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No.3444の一覧
[0] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop(29話更新しました)[テンパ](2013/05/15 22:24)
[1] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2[テンパ](2013/01/09 22:48)
[2] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3[テンパ](2013/01/01 23:43)
[3] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 4[テンパ](2008/11/18 21:33)
[4] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 5[テンパ](2013/01/14 19:00)
[5] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 6[テンパ](2013/01/14 19:05)
[6] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 7[テンパ](2013/01/14 19:10)
[7] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 8[テンパ](2013/01/14 19:13)
[8] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 9[テンパ](2013/01/14 19:18)
[9] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 10[テンパ](2013/01/14 19:24)
[10] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 11[テンパ](2013/01/14 19:31)
[11] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 12[テンパ](2013/01/14 19:40)
[12] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 13[テンパ](2013/01/14 19:44)
[13] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 14[テンパ](2013/01/14 19:49)
[14] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15[テンパ](2013/01/14 19:53)
[15] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 16[テンパ](2013/01/14 19:58)
[16] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 17[テンパ](2013/01/14 20:01)
[17] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18[テンパ](2013/01/14 20:03)
[18] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 19[テンパ](2013/01/14 20:06)
[19] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 20[テンパ](2013/01/15 02:33)
[20] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 21[テンパ](2013/01/14 20:13)
[21] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22[テンパ](2008/12/09 23:07)
[22] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23[テンパ](2013/01/15 02:32)
[23] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 24[テンパ](2013/01/11 02:38)
[24] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 25[テンパ](2013/01/15 01:57)
[25] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26[テンパ](2013/02/21 18:00)
[26] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 27[テンパ](2013/01/16 22:54)
[27] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28[テンパ](2013/01/16 21:30)
[28] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 29[テンパ](2013/05/16 17:59)
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[3444] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18
Name: テンパ◆790d8694 ID:20e2b231 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/14 20:03

「……風間少尉」
「あっ……!」
 なだれ込むようにしてベッドに押し倒された。
「し、白銀少佐!?」
 急な事態に困惑の声を上げる風間。ヴァイオリンがその手を離れ、ベッドの端に転がった。弦に少しだけ触れ、音を発するヴァイオリン。だが、その音がやむと、部屋を支配したのは緊張した二人の呼吸の音だけだった。

 風間の首筋に顔をうずめる武。その唇が首に触れる。
「あ……」
 それにより体が強張る風間。
 武の指が風間の細い腰に触れる。そこから体のラインを確かめるようにしてだんだんと上に上ってきて……
「んっ!」
 そんな風間の頬に手を優しく乗せて……

「優しく……しますから」
「白銀少佐……」
 白銀は不安に瞳がゆれる風間の唇に自分の唇を――



















「――ってことがあったに違いない」
「ほ、本当ですか、宗像中尉?」
「し、白銀少佐と風間少尉がっ!」
「高原少尉と麻倉少尉に何を話しているのかしら、美冴さん?」
「って速瀬中尉が言いふらしていた……ではっ!」
「「む、宗像中尉~!?」」
 なんとも平和な一コマでした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇(では今回の本編はここから)


『茜! なにやってんのよ、出過ぎよ!』
「す、すみません!」
 ――なんで。

『涼宮、お前のポジションは強襲掃討だぞ! 突撃前衛のエリアまで出てどうする!?』
「っ! 了解!」
 ――なんで、なんで!

「くっ! ああぁぁ!!」
『茜ちゃん!!』
『大尉! 涼宮少尉が!』
 ――なんで私は! 彼のように!
『っ!神宮司大尉、カバーを!』
『……ダメだ。脚部がすでに破壊されている……涼宮、わかっているな?』

「……はい」
 ――なんで私はこんなにも弱い!
 そしてS-11の起動スイッチを押した。


『ハイヴ内演習終了。全シミュレーター機停止します』
 涼宮中尉の声で全シミュレーター機がその活動を止め、ぞろぞろとA-01の面々が出てきた。みんな適度に疲れているが、自分の成長がひしひしと感じることができているため表情はみな明るかった。疲れを苦としない。しかし、その面々の中で一人だけ暗い表情を浮かべた少女―――涼宮茜がシミュレーター機から重い足取りで出てきた。フラフラとその焦点はどこにあっているのか分からない。
「涼宮」
 そんな茜に伊隅が声をかけた。

「はい」
 暗い顔をいくらか引き締め、伊隅と向かい合う茜。
「今日の訓練のことだが、なにをそんなにあせっている?」
 伊隅がそんなことを言った。
 あせっている。確かにそうかもしれない。あれを見せられたときから私の中では焦りにも似たなにかが生じている。それがここ最近でさらに大きくなってしまった。
「お前は確かに成長している。それは先任の私から見ても明らかだ……焦らずゆっくりと自分を伸ばすといい」
 ダメ。それじゃ自分が納得できない。彼は同い年なのだ。彼ができるなら自分にもできるはずだ。
「伸び悩むようなら白銀に相談してみるといい……やつのほうが的確なアドバイスをしてやれるだろう」

