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No.30479の一覧
[0] 【第十四話投稿】Muvluv AL -Duties of Another World Heroes-[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[1] プロローグ[なっちょす](2012/07/16 02:08)
[2] 第一話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[3] 第二話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[4] 第三話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[5] 第四話[なっちょす](2012/07/16 02:21)
[6] 第五話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[7] 第六話[なっちょす](2012/07/16 02:13)
[8] 第七話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[9] 第八話[なっちょす](2012/07/16 02:16)
[10] 第九話[なっちょす](2012/07/16 02:15)
[11] 第十話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[12] 第十一話[なっちょす](2012/07/16 02:17)
[13] 第十二話[なっちょす](2012/07/16 02:18)
[14] 第十三話[なっちょす](2012/10/28 23:15)
[16] 第十四話[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[17] キャラ設定[なっちょす](2012/10/28 23:18)
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[30479] 第十四話
Name: なっちょす◆78a9190c ID:14a27f1f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/09/10 01:21
―Report by Sae Usui―

突如私達の目の前に姿を現したのは、今まで見聞きしたことのない巨大なBETA
もちろん欧州でもこんなヤツは見たこと無い


『ック…!
 全機、予定地点よりさらに1km後退するぞ! ボサっとするな!!』


隊長の指示によって全機が一気に交代を始めた
同時に、巨大BETAが「口」を開ける
その開口部からは戦車級…続いて要撃級、要塞級の順にBETAが次々に姿を現した

隊長から更に1Km後退するという通信が入る

何も準備が整っていない状態でこの量を相手に接近戦をするのは、流石にXM3を装備していても分が悪い

再度エンジンを吹かし目的地へと跳躍
同時に一つのけたたましい警告音が私の耳を貫く


「レーザー照射!?」


反射的に操縦桿を押しこむ
高度計が一ケタ台にまで下がった所で水平に

この高度でも警告が出たってことは…

全方位にセンサーを走らせる


「隊長、レーザー照射を確認。
 予測位置、未確認種開口部!」

『こちらもレーザー級の照射を確認した。
 …社、支援砲撃を要請。 目標は未確認種開口部周辺1km!』


即座に後方の支援部隊に座標が送られる
一息もしない間に無数の砲弾が、空を切り裂いて飛んで来た


砲撃到達が早い!?


想像以上に後退していたことに焦りを感じたが、弾着のけたたましい轟音と爆煙がその焦りをも吹き飛ばす


『す、すげ…
 これなら楽勝だな』


…確かに凄い
けれども、その砲撃濃度の濃さにちょっと疑問を感じた

すぐに戦術マップを確認…

―成る程、増援部隊までもが支援砲撃を行っていたのか
それに光線級からの迎撃が少なかったことも影響しているのだろう

やがて、その虐殺の砲撃は止まり、爆煙

これだけの濃度の支援砲撃…
あの巨大種も無傷では済まないわよね


『なっ…無傷…だと!?』


そんな憶測は隊長によって崩された

爆煙が晴れたそこには、何事もなかったのかの様にあの超大型種がいた
見る限り、たいして傷も付いていない


『ハ、ハハハ…流石BETAじゃねぇか…
 流石のバケモン中のバケモンじゃねぇーかよぉぉぉ!!』

「平、少し黙ろう…
 そんな事、前からわかってた事でしょうに」


慎二を注意する一方で、私も同様の恐怖感を感じていた


―常識で捉えるな、BETAに常識は通用しない


まだ訓練生だった頃に教官に何度も言われたことが、今ここではっきりと理解できた


「…隊長、どうします!?」

『ちょっと待て、今考えている…』


考えなくてもわかる
あの砲撃を凌ぐ奴だ、戦術機の持つ火力では傷一つも無理…
完全な王手状態


「…」


でも、私達には奥の手がある
ただ、それは完全な自殺行為でもあった


『奴の内部でのS-11使用しかない…か』

「…やはり」


自決装置の要である、S-11の使用…
確実な起爆には一人の道連れが必要とする、我々戦術機乗りの最終兵器


『今ならば支援砲撃のおかげで奴までのBETAは少ない。
 故に光線級との間の障害物は、殆ど無いが…』


…つまりは無意味に等しい自殺行為


『―私が行く。
 碓氷、後は頼む』

「隊長、それは…」


言葉を発しかけた時、社ちゃんからの通信が入った


『…別の新たな支援砲撃、着弾まで後40』

「!?」×10

 
新たな支援…?
このタイミングで!?

