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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "見知らぬ明後日"
Name: 686◆6617569d ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/10 19:03
"見知らぬ明後日"



 国道178号線をひたすらに東進し、鳥取砂丘南を大した抵抗も受けずに素通りしたBETA群は兵庫県入りの瞬間に跡形もなく蒸発した。国道178号線に設置されたS-11弾頭が起爆し、戦術核並の威力と評されるその爆風と熱線が突撃級と要撃級から成る先頭集団を呑み込んだのである。先頭を往く突撃級の正面装甲は堅牢であり、またその巨体が盾の役割を果たした為にその効果はせいぜい200ないし300の大型種を仕留めたに過ぎなかった。
 後続のBETAがすぐさま行動不能となった先頭集団を押し退けて、前へ躍り出て順調な東進を再開しようとする。こうして新たに、要撃級を主として戦車級がちらほら混じる先頭集団が形成され、彼らは兵庫へと侵入せんとする。

『2番起爆!』

『2番起爆!』

 その様を監視していた工兵連隊は、再び起爆装置のキーを廻した。
 最初に起爆した弾頭の10m後方に配置されていたS-11弾頭が爆発し、新手のBETAを一掃してみせた。突撃級の数も少なく、比較的軟らかい要撃級から成るBETA群に対する効果は絶大であった。密集隊形をとったまま愚かにも突進してくる彼らは、指向性をもった爆風と衝撃波に曝され、無慈悲にも後方へと洗い流されるかのように吹き飛ばされる。爆風に曝された小型種は接地もかなわず空中へと弾き飛ばされ、大型種の死骸に叩きつけられて四散し、舞い上がった突撃級の外殻は後続のBETA群の頭上に降り注ぎ、大量の同胞を圧死させた。
 高性能爆薬S-11は、防衛戦における時間稼ぎに最良の兵器であった。破壊力こそ従来の大量破壊兵器たる核兵器に劣るが、起爆時に指向性(爆風・熱線の向き)を自由に選択出来る為に、S-11を連ねる形で重複配置することも可能であるし、S-11弾頭の後方に友軍を待機させておくことも出来る。防衛戦においては一旦起爆すれば周囲を無秩序に破壊する核弾頭よりも、指向性を持ち一定範囲のみを破壊するS-11の方が使い勝手がいい。

「第42戦術機甲大隊、交戦開始」

「交戦っつっても、結局はS-11の取りこぼしを狩るだけだからな。気楽なもんだ。震動センサーと地中用レーダーに異常はないだろうな」

 兵庫県西県境全線には7月11日現在、近畿・北陸・東海地方のあらゆる基地、軍需工場、果ては戦術機から掻き集められた500はくだらない数のS-11弾頭が設置され、BETA群を待ち構えていた。地中侵攻対策としては、BETAが地中侵攻する際に出す騒音・震動を捉える震動計と地中を探査するレーダーによる監視網を張り巡らせている。仮に地中に動きがあれば、現在は予備戦力として京都で睨みをきかせている帝国陸軍第1師団、第16師団といった精鋭師団と、ことに正面装備の優秀さでは正規軍に劣らない斯衛軍(第2連隊)が、これに即応し撃滅する計画だ。

 在日米軍の戦術核集中運用、新型爆弾使用案に衝撃を受けた本土防衛軍統合参謀本部、帝国陸軍中部方面軍司令部によって築かれた第一帝都絶対防衛線は、兵庫県以西を焦土としながらもその役目を十全に果たし、何の綻びもみせないままにBETA群を弾き飛ばして揺るがない。天候回復も成り、海を圧す帝国海軍連合艦隊の日本海哨戒網はその機能を回復、また四国地方では九州地方からの援護を受けて、未だ第40師団(高知)・第55師団(善通寺)が粘り強い抗戦を続けており、近畿地方南部が奇襲を受ける可能性はほとんど無くなっている。
 九州地方は奇跡的にも中部に強襲上陸したBETA群の撃滅に成功しており、また更に北部戦線も8割以上のBETAを既に海へと追い落としつつあると帝国陸軍西部方面軍司令部は、本土防衛軍統合幕僚本部に報告していた。

