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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”
Name: maeve◆4e73cb56 ID:56336505 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/06/30 17:55
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Side マシュー・K・ジョンソン(国連軍宇宙総軍エドワード基地副司令・少将 オルタネイティヴ第5計画執行責任者)


ニューヨーク―――マンハッタン。
久方ぶりに訪れたこの街は、―――相変わらずだ。
ネイティブ・アメリカンから僅か$24相当で買い取った島の上で、1日に動く金額は計り知れない。
我が国の経済、と言うより世界の経済がここを中心に動いているのは最早厳然たる事実。
特にBETA禍以降の世界情勢から必然的に一極集中した頂点。
およそ59平方kmの島に犇めき空を劈く高層ビル群は、その全てを包含したこの国の豊かさの象徴でもある。
それと同時に過剰なまでに先鋭化された様々な欲望を満たすべく、ありとあらゆる享楽が存在する―――摩天楼の街[メガロポリス]
綺羅びやかな華燭と共に、混沌と退廃と、そして狂気すら孕む歪なエネルギーに満ちた空気が満ちていた。


―――にも拘らず、今の私にはそれら全てが空虚にしか感じられない。


前から観たいと思っていた評判のミュージカルも私の目にはすっかり色褪せ、熱狂する周囲の反応さえ疎ましく思えた。
ブロードウェイストリートの過剰な華やかさを煩わしく感じ、無理を言って予約を割り込ませたミヒュラン三ツ星、そのダック[メインディッシュ]でさえが砂を噛む様―――。
愛飲する[飲み慣れた]カリフォルニアワイン[オーパスワン]で辛うじて流し込む有様。

この巨大都市さえ浸食寸前の砂の孤島・・・寧ろ、切れる寸前の過電流に煌めく電球の様に思えて仕方がない。

此処1ヶ月間の激動・・・街が相変わらずなら、変わり果てたのは私自身―――ということなのだろう。





明日、オルタネイティヴ第4計画からの緊急動議要請による国連安保理非公式協議が、ニューヨーク[この地]にある国連本部で開かれる。
第4計画と同じ国連が推進する予備計画[第5計画]の執行責任者として、我が国の国連大使と共に出席するためにNYに来た。

喧騒を避けるため若干早くエドワーズ基地を発ち、此処の所の憂鬱に沈む気持ちを少しでも高揚させようとニューヨークの前夜を楽しむつもりでいたのだ。
そのHSSTに搭乗する出際にも基地参謀から動議書を渡された。
パラパラ捲れば第4計画の動議に難癖をつけて介入し、ただG弾の使用を推し進める暴案。
未だG弾を妄信し、何の工夫もなくゴリ押しするだけ―――断っても尚も熱く語る参謀に妙に腹が立ち、君は恭順派かねと聞いた途端、相手は忍黙った。
動議書を突っ返しながら、状況も読まず此処まで酷いのかと、米軍に蔓延った蒙昧のあまりの根の深さに辟易。


そして今、米国でも最高のレストランで、最高級のワインを呷りながら、また息を吐く。

ユーラシアを支配したBETAが次に狙うのは、北アメリカ大陸かアフリカ大陸か。
驕りでも何でもなく、米国が陥落すれば確実に人類は即座に終わる。
だが、G弾さえ使えればBETAの殲滅は容易く、問題となるのは事後荒廃するユーラシアに対しての国際調整のみ―――実際、ほんの2周間前までは私自身も先の動議書を持参した基地参謀と何ら変わらなかった。



オルタネイティヴ第5計画は謂わば米軍のG弾ドクトリンを世界規模で体現する国連の予備計画。
その原案は1988年時点で国連に提出されていた。
しかし新型爆弾で国土を荒廃させる可能性を恐れたユーラシアの国家が軒並み抵抗、否決された。
ドイツに落としたことによる核アレルギーが、G弾にも伝染した結果だ。
続けてオルタネイティヴ次期計画としても今の第4計画に遅れをとることとなった。
それでも移住可能なバーナード星の発見を機に、支配層を取り込む移民計画を補完することで予備計画としてゴリ推しし、承認される。
事実上1997年には並行して実動する第5計画として開始され、今に至る。
以来、私が主計画(バビロン作戦)を、副責任者が副計画(Nアーク作戦)を指揮してきた、

本来今日は、ここ[レストラン]に副責任者も居て、明日の会議に臨む対応の最終協議をする予定だった。
にもかかわらず、だ―――最近のニューヨークでトップクラスに予約の取れない三ツ星レストラン、その会談用特別席に独りぼっち。
西海岸に姉妹店を持つオーナーシェフと懇意にしてもらっている誼で、かなり無理を言ってこの席を用意してもらったと言うのに、さながら最重要商談[パワーディナー]をスッポカされた敗残者の様相を呈している。



ほんの1カ月前、国連内部で“年内打ち切り”が囁かれていた第4計画[横浜]は、この土壇場に来て驚くべき変貌を遂げた。
プラチナ・コードの公開、それを為した基盤OS・XM3の発表。
その裏ではXG-70Dの接収を要求してきた。
これは第4計画が目指した00ユニットの完成を意味するのだが、その時の最優先事項はXM3の調査・接収と危険分子の排除である、との急進派の主張を黙認した。
しかし結果的には仕掛けた謀略を尽く喰い破られることとなる。
ユーコンではAFTSの象徴とも言えるF-22EMDを全機撃墜され、同時にXM3の世界頒布が開始されるという軍に携わる者として有り得ない展開となった。
その裏で先走りした急進派の非合法攻撃[Black Ops.]をも完封している。
全てが失敗―――私のところには、その後始末だけが回ってきたのである。

今になって思えば、それらの謀略を黙認していたことが信じられないのだが、当時は第5計画の当面の障害である第4計画が邪魔で邪魔で仕方がなかったのは確かだ。
と言うのもその当時、第5計画や母体である米戦略軍は、10月の末に出回った2通のレポート、その火消しに忙殺されていた。
あと1ヶ月で障害が無くなり、計画が秒読み段階に入る直前での地味な嫌がらせ―――位にしか思っていなかったのだ。


