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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/05/06 12:05
'12,11,27 upload  ※vs無限はもう少しお待ちを^^;
'12,12,15 表現修正
'15,01,24 大幅改稿(pcTEに準拠)
'15,05,31 社名微修正
'15,06,12 誤字修正
'16,05,06 タイトル修正



Side イェージー・サンダーク


「紅の姉妹を渡すだとっ!?
突然自壊作用の観察被験体から戻したと思えば今度は譲渡?
よ、漸く、漸く使い物に成るまで戻したのだぞ!
それを、いきなり全開プラーフカなどッ!」

「―――どの道あの者達はもう使いものに為らんだろう。
全開プラーフカを使ってすら3分で撃墜された。
自爆覚悟の開放だ、数値は最高値に近いはず。
-――それが手もなく墜とされた。
ベリャーエフ、貴様は、その意味が判っているのか?

それほどの差なのだよ、XM3は・・・。」

「!・・・。」

「我々は“衛士”の質を高めた。
しかし応答する“戦術機”のI/Oは旧来のまま―――その差がこれだ。
恐らく今回のプラーフカであの者たちが見た未来は、自分たちが墜とされる未来しか無かったのだ。
怯えて回避して回避して、それでも撃墜された。
ハイネマン氏によれば、 XM3[アレ]は戦術機の世代を、ほぼ1世代引き上げてしまうOS、だそうだ。
第3世代機と第4世代機には、ΠЗ計画でも届かぬ差があると言うこと。
今あの者達を渡さねば、我が国以外の戦術機は全て1世代、段階を上がる。
・・・そうなったらソ連に未来はあるのかね?」

「・・・くッ!」

「既に同志ロゴフスキー大佐にも承認は取ってある。
XM3さえあれば、今全軍が有する戦術機が一気にレベルアップ出来るのだ。
しかも、彼らは戦術機に依るハイヴ攻略の可能性すら示してみせた。
ロゴフスキー大佐のみならず、方面軍司令直々に何を犠牲にしても手に入れろとの命令だ。
現在の危機敵状況を鑑みれば、XM3を手に入れる、その効果は計り知れないのだよ。」

「・・・そ、それは、ΠЗ計画がもう必要ないということか?」

「―――逆だ。
戦術機の全体レベルが上がるからこそ、更に突出した戦力が必要となる。
残念ながら我が邦がXM3を独占しているわけではないのだ。
―――それにどうやら第4計画は、BETA技術の一部鹵獲に成功しているらしい・・・。」

「!! BETA技術の?」

「確約は無かったが、いずれプロミネンスがその受け皿になろう。
あのBETAに齧られた島国には、現状これ以上の戦術機開発や、他国に戦術機を供与できるだけの余力はない。
その対価だ。
壊れかけた人形など呉れてやれば良い。
シェスチナは少々残念だが、ビャーチェノワ以外マーティカ[クローン]にさえ相性が悪く、融合率が上がらないのでは、もはや使えない。
そのビャーチェノワは逆にシェスチナとの融合率の高さ故廃棄処分を延期してきたが、継続時間が短く不安定では、また大事な局面で失敗する。
―――アルゴスとの評価試験のようにな。
居ても再び自壊作用の観察被験体程度にしかならん。

―――次の素体は確保出来ていると言ったな?」

「あ、ああ。
スィミィ・シェスチナ―――700番目[スィミソートゥ]だ。
し、出現率はやはり1/100程度だった。
だ、だが、“白き結晶”が複製限界に達したぞ。」

「なに?」

「も、元は細胞で、分裂を利用し複製していたのだ。
クローンといえ限界がある。
て、強引に伸ばしてきたテロメアが遂に切れ、アポトーシスに至った。
その中で、こ、この1体だけ第6世代が発現した。
最高の素体[トリースタ]には僅かに劣るが、イーニァ・シェスチナより突出した値を記録している」

「・・・そちらを早急に用意しろ。
ああ、それから、今話に出たトリースタには、決して手を出すな。
貴様は名指しで釘を刺されたぞ。
今の段階で、第4計画の不興を買うことは絶対に避けろ。」

「あ、ああ、わかった。
び、ビャーチェノワの、指向性蛋白[ABS]は、どうする?」

「・・・人格が戻るかどうかすら微妙なところだが、直ぐに細胞崩壊すれば怪しまれる。
投与を多めにして20日も保たせればいい。
その情報について心理ブロックをかけて忘れさせろ。」

「わ、わかった。」


ベリャーエフが退出すると先の映像を見返す。


あの“テロ”を生き抜いた篁中尉の技量が並々ならないことも理解している。
だが、それ以上に“XM3”を換装したType-00の示す機動は、今までのどんな戦術機とも一線を画していた。
そう、第4計画より齎された映像と同じ、全く澱みも繋ぎもない流れるような動作。
単なる空中移動ではなく、3次元の複雑な動きを実現する機動。

