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No.35776の一覧
[0] Muv-Luv Lunatic Lunarian; Lasciate ogni speranza, voi ch[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[1] プロローグ[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[2] 第一話 地獄への道は、善意によって舗装されている。[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:50)
[3] 第二話 善悪の彼岸[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:52)
[4] 第三話 Homines id quod volunt credunt.[カルロ・ゼン](2012/12/05 04:02)
[5] 第四話 最良なる予言者:過去[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:59)
[6] 第五話  "Another One Bites The Dust" [カルロ・ゼン](2012/12/13 02:31)
[7] 第六話 Die Ruinen von Athen[カルロ・ゼン](2013/02/19 08:41)
[8] 第七話 Si Vis Pacem, Para Bellum[カルロ・ゼン](2013/02/27 07:44)
[9] 第八話 Beatus, qui prodest, quibus potest.[カルロ・ゼン](2013/06/26 09:01)
[10] 第九話 Aut viam inveniam aut faciam (前篇)[カルロ・ゼン](2013/03/08 07:24)
[11] 第一〇話 Aut viam inveniam aut faciam (中篇)[カルロ・ゼン](2013/03/12 05:11)
[12] 第一一話 Aut viam inveniam aut faciam (後篇)[カルロ・ゼン](2013/04/25 09:45)
[13] 第一二話 Abyssus abyssum invocat.(前篇)[カルロ・ゼン](2013/05/26 07:43)
[14] 第一三話 Abyssus abyssum invocat.(中篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:38)
[15] 第一四話 Abyssus abyssum invocat.(後篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:37)
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[35776] プロローグ
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/05 03:39
サンプル、放置していきますね?










はははははっはははははははははははは。

嘲笑を響かせながら、彼女は嗤う。

だから言ったではないかと。

無能共め、散々よくも足を引っ張ってくれたな、と。

迫りくる戦車級は数知れず。
積み上げた闘士級の遺骸に至っては小さな迷路を作るに足る程。

担いだ対戦車ライフルの弾は完全に射耗。
手持ちの残弾は、アサルトライフル程度。
手榴弾に至っては、つい先ほど戦車級に投擲してくれてやったのが最後の一つ。

残存する手持ちの火器は最大でも小火器程度。
小型種程度には有効かもしれないが、戦車級や要撃級相手に小火器では絶望的だ。
自爆用の爆弾程度は残っているが、逆に言えば自爆ぐらいしか選択肢がない。


本来ならば、重機関銃で相手にするべき相手。
それに肉薄攻撃を繰り返して撃退している現状。
手榴弾も、重火器も底を突いてくるとなれば逃げだすしかない。

そして、それが許されるならば彼女は何もかも投げ出してどこまでも逃げただろう。

クソッタレの第四計画に肩入れしたが、しくじったらしい。

即座に発動された第五計画。
持てるものをかき集め、兵器廠のシェルターに飛び込むので精いっぱいだった。

そして、このざまだ。


だが、逃げ場など人類には最早残っていない。

ユーラシアは沈めた。
カナダが中央部を戦略核で焼き払った。
バビロン災害とそれに伴う塩害で僅かに残った大地も多くが不毛の地と化した。
エスカルゴとの対人類戦争でさらに貴重な物資と人的資源が浪費されたときは激怒したものだ。

無駄もよいところだった。

それがなくとも、ただでさえ復興に至れるか疑念がある状況だったのだ。
そして、海の底から再びつぶらな光線級の瞳がコンニチワだ。

たかが、たかが土木作業用のユニットごときに。
人的資本価値を垣間見ず、一切合財を排除する単なる末端ユニットに。
人類が、資本が、社会が、自分が蹂躙される羽目になった。

冗談ではない。

我々のシカゴ学派。
我々の市場。
そして我々の人的資本価値。

そのすべてを無視する低脳ども。
そんな連中程度に、そんな連中程度に。

市場原理に基づかない技術的外部性ごときに屈するわけにはいかないのだ。

襲いかかってくる兵士級に鉛玉をぶち込み、半生半死のそれをバリケード代わりに防戦して久しい。
合衆国が誇った兵器廠で山のごとく積み上げられた弾薬をうちつくすほどの奮戦。

だが、弾に限りがあり人間に限界があるにもかかわらずBETAはきりがない。

「クソッタレのBETAと神!このおとしまえは兆倍にして返すぞ。必ずだ、必ず存在もろとも殺してやる。」

崩れた防衛線の一角。
其処に浸透してくる小型種を吹き飛ばすべく、各所に設置されてある航空用燃料へ集中射撃。
食いつかれ、苦悶の表情のまま吹き飛ばされる部下の姿。
辛うじて再編に成功した情報軍の精鋭が、正規編成を保った一個師団が。