瞬時に戦術マップを見渡すが、再装填や準備の整っている部隊はない


「じゃあどこから…」


砲弾が空気を切り裂く音が響いてくる
その音を発していた弾が、巨大種に吸い込まれてゆき、炸裂
ただの砲弾とは思えない爆炎が、その姿を覆った


『…初弾の命中を確認。
 続いて砲撃、来ます』


風切り音が重複し、未確認種を更なる爆炎で包み込む


『ほんと…何なんだよ…』

『この砲撃濃度…尋常じゃないわね』


凄まじい砲撃を目尻に、私はその主を探す


「いったい誰が…」


戦術マップの範囲を広域にしてみる

…戦域付近の海域に反応が2つ
瞬時に反応主の識別コードを見た

≪IJN BBー141≫と≪IJN BBー143≫…


…て、帝国海軍の大和と信濃!?


予想外の支援に、私は困惑する

帝国海軍が参加していた…虎の子の戦艦二隻だけで
それよりも、そんな作戦行動が近年にあったのか
そもそも何で帝国海軍が…

BETAの如く湧いてくる疑問に、私は思考が一瞬停止する
実際の戦場ならば死んでいたな…と、後になれば言えるが、この時はそれどころではなかった

…そしてそんな混乱の中、私は一つの結論に達した


―宏一の前任地はどこなのか?―


まだ知り尽くしたわけではないけど、アイツの性格的にミッション自体の難易度は下げていないどころか逆に上げていると思う…多分
とすれば、支援の量ないし質はこれよりも上だと考えるのが妥当ではないだろうか
そうなれば…

再度艦砲射撃の爆音が響く


―誰がどう見てもおかしい


どんな極秘部隊であっても、これだけの戦力を動員すれば何かしら情報や噂が飛び交うはず
ヴァルキリーズという極秘部隊に所属していれば、尚更…
でも、実際にはそういった事は一回も耳にしていない

つまり、虚無の任務という可能性が高くなる
―でも、わざわざ虚無の任務を実際の任務として偽る意義は?

自身の能力を誇る為?
…階級が下の者に“フランクに接してね”という奴が、そんな事にこだわるとは思えない

何かの作戦に向けての予行演習?
…未確認種のBETAを出す必要性は?そもそも、この量の支援が受けられる作戦に我々が参加できるのだろうか?

ほんの数秒だけ思考にふけるけど、やっぱり判らなかった


…やがて艦砲射撃の轟音が止み、爆煙が徐々に薄れ始めて行く

薄れた爆煙の向こうに見える、未確認種の影
その影に多少驚愕しつつも、体中が体液にまみれ、堅く閉ざされた開口部が開かれないのを見ると安堵の気持ちが込み上げた

再び振動
見れば未確認種がもと来た穴へと後退している

あの傷でまだ動けるとは…
流石はBETAと言うべきなのか


『新たな移動震源を感知。
 接敵予想まで凡そ450』


社ちゃんの報告に最早驚かない
いえ…驚けない


『社、震源主が先程の奴と同じであると仮定して、その予想出現位置はわかるか?
 大ざっぱでも構わない』

『…少し待って下さい。
 …
 ……
 ………出ました。
 マップに出します』


赤い円を中心に半径500m程の橙色の円がマップに表示される


『赤円部が移動震源がこのまま直進した際の出現位置、橙円部が予想出現位置です』


…今度は5Km前方
味方部隊が再編する余裕は十分


「各機、今のうちに補給を済ましとき」

『了解』×8



消費された量が少ないこともあってか、補給作業はあっという間に終わった

けど、部隊を再配置するには時間が足りない
どうやらここで迎撃することになりそうだ


『またあの支援を受けられると思うか?』

『さぁな?
 けどマーカーは健在だし、特にこれといった連絡は入っていないってことから大丈夫だとは思うな』


…たしかに気になる

出現までの時間を確認し、レーダーを見る

マーカーは平の言うとおり正常
社ちゃんからも連絡は無い

つまり、支援の方は心配ない
途中いろいろあったけど、意外に楽なシミュレーションだったなぁ
なんか拍子抜けsh…


…楽?


