ役である武と純
夏は、夕呼直属の彼女らと、演習やら共同作戦やらで交流の機会は少なくない。しかし、この半年は両者の
タイミングやら何やら都合が合わず、交流する機会がなかった。
「まったくだ。打倒白銀を目標にしている速瀬中尉が、お前に会えなくて欲求不満気味でな。早いとこ倒さ
れてやってくれ」
「あははは……」
 美冴の申し出に、乾いた笑いで応える武。美冴と同じ、A―01所属である速瀬水月中尉は、演習の度に
苦杯を舐めさせられている武のことを、「いつか倒す!」と明言し、それを目標にしている。付き合わされ
る武は、そのアプローチに「もう許してください」と何度懇願したことか。それでも、相対するとき、武は
まったく手を抜かないので、水月のテンションは上がる一方。半年も会っていない今、武にとって再会する
ことに恐怖すら感じる相手に水月はなっていた。
 そこで、武は、自分をあからさまな好奇の目で見つめる瞳に気づく。初対面の衛士の少女からだ。
「あぁ、彼女は新参の柏木晴子少尉だ。よろしくしてやってくれ」
「柏木晴子少尉です! お噂はかねがね。自分も、ご指導よろしくお願いします!」
 美冴に簡単な紹介され、闊達な声に、機敏な動作での敬礼する晴子。それに失礼にならない程度の笑顔を
浮かべ、武と純夏を見つめてくる。夕呼の部下は、精鋭部隊だけあって優秀な人が多いが、晴子もご多分に
もれず優秀で有能、しかも一癖も二癖もありそうな雰囲気が立ち姿から感じ取れた。
「白銀 武少尉です」
 無難な答礼を返す武。隣の純夏も、武と同じく「鑑 純夏少尉です」と敬礼している。どうせあんな事や
こんな事を先達から吹き込まれていることだろうから、ここは無難に済ますに限る。
「副司令、これ荷物です」
 とドスンとトランクを置く晴子。多分、この中には、夕呼と霞の服、その他モロモロが入っているのだろ
う。それと、これを運ぶのは自分の役目だろうなぁ、と武は諦観に似た思いで、そのトランクを見つめてい
た。
「よし、じゃあ、白銀、鑑、行くわよ!」
 屈伸を終え、頬をパンと叩いて、気合を入れる夕呼。だが、キョトンとする武と純夏。
「行くってドコへ?」「です?」
 怪訝な顔の二人に、
「私の控え室よ、あるんでしょ?」
 と夕呼。武と純夏は顔を見合わせ、「あるの?」とお互いに聞き合う。その辺りの段取りは、そういえば
まったく聞かされていない二人、放置され気味だったので、瑞鶴改の傍で立ち話して海を見つめて時間を潰
していたくらいだ。
「まったく、急いで来たのに、段取り悪いわねぇ。今、時間は宝石のように貴重なのよ」
 はぁ~、とわざとらしく額に手をあて、溜息をつく夕呼。加賀の乗員には、不干渉の触れでもでているよ
うで、誰も武や夕呼たちに近づいてこない。
「月詠中尉達に訊きに行くしかないか」「だねぇ」
 となると、次の問題は、その目的の人物がどこにいるのかを二人は知らない、ということだ。強化装備姿
で海軍の戦艦内をうろついての人探しは、精神的に何だかイヤだ。二人は目線だけ、純夏がいけ、武ちゃん
がいけという押し付け合いを開始した。
 不毛な争いから数秒、艦内入口から、真那と戎 美凪少尉が現れた。
「……香月副司令、ご苦労様です」
 二人は夕呼の前に立ち、見事な敬礼を決めてみせる。これは、軍隊式の儀礼が嫌いな夕呼に対する、真那
のあてつけだ。
「はい、ご苦労さん。で、あたしはどこで待っていればいいの? まだ殿下来てないんでしょ」
 手をヒラヒラと振って、先を促す夕呼。武や純夏はこういう場面に出くわすたびに思わずにはいられない。
なんで夕呼と斯衛の方たちは、こうも相性が悪いのだろうかと。真那や戎の仏頂面、もう少し何とかならな
いかと、武は心の中で嘆息する。
「了解しました。戎、案内を」
 簡潔な真那の命令に、ハッと敬礼で応える戎。どうぞ、こちらへと夕呼を促す。スタスタとトランクを置
