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No.3444の一覧
[0] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop(29話更新しました)[テンパ](2013/05/15 22:24)
[1] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2[テンパ](2013/01/09 22:48)
[2] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3[テンパ](2013/01/01 23:43)
[3] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 4[テンパ](2008/11/18 21:33)
[4] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 5[テンパ](2013/01/14 19:00)
[5] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 6[テンパ](2013/01/14 19:05)
[6] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 7[テンパ](2013/01/14 19:10)
[7] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 8[テンパ](2013/01/14 19:13)
[8] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 9[テンパ](2013/01/14 19:18)
[9] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 10[テンパ](2013/01/14 19:24)
[10] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 11[テンパ](2013/01/14 19:31)
[11] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 12[テンパ](2013/01/14 19:40)
[12] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 13[テンパ](2013/01/14 19:44)
[13] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 14[テンパ](2013/01/14 19:49)
[14] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15[テンパ](2013/01/14 19:53)
[15] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 16[テンパ](2013/01/14 19:58)
[16] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 17[テンパ](2013/01/14 20:01)
[17] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18[テンパ](2013/01/14 20:03)
[18] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 19[テンパ](2013/01/14 20:06)
[19] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 20[テンパ](2013/01/15 02:33)
[20] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 21[テンパ](2013/01/14 20:13)
[21] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22[テンパ](2008/12/09 23:07)
[22] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23[テンパ](2013/01/15 02:32)
[23] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 24[テンパ](2013/01/11 02:38)
[24] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 25[テンパ](2013/01/15 01:57)
[25] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26[テンパ](2013/02/21 18:00)
[26] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 27[テンパ](2013/01/16 22:54)
[27] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28[テンパ](2013/01/16 21:30)
[28] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 29[テンパ](2013/05/16 17:59)
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[3444] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15
Name: テンパ◆6b0bda51 ID:20e2b231 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/14 19:53

『機体は?』
「’森羅(しんら)’で頼む」

 贅沢を言えば「伊邪那岐」を使いたいが、あれを操作するにはこのシミュレーターでは必要なレバー、そのほかの必要な装置が圧倒的に足りない。そもそも普通の戦術機にはない変形機能などをもっているのだ。普通のコックピットで操ることは不可能だった。さらにあれには日本の戦術機には標準的に装備されていないものも武装してあるのだ。日本製の今のシミュレーター機で操ることは到底無理なのだ。

『小隊メンバーは?』
「月詠真耶、月詠真那、篁唯依、紅蓮醍三郎、神野志虞摩、紅の姉妹(スカーレットツイン)」
 その言葉の後、武の機体の周りに6機の戦術機が順番に浮かび上がってきた。武も入れて二個小隊規模。機体もカラーリングもバラバラ。いずれもこの時代には存在しない機体だ。彼らは人類でも武の本気の機動にある程度ついてこられる数少ないメンバーである。まあ、今周りにいるのはアーリャの中にあるデータを基にしたゴーストであるのだが。
 武を中心に布陣するそれらはある種、荘厳ですらあった。

「よし」
 目の前に聳え立つ地球上では考えられない規模のモニュメント。それがこちらに威圧感を与えるように天を衝いていた。地球上最大ハイヴがオリジナルハイヴである喀什(カシュガル)ハイヴでフェイズ6という分類だ。しかし、このエラトステネスハイヴはそれを超えるフェイズ7である。
 ゆっくりとフットペダルを踏む。月の重力は地球での六分の一であるのだ。地球上と同じ調子で踏んでいては遥か上空まで飛んでいきかねない。慎重にフットペダルの踏み具合と跳躍ユニットの出力を調整する。

「さーて……」
 それが終わるともう一度ぐっとレバーを握り直した。
「久々に本気出してやってみますか」
 7機の戦術機が一斉にハイヴに向かって動き出した。



 さて、この光景を現代の衛士たちが見たらなんと言っただろう。
 単純な驚きや称賛の声では足りないだろう。
 それほどまでにこの小隊の動きはすさまじかった。まるで嵐のようにハイヴ内を縦横無尽に駆け回る。すでにハイヴに突入してから二時間。すでに殺したBETAは二万に届こうとしている。必要最低限な戦いで、ひたすら前に進むだけでこれなのだ。小隊の動きもだが、フェイズ7ハイヴのBETA数がどれだけ尋常ではないかわかるだろう。
 今は反応炉までの道程30%といったところだろうか。ここにたどり着くまで一機も失っていないこの小隊のメンバーは最早異常というほかない。