そんな最中、日本帝国で突如発生したBETA新潟侵攻。
総数で30,000に近い、それなりに大きな規模だが、世界中の最前線ではよくある事象の一つに過ぎない。
しかしその規模の侵攻を人的被害無しで殲滅せしめたと言う事実は、正に前代未聞だった。
XM3というOSが戦術機全体を底上げしていることは言うまでもないが、それ以外にも見え隠れする常軌を逸脱した装備の数々―――、此処に至り漸く気付いたのである。
オルタネイティヴ第4計画がBETA諜報を目的に掲げる00ユニットの完成、つまりは鹵獲されたBETA技術の具現化可能性について―――。
無論、その事[鹵獲可能性]自体は以前から予測されていたが、現実に実用化するには少なくとも数年を擁すると見られていたし、様々な諜報でも第4計画が既にBETA技術を鹵獲した、という兆候は皆無だった。
しかし、考えてみれば横浜基地は横浜ハイヴの上に建設されており、その大深度地下には“生きている反応炉”が存在する。
00ユニットさえ完成すれば情報は取り放題という事実。
悪辣且つ極度の秘密主義で鳴る“魔女”・・・00ユニットの完成を宗主国にすら秘匿し、秘密裏に装備を準備していた可能性も拭いきれない。
寧ろその準備が揃ったことで、公開に踏み切ったとも取れるのだ。

勿論それらが所詮戦術レベルなら何をしようが歯牙にもかけない・・・が?
・・・まさか、横浜が発信源といわれ“香月レポート”と称される2通もそのレベル[BETA鹵獲]・・・?


そして、その時覚えた悪寒は数日後現実となった。



“於地球上G弾使用による大規模重力偏向と大規模潮位変動予測”、―――所謂“大海崩”を予測した、通称“香月レポート”。
当初単なるG弾のネガティブキャンペーンと見做されたその論文はしかし、検証すればするほど疑いのない驚愕の事実を突きつけてきた。
このレポートは全世界にばらまかれており、既に米国以外の著名な研究所や知識人は早急にその結論を検証し、明確に肯定・支持した。

そして2周間前のその日、厳密な検証を依頼していた国内の全ての研究所・研究者による最終報告があった。
そこでは検証した誰一人として、このレポートの正確性を否定できなかったのだ。

急遽その中の親しい者から詳細を聞いてみれば、唖然とするしか無かった。
国策とも言える第5計画に迎合しこのレポートが欺瞞だと言い張ることすら困難だと言う。
影響はない、と否定する結果を出そうとすれば、確実に設定の間違いを指摘されることは明白。
最早それは研究者としての資質さえ疑われかねないとか。
しかもその詐称が招く事態はユーラシアや極東の島国だけが被害を被るのとは話が違う。
祖国の、詰まりは自分自身の生活や社会に壊滅的な打撃を与える未来、となれば言わずもがな。
―――そのことを整然と理解させられた結果、辛うじて積極的な肯定はせずとも、否定することは出来ない・・・という事だった。



衝撃的事実[1ST IMPACT]―――。
私は初め混乱し、次いで足元が崩壊する錯覚に囚われ、全身が震える戦慄を覚えた。




どんなに少なく見積もっても、今人類を支える後方国家の2/3、通常高地に作らない農地に至ってはその90%以上を喪失する―――大海崩。
これでは例えBETAが殲滅できても、地球上で生存できる人類は幾許か。
今や既に米国以外では“G弾=人類自決兵器”と見做されるまでになっている。

一般米国民でこそ、政府のマスコミに対する緩和表現要請により、今もこのレポートが言いがかり的なG弾ネガティブキャンペーンと思っている者が多数派だが、米国でも知識層は急速に真実に気付きはじめている。
当然、最終手段としてはG弾使用もやむなし、としていた議会中間派は勿論、G弾使用の積極派さえ翻すように反対派に回りつつある。

未だ嘗て敵軍の上陸さえ許したことの無い米国本土―――、その半分以上を自らの行為で海に沈める悲劇が警告されているのである。
明確な理論に裏付けられた予測が在る以上、もはや使うと言う選択肢は、無い。

そしてそれは、我が軍が掲げる軍事ドクトリンの崩壊だけに止まらない。
―――即ち米国は今後侵攻してくるBETAを水際で殲滅する決定的手段を喪失した、という事実。
何が在っても“米国は大丈夫”という盲信が、粉々に砕け散った。


残された唯一の対抗手段となる戦術機、しかし現在全世界で可能な生産速度に対し、遥かに凌駕して増殖するBETA―――。
人類がじわじわと磨り潰されていくことは明白。
極論でいえば人類に残された道は、G弾による自決か、BETAによる滅亡か―――、その二者択一に他ならないという事を、私自身初めて認識した。




以来、オルタネイティヴ第5計画は混迷を極めている。

私の原隊でもある米戦略軍は、92年に核及びG弾を統括するために創設された部隊で、謂わばG弾ドクトリンの構築者であり、嘗て横浜での使用を強行した張本人で、当然第5計画の母体でもある。
BETAに対する最終的な防衛手段として統合参謀本部でも主流と言えた。
その、G弾信仰とも言うべき絶対的根拠が、たった一編の論文によって崩壊した。
当然内部の混乱も様々で、今朝の参謀に代表される只々未だにG弾に拘泥する者、無為に諦観し無気力なったり失踪した者、或いは未来を見据え早急な対策を求める者と様々であったが、実質的な対策案の模索は杳として進まない。


そして、その反動は図らずも第5計画の副計画に跳ね返っていた。

実は副計画も“バーナード星異説”というBETA汚染を示唆するもう1通のレポートによって、一部の支配層は既に計画から離脱していた。
しかしなぜかキリスト教恭順派の指導者[マスター]はバーナード星は“神の慈悲”と認めた―――そんな話があった。
真偽は不明だったが、実際各国の恭順派とされる支配層は、このNアーク作戦を変わらず支持していたため、寧ろ主計画が停滞した分推進された。
更にこの“G弾=人類自決兵器”による諦観や危機感の増大が生じ、一度は離反した支配層さえが一縷の望みを繋ぐように急激に戻り始めていた。



