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No.30479の一覧
[0] 【第十四話投稿】Muvluv AL -Duties of Another World Heroes-[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[1] プロローグ[なっちょす](2012/07/16 02:08)
[2] 第一話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[3] 第二話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[4] 第三話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[5] 第四話[なっちょす](2012/07/16 02:21)
[6] 第五話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[7] 第六話[なっちょす](2012/07/16 02:13)
[8] 第七話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[9] 第八話[なっちょす](2012/07/16 02:16)
[10] 第九話[なっちょす](2012/07/16 02:15)
[11] 第十話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[12] 第十一話[なっちょす](2012/07/16 02:17)
[13] 第十二話[なっちょす](2012/07/16 02:18)
[14] 第十三話[なっちょす](2012/10/28 23:15)
[16] 第十四話[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[17] キャラ設定[なっちょす](2012/10/28 23:18)
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[30479] 第八話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/16 02:16
―3月3日―
――国連軍・横浜基地・訓練区屋外射撃場――

――タカカカカカカカカァァァン――
――ビシッ!!――


「痛ァァァァァ!!」


まだ寒さの残る空に乾いた小銃の連射音が響き、同時に盛大な水月の声も響いた


「ッ痛~
 もうちょっと手加減しなさいよ!如月!」


もろにおでこにゴム弾を食らった水月は、自身の20m程先にいる宏一に怒鳴る


「ははは。
 でも20mほど進めるようになったじゃないですか」


「そうはいってもねぇ…
 毎度毎度ゴム弾撃たれてちゃ、身が持たないわよ!」


「じゃあいっそ実弾に…
 「殺す気か!!」
 でしょ?」


おでこを抑えながら騒ぐ水月をよそに、宏一は宗像のほうを見る


「じゃあ次は宗像さんの番ですね~」


「なるほど…如月大尉は女性をいじめるのがお好きなようですね」


宗像が「やれやれ」といったジェスチャーをしながら立ち上がる 
しかし、言っていることとは裏腹に、口元はニヤケていた


「ん~
 そう言った性癖はありませんが、宗像さんがせっかくその様に仰るのならゴム硬度を上げたゴム弾にしますが?」


「遠慮させていただきます」


宏一も慣れたらしい


「あら、つまらない」


フェイスマスクを被りつつ、さりげなくつぶやく宗像


「では、スタート5秒前!」


スタートライン横の退避場所にいたタケルは、宗像がスタート位置に立ったことを確認すると手に持った旗を揚げ、カウントを始める


カウントがゼロになり旗を振りおろすと同時に、宗像はゴム製コンバットナイフを脇をしめて構え、低い姿勢で宏一に向かって走り出した
走り出した宗像の姿を確認すると、腰だめに構えたTAR21の引き金を引く