 白銀。その名前を聞いた瞬間、茜は指が手の平にくいこむほど強く握った。かろうじて表情にでることだけは阻止する。しぼりだすようにして声を出す。
「……わかりました」
 それだけ聞くと、伊隅は茜から離れていった。その後すぐに、
「茜ちゃん、今日の撃墜のことなら気にすることないですよ~」
「そうそう、ちょっと前に出すぎただけで、訓練で気づけた分実戦では……」
「ごめん。私ちょっと急ぐから……」
 そして、声をかけてきた築地と柏木の顔も見ずに、早足でその場を後にした。

 そんな彼女の背中を見て、
「……茜ちゃん」
「あらら……ま、そっとしておいてやりなよ、多恵」
「晴子さんは何か心当たりがあるんですか?」
「ん……まあ、一応ね」
 でも茜の問題だよ、とそれ以上語ろうとしない柏木だった。それに築地は不満顔。訓練生のときから、いつも明るく頼れる存在でチームを引っ張ってくれた茜があのような状態なのが、うれしくなかった。彼女は今、どんな問題を抱え込んでいるのだろうか。そしてそれを自分には相談してくれないのだろうか。それがとても寂しかった。


◇ ◇ ◇


『くっ!化け物か、貴様!?』
『まったくですわ』
「無駄口を叩くな、戎、神代!巴が落とされ、こちらは三機だ!アレ相手に無駄口をたたく余裕などどこにもないぞ!」
 自身でそういいながらも一秒たりとも操作の手は止まらない。右へ左へとめまぐるしく移動する蒼穹色の’それ’を必死に追っていた。突撃砲だ。すぐにビルの影に隠れる。音が止んだと同時、反対方向からビルを飛び越すように跳躍ユニットで飛び上がる。それを待ち構えていたかのような射撃。すぐさま―――奴の言うところのジャンプキャンセルを行い、着地。音と振動で敵の位置を把握。その場所を巴と神代に伝える。

「敵はこの位置だ。平面機動挟撃!」
『『了解!』』
 すぐに自分も視界にその機体を納めた。蒼穹色の極東国連軍仕様の吹雪。この吹雪と斯衛が誇る主力機、武御雷が模擬戦をしているなど、両者の性能を知っているものが見たならなんの冗談だと思っただろう。それだけ機体に性能差がある。しかし、この模擬戦、当初は1対4であったのだ。そのような結果など火を見るより明らなはずなのだが、しかし、結果としてはそれはまったくの間違いだった。

『きゃあっ!』
「戎!」
『うああ!』
「神代!」
 またも落とされていく部下たち。空中で神代を一刀のもとに切り捨てた吹雪が月詠の前に降り立った。ついにその吹雪と月詠の一対一になってしまった。

「つっ!」
 練習機とは思えない吹雪が放つ威圧感。この武御雷が霞んで見えそうだ。
 だが、こちらとてただやられていたわけではない。相手の右腕にはペイント弾の塗料がたっぷりついている。使えるのは左手のみ。また片腕のみなら武装の変更にも時間がかかるはずだ。勝機をそこに見出す。

 相手が短刀を構えた。片腕の失われたバランスの悪い機体では長刀は扱いにくいと判断したのだろう。月詠は残弾数の少ない突撃砲に新たに弾を入れ替える。最後のカートリッジ。だが、おそらくこの位置からではあいつ相手に意味はない。背中から長刀を引き抜いた。やつで注意すべきはその三次元機動だ。だが、やつの武装は短刀。間合いは必然的に狭まる。上を抜かせないようにだけすればいい。あとは近接戦闘のセンスが勝敗を左右する。
 時間にして数秒。たったそれだけだったが、ずいぶん長い間対峙していたように月詠は感じた。そしてその長かった時間が経つと同時、二機が動いた。

 当然、長刀の武御雷のほうが先に攻撃可能な間合いになる。月詠は最大速の水平噴射の勢いのまま、突きを放った。模擬刀とはいえ、物理的エネルギーだけで相当なものだ。狙いは右肩。残りの武装さえ排除してしまえば脅威はなくなる。
 風を切り裂き、吹雪に吸い込まれるように向かう切っ先。そのとき、吹雪が足を踏ん張った。
 急制動とともに、左手に構えた短刀を正面に構え、武御雷の長刀の切っ先がちょうど体の真ん中に来るように移動した。そして、その短刀の腹で切っ先を受け止める。すると、吹雪の体が浮かび上がった。

「!?」
 武御雷の水平噴射の勢いそのままに一緒に運ばれる吹雪。何をしたのかを理解した。やつは自分の重心をぴったり長刀の切っ先の延長線上に持ってきたのだ。なんという操縦センス。1cmでもズレていれば短刀からはじかれた長刀がその腹に深く突き刺さるというのに、一切のためらいもなかった。
 二機が一緒になってビルの間を突き進む。
 月詠は動くに動けない状態であった。切っ先をずらせば、短刀にはじかれ正面ががら空き、水平噴射の出力を弱めれば、余裕ができた吹雪が得意の高機動近接戦闘を仕掛けてくる。このような密着状態ではあの機動を追いきることは不可能だ。