ふとシミュレーション直前の白銀と宏一の状態を思い出す

あの二人の腕は、間違いなくヴァルキリーズ内で一位二位を争うだろう
…いえ、そんなレベルじゃない
国連…もしかすれば全世界の衛士内の中でもトップレベル

そんな二人がヘタバるほどのシミュレーションが、こんな簡単なわけがない

焦るようにもう一度戦術マップを確認する

…接近する反応は一つ


「社ちゃん! 反応は一つだけ!?」

『震源三次元測定法で測定しても一つだけで…
 「規模は!? さっきのと比べて大きいとか小さいとか…!!」
 …音紋からの推測ですが、先程の物より小さいです』


―小さい!?


『ヴァルキリー2、どうかしたのか!?』

「いえ…ただ、あまりにも“楽”なのがちょっと気になって」

『…成る程、そういうことか。
 だが今は目の前の事だけを考えろ』

「そうですね…了解しました」


そうだ、今は目の前の事だけを気にしよう
気にかけてはおいても、何が起こるかは「開けてびっくり玉手箱」…だ
余計な心配は隙を生む―欧州で散々思い知ったじゃないの、私


『―…!
 震源の移動速度が上昇、浮上まで30秒!』


やっぱりきたか


『各機警戒怠るな!
 出てきたと同時に一斉射撃、支援砲撃の着弾を確認した後500m後退する』

『了解!』×8

『浮上まで…
 ――――5
 ―――4
 ――3
 ―2!』


…来るっ!!

霞ちゃんのゼロカウントと共に噴煙と振動が襲う

立ち上る噴煙の間から見える未確認主の姿…
そのまま減速することなく飛び跳ねる

もう何がなんだか…

そして空中にも関わらず開口部からは次々とBETAの陰が飛び出してきた

慌ててその内の一匹に狙いをあわせ、トリガーを絞る
しかし弾はBETAのすぐ脇に剃れてしまう
舌打ちしつつ照準を調整、トリガーにかける指に力をかけた


「ん?」


一瞬BETAの陰の周りが光った…様な気がした
まぁ誰かの撃った弾だろう―と気にせずにもう一度トリガーを引く

BETAの陰が突如揺れ、弾は何も無い空間だけを切り裂いた

空には無数の影
甲虫にしっぽが生えた様なシルエット
私達を見下すように、その影は空中に浮かんでいて…


……
………


――周囲の音が消える


………
……


全ての砲声が止み、戦術機の駆動音も止み、耳につくのは主機の音に仲間の声にならない驚愕音
角膜に直接投影される景色は妙に現実味を感じない
…確かにこれはシミュレーター
だけど、それとこの感覚は意味合いが違う


BETAが空を飛んでいた


かつて人類は空を使ってBETAに反撃した
光線級の出現以降も宇宙と僅かな空を使って抗戦している


コレが出来たのは何故か?

…答えは簡単だ
―BETAが空を飛ばないから


欧州で誰かが言っていた

“空は俺達の最後の楽園(エデン)さ。
狭くなろうが、低くなろうが関係ない。
 存在そのものが楽園なんだ”