再度響き渡る乾いた連射音…

宗像は自分に向かって飛んでくるゴム弾をジグザグに不規則に動き、尚かつ障害物を利用することで器用にかわして宏一との距離を縮めてゆく


…不意に乾いた連射音が止まった


「そこッ!!」


待ってましたと言わんばかりに宗像はその走る進路を直接宏一に向けた


距離にして15m


宗像ほどの足の速さならホンの1~2秒…
誰もが宗像の勝利を確信し、宏一の表情も歪んだ
宗像が腕を伸ばし、ゴムナイフの先が宏一の首元に迫る

…だがそんな中、宏一の口元がかすかに緩んだ


「な~んてね」


「!?」


首をわずかに傾けゴムナイフを回避
脇から抜いたハリセンを「そぉぉぉい!!」のかけ声と共に、思いっきり宗像の頭を上段から叩いた

乾いた連射音とは別の、何とも気持のよいキレのいい音が響き渡る


「きゃん!!」


頭を叩かれた宗像は見事なヘッドスライディングを決めた
その一部始終を見ていた水月は、ここぞとばかりに大爆笑する


…その陰でさり気無くみちるや沙恵の両大尉も笑いをこらえていたのは内緒だ


「女性の渾身の飛び込みを避けるとは…
 まさか女性に興味がないのですか!?」


宗像が頭のこぶを涙目で抑えながら言った


「ナイフで衝くのであれば首の様な狭い個所ではなく、胴体の様な広い個所を狙うのが確実です。
 更にスピードに乗っているのであれば尚更な事ですよ」


そんな宗像の質問を無視し、宏一は淡々と説明をしていた


「―しかし、回避動作は中々だったと思います。
 ので、まぁ…良いとしましょうか」


「…ありがとうございます」


宗像は返礼をしたのち、再度座っていた位置に戻っていった


「(宗像中尉OKっと)…これで残ったのは速瀬・涼宮・鳴海・平少尉だけですね」


地面でうずくまっている孝之(喰らった内の1発が見事“クリティカルヒット”してしまった)と残りの三人の方に宏一が向く


「あの~
 できれば見本が見たいのですが~」


視線に気が付いた遥が手を挙げながら弱弱しく言う


「そういえば確かにいきなり本番だったからまだ宏一の手本見てなかったなぁ。
 って事でいっちょやって見せてくれよ?」


慎二もニヤケながら賛同し、そのほかのメンバーも同様に賛同した


「そうだねぇ~じゃあ、そうしよっか!
 タケル~、射手頼む~」


「おうよ~」


足元の予備として用意したMINIMIをタケルに渡すと、宏一はスタート位置に立つ


「いくわよ~
 用~意」


代わり沙恵がスターターを務めた


「スタート!!」


その言葉と共に旗が振り下ろされ、同時に引き金が引かれる

5.56mm訓練用ゴム弾が毎分725発という速さで宏一の前に弾幕を形成する
だが、その繰り広げられる弾幕の中を、宏一は障害物を巧みに使いつつ最小限の回避動作だけで一直線に駆けていった

その動作は川に流れる水そのもの…

先程の四名が呆気にとられている中、二人の距離はあっという間に狭まってゆく
開始からものの数秒程しかたっていないのにも関わらず、既に残り半分を切っていた

残り20m…宏一がナイフを前に低く構える

――10m…タケルは右手だけで銃を操作し、左手にナイフの柄を掴んだ
     ゴム弾が宏一の顔を掠める

―5m…“無意味”と判断しMINIMIを破棄、同時にナイフを構える

0m…そこからはまさに一瞬だった

両者は交差するとほぼ同時にナイフを振った
しかし、それは互いのナイフによっていなされてしまう

いなされたと同時に宏一がサイドステップにて後ろに回り込もうとするが、タケルは瞬時にそれに反応
振り向くと同時に宏一のナイフを持った腕の振りかざしを自身の(ナイフを持っていない)腕で妨げると、同時に回転の勢いを利用し宏一の横っ腹に蹴りを入れた
だが寸前でしゃがまれることで回避され、対する宏一も軸足に払いを入れたが寸前で回避した

払いの反動を強制的に打ち消し、宏一が立ち上がりと同時にタケルの左胸にナイフを滑らせる
これを自身の胸に滑り込む危険を腕を使うことで回避したタケルは、逆に宏一の喉筋にナイフを向かわせた
しかし宏一も同様に反対の腕でこれをいなす

互いの必殺のナイフは虚空を刺し、必殺の一撃をいなした互いの腕が代わりにぶつかった

一瞬の後両者がその腕を押して互いを押しのけた
2m程の距離を開くと、両者はそのままにらみ合う…

互いをにらむその顔には、一筋の汗と笑みが浮かんでいた


「…スゲェ」


一瞬遅れたのち、慎二の口から声が漏れた
続いて孝之からも声が上がる


「お、お前らスゲェよ!!
 俺、今全く追いつけなかったぞ!?」


「「いや~それほどでも~」」


警戒を解いた二人が同時に頭を掻きながら答えた


「お前、本当にあのタケルだよな!?
 「何その疑問!?」
 いや、見直したわ!! お前戦術機の操縦以外でもスゲー所有るんだな!
 「ヒドッ!?」」


孝之の評価を知って、ダメージを受けるタケル


「っと、まぁこんな感じですが…
 参考になりました?」


その傍らで、汗を拭いながら遙と水月に宏一は聞いていた
両者共に唖然としていたためすぐに答えられなかったものの、首を縦に振って答える
無論、既に宏一に一撃を入れる事の出来た他のメンバーも二人の本気の格闘に目を丸くしていた