今では、わずかな区画の全周防御にすら事欠く兵数しか残存していない。

そして、それが人類有数の反攻勢力というのだから笑うしかないだろう。

「もうすぐここは陥落する。もうすぐそこまで化物が来ている。 
本施設よりこの通信を聞く『人間達』に最後の命令を送る
抵抗し、最後の義務を果たせ」

人間の価値を認めないBETAに対する反撃。
それが、究極的には人間の人的資本価値を最も貶める使い道でありながら最良の人的資源を投じざるを得ない矛盾。
ああ、市場は何処にありしや。何処にありしや。全資本主義者は知らんと欲す。

「非道い人だ あなたは 何奴も此奴も連れて回して 一人残らず地獄に向かって進撃させる気だ」

にこやかに笑いながら、BETAに向かって鉛玉をばら撒き続ける生き残り。

「それが戦争で、諸君のいう地獄はここだ。
 無限に亡ぼし無限に亡ぼされるのだ そのために私は諦観の夜を越え今、火の朝を迎えるべくここに立っている。
 見ろ、人類の敗北が来るぞ。 我らルナリアンは少なくともこれで勝利と共に滅びるわけだ。一勝一敗というところか?」

「狂ってますな、少将閣下。一体、何人部下を殺しておられることやら。」

「ありがたい。私の狂気は君らが保証してくれるというわけだ。」

笑いながら、残り少ない残存IEDを起爆。
時間も、人手も足りなかったがために即席も即席だがそれでも起爆すれば戦車級程度は吹き飛ばしうる。

そんな戦場で、にこやかに会話できる精神性というのは確かに『まとも』ではないのかもしれない。
だが、人間というのは状況に合わせて適応していく生き物でもあるのだ。

住めば都と、この世界のことを称賛する意図は分子レベルで存在しない。
だがそうだとしても慣れることはできる。
 
「ならばよろしい。ならば私も問おう 君らの正気は一体どこの誰が保証してくれるのだね? BETAにでも祈ってみるかね?
一体どこの誰に話しかけているか判っているかね?私が月面方面軍らしくハーディマンでもつけていれば良かったかな?
私は月で、欧州で、大陸で、東部で地獄の底を這えずりまわったルナリアンだぞ?一体何人部下を殺したと思っているのかね?
闘争と暴力を呼吸するかのように行う戦闘集団の生き残りに狂っていると?いかれていると?
何を今更!!半世紀ほど言うのが遅いぞ!!」

苦笑いしながら、取り出したるはショットガン。
暴徒鎮圧には有用だったが、兵士級にはいまいちな威力のそれ。
だが、選り好みできる状況でもない。

ドア抜き用の一粒弾が余っているを幸い、近接戦でばら撒くだけばら撒くが所詮手数で劣る残存部隊。
IEDで吹っ飛ばしたBETA群に対し、出し惜しみせずにひたすら鉛玉をフルコースで馳走。

ああ、もちろん。
とっておきのデザートも用意してある。

唯一残っているのは、たった一つの切り札。
おおよそ、切り札というにもおぞましい一枚の手札。
手札というには、余りに頼りない単なるゴミ札。

勝機はいくらだろうか。
千に1つか万に一つか?
いや、そんな高確率ではありえないだろう。
億か それとも兆か。

はたまた、それとも京だろうか。
だがそんな確率だろうとも、世界を渡ることができるのだ。

「デストロイヤー級、距離6000!突っ込んできます!」

主力戦車の120㎜を正面から弾きうる化け物の中の化け物。
流用した主砲弾のIED程度では、足止めにもなるかどうか。

ましてや、手持ちの火器での撃破は不可能。
対物ライフルですら、20ミリが良いところ。

戦術器の36ミリが正面からはじかれる装甲を相手にするだけ弾丸の無駄だ。
背後に回って、銃弾をばら撒くだけの単純な対応策すら取れないほどに人類は落ちぶれた。

「第七区画のS-11だ。点火後、後退。生き残りは、第三区画に集結せよ。」

何とも忌々しいことに。

対戦車兵器どころか、爆薬すら払底する物資の欠乏。
よりにもよって人類史上最強の生産力を誇っていたステイツが、だ。
デカブツすぎて運べずに転がっていた爆弾で施設ごと吹っ飛ばすのが関の山。