いくらパワーと機動性に優れたSu-47とて、攻撃が当たらなければ意味はない。
異次元の機動を見せるType-00に翻弄され、連撃に怯え体勢を崩し、機体の反応すら許さない斬撃に大破判定を受け、くずおれた。

勿論、Su-47ひいてはΠЗ計画が敗れたことはショックだが、それ以上に、これだけの動きを可能とするOSが手に入ることに期待する。
当然Su-47の機動も更に進化する。

もし、本当に米軍のドクトリンが崩せるというなら、代わりに遣ってもらうのも損ではない。
研究の優位性は示せないが、目的を達することが出来るなら拘泥する気はない。
今の戦術機開発方向は転換されるかも知れないが、その手段を得るためにもこのOSは絶対必要なもの。


―――ΠЗ計画。
“白き結晶”も限界となった・・・、か。

発現した受精卵を時間を掛け、育て、鍛えてきたがもう潮時なのだろう。
一番の成功例であったあの者達ですら先日のテロ以来、同調が上手くいかない。
身体は回復したが、一度は限界を大幅に超えた運用をしたのだ。
神経としては既にボロボロでもおかしくない。
あの一回で絶命には至らなかったものの、寧ろ今のレベルで収まっていることが奇跡、もう無理も無いのかも知れない。

そして人工発現体は生まれつきテロメアが短い。
低い発現率、長い育成期間、不安定な能力に、短い運用期間。
結果一瞬の強者には成れても、その支配は続かない。
ベリャーエフは繭化することで運用期間を延ばそうとしているがそれも懐疑的。
最後の素体も目処が付いた。
700番目[スィミソートゥ]が搭載されれば、終了だろう。

ビャーチェノワについては、ハイネマン氏に頼まれていたイベント[●●●●]も流れた。
あの者・・・最高の触媒を誘致したかったのも確かだが、肝心の素体の方が先に限界に来てしまった。


欠片が日本や米国に流れたところで、今更惜しむような成果でもない。
何より“白き結晶”は既に無い。
これで、安定確実なXM3が手に入るなら安いものだった。






ノックに答えると、見知った顔が入ってくる。


「同志、サンダーク大尉。」

「ゼレノフ曹長か。何の報告だ?」

「―――今朝方、念の為に配置していた “アサー[スズメバチ]”が消されました。」

「・・・なんだと?」

「定時になっても何の連絡も無いため潜伏地点に行ったところ、偽装ブッシュの中でスコープ毎目玉を撃ちぬかれてましてね。」

「・・・相手も狙撃、と言うことか。」

「簡単に言えばそうなんですが、問題はその距離、ですわ。」

「距離?」

「・・・検証しましたが、推定狙撃位置まで、2,700m――。」

「2,700?―――それは、可能なのか?」

「・・・使われた弾丸は恐らくChey-Tec408―――。
えらくマイナーですが世界一の精度を持つとも言われる狙撃弾ですな。
最大有効射程は2,500mとも言われてますが、実際はいいとこ2,000m程度。
それでも338Lapuaや50BMG等に比べれば、破格です。」

「・・・。」

「・・・ですがチャチなもんじゃねえのはスナイパーの方です。
当然2,700mは、物理的限界を完全に超えた狙撃。
しかもその距離で、スコープをワンショットでぶち抜いた。

どれほど優秀なスナイパー、例え伝説のGだって物理的限界を超えた精密狙撃など不可能。
なにしろ弾丸は旋転[ジャイロ]運動が無くなった瞬間、ランダムに回転し始めて、直進しなくなるんですから。

その超限界狙撃をあっさり行う化物が潜んでるってことだ。」


2,700m―――。
この距離で狙われたら防ぎ様がない。
しかもアンブッシュして狙撃体勢に入っているスナイパーを的確に補足している。


「“彼女”を狙った時でさえ900m、それでもウチの隊でのTOP Mechanicです、いえ・・・でした。
・・・対応はどうします?」

「―――何も、するな。」

「は?」

「何もするなと言った。
これは、“報復”と“示威” だ。
―――恐らく、実行意思の有無に拘らず、“対象”をスコープに捉えた瞬間、みな同じ目に合うと思え。」

「・・・そんな怖ェのが居るんですか?」

「その目で化物の腕を確かめたのは貴様だろう? ―――2,700mの距離を。」

「・・・そうでした。」



――成程。

超高レベルの軍事機密を供与など、何も考えていない天才[バカ]かと思ったが、この魔境に全くの無防備で入ってきたお姫様とは違い、とても一筋縄では行かぬ様だ。

スペツナズ相手に、その斜め上を行くか。
いつでも撃ち抜ける、という示唆。
2,700mと言う数字を示されては、対抗する意志さえ封じられる。


BETA相手なら幾らでも協力するが、敵対した途端ロジックボムでOSが初期化されることも有り得る―――、と言う事だろう。
実際米国とて、旧OSを使用している限り避け得ぬアクティブステルスを有していた事だ。
ハイネマンはずっとその存在を隠していたようだが。