 悩んでいると先に吹雪が動いた。跳躍ユニットを逆噴射。武御雷ごと減速すると、いつの間にやら吹雪の背後まで迫っていた壁、それを蹴って、飛び上がった。
 まずい、と真っ先に思った。減速したといっても武御雷はすぐには止まれない。案の定、吹雪がいなくなると浅くビルに突っ込んだ。
 視界をうめつくす瓦礫の雨。しかしそんなものには目もくれず、ビルに刺さった長刀を引き抜き、気配だけをを頼りに背中越しで後方に突いた。
『!?』
 確かな手ごたえ。相手のどこかに当たったことは間違いない。しかし、次の瞬間鳴り響く危険を知らせる警報。まだ仕留めていない。そしてその刀を引いて、振り向きざまに、
「間に合えっ!」
 長刀を袈裟切りに薙いだ。



「――結局相打ちか……」
 月詠は自身の武御雷を見上げながら悔しそうにいった。XM3搭載機4機で吹雪一機に相打ちとは情けない結果であった。
「いやいや蓄積データのほとんどないあの状態であれだけ動けたことがむしろ驚きですよ」
 隣まで来ていた武がそう言った。もちろん彼が先ほどの吹雪の衛士である。
 それは武の本心であった。機体性能差があるといっても武は当初勝つつもりでいた。しかしさすがは斯衛の猛者たちだ。そう簡単なことではなかった。

「貴様が不知火に乗っていたらと思うとぞっとするぞ」
「本当に~」
「伊達に少佐ではないということか」
 白の三人は素直に感心していた。しかしそう言葉を発しながらも目は先ほど武から渡された武の操作記録のほうを向いている。三人ともがうつむき加減で、熱心にそれに見入っていた。盗めるところは盗めるだけ盗んでやろうという魂胆らしい。さすがは斯衛のものたち、勉強熱心だ。

 近接戦闘特化の武御雷とXM3の相性は抜群にいい。それに武という最高位の衛士との模擬戦でその力は飛躍的にあがっていくことだろう。まあ、A-01と207分隊との関係上毎日は相手してやることはできないが、彼女たちなら自己鍛錬もしっかりとやることだろう。
「では、また時間が空いたときにお相手しますんで」
「ああ、我ら所属の違う斯衛に演習場を手配してもらいありがたく思っている。・…だ、だがそれはこのOSが帝国の力になると考えているからで、貴様の嫌疑が晴れたわけではないからな。次は今日のような結果にはならない。覚悟しておけ」
 首はきれいに洗っておきますよ。



 そんな彼女たちと分かれて少し、武がシミュレーターデッキの前を通りかかったときだ。
「あれ?だれかいる?」
 ふと見えた一つの稼動中のシミュレーター機。ひっきりなしに動いていることからかなりの高速機動を行っていることがわかる。動きから見てポジションは突撃前衛だろうか。
 一機だけ稼動しているということが気になって、武はその隣のシミュレーター専用の管制室へと入った。ここではシミュレーター内部の映像、衛士のバイタル、その機体が行っている機動など様々なことを知ることができる。モニターの前まできて、現在稼動中のシミュレーター、1号機の映像を映し出した。

「……涼宮?」
 そこに映ったのはなにやら鬼気迫る表情で戦術機を操る涼宮茜の姿だった。
『ぐうぅぅ!』
 行っているのは単機でのハイヴ内突入。さっきの声からも分かるとおり、かなり苦戦している。当然だ。本来、ハイヴ内突入はチーム単位で行うものなのだ。単機での突貫など武のような衛士でないと2kmも進まぬうちにBETAの波にのまれてしまう。さらに茜はまだ任官してまもない新任だ。このようなことは自殺行為以外のなにものでもない。

『あ……』
 案の定。シミュレーター機が無機質な女の声で機体の大破を伝えた。
『――っ! なんで!』
「うお!」
 突如コックピットの壁をたたく茜。あまりの迫力に画面越しでもびっくりしてしまった。一体何にいらついているというのか。しかし、このような茜、どこかで見たような……。



「これで……4回目の大破、か」
 シミュレーター機の中で茜はそうつぶやいた。彼の記録には遠く及ばない位置での大破。
 強く唇を噛む。悔しい。私と彼の間にはなぜこんなにも差がある。白銀が男だから?いや、彼の強さはそんなところに起因していない。そもそも、それを理由に逃げる自分が嫌だった。彼だって同じ人間だ。彼にできて私にできない道理があるわけない。
(私はもっと強くならないといけないんだ!)
 それは自分が背負うもののため。姉の分も戦場に出て戦うため。想い人を亡くした二人の支えになってあげたいから。
「もう……一回!」
 もう一度、ハイヴ突入演習を選んだ。


「くっ!」
 迫るBETA。シミュレーターと頭では分かっていても体はこの前の実戦で間近に感じた本物のBETAの恐怖を思い出す。その一瞬の体の硬直。それがハイヴ内では致命的な隙となる。あっという間に要撃級と突撃級が目の前までやってくる。正面に逃げ場はない。かといって跳躍するにも距離が近すぎる。このまま跳べば、脚部を破壊される可能性がある。しかし、ただ相手の攻撃を手招いて待っているわけにも行かない。
「!」
 そのとき茜の頭に浮かんだのは、白銀のあの機動。機体を縦に半回転させながら進み、正面のBETAを切りつける、技とも言うべきあの機動。

(白銀にできるなら私だって――!)



