お待たせしました29話です。◇「……」「……」 氷をいっぱいに入れたグラスに酒を注ぐ音だけがする武の部屋。部屋に入ってから二人の間に会話は無かった。 武はベッドに腰かけ、宗像はその向いの椅子に座り、間に机を挟む形で二人は向かい合っていた。 すぐに二つのグラスに酒を注ぎ終わる。宗像は瓶をテーブルの隅に置いて、グラスを持ち上げた。武もそれにならってグラスを持ち上げる。「それでは、乾杯だ」「何に対してですか?」「ん? ……あー、甲21号作戦の成功でもいいし、白銀の誕生日に対してでも……なんでもいい」 少し投げやりに彼女は言う。「なら……作戦から無事生還できたことに対して」「……」 そのとき、宗像の表情がかすかに曇ったが、武はそれを無視して、自分のグラスを宗像のグラスに軽く当てた。彼女には悪いが武はこの言葉の反応で彼女の用件を確信した。 グラスが触れ合うことで、キンッという小さな音が一瞬鳴った。武はグラスを口に近づけ、ぐっと飲む。先ほどのPXでは酒をほとんど口にしていなかったが、アルコールは武の疲れを癒すように全身に染み渡った。 宗像は波紋が広がるグラスを少しの時間だけ眺めていたが、すぐに武と同じように勢いよくグラスを傾けていた。 武がグラスから口を離しても、宗像はいまだグラスに口をつけていた。そのままグラスの角度を徐々に上げ、それに伴ってあごの角度もあがっていき、ようやくグラスから唇を離したときには中身はすっかり無くなっていた。 二杯目に手を伸ばすのを武は黙って見ていた。再び、琥珀色の液体がグラスに注がれいく。そしてグラスが満たされると、宗像はまたそれに口を付けた。 しばらくはその繰り返しだった。武は一杯目の酒を少しずつ飲みながら、ただ彼女の言葉を待つ。話すのに酒の力が必要と言うのなら、今は待とう。 何杯目に差し掛かった頃だろう。宗像は空になったグラスを机の上に置くと、ようやく口を開いた。「――私が……まだ京都の陸軍高等学校にいた時だ」 何の脈絡もなく、宗像は静かに語り始めた。「私はそこで2歳年上の男性と出会ったんだ」 それを聞きながら、武は先ほど死亡リストの中に見つけた一人の男性の名前を思い出していた。 宗像は一端言葉を止めたが、この脈絡もない会話の不自然さに何も言わない武の反応に安心したように、再び話し始めた。「あの人はな……ありきたりだが、優しい人だった。BETA相手とはいえ、戦いには向かないような……でも国を守りたいという意思はとても強くてな。そんな人だから私は惹かれたのかな。様々な偶然と必然が重なって気付いたら――お互いがお互いを好きになっていた……別に確認したわけじゃない。私がこう言うのもおかしいかもしれないが、自然と彼の気持ちがわかり、私の気持ちも――彼に伝わった」 いつもの態度で自分が他人にどう見られているのかわかっているのだろう。ロマンチストな自分の表現に自嘲的な笑みを浮かべて話を続けた。「だが、共に通ったのはほんの半年程度……年上だった彼はすぐに卒業して……こんなご時世だ、すぐ徴兵で訓練学校行きになった」 グラスの中の氷を弄ぶ。グラスと氷がぶつかり合うカランコロンという音が狭い部屋に反響する。その音が、武にはどこか悲しく聞こえた。「一度京都に帰ってきた時……彼は私にこう言った……『お前の一番好きな景色を見せてくれ。俺はそれを故郷の景色と心に刻んで大陸で戦う』」 懐かしむように目を細める。おそらく先の言葉はその彼が言ったものと一字一句違っていないだろう。おそらく何度も繰り返し彼の言葉を心の中で支えにしたに違いない。「だから私は一番好きな……嵐山にあの人を連れて行った。あの燃えるような美しい紅葉を見ると、この世界がBETAなんていうものに滅ぼされかけているなんて微塵も思えないようなきれいな景色だったんだ」 そこで――氷を弄ぶ手が止んだ。それと同時、部屋を静寂が支配する。「そして……駅で彼の乗った列車を見送った」 ぎゅっとグラスを握りしめて彼女は言った。「私が彼に会ったのは――それが、最後だ……」 声のトーンが一気に低くなった。そして彼女は顔を伏せた。前髪で顔が隠されたため、武からはその表情が見えなかった。武はここで言葉をかけるべきか、それとも彼女の次の言葉を待つか迷った。 だが、武が迷っている間に彼女に変化が現れる。グラスを手にした手が震えている。しだいに彼女は肩を、そして声を震わせ、「な……なんで……あの人がっ」 ポツリと、彼女がもつグラスに水滴が落ちた。一度あふれ出すと、堰を切ったように次々とグラスと床に、その雫は落ちていった。 その彼女の姿に武は胸が引き裂かれるような思いを抱いた。 なぜ彼女は武を訪ねてきたのか。 過去に愛する者を失ったという速瀬や涼宮のもとを訪れるわけにはいかない。彼女たちにそのことを思い出させるわけにはいかない。部下の前でこんな姿をみせるわけにはいかない。また今回の作戦成功に個人的なことで水を差したくなかったのだろう。 そして、ここで伊隅を頼らなかったのはもしかすると、宗像も‘あのこと’を知っているのかもしれない。ならば、彼女のもとを訪れなかったことは納得できる。 だが、誰かに言わずにはいられなかった。自分の中にあるものを吐き出さずにはいられなかった。理不尽な運命を詰らずにはいられなかった。だから武のところにきたのだろう。酒の力を借りて。 抱いてはいけないと思いつつも、武の心に後悔の念が生まれる。その感情を絶対に宗像には気づかれてはならないと、武は爪が手に食い込むほど強く拳を握り締めた。 BETAとの戦いで死者が出ないことなどありえない。奴らは強大な敵である。だが割り切れない想いというものは当然ある。 平和な世界からこの狂った世界に来た武と、始めからこの狂った世界で生まれ生きている彼女とは状況も何もかも違う。その違いがあるにせよ、どちらにしても愛する者を失うという気持ちに変わりは無いらしい。「また、一緒に……嵐山の紅葉――見たかった……」 かすれるような声。 彼女は変わりものという仮面を棄てて、一人の女として涙を流した。愛するものと引き裂かれた悲しみ。残酷な運命の仕打ち。 武もその気持ちは知っている。何度も味わってきた。その度に戦いの無常さを、自分の力が届く範囲を思い知らされてきた。 彼女はしばらく声を殺しながら泣いた。武は、そんな彼女に掛ける言葉を見つけられなかった。 どれほどの時間が経った頃だろう。宗像は、視線を手元にグラスに落としながら、低い声で言った。「……こうなる可能性があることはわかっていたんだ」 まったく力の無い声だった。 このご時世、戦場で、夫を、恋人を亡くしたなどという話は――言葉は悪いが――腐るほどある。恋人同士、どちらか、あるいはその両方が戦場に立つことになれば、それを覚悟しておかなければならない。この言葉から、彼女も心のどこかでいつもこの可能性に怯えていたのだろう。「覚悟している……つもりだった」 彼女は自らの弱さを吐露する。人の想像できる範囲など、自分が経験したことだけである。それに人は誰しも最悪の結果というのは忌避してしまう傾向にある。彼女も例外ではなかったのだろう。「だが、実際なってみるとこの有様だ。お前の強さをわけてほしいよ」 宗像が力なく発した言葉。 その言葉に武は初めて反応した。「俺は――俺は強くなんてない」 声を張り上げたわけではなかった。しかし、その言葉の押し殺された力に宗像は気づいたのか、彼女は顔を上げた。 武は今この場に至るまで何人を犠牲にしただろうか。何度助けられた。何度立ち止った。幾人もの恩人の顔が頭によぎる。 何度後悔して、何度逃げ出しただろう。たった一人にしか、弱みを見せていない宗像、その気丈さに敵うものではない。「オレは宗像中尉が好きだった人も知ってた。それでも守れるのはオレの手の届く範囲の人……だけ」 吐き捨てるように武は胸の内を曝す。今回の作戦、武はその成果に満足していた。しかし、成功の影には彼女のような存在が生まれてしまっている。 最善を求め続けるときりが無い。どこかで、割り切らなければならない。それは経験からいつしかできるようになることかもしれなかった。人の死には慣れ、死者の数を数えなくなるのかもしれない。だが、彼女を目の前にしてそんなことはできなかった。それは、武の性格からくるものだろう。 この結果は、武が引き起こしたのだ。この時代にイレギュラーな存在である武は、ありとあらゆる手を尽くして歴史に干渉してきたのだ。最良の未来を得るために。 しかし、その結果はいつも全ての人にとっての最良を導くものではない。武の記憶では、先日の作戦であの二名が亡くなったことはなかった。最低のラインは決めやすい。しかし、上は際限などない。 強くまくし立てる武に、宗像は顔を上げて驚いたような表情を浮かべる。涙も今一時は止まっているようだ。 宗像は見た。険しく、悲痛な顔ではなく、彼の手が震えていることを。彼女は、涙で滲んでいる視界をはっきりさせようと、指で軽く涙を拭いた。はっきりと見えるようになってから気づいた。彼の両の拳からは、わずかにだが血がにじみ出ていた。 日常で見せる年相応の態度、しかしひとたび戦場に立てば、歴戦の兵士もかくやという活躍で戦果を挙げる。ただ、今宗像の前で見せる武の姿は、彼女の知らない一面だった。 この男は自分では想像しきれないような修羅場をくぐってきている。それはなんとなく感じていた。ただし、いつも見せる笑顔や、速瀬たちと楽しそうに会話する姿を見ていると、どこかそのことを忘れてしまっていた。 この男は、幾度の絶望や後悔、挫折を経験した上で、この横浜基地におり、戦場に立ち続けている。それを改めて認識した。 彼女は目の前の男の弱さと強さを一緒に見た。「……いいや、やはりお前は立派だよ……上に立つ人間は下の人間にそういった感情を見せてはいけない。私はお前の弱さというものにまったく気づいていなかった。それだけでお前は立派なんだ」 武の顔を見上げながら言う。真摯なその瞳に見つめられ、武は拳の次に奥歯をかみ締めた。彼女は知らない。彼らを殺したのは婉曲すれば武である。その事実を彼女は知らないのだ。「それに手の届く範囲だけとはいうが、今回の作戦で一体どれだけの人が救われた? なにも戦場に出ていた者だけではない」 それは事実だ。今回の作戦、少なからず犠牲は出ていると言っても、それは仕方のないことである。誰もが知っている。戦いが起これば人は死ぬ。できるのはその数をどれだけ抑えることができるかということだ。 それに限って言えば、今回の作戦、何の文句があろうか。戦いによる被害だけではない。今後、佐渡島ハイヴが残っていた場合の被害、もし防衛線が突破され、BETAの猛攻が内陸まで届いていたら、この先、幾千幾万の尊い命が失われたことだろう。兵士に限らず、力の無い老人、未来ある子供須らくである。 そのことをこの男は誇っていい。日本は自分が守ったのだと喧伝してもいい。「……白銀」 そう、彼の名を宗像は呼ぶ。「お前は以前、言っていたな。恋人を亡くした、と」 武はゆっくりと頷く。彼の愛した者たちは死んでしまった。全て覚えている。彼女たちのあらゆる表情を、触れた体の温かさを、耳に響く優しげな声を全て覚えている。「お前は……どうやって立ち直った?」 宗像はそう尋ねた。その言葉は彼女が戦いから逃げないことを示していた。それは、BETAへの憎しみからくるものか、はたまた部下を持ったという責任からくるものか、それとも仲間への想いからくるものか、そのいずれであるかも武にはわからなかった。 武は興奮した心を静めるように、視線を空中にさまよわせた。部屋の少し肌寒い空気を肺一杯に吸い込み、その空気を言葉とともに吐き出した。「俺の命は……彼女たちに救われた」 ここでの命とは、生命活動のことだけではない。彼の誇り、戦う理由、生きる意志、この世界で生きるために必要な全てを含んでいた。「ならば、俺の命は彼女たちのために……俺を生かしてくれた多くの人に報いるため――みんなが願っていた人類の勝利を目指す」 彼女たちはそのために殉じていったのだ。