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No.18953の一覧
[0]  マブラヴ+SRW α アフター (チラシの裏から移転)[まくがいば~](2014/03/30 23:28)
[1]  マブラヴ+SRW α アフター  プロローグ[まくがいば~](2014/03/30 02:06)
[2]  マブラヴ+SRW α アフター  第一話[まくがいば~](2014/09/14 03:31)
[3]  マブラヴ+SRW α アフター  第二話[まくがいば~](2014/03/30 02:04)
[4]  マブラヴ+SRW α アフター   第三話[まくがいば~](2014/03/31 20:49)
[5]  マブラヴ+SRW α アフター   第四話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[6]  マブラヴ+SRW α アフター  第五話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[7]  マブラヴ+SRW α アフター  第六話[まくがいば~](2014/03/30 02:03)
[8]  マブラヴ+SRW α アフター  第七話[まくがいば~](2014/03/30 02:02)
[9]  マブラヴ+SRW α アフター  第八話[まくがいば~](2014/03/30 02:02)
[10]  マブラヴ+SRW α アフター  第九話[まくがいば~](2014/03/30 02:01)
[11]  マブラヴ+SRW α アフター  第十話[まくがいば~](2014/03/30 02:01)
[12]  マブラヴ+SRW α アフター  第十一話[まくがいば~](2014/03/30 02:00)
[13]  マブラヴ+SRW α アフター  第十二話[まくがいば~](2014/03/30 02:00)
[14]  マブラヴ+SRW α アフター  第十三話[まくがいば~](2014/03/30 01:59)
[15]  マブラヴ+SRW α アフター  第十四話[まくがいば~](2014/04/12 00:53)
[16]  マブラヴ+SRW α アフター  第十五話[まくがいば~](2014/04/24 01:00)
[17]  マブラヴ+SRW α アフター  第十六話[まくがいば~](2014/06/16 21:14)
[18]  マブラヴ+SRW α アフター  第十七話[まくがいば~](2014/08/24 21:53)
[19]  マブラヴ+SRW α アフター  第十八話[まくがいば~](2014/08/24 21:56)
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[18953]  マブラヴ+SRW α アフター  第十四話
Name: まくがいば~◆498b3cf7 ID:d3db976e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/04/12 00:53
 加賀だけではなく、日本帝国海軍が誇る大戦艦には、いつでも国賓クラスのVIPを迎えられるだけの設備
が整っている。
 艦中央の最も安全な場所に設置されたその部屋の内装は、華美とは程遠いながら、礼を失しない程度に西
洋式に飾られていた。
「イマイチ、殺風景な部屋ねぇ」
 改が付くとは言え、同じ大和級の大和や武蔵、それに本来の御座船も兼ねている紀伊の貴賓室を知ってい
る夕呼は、そんな不満を口に載せながら、霞を引き連れ部屋に入って来た。
 部屋の中央に白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが一つ、椅子が入口側を除く三方に、四脚用意され
ている。入って右手に並べられた席に、霞と並んで着席する夕呼と霞。本来なら、案内他を担当する給仕役