「――無理だ。今のお前にはその機動は再現できない」
 武はモニターに映る茜の姿を見ながら言った。あれは左右の跳躍ユニットを精密出力調整してから初めて取れる機動なのだ。空中での姿勢制御も通常とは比べ物にならないし、それに加え周囲のBETAを切り裂くために長刀の操作もしなければならない。そしてBETAの群れに突入するという度胸。茜のような新米にはどうあがいても再現できない機動だった。
『ぐっ!』
 やはり姿勢制御を誤って自分からBETAの群れに突入。それは、武が数えて五回目の死であった。

 悔しがる茜を見ながら、武は彼女の腕を冷静に解析。武が見る限り、彼女の衛士としてのタイプは明らかに突撃前衛タイプだ。そして腕もそれに見合ったものがある。今のA-01の戦力なら十分に前衛を任せられると武は判断した。だが、たまにある無茶な機動を除けば、という条件付きでだ。
 このままでは実戦でも無茶しかねない。
「なんとかしないとな……」
 シミュレーター機から茜が出てきた。武はそれに見つからないように注意してからその場を静かに立ち去った。

 
◇ ◇ ◇


 あ、ありのまま今おこったことを話すわ。
 
 私たちは小隊規模ならあいつの力に並んだと思っていたわ。だけど、あいつが不知火に乗った瞬間、私たちは全滅させられていた……。
 
 な、何を言ってるのか分からないと思うけど、私も何をされたかわからなかった……
 頭がどうにかなりそうだわ……

 催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ断じてない

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……

 ――と、速瀬がポル○ル・パニック風に言っているがなんのことはない。先日吹雪に搭乗した白銀に勝ったことで調子に乗っていたら、不知火に搭乗した白銀にあっという間に倒されたというだけだ。ちなみに不知火は数日前から手配していたものらしい。
 さすがに練習機である吹雪と不知火では性能差がずいぶんとある。吹雪ならその性能上できなかった機動も不知火ならできる。A-01は武の操る不知火にことごとく敗れた。


「オニー、アクマー、バケモノー」
「こら、水月!負けたからってそんなにスネないの!」
 三連続で武に敗れた速瀬がふてくされていた。
「だってさ、せっかく白銀に勝ったっていうのにもう少し勝利の余韻にひたらせてくれてもさー」
「ほほう、速瀬中尉はオレに手加減してほしかったと……わかりました今度からはそうさせてもらいます」
「っ!冗談じゃないわ!手加減されたアンタに勝ったって嬉しくもなんともないじゃない!いい?教えてあげる!私の今一番の楽しみはアンタを一対一でギッタギタのボッコボコにしてからあたしの前にひざまずかせて『恐れ入りました、速瀬水月様』って言わせ―――」
「お、アーリャ、タオルありがとー」
「ん」
「って聞けーーーーーーーーー!!!!!!!」

 まあ、負けたといっても以前のような相手の機体が無傷などというものではない。それなりに白銀を苦戦させたし、彼の機動にある程度ついていけるようにはなっている。まあ十分合格点だろう、などと武が考えていると、
「あ、茜ちゃーん」
 スタスタとこちらに顔も見せずにハンガーを出て行く茜とその後ろを追う築地が目に付いた。

「ふむ……」
 そんな茜の後ろ姿をみてあごに手を当て、一考。そんな武に、
「白銀、少し相談したいことがある」
 伊隅が声をかけてきた。その目もさきほど茜がでていった方向を見ていた。
「涼宮のことなのだが……」

「ああ、わかってますよ。あいつの性格はよく知ってますからね、こっちのほうでなんとか対処しときます」
 名前を口にしただけで、彼女の相談したい内容を理解した武に伊隅は驚いた。彼がこのA-01部隊をみるようになってまだ一月未満だというのに、彼は部隊員のことをしっかりと見ていたようだ。やはりただ若いだけの男ではない。
「そうか、頼む。本来このようなことは部隊長である私の仕事であると思うのだが……」
「いいですよ。あんな感じになった衛士は何人も見てきてますからね……」
 この男……本当は一体何歳なんだ?