残った――残された者はその遺志を受けつながなければならない。残された者にできるのは、去った人を嘆き悲しむことではない。彼女たちの望んだ未来へ歩みだすことだ。武はそう信じていた。「‘再びチャンスがある’かなんてわからない。……どんな結果になったとしても――俺はもう立ち止まれない」 声の大きさは、それほどでなくとも、その言葉は強く部屋に響いた。意志の問題ではない。武が自身に課した枷だ。そもそも次を求めること自体、この世界に対する冒涜に他ならない。 宗像は、その言葉を心の内で反芻しているかのように、沈黙した。やがて、彼女はグラスを机の上におき、彼の目を見つめた。「立ち止まるな、白銀。私たちはお前の背についていく」 彼女はまっすぐに武の目を見た。その頬には涙の跡が幾筋も残っていたが、その目は強い光を宿していた。彼女は未来に向かって歩き続けることを決めた。それはまだ決意と呼べるほどのものではないかもしれない。それだけの決断ができるほど、時間は経っていない。しかし、ひとまず歩みを止めないことにした。 武はすでに多くの人に期待されている。いや、期待されるように自分から動いた。その期待を裏切ってはならない。 ただ、目の前の気丈な女性を心配に思った。「今だけ……今だけ泣いて……明日からはまた前を向いてください」 その言葉の後、武は彼女の肩に手を当てた。その行為に驚いたように、彼女は目を見開く。「いや……私はもう――」「ここに部下たちはいません。速瀬中尉たちも」 溜め込んではいけない。ここで全て吐き出すべきだ。気丈に振舞おうとする彼女にたたみかけるように告げる。武は、彼女を国連軍中尉ではなく、宗像美冴という一人の人間にした。 その言葉で止まっていた宗像の涙腺が刺激された。瞳が勝手に潤んでいくのがわかり、視界に映った武の顔が歪んでいった。涙はさきほどまでに十分流した。これ以上の弱さを他人に見せてはいけない。自分の勝手な感情を押し付けてはいけない。 下唇を軽く噛む。しかし、体はいうことを聞いてはくれなかった。次第に噛んでいた唇までも小刻みに震え始める。「――俺だって何度も泣いた」 それが決定打だった。再び宗像が声を出して泣き始めた。先ほどまでの声を殺した静かな悲しみではない。人がいることも忘れ、みっともなく嗚咽を漏らす。 狭い部屋に彼女の慟哭が反響した。心の中では神に対する罵詈雑言の嵐だ。そしてそれ以上に弱い自分に対しての叱咤を繰り返した。 それを武は静かに見守った。 ――殺せ、そして生かせ。立ち止まるな、白銀武。 心の中で、何度も自分に言い聞かせながら――。◇ もう少しうまくやれば、あの人だって救えたのではないか。……いや、ダメだ。(‘俺達’のような存在にとってこういう考えの仕方自体が自分を破滅させる) 反省はしろ。後悔はするな。それは彼らに教えられたこの境遇で生き残るための術ではないか。どこかで割り切らないと因果導体は後悔の念に殺される。 武は、空のガラスを手の中で転がすようにもてあそぶ。グラスの中は、すでに完全に溶けた氷の結果しか残っていない。それがどれだけこの部屋で時間が過ぎたのかを示していた。 泣き疲れたのか、宗像は武のベッドで横になり眠ってしまった。ときおり寝言で男性の名前を口にする。その度に武の胸は鈍い痛みを感じる。 そう言えば……‘あいつ’が言ってたな、と武は懐かしい戦友の言葉を思い出す。『‘私たち’が行っていることは死ぬはずだった人を生かし、生き抜くはずだった人を殺してしまう行いです。それが、未来を変えるうえでは絶対に付きまといます。 ……あなたはあの男やうちの隊長のように人の生き死にを割り切ることはできませんからね。どこかで自責の念を抱いてしまう。だからあなたは指揮官に向かないのですが……それさえなければAAAにも届いていたのに……。 ――百の屍の上に立ち、万の命を背負って戦いなさい、白銀武。 あなたは生かすために殺したのです。私たちは神ではないのですから、あなたの行いを責めることなんて誰にもできませんし、私が許さない。弱みを周りに見せてはいけない。泣きたいのなら、私を頼ればいい』 彼女の自慢の金髪とその碧眼までもはっきりと思い出した。「……‘ニーナ’」 今夜は眠れそうにない。成功の裏にある影をみせつけられた今となっては、眠気などどこかに消えてしまった。 時計を見るともう遅い。夕呼も今日は酔いつぶれて寝ているだろうから、どこで一晩過ごすのかを考え始めた。 武は、眠る宗像が寒くないようにとその体を毛布で覆う。 そのときだった。部屋の片隅に隠していた通信機が小さく音を立てた。「?」 また殿下からの通信だろうか、と武は首をかしげる。しかし、彼女とはつい先ほど通信を終えたばかりであり、このような短期間で再び連絡を受ける心当たりはなかった。緊急かとも疑ったが、その音は緊急時の通信に用いられる火急の用を知らせる甲高い音ではなかった。 あれこれ考えても仕方が無い。どのような用であれ、出てしまえばわかるのだ。武は通信機を操作して、その声と姿を待った。『――聞こ……ま――か?』「――ッ!」 しかし、通信機から発せられた声は悠陽のものではなかった。そもそも聞こえてきた言語は英語である。そして、武はその声に聞き覚えがあった。武の耳が正常に働いているのなら、つい今しがた思い出したばかりの人物の声だからである。「ああ! 聞こえ――」 興奮から、大きな声を上げそうになるが、すぐそばに宗像が寝ていることを思い出した。彼女を起こさないように、声を潜めながら通信機に向かう。「……聞こえているよ」 映像は未だ乱れたままであるが、はっきりと特徴的な金の髪を確認することができ、やがて、ノイズ混じりながら先ほどとはより鮮明な声を返した。『――やっと横浜基地に帰ってくれたのですね。それにしても相変わらずこの回線を使っていましたか……ということはすでに政威大将軍にまで手を出しているのは間違いないようで――死ね、この節操無し』「……? ノイズがひどくて聞き取れないぞ」 ……なにかひどい暴言があったような気がするが、ザザッというノイズ音がところどころに走り、武には相手が何を言ったのか正確には聞き取れなかった。かろうじて聞き取れたのは、『横浜基地』、『帰って』、『回線』、『将軍』、『死ね』だった。 そして、多少の映像の乱れの後、ようやく音声と映像がクリアになり、目を引く金髪と端正な顔が映った。 簡素な紐で左右に緩くまとめられた髪、その相貌は美しく整っているが、わずかにつりあがった目はなぜか彼を睨み付けているようにも感じる。 それを武が確認したあと、強化装備姿の彼女は改めて口を開いた。『お久しぶりです――‘シロ’』 名を呼ぶ瞬間には、先程までの厳しい表情を改め、わずかだが柔和な笑みを浮かべた。そして、その声は慈しみをもって彼を呼ぶ。 ‘シロ’――白銀武のことをこの犬のような名前で呼ぶ人物に、武は一人しか心当たりがなかった。「ああ、久しぶりだな……‘ニーナ’」 画面に映る懐かしい顔。それを見て武はかすかに目を細めた。◇ ◇ ◇ 翌日。「……」 風間はずっと隣室の主の帰りを待っていた。 昨夜、あのパーティーの後、軽く酔いを醒ますためにシャワーを浴び、自室に戻ってきた風間は、隣室の宗像がいないことに気づいた。 PXで別れたあと、すぐに就寝すると言っていたことを覚えていた風間は、不思議に思う。実は、彼女も宗像の様子がどこかおかしいことは気づいていた。しかし、彼女はなにも風間には言ってこなかった。必要なことならば彼女から話してくれると信じていた風間は、それを待つことにするつもりだった。 すぐに戻ってくるかもしれない。そう思って彼女は自室に入った。PXではそれほどアルコールを摂取していなかった風間は、久しぶりに読書を楽しむことにした。 しかし、時計の針が日付が変わったことを知らせるころになっても、隣室の友人が帰らないことに彼女は不安になった。実は自分が勘違いしただけで部屋の中にいるのかもしれない。彼女は不安を拭うために、彼女の部屋を尋ねた。 ノックも呼びかけにも返事がない。風間は悪いと思いながらも部屋の中へと入ってみた。 そこにはやはり誰の存在もなく、しばらく誰もいなかった証拠のように部屋は冷え切っていた。 そして彼女は、部屋の隅に置かれたテーブルの上に、くしゃくしゃになった一枚の紙があるのを見つけた。その横に置かれた封筒、その差出人の名前を見て、彼女は全てを悟った。 慌てて部屋を出て彼女の姿を探した。PX、ロッカールーム、シャワールーム、格納庫、基地前の桜、思いつく限りは全て探した。だが、どこにも彼女の姿を見つけることはできなかった。 最終的には行き違いになることを恐れ、朝まで部屋で彼女の帰りを待っていた。だが、時間は無常にも過ぎて行く。風間は、その時間を不安に押しつぶされそうになりながら、待ち続けた。 そして、風間の探し人が現れたのは、太陽が顔を出したころになってからだった。「――美冴さん!」 自室にいるはずのない人の姿を見た瞬間、宗像は目を見張った。その様子は風間が心配していた憔悴しきったものではなかったが、まだ心の中の不安は拭い切れない。「美冴さん、その」 風間は言いよどみながらも、昨晩宗像がどこにいたのかを尋ねた。宗像はその言葉と態度で彼女が全て知ってしまったことを理解した。「昨夜はどこに……?」 心から彼女を心配している声、そして目の下のうっすらとした隈を見て、宗像は心が温かくなる。この自分にはもったいないほどの親友を死なせてはならない。幸せになってほしい。 しかし、その心の内とは裏腹に、頭の中ではこの親友を少し慌てさせたいという悪戯が浮かんでいた。「ああ、白銀の部屋で一晩休ませてもらった」「え゛」 風間は普段出さないような間抜けな声を出す。宗像、武の両名の性格を知っている彼女ではあるが、男女が一晩同室で過ごしたと聞いては不埒な想像が頭の中をよぎるのは仕方の無いことである。また、それは風間が白銀武に向けるある種の感情も働いた結果であるが、彼女はすぐに自分のそんな考えを恥じた。 宗像はそんな一瞬の彼女の動揺に満足したように笑う。おそらく先の言葉は、わざとそういう誘導をするために言葉少なく説明したのだろう。 その表情が、風間が想像していたものとは違い、安堵とともに不思議に思う。「宗像!」 そういって次に声を掛けてきたのは速瀬だった。起床ラッパが鳴ってからも部屋に戻ってこない宗像を心配した風間が、宗像を探しているときに偶然にも出会い、風間は迷いながらも事情を話し彼女にも協力してもらっていた。 事情を聞いた速瀬は、我が事のように必死になり、宗像を探していた。「あんた、大丈夫?」「ええ、白銀に癒してもらいました」「え゛」 速瀬もまた風間と同じような間抜けな声を出す。おそらく先程の風間と同じ想像をしたに違いない。 この後、二度三度と同じような光景が起こる。 その全てに宗像はいつもの笑みを浮かべていた。 いつもと変わらない飄々とした態度で、他人をからかう姿を、風間は不思議そうな顔で見つめた。 すると、そんな彼女に向けて、宗像は微笑を浮かべて言ったのだった。「梼子、心配要らない……私は――大丈夫だよ」 風間や速瀬はそのことに安心した。◇ 太陽がそろそろ真上に差し掛かろうという昼ごろ。 A-01の面々はそれぞれ自身の不知火に搭乗して、第2演習場に勢ぞろいしていた。 幸運だったのが、昨日の騒ぎで二日酔いが一人もいなかったということ。ただし、何人か昨夜の記憶のない者がいた。しかし、全員酒になかなか強いのか、目に見えて体調が悪いものはいなかった。むしろ、一応健康に気を使えとの命令で伊隅と風間に進められた栄養ジュースを飲んだあとのほうが苦い顔をした者が多かったほどだ。 いつもの不知火のコックピットの中。甲21号作戦の後、オーバーホールを受けた新品のような機体。ともにあの死闘を潜り抜けた愛機だ。あの作戦のあとでは作戦前よりも愛着が湧いてくる。 現在彼女たちが演習場に出ている理由だが、それは武が指示を出したからだ。『今日は特別な相手と戦ってもらいます』 その言葉だけで、ろくな説明もされず、全員不知火に乗せられてしまった。