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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム
Name: maeve◆e33a0264 ID:341fe435 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/09/05 17:41
'15,03,13 upload
'15,03,22 一部追記
'15,09,05 誤字修正



Side ベルナデット (Bernadette le Tigre de la Rivière フランス陸軍第13戦術竜騎兵連隊・第131戦術機大隊ロレーヌ中隊長大尉)


―――ここまで突き抜けてると、もう呆れるしかないわ・・・。
理不尽な迄の差に、ホント、ムカつくけどねッ!



模擬戦開始前には、ガヤガヤと騒がしかったモニタールームも、今は静まり返っている。

―――そりゃあそうよね。

前半戦は、第1世代機からなる中隊より始まった、vs“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”単騎戦。
XM3の換装前に、その効果を体感してもらうためゲスト参加した全中隊と対戦する、と白銀少佐[アイツ]が宣言したのは昨夜。
確かにプラチナ・コードとか単騎世界最高戦力とか言われているけど、公開されている対人戦はインペリアルガード・ジェネラル戦で見せた近接戦闘のみ、対部隊戦の記録は無い。
逆に言えば、紅蓮大将[ジェネラル・グレン]以外、誰もその対人戦の実力を知らない。
それを、率いてきた小隊込みではなく単騎で相手にする、と言われた参加全中隊の長が各々獰猛な笑みや失笑を浮かべたのも仕方ないこと。
いかな単騎世界最高戦力でも搭乗するのはXFJ-01、レーダーで見えない F-22A[ステルス]でもあるまいし、中隊単位なら幾らでも手はある、と言うのがその時の反応だったのだろう。

主に後半戦メンバーであるモニタールームの観客には、当初単騎で何隊行けるか、っていう賭けを行っている者さえいた。
相手が第1世代でも、数は暴力、単純な火力比でほぼ12倍なわけで―――通常はそう簡単にひっくり返せる訳がないんだけど。


少しは頭使えばいいのに・・・。
単騎世界最高戦力とまで言われる相手がそんなに甘いわけないじゃない。

ホント、バカばっか―――。




―――案の定、最初のF-4E中隊は秒殺だったわ。







ユーコンの広大な演習場、そのテストサイト18は近代的な都市戦を想定した入り組んだビル街。
今じゃユーラシアにはこんな街、何処にも無いっていうのに。
BETAに侵蝕されていない広大な大地に衛星都市のように突如大都会が点在する、如何にも米国[●●]ならではの都市戦を想定した状況設定。
対人戦[●●●]の設定としては不穏当だけど妥当なのかも知れないわね。
異様に国防に拘るクセに、自国の都市戦を想定しているのが自虐的で笑えるけど。
テストサイトはプロミネンス計画以前にこのユーコン基地に在ったらしいし。


開始時間は09:00。
朝の遅い冬場のユーコン、正確には日の出前、薄暮くらいの明るさしか無い。
勿論網膜投影の視界は光量増幅しているし、ドローンチェイサーによるモニター映像も増感しているから若干カラーが薄いと言う以外に問題はない。


初戦の部隊が、相手は単騎ということで迎撃戦を目論んだことは間違いじゃない。
実際XFJ-01に対し機動力に劣るF-4Eが、その優位な火力を生かすには集団戦に持ち込む事が正しい。
ある程度広さを有するスクエアを拠点に中隊を布陣。
不用意に切り込めば、集中砲火を浴びせられるから、通常単騎では踏み込めないシフトだった。


けど、〈Thor-01〉は状況開始とともに、真っ直ぐ接近し、あっさり飛んだ。
それは繰り返し見たあの“Case-29”の映像を彷彿とさせる垂直噴射跳躍―――。

当然射線を得た相手機が銃撃する。
次の瞬間、〈Thor-01〉の姿は、400インチのメインモニターから消えていた。
一瞬で、チェイサーを振り切ったのだ。

そして―――。
次々にオペレータが読み上げる撃墜報告。
撃墜速度に対し、読み上げが間に合わない。
漸くそれが途切れたとき、〈Thor-01〉は残った6機が揃っていたスクエアの、そのど真ん中に着地した。


―――何度も見た映像のフラッシュバック・・・。


圧勝は予測はした、だが、それでも速度が違いすぎる・・・。

そう感じたとき、今までの映像は、シミュレーションの動きを画角の狭い望遠で俯瞰していて、しかも小さいモニター画面で見ていたモノであることに初めて思い至る。
このユーコンでのライブ映像は、テストサイト内に設置された無数のカメラと、複数のドローンチェイサーにより、人の視野に近い画角で撮影され、且つこのモニタールームは実視界に近い大画面での確認が出来る―――。

つまり、現実には此処まで速い―――。



・・・フンッ!