「あっ!風間少尉ー!この前のヴァイオリンありがとうございましたー。アーリャも聴きたいって言ってるんで、今度またお願いしてもいいですかね?」
「!……ええ、喜んで!あの……また、私の部屋で?」
「そうですねー……いや、聴かせてもらってばっかりってのも悪いですから、俺の部屋に来てくださいよ。何かおもてなししますから」
「しょ、少佐の部屋!?」
 ……ずいぶんと隊員と仲良くなっているようだった。

◇ ◇ ◇

「っ!」
 茜が強化装備を着替えた状態で基地内の廊下を歩いていた。途中まで築地がついてきていたが、茜は今の自分の顔を見られたくないため、途中で逃げるようにして振り切ってしまった。そのためかかすかに肩が上下して荒れた息を整えていた。
「あれ?」
 一瞬足元がふらつく。頭がボーっとして倒れそうになる自分を壁に手を当てなんとか支える。いけない。なんだか体の調子が悪いようだ。
(衛士は体が資本……)
 そんな自分に活を入れて、しっかりとした足取りでまた歩きはじめた。
 そして、思い出すのは今日白銀が搭乗していた不知火の動き。吹雪でも異常だったというのに、以前までの彼は本気ではなかった。また自分と彼の間に大きすぎる差ができてしまった。

 うつむき加減で廊下を進む。私と彼の違いは何?同じ日本人。同じ年齢。性別が違う?でも戦術機に筋力なんて必要ない。男と女が平等に扱える兵器だ。事実、女性のエースパイロットは世界にたくさんいる。戦術機にのった年数?でも自分より4年以上長く戦術機に乗っている伊隅大尉であっても、自分との間には白銀ほど大きい差があるとは思わない。白銀の年齢から考えて、それ以上昔からのっていたというのも考えにくい。
「おい」
 
 悔しい。なんで私には彼のような力がない。私は誓ったのに、お姉ちゃんの分までがんばるって。
「おーい」
 焦っても焦っても結果はでてこない。自分が強くなっている気がしない。一体どうしたら……。

「ぶつかるぞ?」
「え?」
 前方から聞こえた声に顔を上げると、そこに迫っていたのは黒の軍服。止まりきれずにそこに顔を突っ込んでしまった。
「う、ぷっ!」
「前方不注意だ。お前が悪い」

 あわてて後ろに下がり、ぶつかった相手を確かめると、それは今一番会いたくなかった人物。
「白銀!?」
 白銀武だった。

「注意力不足だ。ここ最近寝不足だからそんなことになるんだぞ」
「っ!なんで君がそんなことを知ってるのよ!?」
 確かに自分はここ最近少々寝不足気味だ。睡眠時間も自主訓練に当てているため当然だった。ただ、訓練には支障を来たさない。衛士としての義務だった。しかし、それが目の前の白銀にはばれてしまっている。

「オレはお前たちの教官だ。それくらいのことは見てるさ」
「っ!」
 体調管理もできていない。自分が白銀に衛士としてだけでなく人間としても負けているような気がして、茜は今の自分がとても惨めに思えた。結局は自分の一人相撲。強くなろうと努力したことも、徒労に終わり、そしてそれを他人に気づかれる。
「お前は黙って根を詰めるタイプだからな」

 自分がとても子供みたいに感じる。
「オレとの間に差がありすぎることに悩んでるんだろ?」
「!?」
 見事言い当てられてしまった。そんな茜の表情をみて、白銀は「やっぱりな」と腕を組んで、壁にもたれかかった。

「なんでもかんでも自分一人で背負う必要なんてないんだぞ?」
 まるで子供に言い聞かせるように。茜にはその言葉がそう感じられた。

「涼宮中尉や速瀬中尉だってお前一人に―――」
 その名を聞いた瞬間、茜は頭に血が上った。そして次の瞬間、
「白銀みたいな強い人にはわからないよ!!」
 目の前の白銀を突き飛ばし、振り返ることもせずに走り去った。

「っ!……うっ!~~!」
 弱い。弱い。そんな自分に涙が出てくる。どうやったら強くなれる?
(私は衛士の道を絶たれたときのお姉ちゃんの顔を知ってる……‘あの人’が死んだときの速瀬中尉とお姉ちゃんの顔を知ってる)
 そんな二人を知っているからこそ、そんな二人を支えられるよう強さを求めた。せめて戦場では彼女たちの助けになろう。でも今の私はどうだ?目の前に白銀という大きな壁が立ちはだかって、それを超えることも近づくことすらできない。仕舞いには、その彼に八つ当たり。
 茜は涙を拭きながら、廊下を駆け抜けた。



「あらら……」
 失敗したかな、と武は頭をかいた。向いた方向にはだんだんと小さくなっていく黒い軍服。
 さてどうするか、と白銀は考える。これで引き下がるつもりなんて毛頭ない。あれこれ考えていると、茜が角を曲がって見えなくなってしまった。
「白銀」「白銀少佐」
 それと同時、後ろから声をかけられた。

「はい?……って速瀬中尉、涼宮中尉」
 その二人がそこに並んで立っていた。
「えーっと……もしかしてさっきの見てました?」
 コクン、と頷く二人。あちゃー、と額に手を当てる武。

「ご、ごめんね、白銀少佐。私たちも盗み見するつもりじゃなくて……」
「あの娘が心配だから追ってきたってわけ。で、偶然にも……」
 見てしまって、出るに出られなくなった、というわけか。まあ、別に見られたことをとやかく言うつもりではないが、女の子を泣かしたシーンというのは見られてうれしいものではなかった。

