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No.30479の一覧
[0] 【第十四話投稿】Muvluv AL -Duties of Another World Heroes-[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[1] プロローグ[なっちょす](2012/07/16 02:08)
[2] 第一話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[3] 第二話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[4] 第三話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[5] 第四話[なっちょす](2012/07/16 02:21)
[6] 第五話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[7] 第六話[なっちょす](2012/07/16 02:13)
[8] 第七話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[9] 第八話[なっちょす](2012/07/16 02:16)
[10] 第九話[なっちょす](2012/07/16 02:15)
[11] 第十話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[12] 第十一話[なっちょす](2012/07/16 02:17)
[13] 第十二話[なっちょす](2012/07/16 02:18)
[14] 第十三話[なっちょす](2012/10/28 23:15)
[16] 第十四話[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[17] キャラ設定[なっちょす](2012/10/28 23:18)
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[30479] 第四話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/16 02:21

―国連軍・横浜基地・屋外廃墟演習場―

飛鳶と蒼い不知火は廃墟となった柊町の一角を利用した演習場の一角に立っていた


「―って作戦なんだが、どうよ?」


「大体は理解できたけど、そんなウチの機体を信頼しても良いのかい?」


「おう!
 スペックを見させて貰ったが、あれなら大丈夫そうだ。
 それにECS…だったか? あれスゲーな!!」

「あぁ、実際アレのおかげで何度か命を救われてる。
 …実はECSにはもう一つ機能があるんよ」


「マジか!? なんだそりゃ?」


「フフーフ。 秘密」


「勿体ぶるなよぉ~」


「ははは。まぁいつか教えるよ」


「頼むよぉ?」


「おう」


タケルは宏一に作戦を提案、宏一はそれを了承した


「あ~ 念のための確認だけど、そっちのOSはXM3だっけ?」


「そうだよ」


「なら大丈夫だな」


『ピアティフです。
 訓練開始二分前を切りました。戦闘状況の再チェックを行います』
 

CP役を務めるピアティフが角膜に映される

『想定は両陣営共にCPは壊滅。
 勝敗はどちらかの隊が全機大破、行動不能判定を受けたときのみとします』


続けて戦略マップが投影された


『今回のエリアはポイント35-04を中心とした東西南北に5km四方のみとします。
 尚、エリアオーバーは即大破、行動不能判定を下します』


戦略マップが閉じ、再びピアティフの顔



『タイムリミットは30分です。
 …では開始まで5』


五秒のカウンターが表示され、ピアティフがカウントを始める


宏一がフットバーを軽く踏む


『―4』


タケルは深呼吸をする


『―3』


飛鳶のエンジン音が高くなる


『―2』


両機が脚を屈折させる


『―1』


頭部が前を向く


『―0、スタ
 「いっくぜー!!」「ロックンロール!!」
 ート』


0のカウントと共にタケルと宏一の両名が吼え、両機が疾走する



――みちるside――

ピアティフ中尉の合図と共に戦略マップの横にタイマーが現れ、同時にピアティフ中尉の顔が消える
つい数時間前の戦闘を思い出す
見たこともない、今までの既成概念を根本からぶち壊すような機動…
流れるような攻撃…
そのすべてが見る者を魅了し、困惑させる

機体の性能もあるのだろうが、私にあの様な機動が出来るのだろうか?


ふと考え込んでしまう

しかし、今は模擬戦とはいえ作戦前…
気持ちを切り替えなくては


…よし、やるか


通信が開く
相手は速瀬。オープンチャンネルか


『大尉~
 大尉は今回の模擬戦相手について何か御存じですか~?』


「いいや、何も聞いていないな。
 しかし、相手が新人のワンエレメントだけとは聞いた」


『エレメントのみとは、随分とナメられたものですね』


今度は宗像か…
まぁそう思うのは無理もない事だな


「言うな宗像。
 我々は相手が“たった二機の新人”であろうと、常に死力を尽くすのみだ」


『うわっ!! 大尉もサドですね~』


「…何か言ったか、速瀬」


『いいえ!!なんでもありません』


他の隊員から笑い声が出る
戦闘前の緊張解しにはなったか?


