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No.35776の一覧
[0] Muv-Luv Lunatic Lunarian; Lasciate ogni speranza, voi ch[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[1] プロローグ[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[2] 第一話 地獄への道は、善意によって舗装されている。[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:50)
[3] 第二話 善悪の彼岸[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:52)
[4] 第三話 Homines id quod volunt credunt.[カルロ・ゼン](2012/12/05 04:02)
[5] 第四話 最良なる予言者:過去[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:59)
[6] 第五話  "Another One Bites The Dust" [カルロ・ゼン](2012/12/13 02:31)
[7] 第六話 Die Ruinen von Athen[カルロ・ゼン](2013/02/19 08:41)
[8] 第七話 Si Vis Pacem, Para Bellum[カルロ・ゼン](2013/02/27 07:44)
[9] 第八話 Beatus, qui prodest, quibus potest.[カルロ・ゼン](2013/06/26 09:01)
[10] 第九話 Aut viam inveniam aut faciam (前篇)[カルロ・ゼン](2013/03/08 07:24)
[11] 第一〇話 Aut viam inveniam aut faciam (中篇)[カルロ・ゼン](2013/03/12 05:11)
[12] 第一一話 Aut viam inveniam aut faciam (後篇)[カルロ・ゼン](2013/04/25 09:45)
[13] 第一二話 Abyssus abyssum invocat.(前篇)[カルロ・ゼン](2013/05/26 07:43)
[14] 第一三話 Abyssus abyssum invocat.(中篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:38)
[15] 第一四話 Abyssus abyssum invocat.(後篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:37)
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[35776] 第一一話 Aut viam inveniam aut faciam (後篇)
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f789329c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/25 09:45


ミッションの概要を説明します。
ミッション・オブジェクティブは大規模BETA拠点、ミンスク・ハイヴへの限定攻勢です。
今回は、細かなミッション・プランはありません。
あなたにすべてお任せします。
あらゆる障害を排除して、目的を達成してください。

ミッションの概要は以上です。

国連軍は、人々の安全と、世界の安定を望んでおりその要となるのが、このミッションです。
あなたであれば、よいお返事を頂けることと信じています。

(´・ω・`)





戦争の仕方というのは、戦場の霧という要素を加味してもいくつかの原則が存在する。
収斂するならば、それは相反する要素を含む原則を矛盾させずに実現させるか、ということだ。
勝利条件を如何に達成するかという一点に絞られると言ってもよい。

そして、勝利条件を追求していく中で生まれるのが運用を最適化するためのドクトリン形成だ。
戦争というものの進め方に対する、民族・国家・体制の性格と言い換えても良い。
そのドクトリン形成に際して、最も顕著に個性が露わとなる一つが指揮官に対する裁量権の部分だろう。

歴史的に見た場合、組織的な軍機構における裁量権の範疇は常に試行錯誤が続いている。
情報の制約、各級指揮官の質、政治と軍事の兼ね合い。
幾多の要素が各級指揮官に求められるものを左右しているがために、それは常に変化せざるを得ないのだ。

それでも傭兵から常備軍というオラニエ公マウリッツの軍制改革以来、幾度となく繰り返されてきた試行錯誤から二つの主要な系譜が生み出されている。

一つは、与えられた任務を如何にして遂行するべきかという『任務遂行型』の運用。

任務の忠実な遂行を求める限りにおいて、指揮官は自己の命令がある程度忠実に履行されると確信して良い。
例え、無理な攻勢だと理解していようとも『アルデンヌで反撃せよ』と命じられた国防軍が忠実に履行したように。
この手の軍隊において、任務の遂行こそが最重要視されるのだ。
ドイツ・ソ連に代表されるように軍が命令への服従こそを美徳とする国家において非常に強い性質ともいえる。


もう一つは、与えられた兵力で何が可能かという視点からの『情報分析型』の運用。

この手の場合、ある程度の兵力とある程度の任務概要を与えられた指揮官は自己の判断で手当てができる。
『第34任務部隊は何処にありや 何処にありや。全世界は知らんと欲す』と呼び戻されたハルゼー提督。
彼の行動に見られるように、一定の裁量権を与えられた指揮官が自己の判断で適宜対応できるという点において柔軟性が非常に高い。
現場の裁量権をある程度認めるという意味においては、米英型ともいえる。