明日、第4計画が動議として何を提出してくるか―――、ハイヴ攻略作戦であろうというのが参謀本部の最終予測。
しかも安保理決議が必要な程のハイヴはそんなに無い。

対する第5計画は存続を問われた時、何を主張するか?
今の流れに乗り、何れにしても種を保存する “Nアーク作戦”は必須且つ重要と捉え、その展開を主張する方針を固めた。
統合参謀本部判断で今回の動議では、第4計画の提案に依らず、
1:第5計画・主計画は更なる地球環境への影響を見極めるまで無期限保留として存続
2:種の保存を目的に副計画の推進促進を確保する
ことを必達、と決議されていた。






だがこの土壇場、NYに向け出立する今朝の未明、それすらひっくり返った。
衝撃的リーク[2nd IMPACT]はやはり横浜[●●]から発信された。



カリフォルニア時間で早朝と言うかまだ深夜―――横浜で実施されていたXM3トライアルでテロが発生したとの報により叩き起こされた。
一部では第5計画の急進派が秘密裏に蠢いているとの情報もあり警戒はしていた。
そこに飛び込んできた驚愕の映像。
暴動と通信破壊を引き起こし―――その混乱に乗じ、恭順派のNo.2と目され、難民解放戦線[RLF]を率いる執事[バトラー]が単独で第4計画最高責任者を襲撃、その様子が恐らくはリアルタイムで全世界に配信された。
その時語られた内容のインパクトは絶大―――。

キリスト教恭順派の精神的支柱である指導者[マスター]が、実はキリスト教の教義をも蔑ろにし、BETAに組するような鏖殺者[ジェノサイダー]であることを暴露したのである。
難民解放戦線[RLF]が実際に行ったという難民虐殺情報も、一切否定しなかった。


その衝撃は客観的な事実を述べた論文“バーナード星異説”の比ではない。

私自身、猛烈な眩暈を起こし、芯が抜け落ち座り込むほどのショック症状を来した。

世間の反応も過剰と思えるほど激烈で、今日1日を経ずして既に巷で“恭順派”を名乗ることは、“人類総自決扇動者”と見做されるまでになっている。
敬虔なクリスチャンが多く、世相を反映してか恭順主義が一種のブームのように最大勢力になりつつあった分、指導者[マスター]の失墜は一種の社会的なショックを引き起こしていた。
これにより諦念や厭戦から恭順派に依った者さえ一斉に離反し、一方で本来の敬虔な“恭順主義者”は指導者[マスター] との関連を明確に否定し、“原理主義”とか“教条派”といった名称変更をし始めていた。
当然、副計画も“鏖殺者[ジェノサイダー]の罠”というレッテルが貼られている。
何しろ今回は副計画を変わらず支えてきた“恭順派”支持層が真っ先に全て離脱したのだ。
これにより教祖である“指導者[マスター]”がBETAを遣わしたのが“神”であり、神の救済とは鏖殺と等しいことを明確に肯定したことが裏付けされた事になる。
エドワーズを発つ時にはすでに国内外計画賛同者[スポンサー]が一斉に離脱しはじめ、その対応に追われる副責任者は、結局安保理会議に出られる状況ではなくなっていた。

私自身は恭順派ではなく、今回の暴露では本計画に影響がないため安保理優先、予定通り午後には独りニューヨークに着いた。
後にその意図に気がついたのだが・・・。

実は上官である米戦略軍司令官とCIA長官が近しいコトも、そのCIA長官と指導者[マスター]が懇意であることも知っていたし、今回のテロにCIAが何らか関与しているらしきことも薄々察していた。
飛行機の中で何度も記憶を掘り返したが、不思議なことに何時だったのか、何処だったのかも覚えていない。
それでも確かにその二人の紹介で副責任者と共に指導者[マスター]本人に会った記憶がある。
よくよく考えると、一部には国際的なテロ組織を擁しながら難民層のみならず我が国や欧州の支配者層まで取り込む“恭順派”―――、その多大な矛盾を抱えた在り方にさえ今まで何の疑問も持っていなかったことに驚愕しながら・・・。


因みに件の映像は執事[バトラー]が動き出したところで打ち切られ、襲撃の結末は不明。
情報部に入る連絡も未だ“調査中”であり、執事[バトラー]も第4計画最高責任者も“消息不明”とされている。
しかし現段階で国連側に緊急動議の中止連絡はない。
音に聞く老獪な執事[バトラー]をまんまと嵌め、隠し撮りであの言葉を引き出した“横浜の魔女”である。
恐らく明日の会議場には平然と出席してくることだろう。




・・・そもそも―――何時、何処から狂ってしまったのか。

―――そう、違和感はずっと在ったのだ。


衝撃的事実[1st IMPACT]に目が覚めたのか、はっきりと自覚したのは香月レポートを認め、G弾に疑義を覚えてから。
出席した第5計画内部会議のたびに感じたのは、BETAを駆逐する事よりも何故かバビロン作戦の実行そのものを目的とするような発言の多さ。
―――そしてつい最近まで何の疑問も持たず、それに流されていた自分自身にも・・・。

そこに例の衝撃映像[2nd IMPACT]―――。



今、オルタネイティヴ第5計画に残ったものがあろうか―――?
まるで進まない代替案の創出、画策した副計画の継続云々も未明の映像に吹き飛んだ。
表向きBETAの殲滅と種の保全を謳いながら、その実、人類滅亡の先導とも取れる2つの計画を擁する・・・それが今の第5計画なのだ。

これでは明日の非公式協議、話の流れ如何では第5計画の即時中止さえ在り得る状況。
―――まるで13階段を上がるに等しい。


それを象徴するように、このレストランに入った私に届いた[統合参謀本部]の出席者通知とただ一つの指示[オーダー]

“最大限米国に利する決着”―――。


確かに形式的には一国の上位存在である国連計画の執行責任者という立場―――。
決断を委ねられた―――というか、完全に転嫁されたのだ。

当然統合参謀本部にも“恭順派”の情報が入っている。
動議における対応の方向性は打合せ済みだったが、それが根底から覆った。
副計画の促進など言えるわけもない。
今更どうすればこの状況から“利”が取れる、と?
というか、この期に及んで未だナショナリズムを振りかざす最高司令部にも呆れる。