告知音が響き、秘匿回線が開かれた
相手は碓氷


『それにしても隊長…
 六機相手にエレメントのみって異常じゃないですか?』


「あぁ。
 だがあの副指令の事だ。何かあるのだろう」


『そうですよねぇ…』


「そろそろ接敵予定時刻だ。切るぞ」


『了解』


回線を切ると陣形を組むように命じた


鳴海と平の二名とそのほかの隊員が居ない故に臨時に編成した陣形では強襲前衛・強襲掃討がいないが、其処は突撃前衛の碓氷と速瀬が埋める事となっている
あの二人なら新人相手に苦戦する事も無いだろう


『―警告!12時方向、反応2』


碓氷が振動センサーの反応を知らせてきた

皆の顔つきが変わる


センサーに気を払いつつ、廃墟を盾にして待ち伏せの用意を指示した
反応は500m程離れたところで止まり、内1つが近づいてくる  


…遅れてさらにもう1つ


振動パターンから主脚移動…舐められたものだ





先頭が残り100mに近付く

既に各機に目標を分別している
残り75m… あともう少し

金属製の主脚がアスファルトの道路を踏みしめる音がセンサーを通じて機内に響く
残り50m… 今だ!!


「全機、オールウェポンズフリー!
 ぶっ放せ!!」


『『『―了解っ!!』』』


私の命令とともに六機の不知火から計12本の36mmと120mmの火線がそれぞれの目標に向かって延びてゆく

立ち上るペイント弾の飛沫と廃墟の破片…
敵の斥候はペイント弾だらけになったとハズだ

…しかし、この嫌な予感は何だろう?


煙が収まる…
しかし、其処にあるのはペイント弾が付着している廃墟とその破片だけだった

やはり当たったか!

急いでレーダーを確認するが、反応は私の目の前をちょうど過ぎていくところだった

ダミーフリップだとっ!?


「全機に通達! レーダー反応はダm…」


―ダミーだ…そう言いかけたとき、視界の上端を黒い陰が通り過ぎていった
反射的にそちらを向く

其処にはあの黒い機体がが既に此方に銃口の一つを向けて…

―閃光―


経験が無意識に機を回避させていた
そのおかげで自機の損害は軽微
全く支障は無い


しかし、一瞬悲鳴が聞こえた気がした


誰が喰われた?
ともかく反撃を…


そう思ったときには、既にその機体はこれまた見たこともない機動で離脱していた


『涼宮機、宗像機…主機及び管制ユニット部被弾により衛士死亡、大破。
綾瀬機、左腕にクラスAの損傷。使用不能』


ピアティフ中尉の撃破報告…
喰われたのは涼宮と宗像か

涼宮は分かるが、宗像を失ったのはキツイな


『な、何なんですかぁ!? あの機動!?』


速瀬がやや興奮気味に叫ぶ


「分からん…
只、あれがエレメントの理由だろう」


『アレが新人…』


綾瀬がニヤケ顔で楽しそうに言う
こういう時の綾瀬はちょっと怖いな


『―もう一機はっ!?』


碓氷が叫ぶ

…油断した
レーダーが使えない今、頼りになるのは自分の目だけだということを失念していた
各自があたりを見渡す
碓氷の後方に一機の水平噴射跳躍で接近してくる不知火

武装は87式と追加装甲…突撃前衛か!


「ヴァルキリー2、六時方向!!」


叫ぶと共に87式を放つ
が、その不知火は廃墟を蹴り、三角跳びをするように回避していった


…本当に不知火なのか?


ビルの屋上に着地すると同時に87式を私に放ってくる
左手に装備している追加装甲で防ぎ、右手の87式で応射
碓氷達もそれに続く
しかしこれらも予想もできない三次元機動で回避され、機影はビルの裏に消えていった


『隊長…
あれ不知火ですよね?』


「ああ…
外見からすればそのはずだが…」


『不知火でさえあの機動…いったい何者よ』


碓氷がやや引き気味で言う


「わからない… 
ただ、只者ではないことは確かだ」


本心を告げる
香月博士から両者共に只者ではないと聞いていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった

さて、どうする? 伊隅みちる…

広い場所に行くか? …いや、レーダーが使い物にならない今は危険だ
ここに留まる…それも危険
なら主脚移動しながらの索敵…先程の二の舞になるな
ならば―


「全機、ビルの上をホライゾナルブーストで飛行。奴らを混乱させるぞ!
ひょっこり出てきた所を各個撃破だ」


『『『―了解っ!!』』』


通常なら自ら姿を曝すのは愚者が行う行為だが、それも“通常ならば”の話

相手が通常じゃないなら、此方も通常でなければいい

空中戦ならあの不知火も廃墟を利用した機動も不可能だろう…
そうすれば撃破は容易い

問題はあの黒い方だ…
あの機動をどう押さえるかに全てがかかっている


各部をチェックし、一応レーダーも確認する
オールグリーン
フットペダルを踏み、ビルの上に上がると同時にスティックを倒してMOEに移行する
残りの三機も私に続いた





不知火の方は意外にも早く釣れた

…だが、早くも計画は崩れる事となる
戦力差にして4対1と周囲から見れば圧倒的だが、実際はややこちらが圧倒され気味だった

第一に近づけない

繰り出される弾幕は的確で接近を許さず、そしてあの機動…
廃墟を利用した故の高機動ではなく、元々の操縦センスが高機動なのだ


たぶん私にあの機動は無理だな


そんなことを考えながら120mmを予想進行位置に放つ
これは回避しづらいはずだ
しかし背面を向けていたにも関わらず、これを意図も容易く回避される


…ッチ


『ヴァルキリー2、Fox3!!』


碓氷が着地時の硬直を狙って87式を放つ
だが着地した不知火は硬直せずに36mmを巧みに回避していった


ホントに何なのだ?あの機動は…


私は36mmを放ちつつ、周囲を警戒する
無論あの黒い機体がいつ来るか分からないためだ

一瞬目を離したすきに事態は好転していた
4機からの掃射を浴びている不知火は、その弾幕から逃げるようにビルの裏へと隠れた
しかし、其処はビルにサンドイッチされている場所…
逃げるにはビルを飛び越すか、左右に出るしかないのだ

まさに袋の鼠といったところか


「ヴァルキリー3! 今だ!!」


私は透かさず綾瀬に指示を出す


『了解!
ヴァルキリー3、Fox1!』


綾瀬機の肩部に装備している92式多目的自律誘導弾システムから32発のミサイルが至近距離から放たれる
新人もミサイルに気が付いただろう
しかし、放たれたミサイルを撃墜する為には射角の関係上一旦姿を出さなければならない
だが、頭を抑えられている状況でその様な行動は自殺行為でもある

意外にも呆気ない最後だったな
私はそう感じた

だが、その考えは直ぐに打ち砕かれる

明後日の方向から36mmの火線が延び、全てのミサイルが瞬く間に撃ち落とされる


…気を取られすぎた!


すかさず火線の元に87式を放つが、すでに遅かった
両手にマチェットのような短刀を逆手に構えた黒い機体は、不知火を押さえつけていた碓氷機に舐めるように接近し、その横腹に膝蹴りをいれた


『きゃあぁぁぁ!』


碓氷の悲鳴がイヤホンに響く
膝蹴りをお見舞いした黒い機体は、その反動を利用して綾瀬機に切りかかった

一方、隠れていた不知火も「待ってました」と言わんばかりにビルの影から姿を現す
と、同時に87式を乱射しながら反対の腕に長刀を装備、接近してきた

罠か…
だが、面白い…!!
思わず口元がゆるむ


「ヴァンキリー2・3! そっちは任せた
『『りょ、了解!』』
ヴァンキリー5! 行くぞ!
『了解!!』」


追加装甲で銃撃を防ぎながら速瀬に指示を出しつつ、再装填
接近してくる新人機

速瀬が撃った

ひらりとかわす

こっちも援護射撃

それもひらりとかわされる

…しかし、速瀬はそれを狙っていたのだろう
跳躍ユニットを吹かし、ヘッドオン
追加装甲を投げつけた

だが新人機は飛んできた追加装甲を長刀で両断する
…あれ訓練刀よね?