前者は、各級指揮官に最大限の『任務遂行』を求める統率であり、後者は各級指揮官に最大限の『戦果達成』を求めると言いえるだろう。

『任務遂行型』は任務遂行のために下級指揮官に多数の俊英を充て将校の質で困難な任務を突破しようとし。
『情報分析型』は代替可能な組織化された手持ちの兵力で何がコンスタントに可能か?というアプローチの違いでもある。

実際には、両者を組み合わせたうえで何が求められ、何を為すべきなのか?という視座から運用されるのが健全な指揮系統だ。

尤も最良のケースとしては、マレンゴにおけるドゼー将軍の運用だろう。
ボナパルトから彼に与えられた任務は、敵を追えというもの。
『後退中の敵』の退路を扼し、包囲殲滅を確固とせよという厳命。

命令の求める任務に忠実であるならば、ドゼー将軍の指揮する戦力は決戦場たるべきマレンゴを離れるほかになかった。

が、結果的には情報を分析した結果与えられた命令に疑問を抱いたドゼーが正しかったのだ。
それ故に、ドゼー指揮下の部隊はボナパルトが失策を悟ったときにすぐに反転しえるように備えていた。
反転したドゼーとその指揮下の部隊はボナパルトを文字通り救っている。

与えられた兵力で何を為すべきであり、同時に何が可能であるか?という指揮官の疑問。
手持ちの兵力で為すべきことは、決戦への参加であると理解していたドゼーの判断能力は正しかった。
何が一番効果的に手持ちの兵力で可能であるかと彼は知っていたのだ。

故に、大戦略の観点から彼は与えられた『任務』ではなく軍事上の『必要性』を優先した。
ドゼーが示したのは確固たる情勢判断能力により『敵』を叩くという基本の優先だ。
そして、かくまでも優秀な将帥を揃えていたフランス軍は数的劣勢すら跳ね返しマレンゴにて奇跡を為した。

最悪の事例としては、ワーテルローでボナパルトが兵を委ねたグルーシー将軍の失態だろう。
彼は、与えられた『任務』を全てと見なす軍人だった。
それ故に、彼は『何を為すべきか?』という疑問を抱くことを拒否したのだ。

曰く、皇帝陛下が命じられたのだ、と。

それ故に、最後の最後でボナパルトは勝利の女神に見放されたのだ。

もっとも、そうでありながらも大半の軍隊が任務遂行型を一般に求めるのも別に戦理を無視してのことではない。
無理もない話で、つじーんやら無茶口やらに兵力だけ与えて『自由にしてよし』などと統率を放棄すれば結果は定理も同然なのだ。
(逆に、上司が無茶口将軍@ビルマ戦線ならば発作的に前線指揮官が独断で部隊を下げたくなるのだろうが。)

必然、各級指揮官に与える裁量権のバランスと統率の厳格さとは絶妙なバランスが求められる至難の業となる。


なればこそ、戦時においては一元的な指揮権の運用が絶対に必要不可欠とされるのだ。本来ならば。
何時だって、戦争が理想的な準備が整った状態で始まったことなどない。

…米ソに加えて各国寄せ集めの『国連軍』でマトモな運用など夢のまた夢。

バンクーバー協定で名目上、統合されたとはいえ所詮紙面上で成立したばかりにすぎない国連軍だ。
緊密な統制を保っての運用など、机上の空論どころか机上ですら危ぶまれる次元。

そして、多国籍軍の運用というのは平時であっても全く容易ではない任務なのだ。
少しでも多国籍軍を運用すれば一日で理解できるに違いない。異質な文化、異質な運用形態、異質な軍機構。
こんなものを無理に一元運用などすれば、運用だけで司令部が瓦解しかねない。

良くも悪くも、米軍が指揮権を断じて手放したがらないというのは統合の困難さとシステム面の課題をいやというほど理解しているからでもある。

このため、早々と緊密な一元的運用に関する限り国連軍司令部は既に手綱を投げ捨てている。
初期の国際協調の試験的なケースなのだから、今回のドリルをもとに次回以降に活用できれば御の字、と。
実際問題、各国軍に対し『間引き』の概念を伏せてもなお国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)の提案が有用なのはそこに理由がある。


人類共闘といえば聞こえは良いが、実際所統制のとれていない烏合の衆で近代戦など悪夢にすぎない。
なればこそ、相対的にせよ戦線の安定化につながりつつも損耗を抑制し、かつ国連の旗のもとに手堅く戦争というのは渡りに船なのだ。
北欧戦線における限定攻勢は損耗抑制を前提とし、他所では望みえない程の緊密な火力を用意してあるのもその表れ。