この手本のおかげであったのか、その後の残り四人は何かを掴めたかの様に颯爽に一撃を加える事が出来た


「流石はヴァルキリーズ…」


その様子を見ていたタケルは、一人ボソッとつぶやく

15分の休憩の後、難易度を上げて再度同様の訓練が行われた


……

―数日前―

最初の宏一による基礎演習後、ヴァルキリーズは毎日の様に同様の演習を行っていた
演習ごとに難易度を上げた為に最終的にはハー○マン軍曹並みのスパルタ状態であった
が、それが功を成したのかヴァルキリーズメンバーの第六感は鍛えられ、一部のメンバーは“見えるはずの無い者”までもが見えるようになってしまった

そんな中、シミュレーターのXM3搭載改修完了し、同時にヴァルキリーズの訓練もXM3慣熟訓練に移行する
嬉々としてシミュレーターに乗り込むメンバーたち…
だがXM3は彼女らが座学内容から想像していた数段上の物だったのだ



シミュレーター訓練初日…
ヴァルキリーズメンバーはXM3が搭載されたシミュレーターに搭乗し、XM3の操作性に慣れるべく各々が自由に操作する事となった
だが、その様子を第三者が見ればこのように表現するであろう


「まさに地獄絵図であった」


…と

その惨劇はシミュレーターの起動とほぼ同時に始まった

最初の犠牲者は静香と水月
両者共、いきなり座学で教わった三次元機動(初級編)を実践しようとした事が原因だった


「な、何よ、これ!?
 全く遊びが無い!!」


暴走しかかっている自機を制御しようと、必死に操縦桿と格闘していた静香が悲痛な叫びを上げる
しかし、いくら座学で頭にXM3の基本概念が入っているとはいえ、無意識に行っている従来のOSでの入力による制御回復は、XM3の目の前では逆に火の油を注ぐようなものであった

XM3にとって過剰な入力により更にバランスを崩した静香の不知火は、回復が不可能な状態となり、結果頭からビルに突き刺さるように突っ込んでしまう

その隣では水月が同じ様に操縦不能になり、錐揉み状態になっていた
やがて速瀬機はビルの角に接触、その影響で進行方向が変わりさながら発射台からはじき出されたパチンコの玉のようにビルや道路へ衝突を繰り返してゆく
最終的に速瀬機が止まった時、表示されていた機体各部のダメージデータはシミュレーターの設定をダメージ無効にしていなければ管制ユニットすら原形をとどめられない程の数値を示していた


(あ、あやうく私も仲間入りするところだった…(汗 )


その様子を目の当たりにした沙恵が、そっと操縦桿から手を離しつつ冷や汗を流していた


『…綾瀬中尉・速瀬少尉。
 大丈夫ですか?』


モニター室で様子を窺っていたタケルが安否を心配する


「…大丈夫な訳ないでしょ白銀!!
 何なのよ、この遊びの無さは!!」


ビルに衝突した衝撃でぶつけたおでこを抑えながら、水月が吠える


『だから言ったじゃないですか。 遊びが全くないって…』


「こんなに無いなんて想像しないわよ!」


『…(なんじゃそりゃ)』


ビルに突き刺さっていた綾瀬機もなんとか抜け出す


「…白銀大尉。これ…
 『やはり、最初は操作が難しいかもしれませんね…』
 とっても面白いわね!!
 『えぇ、そうで…へ?』」


罵倒の声が上がると想像していたタケルにとって、静香から発せられた言葉はまさに意外であった


「こんなに楽しいの久しぶりよ!!」


目を子供のように輝かせながら静香は叫び、操縦桿を握る


「いっくわよ~~!」


再度綾瀬機が飛翔する
ふらふらと不安定なものであったが、先程よりはましであった


「「「「……」」」」(綾瀬のあんな表情を見るのは久しぶりだな)