転がっている120㎜やら36mmやらを流用したIEDは撃つべき戦車や戦術機が尽きて持て余した窮余のしろもの。

だが、ステイツの意地とでもいうべきだろうか。
S-11に限らず、種類だけでいえば豊富に、かつ多様な兵器がここにはまだ残っている。
そして、死なばもろともの彼らは自爆すら辞さない。

ある意味では、もはや意地の類いの抵抗。
だが、S-11どころか奥に鎮座ましますのはアレだ。
ユーラシアを沈めた人類史上最悪の爆弾。
Fifth-dimensional effect bomb(五次元効果爆弾 )

何故あるのか、というよりもああ、やっぱりあるのかと思った時から最後の覚悟は決めてある。
それは、『次』への門を開きうるのだ。

それがたとえ那由他の彼方でも、充分。否、過ぎる可能性!!
0に比較すれば、それは限りなく0に近かろうとも、0ではない。

あのクソッタレの、BETA共。
人類社会を、市場を、秩序を破壊する連中は、断固排撃されねばならないのだ。
そのためにならば、確率論に滅びるわが身を委ねることなどいかほどでもない。

「…アレを使うぞ。」

「いよいよですか、指揮官殿。」

諦観と絶望、それでいながらすり減った感情がために銃を握り続ける兵士たち。
微かな生き残りですら、嫌悪感を隠しもしない禁忌の爆弾。

…だが、最低でも起爆に成功しなければ『次の可能性』すらない。

「起爆手順に入れ。減速材は全て放棄、極力即時臨界を目指させろ。」

最低限度の指示。
それを伝え、部下らが手順を実行するのを確信。

今、できる最善を尽くしたことを悟ったターニャは笑いながら通路を走る。

人事を尽くしたのだ。
兵士級に散弾を撃ちこみ、通路のバリケードとするべく放置。
動けなくなった兵士級は即設バリケードには欠かせない。
弾切れになったショットガンを投げ捨てながら、突っ込んでくる闘士級を角へ飛び込み回避。

囮の自分につられた闘士級が追ってくるのを、火点で待ち伏せている連中が制圧。
元より限られた生き残り。
その中で、頑強に抵抗する自分達の脅威度は、BETAの中で上がるに違いない。

そうなればより多くのBETAを道連れにできるな、と昏い笑いが思わず浮かんでしまう。

自分を喰らうがよいクソッタレのBETA。
私は、酷く高いぞ?














人類乾坤一擲の反攻作戦。
クソッタレのパレオゴス。

大規模反抗作戦特有の、どこか熱気がこもった兵員らの興奮。
積み上げられた事前集積物資の山々は、そこに込められた並々ならぬ不退転の覚悟のあられ。
砂塵を巻き上げ、東へ、東へとひたすらに途絶えることなく移動する車列は動員された規模を物語る。

多かれ少なかれ、司令部区画を行き来する将校たちですらその感情は共有しているものだ。

「これが見納めだ。偉大なNATO軍も、今日までだと思うと名残惜しいものだな、少佐。」

だが、司令部区画の一角で皮肉気に笑う女性だけは別だ。
彼女の口に浮かんでいるのは完全な嘲笑。

「…局長、お言葉を。」

僅かに、咎める言葉を発する副官の胃はもはや長い付き合いになりつつある胃痛を訴え始めていた。

『アレの副官は、長生きできないし心を病む。』

そう評される国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)局長、ターニャ・デグレチャフ。
国連人事階級上は、Assistant Secretary-General(ASG)相当官としての特命人事。


公式にこそ、同研究機関は国連機関という名目になっている。
だが実態は合衆国の特務機関、それもゴリ押しにゴリ押しを経て、設立されたばかりの。
その年齢に比較し、高すぎる地位と権限はステイツが保証したものに等しい。

そこまでされ、一般にはデグレチャフ次官補と呼ばれる彼女の仕事は対BETA戦略研究。

その分析の的確さは殆ど関係者の間では伝説的だ。
対BETA戦略に関する専門家らからは間違いなく第一人者として誰からも認められている。

『カッサンドラ』という本人の自嘲と共に。

「たった5年。或いは、5年も。分からんでもないがな。」

そのカッサンドラは、ただ知っていることを、知っているがままに語っただけだ。
BETAという存在の非常識さ、その既存戦術・戦略とのミスマッチ。

そして、いずれも狂気の沙汰とされ挙句に引き起こしたのが『某重大事件』。
一時は越権行為どころか叛逆で銃殺されかかったほどの事件。

それでいながら、彼女は今や合衆国の戦略家にとって無視できない権威と化しつつある。

そのターニャにしてみれば、状況は最悪もよいところだった。

たった5年だ。

月面から、たった5年。
子供たちが、月面のニュースを理解できるようになったころには戦場は地球に移っているのだ。
それだけの短い年月。

世界がそのパラダイムの変化に対応できないまま朽ちていく5年だった。
それは、人間という種族にとって新たな天敵であるBETAについて学ぶにはあまりにも短すぎる年月。

