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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "幻獣の呼び声”(前)
Name: 686◆6617569d ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/07 23:04
"幻獣の呼び声"(前)



『こちら大空山3番観測所! 西方全域に敵影認む! 数は、数は――わからない! 観測可能な範囲全部に敵がいやがるんだ! 国道9号は連中で全部埋まっちまってるぞ! HQ、HQ! ――不通かよ、くそっ!』

『こちら城山2番、爆炎と煤煙が凄まじすぎる……。第一帝都絶対防衛線方面は――第53師団及び第118師団の守備範囲はもう何も見えない――何も――』

『こちら善防山ぁっ! 姫路市街炎上ッ! 新種BETAによる砲爆撃なおも止まず! 空中を飛翔する大型種の大編隊はなおも東進を止めない! 概ね時速約40kmで爆撃継続中! ――このままでは明石、ひいては神戸が灰燼になるぞッ!』

『こちら第111歩兵連隊本部だ! HQ、HQ! 第54師団本部、聞こえるか!? 現在、受け持ちには師団規模の敵勢が殺到中! 揖保川を盾に姫路市内への新種BETA群浸透を防いでいるが、もう少しばかり支援がないと保ちそうに……なんだあれは――』

『こちら第231歩兵連隊だ! 国道29号線に殺到している敵勢力は、控えめに見積もっても軍団規模(約5万)、いや軍規模(約10万)はいやがるぞ!』


(以上、7月14日0200時交信記録)






―――――――







 7月13日2100時。

 兵庫西県境に設定された第一帝都絶対防衛線は、火焔と煤煙の中で潰えた。
 降り注いだ1500万発の生体ロケット弾は、全線に渡って敷設されたS-11弾頭を薙ぎ倒し、小型種の浸透を阻止する為に防御陣地を形成していた歩兵連隊を蹂躙し、撃ち洩らした大型種に対処する目的で待機する戦術機部隊を直撃した。それどころかその大火力は前線より遥か後方にまで延伸し、BETAに対して砲撃を加えていた帝国陸軍砲兵連隊をも呑み込んで喰らい尽くした。長らく火砲をもたない敵との戦闘に慣れ切り、陣地転換の概念を忘れていた彼らは、1発撃てば10発の砲弾が返ってくるこの戦場で全滅した。
 この一方的な制圧射撃の中、幸か不幸か生き残った将兵は続いて地平線を埋め尽くす赤い光点の山を目撃した。中国地方に出現した幾千万ものその赤く輝く瞳は、破壊と殺戮の限りを尽くさんとぎらつき、瞬く。その光景が与えた衝撃は、どこまでも大きかった。
 積み上げた土嚢の裏で、あるいは転がった車輌の後ろで歩兵達は絶望し、帝国陸軍の誇りもなげうって異世界軍に背を向けた。
 ……その殆どは生きて、後方へと退がることは出来なかったが。

 第一帝都防衛線を固める前線部隊の行動は、3つに分かれた。

 この熾烈な砲爆撃を味方による誤爆と判断し(実際に砲撃はBETAをも一瞬で撃滅していた)、反撃をも試みないまま壊滅する部隊。
 敵・味方の区別なく落着するロケット弾の豪雨の中で、やむを得ず現防衛線を放棄して後退していく部隊。
 そして最後は、これを敵勢力――新種BETAによる砲撃だと断じ、敵中へと吶喊する部隊である。この熾烈な砲撃が我々へと向けられたものだとすれば、自分たちが敵中へと押し入って彼我混濁の状態を生み出すことで砲爆撃を回避することが出来るはず、死中に活を見出すとはこのことだ、とばかりに敵群へと殺到した。