静香の意外な面に、ヴァルキリーズの面々は驚きを隠せなかった




『どうしました~皆さん?
 もうギブアップですかぁ~?』


タケルと共にモニター室にいた宏一が意地悪そうに言う


「如月ぃ~
 そう言うあんたは訓練しなくて良いの~?」


『まぁ“少なくとも”碓氷大尉よりは若くて腕も立つので大丈夫で~す。
 それに飛鳶は操縦系が違うので~』


「ん~良く聞こえなかったけど、おねぇさん生意気な子は嫌いダナー
 如月は良い子だもんね~?」


『良い子ですよ~?
 だから真実を言ったまでで~す』


「…確かに腕は私よりちょっぴり良い…
 『ちょっぴりじゃなくて、かなり』
 …それにホンの“少し”若い…
 『三歳も年下ですけどね!!』
 …宏一君?」 


『何でしょう?(よし、釣れたー)』


「いっぺんぶっ潰したろか!? あ゛ぁ!?」


『わ~い、キレたー』


見事に策略にハマった沙恵が、フルスロットルで飛翔する


「私だってねぇ、伊達に衛士やってるわけじゃないのよ!!」


『あ、ウチは其処を背面飛行で行けましたよ』


「やってやろうじゃない!!」


背面飛行で廃墟を飛行する碓氷機がビルの陰に消える
同時に衝突音


『あ~あ、だから言ったのに…
 ビルがあるから注意してねって』


宏一は後頭部に大きな汗マークを垂らしながら言う


「…なぁ慎二。
 「何だ?」
 このままチマチマ操作してても意味無いと思うんだ。
 「俺もそう思った」
 …
 「…」」


「「やるか」」


頷き合った孝之と慎二も、フットペダルを踏み込む
両機は共に飛翔し、姿勢が崩れると直ぐにビルの屋上へと着地した


「か、肩の力を抜けば、それ程難しい物でもなさそうだな…」


「問題はその肩の力をどう抜くかだ」


「んなもん深呼吸すればいいんだ」


「なるほどな」と返事を聞いた孝之は、一つ深く深呼吸する
慎二も同様に深呼吸をしていた


「いくぞ!」


「おう!!」


二人が操縦桿を倒すと二機は飛翔
その飛行姿勢はふら付いていたものの先程とは別物の様だった


「上手く跳べるものなんだな…」


「みたいだね」


「……涼宮、私達も行こうか」


「…そうだね。
 ここで指をくわえてても、何も始まらないし」


宗像機と涼宮機が歩き出す
二人とも落ち着いて操作している為、ふら付きはみられなかった


(あれ? 私、いつの間に置いてきぼり?)


最後に残ったのはみちる
いつの間にか置いていかれていた事に、今更気が付いた

慌てて操縦桿を操作する
しかし、慌てているとはいえその操作は座学で教わった事に沿っていた


(確かに遊びが全くない…けど、想像していた程でも)


操縦桿を更に押し込む
歩行が急にダッシュになり、急激なGがみちるを襲った


「…クゥ!?」


慌てて操縦桿を戻す
しかし、今度は戻し過ぎた

機体がバク転する
みちるは慣性の法則で思いっきりつんのめり、頭をぶつけた


「クゥ~~~~」


何とも言えない痛みが襲う
データリンクを故意にOFFにすると、ぶつけた部分を両手で押さえジタバタと足をバタつかせる


「し、白銀の奴、後でお仕置きだな!」


涙目で愚痴るみちる…
一方モニター室のタケルは悪寒を覚えていた



みちるは気を取り直すと再度操縦桿を握る


「さてと…」


今度はゆっくりと操縦桿を倒し、ゆっくりとダッシュに入った


「こんな感じか…
 良し、次は…」


ペダルを踏み込んで、ジャンプユニットに火を入れる
ゴッと音を立て伊隅機は飛翔

今度は操縦桿を僅かに引いた
機体がグイッと身を引き上げ、上昇してゆく


「飛行時は更にピーキーになるのか」


その後基礎飛行軌道を一通りやった後、より複雑な三次元機動に入ろうとする


…悲劇は其処から始まった


ジャックナイフを行おうと左右の操縦桿を別々に操作する
…無論、先程の失敗から操作は細かく、繊細に行った
しかし、飛行時は機体反応がよりピーキーになる事を失念していた為に強烈な回転Gが発生
それによりみちるはつい力んで操作してしまう

人は余計に力が入ると何事もカクカクした動きや、一気にガクッと動作してしまう傾向にある
今回はみちるがそれに当てはまった

強烈なGにみちるは打ち消そうと操作した
だが、力んだせいで大きく操縦桿を倒してしまい、今度は打ち消しの動作が暴走してしまった
それを打ち消そうとして更に暴走
またまたそれを打ち消そうとして……
…と錐揉みの無限ループに陥ってしまう

当然錐揉み状態となった機体は平常の様な飛行は不可能である
…なら、そうなったらどうなるのか?