網膜には先ほどから軍服姿の彼の姿が映っている。ならば、今回の演習相手は彼では無いのであろう。斯衛の5人はまだこの基地には戻ってきていない。そもそも、彼女たちであるならば、『特別な相手』などという言い回しはしないだろう。 ブリーフィング後、ここに至るまで頭を働かせてみるが、皆目見当が付かない。そして、今演習場に出てみても、どこにも演習相手と思われる戦術機は見当たらなかった。『さて――‘相手’の準備はいいようです』 そんな彼女たちに向けて、管制室から武はそう言葉にした。(――どこに?) 伊隅は、その言葉と同時、網膜右上に映るレーダーとメインカメラの映像を照らし合わせてみるが、依然味方の機体以外の反応はなかった。「白銀……相手とは一体――」 ――そのときだった。 固まったA-01の中央に空の彼方からやってきた白い閃光が突き刺さった。『『『『『なっ!?』』』』』 全員が驚愕の声を上げる。まさに青天の霹靂だ。その光は忌まわしい怪物、光線属種のそれだった。光線は一秒にも満たぬ時間で地面を焼いた。厚く熱せられた地面がその威力を語っていた。 一瞬遅れて、戦術機がレーザー照射警報を発する。「レ、レーザー照射!? CP! CODE911発生!! BETAだっ!」 伊隅は慌ててCPへと報告した。つい先日佐渡島ハイヴを落としたばかりだというのに、横浜基地のある太平洋側へとBETAが侵入しているなど、考えたくなかった。しかし、彼女たちを襲ったのは今まで幾人もの衛士を戦術機ごと姿すら残さず焼き尽くしてきた光線だった。 しかし、伊隅の緊迫した声には落ち着いたままの武の声が返ってきた。『BETAじゃありません……これが今回の演習相手ですよ』「なっ!?」 その直ぐ後に、A-01の全機体にCPから映像が届いた。距離はこの横浜基地より北西へ30キロ超。その地点を衛星がとらえた映像である。「な……んだ、こいつはッ……!」 そこに伏射姿勢(プローン)で見慣れぬ巨大な狙撃銃を構える漆黒の戦術機がいた。それを確認した瞬間、その武器から白い光が発せられ、再び部隊のすぐそばに突き刺さり、その熱でアスファルトを溶かした。「なッ!?」 未だに部隊員の誰もが状況を理解できずにいた。◇「――TYPE94(不知火)の一個中隊? そんなものでこの‘VFGシリーズ最新鋭機’を相手にしようというのですか」 天照の中、ニーナはそう口にする。最初の2撃はただの挨拶代わりで、わざと外した。照星(レティクル)は慌てて動き始める不知火十数機を映していた。 事前に彼に連絡を入れていたため、自分を迎え撃つのに最善の状態を整えていると思っていたのだが、目の前の戦力に少々がっかりした。(確かこの頃の日本にはすでにTYPE-00(武御雷)が配備されていたと記憶していますが) 自身の知る中では、この時代でも歩行戦においてはトップクラスの強さを誇る機体である。月詠たちが操るあの機体には幾度か苦しめられた苦い思い出もあった。(ああ、そういえばあれはロイヤルガードの機体でしたか) 自分の勘違いに気づいた。ならば、TYPE94は現時点で向こうが用意できる最高のものということだろう。ならば衛士の腕に期待するとしよう。しかし、それも先日の動きを見る限りそう期待できるものでもないだろう。「……!」 レティクルの中の敵機が一斉に彼女に向かって動いた。 さて、‘全滅’には何分かかるだろう。彼女はそんなことを考えながら、トリガーを引いた。◇ 自身の不知火の回避運動に苦しみながら、伊隅は自らの身にふりかかる攻撃に驚愕する。「レ、レーザー兵器なんていつの間にッ!?」 迫りくる白き閃光。それはあの忌まわしき一つ目、二つ目の異形の怪物が放つものと寸分違わず同じものだ。だが、今現在それを放つのは人類反撃の先鋒を担うはずの戦術機である。 ――自律回避モード:CAUTION「っ!?」 放たれた瞬間、数十キロの距離を一瞬でやってくる光学兵器。機体が再び自律回避行動を取り、自分が先ほどまで取っていた動きをキャンセルして空中で予期せぬ方向へ引っ張られる。機体の安全を第一に取られた機動は、衛士のことなど考えてはくれない。 目標の不知火を失ったレーザー光は地面をジュッと軽く音を立てて焼いた。 ようやく操作権が戻ってから、回線を開く。「全機、無事かッ!?」 奇襲により今や隊形はバラバラだが、各小隊の隊長たちからはすぐさま返答がくる。『B小隊、全機損傷無しッ!』『C小隊も同じく!』『D小隊もだ!』 そのことに伊隅は、ひとまず安堵する。しかし、依然敵は数十キロ彼方であり、今この中隊には敵機に対して為す術が無い。「レーザー兵器とは驚いたが、全員白銀の件でこの程度のこと、すっかり慣れっこだろう?」 嘘だ。伊隅の頭は十分混乱している。しかし、部隊の混乱を抑えるためにあえて気丈に振舞いそう口にする。部隊長である自分の動揺はすぐに隊全体へと広がってしまう。それを防ぐための処置だ。『もちろんですよ! 大尉!』 その意図を理解してなのか、極力明るい声で速瀬が返した。その言葉に安心したように動揺していた隊員たちは本来の動きと判断力を取り戻した。 戦場では何が起こるかわからない。それも彼女たちが本来戦う対BETAにおいては、一瞬の動揺が死に直結してしまう。それをこの間の作戦で否応無く理解した者たちはすぐさま平静を取り戻した。 伊隅はそれを確認し、部隊員たちの頼もしさから自身の動揺も薄れた。彼女の冷静さはすぐに部隊員たちに伝わる。戦場では望むべき最良の循環である。すぐに頭の中で状況を整理し始めた。 敵はレーザー兵器所有の戦術機。その機体は彼女の記憶の中にあるどのような戦術機とも合致しない。それこそ先日目にした伊邪那岐とも異なっている。この短い間で二機もの新型戦術機を目にしたわけだが、どうやら彼女たちのあずかり知らぬところで世界は大きく動いているようだ。 レーザー兵器の登場自体はなんら恐れることではない。むしろ頼もしさする感じる。 しかし、白銀はあの機体を演習相手と言った。ならば、そこに求められることは勝利だろう。未知の兵器を有していようが、相手はたったの一機。約30kmという距離は開いているが、そんなものこの戦術機にかかれば、それほどの長距離というわけではない。「対レーザー級対処! 各機敵機に向かえ!」『『『『『了解!』』』』』 部下たちの声を聞く前に、彼女は機体を動かしていた。全員それにほとんど遅れることなく機体を飛び上がらせた。その瞬間、先程まで彼女たちがいた場所を再びレーザーが通り過ぎた。それは敵機から見て最も不知火が重なっていた箇所に対する攻撃だった。もしも狙ってその位置を狙撃したのならば、相手の力量――狙撃能力は同隊最高の珠瀬をしのぐものであるかもしれない。その容赦のない攻撃にその直線上にいた者たちは冷や汗をかいた。 伊隅は、まずは目の前の朽ちたビルを遮蔽物にするべく、スロットペダルを踏み込んだ。だが、彼女の進行は、一筋の光が行く手を遮ぎることで停止を余儀なくされた。まるで、彼女の動きを読んだかのように、彼女の虚を突く攻撃だった。『大尉!』 同じA分隊の美琴から焦りの声が届くが、伊隅にはその声に答える余裕がなかった。なぜなら先の一撃を避けた後に、すぐに再び彼女の機体が低出力レーザーを感知したからだ。――自立回避モード:CAUTION 機体が伊隅の手を離れ、自立回避をとる。跳躍ユニットが方向を変え、すぐにその噴射口から推進剤を撒き散らす。数トンある機体が残像を残しながら、その場から飛び退った。そして、彼女の不知火の足を掠るようにして、白光が通り過ぎていった。 伊隅の視界にもその光は映っていた。出力自体は演習ということで抑えられているようだが、光速というその速度は変わらない。こんな攻撃をいつまでもかわし切れるのかという不安が頭をよぎった。「私に構うな! 進め!」 現在、ヴァルキリーズの機体で多目的追加装甲(盾)を装備している者はいない。今回は対BETA戦ではなく、対戦術機戦を想定していたためだ。ならば、自らと仲間の撃墜を防ぐためには避け続けるしかない。 味方を守るために、今一番重要なことは、敵機に一秒でも早く接近し、そのレーザー兵器を無力化するしかない。そのためにも、彼女一人に構っている時間などなかった。 敵機は伊隅を最初の標的と定めたのか、執拗に彼女に向けてレーザーを発射した。伊隅はその攻撃を、時には遮蔽物を盾に、時には緩急を利用した進行で、紙一重で防いでいく。(――これはきつい!) 一瞬たりとも気を抜くことができない。息つく暇さえない怒涛の攻撃に、彼女の疲労はすぐにたまっていく。彼女自身、その極限の状態を10分から20分ほどの時間にも感じたが、実のところ、最初の一撃からまだ2分しか経っていなかった。 自立回避運動による肉体の疲労、一発でさえ許してはならないという緊張からくる精神の疲労、それらは次第に彼女から動きの精彩さを失わせていった。「――っ」 機体の足が地を離れた瞬間、視界が眩い光で一杯となった。すぐに戦術機の光度調整が発動するが、網膜に直接映る光でなにも見えなくなる。 何も見えないが、戦術機が縦横無尽に動くことだけはわかった。なんとか直撃だけは避けたようだが、なかなか地を踏む感触は伝わってこなかった。 耳を劈く警報音。「!」 ようやく戻った視界にまず最初に映ったのは、青い霧だった。装甲に塗られた対レーザー蒸散塗料が一瞬で蒸発した証拠だ。レーザーが機体の表面を一瞬焼いただけで、不知火を濃紺色の霧が覆った。『伊隅機、致命的損傷、大破』「なっ!?」 CPである涼宮が言う自身の死亡宣言に対して、伊隅は慌てて答える。「CP! まだ私の機体は戦える!!」 その証拠にレーザーは胴体表面を焼いただけで、機体本体の駆動にはなんら問題を発生させていなかった。 だが、そんな伊隅に、『相手が出力を抑えていなければ――もし本物の重光線級だったのなら、さっきの一撃で伊隅大尉は死んでいます』 という武の通信が割って入った。その言葉に伊隅は顔をしかめる。彼の言ったとおり、もし重光線級の出力であったのなら自分は死んだと自覚する間もなく一瞬で機体と共に蒸発していることだろう。その事実に気づかされると、一瞬で闘志がしぼんでいく。「っ……了解」 素直に機体をその場に停止させた。死人に口なし。もう伊隅はこれからの演習に口出すことも許されず、ただ見ることだけしかできない。「……くっ」 脱落者一号が隊長である自身。早々にリタイヤした自分に腹が立った。 暗く明かりを落とした不知火の中で、伊隅は脇に挟んであったとある手紙を手にした。 その――「前島正樹の遺書」を胸に抱え込んだ。◇「っ!? (――伊隅!) 全機、指揮は私が引き継ぐ!」 伊隅機の活動停止を確認するやいなや、まりもは指揮権を自分に移した。これは事前に決めていたことであり、A-01の隊長である伊隅が死亡、あるいは何らかの理由で指揮を続行できなくなった場合はその後はまりもが引き継ぐようになっている。 まりも機は現在、ビルの陰に隠れてなんとかレーザーをやり過ごしている。周りにも同じようにビルや民家に隠れながら移動する機体が多くいる。しかし、ビルからひとたび顔を出せば、襲いかかってくるレーザー。数十キロ先にいる敵になす術がなかった。 さきほど撃墜された伊隅は場所が悪かった。周囲に敵から隠れるための遮蔽物がなかったことで撃墜されてしまったのだ。 初撃の奇襲により、隊形が崩れた部隊に命令を出す。「全機! ひとまず、高範囲に広がれ!!」 相手の武器が一門しかないということは一度に一人しか狙うことができない。味方が重なって、敵に同時に複数を攻撃するチャンスを与えてはならない。そんなことは全員理解していたのだろう。一応返事はしたが、まりもが指示を出す前から各自で広がり始めていた。「相手を戦術機と考えるな! 光線級の中隊規模と考えて行動しろ!」 全員の声を聞いたそのときだった。 まりもはえも言われぬ悪寒がして、機体を大きくサイドステップさせた。戦場で研ぎ澄まされた感覚の下、感じる悪寒というのは馬鹿にならない。