Phase3の査察が突然中止されたのも頷ける。
おそらくこのXM3には、旧来OSのI/Oを乗っ取るアクティブステルスも通用しない可能性が高い。
その上で圧倒的な機動が得られるとすれば、米国とて看過できるものではないだろう。
今後使い物にならない古い軍事機密の為に日本との関係を壊すわけには行かない、という事。



停滞し、まもなく打ち切りと見られていた第4計画。
さて一体、何を掘り当てたか、見せてもらおうか。


Sideout



■14:00 統合司令部B01 C-108

Side ユウヤ


ドーゥル中尉からブリーフィングルームに呼び出されたのは、14:00だった。

噂のXM3シミュレーターは、既に予約で一杯。
出遅れたオレ達は早くても明日以降になる。
自分たちがどう評価されていようが、一衛士としてあの機動を実現するOSには興味がないわけがない。
そのOSが供与される経緯や背景など下っ端が知ったことでは無い。


部屋に集まったのは、ドーゥル中尉他、VGとステラ、チョビ。

そして間を置かず、入ってきたのは、少し引き攣った表情の唯依と、そして見知らぬ日本人の男だった。


「・・・・あ・・・貴方はっ!! “統括”っ!!」


その姿を見て声を上げたのは、他でもないドーゥル中尉だった。


「・・・・ドーゥル大尉、・・今は中尉か。・・・悪いが昔話は後で構わないか?」

「!! は。申し訳ありません!」

「・・・さて、改めて自己紹介しようか。
国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊技術大佐、併せて日本帝国斯衛軍中央評価試験部隊付き大佐を兼任する御子神彼方だ。
・・・・貴官等の認識で言えば、プラチナ・コードのα-2、そしてXM3のプログラマーと言えば話が早いか?」

「「「「 !!! 貴方がっ!?」」」」


え?
大佐ァっ!?
プラチナ・コードのα-2!
しかもXM3プログラマーっ!?
この若いのが!?

斯衛軍中央評価試験部隊と言えば唯依の直属の上官。
しかも国連太平洋方面第11軍、即ち横浜基地の特務部隊所属、―――XM3の生みの親。

道理で突然のXM3の教導・供与などが行われるわけだ。
この年若い大佐とプロミネンス計画との間で、何らかの遣り取りがあったのだろう。


「長いこと篁もここで世話になった。
ありがとう。礼を言う。
そして今回は貴官等アルゴス試験小隊に依頼があってこのユーコンに来た。」

「依頼・・・ですか?」

「ああ。・・・・此処に居るのはアルゴス小隊員だけなので、無理に敬語など使わなくていいぞ。
年齢は大して変わらん。」

「・・・・了解、いやぁ話判る上官で助かるねぇ。」


VGが声を上げる。
砕けた上官に唯依は渋い顔をしているが、しかしオレの視線に気付くと、仕方ないのと、微笑んでくれた。
ひさびさに見た唯依の、明るい笑顔にどきりとする。
・・・少なくとも、この前ユーコンを離れる前の唯依は、こんな風に笑わなかった気がする。


「今回、XFJ計画は、貴官等の努力もあり、要求条件を達成したとして、プロミネンス計画を撤退することと成った。
この事は、既にハルトウィック大佐より通知されている事と思う。
しかし、今回その仕上げとして、テロで中断されたAH戦の一戦、つまり対インフィニティーズ戦の実施を帝国の防衛諮問会議、及びフェニックス計画、更には米国国防省からも依頼され、XFJ計画はそれを受諾した。」

「・・・!! それは、インフィニティーズと戦えってことですか?」

「その通りだ。
ただし、防衛諮問会議は、XM3の換装を以てPhase3計画終了と定義したため、貴官等の弐型、及びACTVにもXM3正規版を換装することとしたい。」

「!・・・XM3正規版を、ですかっ!?」

「ああ。
模擬戦は小隊単位で、明後日の12:00開始、マナンダルの2号機については主機整備中のため、XM3搭載・教導に付いては本人の希望により実施するが、本戦には俺自身が持参したXFJ機体を使用して参加する事になる。
尚、この要請は既にプロミネンス計画から撤退したXFJ計画の依頼であるため、ユウヤ・ブリッジス、貴官には参加不参加の選択権が在る。
因みにジアコーザとブレーメルはフェニックス計画からの要請で、強制参加となる、悪いな。」

「ノープロブレムです。」


軽いのりのVG。ステラも柔らかく微笑んでいるだけ。


「・・・それは・・・オレは出ても出なくてもいい、と言うことですか?」

「そうだ。」

「・・・・・一つ質問、いいですか?」

「問題無い。」

「弐型じゃ無くても、XM3積めば、XFJの目標基準はクリア出来ますよね?
しかも帝国にはXM3を考案しType00を下す白銀少佐が居る。
不慣れなオレ達に、即席でXM3をたたき込むより、ずっと確実じゃないですか?
何故今更オレ達なんですか?」