 ……結局のところ幻獣軍へと突撃した部隊は、彼らに少しの被害も与えることが出来なかった。
 蠍に酷似した外見をもつ中型幻獣キメラや、複脚を蠢かす蛇の如き中型幻獣ナーガによる密集陣地の真正面に飛び出した彼らは、数千門、数万門の光砲に狙い撃ちにされてずたずたに引き裂かれた。光線級ほどの出力はないものの、それでも申し訳程度の装甲しかもたない戦術歩兵戦闘機や機械化装甲歩兵には充分過ぎる威力であった。それが槍衾ならぬ光衾となって、回避不可能な密度で放たれるのだからもうどうしようもない。

 そうして兵庫西県境の第一帝都絶対防衛線は、圧倒的な火力によって突き崩され、そこから幻獣軍700万と生き残った僅かなBETAが兵庫県内へと捻じ込まれていく。



 同2100時。


「民間通信網を速やかに接収しろ! なに、電電公社(日本電信電話公社)の連中が――? すぐに逮捕しろ! 役人は戦争を理解していないのか、とにかく近畿一帯の通信網をおさえるんだ!」

「衛星通信を介する回線(リンク)11から16はやはり沈黙。……衛星軌道上で何らかの異変が発生したとしか思えません。上空に出現した天体が通信に影響している可能性も――」

「各陸軍基地との通信はどうにでもなる! とにかく日本海全域に展開中の連合艦隊との通信を回復させることだ。連合艦隊の小沢提督はうまいことやってくれるだろうがな……第七艦隊との情報同期(データリンク)復旧も急がせろ!」



 恐慌状態に陥った本土防衛軍統合幕僚本部において特に繁忙を極めたのは、通信科の幕僚達が占有する一角であった。新たに出現した敵性勢力によって通信衛星そのものを破壊されたとはつゆ知らず、参謀達は衛星を介した通信網が沈黙した原因の究明、衛星通信再開を急がせた。特に衛星軌道上を周回する十数の通信衛星は、米軍第七艦隊と帝国海軍連合艦隊との情報同期(データリンク)、連合艦隊と海軍基地間の通信等を専ら担っている。これを復活させることが出来なければ、機動打撃群を有する第七艦隊は、そして超ド級戦艦を擁する連合艦隊は、ろくな連携も取れない二流艦隊と化す。

 また衛星を介する回線の不通に伴い、平時は衛星通信を利用していた部隊が一斉に大気圏内の通信回線で実施するようになった影響からか、軍用無線通信も不調が続いている。
 こちらの対策は容易に立てられた。
 民間通信網――日本電信電話公社が有する電話回線を接収することで、少なくとも陸上基地間の通信だけは確保、また大気圏内における軍用通信回線の負担を軽くしようという狙いがあった。
 日本電信電話公社は国営会社ではあったが、中には気骨のある者もいたらしい。「電話・電報を取り上げられた近畿地方の臣民は、どうやって連絡を取り合うのですか。苦しい逃避行の中で、家族と落ち合おうとするときにどうやって連絡を取り合えばいいのですか!」――そう言って激発する社員もいた。
 勿論その後抵抗する社員はすぐさま逮捕され、通信網は帝国陸海軍が掌握したが。

 結果から言えば後者はともかく、衛星通信を回復させようとする前者の試みはまったく無駄な努力だった。

 前述の通り制宙権を得た幻獣軍はその種別を問わず、宇宙空間に存在する人工物を全て破壊していたし、また海上を遊弋している"はず"の米軍第七艦隊各艦艇とその将兵は既に海底にて永遠の眠りについていた。
 突如として実体化した巨大なイカ――水棲幻獣クラーケンの大群がミサイル駆逐艦に絡みつき、百体、千体が一斉に運動してこれを水面下へと引きずり込んだかと思えば、海中に振り落とされた哀れな海軍将兵に海蛇型幻獣サーペントが喰らいつく。
 直掩の駆逐艦が効果的な対潜水・対水上戦闘を実施出来ない状況で、米海軍の力の象徴たる正規空母は艦底に幾つもの小孔をぶちあけられた。これはサーペントに寄生する水棲バカが、魚雷の如く殺到した結果であった。人類軍の運用する魚雷とは異なり、炸薬等は搭載されていないためにその威力は著しく低いが、それをやはり百・千単位で大量集中運用することで決定的打撃不足を補った。百を超える破孔を艦底に負った米水上艦艇は、ダメージコントロールも間に合わないままに沈む他なかった――。