 帝国領防衛の総指揮を執る本土防衛軍統合参謀本部には、7月7日のBETA九州北部強襲上陸以来悲観的な空気が漂っていたが、ここにきてようやく雰囲気が和らぎ始め、参謀達も蘇生した思いでいた。やらねばならないことは山積している、緒戦を巡る大失態の責任追求もあろう、自身の首は繋がらないかもしれない――だが日本帝国滅亡だけは回避したぞ、と。

 実際には彼らのあずかり知らぬところで、破滅が迫っていた。

 本土防衛軍統合参謀本部にいっさいの非はない。
 ただBETA地球侵攻以来、敗北を重ねてきた人類の歴史がいま日本帝国に最悪の結果をもたらそうとしていた。



―――――――



 人の口に戸はたてられないとは、よく言ったものである。
 国営放送では一貫して虚飾に塗れた戦況を報じていたが、いよいよまずいという噂を聞いた近畿・東海・北陸地方の民間人達は方々へと避難を開始しはじめた。
 以前より各市町村行政は疎開を指導しており、また7月7日以降避難"命令"も出ていたが、やはり自身が慣れ親しんだ土地を捨てて見ず知らずの他地方へと移るのは簡単に決心できるものではない。市民達が普段から抱いている帝国陸海軍への絶対の信頼は、「BETAは九州で撃滅されるであろう」という楽観に繋がり、故に「慌てて他地方に避難し、火事場泥棒に逢ったのではたまらない」という思考に陥らせていた。
 だがBETA九州上陸後も交通機関・行政の麻痺(受け容れていた九州・四国・中国地方の避難民と、近畿・東海・北陸地方の民間人、合わせて約3000万が東へ逃れようというのだから当然の現象であろう)を理由に、関東・東北地方への疎開を渋り続けていた彼らも、「呉を巡って激しい戦いが起こっている」だとか「いや、既にBETAは兵庫入りしようとしているらしい」といった噂話を耳にすれば、嫌でも重い腰を上げずに入られなかった。
 ……しかしそういった風聞にも動揺することなく、全く疎開の動きを見せない人種が集中する地域もあった。

 征夷大将軍と皇帝陛下のおわす帝都、その中枢たる京都市である。

 彼らは平時より京都近郊に駐屯する帝国陸軍第1師団や、正面装備の充実ぶりならば正規軍にも優るとも劣らない斯衛軍の勇姿を目にしており、地球外生命体だか何だか分からない賊軍など帝都を前に戦場の露と消えると信じきっている。
 また何より帝国臣民の精神的支柱たる将軍が帝都を離れないことも、彼らの心理に少なからずとも影響を及ぼしていた。古風な考え方をもつ一部都民は、征夷大将軍の下で武家と帝国将兵が敵軍を迎え撃たんとしている最中に、自身のみが後方へ逃げ隠れするのはどうも後ろめたいと思っていた。また普段から武家を小馬鹿にしている連中も征夷大将軍や皇帝陛下以下が未だ京都を脱出していないということは、つまりまだまだ京都は安全であるか、あるいは他地方よりも堅固な防衛体制が敷かれているということではないか、と邪推していたのである。
 有力武家である"黄"や"赤"とは異なり、比較的地下(庶民)にその距離が近い"白"の武家の中には、無責任にも市井にて「戦とならば民草は恐れる必要はない」「どうして慌てふためきこの帝都を捨てる必要がある?」と鼓吹する者も多かった。影ではそれを「ヒラ侍が何を言ってやがる」と馬鹿にする者もいただろうが、それでもそんなものかと納得する人間も少なからずいたであろう。
 中には勿論、使用人に「ここは戦場になるから」と手づから金子を渡して暇を出し、懇意にしている庶民に軍事機密に抵触しない範囲で精一杯の忠告をする武家の人間もいたが、後者よりも前者の方が遥かに声が大きかった。
 ようやく我らの出番が来たと勇躍する武家と、戦う力もなくただただ時流に翻弄される他ない庶民の姿に心痛める武家。誰も彼らの行動を責めることは出来ないし、後にその責任を追及することも出来ない。彼らは等しく討ち死にする運命にあった。前者は心底自身らがBETAを討ち滅ぼすと信じていたし、後者は"神州"、"1000年の歴史をもつ帝都"が特別にBETAの魔手から逃れられるとは思っていなかった。どちらにしても彼らの判断を指弾することは、決して出来ない……。