それは視界に映ったわずかな違和感、耳に入ってくる些細な音を感じることで、自らの危機を最もよく知らせてくれる警報である。幾度の戦場の経験から、その感覚を無視することなく、彼女はその体を反射的に動かした。そのとき、背にしていたビルを突きぬけてレーザーが飛び出てきた。 なぜこうもビルで死角になった的を正確に狙い撃てるというのだろう。まりもの経験上から言ってもあり得ないことだった。 そして、この一撃を避けたとしても安心はできない。 また別の遮蔽物に移動しようとしたまりもの機体に連続してレーザーが襲いかかってきた。ただし、それも自律回避が機体を縦横無尽に動かすことで、無事避けてくれる。しかし、この無理やり他方に引っ張られる感覚はベテランのまりもであっても未だ慣れるものではなかった。 連続して3回の攻撃を彼女はやり過ごした。 問題ない。まだ当たってはいない。機体がしっかりと地面を踏みしめたときそう思った。彼女が集中的に狙われている間に、他の機体は敵機と距離をつめることができているだろう。局所的ではなく、大局的に見れば、彼女たちの有利に動いているはずである。(――待て!) そこで気付いた。今いる自分の立ち位置が、当初身を隠そうと考えていた遮蔽物から大きく離れていることにだ。「くっ!」 再び警報と同時の自律回避。また大きく遮蔽物から距離をとる。 自律回避を行うたびにまりもは遮蔽物のないところへ向かっている。そうだ。先ほど撃墜された伊隅もそうだった。最初は対光線級のセオリーにのっとり、遮蔽物を盾にしていたはずだ。彼女が訓練生のときにまりもが口をすっぱくして教え、幾度の戦場の経験からもそんなことは分かっていただろう。自分からわざわざ遮蔽物の少ないところへ出ていくはずがない。(――まさかっ!?) 慌てて、機体を遮蔽物の多い建物群に進めようとする。そのとき再びまりもの不知火をレーザーが襲った。ぐるんと視界が反転。外したあとも追尾してくるそのレーザーから逃げるため、空中でさらに跳躍ユニットが火を噴く。そして、回避後の自分の立ち位置を見て愕然とする。 そこはちょうど周囲のビルが崩れ、身を隠すものが何もない空間。まりもは確信した。(急げ! 急いでこのことを部隊全員に――)「――全機マニュアル回避に切り替えろッ! ‘こちらの自律回避が利用されている’!」 それを言い終えた瞬間、彼女の機体に閃光が突き刺さった。◇「……ほう、早くも気づきましたか」 狙った機体が今までの自律回避とは違う動きを見せたことから、相手がマニュアル回避に切り替えたことに気づいた。 戦術機が行う自律回避は、機体表面で感知した低出力レーザーからその攻撃の方向を割り出し、機体が重大な損傷を受けるまでの時間計算を行い、その条件の中でいかに機体に損害を受けさせることなく避けることができるかどうかということを考えられている。その動きは衛士の意志とはほぼ無関係。低出力のレーザーを機体表面に感知させてやるだけで、相手は泡を食ったように回避を始める。利用してやれば相手を自分の意のままに誘導することもできる。 だが、そのことに相手が早々に気づいたことは驚きだった。自律回避というのは本来、機体と衛士の命を守るためのものであり、その仕組みに疑念を抱くことはそう簡単にできることではない。誰が見抜いたのかはわからないが、彼女はそのことについては素直に感心した。 少々ずるいが、彼女にはどの不知火にどの隊員が乗っているのかを知っている。彼女の今回の目的は彼女たちを完膚なきまでに負かすことである。そのために彼から情報を仕入れていた。最初の目標は、部隊長である伊隅みちる大尉、第二目標は、神宮司まりも大尉、以下、先任衛士3人、新任たちと目標優先度を決めている。 早速、部隊長格二名を落としたわけであるが、いまだレティクルに映る不知火は迷い無く彼女を目指してやってくる。その動きには衛士の動揺がほとんど見られなかった。なかなかの部隊錬度と、下がっていない士気に、彼女は予想外という感想を抱く。 引き金を引くと、銃口から白い閃光が空を切り裂き飛んだ。5秒後、また引き金を引く。この兵器はレーザーの出力と次の発射までのインターバルの長さが比例している。レーザーの出力が強ければ強いほど、インターバルは長くなる。今の殺傷力をきわめて抑えたレーザー出力ならばインターバルは4、5秒だ。(インターバルが数秒の光線級など卑怯だと思うでしょうが、そこは多数の光線級を相手にしていると仮定してください) 再びレティクルの中に収めた獲物を見る。(しかし、ほとんどがカテゴリーBの衛士ですか……) パッと見で彼女たちの実力をそう判断する。自分より弱いものには深く関わりたくないのだが、(……仕方ありません。あの男のためです) 大きな作戦を生き残った衛士というものは調子に乗りやすい。特に彼女たちは先の作戦で同部隊から脱落者がでていないらしい。おそらくこの演習前はそのような気分であった彼女たちに、先輩衛士として水をぶっかけてやることにしよう、と弱冠’二十歳’の彼女は考えた。 彼女たちの成長のためにも自分は嫌われ役をやる必要がある。相変わらずの貧乏くじにため息が出た。「自律回避ではなくマニュアル回避ならば先ほどまでとは比べ物にならない操縦技能が求められます。あなたたちにできますか?」 誰に聞かせるわけでもなく、彼女はそう呟いていた。◇ また一機、その体を閃光が焼いた。活動停止する風間機を見ながら、中央司令室でこの演習の様子を見守っていた夕呼は隣の武に、今現在の心境を告白した。「THEL……Tactical High-Energy Laser(戦術高エネルギーレーザー)。話には聞いたけど、戦術機の装備としてはほとんど反則よね」「いや、あの兵器をあの距離で命中させるあいつの腕が半端ないんですよ」 少しのズレが目標に到達するころには数メートルにも数十メートルにもずれてしまう距離だ。高レベルの狙撃能力がなければただの宝の持ち腐れだ。武の腕ではあの位置から高速で動き回る敵機に命中させることはできないだろう。「OTH(over the horizon )狙撃を専門とする奴ですからね。この程度は朝飯前ですが」「あんたが今朝言ったこの演習相手……まあ‘詳しく’はこの演習後として……A-01に勝ち目は?」 中央司令室でモニターを見ながら夕呼は武に問う。モニターではついに4機目の不知火(榊機)が撃墜されていた。それを見ながら武は難しい顔をして、「この距離であいつ相手にはかなり厳しいですね……もし近接戦闘に持ち込んだ時に小隊規模が残っていれば、あるいは……」 それでさえ、武の知っている時点での彼女ならば、という条件付きだ。衛士としての力量、経験、機体の性能、武装とA-01が敵うものは何一つない。強いて言うなら数だが、彼女も元は英国王室海兵隊(ロイヤルマリーン)や英国陸軍近衛師団でそれぞれ大隊を指揮していたこともあるベテランだ。相手の指揮官の心理も衛士の考えもある程度は読めるだろう。「俺が知る中で狙撃技術における全ての項目で唯一最高点を叩きだした奴ですよ。珠瀬少尉を極東一とするなら、少なくともデータ上では間違いなく、あいつこそが‘世界No1スナイパー’ですよ」 そして五機目が撃墜されるのを見て、その腕が鈍っていないことを確信する武だった。その相変わらずの狙撃技術を懐かしむように目を細める。 そんな武に夕呼はある質問を投げかける。「それで――あんたより強いの?」「……」 夕呼にしてみればこの白銀武は自身が知る文句なしの最強の衛士だ。だが、その彼がここまで言う相手。彼女はこの彼より強いのだろうか。そんな好奇心からくる疑問を口にした。 武はこの質問に即答しなかった。それだけでこの相手の力量を推し量るのに十分だった。たとえば、ヴァルキリーズの誰を相手に出しても、今の力量なら自分が勝つとこの男は即答するだろう。武は少し考え込んでからこう答えた。「単純な一対一なら伊邪那岐を使えば、ML機関を用いずとも勝率七割はいけると思います」 一対一で、この白銀武から10本に3本は勝ちをとれるというだけで相手の力量は相当なものだ。A-01が苦戦するのも当然である。「彼女も含めてオーバーAAランク衛士の中にはオレでも一筋縄ではいかないものが多くいます」 指を折りながら数える。「数多くいる衛士の中で唯一その最高位AAAランクを得た者、第一位衛士『AAA(トリプルエー)』。世界最高峰スナイパー、第七位衛士『千里眼(クレアヴォイヤンス)』。シミュレーターでのフェイズ3ハイヴ最速攻略記録保持中隊隊長、第五位衛士『孤狼』など……ほんの一瞬の隙が敗北につながるような相手です。決して勝率七割と言えど、楽に勝てる相手じゃないですよ」「その数字は?」 夕呼は、武が言う「一位」、「七位」という数字に興味を持ったようだった。「衛士の中には、一つのカテゴリーに一緒くたにされるのは納得いかないとごねる奴もいましてね。 これはシミュレーターで行われる近接格闘、中距離支援、遠距離狙撃、OTH(超遠距離)狙撃、それに加え指揮能力、単機突破力、ハイヴ攻略……または実戦でのキルスコアなどの衛士としての強さを測る各項目の成績を数値化して合計し、単純に多い順から順位をつけたものです。 もとは技術部が興味心から用いていたものですが、のちにオレたちも自分たちの優劣を表すものとしてランクとともに使い始めました」 数字が付けば箔が付くでしょう、と武は笑う。このランキングは公開されていたわけではない。しかし、頼めばすぐに出してもらえ、軍として隠匿されたものを除けば、世界中の衛士たちのものも得ることができた(ただし得られるのは順位のみ。各項目の詳細は得られない)。戦うものは大なり小なり自分の強さを測る指標を得たがるものだ。このランキングがでたことで、それまで以上に訓練に打ち込み上位を目指す衛士も出てきた。一時の茜のような状態にさえならなければ、適度な競争心は、どんな場面においても有効である。「ちなみに聞くけど、あんたは……?」「3番手」「……あんたより強いのがまだ二人いるわけ」 夕呼はあきれたように頭を押さえて口にする。彼女の中では武以上の衛士など想像もつかないらしい。 武はこのランクで、自身より上に存在した二人の衛士のことを思い出した。第一位衛士「AAA」、第二位衛士「獣遣い(ビーストトレイナー)」。 厳密に言えば、この数字は単純な強さ順というわけではなく、ただの指標のひとつだ。強さといっても様々ある。指揮能力、個人戦闘技能、近接格闘戦、射撃戦と多岐にわたる。戦闘能力に劣っていても指揮能力が突きぬけていれば上位になることもできる。武の指揮能力はオーバーAAランクの者たちの中では下位である。白兵戦技能だけに限定すれば、上の二人に劣っていないという自負がある。まあそれでもあの二人に勝つのは至難の技だと武自身感じていることではある。 A-01が弱いわけでは決してない。しかし――「オレと比べても言えることですが、才能はヴァルキリーズのほうが上かもしれないんです……だが、対人戦、対BETA戦どちらにしても、‘オレ達’とは圧倒的に経験が違い過ぎる」◇ 相手がトリガーに指をかけ、狙いを定め、引き金をひくその瞬間。相手の心理を読め。感覚を研ぎ澄ませ。 機体が低出力レーザーを感知した瞬間、(今っ!) 大きく右に飛ぶ。速瀬機のすぐ傍をかするようにレーザーが通り過ぎた。「進めッ!」 回避成功とともにすぐに水平噴射跳躍。相手のインターバル数秒前後の間に可能なだけ機体を進めたい。A-01はその数を減らしながらもほとんど相手との距離を詰めていた。『……数が多いとは言え、まさかここまでたどり着くとは思いませんでした』「!」 初めて演習相手から通信があった。その声は若い女のものであり、その言動は完全にヴァルキリーズをなめてかかっている。速瀬は頭に血が上った。『本当はここまでたどり着いた時点で、合格のはずでしたが……せっかくです。最後まで楽しみましょう』 通信と同時、初めて敵機が狙撃以外の動きを見せた。立ち上がり、肩に接続していたレーザー兵器を外す。大量の蒸気が発生し、一瞬機体の上半身が隠れる。