私でもまだ認識が甘かったと言うことは、悔しいけど認めざるを得ない。
単騎で光線級吶喊を実行出来る―――というその機動を間近に見て、改めて背筋を寒くされた。


―――要するに、ロックオンアラートとともにパワーダイブを敢行した〈Thor-01〉は、その速度を殆ど落とさずに超低空の匍匐飛行に移行、ビル群を縫う様に翔け抜け、街角の死角に居たはずの敵性機体を次々に切り飛ばし、挙句敵陣のど真ん中に着地した・・・と言うわけ。

しかも、測った様に絶妙な着地の位置取り、対応した相手は味方識別装置[ Identification of Friend or Foe]が邪魔して射撃不能。
〈Thor-01〉は銃爪を引きながらその場でクルリと一回転するだけで、残りの6機も全機ペイント弾に染めた。


単騎での中隊撃破に要した時間は、状況開始から55秒―――。
接敵してからは、わずか27秒という秒殺だった。







そして、それ以降F-5、F-14、F-15、F-16、Mig-29、Su-27等々第1世代機から第2世代機に至る戦術機で構成された参加中隊を尽く殲滅した。

勿論、それらの中隊だって第1戦の映像を見ていたはずで、相手にする単騎が尋常な存在でないことは理解したのでしょうね。
戦術的にも、散開しての迎撃や、逆に包囲強襲、高い位置に陣取っての長距離砲撃、集団近接格闘と様々に変えてきた。
けれど、そのあらゆる戦術に対し、すべてを撃破して見せた。


なにせ機動が速くて、且つトリッキー。
水平噴射を駆使して見事なスラロームを見せたかと思えば、ピンポン玉の様にビル街の間を跳ね回る。
通常、軍のCQCによる人間の格闘戦ではジャンプによる回避は禁忌とされる。
跳躍中はそのベクトルを空中で変えられない為、予測が容易で狙われやすいからだ。
だが、スラスターを有する戦術機となると話は違う。
跳躍中の加減速から横滑り、旋回、スピンまで、自在に組み合わせてくるのが白銀少佐。
当然人間の感覚には存在しない機動だ。

それを反射的に行うと言うんだから超絶機動と言うか、もう既に“変態機動” ね。

・・・頭ん中、可笑しいんじゃないの?





結局、前半戦、第1・2世代機の8中隊96機を撃破するのに要した実戦闘時間は、57分。
XM3の齎す脅威の反応速度と、全く概念のない機動モデルに付いていける者は居なかった。
XFJ-01は途中予定されていた推進剤の補給すら必要としなかったのだ。


今は休憩に入り、連戦したXFJ-01も弾薬と燃料の補給中。
あの機動を1時間継続できる機体も既に破格。
初の第4世代機とも評されるXM3装備のXFJ-01―――。
その性能を遍く引き出すことが出来るのが“単騎世界最高戦力”。



そして休憩を挟んだ後半戦は、いよいよ第3世代機の中隊戦となる。

私も既に強化装備着用の上、ラファールに乗り込んでいる。
隊のメンバーを見回しても、今朝ブリーフィングでこの中隊戦を告げたときの笑みを浮かべている者は一人も居ない。
“単騎世界最高戦力”と言わしめる相手の強大さを、漸く理解したらしい。


前半戦、最も時間が掛かった隊でも10分を切る時間で殲滅されている。
最も時間がかかったのは、相手が散開狙撃戦を仕掛けた時で、アイツ[●●●]が苦戦したわけでもない。
レーダーで捉えられないのがF-22Aだけど、射線が取れても当てられないのが“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”と言うことだ。
ロレーヌ中隊の順番は後半戦4番目だが、20分もしないうちに回ってくる可能性もある。