答えは簡単

墜落のみである


錐揉み状態の伊隅機は適切な推力を適切な方向に向ける事が出来ず、故に揚力を失った
揚力を失った機体は大きく放物線を描きながら落下してゆく

みちるの耳に響く「Pull UP!!」の警報音…
しかしみちるもそれどころではなかった


「ック……しまっ!?」


突如視界に広がる廃墟ビル
何をどうする事も出来ず、機体はビルに突っ込んだ

…其処を爆心地に地面が盛り上がり、さながら全世界の核がそこでグランドゼロを迎えた様な爆発が起こる
衝撃波は地面をえぐり、上空へと打ち上げる
打ち上げられた土砂は高度十数kmまで上がった後落下
それが質量兵器となって地上へと降り注ぐ
一方の爆炎は墜落地点を中心に円形状に広がり、衝撃波を更に押し広げる
やがてその爆炎は日本を飲み込み、ユーラシアを飲み込み、太平(西)洋をも飲み込み、やがて世界を飲み込む


「…そして世界は“浄化”されましたとさ」


「…何言ってんだ宏一?」


「いいや、何でもない」
 

-ッチャチャチャ、チャチャラララララチャッタラララチャチャチャン♪ ―*1-
-*1-
-テーテッテレッテテッテテッテ!!(プパプーパップッパ)♪ ―*2-
-*2-
-一番上から繰り返し…-


「…なに鼻歌歌ってんだ?」


「気にすんな」
 

「そ、そうか…」


「それよりもさ、流石に訓練指導マニュアル作った方がいいんじゃね?」


「…それ俺も思った」


その日のシミュレーター訓練は、そこでお開きとなった


……


――現在――

PXで昼食を終えたタケルと宏一の二人は正面玄関前に来ていた


「やっぱり大丈夫なのかな~
 あの8人だけで訓練させて…?」


「流石に大丈夫だろ。
 伊隅大尉と碓氷大尉の二人はまともに動かせるようになってるし、孝之や慎二も良い具合だし」


『心配しすぎだ』とタケルは言葉を続けた

そんな他愛のない会話をしていると、一台の高機動車が目の前に止まる
パワーウィンドウが下がりピアティフが顔を見せると、二人はそれに乗り込んだ


「スミマセン、中尉。わざわざ俺たちの為に…」


タケルが運転席に座るピアティフに詫びる
二人を会談場所に送るためだけに、彼女は有給を消化しているのだ


「いいえ、大尉。 溜まっていた有給を消費する必要があったので丁度よかったです。
 …着くまで時間がかかりますので、今のうちに書類の確認をされるのがいいかと」


バックミラー越しに彼女の笑顔が映る


「そう言ってもらえるとありがたいです」


ピアティフのアドバイスに従い、二人は会談場所に着くまで会談の打ち合わせを行った

……

―一時間後―

――帝都・市ヶ谷帝国軍軍令部・第二予備会議室――

二人が案内された場所は狭い会議室だった
案内人が到着したことを伝えると、二人に入るように促す
戸が開かれると既に帝国軍と斯衛軍の関係将校らが着席しており、入室してきた二人に一斉に注目を浴びせかけた