 幻獣軍のテリトリーは陸上のみに留まらない。
 独潜水艦の活躍が光り、また自軍は米潜水艦による交通破壊に苦しめられた大東亜戦争の反省を深め、また海底を進行して渡海する対BETA戦を想定し続けてきた連合艦隊にとって、未知の敵勢力を相手とする対潜戦闘はまさに望むところであった。だがしかし高い対潜哨戒能力を誇る連合艦隊でさえ貴重な砲戦力である超ド級戦艦を、物量で圧す水棲幻獣クラーケンやサーペントから守り抜く自衛戦闘がやっと。
 仮に通信機能が取り戻されたとしても、彼らの相手をしながら陸上支援を実施することはどだい無理は話だった。



 通信機能の回復を試みる通信科参謀達の騒々しさとは正反対に、帝国陸海軍・在日米軍・国連太平洋方面軍の作戦部等各参謀が集合した会議場は重苦しい雰囲気に包まれていた。
 ぽつりぽつりと入る前線部隊からの報告を総括するに、どうやら帝都第一絶対防衛線が崩壊した"らしく"、遂に帝都の玄関口にてBETAとの一大決戦に臨まなくてはならなくなった帝国陸海軍は当然として、在日米軍をはじめとする各国軍の将兵の表情も酷く昏かった。彼らは指揮下にある自国部隊・自国艦隊どころか、現状では本国とも連絡が取れなくない状況に陥っており、自身が孤立したのではないかという猜疑心に捕われていたのである。
 実際のところ彼らの危惧は、杞憂に終わらない。人類軍の言葉を借りるのであれば、既に幻獣陣営の北米方面軍・南米方面軍・南ア方面軍は実体化を終え、現地軍と苛烈な砲撃戦を展開していたし、幻獣軍からすれば既に平定したはずの他地域でも彼我の間で殺戮と破壊の応酬がはじまっていた。
 だがしかしそうした情報は、衛星通信が利用出来ない現状では全く入手出来ず(近代には海底ケーブルによる電信設備等もあったが、管理が煩雑であって現代では完全に廃れた)、彼らは大なり小なり不安な思いを胸にしながら祖国より遠く離れた日本帝国での作戦会議に臨まなくてはならなかった。

 まず口火を切ったのは、国連太平洋方面第11軍の作戦参謀であった。

「まず第一帝都絶対防衛線の実情について、情報提供を願いたい。前線部隊の損耗程度によっては、遅滞戦術を以て時間稼ぎを行いつつ新防衛線を――舞鶴・明石以西に急遽定め、敵を撃滅すべきです」

 そうしてから会議の場を和ませようとしたのか、彼はハイスイノジンというやつです、と日本語で付け足した。西欧出身の彼は前年まで国連欧州方面軍の作戦部に務め、河川や山岳といった地形を用いた阻止戦略・阻止戦術のエキスパートとして知られており、本土防衛策に奔走する帝国陸海軍にとってはありがたい助言者になっている。
 彼の頭の中では既に、想定し得る最悪が組み立てられていた。
 既に絶対防衛線などと仰々しい名前が付けられた現防衛線は、BETAの衝撃力に耐え切れずに寸断済み。おそらく前線部隊が連隊、あるいはそれ以下の部隊単位で前面の敵に応戦している状態であろう。もはやこれを立て直すことは出来ないであろうから、日本海における国連・帝国両海軍の一大拠点である舞鶴と、四国方面から援護を見込める明石を結ぶ防衛線を新たに構築することで、神戸・大阪・琵琶湖運河、そして帝都の防衛に万全を期すべきだ、彼はそう考えていた。
 その新防衛線構築の為にもまずは、正確な最前線の情報が必要であった。
 現防衛線を放棄するか、しないかはともかくとして、他国軍の参謀達も情報を欲していた。
 国連軍に参加している各国軍はこの通信関係の混乱の中、最前線はどうやらBETAの侵攻に晒されているらしいことは独自の情報筋で掴んでいたが、その実情は全く分かっていない。