しかし速瀬は構わず突っ込む

二機が交差
スーパーカーボンの刀身がぶつかり、火花が舞う
その衝撃でか、速瀬が一瞬バランスを崩しかけた
新人機も同じくバランスを崩すが、そのまま速瀬機に87式のバースト射撃を繰り出した


『速瀬機、右腕にクラスBの損傷。 動作を規制させます』


『っち、やるわねぇ!!』


着地と同時に速瀬と新人機は87式を破棄
距離は300程 …互いに見つめ合う

…さて


「速瀬。フラットシザーズで行くぞ」


新人機を挟んだ反対側にいる速瀬に言う


『了解、大尉』


返事を聞くや否や、グイッとペダルを踏み込む
跳躍ユニットが吠え機体が前進
急激なGが襲ってきたが、もう慣れた

サーフェイシングで接近しつつ機体を不規則に左右にブレさせる

残り…100―


「今っ!!」


新人機の斜め後方に来たところで一気に直進
機体をロールさせつつ長刀を構える

一方の新人機の斜め前方…
丁度私の進行方向上では、速瀬機が突きの姿勢で接近していた
この位置関係ならどちらかが回避されても、もう一方のが…
最悪、私の87式を使えば良い

これならいける!


「『―貰ったぁ!』」


―ッガ!―


「…グゥ!?」


…振りかぶった長刀が命中する寸前
強烈なGと共に私の天地が逆さまになった


一瞬何が何だか分からなくなった
しかし、ふと映った新人機の姿勢を見たことにより、私は何が起きたのかを理解できた

要するに“投げられた”のだ


『うわ!!』


向かってきた速瀬が私を避けようとして高度を取る

其処にすかさず新人機が跳躍、接近
長刀で一撃を入れる


『きゃぁ…』


速瀬からのデータリンクが消えた


―衝撃―


機体がビルに突っ込んだらしい
急いで抜け出す為に、もがいた


『速瀬機主機大破、行動不能』


アナウンスが入ると同時に抜け出すことに成功
損害は…銃身が曲がった87式だけ


…これでこの場には私と新人のみ
碓氷達と合流したいところだが、撃破したとの連絡が無い以上無理だろう

各部を再チェック
…異常なし
兵装をチェック
…長刀が一振りと短刀が二振りのみ
推進剤残量をチェック
…十分にある

両者、状況的にはほぼ互角
しかし操縦センス的には此方がやや劣勢

空いていた片手に短刀を装備
そして両手の剣を逆手に持ち直す


…けどね、ここからが本番


神宮司教官直伝の格闘戦術、とことん味あわせてやろうじゃないの


―みちるside end―

……

―同時刻―


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ」


沙恵は機体をビルの陰に隠すと荒れた呼吸を正し周囲を観察・警戒する
背中を合わせて後方では静香が同様に警戒していた


『クリア』


静香が告げた


「…こっちもクリア」


周囲に機影が見えない事を確認してから言う
しかし、だからと言って安全であるとは限らない為依然警戒は続けていた


「損害はどう?」


『あまり良いものとは…
でも咄嗟にコンテナをパージついでにぶつけて正解だったわ』


「そうだね…
…ごめん、静香」


『何を言い出すかと思えば、何を謝ってるの。
アレを回避するのは誰だって無理よ』


口元を緩めながら答える静香
しかし、投影される表情とは逆に顔は冷や汗で覆われていた


「…長刀いる?」


『うぅん…ありがと』


横目で静香の機体のステータスを見る
表示されている水色の不知火のアウトラインは、いたる所が異色に染まっていた

まず、左腕は肘から先が暗く表示され損失した事を
次に右肩部装甲は橙色に中破規模の損害を受けた事を
その他の個所も満遍なく、黄色く小破規模の損害を受けている事を訴えていた
むしろ無傷なのは膝下のみくらいと言った方が早いかもしれない

自分のステータスを見る
沙恵自身の機体もお世辞にも良い状態とは言えなかった
腹部が殆ど赤に近い橙色―大破の一歩寸前―となっており、他には肩部装甲と右腕が黄色く表示されている


「…満身創痍ね」


ぼやきつつも沙恵は残弾が十数発となった36mmの弾倉を新品の物に入れ替えた

―ポーン!