前半戦でその隔絶した実力を、まざまざと見せ付けた。

鎧袖一触―――。
否、アイツは此処まで一合すらさせていない・・・。

近接で間合いに入った時には斬撃判定。
不用意に射線に入った時には被弾判定。


対戦術機という今までの概念が全く通じない相手。





―――しかしそれが今、人類の希望でもあった。


目の前で展開されたら対応のし様がない、反応速度による異次元の機動
姿が見えてすら自動照準、そして追尾が追い付かない反応速度。
元々対BETA、或いは対人ですら基本的に“地面[Surface]”を想定しているのが今までの戦術機の機動モデルだ。
噴射跳躍による上空からの掃射など、光線級の存在しない幸運な戦域でしか出来ない。


近年、その概念が徐々に固まりつつある“光線級吶喊”だって、AL弾を駆使し、中隊規模で突撃、それでも出る損耗で隊が全滅する前に、照射の間隙を縫って光線属種を殲滅する一種の特攻戦法に等しい。
そこでの3次元機動が漸く検討され始めた段階だが、実践していた者ほど先に消耗していく現実。

その状況に、革命的な衝撃を与えたのが、光線級排除を単騎で行い、しかも生存を可能とする回避機動だった。
貴重な人的資源を消耗せずに光線級の排除を行えるのなら、戦線の維持継続が可能。
消耗に補充が追いつかない欧州の現状に示された希望の光。

当然EUの統合参謀本部は、早急にその効果検証に乗り出したハズ。
恐らくは、“情報元”と同じ国連計画であるプロミネンスとその“横浜”に繋がりのあると見られるユーロファイタス社・・・。
求めたのは、シミュレーションの機動が本当に“現実”で可能なのか?、と言うことだっただろう。

勿論、当初超重要な軍事機密であるOSの情報把握と、魔窟とも飛ばれる“横浜”との交渉は極めて厳しい状況が予想されていた。


・・・けど現実はその遙か斜め上を行ったわ。

プロミネンスでは、まさかのLTE版供与[●●]が開始された。
序に開発者本人はXM3搭載機で、米国の奢り偏ったドクトリンの象徴でもあるF-22まで撃墜してみせた。

そして統合参謀本部が慌ててプロミネンスに補充した実験部隊による検証が終わらないどころか始まらない内に、現実に日本帝国で起きたBETA大規模侵攻・新潟迎撃戦―――。
そこで、XM3を装備した帝国軍は、27,000ものBETA迎撃に際し奇跡の人的損耗“0”を成し遂げたのだ。
公開されたデータを検証したが、光線級優先排除の戦術も見事とは言え、後半、残存した光線級も各個で光線回避による殲滅を確実に実践していた。


・・・つまりは、XM3実装に依る光線回避戦術は、謳われているようにレベル4以上の機動を実現した者なら誰でも可能・・・と言う揺るぎない事実―――。


その“極み” が、白銀少佐[アイツ]の機動―――。



一瞬とは言え、あの稲妻のようなダイヴに見蕩れさせられたコトが悔しいッ!

―――大体ねッ!、部下の女性衛士達がデキルからって、チヤホヤされてるだけのヘタレかと思ったら、強化装備を着けた途端、表情まで引き締まるなんて、反則よッ!!
"黒き狼王[ Schwarzerkönigswolf ]"が持つ威厳とはまた違う、発散されるような霊光[オーラ]、昨夜からの余りのギャップに、周囲の女性衛士も生唾を飲み込んだ気配が幾つも感じられたわッ!

―――ホント、気に入らないッ!





昨夜、中隊長クラスが集められたのは、大まかなスケジュールと“横浜”からの提案。

今日は、午前中に参加中隊との模擬戦。
午後は旧OS搭載機へのXM3LTE換装と、既にプロミネンスに参加している各実験小隊との模擬戦。
その後エキシビジョンマッチとして、プロミネンスで唯一正規版XM3を配備しているアルゴス試験小隊のエースとアイツの1on1が組まれていた。
最後は全体に依るデブリーフィングとなる。

アルゴス試験小隊はプロミネンス側ながら、既に正規版が導入されF-22EMDを撃破した経験もある為、今までも他の試験小隊に教導してきた実績を持つ。
当然教導側に入り、最初の模擬戦は組まれていない代わりに、所々で個別の1on1や小隊模擬戦を行うらしい。
2日目以降は、1日目の結果を見ながら決めると言うことだった。


そして、同時に為された提案―――、それは何と今回参加した中隊に限定的に正規版を供与する、と言うものだった。


戦略上超高位の軍事機密を惜しげも無く提供する―――。

・・・バッカじゃないの!?