の兵がいるのだが、今回はそれすら断っている。
 この会談、会食に同席するのは、悠陽側からは悠陽、真耶、それに武に純夏。夕呼側は夕呼と霞だけとな
っている。非公式とは言え、政威大将軍が臨席する場で、ここまで少人数態勢は異例中の異例と言える。
 それだけ、殿下もあの連中に興味津々ってわけよね……
 悠陽とは協力関係にあり、それなりに信頼を築けていると夕呼は思う。だが、彼女と夕呼の間では、決定
的に違う点があった。
 悠陽は、光神現象の解明追求にこそ、人類の救済があると信じていて、夕呼は自身が最高責任者である『オ
ルタネィティヴ第四計画』の完遂こそ、人類勝利の道があると思っている。
 夕呼が悠陽に力を貸しているのは、未知の現象への好奇心と、それを解明することによって自身の手札を
増やすこと、それと悠陽の迫力に気圧されたからだ。
 今、ここにどう言う天の配剤か、光神現象の当事者が、異世界からやって来た。しかも、光神現象とは無
関係の巨大兵器を持参で。
 これは、光神現象と抱き合わせで、オルタネィティヴ第五計画と何とか拮抗している状態の今を、打破す
るに十二分すぎる材料だ。
 魔女、女狐と呼ばれる自分の交渉能力、今日は全開で使う気でいる夕呼だった。

 夕呼に遅れること五分、ドアが開き、簡素であるが上品な洋装に身を包んだ悠陽が、斯衛の軍装に着替え
た真耶を引き連れ、入室してきた。
 立ち上がり、一礼をして悠陽の入室を迎える夕呼と霞。夕呼も軽く礼を返し、彼女に用意された入口正面
の上座に向かう。本来なら、入室順も彼女が最後であるべきなのだが、今回、悠陽は礼を尽くす立場にある
と言い、シンジの入室を迎える為、先に入って来たのだ。上座も譲ると最初は言っていたのだが、それは国
事代行者として許されることではない、と諫められていた。
「八時間ぶり、ですわね殿下」
「そうですね」
 互いに軽口のような挨拶をして。悠陽は真耶に引かれた椅子に腰を下ろす。
「殿下、ぶしつけですが、よろしいですか?」
 夕呼がさっそく、切り込んでいく。
「はい、なんでしょうか、副司令?」
「今回の、異世界人との交渉、殿下は何をお望みで?」
 前フリも何もなく、直球で夕呼が悠陽に訊いた。僅かに、悠陽の形の良い眉が動いた。
「何を、とは?」
「ぶっちゃけて言いますと、連中の扱いについてです」
 悠陽は、これが魔女とも言われる夕呼の政治家としての顔か、と初めて見る彼女の一面に警戒を覚えなが
らも、表情を変えることなく、
「帝国を代表して、謝意を伝えたい、それが第一です」
 悠陽にも思惑はある。だが、シンジ達に感謝の気持ちを伝えたい、これは悠陽がこの席を設けた理由の第
一であることに揺ぎはなかった。
「まぁ、帝国としては、あわや首都陥落かという事態を回避してくれたり、帝国全軍を以てしても成し得た
かどうかわからない悲願の佐渡島奪還を、勝手にやってくれたり…… 確かに、足向けて眠れないほどの恩
人ですわね」
 肘をつき、顎を手ののせ、揶揄するように言う夕呼。悠陽の背後に控える真耶が、礼を失する夕呼の態度
に口を挟もうとしたのを、悠陽は目配せで抑える。
「それと、彼らが望むのでしたら、日本帝国の庇護下に置かせていただければ、とも考えております」
「それも、妥当ですわね。早いトコ、連中の立場を確定させておかないと、色んなトコロからのやっかみ攻
勢が始まりますから」
 もう、始まっているのかもしれませんね、と意味深なことを付け加える夕呼。
 確かに、シンジ達の出現は、様々な波紋をこの短時間で世界中に広げている。衛星からの映像を提供して
いる米国が、情報の早期開示を半ば恫喝まじりに迫っている、という話が悠陽の下にも上がってきている。
 頭が痛いのは、親米派の国内勢力が、佐渡島でのシンジ達の軍事行動を主権侵害と言い、彼らの即時拘束
と武装解除を言い出していることだ。
 この世界の趨勢は、これから始まる会談に掛かっている、と悠陽は大袈裟ではなく、そう思っている。
「白銀、入ります!