…と


そんな空にまでBETAは立ち入ってきた
BETAへの対抗手段としての空は既に消え去った

…気がつけば手が震えていた


「なんで…」


怒りと恐怖が入り混じった手の震え
自然とトリガーにかける指に力がこもる


「なんで貴様らがそこにいるっ!!」


4門の銃口から一斉に劣化ウラン弾を弾き出す
狙いは殆どつけていない、ただの乱射
狙うも何も無かったから、そのほとんどは奴らには当たらない


「う゛らぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


何で叫んでいるのか、叫ぶことに意味はあるのか
そんなことはどうでも良かった
ただ、闇雲に私は引き金を引き続ける

傍から見れば、初めての戦場で混乱した新兵そのもの…


「さっさと落ちろぉっ!!」


まぐれで当たった弾が、明後日の方向へと弾き返されてゆく

―角度が浅いのかもしれない
――たまたま端に当たっただけ

―でも明らかに直撃の弾も
――固い場所に当たっただけ

弾かれる弾を見て、混乱する脳内とは別に私の理性は必死に疑問点を上げてきた
しかし、逆上していた私は適当な答えで満足してしまう

<<ピピッピピッピピッ!>>

耳に響く残弾警告音
見れば四門ともに残り100数発…


「…全弾喰らわせてやる」


警報に構わず、引き金を引き続ける
曳光弾の描く線が消え、残弾ゼロの警告音が鳴った


「装填っ!」


全門が再装填する迄のタイムロスは約10秒…
この間は…


「平っ!敵に牽制射撃!
弾幕を張りなさい!!」

『…あ…』

「平っ!!」

『…ち、ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!』


平が私と同様に闇雲に突撃砲を乱射する
やがて36mmの斉射が止み、次に120mmの斉射が始まった

けれど既に散開していた奴らには、あまり効果がない
それでも平は斉射を止めなかった

弾速の遅い120mmはいとも容易くかわされてしまう
しかし、そのうちの2発が一番大きいやつに当たった


「『やった!』」


平と私が同時に叫ぶ
続けて平が「ザマァ見やがれ」と言い掛けたその時、爆炎を割るようにそのBETAが飛び出し、平の機体を真っ二つに切り割いた


『…え?』


状況を理解し切れていない平の顔が映り、そして爆散する


「たい…ら…?」


信じられなかった
120mmを、それもAPSFDSという貫通力に秀でている弾を二発も喰らったのにもかかわらず、怯みもしない
とっさに支援射撃を呼ぼうとマップを見る


「え…嘘…」


そして驚愕した


砲撃部隊が飛び出した巨大未確認種によって

“踏み潰されて”

いたからだ

咄嗟に艦砲射撃を頼もうとする
しかし、たった二隻の艦隊はいつの間にか接近していた新種数匹に対しての対空戦闘で、砲撃できる状態ではなかった


「…上等じゃないかぁっ!」


スロットルを押し込み、機体を飛翔させる


『沙恵さん!?』


レーザー級がいるかもしれない戦域で高度を取るのは、確かに自殺行為
でも今はそんなことにはかまっていられない

未だにホバリングしている奴に狙いをあわせ、一気に真下からロケットモーターで急接近する
同時に両腕の突撃砲も撃った

真下からの攻撃に奴は一瞬怯む
まだまだこんなんじゃ終わらせない

そのまま上昇
…奴の背面、同高度

奴が腕を振りかぶりながら振り返る
気色の悪いその蟲のような顔が目の前に来る

その気持ち悪さに、一瞬だけ怯んだ
でもそんなことはどうでもいい


「これでも…喰らえぇぇこの蟲野郎ぉぉぉぉ!!」


ゼロ距離からの全射撃兵装による一斉射撃
120mmがただ榴弾ならこっちにも被害が出てたけど、弾種は徹甲弾
こっちには特に被害はない

そして120mmを6発ほど撃ち込んだ所で蹴り飛ばす
ピクリとも動かず、死体となった新種は落ちて行った


「次!! …後ろかっ!!」


後ろに回りこんできた奴に120mm四門による背面一斉射撃をお見舞いする
…全弾命中、このぐらいの距離なら朝飯前よ

レーザー照射警報が鳴り響く


!!