 中部方面軍司令部の参謀が立ち上がり、言った。

「前線部隊からはほとんど情報が入ってきておりません」

「ほとんど――つまり不確実であっても幾らかは報告があるのですか」

 実際、帝都第一絶対防衛線に配置された前線部隊から入る情報は、皆無に等しかった。それもそうである、折からの通信回線の不調に加えて幻獣軍の砲爆撃は各部隊の連隊本部や師団司令部を粉砕してしまっており、最前線で接敵した部隊の悲痛極まる訴えは一切後方へと伝わらない形になってしまっていたのだ。そもそも最前線で幻獣と交戦した前線部隊の多くは、その圧倒的物量に鎧袖一触叩き潰され、窮状を訴えることすら出来なかった。
 それでも弾雨の中を駆け回り、敵前逃亡の謗りも恐れず後方の司令部等に駆け込んで実情を知らせる将兵も少なからずいたことも確かであった。
 だがしかしそうした最前線の証言を鵜呑みにするほど、彼ら作戦部参謀はお人よしではなかった。

「ええ。第一帝都絶対防衛線より敵前逃亡したとみられる第53工兵連隊所属の兵卒が、第111歩兵連隊に"軍(約10~20万以上)規模のBETAが襲来"した旨を報告。ただ絶対防衛線後方にて予備戦力として待機中の帝国陸軍第64師団は、"現在、前線砲兵連隊及び連合艦隊は全力を以て火力投射中、火焔と土埃が巻き上がり、立ち上る煤煙に前線の様相は見えぬも優勢を確信す"る旨の報告を上げてきています」

「……彼らの報告を鑑みるに彼我拮抗している、といったところでしょうか」

「帝国陸軍中部方面軍司令部は、第一帝都絶対防衛線は未だ機能しており、全線に殺到中のBETAは軍団規模(約5万前後)と判断、これに対して前線部隊は事前計画に従い反撃を実施中であると推測しています」

「些か楽観視し過ぎているのではないか?」

 ……作戦部参謀達による会議は、互いの国籍を超えて極東のちっぽけな小島にしがみつく約1億の人命を救うことを目的に、慎重かつ真剣に進められた。
 だが彼らの考案する戦略・戦術は全てBETAを相手取ることを大前提としたものであって、BETAの上を往く圧倒的物量と火砲を有する幻獣軍を想定したものではなかった。
 この場に居合わせた参謀の誰が想像したであろうか。

 軍団規模、軍規模どころか、中国地方に出現した新たな敵性勢力が数個軍集団規模――約700万にも及び、第64師団の報告にあった前線砲兵連隊と連合艦隊による砲撃は、実際には幻獣軍中型幻獣による制圧砲撃であり、世界最強の米第七艦隊は琵琶湖に展開した艦艇を除いて海の藻屑となり、そして――。
 大気圏内における通信状況の回復と共に、凶報が立て続けに舞い込んできた。



「高松防衛中の第111師団本部より入電、"倉敷・岡山一帯にBETA見ゆ! また倉敷・岡山上空に多数の未確認飛行物体を確認せり! また前者・後者共に新種!」

「藤無山観測所より入電! "第一帝都絶対防衛線以西全域、敵影のみを認む。天地共に見ず、見ゆるは敵影のみ。友軍見えず。敵は当地に迫りつつあり、我自決す"――以上です」

「第125師団司令部から入電、"第一帝都絶対防衛線に殺到中のBETA群、いずれも新種と認む。曲射の形態で撃ちこまれる高速飛翔体、赤穂市一帯を蒸発せしめ、前線部隊は軒並み戦闘能力喪失"!」



―――――――



(こんなのどうしろってんだよ……!)