対応に当たるのは米国国連大使と、この期に及んで介入してくるCIAの武官だけ。
第5計画からの追加はない―――詰まりは既に“転嫁”を通り越して“尻尾切り”、要するに全責任を取れというコトであり、その傷を最小限に抑えるための、独り、か。


考えれば考える程、後のない第5計画、先のない人類、そして立つ瀬のない我が身・・・。
正に“敗残兵”―――か。

全てが色を無くし、味気なくなるのも当然だった。














「・・・スター、・・・ミスター。。」


唐突にソムリエから声を掛けられていた事に気づいた。。

かなり強引な予約であったため、隙間を埋めるような時間設定になったのは了承している。
正規の客が来たらしい。
一人で居ながら、嘆息と思索に暮れていたため、まだコースのプレートを2、3、ワインも1/3程残っている。
明日の状況次第では、最後のワインとなるかもしれない。
残したくはなかった。
だが退席、或いは席を換われと言われるのかと思ったら、そこは超高級店、隣を使用して良いかという確認だった。

プラントとブラインドで視線を遮り、二重のエアカーテンで音を遮断するパワーディナー用のスペースに、今はテーブルが2つ。
そこを非正規の一人で使っているのだ。
既にこちらは会合相手が来れない旨伝えてある。
無論キャンセル含め2名分の費用は支払うも、このクラスのレストランともなればお金を払えば良いというものではない。
今の専横は店に対する他の客の信用を損ないかねない。
これ以上迷惑を掛けたら、常連であるカリフォルニアの店からも疎外される。
―――嗚呼、今後その機会があれば・・・、だが。

当然、先方が構わないなら、と承諾した。



やがて現れたのは、純白のカッターシャツに漆黒のジャケットをラフに着こなす長身の男。
チラッと見えた袖口のロゴはアルマーミ。
相貌はまだ若いが、着る者を選ぶだろう服にも全く違和感なく、どこまでも自然な所作。
その姿は普通に見えるのに、時に深淵を覘き込んでいる錯覚に陥る、底知れず奥深い雰囲気を垣間見せる―――。


視線を移して、―――思わず息が止まった。

男がエスコートしてきたのは鮮やかなバイオレットの髪を結いあげた、深く青いイブニングドレスの女。
皴一つなくフィットしたホルターネックのドレスは、首周りから大胆に腰骨までサイドを断ち切られているため、
布を押し上げる暴力的なヴォリュームの円い側面が正面からでも目に入る。
胸の中心にはCの文字を対称に2つ重ねた小さな金のロゴマーク。
見事に縊れた腰から下、右は太腿の半ばまでそのしなやかで優美なヒップラインに完璧にフィットし、そこから広がるマーメードスタイル、左は高い腰の位置まで切れ込むスリット。
最高級の青真珠を彷彿とさせる深い照りと光沢を有する滑らかな風合いの生地は、優美で繊細なグラデーションを醸し、しかし光線の関係で時折ガータータイプの光沢ある白いストッキングを着けたその長い脚線を透かして見せる。
足元はそれを更に際立たせる透明素材の高いピンヒール。
二の腕までぴったり張り付く白のオペラグローブを纏う。
剥き出しの華奢な肩、覆うもの何もない滑らかな背中、歩く度覗かせる腰骨から脚への狭い領域、サイドから零れそうな膨らみ、それらの生肌は生地の色と対照的で、日に当たらない、ぬめるような白さ。
背の高いモデル体型と相まって、そのままニューヨーク・オートクチュールコレクションのランウェイに出てきそうなアバンギャルドで妖艶なドレスと容姿。

だが、超高級メゾンのイブニングに引けを取らない暴虐たる我侭ボディも、余分なアクセサリー[宝石]など必要としない小作りで端正なカメオのような美貌も、―――その全てを凌駕して強烈な存在感を放つのは、勁い意志を湛えて炯々と燿るその双眸―――。


「・・・まさか―――。」

「お食事中失礼しますわ、―――ジョンソン閣下。」

「―――Dr.香月・・・。」


現在公式にはMIA[消息不明]とされるオルタネイティヴ第4計画最高責任者、夕呼・香月がそこにいた。








仕組まれた?

―――だが、私が予約を入れたのは一昨日。
既に予約が入っているところに無理に割り込んだのはこちら。

とすれば単なる偶然―――?

確かにこの場に居てもおかしくはないスケジュールとシチュエーション・・・とはいえ、この広いニューヨーク、星の数ほどある数多のレストランで、ピンポイントで遭遇する確率など何という奇禍・・・。

相手は、第5計画を此処まで追い込んだ張本人である。
第4計画にとっては敵地とも言えるこの地で、連れ以外の護衛もなしに最高級とはいえ市井のレストランに出向く豪胆さ。
尤もここで激昂するのは只の八つ当たり、そう・・・、不思議と怒りは覚えない。

―――寧ろ、僥倖・・・?


話し掛ける間もなく隣のテーブルに1皿目のプレートと、ワイングラスが運ばれてくる。
ソムリエが男に確認させるボトルを見て、目を剥き、思わず声が出てしまった。


「ソレはッ!!、この店のワインリストに在ったのか!?」

「お構いなく、閣下―――これは、当方の持ち込みですわ。
そう言えば彼方、カリフォルニアワインは初めてね。
此方の料理に釣り合うの?」


問われた男は何も言わずソムリエを促す。


「・・・御心配には及びません、MIS.
Mr.より持ち込むワインを事前にお送り戴きましたので、オーナー指示の元、グリルではそれに合わせた特別な仕事[●●●●●]を準備させて戴いております。」

「・・・素材は基本米国産天然モノ、カリフォルニアワインの方が合わせ易いだろうからな。
テイスティング用も送っておいた。」


素材が、合うのなど―――、あたりまえだ。
―――と、言うか持ち込み!?
しかも、料理を合わせるためにテイスティング用含め事前に送っただとッ!?
そんなに前からの予約では、先の疑問も偶然としか思えないが、いまはそんなことどうでもいい。