「あれが女狐直属の部下だと?」
「まだ子供じゃないか」
「只の嫌がらせなんじゃないのかね?」
「あの階級章… ッフン、国連軍はよほど待遇がいいらしいな」


将校らのそんな小言を無視し、二人は敬礼をした後直ちに会談の準備に取り掛かる

準備を整えると、二人はモニターの前に並びマイクを手にした


「大変長らくお待たせしました。
 自分は国連軍横浜基地より来ました、同基地所属の白銀 武大尉です」


「同じく、同基地所属の如月 宏一大尉です」


「これより、帝国軍にいまだ多く配備されている『F-4J“撃震”』の改修案、及び当基地にて新規に開発した新概念OSの発表をさせていただきます」


宏一がモニター横のPCの元に行くと、操作板によって会議室の照明を暗くする
モニターの光だけが唯一の光源となった


「先に『撃震』の改修案についてのご説明を…」


モニターの前に立っていたタケルがポインターを使いながらモニターに映る『撃震』と『撃震・改』の相違点から説明を始めた…



―十数分後―


「―質問が無いようですので、これにて『撃震・改』修案のプレゼンを終わらさせていただきます。
 なお、5分間の休憩の後に新OSの説明に入らせていただきます」


照明に明かりが戻ると数名の将校が小声で話し合いをしていた
タケルはそれを横目で見つつ、PCを操作している宏一の元に寄る

「おつかれ~」


「あ゛~~、やっぱ俺こういうの苦手だな~」


「誰だってそうだよ。
 レジュメ発表とかスピーチとかはウチも苦手だったし」


「それになんか反応も良くないみたいだしなぁ…
 俺、自信無くすわ」


「おいおい、そのくらいで自信を無くすなよ。
 それに結構良い印象みたいだったみたいだよ?」


「…そうなのか?」


「おぅ。
 あそこで話し合ってるのは技術士官、其処はどっかの隊長さんっぽいし…」


宏一の視線を追う
…なるほど、確かにそんな雰囲気の将校である
聞こえてくる会話もそれとなくそんな内容の物であったのも、タケルがうなずいた理由の一つであった


「それにメインはXM3でしょ?
 こんな前菜みたいなやつでの反応なんて気にすんな」


「…それもそうだな」


タケルの顔にやや活力が戻る
しかし、何かを思い出したように宏一に顔を近づけ小声でしゃべりだした


「…なぁ。
 なんかさっきから妙な視線を感じるんだが、なんだか分かるか?」


「妙な視線ってどんなの?
 殺意みたいな感じ?」


「そうじゃないんだ。
 なんだか興味深い物を見ている時の様な」


「…そうか。 
 今のところウチは特に何も…次の発表時は警戒してみる」


「わかった。 頼むぜ?」


「まかせろ。
 そういったのはガキの頃から教え込まれてから!」


「そうか!!
 …お!そろそろ時間か…また頼むぜ、宏一!」


「おぅ! まかしとき!」


タケルがアナウンスを行うと会議室に再度静寂が戻り、照明が消える


「では、横浜基地で新規に開発しました新型OS“XM3”の紹介をさせていただきます。
 まずは此方の映像からご覧ください」


モニターの画面が切り替わると、シミュレーターの映像が流れ始めた
対戦しているのは撃震1機と不知火4機
対戦相手が機数でも上回っている不知火にも関わらず、撃震はその機体からは想像できないような機動によって一方的に押していた


「この撃震は、先ほど紹介させていただいた『撃震・改』にXM3を搭載したものとなっており…」


タケルの説明内容によって、映像を食い入るように見ていた将校たちの顔が驚愕している表情へと変わっていった


丁度、映像は撃震・改が不知火から繰り出される弾幕を様々な三次元機動で回避し、装備していた短刀で腹部に一撃を入れようとしていたところだった


「このようにXM3は従来のOSではできなかった機動入力が可能となっております」


やや得意げに説明するタケルと、その説明を食い入るように聞いている将校を(他人に気づかれないように)交互に見ていた宏一だが、そんな時、ふと自分に向けられている気配に気が付く


視線だけを動かしその気配の元を探すも、その発信源と思われる席付近には顔に大きな傷痕を持っているやけに厳つい顔立ちの将校がモニターの方を見ているだけだった


(…あいつか?)


試しに視線をずらす
先程感じていた程ではないものの、微かな視線を感じる


(あいつだな)


確信を得た宏一は、再度タケルの説明を聞いて驚愕の表情を隠せない将校の方に意識を戻した




「―以上でXM3のプレゼンを終了させていただきます。 
 ―あぁそれと、質問の方は電信でお願いいたします。 後日返信しますので…」


タケルが言葉を終えると一気に狭い会議室はざわめき始めた


「我々にもあの様な機動ができるようになるのか!?」
「あのOSが手に入れば我々は…いや、人類はあと十年は戦えるぞ!」
「しかし、開発者があの“女狐”の部下…ひいては国連軍であるというのは… 実にもったいない」
「だが何のために我々に見せたのだ?」