『特殊振動を感知。前方のホールに母艦(キャリアー)級が三体集結してる』
 オペレーターが代わりのアーリャの声。その知らせに舌打ちする。母艦級の積載BETA数はその名の通り尋常ではない。それが三体も集まっているとは。この先のホールがBETAで埋め尽くされてしまう。
「まったく、月を穴だらけにするつもりか……」
 そんな母艦級に悪態をつき、同時に手元で別のルートを検索。推進剤も弾薬も無限ではないのだ。ここはルート変更が吉だろう。すぐに一番BETA配置数の少ない一本が選ばれた。ここからでは一度後ろに下がる必要がある。

「一度後ろに下がる!」
 小隊長である武が反転を指示。すぐに小隊が順次反転する。彼らはデータであるため声は必要ないが、こういうときに声をだしておかないといざというとき出ないものだ。
 振り返りざま、すぐ後方に迫っていた戦車級を長刀で一閃。刃についた血を払いながら飛び上がった。
『急がないと母艦級がそっちにいっちゃうよ?』
「わかってるよ」

 前方には3万規模のBETA群。まるで壁のようだった。その壁に一機の戦術機が穴を開けた。前方に群がるBETA共に正確無比な射撃で一発も無駄にしない。種族別にどの部位にどれほど弾をくらわせれば、その活動を止められるかを熟知している。武とはまた違った三次元機動。その身を空いた空間に滑り込ませる。脚部についたハイパーカーボン製のブレードが着地後、付近にいた小型種を切り裂く。
「さすがは’紅の姉妹’のゴースト……」
 あの機動を持って、あそこまで正確な射撃ができるのも複座型で役割分担をしているがため。あの銀髪の姉妹の姿を思い出した。

 彼女たちに続くように二人の月詠が長刀を構え、突貫した。まるで鏡のように左右対称な動きで道を切り開く。
「負けちゃいられないな」
 突撃砲で足元のBETAを一掃。着地。脚部の衝撃拡散機構と衝撃吸収剤がすべての衝撃をなくしたのを確認して、すぐに飛び上がる。
 さあ、まだまだ先は長いんだ。武は一度額の汗をぬぐった。



 それからさらに三時間。
 ハイヴ内に残っているのはすでに武の’森羅’ただ一機だった。一機ではもう前に進むことはできない。武は40分ほど前から同じホールでBETAの相手を続けていた。この小隊ですら実質もって四時間程度。これがフェイズ7ハイヴの実情だった。
 すでに突撃砲は弾切れで放棄している。残った装備は、短刀が一つともうほとんど切れなくなった長刀だった。普通の衛士なら死を覚悟し、あきらめてしまうかもしれない。しかし武は、一匹でも多くのBETAを、とさっきから戦い続けていた。

 大きく跳び上がったとき、このホールの入り口付近に朽ちた紅蓮の戦術機を見つけた。やはりデータというべきか。咄嗟の判断が追いついていないし、細部の動きも実戦での本人とは違っていた。刻一刻と変化する戦場ではデータなどあまり意味のないものだ。
 着地後、すぐに要撃級がその腕を振るってきた。一撃でも食らえば、すぐにスクラップになってしまうその一撃を避け、歯を食いしばった顔にも見える尾節をぶった切るつもりで長刀を振るった。しかし、とうの昔に耐久限界のきていた長刀。その一撃は相手を半分も切る前に止まってしまった。動きの止まった’森羅’に群がる突撃級。

「っ!」
 一瞬の判断で長刀の破棄を決定。柄から手を離し、跳躍ユニットを使ってすぐに跳び上がった。さっきまで’森羅’がいた場所が一瞬にしてBETAで埋め尽くされる。
 空いた左手で短刀を構える。
(着地できるところは!?)
 すでに突撃砲は放棄しているので、36mmで足場を確保することは不可能だ。だが、右を見ても左を見ても上も下もすべてBETAで覆い尽くされていた。まるでBETAの絨毯だ。下ではBETA共が今か今かと’森羅’のことを待ち構えていた。400m先に空いた空間を見つけたが、そこまでは到底推進剤がもちそうにない。
 どうする、と考えたその一瞬の警戒の喪失、そのとき’森羅’が強い衝撃で揺さぶられた。