「白銀……あの娘があんなに無茶してるのは―――」
「『お姉ちゃんの分も頑張りたい』から……ですね?」
「!」「……え?」
 二者二様の反応をする二人。

「アンタ知ってたの!?」
「ええ……ホントはあいつがいないところでこんな話するのはNGなんでしょうけど……」
「そうだったんだ……」 
 涼宮中尉は総戦技演習のときに事故で衛士の道を閉ざされている。現在の両足は擬似生体移植されている。日常生活には支障はないが、神経結合が完全というわけではなかったらしい。
 茜はそんな姉の無念を背負って戦っている。まだ20歳前の少女だというのに……。

「まあ、ほかにも理由はあるみたいですけど……ね」
 速瀬中尉と涼宮中尉の両方を見て言った。
「「?」」
「まあ、ここから先は本当にNGになっちゃいますから」
 武はそれ以上語ろうとしなかった。

「ま、あいつとはもう一回話してみますよ」
 そして二人に手を上げ、去ろうとすると、
「白銀少佐」
「なんですか?」
「妹を頼みます」
「あたしにとってもあの娘は妹みたいなもんだからね。あたしからも頼むわ」

 了解。 武は二人に手を上げて、歩き出した。

◇ ◇ ◇

「ハァハァハァ」
 茜は今日も深夜一人でシミュレーター機を操っていた。
 あの後、部屋に帰って考えてみるが結局自分には戦って強くなること以外の道はない。いつも以上に鬼気迫る様相で自身の不知火を縦横無尽に操っていた。
「っ!邪魔ぁ!」
 目前のBETAを突撃砲で一掃。正面に3体並んでいた要撃級を120mmで貫いた。

 今日はいつもよりレベルを上げてある。途切れることなくBETAがやってきて、息をつく暇すらない。
「ぐっ!」
 すでに二時間以上ぶっ続けだ。目の前がたまに霞む。だんだんと体が重くなってくるように感じる。
「まだまだぁ!」
 自分を奮い立たせ、体に鞭打つ。もっと強く。もっと多くのBETAを。それをまるで呪文のように頭の中で反芻する。
 だが、体は精神とは別にだんだんと限界を超えていく。興奮とアドレナリンの異常分泌で誤魔化していた体の不調。それにもついに限界が来る。

「うあっ!」
 横っ腹に強烈な突撃級の突進。機体が今までの動きを無視して一気に左に吹き飛ばされた。そしてハイヴ内の隔壁にかなりの速度でぶつかる。機体が大きく揺れる。そのとき茜の頭も大きく前後した。
 頭の中がシェイクされる感覚。
「……う?」
 そのとき、目の前がだんだんと白けていった。視点が定まらず、網膜にうつった映像がだんだんとコックピット内部の映像へと映り換わっていく。ビービーという警報機もどこか遠くで鳴っているように聞こえる。いや、だんだんと聞こえなくなっていく。
(あ……ダメ……)
 
 だが、そう思うのも無駄。意識がだんだんとなくなっていった。
(……悔しい)
 気を失う寸前、茜の頬を一筋の涙が伝った。



「―――これは、クセになってるな」
「……………………ん……………」
 どれだけの間気絶していたのか。茜の意識が暗闇から浮上し始めた。
「このときの判断は的確だから、周りはしっかり見えてるってことだな」
「……」

 頭上から声がする。男の……声?
(あれ……頭の上って?)
 そんなとこから声が届くのをまだボーっとしている頭で考えると、自分がいま仰向けに横たわっていることに気づいた。頭の部分が少しだけ持ち上がり、その下にはなにか枕のようなものがある。
「ほい、また悪い癖発見。これはオレもよくやったな」

 まただ。目をゆっくりと開ける。天井の明かりに目がくらむ。やがてだんだんと視界が鮮明になっていくと、
「―――お!起きたか」
 ヌッと、天井と自分の顔との間に白銀の顔が入ってきた。
「白……銀?」
「よっ」

 そこで気づいた自分が白銀に膝枕されていることに。
「!」
 バッと身を起こそうとすると、
「寝てろ」
と、白銀に両肩を抑えられ、戻されてしまった。 

 ポフッと白銀の膝の位置に戻される茜。だが、この年頃の少女にとって、同年代の男に膝枕されることは恥ずかしいことこの上ない格好であった。それに廊下での負い目もある。
「~~~っ!」
「こら!落ち着け!」
 声にならない声を上げ、顔を真っ赤にして暴れる茜。それを白銀はなんとか押さえつける。
「は、離して!」
「だわぁぁ~~!落ち着け~!」

 いつまでも落ち着かない茜に白銀は数十枚の紙の束を顔に押し付けた。
「これでも見てろ」
「え、あ?何?」
「いいから見てろ!」

 白銀の勢いに、しぶしぶと膝枕された状態でその紙を見る茜。
「これ……!」
 それはさきほどのシミュレーターでの茜の操作記録だった。しかもただの記録ではない。それには赤い文字でびっしりとアドバイスが書かれていた。
『ペダルの踏み込みが勢いよすぎる。敵と自分の距離を確かめて、そのときに応じて強さを換えろ』『どんな場合も右手の武器から換える癖がついている。気をつけろ』『120mmはお前の機動で十分にひきつけてから放て。この位置では後2秒だけ我慢すればよかった』『突撃前衛に要求されるのは突破力だ。それは弾を撃ちまくるのとは意味が違うぞ』などと、アドバイスだけではない。良いところは青字でチェックされていた。