そんなざわめきをよそに、タケルは宏一の元に向かう


「…どうだった?」


「発表結果は最高点だったよ」


「そいつは良かった!
 …で、例の…
 「正面列、最も出口に近い将校」
 …あいつか」


反射を応用し、タケルは気が付かれないようにその人物を確認する


「顔…コェ~な…」


「人は見た目で決まるもんじゃないよ?」


「そうだけど、なぁ…?」


「それは良いにして、サンプル配らないの?」


「帰り際に渡す予定」


「そうなんだ…
 あぁ、それでどうする? 飛鳶の発表する?」


宏一が思い出したように聞く


「そういやぁそうだったなぁ… どうしよっか?」


「どうしようかウチも迷っとるんですよ」


二人はチラッと周りの将校らを見る
将校たちに与えた衝撃はかなりの物だったらしく、いまだに話し合っている姿が多々と見えた


「…やってもいいんじゃないかな? 確か帝国軍の方は不知火の発展性の無さに苦労してるみたいだし」


「ん?そういえば、たしか飛鳶は不知火の発展型だったけか?」


「ん~、正確にいえば不知火・弐型にYF-23の技術とコンセプトを盛り込んだ発展型だから違うけど…
 まぁそんなもんかねぇ」


「そうだったのかぁ~だから不知火っぽかったわけなんだな」


「そういうこと」


「じゃあ俺が今度はPCか…
 って宏一!! さっきのおっさんが来るぞ!?(ボソッ」


「ゲッ!
 …ウチが対応するから準備頼んだ(ボソッ」


「了解(ボソッ」


二人の後ろに先程の将校が止まる


「お忙しそうなところ悪いが、ちょっと良いかな?」

将校が声をかけると同時に宏一が振り向き、瞬時に階級を確認、敬礼をする


「ッハ! 何でしょうか、中佐殿!」


「ハハハ!其処まで畏まらなくても良い。
 …君はえ~と、確か如月大尉だったかな?」


「ッハ! そうであります」


「私は巌谷 榮二(いわや えいじ)。帝国陸軍技術部の者だ。
 先程のOSは実にすばらしい物だ。アレが実装されれば戦局はガラリと変わるだろう…
 それでなのだが、幾つか質問を良いかね?」


「機密関係上、其処まで多くお答えできませんが、それでよろしければ…
 「別に構わないさ」
 …ッハ! では御質問とは何でしょうか」


「あのOS―XM3といったな―…他の者はどういうかは知らんが、私は素晴らしい発想だと思う。
 …素晴らしいとはもう言ったか、ワッハッハッハッハ!


 しかし、あんなOSを思いつくほどだ…
 きっと開発者は人一倍発想力が豊か、或は柔軟な思考の持ち主なんであろうな」


「中佐殿の様なお方に同感してもらえるとは、あの者もきっと喜びます!」


「はっはっは!
 それは謙遜というものだよ、大尉。
 私より、その者の方が成し遂げた功績の方が後々の評価は高いであろう」


「いえ、そんな事…」という宏一の言葉を遮り、巌谷は急に表情を引き締める


「では本題だ…
 単刀直入に聞く…このOSの開発者は君たち二人のどちらかではないか?」


準備をしていたタケルの背に一筋の汗が流れる


「申し訳ございません中佐殿。
 その御質問の意味がよくわからないのですが…」



「む、そうであったか…
 すまないな、如月大尉」


「いいえ、お気になさらずに中佐殿…
 そのほかには御座いますか?」


「いや、これだけだ。 忙しい中すまなかったな」


「いえ!此方こそ良い回答ができず、誠に申し訳ございません」


「いやいや、気になさんな。 
 あぁ、それともう一点… 今回の会談はこれで終了かね?」


巌谷の質問に一瞬ポカンとする宏一


「…いえ、まだ一点ほど残っております。 しばしお待ちください。」


「おぉ、そうだったか!
 いやはや、すまないね。 では自分の席で待っているとしよう」


(なんかイメージと違うなぁ…あのオッサン…)