「この帝都を離れることは末代までの恥ぞ! まだ齢20にも達しておらぬ御方が戦に臨まれようとしているというに……お前も元防人ならば恥を知れ!」

「なあ、いい加減にしてくれ。時代錯誤にもほどがあんだよ……」

 京都市山科区の某家では戸主である老人とその孫が、帝都を出る出ないで論争を繰り広げている。
 今年で79歳となる老人はかつて大東亜戦争における南方戦線に従軍したという経歴の持ち主であり、足腰は多少衰えたとはいえその気勢は往年より全く変わっておらず、凄まじい怒鳴り声をあげて孫に意見……というよりは説教をしていた。対する孫は大陸戦線帰りの元戦車兵であり、戦線復帰不可能なまでの戦傷を負った為に本土帰還と共に退役した身だった。その意味では対BETA戦の現実を帝国国内で、どこまでもよく熟知している人間である。

「御向かいさんは親戚を頼って青森行き、三丁目の磯野さんとこに至っては、どんな伝手を使ったが知らんがオーストラリア行きだぜ。さあ俺らもこんなとこに執着してても仕方がないんだよ。ほら兄貴も千葉(ウチ)に来いって言ってたろが――」

「出て行くのならばお前だけ行けばいいだろうが!」

 激昂して杖を振り回す父を前に、申し訳程度の握力しかもたない右掌を額に乗せてため息をついた息子は、くそこのジジイは何も分かっちゃいないとだけ思った。幾ら1000年の帝都を枕にやんごとなきお方が戦死されるからといって、俺たちが殉死する必要はまったくない。

「……いいか言っとくけどな、まず斯衛軍なんざ対BETA戦争には何の役にも立たねえ。帝国陸軍だって民間人を懐に抱えて戦いたくはないだろうよ」

 斯衛軍なぞはどこまでも城内省の私兵に過ぎず、まともな軍隊組織ではない、というのが彼の考えであった。現役時代はよく彼らのことを「はりぼて」と嘲ったものである。80年代から戦術歩兵戦闘機といった、高価な"玩具"を買い揃えてきた斯衛軍。それだけで帝国陸軍に肩を並べたつもりでいたのだろうが、一方で砲兵科・工兵科・補給科といった後方支援を任務とする兵科を軽視する風潮がある(部隊によっては一切そういった兵科をもたない)。――彼らはBETA戦において、「押し寄せる賊軍に鬼神も啼く防戦を繰り広げるも、多勢に無勢、全員壮絶な討ち死にを果たす、悲劇の武装集団」を演じることしか出来ないであろう。彼はそう、斯衛軍を評価していた(実際には斯衛軍諸部隊の編成は機密情報であり、これはあくまで彼の先入観に基づいた評価である)。
 逆に帝国陸軍には全幅の信頼をおく彼だが、物事には絶対というものはない。
 ……大陸戦線がいい例だ。当時の東亜戦線には"核兵器"という究極のオプションを保有する人民解放軍や、米国の支援を受け西側諸国製の戦術歩行戦闘機や主力戦車等を揃えた韓国軍、質では前者に劣るが"量"、特に兵站をよく支えた大東亜連合軍、そして実戦経験が乏しかったとはいえ、質に恵まれ定数も満たしていた優良師団が揃い踏みする日本帝国大陸派遣軍が参加していた。だが戦況は人類劣勢のまま推移し、消耗に次ぐ消耗の後に戦線は破綻したではないか。
 そして民間人の避難速度を軍隊の後退速度が上回った時に戦場で何が起こるかといえば、BETAと他ならぬ軍隊による大量虐殺である。大型種に轢殺され、小型種に食いつかれる民間人を前にした東亜戦線の将兵は、ある者躊躇うことなく、ある者は命令されるまま機械的に、ある者は抗命に抗命を重ねた末に――BETAと市民が一緒くたになった混沌へとあらゆる火砲を向けた。
 実際に彼(孫)も某所にて、この大虐殺劇に加担していた。
 後続を小型種に食いつかれた避難民の大群へと105mm戦車砲を指向させた彼は、躊躇いもなく発砲を命じたし、砲手は躊躇いもなくそれを実行した。横陣を敷いた戦車中隊の放った12の榴霞弾は、逃げ惑う大量の民間人と僅かな小型種を吹き飛ばし、次に放たれた12発の榴霞弾が僅かに生き残っていた民間人と大量の小型種を絶命せしめたことを、彼は一生忘れないであろう。