「鑑、遅れました!」
 ドアが勢いよく開き、武と純夏が入ってきた。武は黒の、純夏は桃色の斯衛の軍服に着替えている。
「鑑、白銀、もう少し節度を持って行動しろ」
 真耶が眉間にシワをよせ、叱責する。それを受け恐縮する武と純夏の姿は、悠陽と夕呼の間にあった緊張
の糸を解す効果があったのようで、二人は顔を見合わせ、苦笑し合う。
「話は、白銀曰く『信頼できる』イカリシンジくんが、いらしてからですわね」
「そうですね。鑑曰く『太鼓判押しの良い人』の碇シンジ様がいらしてからです」
 二人で申し合わせたように言うのを聞いていた、武と純夏が、二人から立ち上る謎のオーラに気圧されな
がらも、控えめに手を挙げた。
「……そのシンジなんですが」
「ドアの外で待ってもらっているんで、入ってもらっていいですか?」
「「早く入ってもらいなさい!」」
 二人の見事にシンクロした声に、背筋を伸ばし、ドアを開く武と純夏。
 そして、待ち望んだ少年が姿を現した。


 時間を少し戻して。

「あれ、タケルくんとスミカさん?」
 三人連れ立って目的の部屋へと歩いていくと、反対からドタドタと早足で駆け寄る二人組があった。
「おぉ、シンジ…… って、なんだ、そのカッコ?」
「でも、なんか似合ってるね、ソレ」
 シンジを見つけ、声を掛ける二人。両者は、ちょうど貴賓室のドアの前で鉢合わせた。
「二人の軍服姿も、けっこうカッコイイよ」
 と、シンジに褒められ、満更でもないのか、照れを見せる二人。
「お前ら、ちょうど良かった」
 このまま立ち話でも始まりそうな雰囲気を察したのか、シンジの後ろに控えていた真那が割って入る。
「中に先に入って、碇様をご案内していいか聞いてきてくれ」
「あ、はい」
 そして二人は、勢いよくドアを開き貴賓室の中に入っていった。勢いがつきすぎて、真耶に窘められてい
る声が聞こえる。
「……では、私たちはここまでです」
 待っているわずかな間、真那はシンジに言葉を掛けた。
「……ご武運を、碇様」
 彼の傍を離れるのは名残惜しいが、自分がこの先に進める立場ではないことはわかっている。この先の案
内は純夏達に引き継がれ、自分たちの出番はないかもしれない。そう考えると、永の別れのような寂しさを、
真那は感じてしまっていた。
「……早く入ってもらいないさい!」
 ドア越しにも聞こえる大声の後、両開きのドアが開かれ、シンジは中に招かれる。
 シンジが中に入っていこうとする足を止め、真那と神代の方を向いた。何事、と首を傾げる二人にシンジ
は笑顔で言った。
「では、また後で」
 そのシンジの言葉に、先ほどの惜別の念など忘れ、瞬時に有頂天になってしまう真那だった。


「失礼します」
 軽く頭を下げて入って来た少年、碇シンジの姿を見た夕呼は、いきなり意表をつかれてしまった。
 ―なんで、うちの訓練兵の制服着ているのよ?―
 異世界人が着ているモノに目が奪われることはないと決め付けていた夕呼は、出鼻を挫かれた形になって
しまう。
 気を取り直し、改めて碇シンジの観察に入る夕呼。
 身長、体格等は武が申告した通り。顔つきも中性的で整っている、とまりもが称したのも分かる。周りに
も中々いない美男だということには夕呼も同意したい。だが、夕呼はシンジをザッと観察して、感じた第一
印象は、
『厄介なヤツ』
 だった。何が厄介かは分からない。だが、容易くこちらの意のまま操れるタマではないのは、ひと目で分
かってしまった。
―しかし、なんなのよ、コイツ……―
 そして、夕呼の感覚に一番引っかかっているのが、シンジの落ち着きようだ。コイツ、見た目だけ少年で、
中身五十歳とかじゃないの、ってくらい老成している気がする。
 どんな人生経験積めば、こんな落ち着いた雰囲気をこの歳で身につけられたのか、そっちの方が気にな
ってしまう。
「……で、あちらが、国連軍新潟基地副司令、香月夕呼博士と、助手の社霞だ」
 夕呼が思考を巡らせている間に、武による参加者紹介が始まっていた。夕呼は、立ち上がり、
「香月夕呼よ、よろしくね」
 と、素っ気ないともとれる挨拶ですます夕呼。すかさず、反応を見るが相手は、ごく自然な笑顔を浮かべ、
「碇シンジです」
 と短く答えた頭を下げる。やはり、感情のブレは見られない。
―これは、ホントに一番厄介なのが来たかもしれないわね……―