「・・・成るほどな、篁と同じ事を危惧していたのか。」

「・・・は?」

「そもそも・・・何か盛大に勘違いしていないか?」

「・・・。」

「XM3は、貴官等の為した多大な成果をなんら否定するものでも、貴官等が仕上げたPhase2、Phase3となんら相容れないものでもない。
そしてXM3に馴れてはいても弐型には不慣れな白銀少佐と、弐型を熟知している貴官等とでは、貴官等にXM3教導した方が良いと判断した。
寧ろ貴官等のやり遂げた功績が在ってこそ、更なる高みに至ることが出来る、そう思っているのは俺だけか?」

「・・・え・・・?」

「事実今回のF-22対戦を以て、XFJ Phase3は正式に帝国の次期主力戦術機候補として、XFJ-01の開発名称が与えられる。
今の94式にXM3を搭載しただけのもの、ではなく、だ。
もともと白銀少佐の3次元機動を目指したXM3は、空間姿勢制御に優れたXFJ Phase3との適合性が高い。
貴官らが見た白銀少佐のシミュレーションや実写映像も、XFJ Phase3を用いれば、より高度な機動が出来ることは明白。
しかしそれも元となるXFJの機体性能が在ってこそ。
・・・それは、XFJ主席開発衛士として貴官が成し遂げた成果であると言う事を、誰も否定出来ない。
少なくとも、俺はそう思っているが?」

「・・・本当に・・本当にそう思っているのですか!?」

「確かに、プロミネンス計画に於ける日本帝国からのXFJ計画依頼は、これで終了となる。
しかしボーニング社としてのフェニックス計画は続行され、プロミネンス計画そのものも、ここで頓挫するつもりはないということもハルトウィック大佐に確認した。
ついては、今回のAH戦の結果次第では、XFJ計画をある目的の為に引き継いだ国連横浜基地A-00戦術機概念実証試験部隊からの依頼という形で、引き続きアルゴス試験小隊にはXFJを配備し、この後もその進化に携わって欲しいと考えているのだが・・・、これで答になっているか?」

「あ・・・・。」


ポロリと何かが目から転げ、一筋頬を伝った。

チョビが、飛び上がって喜んでいる。

大佐の脇に控えていた唯依さえが、驚いた顔をして、涙ぐんでいる。






・・・・・・認められていた。

他の誰でもない、XM3の開発者に。
しかも、言葉だけではない。
ここに機体を残し、最終型であるXM3正規版を換装して託す・・・。
その事実が何よりもテストパイロットとして信頼されていることを示す。


「・・・・・・遣ります。・・遣らせて下さいっ!! F-22をXFJで打ち破って見せますっ!!」


オレはその信頼に応える決意を以て、参戦を志願した。






話しが一段落すると、ドーゥル中尉が起立し、深々と頭を下げた。


「ご無沙汰しております。ご健勝そうで何よりです。一時期行方不明と聞いて心配していました。」

「あの・・・大佐は中尉と御面識が?」


唯依が疑問を投げる。


「・・・ああ。・・・記録に依れば俺がまだほんのガキのころにな。」

「何を仰います、その子供であった貴方に助けられたのは、私の方ですから。」

「 ? 」

「・・・・・大佐は“シャノア”の創立者、“シャノア”の代表“統括”をされているお方です。
“シャノア”に救われた難民は、累計で億に達するかも知れないのです。私が助けたとされる難民でさえ、“シャノア”の協力が無ければ、一体どれだけがBETAの犠牲になったことか・・・。」

「「 !! あの“シャノア”の“統括”っ!?」」


ステラやチョビまでが驚く。

“統括”の名や顔は知らなくても、“シャノア”には直接間接に世話になった者は大勢いる。
本人は関わらなくても、家族が救われた人間だって沢山いるのだ。
米国でこそ知名度は低いが、手出し出来なかった社会主義国家を除く戦線の崩壊したユーラシア、特に東南アジアから、西アジア、更にアラブ・欧州圏での知名度は極めて高い。

テログループの難民解放戦線ですら、“シャノア”には決して手を出さないし、敬礼を以て見送るという。もしその“統括”が表舞台に立ったとすれば難民の心理的支えになったと言われる“指導者[マスター]”以上の影響力を持つとすら言われていた。
避難や食料と言った、現実的な側面を支えたのが“シャノア”。
しかしそれでも、政治的軍事的な事には決して口を出さず介入もせず、ただ淡々と難民を救い続けた国際的非営利組織、それが“シャノア”だった。


「・・・あまり持ち上げてくれるな。残念ながら取りこぼした数のほうが圧倒的に多いんだ。」

「・・・・・。」

「それに・・・実は、99年の明星作戦の時、G弾の爆発余波で発生した落雷の直撃を受けてな。」

「え!?」

「1年半の昏睡と共に、過去の記憶は物理的に喪った。」

「あ・・・・。」

「・・・残された“記録”は見返したから、自分の遣った殆どの事は知ってはいるが、俺はその記憶も人格の一部だと思って居る。それを喪った今、当時の俺とは別人だと思ってくれるとありがたい。」