 象と象が争う時、傷つくのは草だ――。

 どうせやんごとなきお方はいざとなれば脱出するに決まっているであろう、そうなると結局は帝都に居残る民草は哀れBETAの腹の中に納まるか、他でもない帝国陸海軍の砲火に倒れるしかない。
 ……たとえあらゆる交通機関が麻痺していたとしても、一歩でも最前線から離れてやるのが銃後の務めというやつだと、彼は信じていた。

「この帝都が陥ちることはない!……この帝都に賊の手が伸びるくらいならば、もはや日本帝国は消え失せるであろうよ。どこに逃げても無駄だ」

「人は別に郷土を、国土を棄てても生きていけるもんだよ、爺さん」

 共に敗戦した戦争に従軍したふたりだが、神州不滅を信じ護国の盾としての役割を果たしぬいた前者と、各国から流入してきた避難民を目の当たりにしながら何も出来ず、ただひたすらに人類全体に奉仕する剣として働き、"親から与えられた生来の"両眼と四肢を喪った後者とでは思考に大きな隔絶があった。
 ……どちらも、正しい。
 戦局がどう転ぶか分からないBETA大戦真っ只中のこの時代では、あらゆる意見・思考が正解になり得るし、間違いにもなり得るのだから。



―――――――



「……田中あおい十翼長。麦穂落ちて新たな麦となるように、彼女は落ちて新たなものとなる。その身と魂は、我らの知らぬところで新たな生となるだろう。……次もまた、ともに戦う戦友となることを願う。良い旅を。ゴッドスピード」

 日本国九州地方から日本帝国九州地方へ敷地ごと転移した各高等学校では、体育館や運動場を利用して戦死者を悼む葬儀が行われていた。葬儀といっても僧侶が経をあげる訳ではなんでもなく、校長や担任の教師が戦死者の名前を全校生徒の前で読み上げ、学兵お馴染みの文句となっている言葉を一言二言掛けるだけの簡単な儀式である。幽体化と実体化を繰り返し、戦線に休まることがない熊本戦に参加する学兵に、他者の死を悼む為に与えられる時間はあまりにも少なかった。
 特に九州中部戦線における戦闘で、多大な戦死者を出した第5戦車連隊の学兵達が通う尚敬高等学校では100名を超える女子生徒の名前が読み上げられた。

「――大平勝子戦士。麦穂落ちて新たな麦となるように、彼女は落ちて新たなものとなる。その身と魂は、我らの知らぬところで新たな生となるだろう。……次もまた、ともに戦う戦友となることを願う。良い旅を。ゴッドスピード」

 知人の名前が読み上げられる度に、生徒達は身を震わし葬場にはざわめきが起こる。ゴッドスピード、と冥福を祈る言葉を紡ぎながら、かの一連の戦闘を生き延びた鐘崎春奈戦車長は(あの子、死んじゃったのか)と知人の死を心中で確認した。
 恐らく故人と同じ中隊かクラスに所属し、大変親しかったのであろう少女が嗚咽しその場に崩れ落ちる。周囲の人間が彼女を連れて、未だ葬儀の続く体育館を去る――鐘崎にとってはもう見慣れた光景であった。敵軍に対して勝利を収めたとしても、ひとりの戦死者も出ないということはあり得ないのだから。



「生徒会連合役員一同は、今後全学兵に士気阻喪の動きが出ると考えています」

「……軍紀を引き締めてもダメだろうな」

「はい。学兵は"日本国の"九州地方、及び後背に控える郷土、家族、友人を幻獣から守るためならば無制限に戦意を高揚させ、従来どおり無類の強さを発揮するでしょう。ですが――」