そして、右肩の上にあったタンクもパージし片手で支え、地面に下ろす。 次に敵機は手にしたレーザー兵器の長い銃身を外した。機体の全高ほどもあった得物が突撃砲クラスの大きさとなる。どうやらあの兵器は近接戦闘でも用いることができるらしい。 この一連の動作の間にA-01は一気に距離を詰めた。 そして、速瀬が最も早く突撃砲の射程内に到達した。「っ! なんなのよ、あんたは!」 ここに到達するまで数十分。敵一機を相手に、たったこれだけの距離にそれだけの時間を掛けたのだ。すでに残っているのはB小隊の速瀬、茜、彩峰とA小隊の珠瀬、そしてD小隊の築地しかいない。ここにたどり着くまでの短時間の間にA-01はその数を三分の一にまで減らしていた。 速瀬が片手で構えた突撃砲の銃口を敵機に向け、散々たまった鬱憤とともに引き金を引いた。ここで、敵機はようやくその場から移動する。ゆったりとした動作で、後方に噴射跳躍。さっきまで敵機がいた地面に36mmのペイント弾がまだら模様を作り、その場に置いてあった装備にもペイント弾の塗料が付着した。この機を逃してなるものかと速瀬は残った味方に指示を出す。「逃がすかっ! 茜! 彩峰!」『『了解!』』 別方向から敵機に近づいていた二人がすぐさま追撃を開始する。空中にいる敵機に二方向から撃ち込まれる36mm弾。二方向からの射撃はXM3搭載機に対する対空攻撃。未だこれを破られたのはあの白銀武以外にいない。 やった、と心のどこかでそう思った。先程までの驚異的な狙撃能力を見た今では、頭の中に相手は近接戦闘に劣るという考えが無意識のうちにあった。それが彼女たちのミス。 瞬間、やつは腕の振りを利用して体をひねり、跳躍ユニットを使って、空中を移動した。その結果、敵機に迫っていた銃弾はあっけなく何もない空間を切った。「――な!?」 その特異な三次元機動はXM3のもの。そして、その動きはどこか、いつも彼女たちが見ている「あの彼」の機動に似ている。それはヴァルキリーズが未だ到達できないレベルの――『この天照は、‘伊邪那美(イザナミ)’ほどとはいきませんが、あの伊邪那岐と二機連携(エレメント)を組んでいた単純累計時間は二番目に長いのです。近接戦闘(ドッグファイト)なら勝てると思いましたか?』「「「「「!?」」」」」 あの男――白銀武の相棒(エレメント)。それを知った瞬間、彼と目の前の機体が同格の存在に見える錯覚が起こる。勝てない、という気持ちが無意識に生まれ、それに気づいた速瀬はその考えを必死に払拭しようとした。 即座には確認できない事実だが、あの男と組んでいたと聞かされたことと、あの動きから警戒するのは当然だ。部隊に警戒を促し、自身も意識を改めた。 そんななか、奴は降り立つと同時、その両足で疾走を開始した。ここからが本来の戦術機の戦闘領域だ。次に敵は何をしてくるか、速瀬は一挙手一投足に気を払いながら、その突撃砲を向けた。◇「この動きは……‘涼宮大尉’?」 現在相手にしている不知火の動きにある戦友の面影を見ることができた。機体を左右に振りながら、もう一機の突撃砲による支援も受けて、こちらの機体に肉薄してくる。 そして長刀を引き抜いて、こちらが突撃砲を避けた瞬間を狙って、突きを放ってきた。錬度もそこそこのレベル、だがしかし、自身が知っている彼女の動きにはまだまだ遠く及ばない。(イスミヴァルキリーズ最後の生き残りもこの当時はまだまだ力足らずのようで……やはり多くの衛士と同じように、仲間の死がその後の自分を強くしたタイプですか……) 右斜め前から胴を狙って放たれたその突きを、片足を軸に回転して避ける。そして側面に回りこんで手にしたTHELを敵機の腰に照準すると、「!」 真後ろから3機目の不知火が構えた長刀を今にも振り下ろそうとしていた。おそらくは全速の水平噴射跳躍で突っ込んできたに違いない。せっかく一機をつぶすことのできる格好の機会だったが、仕方ない。 天照の巨大な跳躍ユニット、4つの噴射口から勢いよく推進剤を吐き出して、姿勢を低くしてそこから退避する。 空ぶった不知火の長刀。『逃がすかッ!』 だが長刀を構えなおして、その不知火はすぐさま追撃してきた。聞こえてくる声は怒声。機体からもその気迫がもれているように感じる。 この機体はこちらの最後のレーザーを避けた衛士が操っている。彼女は現在残っている衛士の中では一番の手だれだ。怒涛の近接攻撃、その機動と装備からわかっていたことだが、この彼女こそがこの部隊の突撃前衛長であるらしい。(――ヴァルキリー2……ハヤセ) 彼自身から何度も聞いたことのある名である。彼が尊敬する衛士にあげる数少ない人物の一人。何度も繰り返した世界で、対峙するのは始めての経験だった。しかし、感傷に浸るのはもう少し後になりそうだ。 ある程度相手の近接戦闘の能力は測ることはできた。この辺りでこちらも本格的に攻めに回ろう。「格の違いを見せてあげましょう」 手元のコンソールで武器を切り替える。網膜の右下に映った現在装備している武器。現在手にしている武器はTHEL。そしてそれ以外に左下では現在灰色となっている2つの武器がある。ひとつは左ひじに格納された短刀であるが、今回は残りのもうひとつを使うことにする。THELを背中のガンラックに収めると、THELの文字は白から灰へと変わった。 相手の長刀が高く振り上げられ、その刃が天照の体を狙う。 その攻撃に反応して、手元でコンソールを操ると同時、背中のマウントが跳ね上がる。左肩の上にやってきたその‘柄’を掴む。そのとき、今まで灰色だった文字列のひとつに光が灯る。 そしてその武器の‘刃’が相手の攻撃を受け止めた。◇「――要塞級殺し(フォートスレイヤー)ッ!」 相手が初めてその背中に背負っていた近接戦闘武器を持ち出した。それは10m近い全長を持つ大剣(グレートソード)である。 斬撃よりも機動打突戦術を重視した設計であり、その攻撃力の高さから先ほど速瀬が口にした<要塞級殺し>という異名で呼ばれている。主に英国の戦術機が使用している武装であり、極東国連軍所属の速瀬は初めて相手にする武器だった。 自分の渾身の一撃は、その大剣の刃に受け止められた。柄に近い鋸の刃のように刃がぎざみ目になった部分に当たった長刀は、滑ることなく動きを止められた。 そしてそこで初めて気づく。自分の長刀と相手の大剣の力が拮抗するその一瞬、両者の動きが止まる。すると、今までで一番近くでその機体を見ることができた。 正面の顔には円形の大きなレンズが、その顔のほぼ全面を占めている。それはギョロリとした眼球を連想させ、今の速瀬には不気味に感じられた。 機体のカラーリングは頭から足の先まですべてが漆黒。左右非対称の装甲。不知火よりも大型化された跳躍ユニット。それ以外にも自分には何のためについているのかわからない装備が各種に満載だ。そして相手がつい先ほどまでレーザー兵器を押し当てていた右肩。そこに――「――な……何で?」 自分たちの中隊を示す<VALKYLIES(戦乙女)>のエンブレムが描かれていた。「何なのよ、こいつは!?」 混乱する速瀬。その動揺は機体の動きにも現れる。その隙を狙って敵機が動いた。「――っ!」 漆黒の刃が彼女たちに迫る。◇「ヴァルキリーズのエンブレム? なぜ、あの機体に?」 速瀬の機体から入ってくる映像がモニターに映し出される。夕呼はそれを見て、頭に浮かんだ質問を周りに聞こえないように声をひそめて、武に尋ねる。「あいつは次世代ヴァルキリーズの一員でした」 桜花作戦後、元の伊隅ヴァルキリーズを構成していた人物たちはそのほとんどが失われてしまっていたが、その部隊の名はいつまでも残り続け、多くの作戦で戦場を馳せていた。元はA-01の一中隊を示すものであったが、桜花作戦を成功に導いた英霊たちに敬意を払い、2002年以降A-01に新たに所属した機体には全てヴァルキリーズのエンブレムが描かれた。そして戦場で武功をあげ、時間が経つごとに所属する衛士の数を増やしていったA-01は、2006年には発足当時と同じ連隊規模にまで膨れ上がった。 彼女は、武が英国陸軍近衛師団から引き抜いた次世代ヴァルキリーズの戦力の中核を担う衛士であった。「桜花作戦で、あんた以外は全滅したって聞いたけど、部隊名は残ったのね」「ええ、俺以外にも涼宮や宗像中尉、風間少尉……さらには伊隅大尉の妹さんも所属していたんですよ」 桜花作戦時、負傷で戦線を離れていた3人も無事に衛士として復帰し、その生涯を人類の勝利のために費やした。 あの隊規も長いこと受け継がれ、隊員や部隊も多くなり、A-01はいかなる戦場においても類まれなる戦果を上げ続けた。その一端を担ったのが、モニターに映る機体とその衛士である。 こと、光線級属種に限定すれば、そのキルスコアは武の倍以上に上る。 その当時の戦友でもある茜たちを前に、彼女は今どのような気持ちで望んでいるのだろうか。「しかし、なかなか派手にやるな」 ただ、彼女の戦い方に、武はそんな感想を抱いた。◇ 茜と築地が要塞級殺しの一撃で続けて落とされた。四つの噴射口をフルに用いた水平噴射からの加速とそれによる打突に、彼女たちはなす術が無かった。正確には腹部への寸止めだったのだが、白銀が彼女達の撃墜を告げた。 振り下ろされた長刀を大剣の腹で受け止められる。一瞬、その両足が地面にわずかに沈みこむが、見事受け切る。力が完全に殺されたときを狙って、その長刀をはじいた。そして一歩引いた漆黒の機体。腰をひねって両手で得物を振りかぶる。 風切り音を伴って速瀬の不知火の横腹を狙う鋭利な刃。「やられっぱなしは性に合わないのよ!」 弾かれた長刀を素早く握りなおす。そして真上に万歳のような形となった状態から手首を捻り、機体を「く」の字にさせながら敵機の頭めがけて振り下ろす。『!』 真上からの脅威に敵機はすぐさま対応した。この状態では、たとえ不知火の胴体に攻撃がたどり着いたとしても、真上からの攻撃の慣性はそのままとなり、敵機の上体に決まるだろう。それでは相打ちとなってしまう。 腰を狙っていた軌道をわずかにそらし、不知火の腕を狙う。腕ごとその長刀をもっていこうという魂胆だ。速瀬自身の一撃より敵の斬撃が一瞬速い。速瀬はそれを即座に判断すると、長刀の柄から左手のみを離し、肘を自ら相手の刃に差し出した。『っ! 生意気な!』 敵の焦った声が耳に入る。相手も理解したのか、速瀬は対応を打たれる前に左腕に内臓された短刀を開放した。一瞬で展開伸長する副腕の先に存在する短い刀身が敵の大剣に触れた。もちろん、それで防げるほど、マニピュレータの強度は強くない。しかし、力を逸らすだけなら十分な働きをしてくれる。 マニピュレータが破壊されるまでの短い時間で、その角度を跳ね上げ、大剣の軌道をずらした。「――もらった!」 一瞬で間接部にかかった強烈な衝撃により、マニピュレータが無残にも砕け散る。しかし、その犠牲は無駄にはならず、短い攻防の間にも振り下ろされていた右腕の長刀が吸い込まれるように、相手の左肩を狙う。 されど、その右腕が手ごたえを感じることは無かった。 (な……んて奴!) 相手は、自身の大剣が短刀に触れた瞬間には、躊躇することなくその武器から手を離し、姿勢を低くしつつ、全力で速瀬機から飛び退った。速瀬の振り下ろした長刀は、相手を紙一重で捕らえ切れず、その切っ先はアスファルトを砕きながら地面に埋まった。 速瀬はしとめ切れなかったことに悪態をつくが、一度、二度と状況に応じて即座に最善の動きを選択するという攻防は、武すらも唸る超密接状態での練達されたものだった。しかし、その数秒にも満たぬ鬩ぎ合いの結果は、速瀬機のみに痛手を残すだけのものとなってしまった。 相手の手を離れた大剣は、放物線を描きながら、近くの民家に突き刺さった。敵機はすぐさまその武器を回収するため、速瀬機を飛び越えてその民家に向かった。 速瀬とてただ見ていたわけではない。大胆にも彼女を飛び越そうとした相手に対して、長刀によるカウンターを決めようとした。しかし、相手より一呼吸だけ遅かった行動は、間に合わなかった。 