急いで今撃墜した新種の死体を追いかけ、隠れる
自由落下中にもかかわらずレーザーが死体を焼き、隠れ切れていなかった肩部装甲の端と左足の一部が一緒に溶け落ちた


「邪魔よ!」


残存レーザー級群に向けて弾倉最後の120mmを撃つ
着地と同時に再装填
黒こげの死体から離れると近くにいた静香の下へと寄った


『沙恵さん! あなた無茶しすぎですよ!』

「…説教なら後で聞くわ」


静香のいつもと変わらない声に、少し気持ちが落ち着く
ほかのメンバーの攻撃に支援攻撃を加える彼女の背中を守るように、私はその背後で接近する敵に向かって弾幕を張る


『くっ…硬いっ!!』

「静香、関節を狙ってみて」

『簡単そうに無茶をおっしゃって…
 やってみます!』


静香の射撃テンポが遅くなった
私もなるべく関節を狙うけど、支援突撃砲のようにロングバレルではない私の突撃砲では難しいにもほどがある


『きゃあっ!』
『うわっ』


大きな爆発音とともに、速瀬と鳴海が同時にKIA
みれば二人が固まっていた位置に、大きなクレーターと黒煙が立ち昇る


「…固まっていると危険ね」


背中の静香に伝えたとき、上空で滞空しつつ背中を光らせている奴を見つけた
咄嗟に狙いをつけ、突撃砲を数発撃ち込む

―発光部に命中

すさまじい爆発が起こり、その閃光に思わず目を閉じる
一瞬の後、目を開けた

爆煙は無く、爆発した奴とその隣にいた新種の姿が消えていた

爆発の規模から考えるに、あの発光部には相当なエネルギーが溜まっていたと考えられる
あんなものを撃たれちゃぁ、たとえ戦艦だとしても致命傷になるわね


「固まっていては危険ね…
 少し散るわよ!」

『了解です』


静香と散開し、即座に相互援護できるくらいの距離で交戦を再開
でも、不規則な機動と強固な装甲によって一匹も撃墜できない

やっぱり至近距離からの砲撃か接近格闘戦しかないんじゃないかしら

引き金を指切りで引きながら、私はそう感じた
そんな時宏一の言った言葉が頭の中に過ぎる


「部隊の最小単位は維持して下さい」


つまり「最低でも僚機とセットで行動しろ」ということなのでしょう
けど、速瀬や鳴海の例もある
確かにあの二人は固まり過ぎていたってのもあるだろうけど
でも、あのクレーターを見る限り、二機が離れていてもあまり大差がないようにも思える
それに私の時だって、単機で何とかなったじゃない

頭で納得し、スロットルを開こうとする…
しかし、私の勘と本能が無意識にそれを抑え込んでいた


『隊長! 後ろです!!』

『!?
 涼宮!逃げろォ!』


隊長の声と共に、再びあの爆発音
二人がいた場所は大きなクレーターと化していた


『…隊長! 涼宮!』


宗像が無線に呼び掛ける
でも、二人はそれに答えない


「宗像、隊長達はKIAと認定。
 残ったヴァルキリーズは私達だけみたい」


戦術マップをもう一度だけ確かめる
隊長と涼宮の二人がいた場所にマーカーは無く、味方のマーカーもかなりの数が消えていた
そしてまた一つ、味方のマーカーが行動不能を示す×印へと変わる


『…了解。 副隊長に合流します』

「わかった。
 援護するから早く…」


接近する宗像機を見た瞬間、その背後から数匹の新種が襲いかかろうとしていた


「宗像、後ろだぁぁぁ!!」


引き金を一気に絞る
この距離で、そして36mmじゃあ意味がないのは分かってる

でも牽制くらいにはなるはず…

そう願ってのことだけど、降る雨に濡れることを気にしないが如く新種は宗像機に迫って行く

宗像が機体を大きく左右へと揺らし、回避行動を取った
それでも一直線にBETAは宗像機へと迫る


「…もう少し、もう少し!」


あとちょっとで静香が援護を行える距離
私も我武者羅な射撃で牽制射撃を続けた


『追いつかれ…』


宗像機に一番接近していた新種が彼女を真っ二つに切り裂こうと腕を振り上げた
宗像が反撃しようと振り返る


『…そこです!』


奴の振り上げた腕が吹き飛んだ
そしてもう一方の腕も振り上げる前に吹き飛ぶ


「静香!」


静香の支援突撃砲による精密狙撃…
腕を吹き飛ばされた奴は、そのまま地面へと衝突、動かなくなった


『このっ!』


続いて宗像が追ってくるほかの新種に対し発砲
すると、たいしてダメージを与えたわけでも無いのに残りのBETAが散っていった


「よく当てたわね」

『敵の意識が宗像さんに向いていたので、見越し射撃しやすかっただけです。
 でも間に合ってよかった…』

『綾瀬中尉、支援感謝します』


宗像機が合流する
チラリと残弾を確認…

《Left》 《Right》
《Arm》
《RG-36_431/2000》 《RG-36_308/2000》
《GG-120_3/6》 《RG-120_2/0》
《Shoulder》
《RG-36_579》 《RG-36_446》 
《GG-120_4》  《GG-120_4》