いたまま、先に行く夕呼。霞は、これまた雨に濡れた子犬のような眼差しで、武に寄りかかっている。
 そして夕呼随伴の二人の衛士は、ここに待機する気満々に見える。
「はぁ」
 結局、これが俺の役目かと、かるく嘆息し、左脇に霞を抱え、右手にトランクを持ち、夕呼と戎に付き従
う武。当然のように、純夏もそれに付いていこうとしたのだが……
「あ、鑑、お前は残ってくれ。話がある」
 真那が幾分、遠慮気味に純夏に声を掛ける。真那の言葉に、純夏は霞とトランクを抱えて前を行く武を見
ると、武が振り返って小さく頷いた。
「はい、わかりました」
 夕呼と武が、戎に先導されて艦内に消えたのち、真那はそばにいるA―01の衛士に軽く一礼したあと、
純夏たちが乗ってきた瑞鶴改が駐機している甲板に、純夏を連れていく。
「いったい、何事が起きているんですかねぇ」
 そんな二人の様子を頭の後ろで手を組んで眺める晴子が、興味を隠さずに美冴に言う。
「そうだな……」
 美冴も、二人を眺めながら、短く同意する。今この時、彼女たち以外の伊隅ヴァルキリーズの衛士たちは、
佐渡島のハイヴ跡に、夕呼の命を受け、急行している。彼女たち二人は、佐渡島に向かう直前、この加賀へ
夕呼と霞を運ぶ特命を受け、隊と別行動を取ることになった。
 夕呼ほどの人物が、戦術機を使って、海軍の戦艦に来訪する事態。いったいこれから何がこの艦で行われ
るのか、二人はまったく聞かされていない。いないのだが……
「だが、こっちの方が面白そうだ。白銀も居ることだし、な……」
 美冴は笑みを浮かべ、彼の愛機である瑞鶴改に視線を向ける。今まで、彼女の経験から、武と純夏が絡ん
で面白くなかったことがない。きっと、今回もそうなるだろうという確信が美冴にはあった。
「『デリング』も、どっか行きましたよね?」
 晴子が、彼方の海を指して言う。
今、夕呼直属の戦術機部隊A―01には、伊隅ヴァルキリーズの他、もう一つ半個中隊規模の戦術機部隊
がある。その中隊『デリング』も、夕呼の特命で、どこぞへ飛び立っていった。
「平隊長代理はともかく、鳴海中尉は貧乏くじを引く為に生きているようなものだ。あっちはハズレだろう」
「あはは、厳しいですね」
 女性の方が圧倒的に数が多いA―01の中で、デリング隊長代理の平 慎二中尉と鳴海孝之中尉は、唯一
の男性エレメント。美冴たちの上官である伊隅みちるに次ぐ古参衛士なのだが、なぜかヴァルキリーズから
の評価は不当に低い。デリングの鳴海孝之と、ヴァルキリーズの速瀬水月中尉が、事あるごとに噛み付きあ
っているのが、大きな一因とだろう。
「まぁ、運が悪くても、貧乏くじを引いても、生き残るのがあの御仁だ。心配はいらないだろう」
 美冴も晴子も、デリング中隊が飛び去った、おおよその方向に視線を向ける。
 その方向には、大作がいる名も無き島がある。

「ところで、だな…… あの……」
 純夏をヴァルキリーズの二人から離して、何かを訊こうとしている真那だが、歯切れがものすごく悪い。
訊きたいと思われることは察することができるので、純夏から逆に訊いてみる。
「あの、私に訊きたいことって、彼のことですか?」
 図星だったのか、一瞬固まってしまう真那だが、すぐに咳払いをして、
「そ、そうだ……」
 と、取り繕うように続ける。
「あの御方は、その…… 何者、なのだ? その、殿下から口止めされているのであれば、無理に、とは言
わないが……」
 真那にしては歯切れの悪い問いかけだ。
悠陽の命なら、何の疑問も挟まず、黙々とそれを遂行するイメージがあった真那だが、シンジに関しては
あまりに疑問が大きすぎたのだろうか? と勝手に純夏は推測し、どこまで話していいかを考える。
 悠陽からは特に箝口令は出ていないが、夕呼からは極力、シンジと大作の情報は他には漏らすな、と言わ
れている。
 しかし、ここで何も教えないというのは、真那に対して義理を欠くようで心苦しい。夕呼からは、言われ