 純夏に先導され、用意された席に座るシンジを見ながら、夕呼は気持ちを引き締めるのだった。


 悠陽も、シンジが白学生服を着て現れたことに驚いてしまった。
 だが、夕呼と違い、観察しようとか考えてなかったおかげか、すぐに服だけでなく碇シンジという少年の
全体に視点を移し替えることができた。
 背は横に並ぶ武より少し低く、体格も一回り細い印象をうける。面差しは、中性的で猛々しさは感じられ
ない。だが、純夏が言っていたように、挙措に無駄がなく、ひ弱な印象はなかった。
「こちらが、日本帝国政威大将軍、煌武院悠陽殿下だ」
 武が彼らしい、ざっくばらんな紹介をシンジにしたのに合わせ、席を立ち、軽く頭を下げる悠陽。
「煌武院悠陽です」
 と、名のみを告げる挨拶に、シンジも軽く頭を下げ、
「碇シンジです」
 と返してきた。その彼の態度は、悠陽に新たな驚きを与えた。
 シンジは、自分と対等の位置にいる。少なくとも、彼自身は、悠陽の下にいるという意識は微塵もない。
それが、彼の自然な態度から察することができた。
 悠陽は、知らず人の上に立つことになれていた自分の考えを、慢心と戒める。
 自身と対等な相手として、シンジに向き合うことを自分に課す悠陽だった。


 武、純夏に導かれて、加賀の貴賓室に入室したシンジ。欲をいえば、親身になってくれた真那にも一緒に
入ってほしかったが、彼女にも立場があるのだろうと諦めることにする。
 シンジが入室して、まず感じたのが、部屋の中に漂う、ある種の緊張感だった。高位の身分の人が纏う独
特のオーラが、このような雰囲気を創りだす、とシンジは過去の経験上、察していた。
 部屋に入って、正面に一人、その後ろに一人。右側に二人。四人の女性が自分を見ている。ドアが純夏に
よって閉められ、武がまず正面に座る、御剣冥夜そっくりの少女を手で示して、紹介してくれた。
「こちらが、日本帝国政威大将軍、煌武院悠陽殿下だ」
 そんな紹介でいいの、とシンジが気になるほど、武がざっくばらんに悠陽を紹介してくれた。その言葉に
合わせ、悠陽が席を立ち、シンジに軽く頭を下げてきた。
「煌武院悠陽です」
 名のみを告げる挨拶。一連の流れをシンジは頭に纏めていく。この国の最高権威という悠陽が、席を立ち、
礼をしてきたということは、この場は略式であっても拝謁、という形ではない。儀式、でなく会談の形であ
ることが改めて確認できたら、自分のやる事は一つだ。
「碇シンジです」
 同じく、名のみを告げ、頭を下げるシンジ。自分は大作と自分の立場主張をしっかり告げるのみ。それに
は上でも下でもなく、対等を持って望む。
 そういう思いでシンジは悠陽を見つめる。自分を見つめ返す、悠陽の瞳の高貴な光の強さを、意識しなが
ら。
「で、後ろに控えるのが月詠真耶中尉。お前をさっきまで案内してくれた、真那中尉の従姉妹にあたる」
 武の言葉に合わせ、軽く頭を下げる真耶。同じ服を着ているし、真那に似ていると思っていたら、従姉妹
だったのかと、納得させられるシンジ。
「で、あちらが、国連軍新潟基地副司令、香月夕呼博士と助手の社霞だ」
 武に視点を右に導かれ、そこに座っていた妙齢の女性と、小柄な少女を紹介されたシンジ。女性の方が規
格外の人だというのは一見してわかってしまった。こちらを分析するように見ているあの目線、一筋縄で行
く人物ではなさそうだ。
「香月夕呼よ、よろしくね」
 軽く手を挙げただけの、素っ気ない挨拶。となりのウサ耳のヘアバンドをした小柄な少女が、
それに合わせ軽く頭を下げた。
「碇シンジです」
 先ほど、悠陽にしたのと同じ挨拶で返すシンジ。香月という女性、容姿端麗で上から目線っぽいところが
自分たちの保護者である葛城ミサトを彷彿させる。が、中身は彼女の親友だった赤木リツコ博士分が多分に
入っている気がする。
 あの二人を相手にすると思えばいいのか、と考えると、気が楽になるようであり、前途多難を感じるよう
でもある。色々複雑だ。
 隣にチョコンと座っている、助手の少女、社霞。髪や瞳の色から日本人ではないと勝手に思っていたのだ
が、日本名が出てきたのを意外に感じる。だが、彼女もこの場に臨席しているということは、某方の役割が
あるのだろう。もしかしたら、コンバトラーチームの北小介並の天才少女なのかもしれないと予想してみる。