だが、視点を変えれば5年もの負け戦だ。

5年もの長きにわたる泥沼の敗戦。

投じた鉄量、投じた人命、失った国土。

人類は5年という長きにわたって未曽有の後退を強いられている。
未来の顛末を知らねば、これが人類にとって最悪の時代だろう。
だが、BETA大戦史から見てみればたったそれだけの後退でもある。

ヨーロッパは健在であり、インド、中華、中東、極東の各戦線は安定。
相対的にせよ、BETA相手の戦争でまだマシな時期ですらある。

まだ、ましだからと言って慰めにもならないだろうが。

「状況を説明してやろう。大尉。」

地図に書き込まれた物量。
前の経験では、ついにパレオゴス以後回復しえなかった規模・質の水準。
それを、失うということのインパクトをまったく誰も予期しえていない。

…この世界にある特徴としては、『希望』を抱いての大規模反攻ほどろくでもない結果に終わるということに違いない。

「BETA相手に物量でこちらから挑むという発想がくるっているのだ。」

救いがたいことに、無駄な攻勢と意味のない戦闘によって人類は摩耗していく。
あの土木用作業機械相手に、まともに数で押すことは完全に無意味そのもの。
奴らにしてみれば、資源採掘が最優先であり人類は一種の災害に近いとみなされているのだ。

だから、ハイヴからの攻撃は通り一遍的なもの。
だが、ハイヴからの反撃は文字通り熾烈そのものだ。

開発の片手間で行われている攻勢で滅びかけているのが現在の人類だ。
知っていれば、人類圏でこれほど大騒ぎされている反攻作戦ほど虚しいものもないだろう。

パレオゴスは欧州の崩壊を招く。
それは、本来ならば欧州を守るべき兵力を使い潰してしまう。

コミーのメンツに付き合ったがために。

第五計画に至っては、全面的な勝利を確信して攻勢に出た挙句全滅に至った。

希望の元に進撃し、未来を焼き尽くすとは全く言いえて妙だ。

「兵と物資の無駄遣いもよいところだろう。」

地上を埋め尽くさんばかりの大兵力。
これが、人類の盾で矛である軍事力が。
全て、有象無象の塵芥として消え去る運命にあるのだとすれば。

まったく、なんと勿体ない使い方。
兵士というのは、物資というのはもっと効率的に使われねばならないのだ。

「安全保障理事会に報告。自殺行為だ、といってやれ。この程度の戦力でハイヴが落とせるわけがない。」

新兵器として配備されつつある戦術機は、いまだ十二分に信頼できる兵器とは程遠い状況。
JASRAで行っている運用研究のレポートや戦術研究にしても、手探りの状況にある。

そして、のろのろと動いているF-4の姿。
ロボットが戦争をするということに感銘を受けている連中には申し訳ないが。
あれでBETAと戦いハイヴに突入するなど自殺行為だ。

それ以前にあれで、光線級吶喊でもすればさぞ盛大に遺族を量産するに違いない。
何より悲劇的なことに、戦車や長距離砲兵にとってワルシャワ以東の兵站状況は最悪だ。

BETAが散々平地にしてくれたので、移動することは可能だろう。
だが、地形に起伏がない一方で路面状況は舗装されていないのだ。
軍が集団で移動すれば、泥濘地と化すのは時間の問題。

こんなところで、欧州方面の全戦力を乾坤一擲の作戦に投入。
戦力集中の原則は、正しい。
ただしいが、それは戦力集中によって敵に対峙ないし勝利できる場合に限る。

勝てない相手に対しては、こちらの主力を捉えられないように分散して敵の弱きをたたくべきなのだ。

「わざわざ、敵の拠点に此方から遠征した挙句に追撃されて装備を失うだけだろう。無駄もいいところだ。」

夢と希望に満ち溢れた勝利のイメージ。
全く、馬鹿馬鹿しいことこの上ない現実を見るべきだった。

しかも、わざわざご丁寧に大規模反攻作戦をメディアに嗅ぎ付けられる始末。
これで失敗した時、希望が反転した社会情勢が不確実要素を増加させることだろう。

そもそも、第三計画司令部発の陽動有用性とやらに乗るのが気に入らない。

データが正しかろうが、間違っていようが、ソ連のために動員されるようなものは気に入らなかった。
対BETA諜報という計画そのものを否定するわけではない。
概念として、発想としてBETAという種を理解しようという姿勢そのものは真っ当な敵を知る戦略の一環。