 歩兵達はみな一様に戦意を喪失して、ある者は捲れ上がった芝生の絨毯の上に転がる装甲車の裏にうずくまり、ある者は爆撃痕に出来た大穴の中に潜んでとにかく嵐が過ぎ去るのを待つだけであった。
 彼ら第388歩兵連隊は第125師団司令部の独断により、ただならぬ事態が発生している第一帝都絶対防衛線へ向かおうと赤穂城跡公園一帯に集結したところでまったく動けなくなってしまっていた。理由は、幾筋もの黒煙が昇っていく大空にあった。普段ならば幾つもの星が瞬き美しい月が浮かぶ夜空は今日、赤い光を全身に灯す大影に埋め尽くされていた。
 体長約40m。水上艦や主力戦車の装甲をぶち破る大口径光砲1門、全身に中口径光砲を14門備え付け、無数の爆弾倉を有する飛行船に似た怪物が、歩兵が見ることの出来る範囲の夜空全てを覆い尽くしていた。九州戦線では約2万体が投入された空中要塞、外骨格属浮殻科中型幻獣スキュラはこの日、異世界の中国地方に約10万体が実体化していた。10万とは出鱈目な数に思えるかもしれないが、幻獣軍の物量を思えばむしろ少ないと言えた(何しろこの空中要塞は90年代から、終戦に至るまで約70億体が就役している。第5世界・第7世界のベストセラー戦闘機MiG-21ですら約2万、スキュラと性能が似通っている重爆撃機B-17は約13000機前後、B-29は約4000機前後しか製造されていないのだから恐ろしい物量である)。
 彼ら10万のスキュラは勿論、ただ異界の空を遊弋しているだけではなかった。対空戦闘など全く考えていない人類軍に、非情かつ執拗な絨毯爆撃を実施して眼下を瓦礫の山にしてみせた。爆弾倉から放たれる生体誘導弾を地表に存在するあらゆる人工物に撃ち付けて根こそぎ粉砕してみせた上、逃げ惑う車輌や人間を14の射線で虱潰しに蒸発させていく。
 そこに戦闘員・非戦闘員の別はなかった。

「打つ手なしですか! 我々は何も――」

「限り有る予算の中、対BETA戦闘に不要な装備を更新出来る訳がないからな……」

 反撃の術もなく悔しそうに歯噛みする部下に、連隊長は努めて冷静につぶやいた。彼らも雑木林の中に隠れ、この空爆をやり過ごそうとしていた。既に指揮車や通信機材を載せた各種車輌は、飛行船に酷似した外見をもつ新種BETAのミサイル攻撃(?)によって吹き飛ばされてしまっていた。
 この新大型種に有効な反撃手段を第388歩兵連隊はまったく持っていなかった。仮に歩兵が携行出来る地対空誘導弾や自衛用の高射機関砲があれば、動きが緩慢で図体のでかいだけのあの怪物に一矢報いることも出来たであろうが、そんな高価かつ(対BETA戦において)無駄なものはまったく配備されていなかった。第388歩兵連隊の所属する第125師団全体で見ても、対空戦闘用の装備はほとんどないであろう。
 航空型BETAが存在しない以上、高価な地対空誘導弾を歩兵連隊に装備させるのはまったくな無駄であるし、自走高射機関砲は対地戦闘に転用すれば小型種掃討に便利ではあるが、せいぜいそれは機関砲数門でも代用可能な活躍しか期待出来ない。ただでさえ戦術歩行戦闘機の導入によって予算が食われている帝国陸軍に、地対空装備が普及していないのは当たり前といえた。