 純夏に導かれ夕呼達と対面となる席に腰を下ろしたシンジ。武と純夏は、ドアの両サイドに、狛犬のよう
に控える形で立っている。
 さて、こう言う席では、どういう風に物事が進行していくのだろうか? 成り行きに任せていると、まず
悠陽が再び席を立ち、シンジに向き直った。
「さっそくですが、碇シンジ様」
 凛とした悠陽の声。また様がついたと内心呆れるシンジをよそに、悠陽は続ける。
「佐渡島ハイヴを破壊していただいたこと、帝国臣民を代表し、御身とそのご友人に、深く感謝致します」
 そこで言葉を切って、悠陽は深々と頭を下げる。
「本心より、お礼申し上げます。ありがとうございました」
 後ろの真耶が目を丸くしていることから察するに、悠陽がこのように振舞うのは珍しいを超えることなの
だろう。彼女の感謝の念に、打算などがないことがそれだけでわかる。
 シンジは、悠陽に会う為にこの場に来たことは間違いではなかった、と確信できた。彼女も、信頼できる人だと確信できたのだから。


 悠陽の一連の行動を、観察していた夕呼。赤心からでた真摯な悠陽の行動は、利を重んじる世界にいる夕
呼には、眩しく思える真摯さがあった。
「頭を上げていただけますか、悠陽様」
 シンジが、優しい声音で言う。シンジの言葉に従い、ゆっくり頭を上げる悠陽に、シンジは困ったような
笑顔で話しかける。
「僕も大作君も、実際あの場から逃げるのに必死で、意図的にやった行動じゃなかったんですよ。ですから、
そんなに感謝されると困ってしまう、というのが本音なんですが」
「逃げる、ってその場にいたら、やられていたとか?」
 そんなシンジの言葉を聞き、口を挟む機会と感じた、夕呼は言う。
「いや、キリがなさそうだったんで。知らない場所で戦闘行為を続けるのも、抵抗ありましたし」
 さらっと答えるシンジに、ケレンやハッタリの色はない。衛星からの記録映像から二万以上のBETAが彼らを強襲していたのだが、その攻撃を『キリがない』の一言で済ませるシンジの頭の中を覗いてみたい欲求
が、夕呼の脳裏を掠めた。
「それに、あのハイヴというのを、本格的に壊したのは、この場にいない大作君と、もう一人の仲間ですか
ら」
「もう一人…… 二人じゃないの?」
 アテが外れた思いがするが、ここは追求するところと、夕呼は続けた。
「ハヤト、とか言うの? それとも、ベンケイってヤツ?」
 今日、横浜で純夏が光神から授かった託宣には、四人の名前が出ていた。そのうち二人は確認できたので、
残り二人は、あの烏賊頭に乗っているのを期待していたのだが、一人だけのようだ。夕呼は僅かに驚きに揺
れたシンジの反応に満足しつつ、言葉を続ける。
「佐渡島では、へんな赤いのが烏賊頭になって、アンタ達と一緒にどっか飛んでいったけど、烏賊頭、ドコ
行ったの?」
 フフン、と話を自分主導に導けそうな気配を感じた夕呼。だがシンジに浮かんだ驚きは、
「赤いのが、ドラゴンで、烏賊頭がライガーですよね。それと、なんで隼人さんと、弁慶さんのこと知って
いるんですか? 僕、誰にも二人の名前を言った覚えがないんですけど?」
 素直な疑問になり、皆を見回すようにして訊いてきた。
「それに、弁慶さんも来てるんですか? 別口で跳ばされたのかなぁ」
 その口調は、本当に素朴に疑問を口にしているだけにしか見えない。拍子抜けした思いの夕呼。前に座る
シンジからは、交渉事に生まれる緊張感とかそう言った類のモノが一切感じられない。
「ベンケイ、って言うのは一緒じゃないのね?」
 カマを掛けるつもりで、訊いてみる夕呼。
「こっちに一緒には来ていないですね。まぁ、竜馬さんとも三年近くずれてますから、ずれたのかな?」
 と、これまたあっさり答えたあと、自分にもわからない疑問に首を傾げるシンジ。
 ……確信した。碇シンジは隠し事をする気が一切ない。その方が都合の良いはずなのに、夕呼はシンジの
態度に、ため息をつきたくなってしまった。。
「でも、なんで二人のことを?」
「あ、それはね……」
 と、改めてのシンジの疑問に、純夏が今日、横浜であったことを説明する。横浜でのことは、純夏と武に
絶対話すなと念押ししておいたのだが、しっかり守ってくれていたようだ。
 しかし、手札をさらさないようにとしておいた念押しも、純夏の説明に聞き入るシンジを見ていると、滑