落雷直撃と1年間の昏睡?
・・・・中々壮絶な人生だ・・・。


「・・・では“シャノア”は?」

「ああ、それは続けている。基本的なスタンスも変わりはない。
変わったのは、俺自身がBETA殲滅に関わる様になった、と言うことだけだ。こうして武・・・白銀少佐の発案を元にXM3を創ったようにな。」

「・・・・・そうですか、記憶を・・・。しかし、その“魂”は変わって居ないようですな。」

「・・・・そう在りたいとは思うよ。」


大佐は薄く微笑んだだけだった。






「・・!」


そして自分に近付いた人影に顔を上げる。


「・・・ユウヤ、久しぶり・・・でいいのか?」


少し遠慮したような、はにかんだ風情。


「ああ、久しぶり、っていうか、一応、お帰り、かな。」

「! ・・その、済まなかった。直ぐ戻ってくるなど、結局嘘になってしまって・・・」


その表情に翳が差す。
別に唯依の所為じゃないのだから、気にしなくていいのに、コイツは。


「気にしなくていいだろ? 軍の決定であって、唯依の意志ではないんだから。」

「・・・そう言って貰えると、助かる・・・。」


相変わらずだな。
けれど変わっていない唯依が還ってきたようで、安堵する。


「先刻大佐がAH戦結果如何では、今後も此処で進化対応して行くと聞いたが、唯依も此処に?」

「・・・・いや。その点に付いては私も先ほど初めて伺った。
今、私も国連太平洋方面第11軍A-00戦術機概念実証試験部隊に出向と成っている。
・・・少なくとも年内は、そこに居る。」


何かがチクリとする。


「そっか・・・。寂しくなるな。」


平静を装ったオレの言葉に、唯依は一瞬目を伏せ、そして再び瞳を向けてきた。


一瞬、気を呑まれる。
その瞳は刹那の間で、まるで別人のように感じた。
そこに先刻までの少し済まなそうな、控えめな風情などまるで無い。

と言って初めてであった頃の張り詰めた糸のような人形じみた瞳でも、ユーコン事件の前後で見た少し拗ねた様な優しげな瞳でもない。
そう、狙撃からの復帰後、好物の肉じゃがを作ってくれた時の瞳を、更に澄ましたような透明感。

オレが初めて見る、凛と気高く、勁い意志すら感じさせる瞳だった。


「・・・大丈夫だ。・・・・道は続いている。」


そう云う唯依は、口元に笑すら携えていた。


Sideout




Side ステラ


集められたブリーフィングルームで紹介されたのは、唯依の上官にして国連軍内でも暗に魔窟と呼ばれる横浜基地所属の技術大佐。
あの[●●]XM3のプログラマーであり、プラチナ・コードのα-2という規格外らしい。
しかも私の両親すら世話になった“シャノア”の代表“統括”でも在るという。

その大佐からの“依頼”は、やり残したAH戦、対インフィニティーズの実施。
いくらXM3というOSが凄くても、教導期間は今日を入れてもたった2日。
流石に無理じゃない? と言うのがわたしの感想だった。



しかし、最初に説明されたXM3の概念は極めて明解で、技術的な説明を覚えようとしないタリサすら納得させた。
要は、人の動作概念モデルを戦術機上に実現すること、それに尽きるのである。

そして実際にXM3のチュートリアルに入ってみれば、その効果は瞬く間に実感できた。
重たいウエイトスーツを全て脱ぎ捨てたような開放感。
今までのOSはなんだったの?と怒りたくなった。

しかも、アルゴス試験小隊に供されるCPU込みの正規版は正に破格。
基地データリンクエリア内に於いては、戦術機内でシミュレーションを実行するシミュレータモード、それに付随するナビゲーションAI、アグレッサーAIと、教導に関して至れり尽くせり。


そしてチュートリアルに続くのは唯依の教導。

彼女が本国に戻ってまだ一週間も経っていないのに、彼女は明確に変わった。
曲がりなりにもXFJ計画は終了の運びとなり、肩の荷が下りたのかとも思ったが、そういう訳でもないらしい。
その雰囲気はピンと一本芯が入り、自然に凛とした霊光を纏っている。

あの鈍なユウヤが息を呑み、たじろぐほどに。
VGさえ音がしないよう口笛を吹いていた。

唯依も国に戻ってからと聞いたから、教導は実質4日しか受けていないそうだが、パーソナライズのレベルは既に3。もうすぐ4に届くと言う。
確かに午前中あの“紅の姉妹”が騎乗するSu-47を完全に翻弄していた動きの“冴え”とか“キレ”がそこにある。
もともと唯依のType00の動きはあのすばしっこいタリサを一瞬で引き倒し、私とVGを一刀で撃破するほど峻烈だったが、そこから更に進化してしまったような変わり様だった。
これはXM3との相性という話だけではないのだろう。


基礎動作から始まり、徐々に上級動作を“体験”させる教導。
生身ではしたこともないバック転を、一回で成功させる。
まだ体が流れるなど、自分のモノに出来ているわけではないのだが、繰り返す事で、“ACTV”がそのクセを押さえてくれるようになる。
モデリング、即ちコンボと言うことでは、戦術機のほうが脳内モデルを作るより何十倍も速い。
しかしそれを更に磨いていき、自分の脳内にもモデルが形成されれば、更なる境地に至る。