相手はご丁寧にも、速瀬の真上に差し掛かったときに、そのガンラックに収められていたレーザー兵器を発射するという置き土産を残してくれる。カウンターと回避の両方に気を取られていた速瀬は、無様に不知火をひざまずく様にしてその一撃をやり過ごした。 ただ、残りのヴァルキリーズは速瀬だけではない。先程の一瞬の攻防の際にも、彩峰は虎視眈々と攻撃のチャンスを窺っており、この瞬間に今が好機と突撃砲から120mm弾を放つ。その攻撃は、敵の背を追いながらその背中に照準したものだ。『とらせないっ!』『ルーキーは引っ込んでいなさい!』 確実に当てようと近づいた彩峰の機体に向けて、敵機は先程と同じように背中のガンラックが跳ね上がりそこに付けられていたレーザー兵器で迎撃した。 あやうく彩峰の不知火に直撃という攻撃を足で地面を蹴ることで回避する。しかし、その代償として彩峰の攻撃は狙いとは遥かにずれた位置へと飛んでいった。 その間に敵機は大剣を回収し、その刃を再び速瀬たちに向けた。 簡単に仕留めさせてくれない。それはあの男のエレメントを務めていたという実力をわからせるものだった。速瀬と彩峰は、仕切りなおしと二機並んで相手と対峙した。 珠瀬が独自に動いて狙撃ポイントを確保したことを伝えてくる。ならばこちらは珠瀬の援護だ。幸い接近戦に持ちこんだ今、近接戦が仕事の突撃前衛が2人残っている。彩峰と共にどうにかして珠瀬が狙撃できる隙をつくる。いくら近接戦闘に秀でていようと、脅威度は遠距離の状態より落ちている。 背を向けて敵をおびき出すという戦術は通用しない。一度でも距離を離せば、相手は追撃などせず、その場でレーザー兵器をこちらの背中に向けるだろう。 (――なら!) 彩峰とともに敵に突撃砲をフルオートで発射した。あえて正確な狙いはつけずに、弾を散らす。さすがに戦術機二機のこの弾幕を避けながらこちらの機体に接近するのは至難の技である。 相手は弾切れを待つつもりなのか、近くのビルへとその姿を消した。(そこに追い込みたかった!) 相手が速瀬の思い描いたとおりの動きを見せた瞬間、速瀬は敵の姿を追ってビルの間に飛び込む。そして、その通りの出口を防ぐように、彩峰の機体が躍り出た。 これで敵を挟み撃ちにしたことになる。二機は敵機を視界に納めると同時に背中から長刀を引き抜いた。 相手がいくら近接戦闘能力に秀でていようと、ヴァルキリーズが誇る突撃前衛二人をこの狭い通路で相手するのは骨だろう。いくらか剣を交えている間に、速瀬の中には相手が近接戦闘に関しては、あの自身が知る最強の衛士、白銀武ほどの力をもっていないことを確信していた。いくら単機でヴァルキリーズの誰よりも優れていても、集団でかかるのならば別だった。 相手もそれを理解しているのか、逃げ道を上に求めた。しかし、それこそ速瀬たちの最も期待した動きだった。「――珠瀬!」 その声で、遠くのビルの合間から冷静に戦況を見極め、攻撃の機会を窺っていた珠瀬は、構えた突撃砲から120mm弾を放った。この部隊でも、断トツで狙撃技術に優れた彼女の攻撃だ。しかも、速瀬たち二機に迫られ、慌ててとった回避後の警戒範囲外からの攻撃である。速瀬も彩峰も、その狙撃を行った珠瀬でさえ、敵機にその一撃が決まることを疑っていなかった。 しかし、相手は彼女たちの想像の上を行く。上昇途中でビルを二度蹴り、機体の軌道を逸らした。攻撃に気づいてからとった行動ではない。それならば、間違いなく間に合わなかったはずだ。(――読まれた!) 敵は速瀬たちの作戦を読んでいたのだ。 狙撃を避けた敵機が、珠瀬のいるポイントへと向けて水平噴射跳躍した。その動きは明らかに珠瀬を標的に定めたものだった。 そして、高く飛び上がった敵機は驚くべきものに姿を変えた。「「「んなっ!?」」」(‘戦闘機’ッ!? こいつも可変型なの!?) 晴れ渡った青空に、異物として漆黒の戦闘機が生まれる。 先日目にしたばかりの可変型戦術機。量産はできないと聞いていたが、今目の前にいるのは、それに他ならない。 だが、今はそんなことよりも言うことがあった。敵は速瀬たちのことなど歯牙にもかけず、その狙いを遠方の珠瀬に定める。 「珠瀬――逃げて!」 追撃も驚異的な速度で離される。速瀬にはそう叫ぶことしかできなかった。◇(同じ作戦を、私も彼相手に何度も取ったことがありますからね……) ニーナは戦闘機形態へと形を変えた天照の中で、さきほどの一撃の余韻に浸りながら、懐かしい過去を思い出していた。もし、その経験がなければ、あの場で落とされていたかもしれない。 初めて彼と模擬戦を行った日のことは昨日のことのように鮮明に思い出すことが出来る。まだ、彼を信用しきれていなかったニーナは、最初のうちはおびえる猫のように彼の手を払いのけてしまった。模擬戦を提案したのは、信用に足る相手か、その力を知りたかったためだ。もとは銃はおろか、武器と呼べるものを手にしたことのなかった少女は、この狂った世界での長い経験によりその思考をそのように変えていた。 自身の指揮していた大隊から彼女が信頼する選りすぐりの衛士のみで構成された小隊で、彼とその当時彼のエレメントを務めていた女性の二人を相手にした。結果は今思い出しても笑いが出てくるしかないほどの惨敗だった。さきほどヴァルキリーズが行ったのと似たような作戦も彼女はとった。しかし、頭を抱えてひねりだしたその作戦を、彼はニーナのような経験と知識ではなく、反射と勘のみでねじ伏せた。決して誤った作戦であるとは今でも考えてはいないが、あれだけの衛士を仕留めるには工夫がもうひとつ足らなかった。 一瞬だけ戦場から離れていた思考が戻る。今一度ヴァルキリーズに注目すると、半数以上減らされ、限られた戦力であっても常に最善に近い戦術を用いてくる。少々、彼女たちに対する認識を改める必要があるようだ。 スロットペダルを踏み込み、天照をさらに加速させる。追撃しようとしていた二機の不知火をあっというまに置き去り、ビルの間で突撃砲を構える狙撃手を目指す。彼女がいる限り、あの二機の撃墜に集中することができない。この状況での最優先目標は、この不知火である。 昨夜、彼から渡されたデータによるとこの機体が‘あの珠瀬壬姫’らしい。「……生前のあなたのデータは何度も見たことがあります」 これは回線を開いていない独り言。 桜花作戦を成功させ、あの男を生き残らせた英雄たちの一人――唯一自分が尊敬するスナイパーが今目の前にいる。だが、その感動に打ち震えている場合ではない。(あなたたちがいなければ、私はあの男に出会うことがなかったかもしれない) 空から急襲する天照に敵機は逃げるのではなく、迎撃を選択した。銃口が自分を狙った瞬間、ペイント弾が描くであろうラインがすぐさま思い浮かんだ。そのラインはこれから自分の機体が通るであろう箇所、その中で正確に機体の中央を捉えたものだ。「なるほど……間違いなくあなたは私より才能がありますよ」 さきほどの奇襲の一撃も加えて、心からそう思った。 長距離狙撃だけでなく、中距離狙撃の半端なものではない。先程までの戦闘を見て、こちらに恐れを抱いていないはずが無い。しかし、その中であっても萎縮することなく、正面からの迎撃を選んだ。とても任官一月未満の新人とは思えなかった。その実力に、ニーナは身震いした。(ただ、正直過ぎるのはいけない) 相手が引き金を引くとほぼ同時に、補助翼(エルロン)を動かすことで機体がぶれる。速度を落とすでもなく、方向を変えるでもなく、天照は左方向に360度回転(エルロン・ロール)した。 機体が丁度垂直になったとき、その横を音速の弾丸が通り過ぎていく。(火事場の馬鹿力――極限状態でのみ真価を発揮するだけではいけない) 相手が高レベルの狙撃手だからこそ選択できた回避方法である。矛盾しているが、この回避が成功したことにより、彼女の狙撃技術の高さは証明された。 機体が再び、水平状態に戻る。敵の不知火は予期もしない方法で回避されたことに動揺しているのか、次の動きが遅い。次の発射体勢を整えたころには、天照のTHELがその照準を定めていた。 尊敬する衛士――しかし、彼女を仕留める一撃に遠慮などはなかった。◇「た、珠瀬……!」 即座に援護のために走り出したのも、間に合わず、珠瀬の不知火は閃光をその胸部に受け、撃墜された。『す、すみません』 最後にそんな通信が入ったが、とても彼女に落ち度があったようには思えない。 また一人味方を落とした敵機は、その速度を落とすことなく、速瀬たちを引き離して行った。「く! 逃げるなっ!」『逃げる? おかしなことを言いますね』 あれだけ苦労して稼いだ距離が簡単に開けられて行く。あっという間に十数キロを移動した敵機は、優雅とも見えるゆったりとした動作で再び戦術機へと姿を変えた。「――!」 奴が降り立ったのは、伊隅やまりもたちの不知火が活動を止めた地点の真ん中だった。『見ていなさい。力のないものはこうして仲間が落とされて逝くのをみているだけしかできない』『『『『『っ!』』』』』 その言葉は、速瀬に向けられたものではなかった。伊隅たち、すでに撃墜宣言を受けた者たちにむけた非情な言葉だった。『味わったことがあるものは思い出しなさい。経験していない者たちは心に刻み込みなさい――この先幾度戦場に立つことになっても、決して忘れるな』 あえて見せ付けるようにひときわ高いビルの屋上で肩ひざを突いて、レーザ兵器を右肩装甲につける。そして、二度の閃光がその銃口から出ると、CPから彩峰機の活動停止が伝達された。(あとは……私だけ!) 近づきさえすればどうにかなると思っていた。あの作戦を一人の犠牲も出すことなくやり遂げた自分たちなら、そう思っていた。 だが、その結果が今の状態だ。「ま、負けられるかぁぁぁあぁぁぁ!」 オルタネイティヴ計画直属部隊としての意地もある。この部隊で最強の衛士、ヴァルキリー2を名乗っている責任もある。そしてなにより、自分達はあの白銀武と肩を並べて戦えるように訓練してきたのだ。ここでこの相手に敗れようものなら、一生彼の背中を見続けるようになる気がする。(そんなのはいやだ! 私は守ってもらうだけの女は嫌だ!) いっしょに戦えなかったあの男は知らない戦場で勝手に死んだ。あんな思いはもういやだ。彼の後ろに続くのではない、隣に立ちたいのだ。 最後の不知火が前傾姿勢のまま猛スピードでビルの間を飛んだ。だがそんな速瀬に相手は冷たく言い放った。『――弱い者が吠えるな』 相手の一撃が速瀬の突撃砲を打ち抜く。慌てて速瀬は、突撃砲を手放した。 これで速瀬の武装は長刀と短刀という近接格闘武器のみ。それはこの距離では絶望的とすら言えた。 慌ててビルの影に隠れこむ。しかし、まりもが落とされたときのことを考えると、この行動すらも安全ではない。(――どうする、どうする、どうする!?) いつ背にしたビルから白色の光が飛び出してくるかわからない。これだけの距離が開いていながら、至近距離から胸に照準されているような圧迫感を感じて、心臓の鼓動がうるさいと感じるほど大きくなり、嫌な汗が頬を伝った。『Hide and seek(かくれんぼですか)?』 相手の挑発するような声がそれに拍車をかける。彼女にしてみれば、この距離は必中の範囲内だ。 どうする、どうする、と焦った頭は、この状況を打開する策を思いつかない。もう一か八かの特攻しかない、そんな最悪な考えが頭の中で浮かんだ瞬間、『――落ち着いてください、速瀬中尉』「!」 そんな速瀬に落ち着いた武の声が届いた。網膜に顔も映し出されるが、彼は、興奮し思考を混乱させていた速瀬を落ち着かせるように静かな声で続ける。 その口から出たのは、速瀬に対する諦めの宣告ではなかった。『‘あいつ’が距離をとったのは、近接戦闘なら分が悪いと感じたからでしょう』 いつもの速瀬ならどこか相手の衛士を親しげに呼ぶ彼に疑問を感じたかもしれないが、今の速瀬にはそんなことを気にする余裕は無かった。『もう一度近づきさえできれば、速瀬中尉にも十分勝機がある』 確かに先程の接近時には手ごたえは感じた。まったく勝機が見出せないなどという絶望的な力量差ではなかった。 