稽に思えてしまう夕呼だった。

 夕呼と視点が違うが、悠陽もシンジを見ていて、自分でも説明できない、違和感のようなモノを感じてい
た。
 まず、気になるのが、シンジのこの落ち着きようだ。聞けば、彼は異世界からこの世界のこの日本に跳ば
されてきたとのこと。この一事だけでもパニックになってもいいと思うのだが、彼は心底落ち着いているよ
うに見える。
 夕呼が先ほどから何か仕掛けようとしたみたいだが、素直な対応を返して、彼女のペースに巻き込まれて
もいない。
「ゲッターは許さない、か。やっぱりゲッター線絡みみたいで、こっちに跳ばされたみたいだ……」
 純夏の説明に、一人納得しているシンジ。その彼を見て、悠陽はある事に気づいた。
「い、碇様は、ゲッターとは何か、わかるのですか?」
 知らず勢いこんで訊いてしまう悠陽。訊いてからはしたないと思い、顔を赤らめてしまう悠陽だが、そん
な彼女の様子を気にした風もなく、シンジはまた、あっさり教えてくれる。
「ゲッターって言うのは、ゲッター線で動くロボットの略称です。さっき香月博士が言っていた赤いのが、
ゲッタードラゴン、烏賊頭―って凄い例えですね―はゲッターライガーって言います」
 夕呼の例えに苦笑しながら、シンジが教えてくれた事実。あまりに淡々と語られた為、それが事実として
胸に染み入るまで、悠陽には間が必要だった。
 一瞬にして、人類の仇敵の巣を滅ぼした大いなる力。それが違う世界とはいえ、人の力によって造られた
ということの意味。悠陽は、朗らかに笑うシンジの笑顔の先にあるものを、考え始めていた。
「ドラゴン、ライガー、ねぇ。ところでアンタ、横浜で三年近く光っているモノのこと、聞いてる?」
「こちらの世界で、光神と呼ばれているんですよね、聞いています」
 問う夕呼の口調は、相手を卑下しているような砕けたモノになっている。だが、当のシンジに気にする様
子はないようだ。
「ひょっとして、アンタ、その光神のことも説明できるんじゃない?」
 !?
 揶揄するような響きの夕呼の問いは、悠陽にシンジを注目させる。
 問われたシンジは、初めて、答えを躊躇う素振りをみせる。やはり、人には言えない何か、秘密があるの
かとシンジの言葉を待っていると、
「その件も含めてなんですけど、先に悠陽様と香月博士に、こちらからお願いしたいことがあるんですが、
聞いていただけますか?」
 と、悠陽、夕呼双方に向けて、シンジは言う。
「……お願い?」
 妙な言葉を聞いた、と言う風に夕呼が片眉を上げる。悠陽も、シンジ側から、何か要求されることは想定
していたが、お願い、と彼から切り出されることに戸惑いを感じている。
「僕と大作君は、BETAと戦う意志があります」
 淡々と、だけど語られた短い言葉には、強い意思があった。そして、シンジの瞳には、それを強い光が宿
っている。その光に、悠陽は肌が粟立つのを感じる。
「その為に、力を貸してください。お願いします」
 頭を下げるシンジ。沈黙が貴賓室を包む。
 その沈黙を破ったのは、
「はぁ~~~……」
 と言う、夕呼の長い溜息だった。
「あのさ、訊いていい?」
 どことなく、投げやりな夕呼の言葉。シンジが頷くのを待って、夕呼は続けた。
「どうして、アンタ達はBETAと戦いたいの?」
 悠陽もその問いをシンジにしたかった。が、内なる興奮を抑えるのに必死で、言葉が出なかった。
「僕は、BETAという存在が許せません」
 短く言い切るシンジ。声音は先ほどと殆ど変わっていないのに、中にこもった感情が溢れている。この人
は怒っている、それが悠陽にも分かる。
「なんで? アンタはこう言ってはなんだけど、無関係でしょう?」
 夕呼がそのシンジの怒りに、水を差すように言う。反射的に、何かを言い返そうとしてしまった悠陽より
先に、シンジが答えた。
「例え僕の世界ではなくても、人を蹂躙する存在を、僕は許せないだけです」
「つまり、アンタのワガママってこと?」
 夕呼の言い草に、さらにカチンと来た悠陽だが、言われたシンジはその言葉に、楽しそうに笑って頷いた。
「ワガママ、そうですね。一番あっていると思います」
 人の為に戦うことを、彼はワガママと言われ、それを笑って受け入れている。
 その笑顔を見て、悠陽は思い出す。純夏は彼女に、シンジについて端的にこう言った。