「だがここにきて新種の投入とは、してやられたよ」

 幻獣の存在を知らない帝国陸軍将兵にとって、中型幻獣スキュラは新大型種BETAに他ならず、空対地攻撃を可能とする新種の登場はあまりにも衝撃的であった。かつて光線級の出現によって人類は空を喪ったが、この航空型BETAの出現もまた対BETA戦の様相を大きく転換させるであろうことは間違いなかった。
 いま歩兵達はただただ、闇夜を切り裂いて高空から地上へと叩き落される赤い光芒をぼんやりと眺めることしか出来なかった。ある者は、嗚咽していた。かの米国を相手どった大東亜戦争でさえ、ドゥーリトル中佐による航空母艦から陸上爆撃機を飛び立たせるという奇襲爆撃以外、当時内地と呼ばれていた日本本土が敵影に脅かされることなどなかったというのに。

 第5・第7世界で跳梁跋扈する重爆撃機が軍事施設・軍需工場・市街地の別なく無差別に絨毯爆撃を実施し、艦載機の大群が日本国民を虱潰しに銃撃した歴史がこの世界でもいま再現されていた――。



幻獣の呼び声(後)に続く







―――――――







実際にはアジア太平洋戦争勃発以前に中華民国空軍機が九州地方上空に飛来、厭戦ビラをばらまいていた覚えがあります。

BETA・幻獣両陣営相手取るにしても、バビロン作戦発動後の地球(TDA)よりはまだ幾許か救いがあると思います。G弾の大量投入によって地球上からBETAの過半数を駆逐したかの世界、我々はもはや回復不可能なまでに荒廃した地球環境に注目しがちですが、たしか重力偏差の影響からか宇宙空間(衛星軌道)の利用も出来なくなっていた覚えがあります。つまり増援となるBETAの降着ユニットを大気圏外で迎撃出来るシステム(シャドウとか云ったと思いますが)は、もう機能していないことは間違いなく、ユニットが降着する位置によっては核攻撃も難しい(感知すら出来ない)のではないでしょうか……。ぶっちゃけTDAでバビロン作戦以後が描かれる以前は、「G弾ってちょークリーンかつすげー兵器じゃね? 横浜ハイヴ殲滅したしその跡地に基地が出来てるんだから影響も大したことねーじゃん、佐渡島だってG弾20発分のなんか凄い爆発でふっ飛ばしちゃったし、あと40発くらい世界中で使っても大丈夫なんじゃね?」とか思ってました。

エースキラーは間違いなくG弾なら撃破可能で、とにかく正体不明の障壁(火星ではない以上、星のかけらを用いた絶対物理防壁が展開することは出来ないことが救いです)を破る、無力化出来る大威力の攻撃を叩き込むことです。PBE、NEP、戦術核等は勿論のこと、TRPGでは対要塞砲なる代物でダメージを与えることが出来ているので、通常兵器ならば大口径艦砲等も有効だと思います。

京塚曹長に優るとも劣らない料理の腕をもっている人間はそうそういない為に、学兵達は最悪はまずい飯を食い続けなくてはならなくなってしまうかもしれません。料理上手といえば中村光弘や速水厚志がまず思い浮かびますが、前者は料理人が本職という訳ではないですし後者も家庭的な一面があるってだけなんですよね……。

感想掲示板の方で"バカ"についての疑問が寄せられていたので、こちらで解説させて頂きます。"バカ"は中型幻獣に寄生する小型幻獣であり、誤解を恐れず言えば脱着式の武器です。その機能は多岐に渡り、大型・中型幻獣の表皮に寄生することで装甲としての役割を果たす、あるいは生体弾として撃ち出される等、攻守共に用いられています。例をあげれば、体高9m、格闘戦に特化した中型幻獣ミノタウロスは腹部に1000体前後のバカを寄生させ、増加装甲兼生体弾として運用しています。
"水棲バカ"はオリジナル幻獣(そもそもサーペント、クラーケン自体、設定のみの存在)ですが、幻獣は基本的に群生・共生の形態をとるという設定があるので(作中の生体ミサイル・ロケット弾も実は小型幻獣です)、水中にバカに相当する小型幻獣が存在しないのはおかしいと考え勝手に登場させてしまいました。

次回は帝国陸軍と日本国陸上自衛軍側の会談と、姫路前面での幻獣軍と帝国陸軍の対決を描きたいと考えています。


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