誤射さえ回避できればそれでよい程度の運用でも、なんとか様になっている。
そして、適切な火力支援が与えられる限りにおいて第一世代機とはいえ欧州戦線で好まれるF-5の機動性はまあ、我慢すれば使えないほどでもない。
加えて、鈍重で飛ぶこともできる程度のF-4とて光線級のつぶらな瞳に見つめられない限りは機動で戦えた。
各戦線から、かき集められた艦隊を主軸としての火力支援と兵站の補完は作戦の成算を高いものとする。

このような状況下、国連による統合的な各国軍の運用試験を兼ねて実地されていた前哨戦は概ね大過なく完遂された。
厳密に言うならば、概ねセオリー通りの損耗率で成し遂げられた、ともいう。




JASRAに属する高級士官らの頭を占めるのは、未だ兵器としては揺籃期を越えられていない戦術機の信頼性。

「ソ連の新型、アレの稼働率はどうにかならないのか?」

「初期トラブルも中々難しいようです。…カタログだけならば、この戦域における最も優れた機体のはずなのですが。」

頭を抱える軍事官僚同士の愚痴にしても、辟易とはしていても絶望とは別種のそれだ。
何を切り捨てるか選択しなければないという訳でもなく、現状に対する不満を積み上げていけるのは幸せなことだろう。
まあ、ターニャとしてはできれば自分がいないところでやってほしいと思わないでもないのだが。

とはいえ、部下らとて弁えないはずもなく休憩中の談笑だ。
それを止める権利は、軍と雖も認めていない。
精々、できれば他所でやってくれということだろうか。

しかしまあ、機密保持の必要性から隔離区画以外で話すという選択肢が他にないのだからこれも仕方ない。
むしろ、外でべらべらと喋らない良識を讃えるべきなのだ。

「そもそも整備要員の教育も課題でしょう。その意味では、まだソ連は良くやっているかと。」

「大陸中央の情勢を考慮すれば、止むを得ないだろうな。戦術機甲部隊を維持できているだけでも、ほとんど奇跡だ。」

そう、こんな酷い醜態をさらしているソ連北欧派遣部隊の稼働率でさえも。
『各戦線』の実態に比較すれば『マシ』という現実を外でペラペラ喧伝されてはたまらない。
国連軍の旗の元、人類が一丸となって反撃するという一大プロモーションも兼ねているのだ。

ウロウロしている従軍記者に嗅ぎ付けられて余計な騒ぎを起されてもたまらない。
ジャーナリスト連中に、勝てないなどと騒がれて敗北が蔓延されては困るのだ。

そんな思案を脳裏で弄びつつ、ターニャは眼前に積み上げられた報告書の山に辟易しつつも眼を通し続ける。
書類で手狭になりつつある机を恨めしく思いながら、ターニャも愚痴を吐きつつペンを動かすしかない。
貴重な戦訓と問題点の洗い出しのために手を抜くわけにもいかないのだ。

だが、戦訓以前にターニャにしてみれば単純に第一世代機の限界を目の当たりにしているというほかにない。

「山のような艦隊火力支援下ですら、光線級吶喊はシャレにならん損耗率か。」

重金属雲の規定濃度を保ちつつ、戦艦が弾薬廠を空っぽにする勢いで砲弾を吐き出し続けての損耗率。
一か八かの光線級吶喊に比べれば余程緊密な支援が提供されているにも関わらず、それでも軽微とは言い難い水準で損耗が出ている。
北欧戦線での経験から地形を上手く活用できているスウェーデン軍が多少ましな程度。

「運用で誤魔化せるレベルではないぞ、これは。」

結局のところ、戦術を如何に駆使しようともBETAとの損耗比を分析するターニャの愁眉は開けない。
ミンスク・ハイヴを『攻略せよ』と叫んでいる連中があまりにも多いが、手持ちの戦力で何が可能かと考えれば実に絶望的だろう。
そもそも、間引き作戦としては異例なほど気合が入った艦隊支援を用意しての損耗率2割見込みだ。

戦術機の初期トラブルや稼働率、機械的信頼性の問題が解決されていないのも一因ではあるが運用の次元ではもはや覆し難い領域にある。

「LWTSE計画で開発している例の二機。前倒しで配備してくれれば楽なのだがなぁ…難しいか。」

「データ取りが目的の機体でしたか…そこまで使えると?」

うんざりした表情で、手元の書類と格闘しているウォーケン大佐にしても、ターニャにしても仕事は各軍からの戦訓収集だ。
代替戦略模索という本来の任務通りと言えば任務通りの職務。
とはいえ、人為的ミスの山を突きつけられて延々と同じような失敗を見続ける仕事でもあるのだ。