「!?」
 網膜に映る映像に一瞬だけノイズが走る。そして、次に映し出された光景で一体何が起こったのかを理解した。
 それはBETAの雨だった。天井に張り付いてたBETAたちが一斉に降ってきたのだ。’森羅’はどうやら戦車級の一撃をもらってしまったらしい。
「くそ!」
 慌てて体制を立て直す。左右の跳躍ユニットと機体を器用にひねることで、次々と降ってくるBETAを避ける。しかし、それもずっとは続かなかった。ついに突撃級の強烈な一撃をくらってしまう。
 突撃級とともに急速に落ちていく’森羅’。背中から地面に衝突。強い衝撃が武を襲った。網膜に映る映像とけたたましい警報音で知らされる機体異常。どうあがいてももう動かせない状態だった。

「……ここまでか」
 大きく息を吐く。なんとか生きていたメインカメラが’森羅’に群がる無数の戦車級を映しだす。その強靭な顎が次々と装甲を削っていく。
 それを見て、
「へっ……」
 もうすでになにもできないというのに、武は不敵に笑った。
「タダじゃ……死んでやらねぇよ!」
 ――そして強くS-11の起爆スイッチを押すのだった。



 停止するシミュレーター。そこから武が出てきた。
「お疲れ、タケル」
 その武に近づいていくアーリャ。だが、労いの言葉はそれだけで、
「やっぱり、なまってる」
 ジトーっとした目で見られてしまった。

 確かになまっている。吹雪に慣れた体でいきなり’森羅’に搭乗したことも原因ではあると思うが、明らかに腕が落ちてしまっている。これがかつてはフェイズ9ハイヴを落とした男の実力であるというのか。これは本格的に鍛えなおす必要があるようだ。
「また付き合ってくれるか?」
「うん」
 武の頼みごとに二つ返事のアーリャだった。

 そのアーリャの頭に手を乗せ、ほめるかと思ったが違った。だが、と口にし、
「――なぜ、’あいつら’を出さなかった」
 顔を上げるアーリャ。
「アレが出たら今の武ならさっきのシミュレーター……’二時間’もたなかったよ?」
 さっきの時間の半分以下。確かに今の鈍った腕では’あいつら’の相手を森羅でするのは骨が折れる。リハビリがてらシミュレーターをやって徐々にレベルを上げていくことにしよう。

 アーリャの気遣いに礼を言う。
「さあ、もうこんな時間だ。今日はとっとと寝ちまおう!」
 見ると、日付は当の昔に変わっていた。こんな時間まで付き合ってくれたアーリャに感謝する。だが、アーリャだって10歳そこそこの女の子。この時間は布団にいることが当然だ。すぐにシャワーを浴びその日は眠りにつくのだった。

 余談だが、アーリャは武の部屋に運び込まれた簡易ベッドで寝ることとした。



 次の日の朝。PX。
「……これは一体どういう状況なの、白銀?」
「いや……オレにも何がなんだか」
 そういう武は右にアーリャ、左に霞がそれぞれ武の服をつかんでいた。武が歩くと、それについていくように二人も歩く。なぜこんなことになっているのか。

 朝。武は寒さで目を覚ました。寒かったのも当然。体を起こすと、目の前に武の布団の両端を握ったアーリャと霞が睨み合っていた。……いや、睨み合っていたというのは語弊があるか、実際はアーリャが「う~」っと唸っていただけで、霞は無表情そのものだった。
 なぜそんなことになっているのかわからないまま、着替えて部屋を出ると、なぜか二人が服をつかみついてきた、という次第だ。

「あのーお二人さん?……そろそろ離してくれないとご飯食べれないんだけど?」
 その武の言葉でしぶしぶといった様子で手を離す二人。
 そしていつもより一人多いメンバーで朝食を食べ始めた。