―――その時は、そう思ったわ。

自軍がそれをやったら、激烈な批判が起きるだろう。
それが自分であっても、・・・恐らくは同じ行動など取れない―――。

―――でも、こんなバカは嫌いじゃない・・・わね・・・。




白銀少佐[アイツ]はXM3の概念も説明してくれた。

旧OSの制御は、言わば逐次反応型、間接思考制御による動作モデルをコマンドに応じて実行するノイマン型アーキテクチャと言っても良い。
操縦者の入力に対し動作を実行、その結果を以てまた操縦者が入力をする、といった動作になる。
入力の間には操縦者の認知と判断が入る為、一連の動作に対する応答速度:動的応答速度は実は操縦者の熟練度にも影響される。
練度が上がれば動作中に認知と判断を行い、動作完了と同時に次の入力ができるため、応答速度は上がるが、そのタイミングはシビアで通常マージンを取ることが普通。
早すぎる入力が跳ねられてしまい、再入力が必要となるよりは、わずかでもタメを置いた方が結果的に速いからだった。
更にはその動作によっては硬化時間が発生する場合もあり、熟練者ほどそれを回避する傾向が在る。
インペリアル・ガードにはそれを突き詰めた“斯衛式[IG メソッド]”と呼ばれる硬化時間回避の操縦法も在るらしいが、その内容は機密扱いで詳細は伝わっていない。

だがXM3は、その機能である“先行入力”や“コンボ”を実現する為に、複数のコマンドを連続して流す謂わばデータフロー型のアーキテクチャを構築していた、ということ。
操縦者が連続した入力をすることで、その一連の動作を淀みなく実行する。
当然入力マージンも無く入力操作そのものも短縮、そして硬化時間の発生に対してもその“ 繋ぎ” の中で吸収される“統合機動制御”を実現している。
勿論、結果が予測とズレて来た時には、“ モジュレーション”による調整や、“ キャンセル”による再入力を行うことが出来る。

このデータフロー型と言う全く新しい概念のアーキテクチャにより、動作全体の動的応答速度を劇的に向上させたのがXM3、と言う事なのね。

先行入力の選び方やコンボの使い所と言った練度に依存する部分も多く、また早過ぎる応答は時に過剰反応を引き起こすから慣熟や練度の上昇が不要なわけはないけど、反応速度のレベル化を行い訓練兵にでも使える様に成っている優れもの。

OS一つでそんなに変わるものなのか、と言う疑問もこう説明されたら理解したわよ。


正規版XM3で換装される新型CPUでは、単一コマンドに対する単純な応答速度:静的応答速度も30%程度向上しているとの事だけど、既存のCPUでもOSアーキテクチャの変更により動的応答速度を引き上げたのが、LITEやLTEと言うことになる。
但し、既存CPUでの実施はソフトウェア的にも幾つかの画期的な進歩無くしては実現できなかったみたいだけど。

威張り腐ってる米国のソフトウェアメーカーが一斉に白旗上げたと聞けたのは、爽快だったわね―――。



結果的にXM3の制御レベルの指標となる動的応答速度の差は、レベル1でも旧型のOSに対し約15%の上昇となる。

USBであるLTE版は、限界制御レベル4で約28%上昇を齎すが、そこに到達できる人の統計的存在確率は2シグマより上、即ち2.5%―――。
勿論衛士は戦術機適性を有していることが前提なので平均以下が存在しないため、実際の衛士比率で言えば、約5%の衛士がそのレベルに到達可能ということ。
それでも20人に一人・・・中隊に一人出れば良い方ってことだ。

そしてソフトウェア版LITEは限界制御レベル5で約32%まで上昇するが、このレベルに行ける者の存在確率は3シグマより上と言っていたから、衛士全体の0.2%しか居ないと言う事になる。
師団から旅団に一人、の確率ね。

極めつけに正規版の限定解除となれば4シグマより上であり、その存在確率は0.006%・・・実に衛士10万人に6人、人類全体で見れば10万人に3人という頻度にまで落ちるらしい。
軍団というか、今となっては全衛士の中に数人、と言うくらいの確率。
その意味でもアイツ[●●●]はその頂点に位置するわけだ。