何しろ出てきたワインはカリフォルニア・カルトワインの最高峰と言っていい銘柄―――スクリーミング・イーグル、1995年物の、“白”だ。
カリフォルニアでも比較的新しいこの銘柄[ワイナリー]、ファーストヴィンテージは1992年物であるが、それは赤に限る。
白が初めて出荷されたのは1995年、つまり白としてのファーストヴィンテージ。
元々白は蔵出し出荷時の値段こそカベルネの赤より安いが、その生産量は僅かに30~50ケースで赤の1/20程度しかないはず。
極少ワインゆえ既に殆どが消費され幻と化している。
一般の知名度こそまだそこまで高くないのに、マニアの間では既に争奪戦が激化しており、流通価格は赤の最近のビンテージですらもうすぐ10,000ドルに届く。
今、“白”の ファーストヴィンテージが出たらオークションで幾らになるのか、想像もつかない。
私ですら実物を見たのも初めて―――。

ソムリエが優雅に抜栓すると、それなりに年経た“白”だというのにそれだけで薫りが立った。
ワインを十分落ち着かせるために事前に送り、保存状態も完璧、というコトか。

形式通りのコルクの確認と試飲。

軽く頷くこの男―――彼方とは“漆黒の殲滅者[ダーク・アニヒレーター]”、彼方・御子神!


「わたくしもソムリエとして、得難き貴重な経験をさせて戴きました。
感謝いたします。」


サーブをしながらソムリエが言う。


「・・・そうなの?」

「・・・欧州ワインが絶滅した今、他に比べて相対的にカリフォルニアワインの価値が上がっている。
中でも、これはカルトワインの最高峰―――その名の通り女史[マニア]が拘り抜いて、半ば自分のために採算度外で作ったモノ。
著名なテイスターが過去の欧州産と比べても軒並み高得点を付けた出色のワイン。
極小の奇跡的テロワールで、更に面積当たりの収穫量を絞りに絞っているから凝集度が異様に高く、反面生産量が極端に少ない。
出荷価格は決まっているけど生産者とその周辺で消費するから、まず流通には乗らない。
女史と親交のあった先代でも白は1ケースしかゲット出来てない。」


プレートのセット、そしてワインのサーブも終わる。


「ふーん・・・。
そんなに稀少なら、折角だから閣下にもご相伴戴いたら?」


なん・・・だとッ!?


「・・・こう言ってますが宜しければ、少将[General]。」

「う、Um―――。」


例え相手が昨日の仇で明日の敵だろうと、ワイン通を自負する私がここで断るなんて有り得ない。





追加のグラスに淡い琥珀色の液体を満たし、一礼してソムリエが去る。


「では・・・そうね、人類の夜明けに[For Human Beings’Dawn]―――。」


Dr.の言葉に、軽くグラスを掲げた。





馥郁なる薫り、これほどまで凝縮されながら、何処までも切れを失わない鋭利な飲み口・・・。

―――それは・・・。

全てが虚しくなっていた私の味覚までに深い穴を穿つ、天上の一滴―――。




どのくらい時間が経たか記憶にない。

隣のテーブルは既に3つ目のプレートであるサラダが供されている。
ソムリエは極力会話に触れぬよう、この席にはワインの注ぎに来ない。
2人は料理の評価など軽い会話をしながらも、此方の空いたグラスには、御子神大佐が手ずから注いでくれる。
色を喪った世界で、そこだけ揺れる黄金色の液面を眺めるともなく眺める。


「―――Dr.・・・。」

「・・・何かしら?」

「・・・明日は対立することになるやもしれんが、ここでは素直に感謝を述べておこう―――ありがとう。」

「あら、そんなにこのワインがお気に召して?」

「ワインも無論言い表せないほど素晴らしいが・・・そうではない。
―――貴女のレポートが無ければ、地球に残されたこの貴重なワインを生む奇跡の土地さえ自らの手で海に没め、2度と作れなくするところだったのだな・・・。」

「・・・・・・。」

「今更なのは判っているし、貴国が甚大な人命と共に掛け替えのない数多の文化を奪われてきたことも承知はしている。
―――それでも尚、自らのことに置き換えねば、理解は出来ないとはな・・・。」


軍人として、BETA駆逐の為にユーラシアを潰したという悪名を残すことは気にもしていなかったが、考えてみれば無知故の人類の自決という取り返しのつかない銃爪を引かずに済んだのだ。
それには、敵・・・否、競争相手としても感謝して然るべきだろう。


「―――受け取りますわ。」


楚々と食事をしながら、嫣然と微笑む“魔女”。

そう―――。
自決を選ぶ道はない。
米軍は、この大地とそこに住む米国民を護るために存在する。
そして国連の計画は、BETAの殲滅を目指すもので、自滅を招くものであって良いはずがない。

それこそが、“最大限米国に利する決着”・・・そう決意しつつ珠玉を湛えたグラスを呷った。








この店のメニューはデザートまで入れれば9プレート。
一皿ごとの量を個人にまで合わせ調整してくれるので、1つ1つは軽く、テンポよく供される。
アラカルトはなく、基本プレート数の異なる2コースだけで、メニューそのものは似た感じだったが、流石に味確認用の希少ワインまで送られた特別なプレート、それを意識して素材や味付けが更に吟味されているのが素人目にも見て取れた。


「それで?、明日はどういった仕手で行くの?」


私が居る此処で、平然とDr.がそう口にしたのはプレート4がセットされた後。


「さァ? 出たとこ勝負なんだろう?
まあ、ちょうどここに最大の攻略対象が居るんだから直接聞いてみれば?
どうせ明日には見せるんだし。」

「―――それもそうね。
閣下―――。」

「・・・何かな?」

「凍結と接収と協力―――どれが宜しいかしら?」

「―――は?」


唐突―――とはいえ、その意味はすぐわかる。
凍結・接収か・・・どれも第5計画の事だろう。

主計画は、既に私自身にも実行する意思はなく、謂わば死に体。
副計画も、未だ頑なに固執する副司令が居るが、スポンサーにさえ見限られた今、先はない。

だが、何も残らない第5計画―――何のために接収する?