前線指揮官としてではなく、予備戦力指揮官として前線情報を分析するウォーケン大佐としてもターニャとそう大差ない意見だった。
なにしろパレオロゴス作戦崩壊以来、合衆国衛士としては最も経験豊富な部類に属するベテランでもあるのだ。

当然、F-4とF-5という第一世代機の能力限界も早々と悟らざるを得ない。
だからこそ、口から漏れ出る愚痴は次世代機をさっさと前線に回せという余念なのだ。
無論、ベテランなればこそ新兵器というものが一般的に忌避されるのは初期トラブルの多さということを知らないわけではない。

それでも、ここまで支援火力を揃えても“エア・ランドバトル”で航空兵力に期待されていた役割を既存の戦術機は果たし得ないのだ。

「存外安価な次世代機だ。F-4とF-5、という訳ではないが防衛目的ならば長距離侵攻能力を割り切った軽戦は魅力的な選択肢たりえる。」

防衛や間引き、という点からのみ論じた場合。
ターニャにとって一番重要なのは、数だ。
F-4の数的不足を補うために導入されたF-5の奮戦を見れば軽戦も決して悪くない。

BETAのごとき雲霞の土木機械相手に少数精鋭主義など無謀だった。
かといって、BETAと消耗戦に陥って人類に勝算があるわけでもない。

だからこそ、ある程度の質的優勢を望むのは理解できる。
だが、前提としてBETA相手には結局のところ数の問題なのだ。
ソ連が、中共が、損耗比に耐えかねていることが人類の数的劣勢を物語るのだから。

「詰まる所、数だよ、数。高性能機の少数生産など予算の無駄だ。」

だからこそ、前線で間引き作戦などという数的消耗を前提とせざるを得ない作戦を立案してのけたターニャは数を重視する。
この時代としては、かき集められるだけかき集めた戦術機甲部隊に艦隊と言っても『甲21号』の半数程度にも満たないのだ。
加えて、戦術機が第一世代機のみということを考えればさらに実戦力では開きがあるだろう。

各種戦訓の蓄積、分析、反映というプロセスを否定するわけではないが運用以前に手持ちのカードが悪すぎる。

「戦訓をもとに、安価で大量調達できる次世代機、それも防衛を念頭に置いたものを配備すべきだ。ほかは、それからだろうな。」

なればこそ、戦術機の開発・調達におけるプロセスで各国が『反攻』の矛を望んでいる状況下でターニャは『持久』の盾を望んでいる。
人類には、未だそれは余りにも早すぎる願望なのだ、と。

実際問題、追いつめられた人類の行く末を考えれば『破滅的』と語られる現在の戦局すらBETA大戦末期では『理想的小康状態』にすぎない。
苦戦しているとはいえ、ユーラシアは失陥しておらず、それどこか欧州心臓部すら未だ健在。
人類の人口や、資源地帯は未だ大半が手つかずであり石油資源の枯渇も憂慮せずに済んでいる。

なればこそ、その観点から国連軍統合代替戦略研究機関(JASRA)は常に持久を叫び続けることで前線国家に疎まれ続けているのだが。

まあ、当事者にしてみれば無理もない話だ。
未曽有の脅威に祖国が晒されている中、他人事のようにその国土で如何に時間を稼ぐかなどと論じられて平静であるのは難しい。
国難を、四半世紀は甘受してくれと内々でターニャが考えていることをしれば我慢の限界となることは間違いないだろう。

「では、事務次官補。長距離侵攻能力は時期尚早とお考えでしょうか。あれならば、ハイヴを直接たたけることも期待されていますが。」

「難しいところだ。悪い機体ではないと思うのだがな。」

そして、その腹の底までは知らないにせよ。
上司であるデグレチャフ事務次官補が徹底した防衛主義者という事くらいはウォーケン大佐とて察している。
何より、口々に持久の必要性を唱えて『欧州大反抗』に初めから批判的だった上官だ。