反応速度と到達者数の観点から言って、全体の底上げを考えればLITEで十分、というのが大方の見解だった。


けど、正規版にする意味はそこではなかった。
制御の緻密さが齎すアビオニクスの進歩―――。

この一連の模擬戦はそれをまざまざと魅せ付けているのだ。


間接思考制御から、“何をするのか”ではなく、“何をしたいのか”を読み取り、“機械”が人間の知覚の隙間を補助する―――。
銃爪を引くのは、弾を撃ちたいのではなく、敵を斃したいのだ。
一方では無駄な弾薬の消費はしたくないという思考も入っている。
結果、自機のベクトルと銃器のベクトル、敵の距離とベクトル、弾丸の予測速度、弾道、到達時間・・・全てを検討し、最も着弾が近くなるタイミングで撃発がされる。
単射の時にその制御は実施されない為、通常使用では気づかないが、連射、つまり人間の知覚速度を超える場合には、威嚇射撃などを除く状況によりそのモードに入る。
プラチナ・コードで御子神大佐が組んだと会話していた射撃管制が、より洗練されて搭載されていると言うことだ。
連射時の発射間隔に違和感があるとしたら、自分の射線取りが下手くそだと言われていると言うコト。

そんな人の認識を埋める緻密な制御が、機体の姿勢制御や、噴射跳躍、空力に到るまで、細かく行われている。

そしてその規範モデルは、各戦術機から得た挙動ログの集合体、所謂メガデータから逐次更新され、再び各個に還元されていく。
実際の戦術機に於いては、その規範モデルにパーソナルモデルという“個性”を重ねるため、劇的な変化はなく本人は気づかなくても、認識外制御がどんどん洗練されていく、と言うものだった。

この、本当の意味でのフィードバックモデルは、正規版でないと受け取れない。
LTEやLITEでは、戦術機側に全てを受け取るキャパがない。


そう―――その恩恵を受ける対価は、自らの戦術機動のデータ・・・。



これには、全中隊長が一瞬怯んだ。
個人の機動データを握られるということは、弱みを握られることに他ならない。
圧倒的に不利な状況に追い込まれかねないということだ。

だが続けられた言葉に慄然とした。
今までのOSでは、間接思考モデルを更新するために、何ら警戒されることもなく勝手に使われているのだと言うことに―――!!


その点、LTEはスタンドアロン動作が可能なので、アップデーターに接続しない限り、データの更新は自己記録だけで行われる。
機動ログは流出しないが、全体の進化からは取り残される可能性も大きいし、セキュリティを含めたハードが量産できないため、即座の全戦術機配布は困難。

一方LITEはソフトウェアアップデートであり、全部隊即時更新も可能。
但しコレまでと同じくデータリンクを用いてデータ管理がされるため、機動モデルは常に更新される一方、機動ログの流出・使用は避けられない。
尤も、今までのOSはセキュリティがボロボロだったらしいけど、今度はXM3専用回線を使い、セキュリティも“横浜”が管理するらしいから、そこと敵対しない限りは他に漏らす事はしない、と言う。
既にEUは帝国や横浜にはLITEの供給打診もしているらしい。
もし供給が同じ条件で行われるなら、時間を取るか、機密を取るか、今後統合参謀本部は選択を迫られる事になるだろう。

そして、XM3本来の性能を引き出す正規版―――。

今回は限定供与。
搭載したとしても、機動データの流出は該当中隊だけと言う事に成る。
効果検証として実証部隊は必要だし、最終的にLITE導入に舵取りするなら、どの道同じね。


何よりも・・・認めるのは癪だけど、確かに凄い―――。
狭量な個人主義や、偏屈な秘密主義など嘲笑う迄の遙かな高み。



・・・フン、面白いじゃない―――!。

XM3―――何が何でもモノにして見せるわッ!