『シンジくんは、いい人です』
 と。
純夏が押した太鼓判、その意味を自分は上辺でしか理解できていなかったと、悠陽は思い知る。
 この人、碇シンジは純粋に、この世界の為に戦いたいと申し出てくれている。
「そのワガママを聞けば、旅団規模以上の戦力が手に入るかも、だそうですわよ、殿下」
 夕呼が揶揄と諦観が混じりあったような、投げ遣りな口調で悠陽に話を振る。シンジの申し出は、普通な
ら話がうますぎて、かえって勘ぐってしまう提案だ。
 異世界からやって来た、という前提から怪しい人物が言うのだから、尚更、慎重に進めるべき話なのは、
理性では理解できた悠陽。
 だが、悠陽の感情は、すでに答えをだしていた。
「碇様」
 悠陽はシンジに再び向き直る。改めて自分を見つめるシンジの瞳の中の光の強さに向き合う。
 優しさだけではなく、それを支える強さを持つ光。この人はいったいどういう人生を送ってきただろうか、
そんな想いが悠陽に浮かぶ。
「貴方様の申し出、詳しくお聞かせください」
 悠陽に促され、シンジが具体的な話を短く説明していく。
「まず、今日、佐渡島で僕と大作君が無断で行ってしまった戦闘行為を容認してください」
 真っ先に、その事を持ち出してきたということは、シンジにはある程度、政治感覚が備わっていると見て
いいだろう。
「はい、わかりました」
「僕と大作君が、それと単独行動中の隼人さんの滞在許可を。あとは……」
 シンジの要求は、やはり自らの利を求めるモノではない。となると、彼があと、自分たちに要求すること
は予想できる。
「アンタ達のトンデモ兵器が戦える為の協力、それと滞在場所の提供と生活の援助、そんなトコかしら」
 黙っていられない性分なのか、シンジのセリフを横から取った夕呼。
「それに対する見返りが、アンタ達の参戦、でいいのかしら?」
 夕呼が並べたことは、シンジが言おうとしていたこととほぼ合致したようで、概ね、その通りですが、と
言った後、
「あと、こちらで光神現象と呼ばれている現象の、専門家を紹介できます。まぁ、ゲッター線絡みで僕たち、
この世界に来たようですから、その人も参戦してくれると、思うんですけどね」
 と、付け加える。これには、夕呼の目の色が変わった。
「何、ハヤトとかって言うの、ただのパイロットじゃないの?」
 身を乗り出さんばかりの夕呼。その迫力に、わずかに身をひいてシンジは答える。
「隼人さん―神 隼人って言うんですけど―、ゲッター線研究の第一人者なんですよ。横浜でのことも、興
味を持っていると思うんで」
 協力してくれると思いますよ、とシンジは言う。あの解明不能なのではないかと思っていた光神について
も、道が開けていくのを悠陽は感じていた。
 目を瞑りわずかな時間、今日この日に起きた様々な出来事を思い返す。そして、悠陽は純夏が受けた託宣
が真実であったことを確信した。
「碇様の申し出、日本帝国国事全権代行、煌武院悠陽の名に置いて、全て承りました」
 凛として言う悠陽。救いは来たのだ。なら自分は自分の為すべき事をするだけだ。その悠陽の覚悟とも言
える思いは、シンジだけでなく、その部屋にいた全ての人に伝わった。
「ありがとうございます、頼らせていただきます」
 即答とも言える間で、悠陽の想いに応えたシンジ。そんな彼を見て、夕呼はまた深い溜息をついて、こう
言った。
「わかったことがあるわ。碇シンジ、アンタ、馬鹿でしょ?」
 夕呼が悟ったように、シミジミとそう言った。言われたシンジは怒るでもなく、楽しげに笑って応える。
「よく言われます」
 あからさまな中傷と取られても仕方ない夕呼の言葉の裏に、言葉以外の意味があるのは悠陽だけでなく、
他の参加者にもわかったようだ。夕呼もシンジという人物を、ある程度、認めたのだろう。
「では、難しい話はここまでにして、食事に致しましょう。月詠、用意を」
「はい、畏まりました」
 悠陽の後ろで彫像のように控えていた真耶が、指示を受けて動き出した。


 この日、太平洋の片隅で行われた異世界人と日本帝国首脳の会談、それによって、BETAに蹂躙されてい
たこの世界の未来は、大きく変わることになっていくのだった。
 

 


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