戦術機開発のアプローチにしても、矛よりも盾を望んでいるということはウォーケン大佐も理解できた。

問題は、現状で一番初めに使い物になりそうなのは海軍が血眼になっているF-14程度という事にある。
加えて衛士としてのウォーケン大佐がみる限り、F-14は第一世代の機体を遥かに隔絶する性能を実現した新世代機たる機体だった。
運用側の意向は兎も角、搭乗者としてみればあれならば大半の戦局に従来よりも遥かに容易に対応が可能だろう。

長時間前線に張り付けるという事は防衛にも当然有利であり、なにより人類悲願の大陸反攻の先鋒たれる。
鼻息荒く、我武者羅に海軍が配備を前倒しで行わせるだけの価値がないとは思えない機体と評価できるだろう。

なればこそ、ウォーケン大佐はふと思うのだ。
持久の重要性は否定しないにしても、防衛から一歩踏み込む性能を持った機体も整えるべきではないのか、と。

「海軍さんが開発しているF-14は性能的には完璧だがコストが嵩む。大量配備には疑問だな。空母専用と割り切るべきかもしれん。」

そして、実際ターニャにとってもF-14は実に判断が難しい機種だった。

出身母体の空軍とは微妙な関係が長らく続いているだけに干渉しがたかったというのもある。
だが、そもそも海軍の戦術機開発ドクトリンは空母運用を前提としている為に他軍とは前提からして違う。
限られた搭載機数に最大限の性能を希求せざるをえないという前提からして陸上運用とはスタート地点が違いすぎた。

限られた数で、多数の要求される任務を可能とすべく徹底した設計が行われているのは間違いない。
最初期の第二世代機でありながらF-14は必要最低限度という点では十分すぎる水準を実現しているのだ。
長距離侵攻能力、継続戦闘能力、マルチロールの追求、重火力化などと質の重視が徹底している。
それどころか、戦術機では実に珍しい複座仕様によって投射火力と索敵性能の強化まで踏み込まれている時点で高すぎるのは目に見えているだろう。

もっとも、それでも世界中に展開している海軍だけに危機感が高かったらしい。
海軍が一丸となって推進したこともあり、F-14に至っては近々実戦配備が完了する見込みという内聞だ。
そして、高価であり整備性に難があると雖も能力だけ見れば十二分以上の水準でもある。

故に、許されるならば喉から手が出るほどに北欧に欲しいという気持ちがないでもない。
高性能機の大量配備が叶うならば、という条件付きではあるのだが。

「何より、複座で運用に空母クラスの整備を必要とする時点で前線向きではないだろう。」

「本国では、隔絶した性能故にすべてに目を瞑れると考えているようですが。」

「あの能力が魅力的なのは認めるがね、結局は数だ。あれは、揃えられるとは思えない。」

実際問題として、ターニャの属する国連が名目上統合した国連軍は各国軍の寄せ集めに等しい。
装備も、ドクトリンも、言語もバラバラの各国軍を統合する際に採用するべき装備にF-14ではコストが嵩みすぎるのだ。
後方要員の教育、補充部品の手配、製造ラインの調整。

民主主義の兵器廠から、人類種の兵器廠とジョブチェンジした合衆国の工場とて生産力に限界はある。
まして、欧州の主要な工業地帯が東側を例外に未だ健在であってなお生産力に課題が残る状況。
認めたくはないが、効率という観点から論じるならば『単なる土木機械』に人類種は製造効率で劣るのだ。

不愉快極まりない現実を飲み干し、対処療法として持久戦術を唱えざるを得ない程に人類には余裕がない。

「とまれ、戦術機の講評はさておき運用面については見るべきものがあるのを喜ぼう。」

だが、それらの長期的な課題はさておき。
表向きのお題目である国連軍の統合運用という観点で見た場合、一応納得できた。
少なくとも、ターニャの見る限りにおいては。

「まず、各国の統合運用は上手くいっているようで何より。」

「本気ですか?」

「崩壊していない時点で成功だよ。それで?損害はどの程度だね?」

あのソ連と米国とNATOとWTOの不愉快な仲間たちで呉越同舟をやらかしているのだ。
崩壊せず、曲りなりにも怪しいとはいえ共闘できているのだから合格点とターニャは考えている。
無論、通信や連携の齟齬は山のように報告書と化して積み上げられているのだが。

だが、それでも一応報告書が残せる程度には統制を保って軍機構が機能しているのだ。
分析は今後の課題でもあるが、一先ず一元的な指揮権というお題目だけでも守れているのは素晴らしい。
国連軍司令部が寄せ集めも同然であり、米ソの暗黙裡の駆け引きに翻弄されるとはいえ一応指揮権が確立できているのだ。