「お前が強くなるための手助けだ」
「え?……あ、その」
 いきなりのことで混乱する茜。その目は渡された紙と白銀の顔をいったりきたりしていた。
「『強さを求める』こと自体は悪いことじゃない。それにお前は理由が理由だ。立派なものだよ。ただ、無理をするな……今日は廊下でそれを言いたかっただけだ。涼宮中尉や速瀬中尉も心配してたんだぞ?」

「え?」
 その言葉がスーッと心の中に入ってきた。自分が今までやってきていたこと、なんて自分勝手なことだったのだろう。強くなることだけ考えて、あの二人のことも忘れていた。心配してくれる人が自分にはいるのに。
「お前一人が無理して強くなる必要なんてないよ。そのために仲間がいるんだし、オレもいる」

 興奮がだんだんと収まっていく。するとやってくる猛烈な疲れと脱力感。自分がやってきたこと、白銀の言葉。いろんなことが頭の中を渦巻く。そして渡された紙をクシャっと強く掴んで、
「……ねえ、白銀?」
「……なんだ?」
(はじめからこうしていればよかった……)

「―――なんで君はそんなに強いの?」

 ずっと聞きたかった。でも自分の中のつまらない意地がきくのをためらわせていた問いがやっとできた。
「……オレが強い、か。オレだって最初から強かったわけじゃないさ」
 白銀は少しだけ複雑そうな顔をしてから天井を見上げた。

「―――最初から強ければ、‘みんな’を失わずにすんだ」

「え?」
 その言葉の中には彼のひどい怒りと後悔が含まれていることがわかった。茜の肩に置かれた手がギリギリと握りこまれた。顔は見えない。でも、見えなくて良かったのかもしれない。
 だけど、これで気づいた。彼だって本当に最初から強かったわけではないのだ。少し前、彼の口から漏れた「みんな……死んじゃいました」の一言。そのときの声とさびしげな微笑を浮かべた顔。彼は今の強さに至るまで、数多くの人を失っているんだ。誰一人失うことなく強さを追求できる自分は幸福なのかもしれない。

「なあ、涼宮……お前は何のために戦っている?」
「……速瀬中尉とお姉ちゃんの力になりたいから」
「そっか、それも立派な戦う理由だな……」

「白銀は……?」
「オレは……‘護るため’に強くなった、と思う」
「護る?」
 ああ、と白銀はうなずいた。

「オレは何人もの仲間を失ってきたからな……恩師、道を指し示してくれた人、覚悟を教えてくれた人、共に強くなったもの……それに恋人」
 やっぱり。
「……」
 悲しい過去を語る白銀。この人は自分とは比べ物にならないほど悲惨な人生を歩んできたのだ。
「もう失いたくないから、『仲間』を『居場所』を護るために強くなったんだと思う……まあ最終的にはお前が戦う理由とあまり変わらないよ。お前も結局あの二人を護りたいってことだろ?それにほかの人たちも」
「……うん」
「それさえあれば、お前は強くなるよ。俺が保障する」

 白銀が顔を茜に向けた。そのまっすぐな瞳で真上から見下ろされることで、恥ずかしくなって、顔を逸らそうとした。だが、その顔を白銀がしっかり掴む。そしてその頬を引っ張りあげて、
「だから、今度からは無茶しないって誓うか~?」
「ちひゃいみゃひゅ、ちひゃいみゃひゅひゃら(誓います、誓いますから)!」
「よし」

 すると白銀が茜の額に手を当てた。
「ん……体調はよくなかったみたいだが、熱はないようだな」
(大きい……手……)
 不思議と安心できた。

 そして茜の体を起こした。立てるか?などと簡単に体調を聞いて、大丈夫だと分かると今日は休めという言葉を残して、きびすを返した。
 茜はその背中に慌てて、
「ねえ、白銀!」
 白銀を呼び止めた。彼が振り返る。
「そんなにたくさんの仲間……それに恋人も亡くした今、君が’護るもの’って何?」
 すると彼は、今まで見たこともない笑顔でこう答えた。
 
「―――‘お前ら’だよ」

「!」
 その言葉で心臓が大きく跳ねた。なにか得たいの知れないものが心の中に生まれる。胸に手を当てなくても動悸が激しくなっていることが分かる。
「あ……」
 去っていく彼。だが、自分に何が起こっているのか分からない茜はただ、額に残った白銀の手のぬくもりを感じながら、彼を黙って見送ることしかできなかった。

◇ ◇ ◇

『白銀……私と勝負してくれない?』
 次の日、訓練も終盤にさしかかってきたとき、茜がそんなことを言ってきた。
「……別にいいぞ?」
『『『『『……』』』』』
 この回線は全員に開いているはずだ。だが、誰も何も言わないということは何かを察したということなのだろう。

『言っとくけど白銀……‘本気’でやってよ?』
「いいんだな?」
『うん、お願い……』
 誰も何も言わず、二人のために少しずつ離れていった。演習場の真ん中で向かい合う不知火。
『じゃあ……行くよ!』
「来い!」