てはいるが、強制されているわけではない。純夏はそこまで考え、どこまで話していいかの、線引きを考え
てみる。
「あの、月詠中尉は、シンジくんのことを、どこまで知らされて……」
 逆に訊いてみることにした純夏。だが、真那は、
「か、鑑、き、貴様、碇さまのことを、な、名前で……」
 と、純夏がシンジを名前で呼んだだけで、顔を引きつらせてしまった。この反応は、どう解釈したものか
と困惑する純夏
「シンジくんが、そう呼んでくれと言われまして。タケルちゃんと違って、色々気がつく……」
 そこで純夏はシンジを表す端的な言葉を思いつく。
「そうですね、シンジくんは『いい人』です」
 指を一本たてて、我ながら上出来と頷く純夏。
「いい、ひと?」
 その抽象的すぎる純夏の言葉に、真那は首を傾げる。純夏は得意げに続けた。
「そうです。シンジくんは『いい人』です。あたしとタケルちゃんが全面的に保証します! 悠陽様の名に
かけて!」
 言い切った純夏に付いていけない真那。だが、純夏が悠陽の名前を出して、シンジに対してそう宣したこ
とに軽い驚きを覚える。
 真那はシンジとの短い邂逅を思い出してみる。何故、自分はあの人の事が、こんなにも気になっているの
だろうか? 自問すると、胸が高鳴り、頬が紅潮してしまう。
 だが、純夏が口を濁しても、シンジに『何か』あるのは間違いない。この加賀に政威大将軍とオルタネィ
ティヴ第四計画の総責任者が、来艦していることだけでも、常識ではありえない事だ。
 その渦中にある、彼はいったい何者なのか? それを知りたがるのはおかしくない、そう、おかしくない。
 真那は自分の中にある、得体の知れない感情をそう納得させたのだが……
「あれ、何だか騒がしくなってますね」
 純夏が、艦内入口を指差して言う。その指先を追うと、加賀の艦長と士官数名が、ドタドタと現れた。
 何事か、と思っていると、その集団の先頭にいた巴が、慌てて真那に駆け寄ってくる。
「どうした?」
 短く問うと、必死に息を落ち着かせた巴が、動揺と興奮が入り交ざった声で真那に答えた。
「ゆ、悠陽様が、加賀に到着されます! 先ほど、通信が真耶中尉から!」
 真那の従姉妹であり、同じく煌武院悠陽に仕える月詠真耶との混同を避けるため、真那に真耶のことを告
げる時は、名前で呼ぶのが通例になっている。しかし、悠陽が到着するのに、なぜこんなに慌てているのだ
と真那が考えを巡らせると……
 悪い予感しかしなかった。
「あ、戦術機の音……」
 五感が常人より遥かに優れている純夏が、呟いた。真那の耳にはまだ届いていないが、悪い予感は当たり
そうだ。
「巴、殿下は武御雷で、来られるのか?」
「は、はい! 真耶中尉の機体に乗られて、こちらに向かったそうです」
 ……
 戦術機をヘリ代わりに使おうと考えるのは、どっかの副司令くらいかと思っていたら、彼女らの敬愛すべ
き主君が、同じ方法を取るとは……
 真那は、こと光神がからむと、行動が大胆を超える悠陽の言動に、溜息をついてしまう。
 真那の耳にも、海風の音を切り裂く、跳躍ユニットの推進音が届いてきた。音は同型二種、真耶の武御雷
に随伴一機というところか。
 艦長たちも今まで、無干渉を貫いてきたが、政威大将軍の来艦には、そうもいかないと出迎えに出てきた
のだろう。予定よりかなり早い悠陽の来艦に、将校たちが、どう並んで出迎えるかというところから揉めて
いる様は、少し滑稽だ。
「鑑、真耶と通信できるか?」
 この場に強化装備を着込んだ純夏がいるのは幸いだ。
「はい、ちょっと待ってください」
 純夏が、袖口の端末や、網膜モニターでの視線操作で、瑞鶴改の通信機から、接近中の武御雷へ通信を繋
ぐ。
「はい、こちら鑑です、傍に真那中尉も。はい、お察しの通りです」
 真耶と通信が繋がったようだ。真耶もこちらがどういう状態か察しているのだろう。