両機の振動センサーが反応を示した

二人は咄嗟にその方角を確認
接近してくる事を確認すると即座に罠を構築する

残り、
―100m

――75m

―――50m…


『…このパターンって』


ふと静香が何かに気が付き、メインカメラを動かす


『沙恵、反応はダミー!!』


「―ッ!!」


沙恵が接近して来る戦術機を確認する為にビル陰から身を乗り出す
しかし、其処には何もなかった


「また!?」


静香の方向を見る
静香もこっちを見ていた…後ろに不穏な影
沙恵の意識はその後ろの黒い影に向かう


「静香、チェックシックス!!」


『―!!』


静香の不知火が振り返る
と同時に陰から一気に長刀が突き出された

―ッチ

装甲を長刀がかすめ、火花が散る


「静香ぁぁぁ!!」


沙恵が87式を放つ
しかし放たれた36mmが命中する事は無かった
陰から身を出した黒い戦術機は跳躍で後退してゆく


「静香、大丈夫!?
 『えぇ、おかげで』
 …追うわよ!
 『了解!』」


その黒い戦術機の後を二機の戦術機が追う


「…ック!
 ちょこまかと動いて!」


沙恵はバースト射撃を繰り出すが、まるで撃ってくる方向を知ってるかのごとくかわされる


『おまけに硬直もしないなんて…』


静香は着地の瞬間を単射で撃つが、これもかわされていた

相手の兵装担架が動き、87式を放ってくる
二機はこれを回避するためビルに隠れた


『逃がさないわよ!』


静香がビル陰から87式だけを出し、備え付けの照準カメラのみで撃ち返す


『1ブロック先の通りに隠れた!』


「でかしたわ!
 挟撃するわよ」


『了解』


二機がスロットルを開きそのビルを挟み込むように接近する


『貰った!!』 「其処!!」


静香が火線が互いを撃ち抜くのを避けるために跳躍しながら その通りを狙い、36mmを放った
沙恵も同時に機体を滑らせながら撃つ


「…いない?」


その通りは一本道であり、隠れる場所も何も無い
が、今二機のカメラに映るのは互いの機影のみだった


『…嘘。
 確かにここに逃げ込んだのに!!』


静香が叫ぶ
その叫び声に続いてロックオン警報が鳴り響いた


「『…え!?』」


二人が呆気ない声を上げると同時に、両機の頭部から胴体にかけてが黄色く染まった


『碓氷・綾瀬両機、頭部および胴体に直撃弾により衛士死亡、大破』


「うっそ~~!?」


『い…いつの間にあんなところに?』


二人が見上げるその先には、通りから少し離れたビルの屋上に佇む黒い戦術機がいた


……


―みちる side again―


「二人がやられたか…」


報告を聞きながら呟いた
ヴァルキリーズのNo.2、3の二機が同時に掛かっても倒せないほどの腕とは…

しかし、こちらもそんな事を言ってられないか

私の目の前には神宮司教官直伝の格闘戦術を軽く凌いだ新人の不知火が佇む
息を切らしている私とは違い、きっと向こうは平然としているだろう


…何というか、全てを見切られている感じね


実際どの様にどんな風に打ち込んでもまるで“そう打ち込んでくるのを知ってた”かの如くいなされ、打ち返された
…神宮司教官の教え子なのだろうか?


…いや、そんなはずは無い


教え子の情報なら少しばかりではあるものの情報が耳に入ってくるはずだ
第一今この時期に卒業した訓練生はいない
…なら何者なのだろうか?

廃墟の一部が崩落する
同時に新人が長刀の間合いまで接近し斬撃を繰り出してきた
これを咄嗟に長刀を持った腕を犠牲にすることで回避
生き残った片手の短刀を放棄し、長刀を装備する

気づけば場所は裏通りの一本道…
その細さ故に左右に逃れる事は負けを意味する
その為前後にしか動く事は出来ない
だが…動けない
動いた方の負け…

私は本能的にそう感じていた
時間だけが刻々と過ぎてゆく
操縦桿を握る手に汗が滲み、喉がカラカラに乾く
…心臓の拍動音でさえ鬱陶しい

こんな状態になるのは、随分と久しいものだな…
自然と口元が緩んだ


……


どのくらい経っただろうか?
数秒?数分?
…わからない
ただ、このプレッシャーにいつまでも耐えられそうにないのは確かだ

只のプレッシャーならば余裕で
戦場でのプレッシャーは日常茶飯事
だから強者と対峙した場合でも耐えきることだろう
…だが今回の相手は強者では無い

―化け物

そんな言葉が適しているかもしれない
こんな機動をやり遂げる衛士など、一度も見た事が無いからだ

ましてやそんな機動をするのが二人とも新人とは…
一体副指令はどんな人材を確保したのだろうか?
…いや、そもそも“人間”なのであろうか?