管制ユニットの中で思う。


その為にも・・・一矢入れたい。


ケタ違いの緻密な制御。
自動照準のマーカーを簡単に振り切る隔絶した反応速度と規格外の機動概念。
同じ機材が無いのだから現実を見るに負けは必至。

けど・・・。


「―――ロレーヌ隊全機に通達。」

『『『『『『 はッ! 』』』』』』

「・・・自動照準と IFF[味方識別装置]を外しなさい。」

『『『『『『 は? 』』』』』』

「どうせマーカーは振り切られるし、IFFは邪魔になるだけよ。
頭、使いなさい。
今回は訓練なんだから、無茶やって見ましょう?
味方を犠牲にしてアレを墜とせるくらいなら、御の字・・・よ。

だから、相手が今居る場所に撃っちゃダメ、“勘” だけでいいから、次に動くと思う方向に偏差射撃しなさい。
そして相手の攻撃は空飛ぶ重光線級位のつもりでいなさい。
これは、光線級吶喊と同じよ。
ハンマーヘッドで行くわ。

―――相手は“雷閃級BETA”、その位がちょうどいいわ。」

『『『『『『 ・・・Oui, madame ! 』』』』』』



フン―――。

所詮、苦肉の策に過ぎないけどね・・・。








その日〈Lorraine-01〉[わたし]は、唯一、“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”から3%の被弾判定を奪った。


Sideout




Side ジークリンデ・ファーレンホルスト (西独陸軍第44戦術機甲大隊第1中隊長大尉)

ユーコン基地 管理区画 ツェルベルス隊割り当てハンガー 10:40


「―――XM3の極み、此程のものか・・・」

前半戦の様子をモニタールームで観戦した際、ヴィルが呻くように言った一言が全てだった。



昨夜、白銀少佐が切り出した、中隊単位の模擬戦。
今朝予定通り始まったそれは、当初予定より1時間も早く前半戦が終了した。
第1・第2世代機で構成された中隊であれ、8中隊相手の模擬戦を1時間で済ませてしまった、と言う事になる。
しかも全てに完勝、そして被弾0―――。


相手はたった一騎―――。

なのに未だ一合交えた者すら居ない。

今朝方のブリーフィングで単騎でツェルベルスに挑むのかと嘲った笑いを浮かべていた者も、顔色を無くし引き攣っていた。

挑むのは私達の方、なのよね・・・。




昨夜の何処か緊張した様子の“白銀の雷閃[シルバーライトニング]”:白銀少佐に覇気はなく、何気にオドオドした様子にも見えた。
その様子が、幾つもの驚愕映像や吃驚情報と余りにもかけ離れて見えたので、両者が上手く繋がらなかったみたいね。
先行情報の信憑性を疑い、あの様子を自信の無さや緊張と取った者も多いのでしょう。


私はと言えば、あらあら、と微笑んで見ていた。

私の見立てでは、少佐が気を使っていたのは同じ中隊の部下に、である。
何か、大きく機嫌を損ねる事でもしたのでしょう。
A-0大隊のもう一つの中隊、A-01もヴァルキリーズと言う名称に違わず女性だけの中隊と聞くし、今回率いてきたA-00中隊も白銀少佐以外は全て女性、辛うじて顧問に“漆黒の殲滅者[ダーク・アニヒレーター]”と言われる御子神大佐がいらっしゃるくらい。
女性ばかりの中隊では、上官と言えど辛いわね。

彼女たちと離れた中隊長レベルのブリーフィングでは寧ろほっとした顔をしてたし、少佐とは言えまだまだ若いわァと思って見ていた。



それが、今朝には払拭されていた。
妙にスッキリした表情に、昨夜はなりを潜めていた悍気すら感じる。

そして初の第4世代機と言われるXFJ-01に騎乗すれば、最早手が付けられなかった。




補給のための休憩も終え、今は第3世代機を擁する中隊戦が始まっている。


私達も既に準備を終え、其々の機体に搭乗し、網膜投影で状況を見ていた。
中隊編成とは言え、今は編成外の大隊長〈Zerberus-00〉を含む13騎。
それでも構わないとの了承を得ている。


網膜投影の中では、最後のEF-2000がペイント弾に染められ、英国のロイヤルガードが為すすべなく敗れた。


多少時間は掛かるように成ったが、第2世代機が第3世代機に代わったところで結果は何も変わらない。
実際搭載されているOSは同じなので、世代が変わってもOSの応答速度にはそれほどの差は無いと言うこと。
戦術機の主機出力等スペックは上がっているから、信号を受けてからの機動は向上している。
けれど、その信号を発するタイミングが旧OS機ならほぼ同じなのに対し、XM3はその部分が30%以上早い、と言う事。
スペック云々の前に、OSの応答速度がこれほどの差を生むもので在ることを改めて思い知った。