 霞は自分の前にある朝食を片付けながら、武とアーリャのほうをたびたび見ていた。
 昨日、いつものように武を起こしに行って見た光景。それが霞の中でいつでもなくならず、ずっともやもやした気持ちで昨日一日を過ごした。
 霞にとって白銀武という男は、自分に初めて裏表のない笑顔を向けてくれる存在であった。ある日、鑑純夏のいるあの部屋にやってきて、あっという間に霞の内側へと踏み込んできた人。武の中に見た、彼を毎日起こす自分。彼女も毎日彼を起こしていくうちに、どんどんとそれが楽しみになっていた。
 
 だから今日もいつものように彼を起こすつもりだった。しかし、部屋に入って最初に見たのは、今にも彼を起こそうとしていたアーリャという少女。それを見た瞬間、霞の中に昨日と同じもやもやした気持ちがまた発生するのだった。それが’嫉妬’という感情だと彼女が理解するのはもっと後になってからである。


「タケル……豆腐がつかめない」
 アーリャが膨れ顔で自分の皿を見つめていた。見るとアーリャの皿にある豆腐の半分がボロボロに形を崩してしまっていた。「あ~あ」とそれを見て声を漏らす武。
「こうなる前に呼べっての……ほら、皿をこっちに」
 アーリャから手渡された皿を手に、武は崩れた豆腐を器用に箸で集め持ち上げた。そして、
「ほら……あ~ん」
「あ~ん」

 ――ビキッ!

「「「「「……」」」」」」
 そのときPXの空気にひびが入った。特に207分隊が食事を取っている付近で……。
「!」
 うさ耳をピョコンとさせ、さきほどの行為に驚きを表す霞。そして目を自分の皿に向け、至極真面目な顔で目の前の豆腐に挑戦。
「……」

 ……見事、つかめてしまった。

「……」
 うさ耳が力なく垂れ下がった。表情は変わらなかったが、その姿は落ち込んでいるようにも見える。
 だが、次の瞬間名案を思いついたと、うさ耳が勢いよく跳ね上がった。そして、自分の皿にあったさば味噌を箸でつかみ、
「白銀さん……」
「ん?」
「……あ~ん」
 それを武に差し出すのだった。

 ――ビキッ!

「……あ、ああ」
 武は差し出されたそれを見て、次に周囲の反応を確認した。
「「「「「……」」」」」
 しかし、周りは黙って自分の食事に専念していて、その姿は「ワタシ、キョウミアリマセーン」状態だった。ただ、武の目にはそう映ったかもしれないが、その実、みんなはことの成り行きに興味津々だった。耳はダ●ボ状態で、チラチラと二人の様子を盗み見ている。
 いつまでも引っ込めようとしない霞に、ついに武はそれを口にした。

 ――‘ブチッ’!

 何かが切れる音がした。
「……おいしいですか?」
「あ、ああ。おいしいよ」
「……よかったです」
「!」
 今度はアーリャが驚きを表す番だった。そしてあわてて自分の皿を見る。しかし、残念かな、そこにはすでにさば味噌は残っていなかった。アーリャは好きなものは最初に食べてしまうタイプなのだ。
 ズーンと沈むアーリャ。

「「「「「……」」」」」
 気味の悪いほど静かなそんな朝食だった。



「怖い怖い!お前らめちゃくちゃ怖いって!!!」
 そう言って自分の吹雪を必死に操る武だった。

 なんでこんなことになっているのか、すべては彼女たちの提案から始まった。
「一度、教官殿と模擬戦闘をしてみたいのですが」
 突如、榊がそんなことを言ってきた。なぜわざわざ白銀と呼ばず、教官殿と呼んだのか気になったが、ここらでひとつ相手をしてやるのもよいかと考えた。二つ返事で了承し、少々今日の訓練内容を変更して、彼女たちの相手をしてやることになった。
 だが、そこで気づくべきだったのだ、彼女たちの周りから黒いオーラがにじみ出ていることに。

 そして彼女たちと向かい合い初めて気づく身の毛のよだつような強烈な闘志(殺気)。
 冥夜と彩峰の吹雪が、戦闘開始と同時、弾丸のような速度で武の吹雪に迫ってきた。交互に繰り出される剣戟。殺気すらこめられていると感じるそれらの攻撃に、
「お、お前らめちゃくちゃ気合入ってない?」
『『……』』
「せめてなんか答えて!」
 