「出迎えがゾロゾロ出てきていると伝えてくれ。悠陽様の指示を仰ぎたい」
 真那の指示を、そのまま伝えると、
「はい、大げさにはするな、と。悠陽様の格好を考えてみろ、だそうです」
 やはり、悠陽も強化装備を着込んでいる。身体のラインを際立たせることこの上ない強化装備姿を、忠誠
心あふれる帝国軍人とはいえ、多数の男性の目に晒すことは、やはりマズイ。
「わかった、三分くれ、艦長たちを説得してくる、と伝えてくれ」
 了解です、という純夏の言葉を背に、真那は出迎える気満々の加賀クルーのもとへ向かう。溜息と心労とともに。

 大和改級加賀の飛行甲板は、異様な光景を見せている。
 そこには、国連軍カラーの不知火二機、斯衛軍の黒い瑞鶴の改造機。そして、今、赤と白の武御雷が降り
立った。戦術機五機を駐機させ、本来のヘリ空母としての機能は発揮できない状態だ。
「無茶しますね、悠陽様」
 昇降タラップで、悠陽を出迎えた純夏が、苦笑混じりで手を伸ばす。
「これが、もっとも効率が良いと判断したのです。香月副司令も、同じ手段を取っていたのですね」
 中から、専用のコンバットウォーニングジャケットを纏った悠陽が、純夏に引っ張られ機外に姿を表す。
 悠陽が、不知火に目を向けて言う。どうやら、この強行軍は、夕呼と示し合わせたのではなく、お互い、
最速の方法を模索した結果だったようだ。
 さすがに戦術機の搭乗訓練を受けている悠陽は、夕呼のような醜態を晒すことなく、颯爽とタラップを降
りる。加賀からの出迎えは、加賀艦長と女性士官二名のみ、真那の恫喝混じりの説得で、このメンツになっ
た。
「ふぅ、こんなことは、二度とゴメンだ」
 と疲労を滲ませた声音で、悠陽に続いて月詠真耶中尉が降りてくる。熟練の操縦技術を持つ真耶でも、主
君を乗せての海上飛行は、神経をすり減らしたようだ。
「お疲れ様です」
 と言う純夏の労いに苦笑を返す真耶。武には必要以上に厳しい真耶も、純夏には優しい。
「下で、真那が睨んでいるな……」
 悠陽を出迎える艦長から一歩下がった一で、眉間にしわ寄せ、真耶を睨む真那がいた。その横では巴が困
惑に顔を曇らせている。
 ―どうして、お諌めしなかった!― と、真那が視線で糾弾してくるのを、
 ―無理だ!― と、こちらも険しい顔で返す真那。視線だけで会話を成立させられるのは、同じ月詠家に
生まれた者だからだろうか。
 艦長の挨拶も終わったようだ。隣りの武御雷から、大きめのトランク二つを抱えた真那の腹心、山城少尉
が降りてきた。あれに、悠陽の礼服だけではなく、真耶の軍服、それに武と純夏の軍服も入っている。
「さて、鑑、行こうか。悠陽様のお着替えを手伝ってくれ」
「はい」
 純夏と共に、タラップを降りる真耶。
二人を待っていた悠陽が軽く頷くと、加賀の女性士官が先導し、それに真那、悠陽、真耶、そしてトラン
クを持った巴と純夏が続き、艦内に消えていった。加賀艦長は、その行列を見送って、心底ホッとしたよう
に肩を落とすのだった。


「……悠陽殿下の登場って、面白すぎません?」
 不知火の下で、直立不動で今の顛末を見守っていた夕呼麾下の美冴と晴子。軽口を叩く晴子の声も震えて
いた。
「……副司令と、殿下が、この加賀にこられた、ということは」
 晴子の言葉が聞こえていないように、美冴は考えを巡らせている。夕呼と悠陽、この対象的な二人が手を
組んでいる理由はただ一つ、美冴はある考えに辿りついた。
「ここで、光神についての何かがあるのか……」

 加賀に、煌武院悠陽、香月夕呼、そして碇シンジが同じ艦上に揃った。この世界の行く末に大きく関わる
会談が、もうすぐ始まる。



 【ちょい、言い訳】 思いのほか、間が空いてしまい、どうもすいませんでした。オッサンは
色々あるんです、うん。



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