『・・・“単騎世界最高戦力”・・・看板に嘘偽りないと言うことだ―――。』


あら珍しい、ヴィルが褒めるなんて。


「中佐でも敵いませんね・・・少なくともXM3の無い今は―――。」

『―――ああ。
XM3の“極み”、なるほど理解した。

戦術機そのものの反射が違いすぎる。

そしてあの“横浜仕様”XFJ-01は、おそらくXM3を搭載することに合わせ調整された機体・・・。

確かにXM3を後付しただけで、ほぼ一世代分応答速度を上げるだろうが、専用ともなれば更にその上と見た。

・・・極めつけはそれらを、ほぼ反射のみで意のままにするあの技量―――。

―――俺があの領域に届かなければ、他と同じ、一合することも適わんな・・・。』


周囲の部下が引き攣ってますよ、中佐殿。


「―――では、模擬戦はお辞めに成ります?」

『・・・彼がどの様な基準で計るかは知らんが、出来るなら正規版を手に入れたい。
我等の機動データが後の機動の規範になれるコトなら、それこそが名誉なこと。
ご大層な軍事機密偏重や国家間謀略などクソくらえだ。

その点でも、機動ログ以外の何も要求せず重要な軍事機密を頒布する帝国、そして“横浜”は我等の信を置くに足る。
―――流石敵にさえ塩を送ったという、武士の国、ではないか。

何よりも、XM3を手にする事で、我々には、まだまだあの頂にまで達せられる伸び代がある、と言うことだ。』

「・・・・・・。」

『そして、届かぬまでも、足掻いてみせよ。
何時もの如く戦い、何時もの如く帰還せよ。
訓練などどれだけ負けても構わん。
寧ろ何度でも地を甜め、その都度立ち上がれ。
但し―――、各自必ずコレ[●●]、と言うものを掴んで来い!』

『『『『『『 Ja, Sir!! 』』』』』』


ウフフ・・・。
相変わらず、お上手ですこと。







『ツェルベルス第1中隊、スタンバイ願います―――。』


ハンガーにCPからのアナウンスが入る。
ツェルベルスの前の中隊、ロレーヌ中隊戦が始まったということだ。



外に出れば、漸くの朝の光。
ドーバーは気候上曇りがちで、こんなに冴えた青空を見ることは滅多にない。

とは言え、ユーコンも来週には今季最大級の寒波到来が予測されている。
晴れ間もこの週末だけらしい。

今日から明後日は、オーロラが旺盛に成るかもとの予報も出ていた。





「 あ・・・! 」


思わず声が漏れた。
先刻からロレーヌ隊の撃破状況を読み上げていたCPが初めてその名を呼ぶ。


『〈Thor-01〉、右脚部被弾、機能障害3%―――!!』


勿論、〈Thor-01〉は初めての被弾。
それを為したのは〈Lorraine-01〉、中隊長でありながら、未だ突撃前衛砲兵の可愛らしいあの娘。


「・・・当たりました、ね・・・。」

『・・・ああ、当たった。
彼の機が“鏡花水月”では無く、実体[●●]がある、と言うことだな・・・。』


現実にヴァーチャルを被せるJIVESにはそれなりの部隊伝説―――所謂怪談話も多い。
設定されたBETA迎撃戦に於いて仲間の戦術機がいつの間にか一機多いとか、過去喪った仲間からの通信が入る、とか、果ては倒した要撃級の顔が仲間の顔だったとか・・・。
そんな噂はエスカレートして、被せるヴァーチャルデータにプログラマーが紛れ込ませている、という所まである。

今回も、白銀少佐の余りにも常軌を逸した強さに、一部ではコンピュータの造った幻影を被せているんじゃないか、という話すら出ていた。

そう思うほど相対した衛士に取っては、悪夢。

鏡花水月―――掴みどころのない幻影を相手にしている様にしか思えなかったのだろう。



それでも今回、ロレーヌ中隊は光線級吶喊と思しき布陣で果敢に強襲した。
薙ぎ払われた突撃砲で染められる5騎の僚機すらを盾に、応じる射線は自動照準を切っている様に見える。
どうせ追えないなら、追わなければイイという潔い割り切り。
あの娘らしいわね。
それでも尚、躱されるのは、BETAや戦術機でも行う者が居ない3次元・・・縦方向の挙動が入るため、間接思考制御が機動モデルのない上下方向の偏差射撃に的確なサポートが出来ていないのだろう。

その頭を抑えたのが、4門の突撃砲を駆使する“前衛砲兵”リヴィエール大尉だった。


白銀の雷閃[シルバーライトニング]”に初めての被弾判定!