しかし、問題は今の状況からどうやって再び近づけばいいというのか。中隊全員であれだけ必死になってやっと詰めた距離を、残った自分一人で詰められるはずがない。そんな弱気になる速瀬に、『それができないほど柔な鍛え方をしたつもりはないですよ』(――こいつ!) その言葉は、耳からすんなりと頭の中に入り、熱くなっていた頭の芯の熱を奪った。不思議と、それだけで速瀬の思考は正常なものへと戻った。それは、彼女がどれだけこの男に信頼を置いているかということを示していた。信じる男の言葉を疑ってはならない。教官の言葉を疑ってはならない。 この戦いはこの男が見ているのだ。彼の二ヶ月の教導、それに報いる働きをしなければならない。 そして、つい先日決意したばかりだった。この男に追いつく。いつか隣に立つのだ、と。 速瀬はビルの影から勢いよく飛び出た。敵機との間には何も遮るものがない。遮蔽物を盾に時間をかけて距離をつめても埒が明かない。そもそもそれを行ったところで自分の勝利するビジョンが浮かばなかった。どうせやるなら、最短の一直線を進み、早々に蹴りをつける。 不知火が地を蹴る。機体が浮かび上がると、跳躍ユニットからありったけの推進剤を撒き散らし、その身をひとつの弾丸として猛スピードで突き進んだ。『覚悟を決めたようですね』 今にして思えば、この挑発するような声は、相手を激情させ、自らの望む動きに誘導するためのものだったのだろう。そんなことにも、つい先程までの速瀬は気づけなかった。 相手の言葉通りに玉砕覚悟で突っ込んだわけではない。機体が低出力レーザーを感知し、けたたましい警報音を鳴らす。反射的に速度を落として回避運動に入ろうとする。しかし、速瀬はそれを意思の力で止めた。これも相手の挑発だと気づいたのだ。(まだ……まだ……) ぎりぎりまで距離を稼ぐ。どうせ一発当たれば終了なのだ。恐れるな。相手は思考の読めないBETAではない。その攻撃には全て彼女の意図が存在する。目と耳から入る情報だけに頼ってはならない。 極限まで研ぎ澄まされていた速瀬の感覚は、不思議と敵機がトリガーにかけた指に力をこめたのを感じた。(今ッ!) 左右の跳躍ユニットの出力を不均衡にすることで機体が高速でぶれる。 胴体のすぐそばを通り過ぎて行く白光。速瀬のいる管制ユニットから数メートルと離れていない至近距離だ。それだけの近さをあの熱量が通り過ぎたことに速瀬はぞっとする。しかし、臆している暇などありはしない。 機体を再びまっすぐにし、相手に向けて飛んだ。(行ける) 今の速瀬が感じている不思議な高揚感、それは今まで戦場で感じたことのない感覚だった。体はリラックスしているはずなのに、全ての感覚が鋭すぎるほど研ぎ澄まされている。 決して余裕などない。もはや頼れるものは、自身の操縦センスのみ。 しかし、それこそが自身が目標とするあの男にこの二ヶ月間みっちりと鍛え続けられてきたものだった。◇ これは想定外だ。この天照には残りの推進剤も、G元素の量も少ない。どちらもこの演習が終われば、機体の整備と共に補給してもらうつもりだった。それだけの力で十分だと感じていたのだ。 だが、レティクルの中の不知火の動きに焦りを感じていた。つい数分前までは、簡単にこちらの挑発に乗り、動きをコントロールさせてくれていた。まるで機体がレーザーを吸い寄せるように、中隊のほとんどの機体を落とすことができた。(っ! あの男が何か言いましたね) 低出力レーザーを不知火に当てる。しかし、相手は回避行動に移ることなく、まるで撃墜を恐れていないかのように、その牽制を無視する。 ならば、とトリガーを引く瞬間、相手はその場から飛び退る。また、レーザーは目標を捉えることができなかった。 相手にこちらの狙撃の呼吸が読まれている。それは、この動きから明らかだった。そのことにニーナは、苛立ちと忌々しさ、そしてほんの少しの喜びを感じていた。 実のところ、速瀬は明確に相手の呼吸を呼んだわけではない。しかし、幾度も演習で苦しめられた珠瀬の狙撃、伊隅やまりもに体の芯まで叩き込まれた対レーザー級戦術、その身を犠牲にしながらも敵の攻撃を教えてくれた仲間たち、それらの全てが速瀬を生きながらさせていた。 G元素貯蔵タンクをパージした今、無駄弾は一発たりとも放てない。そして、残り少ない推進剤では、近接戦闘での高速機動戦を行うことはできない。主脚のみでの戦闘では圧倒的に不利となる。それでも必ず負けるとは露とも考えていないが、無傷で勝利できるというビジョンも今の彼女には浮かんでこなかった。ここで落とさなければならないのだ。 また一撃避けられる。しかし、決して慌てはしない。戦場で自らのペースを乱すことは決してしてはならない。彼女は数十年に渡る戦いの経験からそれを理解していた。飽くまで自分のスタイルを貫き通す。 相手がここまでたどり着くのが先か、相手の集中力が切れるのが先かの根比べだ。ニーナはより集中を研ぎ澄ませ、自身の出来る最高の攻撃、狙撃を行う。 距離はあっという間に詰められる。不知火との距離、残り約2km。通常の対戦術機戦ならばここまで接近された時点で、再び距離をあけるか、近接戦闘への準備を始める。しかし、残り少ない推進剤からその選択肢は選べなかった。 視線は変わらずレティクルを覗き、蒼穹色の不知火を照準していた。 距離から考えて、撃てるのは残り2発。 数千、数万と繰り返した動きを指はなぞる。トリガーを引いた指が戻る前に、次の照準へと頭を切り替える。最後の一発を決めることだけに集中する。 ついに相手が目と鼻の先まで迫ってくる。水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)により機体は空中にいるが、その体は一切ぶれず、相手の高い技量を見せ付けていた。 最後の一撃は、ぎりぎりまで引き寄せてから撃つことに決める。すでに狙撃と呼べる距離は空いていない。だが、至近距離からの一発は絶対に決める。 だが、相手の不知火は、600mまで詰まると、今までの直線的な機動をやめ、ひときわ高い建物群の中へと姿を消した。「!」 天照を立ち上がらせて全周囲を警戒し始めた。 振動音センサーにも気を払うが、最後の一撃を決められるだけの距離を空けて、発見しなけらばならない。いつでもトリガーを押し込めるようにと、コンソールを握りなおし、どのような事態にも慌てることの無いよう精神を落ち着かせた。 10時の方向から、コンクリートの破砕音がした。そこは大通りであり、遮蔽物の最も少ない箇所だ。そのため、警戒度は他に比べ随分低かったわけだが、その音を感じ取ると、紅く光る一つ目が残光を残すほどの機敏さで体ごと銃口をそちらへと向けた。「!?」 しかし、網膜に蒼穹色が映ることはなかった。代わりにメインカメラが捕らえたのは道路の真ん中に突き刺さる一本の短刀だった。(――やられた!) 短刀は左斜めに刺さっている。そのことから即座に銃口を左に向けた。『この距離ならッ!』 そこには右手一本で長刀を上段に構えて、こちらに突撃してくる不知火がいた。 慌てて機体を後退させながら、その銃口で相手の胴体を狙う。しかし、後ろに一歩ずらした足が、ビルの屋上を踏み砕いた。「!?」 機体が大きくバランスを崩す。このままではいけない。とっさにそう考えたニーナは、躊躇せずトリガーを引いた。大勢を崩した今、照準していたはずの腰ではなく、相手の左肩へとレーザー光が刺さる。その箇所のレーザー蒸散塗膜が蒸発するが、あの男から不知火の撃墜が告げられることは無かった。 最後の機会を不測の事態で棒に振ってしまった。しかし、体勢を崩したことはマイナスばかりに働いたわけではなかった。 後ろに大きくのけぞったことで、相手の長刀はまさに紙一重で、天照を捕らえきれず、ビルの一角を切り取るに留まった。 ビルを踏み抜いた足とは別の足で跳んだ。空中に浮いた体を、跳躍ユニットを用いて、危なげなく道路に降り立つ。目の前にはすぐに不知火がアスファルトを砕きながら、荒々しく降り立った。 網膜上では「Empty」の赤字が目立つように点滅する。ついに、こちらの最大の攻撃手段であるTHELは沈黙した。「……」 大きく深呼吸してから、THELから手を離す。黒光りする金属の固まりは、重い音を立てて道路上に落ちた。空いた手は、背に伸ばし、そこにあった柄を握った。そして、大剣(グレートソード)を大きく振りかぶってから、その切っ先を不知火に向けた。「あなた達のためにも、私は今負ける訳にはいけないんですよ」 それは相手に聞かせるというより、自分に言い聞かせているような言葉だった。 不知火に残った武装は長刀一振のみ。そして左肩より下は、動くことのないただの重りだ。対する天照は、損傷こそないものの、自身最高のアドバンテージであるTHELを失い、推進剤も残り少ない。 どちらにしても、長時間戦いあえる戦力ではなかった。つまり、あと数分で、長かったこの戦いの決着がつく。 不知火は残った右手を後ろにするような半身で薙ぎの体勢をとる。対する天照は、大剣を地面と水平に右手を上げるような形で突きの体勢をとる。 ここまでの派手な動きとは打って変わって、どちらもその体勢を維持したまま、相手の出方を窺う。そのことで初めてこの戦場に沈黙が舞い降りた。 すでに撃墜宣言を受けた隊員たち、また管制室でこの戦いを見ていた夕呼や遙も固唾を呑んで、対峙した二機を見た。勝負が着くなら一瞬の出来事である。それを全員が感じ取っていた。 両者がじりじりと距離を詰める。そして、天照が先手を打つべく、その身を沈ませたそのとき、『――そこまで!』『なッ!?』「!」 二人だけの戦場に、白銀武の声が割って入った。『――演習を終了します』 速瀬にとってはこれからというところで、唐突に武から演習の終了が告げられた。速瀬はその突然の事態を受け入れられないのか、通信で喚きたてる声が最後に聞こえてきた。 ニーナは、速瀬よりも早くその自体を受け入れ、ずっと堅くなっていた体の力を抜いた。息をゆっくりと吐き出し、体と思考をクールダウンさせていく。 あの男が唐突に演習を終了させた原因を考える。昨夜、ニーナがこの演習を提案すると、武は「彼女たち(ヴァルキリーズ)のためにもなるだろう」と言って、快諾した。武は、ニーナと戦わせることで、彼女たちに何かを感じて、あるいは知ってほしかった。そして、その目的を持って行われた演習をここで終了させたということは、あの男にとっては、彼女たちが何かしらの成果を得たという結論に至ったためだ。 ニーナにとっても、もちろん目的があった。しかし、その目的は、この結果では完全に成されたとは言えない。 ただ、演習の終了を認識したとき、彼女はほんの少しだけ安堵を抱いていた。それに気づいた瞬間、自分の頬を両側から強く手の平で叩いたのだった。◇ ◇ ◇ 横浜基地のハンガーに天照をいれ、機体を停止させた。そして、胸の部分から管制ユニットが排出され、ニーナは8時間ぶりに外の空気を吸った。久しぶりに吸った空気が、油や金属の匂いの混じったものということだけは気に入らなかったが、ニーナは狭い空間から開放されたことを満喫した。「……勝負に水を差すとはあなたらしくないですね」 管制ユニットから顔を出すと、遥か下に自分を待ち構えているあの男を見つけることが出来た。その男に向けて、少々睨みながら言い放った。「お前、もう推進剤残ってなかっただろ?」 生身での再会を喜ぶ前に出された彼女の言葉に、武はその理由を告げる。 どうやら彼には、ニーナの不自然な動きからそのことは全て読まれていたようだ。その彼の気遣いに礼を言うか、悪態をつくか迷ったが、結局は沈黙を選択した。どちらを答えても今の彼女にとっては言い訳以外の意味にはならないはずだ。たとえ、勝利がどちらに転ぶかわかっていなかったとしてもだ。 天照の胸部から出て、降りてきたニーナに向けて、武はどこか意地悪げな笑みを浮かべて言った。「残り少ないとはいえ、あと2分は戦えたか……あのまま続けていたら、どっちが勝ったかな?」 その笑みと同じく少し意地悪に質問する。