《はい、実は超高性能な自動制御装置でした》

―なんてタネ明かし言われても、今は驚かない
むしろ人間である方が驚く

それにしても、こんなプレッシャーを感じるのは神宮司教官に教わった時以来だな…
なんだか懐かしい気もする


…さて、どうしようか?
何か合図の様な物があればいいのだが…


丁度廃墟からカラスが数羽飛び出し、飛んで行った
それが引き金となり、私は無意識に一気に機を前進させていた
新人も同様にこっちに向かってくる

…いける!!

私は確信した
コンマ数秒だが、私の方が早かった
私の振った長刀がスゥっと胴体に向けて流れ込んでゆく
全ての時がスローモーションとなり、一秒が一時間の様に感じた

命中まであとわずか…
突如相手の頭部に閃光が走る
それと同時にカメラがブラックアウト

突然の事で訳が分からなかった
瞬時にサブカメラからの映像に切り替わるが、そんな機能は無駄だった

激しい振動が襲う
予想できたとはいえ、思わず悲鳴を上げてしまった


『伊隅機、腹部両断により大破。
A-01の全滅を確認しました。…これにて演習を終了します。お疲れさまでした』


演習終了のアナウンスが流れ、帰投命令が出されると共に角膜に各隊員の映像が映る


『あらら、隊長もやられちゃいましたか~』


碓氷が苦笑しながらいう


「やられたわよ」


ちょっと不機嫌気味に言う
実際、最後のカメラ不調は運も戦いの内とは言え腑に落ちなかった


「そういえば碓氷~。
貴様こそさっきは余裕だとか何とか言っていなかったか?」


『え!? えぇ~と~』


嫌味の様な質問に、碓氷は目をそらす
やっぱりか…


「まぁいい。
言い訳は後で聞こう」


やや疲れ気味に言う
その時碓氷は何故か青ざめていた
何かあったんだろうか?
…まぁいいか


『ヴァルキリー1、行動制限を解除。帰投してください』


「了解した」


行動制限が解除された機を操り基地へと向かう


「我々を全滅させる程の腕を持つ新人…一体どんな奴なんだろうな」


この後紹介されるであろう新人に、私は一種の興味を抱いていた


――みちるside end――


みちる等A-01の面々が横浜基地に帰投したことを確認した二人は、ようやく口を開いた

「…勝てたな」


「あぁ」


タケルが呟き、宏一が答える


「そっちはどうだった?」


「まぁまぁかな」


「まぁまぁって…お前」


「腕は凄く良いのだけど、AH戦に慣れてないって感じだった」


「あぁ、そう言う事か…」


「そう言うお前はどうだったんだ?」


宏一が聞き返す


「俺か?
 俺は……まぁまぁ…かな?」


「何故に疑問形」


「スマン。知り合いのクセだ」


「へ~」


「にしてもなぁ
…はぁ~」


タケルはガクッと項垂れた


「どうした?」


「いや、俺一部の人と顔見知りになってるからさ…
 絶対なんか言われるなぁ~って」


「アハハハ!
そんなの気にしたら負けだよ」


「…お前、ポジティブ思考なんだな」


「良く言われる。
まぁ実際成せばなるって」


「そういうものかね」


「そういうものです」


「…はぁ~」


ため息をつくタケル
そんな彼の角膜には刻々と近づいてくる横浜基地が映っていた


第四話 END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第四話です
では補足設定を
・碓氷大尉の下の名前は「沙恵」
・綾瀬中尉は碓氷大尉の同期で、戦闘になると好戦的な性格になる。配置はブラストガード(制圧支援)
・綾瀬は制圧支援射撃に関して天才的な才能を持つが、格闘センスも十分に高いため特別に97式長刀        
を一振り装備している
・武の不知火にはXM3用の関節強化と頭部機銃の搭載が施されている
・武専用の不知火の存在を知っていたのは、本人と香月、それに整備班の一部のみだけ
・頭部機銃に搭載されているはM61A1 20mmバルカン砲(装弾数各2,000発)
装備位置はブレードアンテナ横の、いかにもな場所

って感じですね
毎度乱筆ですみません
では何かありましたら感想掲示板まで気軽にどうぞ


次回予告
A-01のメンバーの前に晒されるタケルと宏一…
彼女達からの攻撃を何とか凌ぐが、そこに新たなる敵が現れる
既に武器も尽き体力も乏しい二人に勝つ術はあるのか!?
次回「ムーンアタック」
君は生き延びることができるのか? 【Cv.碓氷 沙恵】


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