人としての経験そのものを再現するOSは、極めて素直で、すんなりとわたしの中に定着した。


導入初日、本の4時間で元のACTVで行っていた機動を完全に凌駕してしまった。
コレなら勝てるかも・・・。







「あ、唯依、この後出られる?
出来れば大佐の歓迎も兼ねて、対インフィニティーズ決起会にしたいんだけど?」


教導後のシャワールーム。


「あ、うん・・・。ね、今行きつけのトコで厨房借りられないかな?」

「ああ、大丈夫だと思うけど?」

「そう、・・・じゃあ大佐に聞いてみるわね。」

「 ? 」





わたしがその不可解な会話の意味を知ったのは、店に唯依が大佐を連れて現れた時。

唯依は丸い木製の鉢を、そして大佐は肩に、大きな木箱を担いでいた。

唯依が店員になにか告げると、コーナーの一角、テーブルを並べる。


そして木箱を開けると、そこには丸々とふくよかな、キングサーモン!!


店内からも歓声が上がる。

・・・大きい。
20kgは優に越えている。
これだけのキングサーモンは、ここユーコンにいても滅多にお目にかかれない。

「・・・大佐、これは・・・?」

「時差の関係で早朝に着いたんでな、ちょっと釣ってみたら掛かった。」

「って、今朝ですかっ!?」

「ああ。・・・篁に寿司食わせてやるって約束だから。
流石に43lb(ポンド)を一人じゃ喰えないだろ。
此処に居る奴皆に振舞うぞ。」

「「「「「うぉーっ!!」」」」」


キングサーモン。
故郷で小さい頃に食べたアトランティックサーモンを彷彿とさせる。
実際には全くの別種らしいが、小さい頃に食べたサーモンがどちらかなど、私は知らない。

既に腹ワタやエラの処理を終え、寄生虫対策のために一度凍結解凍したという一尾を、大佐はサバイバルナイフ一本で、あっと言う間に3枚に卸す。
その見事なナイフ裁きに、唯依が見惚れていた。
・・・視線の先は、サーモンよりも刃物だったみたい。
確かに日本刀の様な文様を持つ刃物だけど。

ハラミや尾、その他部位をブロックで適量残すと、ムニエル用の切り身を既にエプロンつけた唯依に渡し、その他背のブロックや胴回りを店員に渡した。
残りに付いては店で適宜調理してもらうらしい。



そしてシャリ、ネタ、それに小さなコンロ?を用意した大佐が聞いてくる。
唯依が持って来たのは、日本のコメで炊いたシャリだった。


「ブレーメルはスウェーデン、ジアコーザはイタリアか。
なら生魚にそれほど違和感は無いな?」

「はい。でも本格的な日本の寿司は初めてです。」

「オレもだ。」

「・・・マナンダルは大丈夫か?」

「うぅ・・・。」


生魚に縁のない食生活を送ってきたタリサは、頭と骨だけに成った魚を睨んでいる。

因みにユウヤは唯依の手伝いらしい。
さっき手招きされて連れていかれた。


魚を入れてきた木箱の半分をまな板に、半分をカウンターにして手慣れた手つきで寿司を握る。
醤油と山葵も完備。

どうやらこの大佐、釣る気満々で持参したのね。


「箸なんか使わなくていいぞ、手さえ洗ってあれば、元々寿司は、こうやってつまむ[●●●]んだ。」


握られたネタの上に指二本を曲げて添え、親指と薬指で挟む。

そのまま持ち上げて添えた指を伸ばすと、くるりとネタが回り、そのネタにサッと醤油を付け口に放り込む。

手掴みなのに、何故か作法の様に粋な所作。
なかなか難しそうだ。


「・・と、言って実際は好きに食べればいいんだけどな。」


もう一貫は、寿司を少し倒してネタとシャリを摘み、そのまま横向きに醤油をつけてみせた。
成程、これなら直ぐ出来る。


「まあ、まずはどうぞ。」

「いただきます。」


目の前に置かれたハラミを手にする。

女性と言うことで、サイズを控え、一口で入るように調整してくれているらしい。
大佐のように流麗にはいかないが、それでも醤油をつけ躊躇なく口にした。


「・・・・。」


舌の上でとろけるハラミの旨み。
崩れるシャリの甘さ。
わさびがアクセントとなり、醤油が程よい塩気で全体をまとめる。


これは・・・・。



鼻の奥がツンとする。
涙が溢れてきた。

隣でVGも俯いている。


カルパッチョやマリネ、スモーク、スウェーデンではスモーガスボード。
生魚に近いものを食する習慣のあった亡国。
いつの日か、今はもう遠い記憶に食べたことのある、生に近いサーモンの味。
それを、まざまざと思い起こさせる。