G弾[アレ]が欲しいので・・・。」


疑問を口にするまでもなく、接がれた言葉。
・・・ああそうか、と思い当たる。
既に提供されたXG-70に搭載されるML機関は大喰らい。
以前も先走った襲撃[海兵隊]の尻拭いに、秘蔵していたG弾の弾頭を提出した苦渋の記憶もある。
今となってはどうせ使えないもの、惜しくもない。
しかし・・・やはり大量にG-11[グレイ・イレブン]を必要とする作戦を提起する、というコトか。


「実のところ、私自身の決心は付いている―――霧が晴れた気分なのだよ。
しかし・・・、米軍という括りで見た場合、凍結や接収は抵抗が大きいだろう。」


第5計画は脇に置いても、所詮尊大な米軍のこと、穏健派の者にも自負やら面子やらプライドやら、面倒なモノがたくさんある。
国連軍も他の方面軍と異なり国連宇宙総軍は米国人比率が異様に高い。


「やっぱりね・・・、では協力、という形で第3国へのG-11[燃料]供与やG弾[アレ]の発射は可能?」

「・・・ちょっと待て―――何を言っているのだ?」


すっ、と彼が無言で眼鏡の様なデバイスを渡してくる。
促されて掛けてみれば、携帯式の網膜投影装置だと解った。
確かに網膜投影なら記憶にしか残らないし周囲にも見られない。
目の前に広がるのは数字の羅列。


「―――なんだこれは?」

「明日非公開会合で提示するG-コア[リアクター]・・・Amazing5[噂の機体]に搭載されたエンジン[心臓部]・・・ですわ。」

「!!―――Mw・・・。」


記載されたスペックは正に規格外。
出力はともかく、サイズとその燃費はML機関などと雲泥の差。
その出力だって、戦術機のリアクターとしては破格。
しかしこれが真実ならば、Amazing5[]の性能も納得できる。

―――これがBETA技術を鹵獲した横浜の力かッ!


横浜[アタシ達]は、これを使ってH-1[原巣]を殲滅します。
でもそれ以降、各地のハイヴ[]は基本当事国に任せるつもり。
実際今の我が国にそんな余力はありませんわ。
代わりに、G-コア[ジェネレータ]を配布したいのです。」

「!!・・・・・・。」

「原材料ストックの関係で、作れる数は468基のみ。
それ以上は向こう10年作れませんし・・・今のところそれ以上作る必要性も感じない。
勿論米国にも渡す予定ですわ。」


網膜に投影される資料を進めると国名と配布数の原案記載もあった。
最高機密に当たる超技術の配布・・・最初は信じられなかったが、やがて納得もした。
今の日本帝国にこの技術をずっと独占するだけの“力”はない。
XM3と同じ、独占したら日本帝国は全世界を敵に回し、結果的に立ち行かなくなるのは必至。
当然我が国だって柔硬表裏取り混ぜて、全力で獲りに行く。
建前は国連管理の配布、実際は相互監視による手間の削減とリスク回避、そして今回の動議における“対価”・・・か。
しかもその燃料は、極めて優れた燃費だとしてもG-11[グレイ・イレブン]―――。
今後G弾凋落により暴落したG-11[グレイ・イレブン]の争奪戦が再激化することも、また必定。
それは我が国も同じ。

ここに至って、この性能を受け取らない道はない。
戦術機を独自に開発するにしてもBETA鹵獲技術はすぐに模倣できるわけもなくサンプルが要る。
半面この技術の分配を望む以上、逆にG-11[グレイ・イレブン]の独占も事実上不可能になる。
しかも―――確かにこの性能ならハイヴ攻略の可能性は高い。
第4計画が昨日のトライアルで示した攻略戦術が俄かに真実味を増す。


だが、しかし―――。


「―――成程、ハイヴ[][]侵攻戦術は完成している様だが・・・開口門[入口] まで[●●]はどうするのだ?」


米軍とで現行装備によるH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略戦術の検討していないわけではない。
それこそ各所各部隊で実施していると言っても良い。
あらゆる想定でシミュレーションを繰り返しているのだ。
明確なことは、H-1[オリジナル・ハイヴ]の物量は何もその膨大な体積に限らないと言うこと。
広大な大地に無数に存在する光線族種―――その集中砲火を搔い潜り、如何に有利な開口門に到達するか。
実はそれこそが戦術機によるH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略の最初で最大の難関とも言える。

XM3は、確かに局地戦における光線級吶喊を可能にした。
数体の光線族種ならその3次元機動で躱すこともできるだろう。
しかし、数十体、数百体の光線族種に高空で狙われたらそれも叶わない。

H-1の場合それが可能なのは、重金属雲を十分に堆積させた後、G弾の集中運用で地表のBETAを殲滅させた時のみ―――、次の湧出まで約10分間クリアになる。。
無論地上BETAの掃討と反応炉破壊は別プロセスは必要となり、更にG弾の連続使用で反応炉が在る深度まで穴を穿つか、或いは大深度地下まで掘り進むバンカーバスターにG弾頭につけて地下で爆発させるかの何れか。
前者を実行するにはG-11[グレイ・イレブン]が不足しており計画当初は辺縁部ハイヴの攻略によるG-11[グレイ・イレブン]接収で増やす計画だったが、バンカーバスターの進化により、現状手持ちの弾頭数で破壊可能との試算が出ていた。、

軌道降下では第4計画が接収したXG-70が予定通りの性能を十全に発揮できたとしても、その出力から防げるレーザー照射は、恐らく数十体程度までであり、守れる範囲は最大2中隊から1大隊が限度。
つまり、受ける照射を突破できる範囲に散らすには、大規模な・・・それこそ世界を巻き込む陽動作戦が必要―――。


「それを協力頂きたいのですわ。」


―――そういうコトか・・・。

G弾が使えない今、バンカーバスターの代わりはXG-70に守られた第4計画がやるから、G弾集中運用の代わりを人命で贖え・・・と。

再突入による軌道降下。
国連宇宙軍と米宇宙軍が合同で当たるしかない。
H-1を対象にした場合、その生存率予測は―――5%以下だったはず・・・。
正直第5計画[私の一存]で決めることではないが、現状G-11を保有し今後の取得に影響する以上、無関係では居られない。