自分のイメージの巌谷と現実とのギャップに違和感を感じつつ、再びタケルの方を向く


「…終わったよ。 そっちは準備できた?」


「あぁ、もうチョイ待ってろ…OK、できたぞ」


「サンキュー」


タケルからコントローラーを受け取ると、宏一は先程まで彼が立っていたところに立つ
三度照明が暗くなった


「これより、我々横浜基地からの最後のプレゼンである、“次期主力戦術機案”の発表を行わせていただきます―」


“次期戦術機案”という言葉に会議室にざわめきが走った
宏一は誇らしげにニヒル顔を決め、一方の巌谷の表情も少し硬くなる


「―(ニヤ)尚、この発表を行わせていただくのは、本機のテストパイロットである自分が行わせていただきます。」


「あんな少年がテストパイロットだと!?」
「横浜の女狐め…一体どれほどの国民を犠牲にすれば…」
「…なるほど、それであの階級…」


更に強くなるざわめきをよそに、宏一が手元のスイッチを押すとモニターに飛鳶のロゴと写真がデカデカと映る


「試05式先進戦術歩行戦闘機“飛鳶”…
 開発コンセプトは“対BETA戦・AH戦双方に対応できる多様性”となっており…」


モニターに再度注目が集まる

……

―30分後―

――帝都・帝国軍軍令部 第二予備会議室――
――巌谷side――

既に最後のプレゼンから十数分が経過している
にもかかわらず、会議室に充満しているざわめきは一向に減る兆しを見せず、むしろ増加しているといったところか
うむ、その原因は白銀大尉が『先進戦術歩行戦闘機“飛鳶”』のプレゼン終了後に言った最後の一言にあるのだろう…
あれには流石の私も肝を抜かされた…


「尚、香月博士の意向により、これらは全て帝国軍と横浜基地の“合同開発”とさせていただく準備が整っております。
 これについては後日博士の方から連絡があるのでしばしお待ちください。
 これに伴い、希望者の方にはこれらのシミュレーター用データを配布させていただきますので、希望者の方は後ほどこちらまでお越しください」


最初、その場にいた者は何を言っているかがわからなかったのであろう
私も意味はわかっていたが、流石に固まったよ

…わかっていたぞ? ちゃんとな

しかしだからと言って、数秒の静寂の後に一気に両大尉の元に(主に技術士官であろうが)将校らが押し寄せ、36mmチェーンガンのごとく質問を浴びせたのはいただけんな…
まぁ、かの私もその内の1人だったわけだが

そんなこともあり、ついさっき基地に帰って行った二人の顔には疲労が見えた
若いうちから苦労が絶えんな…

しかし、今回のこの会談…
もしかすると計画に影響を及ぼし…


「―中佐殿はどう思われますか?」


「ん?あぁ―」


手に握っている外付け型記憶媒体を見ながらそんな事を考えていると、部下の技術士官が先程の『撃震・改』についての意見を求めてくる
まぁ『瑞鶴』のテストパイロットであった私に意見を求めるのは妥当な判断だな…

『撃震・改』について意見を述べる私の脳裏には、一つの不安とまだ二十歳前の1人娘の顔が浮かんでいた

――巌谷side end――


第八話END
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうもこんにちは!
なっちょすです

では!補足設定!!
・「XFJ計画」は既に始動済み(2000年1月始動)
・帝国・斯衛に渡したデータにはコピー及び内部データ閲覧防止プログラムが施されている
・発表した飛鳶のデータは夕呼に渡した物より簡単なもので、詳細は明かしていない

では、何かありましたら感想掲示板まで


―――――


―25:42―
――???――


『…あぁ、中尉かね? 私だ。
 藪遅くにすまんな。 そっちはまだ夜中だったかな?』


『―そうか…ならよかった。
 ――そうだ、終わったよ。
 ――ん?
 ――あぁ、やはり横浜の女狐は今回も我々の想像を上回る物を出してきたよ』


『――いや、今回は99型の様な兵器ではない。 新概念のOSと次期主力戦術機案だそうだ。 
 データと実写映像だけだったが、そのOSの前では従来のOSはまるで玩具の様に思えたよ…』


『――ワッハッハッハ!! そうだったな、君にとっては次期案の方が重要だったな。
 うむ、すまない。』


『――あぁ、こっちにも肝を抜かされたよ…
 最悪、計画そのものが無くなりかねん…
 ――いや、脅しなどではない。 此方の要望通りの機体なのだ…』


『――いいや、どうもそうでないらしい。
 ――あぁ、その様だ』


『…もしかしたら近いうちに進展があるかもしれん。
 その時は真っ先に知らせるよ』


『――あぁ、お休み、唯依…』


(To be continue)



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