 それをさばいていた武だったが、戦術機が警報音で照準されていることを知らせる。見ると、ビルの上から武の吹雪を狙っている美琴と榊。未だ味方である二人が隣接しているにもかかわらず、撃ってきた。それは新兵にありがちな友軍誤射の恐怖を感じさせない見事なものであり、しかも狙いも正確。いつもなら褒めるところだが、今の武にそんな余裕はなかった。後衛の二人は、上手く前衛の二人と協力しながら武を追い詰めていった。

 このままではいけない。そう思った武は猛撃の一瞬の隙に後方跳躍。すぐにビルの陰に隠れるのだった。しかし、
 ―――ドンッ!
 目の前のビルが粉々に砕け散った。
「っ!?タマか!?」
 飛んできた弾頭角度から狙撃位置を特定。その方向を見ると、はるか遠くにたまの吹雪が狙撃銃を構えていた。

 ……やばい。完全に包囲されている。近距離は冥夜と彩峰、中距離を榊と鎧依、遠距離はたまと完璧な布陣だった。
 彼女たちを訓練生とあなどっていたのが間違いだった。訓練でも見せたことのないような技の数々。連携の練度。何が彼女たちをこんなに団結させるのか。
 武は手を抜いている場合ではないと、本能で感じた。


「珠瀬! 狙撃位置がばれたわ! すぐにその場から移動して、今から送る地点を狙える別の狙撃ポイントを確保して!」
 千鶴は迅速に、また的確に指示を出した。
『了解!』
 すぐに珠瀬のマーカーが移動を開始する。それを確認して、すぐに次の指示を出した。

「鎧依はこの地点に先行して、待機。私を含めて残りの三機で敵機をこの地点に誘い込むわ」
『『『了解!』』』
 鎧依が白銀に向けていた突撃砲を抱え、指定した地点に向かう。
「誘い込んだ後は私が敵機に近接戦闘を仕掛ける。それを第一の囮として、次に鎧依が敵機の後方から突撃砲で支援。それが第二の囮で、最後に……珠瀬!」
『はい!』

「あなたの一撃が本命よ」
『わかりました』
 網膜に映った珠瀬の顔は、そのプレッシャーをものともしていないようだった。
「御剣! 彩峰! この策が成功するかはあなたたちの近接戦闘能力にかかっているわよ!」
『了解した!』『任せて……』

そして次の言葉を最後に通信を終了する。
「作戦名は『あ~ん野郎に死を(シロガネゴートゥヘル)』よ!」
「「「「了解!」」」」
 この日彼女たちは白銀を後一歩というところまで追い詰めるという快挙を為す。横浜基地では、後にこれを『あ~ん事件其の一』と呼ぶこととなる。



「宗像~?」
「なんですか?」
「あたしってば昨日……すっっっっっっごい恥ずかしいことやっちゃった気がするんだけど」
「……速瀬中尉も、ですか」
 シミュレーターに入る前、そんなことを話している二人が目に入った。そして昨日の二人の様子を思い出す。
 
 あれは中々に面白いものだった。アーリャを連れて、まず速瀬中尉の部屋を尋ねたとき、彼女は布団で体を覆い隠し、鼻から上の部分だけを布団から出すという格好であった。。頬は紅潮し、涙目でこちらを見る速瀬を可愛いと思ってしまったのは秘密だ。さらに宗像。彼女は物陰から顔だけ出すという普段の宗像なら絶対に見れないであろう姿を見ることができた。くそっ!カメラに収めておけばよかった!と今さらながら後悔する武であった。
 このとき、武の心の内を読んだ霞がジトーっとした目を後ろから向けていたことに武は気づいていなかった。


 A-01とのいつもの演習が終わって、武の部屋。そこには今日一日ずっとついてきた霞までもが一緒にいるという事態だった。
「えっとー……」
 霞は黒の軍服を着替え、寝巻き姿で大きな兎の人形を抱えた状態で武の前に立っていた。
「……ここで寝るつもり?」
「……(コクン)」
 