…だが、こちらがあちらを学習しているとすれば、あちらもこちらを学習している気がしてならないのだ。

「こちらは呉越同舟。どころか、碌に指揮権も整理できていない寄せ集め。」

まず陣営が違う。
その上に所属国家が違う。
星を肩につけた方々も多すぎる。

そして、フランスの様に攻勢が無謀だと割り切ってパレオゴスに不参加を表明した国はまだましだ。
参加するか、参加しないか碌に軍内部の意見形成もできずに従軍している連中の足並みの悪さときたら!

「事前計画の策定に幾ら時間がかかったと思うか?論外だ。」

会議は踊る、されど進まず。
その典型例として、パレオゴス司令部を付け加えるべきだと評されるほどの小田原評定。
戦略目標一つにしても、双方ともに微妙にずれる始末。

BETA野戦軍撃破による欧州の防衛を主張するNATO。
ハイヴ攻略による、国土防衛と奪還に重きを置くWTO。

そして、摺合せに近い議論の末に決まったことは指揮権の分割。
BETA群を撃滅するべく陽動をNATOが担当し、主攻としてハイヴ攻略をWTOが担当。

一見すると、双方の利害に配慮した解決策でもある。
実際、勝っているうちはこれでも機能するのだろう。

「一事あれば、周集狼狽して崩れるのが目に見える。」

だが、躓けばどうか?
5年前まで、双方が相手を仮想敵と認識していたのだ。
どう考えても手に手を取って、人類が勝利という未来は思い浮かぶはずもない。

「結局、勢いで発動された攻勢計画にすぎん。戦争は合理的にやるべきなのだがな。」

「これだけの戦力ですよ?損耗を厭わず攻略を意図すれば、さすがにハイヴの一つくらいは落とせるかと。」

だが、それは結果論だ。
知っているものだけが言える、傲慢な分析ですらある。
合理的ということは、同時に非合理的なものを斬り捨てることから始まるのだ。

「少佐、それは無理だ。私は確信しているよ。全滅したところで、ハイヴの攻略は絶望的だ、と。」

誰が知ろうか。
BETAにしてみれば、ハイヴの建築・整備の方が対人類よりもはるかに優先度が高いということを。
奴らは、別に人類に対して左程の優先度もまだおいていない、と。

資源回収中に、邪魔されているという程度の対応。

だが、資源集積場であるハイヴは断乎として防衛するだろう。
外でうろうろしているBETAならばともかく。
スタブ内部で連中の群れを突破し反応炉に至るというのは非現実的だった。

まして、人類の剣たるべき戦術機は未だ『ひよこ』もよいところ。
こんな状態で勝てるのであれば、人類は対BETA戦争で全滅に至るはずがなかった。

「失敗の影響は甚大だろうな。ユーラシアは落ちたも同然。ならば、それを前提に損切を考える時間だ。」

そして、相手を見誤ったあげくに自分たちの都合で行動した結果が各所での敗戦だった。
二度と、二度と無能共に足を引っ張られるわけにはいかないのだ。

奴らの利害に引き摺られ、叶わぬ夢のために滅びるべきではない。

本来ならばNATO加盟国は、エスカルゴの様にパレオゴスに反対すべきだった。
ソ連の自殺的軍事行動に追随するのではなく、共産主義者という盾が滅んだ後に備えるべき時期に入っているのだ。

「…ユーラシアの失陥を見過ごすと?」

「ふん、ユーラシアで死んでいるのは共産主義者だぞ?」

「局長!」

思わず、口をはさむ副官。
間違っても、国連軍の高位研究技官が口にしていい言葉ではなかった。

なにより、彼女程の立場にある人間が口にすれば。
それが、合衆国の本音と取られない実に微妙な問題を含んでいる。

「奴らが化け物どもと戦い時間を稼ぐ。その間に我々が反攻のための力を養う。」

だが、ターニャにしてみればそれは単純明快な真理。
国連軍の介入を断り、ハイヴからBETA由来技術の鹵獲を願ったあげく。
しくじった連中の尻拭いがこのユーラシア戦線でしかない。