パレオロゴス作戦の頃に比べれば随分と進歩している、とターニャは前向きに事態を肯定的に受け止めている。
人間、初めから期待していなければそれなりの結果で満足できるらしい。

「経験未熟なNATOを中心に4個中隊程度。加えて、機体トラブルもあり同数程度のソビエト機が脱落しております。」

「素晴らしい、予定通りではないか。海岸への誘引は?」

そして全軍の2割に達する100機近い損害、というのもターニャにしてみれば第一世代機の間引きでそれならば悪くない。
限定攻勢という作戦の性質上、破損機の回収や衛士の損耗が後退戦に比較して少な目というのも損害の内訳を軽くしてくれる。

「ほぼ、予定通り上手くいきました。対BETA戦における予定通りというのは、異例ですな。」

「物量に、物量で対抗する奇策に頼らない王道の戦術なればこそだよ。だが、上手くいって本当に良かった。」

なればこそ、ほぼ予定通りに間引き作戦の第一段階が完遂されたことにターニャは心底安堵しえていた。
物量というBETAに対し、人類の保有する艦隊戦力を地球の裏側に近いところまで含めて根こそぎ動員したのだ。
これで、BETAに対する間引きすら覚束ないとなれば本格的に手持ちの兵力で欧州防衛は完全に諦めていたところである。

少なくとも、史実に比較すれば長くDDRを中欧の防壁として活用しつつミンスク・ハイヴを北から牽制しえる自信が持てたのだ。
北欧戦線の価値は、ターニャにとって人類種の橋頭堡であり、同時に欧州防衛に不可欠な間引きを行い得る絶好の地理である。
四半世紀持ちこたえよ、とは望めないにしても大幅に人類の前線を保ちえるだろうというだけで随喜もの。

共産主義者の血肉で、自由と資本主義を守らせるというのも悪くはない。

「これで、少なくとも一定の程度は持ちこたえられるだろうな。…間引きが、上手くいけばハイヴの成長抑制も叶う。」

「ええ、その通りかと。しかし、海軍の支援は想像以上に有用ですね。…まさか、戦艦の時代が来るとは。」

「私に言わせれば、宇宙から侵略者が来る時点でおかしな時代だよ。」

「今更ですな。」







あとがき
日本と違い、4月が年度初めでもないし暇あるかなーとか考えてたけど存外余裕がありませぬorz
気分的には、ADE651を配備したからもう大丈夫!というくらい甘い見積もりでした。
敗北主義的要素はいけませんが、現実も直視しないとなぁという次第。

なお、全然関係ないスレを楽しみに拝見していると幼女の率いる戦闘団がブラックそのものとかいう風評被害も。
『突き抜けないとブラック極まりないぞあそこはw 』って。
そうか、よそ様にはそんな風に思われてるのかとそれと無くホワイト風味を加味するかなぁ…と悩んでます。

(´・ω・`)シンセカイ
ホワイト風末期戦モノ! 


書籍化の報告をこっちでするのもちょっと変ですがぼちぼち進んでます。
イラストと、細かいところやら何やらで担当さんと相談中。


で、担当さんから解説にSDターニャをつけましょう!とか言われて担当さんも渋いセンスだなぁと勘違い。
『SD?…はて、SD?SDなんて出してないのだけど…ああ、あれか第三局のSD風味で解説とな。(。+・`ω・´)』
確か、何かの本でSD第三局は現実を見てたから敗北主義的とか言われたし、その故事に倣うのですなと一人合点。

SDって、親衛隊情報部じゃなくてスーパーデフォルメでちびキャラのことなんですね。勘違いしてましたorz
(まあ、気が付いたからノーカンで。)

ほうれんそう大切。

以下、担当さんとの愉快なやり取り(一例)。

担当さん:イラスト、希望あります?(´・ω・)
カルロ:あ、『それっぽい』軍装でお願いします(`・ω・´)ゝ
担当さん:分かりました、何かイメージってありますか?(´・ω・)∩
カルロ:こんな感じのでお願いできますか。(@´∇`@)
担当さん:大丈夫です。(≧∇≦)b
カルロ:あ、あと『ちょっとしたこだわり』が。( ´∀`).
担当さん:はい、なんでしょう?o(゚▽゚*)
カルロ:『カルロゼン的ちょっとした』こだわり。(o ̄∇)o<
担当さん:・・・(`・д́・;)?

順調に進んでます!


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