 服を引っ張られる。そっちを見るとアーリャが必死に首を振っていた。
「いや、そんな意思表示されても……」
 幼い少女二人組みに板ばさみにされ、困る武。
 そのとき、その状況から彼を救い出す女神が現れた。

「――白銀少佐」
「ピアティフ中尉!」
 部屋に入ってきたのは夕呼の秘書兼オペレーターのイリーナ・ピアティフ中尉であった。
「香月博士が呼んでいます。至急、博士の部屋に来てほしいそうです」
この基地で夕呼とたびたび会う関係上、これまでも何度も会っているが、武を呼びにきたのは初めてだった。おそらく霞がいつまでたっても帰ってこないので仕方なくピアティフに頼んだのだろう。

「じゃ、ちょっと行ってくる。ここで待っててくれ」
 そう言って二人を残し、ピアティフと二人、夕呼の部屋を目指して歩き始めた。
 部屋から大分距離があいてから、武はようやく一息ついた。
「なぜ社さんとあの娘が少佐の部屋に?」

 ピアティフがそんな武に質問してきた。ちなみに彼女はアーリャが00Unitだということを知らない。この基地でも知っているのは武と夕呼のみだ。
「アーリャは昨日からオレの部屋で寝てますが、なんでか霞までオレの部屋で寝るって言い出しましてね」
「まあ」
「で、いったいどうしたもんかと」

 困り顔の武を見て、ピアティフがクスクスと笑った。
「いいのではないですか?それだけ好かれているということなのでしょうから」
 うーむ、事はそんなに簡単なことではないのですよ、とより困り顔になる武だった。その顔を見てさらにクスクスと笑うピアティフ。今まで事務的な態度でしか武に接してこなかったピアティフ。そんな彼女がこんな反応をするのを武は初めて見た。

 ピアティフ本人にとって白銀武とは、ある日突然夕呼の元を訪れた謎の人物だった。衛士として異常な腕も知ってるし、あの謎の機体「伊邪那岐」の衛士である。夕呼本人に彼を探ることは禁止されている。彼女は彼のことを図りかねていた。
 しかし、そんなときにただの二人の幼い少女を前にして、困り顔になる彼。その瞬間、彼をとても身近な存在に感じてしまった。そして、そんな姿を年上の自分から見てかわいいと思うのであった。


 夕呼の部屋に近づくと、私はこれで、とピアティフはどこかへ行ってしまった。
「失礼します」
「……来たわね」
「何ですか?こんな夜遅くに?」
 そんな武に夕呼は書類の束を投げて寄越すのだった。

「あんたに頼まれてた件のことよ」
 ああ、’アレ’か。
「一応、あたしの子飼いの特殊兵器開発部に預けといたわ。富嶽と遠田技研に一つ、三菱に一つよ。あー、河崎には『伊邪那岐』のスペアパーツを頼んでるから」
「どれくらいかかりそうです?」
「さぁてねー? でもあれを見せた途端、目の色変えてたから、案外早くできるんじゃないの? まあ、さすがに間違いなく次の作戦には間に合わないでしょうけど」
 次の作戦。甲21号制圧作戦のことだ。
 まあ、それに間に合わないのは仕方ないとしてあきらめることにしよう。アレを早期に開発して、帝国軍と斯衛軍にその力を見せつけ、正式採用にこぎつければ、日本主導でBETA殲滅の指揮をとることができる。まずは確実に開発するということが重要なのだ。

「そういえばあんた、社はどうしたのよ?」
 ああ、そうだ。霞がいきなり武の部屋で寝るといい始めたことを夕呼に相談しないといけない。

「……というわけなんですよ」
「ふ~ん……ま、別にいいんじゃない?」
「え、いいんですか!?」
 せっかく相談したというのに夕呼の答えはさきほどのピアティフと変わらないものだった。
「あの娘が自分のしたいことをはっきりと意思表示するっていうことはあまりないことよ」
 た、確かにそうかもしれない。
「こんな時ぐらい好きにさせてやりなさいよ」

「で、ですけどねー」
「何? やっぱりロ○○○だから、手を出しそうで不安なわけ?」
「……はぁ、わかりましたよ」
 しぶしぶと承諾する武だった。

 この日から武は二人の少女に挟まれ寝ることとなる。どうしよう、なかなか寝付けない!
                                                              つづく 


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