先程、最後の衛士の動きに言いようの無いプレッシャーを感じていたのだが、それをこの男に教えるのは癪だった。「……私は、あんなルーキーには負けません」 どこかむきになっているような彼女の言葉に、武は快濶に笑った。 次に彼は天照が背負うTHELと大剣を見上げながら、感心したように言った。「‘鷹の目’の力は健在か……近接戦闘もそれなりにこなす様になったな」「あなたが死んだあとも4年間は頑張り続けましたからね」 彼女より先に武が死んでいる。それを聞くと、武は彼女に対するある負い目を感じて、顔をしかめた。 漆黒の戦術機から出てきた彼女は、まず肩にかかっていた三つ編みの先のひもをほどく。それに軽く手櫛を入れ、綺麗に解かれた金髪を背中に追いやった。ゆるくまとめられていた髪は、特にあとなどついていなく、サラサラと彼女の背中で揺れた。 彼女のこの行為は戦闘状態の解除を示すもので、彼女なりの儀式らしい。それを終えるとニーナは武の正面までやってきて彼の顔をしげしげと見つめた。「それほど若いあなたを見たのは初めてですね、‘シロ’」「……その犬みたいな呼び方はやめてくれって言っただろうが……」 彼女の彼に対する呼び方について、武は顔をしかめた。「いいじゃないですか。私は気に入っています……私以外の誰もあなたのことをこの名で呼んでいないのですから……それに私、犬好きですよ?」 それはどういう意味で解釈をしていいのか。 淡々と言う相手に武は苦笑を返すことしかできなかった。お互い死で別れあったものたちだ。その再会には涙のひとつでもふさわしいのではないかと考えるが、頭にかすかに思い描いていた感動的な再会とはずいぶんかけ離れていた。「ニーナ!」 そんな彼女たちの元へ駆け込んでくる姿があった。小さな体躯を必死に動かして走るアーリャだ。ニーナの名を呼ぶその声は喜色に満ちていた。「アーリャ! やはりあなたもいましたか!」 そんなアーリャに気づいて、武に向けていた表情とは打って変わって、ニーナは年相応の笑顔を浮かべた。 アーリャは、走りこんできた勢いのまま、ニーナの腰に手を回し、力強く抱きついた。「しかし、これはまたずいぶんと懐かしい姿で……」 自身の胸より身長の低い彼女を見てニーナはそう口にする。10歳相応の小さな体躯、胸も腰も女性らしさは帯びていない。自身の最後の記憶にある美しい少女の予想外の幼さを目にして、(これは……うれしい誤算ですね。‘強力なライバル’の一人がこのような状態とは……時間的アドバンテージが少し生まれました) 再会を喜びつつも、彼女が心の中でそんな腹黒い考えを浮かべた瞬間、さきほどまで強くしがみついていたアーリャの力が緩んだ。そして腹部にあてていた顔を上げると、その表情はニーナを可愛らしく睨み付けるというものに変わっていた。「ニーナ……」 その声は先ほどの喜色に満ちた声とは違い、どこか咎めるように低くなっていた。その声ですぐにニーナは自分の失態に気づいた。「……迂闊でした。今の私は対リーディング処理を施されていないのでしたね」 そのジト目から逃れるために彼女の目を手の平で覆った。目隠しされたアーリャはイヤイヤと首を左右に振りながら彼女から離れようとする。なんともつれない態度ではあるが、彼女には先ほどの負い目もあるため、そのまま解放した。 そして、何気なく見渡したハンガーで、少し遠くからニーナたちを見つめている小さな姿に気づいた。ニーナはその少女にも見覚えがあった。こちらもまた自身の記憶よりずいぶんと幼い姿であったが。「社中尉!」 名を呼ばれたことで、霞は肩を軽く震わせ、目を見開いた。 そして、ニーナは同じ過ちを二度犯す。(やりました。二人目もこのように幼い体躯とは……いくらこの男でもこのような未成熟な体に迫られて手を出したりはしないでしょう) 薄い笑みすら無意識のうちに浮かべていたニーナが見る中、霞が無言で少しだけ赤くなった。(迂闊……余計な知識を与えてしまいましたか) それすらも読まれていたのか、霞は可愛らしく小首を傾げる。どうやらまだ自覚はないらしい。「はいはい、あんた達だけで楽しんでないで、私にも紹介してくれない?」 夕呼が彼女たちの間に割って入ってきた。白衣のポケットに手を入れて、ダルそうな歩みながらも、その目はハンガーに収められた天照、次にニーナへと値踏みするように油断無く見渡していた。「あ、はい、すみません……えーっと……」「大丈夫よ。あんたがよほどの大声で無い限りどんな紹介をしても」 周りを見渡すと、周囲10mほどには彼女たち以外に誰もいない。誰も彼もが遠巻きに、謎の高性能機天照とその衛士ニーナを困惑気味に見つめていた。その中には先程戦闘したヴァルキリーズの何人かも見受けられ、彼女たちは機体はもちろんだが、ニーナと武、アーリャの予想外に親しげな様子に目を白黒させながら、様子を伺っていた。 武はそれを確認したあと、変に大声でもかと言って極端に潜めた声でもなく堂々と彼女を紹介した。「彼女はオーバーAAランク第七位衛士‘ニーナ・マーコック’」 その後はニーナが引き継いだ。「この世界で三人目に確認された――‘因果導体’ですよ」◇「くそッくそッくそぉぉおォォォ!」 自らの不甲斐なさに普段口にしないような罵倒が口から出る。速瀬は管制ユニットの壁に何度も拳を叩きつけた。だが強化装備越しの衝撃は自らに何の痛みも返さない。それが妙に腹立たしかった。 いまだ、あの男に並び立たないことなど十分理解している。先程、相手した者が彼と並び立つ資格を持っていることなど理解している。 彼女の中では、さきほど相手に一矢報いたことなど頭の中にはなかった。彼女にのしかかるのは、中隊規模で挑んだにもかかわらず相手を落としきれなかったという結果のみである。それは自らの脆弱さを無常にも教えていた。 だが、その結果を受け止めながらも、速瀬は心の中で慟哭する。 それでも……それでも私は――あいつの隣で戦いたい……! つづくあとがき 因果導体はそれほど多くは出さない予定です。物語のアクセントとして今回のニーナのように少しずつ登場させます。オーバーAAランク全てが因果導体ということではありません。 天照登場は終始、戦闘というものになりました。あまりここまで詳しく戦術機の戦闘を書いたことはなかったので、くどく感じないか心配です。一応、地の分ばかりの堅くならないように、会話ばかりで状況把握が困難にならないようにと自分なりの文のリズムともいうようなものを意識して書いていますが、心配です。ただ、次回は戦闘は(多分)無い予定です。あってもここまで長くはならないでしょう。もうちょっとドタバタ感を意識して書いてみたいと思います。 遂にこの話も次話で30話という数に突入します。30話はヴァルキリーズとニーナの初顔合わせがメインになります。 話し変わりまして、毎度感想たくさんありがとうございます。いつも送ってくれる方々も本当にありがとうございます。何度も読み返させてもらってモチベーションの向上につながっています。ここでお礼を言わせてもらいます。今回の話としてはオリキャラ、ニーナと天照についてどう感じられたのかも教えていただけると幸いです。あとは今回の話で気に入った場面など……ずうずうしいお願いなので、どのような感想でも構いません。送られた感想については全て見させてもらっています。返信も時間が空いたときにやっておきたいとおもいます。 今年はマブラヴが発売されてから10年ですね。さすがにそれだけの時間が経つと、いろいろと変わってしまうもので、この掲示板でも自分が更新していたころと比べ、更新される作品数が減ってしまい、少々残念に思っています。もし、読者の中に理想とされるマブラヴ作品があるのなら、是非ペンを手に取りその物語を見せてください。拙作のアイデアなんかもどうぞご自由に使っていただいて構いません。なにしろ私も偉大な作品を勝手に使わせてもらっている身分です。これからもマブラヴの盛況を祈る者の言葉です。 それでは、これからもどうかよろしくお願いします。おまけ 話に息詰まると人は往々として壊れた話を書いてみたくなるものです(私だけかもしれませんが)。たまにはぶっとんだギャグものを突発的に書きたくなります。もう時系列とか登場キャラとか立場とか無視して。 具体的には↓みたいなのになります。 東日本のとある温泉旅館。ラダビノッド「これは、覗きではない! 軍のPRを目的とした、崇高な任務である!」男性一同「うおおおおおおおおおおおおおおお!」ラダビノッド「かつて無い多国籍軍での作戦になるが、諸君、健闘を祈る!」 しかし――ユウヤ「ちくしょう! 見つかった!」 響き渡るコードレッド。ヴィンセント「やつら、俺たちのこと気づいてたんだ!」 漏れていた情報。レオン「地雷原だ!」(※本作品では人体に極めて安全な地雷を用いています) 女湯への困難な道のり。タケル「なッ! 天照に伊邪那美だと!?」 強固な守り。タケル「ヴァレリオ! ヴァレリオォォォォォ!」ヴァレリオ「あとはたの……んだ……」 倒れ行く仲間たち。ウォーケン「( ゚∀゚)o彡°殿下! 殿下!」 壊れる少佐。ラダビノッド「どうした、応答せよ! 応と――」ユウヤ『ま、待て! 話せばわかッ――<ザザッ>――<ブツッ>――………………』 通信途絶。――ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ――― 司令室のスクリーンを埋め尽くす赤字。沙霧「ダメです! 回線を乗っ取られました!」ラダビノッド「ぬぅぅ! 00Unitかぁ! ぬかったわぁ!」 乗っ取られる作戦本部。女性陣「覚悟はいいな?」紅蓮「こやつが主犯だッ!」タケル「ちょ! そっちだってノリノリだったくせに!?」 差し出される人身御供。 はたして彼らは無事任務を終えることができるのか。 同時公開。柏木「やっぱこういうところに来たらお約束だよねー」茜「うぅ、ホントに言わないとダメ?」彩峰「ダメ……」悠陽「想いを寄せる殿方の話というのは親密さの度合いを測る話題としては普遍的なのでしょうね」イーニァ「おもいをよせる? トノガタ?」クリスカ「好きな男の人と言う意味よ、イーニァ」イルフリーデ「わおっ! これがジャパニーズガールズトークね!」ヘルガ「わ、私は……」ルナ「まあ、ヘルガったらそんなに顔を赤くして……もしかしているのかしら?」アーリャ「……ん(ウトウト)……にゅ(ウトウト)……zzz(コテン)」ニーナ「なぜ、こんなことに……ライバルは減ったと思っていたのに」純夏「よーし、せーので言うんだよ?」冥夜「わ、私はいつでもよいぞ!」タリサ「ちょ、ちょっと待て! あたしはまだ言うとは――」ステラ「あら、タリサ。諦めが悪いわよ。タカムラ中尉は準備できてるみたいよ」唯依「え!?」「「「「せーのっ!」」」」 女性陣のパジャマ(浴衣)パーティー。 オルタッドフェイブル的なノリですね。こっちもテキトーに書いてます。おまけ2 9人いるオーバーAAランクの衛士と搭乗機一覧と補足説明第一位AAA 「AAA」:??? 搭乗機:「???」 唯一のAAAランク持ち。第二位AA++ 「獣遣い」:??? 搭乗機:「???」 指揮連隊総キルスコア世界第一位。第三位AA+ 「ハイヴ落とし」:白銀武 搭乗機:「VFG-TYPE12 伊邪那岐 」 桜花作戦の英雄、XM3発案者。因果導体。2002年以降地球上で行われたハイヴ攻略戦の全てに参加。第四位AA+ 「???」:??? 搭乗機:「VFG-TYPE?? 伊邪那美」 白銀武のエレメント。第五位AA 「孤狼」:??? 搭乗機:「???」 ハイヴ最速攻略記録保持中隊隊長。第六位AA 「???」:??? 搭乗機:「Asura」第七位AA 「千里眼」:ニーナ・マーコック 搭乗機:「VFG-TYPE15天照」 世界No1狙撃手。元英国陸軍近衛師団大尉。鷹の目。千里眼という名は、天照搭乗後についた名。3人目に確認された因果導体。第八位AA- 「SES」:??? 搭乗機:「???」第九位AA- 「???」:??? 搭乗機:「???」