 勝負は本当に一瞬でついた。最初から近接戦闘を仕掛けてきた茜。それを白銀は‘本気’で迎え撃った。反撃の暇すら与えない。茜の不知火がひざを突いた状態でとまっていた。
『……ハ、ハハハ』
(……笑い声?)
『ハハ、ハハハ……やっぱり白銀は強いね』

 網膜に映った茜はどこか満ち足りた顔をしていた。そして一度バチンと自分の両頬を叩いて、白銀を正面から見据えた。

『決めた!今日から白銀が私の目標!』
「え?」
『だ~か~ら~白銀を目標にしたっていってるの!』
 いきなりそんなことを言ってきた。

『あらま、白銀が目標とはまたずいぶんと高い目標設定したわね茜~』
 すると、いきなり速瀬中尉が回線に割り込んできた。
『も、もちろん速瀬中尉も今まで通り私の目標ですよ!?』
『それにしてもいきなりだな。白銀と何かあったんだろ?恥ずかしがらず上官に話してみろ』
『ああああああ、茜ちゃん、本当ですか!?』
『む、宗像中尉!?な、なんにもありませんでしたよ!多恵もそんなに驚かないでよ!』

『嘘をつけ、顔が赤いぞ?どうするやばいぞ、梼子』
『なんでそこで私に聞くんでしょう、美冴さん?』
『こらこら、じゃれあうのもいい加減にしないか!』

 いつの間にか以前の空気に戻っていた。武は会話の内容など聞いていなく、ただその雰囲気になったことがうれしかった。

◇ ◇ ◇

 帝国国防省、戦術機技術開発研究所。その施設の一角で二人の人物がとある映像を見ていた。
「ほう……これが先日の新潟での……」
「はい、国連軍から唯一参加した部隊の戦闘映像です」
 一人は顔に大きな傷を持った将校―――名を巌谷榮二中佐という。もう一人はまだ年若い少尉。
 二人の目の前には少尉の操作で次々と移り変わる10機近くの不知火がBETAを相手に戦う映像だった。蒼穹色が示すのは極東国連軍所属の証。一個中隊ほどのそれの戦いぶりを二人は見ていた。

「すばらしいな……」
 巌谷は思わずそう呟いた。光線級もいる中、中隊規模が数千のBETAを相手にまったく退く事なく、また一機も失う事無く互角に渡り合っていた。彼ら―――衛士の性別はわからないが―――が通った後は確実にBETAの死骸がうずたかくつもっていく。それ以外にも今までの戦術機機動をくつがえすような動きを彼らが行っていることが驚きだった。
「情報によるとこの機動は横浜基地が新開発した新OSによるものということです」
「ほう、新OS……」
 
 機体を新造するわけでなく、OSの換装だけでこれほどの戦果を挙げるとはすばらしい発明だ。だが、ひっかかるのは横浜基地という言葉。
「だが、あの牝狐が素直にこちらに渡すとも思えんな」
 忌々しいと巌谷は顔を歪めた。
「すでに横浜基地駐屯中の斯衛の武御雷四機に先行搭載されたそうです」
 いったいどれほどの供物を要求されることだろう。

「近々こちらへの引渡しもあると匂わせる発言もいくつか」
「……匂わせる、か。あの女らしい」
 帝国の窮状にあって尚、同胞に駆け引きを持ちかける唾棄すべき女。

「それと……中佐これを見てください」
 そして少尉が目の前のパネルを操作。映像が切り替わった。ここは……市街地を想定した演習場だろうか。一機の吹雪と四機の武御雷が戦っていた。
「横浜基地から意図的に流されたと思われる映像です」
「意図的、か……」
 
 なんともあの女のやりそうなことだ。1対4の勝負など普通は結果まで見る気にもなれない。なぜなら数以前に性能差が圧倒的に違うのだから。だが、そのような映像をあの女が流すわけない。巌谷は覚悟して見た。
「―――なっ!」
 だが、それでも驚きを隠せなかった。この日本に誰が、吹雪一機と武御雷四機の勝負が引き分けなどという結果になると想像できるだろうか。これが新OSの力か。いや、それ以上に吹雪の衛士が尋常ではない。かつての伝説的なテストパイロットであった巌谷ですらその身が震えた。
「おそらくこれがその新OSを100%使いこなした動きであるかと」
 
 それが事実なら、このOSをもたらされたら帝国の戦力は何倍にも膨れ上がる。数ではなく質が上がる。帝国が開発に躍起になっている次世代主力機などといわず、今の戦力でも十分戦うことができるだろう。おそらくこれはあの女がこちらが餌に食いつきやすくするようにする誘いなのだろうが、これだけのものならその誘いに乗ってやろう。

「―――これは‘あの娘’を呼び戻すのもいいかもしれんな」

 巌谷はポツリとそう呟いた。
「え?中佐、何か?」
「ああ、いや独り言だ」
 そして、目の前に映る蒼穹色の吹雪とその中にいる衛士について考えるのであった。
                                                                つづく


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