だが、そこからの白銀少佐の動きは、まさしく二つ名に恥じぬ電光石火。


ビルの壁面を蹴って全く別角度に切り返すと、真っ直ぐ[●●●●]残っていた後衛に突っ込む。

射線の回避を予測して、偏差射撃をしていた彼等は、その逆を突かれ、回避なしの最短距離で接近を許してしまった。


一閃―――。

それだけで4騎を大破判定に追い込む。


残3。


追撃した左翼には、縦方向の連続シザーズ。
自動照準を最初から切っていたと思われるロレーヌですら、銃身で追う動作が追いつかない。
否、偏差射撃をしようとした、その先を彼が往くのでしょう。

外連味のまるで無い接近に、近接武装を展開するまもなく、2騎が大破判定。


そんな中で、残った〈Lorraine-01〉だけは、主腕で操る2門で追いつつ、副腕の2門を勘任せの偏差射撃。

だが、結局〈Lorraine-01〉の予測範囲も、彼女の今までの経験にある、普通の戦術機[●●●●●●]の機動範囲だった。
咄嗟の判断が必要な偏差射撃に余りに常識を逸脱したエリアは撃てない。

〈Thor-01〉は、メインストリートのど真ん中で、〈Lorraine-01〉に向かい、その瞬間、見えないチューブを廻るように、半径20mそこそこの超高速連続バレルロールをしてみせた。
その機動には流石の前衛砲兵も追従できず、その一瞬で間を詰められた〈Lorraine-01〉はJIVESの画面上、管制ユニットを掠めるように上半身を斜めに切り飛ばされていた。



『―――〈Lorraine-01〉大破判定、戦闘不能―――状況終了します・・・。』


アナウンスが14戦目の結果をコールしていた。






圧巻―――。


兎に角、応答速度・機動概念が共に違いすぎる。

BETAにはない、そして人間の日常生活にも無い空中機動というのは、それほどまでに厄介、ってことなのね。
飽く迄戦術機は、“Tactical Surface Fighter”、地表面を主戦場として開発された概念。
歩行戦闘機であり、跳躍噴射装置が付いた今でも滑走戦闘機であって、その端緒でいえば、戦車の延長、なのよね。
戦闘機のような空中戦の概念ですら、光線属種の脅威がない米軍にしか無いだろう。
上空からは突撃砲の斉射、近接格闘は地上戦の機動モデルしか持ち合わせていない旧型OSで、その動きを3次元にまで拡張してしまった相手は荷が重すぎた。

しかも白銀少佐はXFJ-01の4つのスラスターに加え、機体モーメント制御まで巧みに使い、直線機動までフラフラと揺れる様に幻惑する。
その揺れに、偏差射撃の射線が誘導されてしまう。


旧OS搭載機を翻弄する応答速度―――。
衛士の先読みすら凌駕する3次元機動―――。

しかし、それはとりもなおさず、今後のハイヴ戦で必要となる技量。
それが在るからこそあのプラチナ・コードが生まれた。

対する我々はいままで照準を上下に追尾する機動モデルさえ碌にできていない、ということ。


何をしてたんでしょうね・・・。

All TFSドクトリンとか標榜しながら結局今までは間引き戦に窮々とし、それでも押されている現実。
ハイヴ攻略など遠い話・・・でした。


帝国は・・・“横浜”は、此処まで先を走っているというのに・・・。
米国のドクトリン崩壊を嘲笑っている場合じゃないですわね。


F-22Aは相手から見えないことで、対F-16キルレートが144に達したというけど、たとえ見えても旧OSでは対応できない応答速度と、異次元の機動概念が、ここまでの差を生む・・・。


今更、機動モデルを把握されるなんて今まで放置していた事柄を危惧している段階ではないでしょう。

XM3、そして進化し続けるこの3次元機動モデルの更新は、今後祖国奪還に向けハイヴ攻略を目指す我等にとってなくてはならぬもの・・・。


先ずはその洗礼をこの身に刻みましょう―――。


Sideout



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