日本の料理を食べて、コレほど喪った祖国を感じるとは思わなかった。


「・・・山葵が効き過ぎたか?」

「・・・はい・・・。でももう大丈夫です。
それより・・・まだ踏ん切りがつかない娘が居るようですね。」


VGと反対側に座ったタリサは、まだ一貫の寿司とにらめっこ。


「・・・マナンダル。」

「え? あ、 ・・・んぐ。」


大佐が、置かれた寿司に刷毛で醤油を塗ると、ひょいと摘む。

あっと声を上げかけ、タリサが口を開いたそこに、そのまま放り込む。

寿司を咥えたタリサは、ようやく覚悟を決めて、もぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込んだ。

暫し俯いて何かを耐えるように小さくブルブルと身を震わせていたタリサは、カッっ!!、とキラッキラの目を見開き、上斜め左に右に口から火を吹く。


「うーまーいーぞ~~~~っっっ!!」


・・・・・気に入ったらしい。




ハラミの炙り、背、尾、胴回り、皮切しの炙り。

同じサーモンなのに、部位で此処まで細やかに味が違うものなのか。
そのどれもが美味しい。
その調理や味付けさえ工夫されている。
聞けば釣りを良くするので、釣った魚の食べ方には精通しているとか。
それにしてもプロ級、それもかなり上位の腕である。

VGもタリサも、口も利かずに食べていた。


それぞれに味の異なる部位を満喫し、調理が終わって戻ってきた唯依とユウヤに席を譲った。

尤も唯依に男子を厨房に入れる意図はなく、ムニエルの味見をしてもらっただけらしいが。
それでいて、大佐の寿司職人は問題ないのか。
・・・不思議な感性ね。






エプロン姿で即席の“カウンター”に座る唯依と、ユウヤ。


・・・・・・・ふーん・・・。

その関係性は、1週間前とは明らかに違う。

かつてXFJ計画のPhase2を成し遂げ、何かを悟ったようだったユウヤに、憧れていたような唯依。
しかしユウヤは、テロの混乱で虚無感に晒され、唯依は、未だ迷っていたように感じていた。
カムチャッカでラトロワ大尉に救われ、そして喪ったことで一応実戦経験は積んだものの、今度の自分の居場所を丸ごとなくす様な経験は、当然初めて。
BETAを相手にすることと、その状況にありながら尚国家や思想の損得に拘泥し一丸と成れない人類の矛盾。
それを間近につきつけられたのが当時のユウヤだ。


そこに唯依の被弾―――。

緊急で病院に搬送されたが、その後届いたのは訃報。
その状況下で言い渡されたイーダルSu-47との評価試験。

ショックを受けていたユウヤも、弔い合戦、或いはXFJに全てを捧げていた唯依の遺志を継ぐようにPhase2の熟成・改修案作成に没頭していた。


そして2週間以上空けて、死地から還ってきた唯依。
狙撃――明らかに唯依[]狙われたのである。
追撃の可能性を考慮して生存を伏せたのだろう。
ユーコンに還ってきたと言うことは、その危険が去ったと言うことか―――。


早速のユウヤの上申。
恐らくSu-47との苦戦もあり、Phase3への着手が決まった夜。

何故か唯依はわたしに縋って嗚咽を絞った。
結局最後まで理由は語らず、わたしも訊かなかったけど・・・。

以降、評価試験が終了し、機密漏洩疑惑のあと、唐突に唯依に帰国命令が下るまで、何かを見極めるように、自分自身に折り合いをつけるようにユウヤを見ていた。


フラれた――、というのとは違う。

最初こそ唯依がぎこちなかったが、二人が仲違いしたわけではなさそうだ。
それでも、何かがズレた。
唯依の方から一方的に・・・。



その後、Phase3での薄氷の勝利と、振って湧いた機密漏洩疑惑、唐突な開放。
目まぐるしい一日の終わり、唯依に突然の帰国が命じられた。

それは機密漏洩疑惑なぞ掛けられれば、本国もその経緯を質すだろう。
だが、実質Su-47との評価試験は終了した。


わたしの危惧は、唯依から届いた一通の手紙と、データで現実と成った。

XFJ計画のプロミネンス計画参画が、今回の評価試験で完了とし、既に次の計画に携わっていること。
義理を欠いた別れに成り、申し訳ないこと。
お詫びではないが、今関わる計画は、新しいOSに関することで、添付したデータを参照してほしいこと。
淡々と綴る唯依の苦悶が伝わってくるような手紙だった。




そしてデータを見たわたしたちは、絶句した―――。


ハイネマン氏の笑みが消え、驚愕に染まるのを初めて見た。
一線級の衛士が、中隊規模、決死の覚悟で行う光線級吶喊を“単純作業”の様に熟し、連隊規模のBETAを殲滅する。
ヴォールクをエレメントで潜行し、反応炉破壊どころか、ハイヴを“潰滅”させ生還。
その動きは決してシミュレーションだけではなく、JIVES実写映像にて最新鋭00式に騎乗するインペリアル・ガードの最高衛士に94式不知火で打ち勝つ―――。