…流石に撃ち過ぎた


「静香、宗像、そっちの残弾はどう?」

『突撃砲に200弱…予備弾倉が残り6です』

『こちらは36㎜が突撃砲に1200強、予備弾倉が残り2つ。120㎜は看板ですね…』

「あまり余裕はないって感じね。
 こっちも36㎜が500発程と予備2つ、120㎜が計20弱よ」

『…補給コンテナは?』


宗像の質問に私は戦術マップを確認する

…付近の補給コンテナからの反応なし
破壊されたか空のどちらか

一番近くのものは前線方向に約1㎞…
この状況じゃあ補給中に撃たれるわね


「近くにないし、一番近いとこで補給しても最中に撃たれるわ」

『弾切れが先か、奴らの撤退・殲滅が先か…ですね』

「…ともかく、敵を各個撃破しながら進むわよ。
 適切な距離を保ちつつ、孤立しないように。
 孤立したら…喰われるわ」


宏一の言った意味がようやくわかった

孤立すると、敵が一気に襲ってくる
宗像を襲った新種は、彼女からかなり離れていたのにもかかわらず一気に襲ってきた

―孤立は死―

何度も教わり、実感し、見てきた事…
違うことといえば、今回は一瞬でも孤立すれば非常に危険であるということ

操縦桿を握る指が震える
こんな緊張感は初めてだった


「それじゃ移動するわよ」


そう言いかけた時、再度警告音が響いた

警告内容は…
ロックオン警報!?


『ロックオン警報!?
 いったい誰が…』


警告音が点滅音から連続音に変わる

…ミサイル接近警報!


「ミサイルッ!!
 ブレイク!ブレイク!!」


AH教本通りのデコイを組み合わせた2次元緊急回避
同時にミサイルを視認するため、レーダーに目をやる


「っ!?…ったく多すぎよ!!」


反応は100以上…
最低でも一機に30発は向かってきている

ミサイルを視認
再度デコイを発射し、不規則にシザース機動をとる

ミサイルはデコイを無視
不規則な3次元を描きながら、こちらへと向かってくる


「デコイが効かないっ」


全火器を自動迎撃モードに
これで回避に集中できる


あぶっ!?


数発を寸前のところでかわす
でも回避したミサイルは再度私の方へと向かってきた


…こいつ、しつこい!


迎撃のモードを接近優先から任意優先に
かわしきれ無そうなミサイルを指示する


『あ!駄目…』


静香との無線が切れた


「静香? 静香っ!?」


レーダーを確認…
…反応なし、KIA

取り回しの悪い支援砲では全弾の撃墜なんて無理に決まっていた


『ッチ!ちょこまか動いて!
 当たんなさいよ!!』


宗像の叫びに内心賛同すると同時に、兵装担架の36mmが弾切れになった

撃墜した数は十数発…


「効率が悪い…
 手動でやるしかないか」


自動迎撃モードを頭部の20mmに限定
…残弾200も無いから1~2発撃ち落せればいい方ね


「…しつこいのよ!」


射撃管制の支援を受けつつ、バーストで1発ずつ落としてゆく
…こっちの方が効率が良いとは


「宗像、迎撃は手動で行え!
 こっちの方が効率が良い」

『っ…了解!』


残り数発となったところで、ミサイルが追加される

良い性格ねっ!畜生!!


「残り34!」


ミサイルとの距離がもうほとんど無い
回避行動をさらに鋭く、頻繁に…
左右からのGに骨が軋む


「ぐっ…この…」


右へ左へと移動しながら回避を取るけれど、機動力では圧倒的に不利
2次元だけじゃかわし切れない…!

…仕方が無いっ!!