出し惜しみせずに、最初からカシュガルを焼いておればこんなことにはなっていないのだ。
それを、月面総司令部時代から彼女は叫んでいた。
曰く、BETAという相手を侮るな、と。
水際迎撃こそが、人類にとって唯一絶対の選択肢だ、と。

「ハイヴを独り占めしようとしたあげくに、泣きついてきた間抜け共だぞ?自業自得もいいところ。」

それを聞き入れられなかったばかりか、後手後手に回っている情勢はターニャにとって不愉快そのもの。
コミーが勝手に戦死していく分にはハラショーと叫んでやってもよい。
敵の敵は味方という理屈で、交渉できるならばBETAとお友達になったっていいくらいである。

問題は、BETAという新しい参入者はお友達を欲していないということ。

「我々に対する負の外部性がなければ、そのまま滅んでもらいたいくらいだ。」

いかんせん、BETAという災厄の水際防衛に失敗したコミーだ。
放置しておけば、そのうちに問題を解決してくれるだろうか?
あの無能なコミーどもが、である。
期待するだけ、時間の無駄もよいところだろう。

だから、奴らの失策に合衆国が出て行って渋々面倒を見てやっているのだ。
いい迷惑此処に極まれりというやつだろう。
何が悲しくて、第三計画に延々援助した挙句に兵員と物資でもってソ連のお手伝い戦争なぞしなければならんのだろうか。

「其れだけだ。何が悲しくて、ヨーロッパの盾たるNATOをソ連のためにすり潰さねばならん」

これが、ヨーロッパに関係ない地域であればそれこそ断固として出兵拒否に走りたかった。
忌々しいことに、各国に潜り込んでいるコミーのシンパを一掃できなかったがために世論を扇動されたのは苦い思い出。

「宇宙人相手に人類の団結を見せるべきなのでは?」

こんな単純なロジックに、踊らされるべきではないのだ。
団結するのは大いに結構だが、団結して無用な土地を放棄して時間を稼ぐということを考える必要がある。
いつの時代も、団結が謳われるのは団結が欠如しているからに他ならないのだ。

そして、宇宙人相手に人類が何故団結すべきだろうか?
脱構造主義的観点から見れば、そもそも宇宙人だろうがコミーだろうが敵は敵だ。
『宇宙人』対『地球人』という対立構造軸は、地球人内部の差異を無視している議論に等しい。

軍事的合理性に従えない国家を含んでの団結など不可能そのもの。

…原作知識から推察するならば、ドイツで敵を阻止すべきなのだ。
ポーランド以東の情勢など、人類種の長期的利害のためにならば焼いてしまうべきものでしかない。
BETAに資源をくれてやるくらいならば、焦土作戦を為すべきである。

それを、どうも誰もかれもが認めようとしないのだ。

「ワルシャワ防衛であるというならば、考えよう。ベルリン防衛も真面目にやろう。」

ワルシャワならば、防戦するべき理由もある。
それは、ベルリンへの道なのだ。
断じて、BETAへヨーロッパ内部への門を開かないためにもその門は閉じておく必要があるだろう。

そのために、ポーランドを焼くことに異論はない。
忌々しい東ドイツとて盾になる限りにおいてその存続を許していいだろう。
だが、間違っても東ドイツのために西側諸国の安全を脅かすべきではないのだ。

それは、コストの問題で考えられるべきである。

コストが合う限りにおいて、東ドイツを支援し防戦に努めることもよいだろう。
だが、赤字ならば即座に西ドイツの防衛に全力を注ぐべきなのだ。

「だが、間違ってもソ連のための攻勢に付き合う必要があるかね?」

「…それは。」

「人が良すぎるな、我々は。」




末期戦へ、次の末期戦へ、次の次の末期戦へ!
一心不乱の真面目なループ敗戦モノを!

ああ、夢とか希望?

彼らは今、ちょっと別のところへ用事があって行っているんだ。

地獄で大急ぎ再編中なんだよ、すまないね。

なにか、伝言いたしましょうか?

こんな感じのゲテモノ作品に耐えられる末期戦患者ウェルカム。


気分屋だから、ニーズがあればホイホイ。なければ、気が向いたときにでもこっそりと。
そんな感じで投稿していこうかなぁいう次第。


追伸
コミーの表記に誤りがありました。ミスを犯した主犯は懲罰大隊へ送っておきました。人道的に続編を書くように自己批判しておきます。ZAPもしました。追加でZAPの発注を行いました。


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