「"日本帝国の"九州地方、見知らぬ市民を賭けた戦場ではその限りではない、ということだな」

 その通りです、と幾島佳苗は頷いた。
 各高等学校で行われた集団葬儀終了後、九州軍総司令部(開陽高等学校生徒会室)では林凛子九州軍司令、芝村勝吏幕僚長(参謀長)、そして生徒会連合本部がおかれている南芝村高等学校の生徒会長、"稲妻の狐"を駆る幾島佳苗による話し合いが行われていた。
 林凛子が組織のトップ、芝村勝吏が作戦部のトップならば、幾島佳苗は前線部隊のトップに立つ人間である。専用ウォードレス"稲妻の狐(ライトニングフォックス)"をもち、戦場で縦横無尽に駆け巡る幾島は、前線では鬼神と称されるが、平時では何処の高等学校でもひとりはいるような眼鏡を掛けた知的な女性、そして九州軍司令に直接意見を言える人間の中で一番学兵の心理を理解している人間であった。

「私とて納得した訳ではありませんが、ここが"日本帝国"九州地方であり、敵が幻獣とはまったく出自を別とする宇宙生物"BETA"であったということが明らかとなれば、学兵達は不満を抱きます」

 青春を擲ってまで学兵達が戦うことが出来るのは、あくまで幻獣軍と戦うことが家族や友人、生まれ育った街を守ることに繋がるからだ。職業軍人でもない彼らが、その守備範囲を無制限に――つまり異世界人を、異世界の国家まで――広げることは出来ない。いや、まだ相手が幻獣軍であれば納得も出来たであろう。異世界でなんであれ、幻獣を一匹でも殺すことは元の世界を救うことに繋がるかもしれないからだ。だが相手は全くの別勢力である。
 確かに「全く関係ない世界であっても追い詰められた人類を見過ごせない」、という学兵もいるかもしれないがそれは稀有な例であろう。大抵の学兵は真実を知れば、「徴兵されてまで、まったく関係ない世界(国家)でまた別の敵性勢力と戦うなんざ馬鹿馬鹿しい、何故異世界の戦争に命を懸けなければならないんだ」と考えるに違いなかった。

「九州中部戦線における先の戦闘は自衛的要素が多分に含まれていましたから、学兵達も一応は納得するでしょう。ですが今後、日本帝国と関係を深める中で中国・四国・近畿、日本国外へ学兵部隊を派遣することになれば――」

「承服しない学兵部隊も出てくると?」

「……九州軍10万の学兵が相撃つ事態も想定すべきかと」

 幾島佳苗が提示した最悪の未来予想は、荒唐無稽と断じることは出来ない。
 八代に上陸したBETAとの戦闘は、自身の生存圏である熊本を脅かされたということもあり、自衛戦闘ということで学兵達も納得するであろう。だがしかし九州軍総司令部が、学兵達を無制限に対BETA戦に参加させれば、彼らは激発するかもしれなかった。
 各高等学校には充分過ぎるほどの武器弾薬が貯蔵されているし、日本国九州地方の各都市を略奪すればある程度は持久戦の構えをとることが可能であり、これを鎮圧するのは骨が折れることは間違いない。
 しかし日本帝国との協力路線を棄てることは、いまの九州軍司令部には出来ない。両国間(両軍間)に協定や条約等は未だ存在していない以上、現時点で日本帝国九州地方において日本国陸上自衛軍の存在が許されているのは、現地軍である西部方面軍が黙認しているからに過ぎないのだ。もしも今後の交渉の中で「我が軍は自衛目的でのみ、具体的には九州地方熊本県内においてのみ対BETA作戦行動を取ります」などと表明すれば、間違いなく話はこじれる。
 一応、芝村勝吏幕僚長(参謀長)は解決策を考え出していた。

「熊本県外における作戦行動は、志願制とすればいいだろう」

 異世界の為に流血をも厭わない学兵達のみを志願制で集めておき、日本帝国の要請があればこの志願学兵からなる特別部隊を参戦させる。そうすれば内乱の危険性はぐっと減る。

「私も志願制案には賛成するけれど、あくまでも熊本県外に派兵すること自体を避けるつもりよ。最悪――いや、最良の事態が私たちに発生した場合は、彼らが取り残される可能性も考慮しなければならないわ」