確かにそれだけの犠牲を支払えば、例え突入部隊でなくとも、H-1[オリジナル・ハイヴ]で接収されるG元素の配分を主張することは可能。
とは言え、示された期日は1ヵ月もない。
・・・無理、だ。
余りに性急すぎる。


「・・・我が国にはそこまで急がなければならない、差し迫った理由がない。」

「理由はありますわ―――。」

「・・・・・・。」

「来る12月16日、太平洋方面軍第11軍[ウチ]日本帝国軍[当事者]H-21侵攻作戦[鳴神]を決行します。
実は新潟への旅団級侵攻[この前の事変]的中[●●]した00ユニット[秘密兵器]が年明けに大侵攻[オオコト]があることを予測しました。
実際 H-21[]BETA数[存在数]は年明けに30万に達すると推定・・・飽和状態なのですわ。
そして奴らが目指すのは、―――横浜[地元]。」

「―――だから先んじて叩く・・・か」

「島嶼である H-21[かの巣]光線級[目玉]の被害を受けずに接近できます。
大規模支援無くも十分攻略可能―――。」

「・・・・・・。」

「但し、別の問題がありまして・・・。
00ユニット[秘密兵器]による調査の結果、ハイヴ[]の支配構造は従来言われていた“ピラミッド型”ではなく、H-1[オリジナル]を頂点とした“箒型”であることが判明していますの。
各地の情報は中央で一括処理、状況に対する対応は約2種間で全てのハイヴ[]に戻される・・・。
今回H-21[]を攻略することで、反応炉[]殲滅までの全ての戦術がH-1[オリジナル]に伝われば、19日以内に全世界で対処される。
―――人類の戦術を対策されないためには、対処される前に頂点であるH-1[オリジナル]を破壊する必要がありますわ。」


H-21攻略―――これは方面軍と当事国による地域戦だから、確かに安保理の議決を必要としない。
そこに一国の存亡に関わる差し迫った危機が在る以上、否応は無い。
結果的に影響が全世界規模に繋がるからと言って、今から国連憲章を変更し国際決議をすることも手続き的に無理。


「・・・日本帝国[お国]の都合に過ぎん状況に、世界を巻き込む、と?」

日本帝国[我が国]が占拠されたら、太平洋侵攻[]へのドアが開きます。」


・・・確かに状況は一気に切迫する。
G弾が使えない以上、防波堤は必須・・・。
しかし、H-1[オリジナル・ハイヴ]ともなれば人類の総力戦になるのは必至。
しかも、その損耗は最低でも半分―――軌道降下部隊に至っては7割以上持って行かれる。
今の人類に同じ規模の総力戦を再度仕掛ける体力はないのだ。
その乾坤一擲を、この時期に?
・・・最終的には賛同せざるを得ない・・・か?
しかし・・・その際の我が国民の犠牲は・・・。


「―――我が国には、拒否権[NO]がある。」

「・・・全世界規模の賛同が得られないのでしたら、方面軍[ウチ]当事国[関係者]のみで実行するだけです。」


ブラフを仕掛けても、涼しい顔。
その瞳には揺ぎ無い決意と意志。
統一中華とソビエト・・・成程G-コア関連の供与をちらつかせれば、あの2国なら簡単に釣れる。



・・・斯様の状況を、我が国は容認できない―――、か。

ハイヴはユーラシアにしかないのだ。
佐渡が本当に攻略できれば、今回の決議が否認されても統一中華や大東亜諸国と結託してH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略を狙う。

全世界規模の陽動や宇宙軍の支援なしに?


―――この態度、この自信・・・。
勝算が在るという、ブラフともとれる。
だが、もし本当にH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略が成功したら、何もしていない我が国にG元素の分配は無い。
それどころか、以降中国、ソビエト、EUと全てのハイヴ攻略に我が国は絡めなくなる。





プレート5のダックとカリフォルニア産和牛種のローストが運ばれてくる。
共にソムリエが新たなグラスとワインを持参してきた。
丁度、白のボトルは空いたところだ。
彼がシェフへの称賛を伝言してくれるよう話している。
何度か嘆声を挙げたDr.の反応を見るに料理とのマリアージュも完璧だったのだろう。
そこまでは望むべくもないが、ワインマニアとしてはこの単体だけでも夢のような僥倖と言える。

そして、これだけの“白”を用意したのだ。
肉に合わせた“赤”は、当然のようにスクリーミング・イーグル、1992年物だった。
初ヴィンテージでパーカーポイント99が付き、この新興ワイナリーを一気に世に知らしめた出世作。
ソムリエテストを終えたところで小首を傾げたソムリエに、彼が頷いたため、私のグラスも替えられた。



芳醇―――薫香そのものを凝縮したかのような液体に、濃香が鼻腔を抜ける。。
それが舌に触れた瞬間、じわりと滲み染み透る。


陶然―――。

白が天なら、赤は地―――か。

奇跡のテロワールが生む、その一献。


だが・・・そうだな。

天の雫も、地の恵も、それを抽き出すのは何時だって人の技―――。



「・・・・・・世界規模の協力があれば、確実に―――、墜とせるのだな?」

「―――問題なく。」


米国に・・・、こうして未だ平和な世界で享楽も望むままに居ると見えないものもある。
日本帝国を含め、BETAに蚕食される当事国には既に後が無い。
そこに僅かでも可能性があれば、迷うことなく実施するだろう。
ギリギリの覚悟を携える者に対し、後方国家の大多数の国民は今の平和が明日も続くものだと無意識に信じている。
そんな安定はもう既にどこにもないのに―――。
ここで血を贖わず、妄信する“自国の利”だけに執っすれば、[未来]は無い。