ロケットモーターに点火
急速に高度を稼ぎ、三次元での回避運動を試みる


「こんなものぉぉぉぉぉぉぉ!!」


ミサイルが360×360度の全方位から襲ってくる
けれどこっちも動きに規制はなく、迎撃もかなり楽になった

高度を取ったのは正解ね


視界の端に大きな影がチラリと横切る


「来た…」


ミサイルの迎撃中に仕掛けてくるとは…本当、良い性格してるわ

残弾を確認…
微妙なライン

ミサイルの迎撃を右腕で、大型新種の迎撃を左腕で行う

さっき平が撃った120㎜は胴体部に直撃していた
つまりは、周りの小さい奴よりも装甲が固いという事…
しっかり関節を狙っていかないと、逆にこっちがやられるわね

正直、あまりやりたくないけれど…


「引きつけて…撃つ!」


トリガーを引く
奴との距離は150といったところ
狙いは正確

…そして外れた

奴は撃つ寸前にその図体から想像できない俊敏さで横に回避
狙いを修正するにも距離が無い


もういい、撃ってしまえ


関節部への精密照準を諦め、私はそのままトリガーを引いた
ただでさえ照準のブレる高機動状態での飛行…
ちゃんと狙っていないバラけ弾は、強固な装甲で全て弾かれる


ヤバイッ


その感覚と同時に、左腕の一部を突撃砲ごと持っていかれた

すかさず左腕の突撃砲で反撃を試みる
でも、ミサイルの存在がそれを許さない

しつこく鳴るミサイル警告音


「鬱陶しいのよ!」


接近していた残りのミサイルに向けて横なぎに発砲
運良く纏まっていたためか、一発に命中すると連鎖的に誘爆
全弾撃墜することができた

そして、その爆煙から飛び出す別の新種

反応が遅れる…しかし、トリガーを握る指は無意識の内に瞬時に120mmを発射していた
発射した2発の弾がバイタルゾーンに直撃したのか、命中と同時に力なく墜落していく

―残弾警告音


これで120mmはカンバン…


右側の腰部装甲には予備弾倉はあるけれど、右腕が無い以上装填はできない
36mmも残弾が今装填した分のみ
ほかの兵装は短刀が二振りとS-11…

…圧倒的に不利な状況
でも諦めるわけにはいかない


「このっ…」


違う方向から来ていた新種に向け突撃砲を撃つ
装甲で弾かれるけど、何割かは関節等の柔らかい部分に当たっていた


「いい加減しつこいのよっ!!」


接近してくる奴にそのままかまわず撃ち続ける
残り50を切ったところで奴の頭部が吹き飛び、慣性飛行ののちそのまま墜落して行く

残弾は1500ほど


次!


高度を落としつつ、索敵
左右から同時に1匹ずつ


「宗像! 援護頼める!?」


流石に片腕だけで2匹同時はキツイ
宗像に援護を頼むが返事が無かった


「宗か…」


もう一度呼ぼうとした時、彼女の機体が視界に入る

機体の胸部を新種の腕が貫き、それに抗うかのように水色の腕が短刀を新種の首と脇腹に突き刺していた


相打ち…
…これでヴァルキリーズは私一人だけ


味方戦術機は3割程度が撃墜され、残った殆どの機が行動不能
それでもなお残った味方機は、残存する支援部隊とともに新種以外のBETAと交戦している
沖の艦隊も深刻な被害を受けたらしく、支援砲撃は不可能

対する新種は、今来ている2匹を除いて探知できるだけでも12
その内8匹の進行方向は私のいる方角…


弾薬が乏しいのに
これじゃ理不尽もいいところよ


最接近中の2匹に意識を集中させる

もう、距離は殆どない
軽く牽制を加えてみる

片腕だけで飛行しながらの牽制射…
命中してるかどうかなんて、もとより期待していない

距離は400弱…


…賭けてみますか


機体を止め、90度旋回
一方の新種を正面にとらえ、牽制射撃を加える

射撃体制に入っていた新種が一瞬怯んだ
この隙にもう一方の新種にも牽制を加える

残り距離50―


「スモーク散布!!」


肩部装甲から発射された改良型の対レーザースモークが機体を覆う
同時にロケットモーターに点火

垂直方向への推力が一気に増大し、ホバリングしていた機体が一気に上空へと駆け上がった

入れ替わり様に新種がスモーク内に突入
鈍い衝突音がスモーク内から響いた

―残り8匹…!