 林凛子九州軍司令の方針は、"無制限の技術供与も兵器供与も辞さない構えで熊本県外への派兵を回避する"であった。何が作用して九州軍が、日本国から日本帝国に転移したかが解明されていない以上、またいつ日本帝国から日本国、あるいは他世界への転移が起こるのかが分からないのだから……。不用意に主力となり得る部隊を熊本県外に出せば、それをむざむざと失う羽目になるかもしれなかった。

 その後も九州軍の運命を左右する話し合いは続いていく。



 日本国と日本帝国あらゆる人間が生き残ることを目的として頭を働かせている中、何の関係もないところで全てが決定づけられようとしていた。
 まず第4世界から第5世界へと繋がっていたゲートを、悪意と絶望、より強いあしきゆめに感応した"かのもの"が別世界へと繋げ直したことに第4世界人は気づかなかった。それに気づかないまま、彼らは未だに第5世界へと繋がるゲートをハッキングし続けているつもりでいたし、第5世界への侵略路を現在も確保し続けているつもりでいた。
 次にやはり守るべきものを守れなかった兵士達の無念の声、生きたまま食われる己の運命を呪う民間人の声――呪詛と怨嗟の叫びに惹かれた、聖銃と"かのもの"に寄生された士翼号が第5世界を離れて漂流を再開していた。

 勿論このβ世界(BETA大戦世界)においても、その予兆がいっさい捉えられなかった訳ではない。世界各国が打ち上げていた偵察衛星は、中国地方、小笠原諸島、津軽海峡をすっぽりと覆い隠す白い雲(実際には霧・靄)を捉えていた。だがしかしそれらは、ありきたりな、あるいはちょっと不思議な自然現象として片付けられてしまった。

 第4世界軍。通称"幻獣"。

 第5世界の極東最後の拠点、日本国の陥落を目的とした一大攻勢作戦を彼らは発動させようとしていた。まず本州の食料庫・弾薬庫たる北海道の補給路を切断、また巨大な予備戦力である関東生徒会連合を拘束すべく、小笠原諸島を攻め上ることで日本国首都東京へと圧力を掛ける。そして思い切った飛び石作戦、中国地方に主力軍を投入し、順繰りに人類を絶滅させていく――本州・東京が陥ちれば、北海道・九州は熟柿が落ちるように陥落するであろう。それが幻獣軍の狙いであった。
 ただ前述の通り、彼らはゲートの機能が書き換えられたことにも気がつかず、β世界(BETA大戦世界)に侵略の矛先を向けようとしていた。

 異世界と異世界を繋ぐゲートを通過し、別世界に実体化する際にその姿を歪められてしまうその異形の軍隊は、いまは靄や霧といった形でしかβ世界に存在出来ないが――。







―――――――



まあチラシの裏だからなんでも許されるという訳ではないと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。

"かのもの"(彼のもの)とは物理法則の外にある存在であり、世界間移動さえする災厄そのものだといいます。それは世界全体に影響を及ぼす力をもっており、疫病やもっと異なる形態をとって人間を変質させたり、怪物を実体化させたりするそうで、第4世界人(幻獣)が第5世界に攻撃を仕掛けているのも、"かのもの"による圧迫を受けたかららしいです。

ガンパレやマブラヴオルタ等の世界観が好きな方は、小松左京さんの「見知らぬ明日」を読まれることをお勧めします。冷戦期真っ只中、航空機事故に巻き込まれた新聞記者の主人公は中国西部において、核兵器をも用いた"戦争"に遭遇。中国奥地では人民解放軍・ソ連軍と"敵"の間でNBC兵器の応酬がはじまっていたのです。だがしかし冷戦構造から中国・ソ連・米国間で情報の共有が為されないまま、"敵"の伸張は止まらずインド、モンゴル、ソ連領が脅かされる結果に。殺戮を続ける"敵"を前にして足を引っ張り合う人類、そして"敵"との戦闘は全世界規模にまで拡大――という粗筋です。人型戦車や戦術機のような"秘密兵器"は登場しませんし、グロテスクな宇宙生物等は描写されませんが、よくマブラヴオルタ等を語る上では"宇宙の戦士"、"宇宙戦争"といった古典SF以上に重要な作品であると私は考えています。



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