「・・・良い邂逅となれたようですわ。」

「・・・ああ、肚を決めねばならぬようだ。
―――ひとつ、いやふたつ程、訊きたいことがある。」

「・・・。」

「先に貴女はG-11[イレブン]の供与と、―――G弾[アレ]の発射と言ったが・・・それは?」

「言葉の通りですわ。」

「なッ!?、G弾[アレ]人類自決兵器[吊られたロープ]だと―――。」

「こちらをご覧ください。」


網膜投影に新たな資料が追加された。


「え・・・ Resonant-G弾[]?、―――ッッ!! これはッ!!」

「現在のG弾[アレ]に一部の改造を施すことで、広範囲のBETA[対象]の感覚器を破壊できることが判りました。
このRes-G弾[]地上500kmで爆発[HAGE]させれば、一切の地殻の重力異常[悪影響]を招くことなく、爆心[中心]から半径約840km内の地表に存在する全てのBETA[対象]完全無力[鎮静]化します。」

「・・・・・・。」


暫し思考が停止―――理解が追い付かない。




思い返せば確かに明星作戦の折、ハイヴ内で原因不明のBETA無力化が確認され、G弾の特殊効果として期待されたが、その後の小規模実験ではどうしても確認が取れず、未確認のまま放置されたと聞く。
それを・・・Resonant―――共鳴させることで効果を顕すというのかッ!
確かに第4計画の核はBETA諜報、00ユニットはその為の手段。
鹵獲したBETA情報にそのヒントが在ったというコトなのかッ!?。

だが、これは―――。


「・・・実戦証明[確認]は?」


網膜投影に動画が映る。


マイクロG弾[ミニチュア]ではこの通り―――HAGEによる大規模実証は、H-21[]で実施予定。
実際第4計画[ウチ]が所持する Res-G弾[]は試作したその1発のみ。
実戦の運用は多数のG弾[アレ]を所持し、且つユーラシア全土に向けて発射[デリバリ]できるのは貴国のみですわ。」

「―――そういうコトか・・・。」


気付けば、この魔女は支援が大規模軌道降下であるとは一度も言っていない。
これだけの装備、これだけの戦略を構築したのだ。
今の状況下、持って行き方次第では、本気で第5計画を接収し全てを第4計画の手柄にすることも可能だろう。
但し、当然弾頭を運ぶICBMは作成・運用含めて当然我が国の独壇場、帝国にその設備は無い。
数多の軋轢を抱えて自ら運用する事より、相手に花を持たせても委ねることを選んだ、という事か。


にしても―――完全に、して遣られた。


確かに、こんな超弩級の隠し玉[秘密兵器]があるなら、あのハイヴ潜攻能力を有する第4計画[オルタネイティヴ4]と当事国だけでも事は済む。
その時に得られるG-11[グレイ・イレブン]をサイクルすれば、時間は掛かるが個別にハイヴを攻略していける。
その攻略戦術を真似しようにも、Res-G弾の構造もハイヴ潜行戦術も、今は全てを第4計画が握る。
動議を明日に控え、第5計画にそれを覆す術はない。


そして、この出会いが狙いすました故意か、全くの偶然か定かではないが、外野や利害関係者がわんさか居る明日の非公式協議の場ではなく、さしで話せるこの場で切り出した。
重大性からも検討すべき項目の多さからも本来短時間で纏まるような内容ではない。
日程や、G-11[グレイ・イレブン]の分配方法や比率・・・各国の利害が対立する要素は無数にある。
ただし最終的にH-1[オリジナル・ハイヴ]攻略に繋がるのであれば、動議そのものに他の理事国の否応は無い。
その上でG-コアもXM3と同じく分配するといえば、諸手を上げて歓迎する。
作戦執行のみ即時議決、攻略以降の配分や時期は継続議論、という決着が妥当であろう。
結局、第4計画にとっての懸案は、第5計画ひいては我が国との関係性に、どの選択をするか、ということに尽きる。
だからこそ、米国の覚悟を問われた。
もし、決断をしなければこの切り札を隠したまま、明日の会議を迎えたことだろう。


しかし・・・Res-G弾―――。

この発想が第5計画から出てこなかったのが返す返すも悔しいが、HAGEの実戦証明が為されれば、本気で地球上のハイヴ殲滅に目途が立つ。
先に魔女が口にした人類の夜明け[Human Beings’ Dawn]は皮肉でも揶揄でもなかった。
当然月面や火星の奪還も夢ではなくなり、人類の勝利に大きく寄与する。
そしてG-コアは宇宙空間の機動にも関わり、新たなドクトリンの方向性さえ見えてくる。


―――最早この話を蹴る選択肢は無い。
第4計画、ひいては日本帝国との関係修復は必須とはいえ、第4計画が複数のG弾を持たない現在、受けておけば、我が国はハイヴ攻略における主導的な立場を辛うじて維持できるのだから。
一部の急進派とCIAが私にも知らせず怪しい動きをしているが、ここは妥協すべきだろう。


「最後のひとつ・・・貴女は何故こんな提案を?
これだけの“成果”をもってすれば、接収しないまでも強制的に協力させることもできたはず。」

「・・・米国内にも第4計画[我々]の支持者は多数おりますわ。
そして何れにも属さない中間層や、そのことすら知らない多くの一般人も―――。
対立して、その全てを敵に回すより、自主的に協力戴いたほうが最大効率が良い・・・それだけです。
第4計画[我々]の最終目的は、飽くまで“持続可能な人類の未来”ですから。」


・・・それは、敵はBETAだけではないということ。
鏖殺者[ジェノサイダー]も、人類を総自決に追い込むG弾の運用方法もその定義で言えば敵である。
しかし逆に、米国民もまた未来を有する人類だという意味でもある。
その為に使えるモノは何でも使うのだろう。
悪名さえ微塵も厭わず、狡猾に、暴虐に、傲慢に―――。


「・・・明日の動議、どう言う決着になるかわからないが、少なくとも第5計画主計画[●●●]は協力させて貰おう。」

「あら、主計画だけですの?」

「・・・副計画の一部[不穏分子]ラングレー[CIA]までは目が届かないのでね。」

「・・・ご忠告痛み入りますわ。」


“強欲の魔女”の皮を被った、“孤高の聖女” ―――か。
前回の国連演説ではこしゃまくれた詐欺師にしか見えなかったが、さしで話してみれば、確かに稀代の女傑。
賭けるのは、面白いかも知れんな。

そう思いながら、私はグラスに残る芳醇な液体を呷った。


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