光学望遠で新種の姿を確認
あのデカブツはいない…


それだけが幸いね

―…ん?デカブツ?
そういえば、さっきのデカブツはどこに行ったの?


もう一度レーダーを見る

…反応ナシ


それじゃあ一体…?


機体を振り返らせたその時、跳躍ユニットのパラメーターが一気に黒くなる

―跳躍ユニット消失…空中に浮かんでいた機体が推力を失い落下する


ヤバッ!?


着地姿勢を取るも、50mほどの高度からの落下に一部溶解した左足が耐えられなかった
吸収し切れなかった衝撃と、数々の警告表示が私を襲う


クゥ…ッ!


即座にパラメーターをチェック…

―結果は最悪
背面の一部が融解し、腰部装甲関節部に大きな支障
結果、脚部の稼働範囲に大きな制限が出来てしまった
さらに左足の損傷は深刻な状態であり、通常歩行ですら非常に困難…


流石に笑えないわね


機体を立ち上がらせようとする
同時に前方から動体反応

…正面衝突した奴の片割れが、無事な腕を使ってこっちへと這いずり寄ってくる


お前は死んでろ!


突撃砲のトリガーを引く
弾かれると思っていた弾は、さっきとは違い弾かれること無くBETAを貫いた

BETAが沈黙すると同時に、再び動体反応

咄嗟に銃口を向けるも、突撃砲を弾き飛ばされてしまう


デカブツっ!


横薙ぎに切りかかる鎌を、半分切り落とされた左腕で何とかいなす

崩された姿勢の制動で、大きく機体が沈み込む
左足の影響で大きな制動動作となったけど、それのおかげで偶然連撃をかわす事ができた

右手に短刀を装備
左腕で連撃を受け、短刀をその頭部へと突き刺す


浅いっ!


右腕が切り落とされた


まだまだぁ


右足をバネに、デカブツへ体当たりをかます
不安定な姿勢だったから、そのまま機体も一緒に倒れこむ

でも…


「これでおしまい、よっ!」


残った左右の腕を振り下ろし、浅く刺さっていた短刀を思いっきり刺し込ませる

私を振り落とそうともがいていたデカブツの動きが硬直し、そしてその四肢が力なく倒れこんだ



さて、どうしようかしらね…


深呼吸を一回し、とりあえず機体を起き上がらせた
パラメーターをチェック

機体の至る所が大破寸前
短刀が一振りまだあるけれど、それを持つ手が無い
けれど、幸いなことに“アレ”だけは未だに健在だった


流石にもうこれしかないわね


レーダーを確認
さっきの8つの反応は既に光学望遠ナシでも確認できる距離にいる


置いていく時間も無いわね


S-11起爆スイッチの蓋を開ける

ハイブ内以外ではこれのお世話にはなりたくないとは思っていたけれど、状況が状況なだけにワガママいえない


「なるほど…
 確かにあの二人がへたばる訳だわ」


8つの反応がすぐそこまで来たとき、私はそのスイッチを叩いた


―Sae's Report end―


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最後の投稿から2年余り放置し、申し訳ありませんでした。
言い訳をさせていただければ、PCのHDDデータが全て消えたことによる各種データやモチベーションの消失、進学による学業面の多忙等、様々な要因で十四話の執筆が進まず、このような結果となりました。

お知らせしていた修正については、未だ完成しておりません。
修正話の完成次第順次差し替えてゆきます。

この修正については、自身が後先考えずに物語を設定・執筆し投稿した事が原因です
これによって小さな修正を繰り返す結果、本来書きたかった物とはズレた物になりつつあったためです。
修正内容についてですが、ストーリーの展開・戦術機・BETA・登場人物等にあまり大きな変更を加えてはないものの、一部変更してる点が多々あります。


修正ばかり行い、また、投稿が大幅に遅れてしまい本当に申し訳ありません。
相変わらずの文章力ですが、よろしくお願いします。



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