これがOSを変えること一つで行われたのだとしたら、途轍もない事なのだ。


ACTVに乗っていてさえ思うのだから、特に現地で携わっているという唯依、そして弐型の主席開発であったユウヤに取っては、衝撃であるだろう。


その状況は、プロミネンスの本部も同じで、その日ユーコンはテロ発生以来の激震に見舞われた。





そして今、そのXM3の開発者と共にユーコンを訪れた唯依。

一度祖国に戻った唯依は違う。


以前は何かとユウヤの姿をさがすようにさまよった視線が今はしっとりと落ち着き、見ていて可愛かったがその実怪しげだった挙動が一切なりを潜めた。
これはユーコン赴任直後の張り詰めた糸のような雰囲気とも又違う。

何か別のモノを見定め、目を外らさず、瞬きもせず、勁い光を湛えた視線。

今は、その様な唯依を、ユウヤの方が眩しそうに見ている。


それでも変わらず名前を呼ぶ声に笑顔を返し、そして自身もその名で呼ぶ。
しかし朴念仁を通り越した超絶鈍感馬鹿相手に、見ている方が憐れに思えた恋する少女は既に、追いかけることをやめていた。
ふわりと柔らかく笑う唯依に、寧ろ今ではユウヤの方が圧倒されている。

それでなくても当の超絶鈍感馬鹿は、イーダル小隊のクリスカやイーニァとは急接近しているのだ。
テロの時、錯乱した二人を止めたと言うユウヤは、完全に彼女たちの信頼を得ていた。


そういえば、今日Su-47で、XM3装備とは言え唯依に負けていた。

この後・・・一悶着ありそうね。






「ブリッジスは、寿司は初めてか?」

「あ、はい。」

「まあ、挑戦してみな。」

「オレに味解りますか?」

「それは好みだからな。
けど他のメンバーは気に入ったようだ。
―――ほれ、篁には約束の手毬だ。」


コロンと可愛い、綺麗な縞の入った、鮮やかなサーモンピンク。

つなぎ目の無いように見える珠玉。


「・・・綺麗だな、それ」

「・・・ユウヤ、口あけて。」

「 ? 」


唯依は手毬に少し醤油をつけると、ユウヤの口に放り込んだ。


「ん!、・・・んぐ・・。・・・・・美味い・・・・。」


唯依がにっこり微笑む。


「・・・ちっっ、勝手に遣れって。
ねぇ大佐ァ、アタシもそれ食べたい!」


傍から見ていても砂糖を吐きそうな光景を目の前に、微笑ましげな大佐は隣で毒づくタリサにも手毬を差し出す。

・・・・大人だ。
まだ若いんだから、略奪だってしちゃえばいいのに・・・。


わたしも砂糖に当てられたらしい。







カタン、と小さな音がしたのは、宴もたけなわ。
供されたサーモンも殆ど料理になってテーブルを占拠しそれも6割方片付いた頃だった。
店の客、スタッフ含め約30人。いい感じで雑談に花が咲いていた。
勿論一部にはアルコールが入っているから、その小さな音に気づいたのは、ユウヤと、そして大佐。


大佐がまず、ドアに寄り外を確認する。
雪が舞ってもおかしくない季節の夜だ。

そして、何かに思い当たった様にドアから飛び出したユウヤ。
唯依はその姿に、しかし瞳には自嘲の色を浮かべると、立ち上がる。



「!! クリスカっ!、イーニァっ!!」

冷たい地面に座り込み、何かをブツブツ呟くイーニァ。
その瞳は虚空を見つめ、正気がない。
それを抱きしめゴメンねと謝るクリスカ自身も、正に尾羽打ち枯らしたと言う風情。

駆け寄って抱きしめるユウヤに、そのまま縋りつき嗚咽が漏れる。



「・・・彼女らが“紅の姉妹”?」

「・・・はい。今日の模擬戦でSu-47に乗っていたと思います。
でも、今日のあれ[●●]は、危険なレベルでした。
恐らく“最大”。
―――それもあって、早めに決したのですが・・・。」

「・・・チ、サンダークの奴・・・。
・・・身体は直せても、精神や神経はボロボロだ。
・・・あれは本来戦えるレベルじゃない。」

「 !! 」


その言葉に、思いつめたような唯依。


「・・・・・・過去の遺産の発現者を保護したかっただけなんだがな、・・・まあいっか。
・・・ブリッジスに被せるんならそれもアリか。」



大佐が抱き合う3人に歩み寄る。


「ブリッジス。」

「・・・・なんですか?」

「彼女たちを守りたいか?」

「! 当たり前ですっ!!」

「・・・今この状況でのそれ[●●]は、彼女たちの人生、全てに責任を持つということだぞ?」

「!!・・・・・・・・それでもです。
クリスカとイーニァが命を賭けて護ってくれた命です。
彼女達を守る為に命でも賭けます。」

「そうか。・・・解っているなら構わない。そのまま二人を連れてこい。」


Sideout



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