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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "BETAの日"(後)
Name: 686◆6617569d ID:628e2dff 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/05 23:33
"BETAの日"(後)



 40mm高射機関砲から放たれる凶悪な火線は、押し寄せた蠍型幻獣の波を停滞させ、打ち砕き、一帯を血肉の海に換えてみせた。過去の戦場を振り返った際、対空機関砲は対地戦闘に転用されると大抵、"挽き肉製造機"といった血なまぐさい渾名を頂戴するのだが、この40mm高射機関砲もその例に洩れない。
 既に第2分隊員が個人携行する機関砲は、その破壊力を発揮して数十の中型幻獣を撃ち砕いていた。

「弾切れさえなきゃどうにでもなるな」

 ひとりの学兵が残弾を確認しながら、呟いた。強がりでも何でもなくそれは素直な感想であった。新登場の蠍型幻獣は単純に的がデカく、前腕を除いては殆ど非装甲で「どうぞ殺してください」とばかりに突っ込んでくるだけ。しかも生体誘導弾・噴進弾も生体光砲も持っていない。つまり接近を許さなければ、ワンサイドゲームで終わる。応射がないのだから、こちらも一々陣地転換をする必要はない。

『はやぶさ131号より入電! "ケバいデカブツ2、並走、県道250号を東進"。来島と大森は待ち伏せして仕留めろ!』

「了解」

『バスターよりデコチャン、250に対中2名。直協求む』

『デコチャン了解』

 分隊長に指名された来島と大森は、県道250号沿いの崩落し掛けている雑居ビルに身体を預けた。

 ケバいデカブツ、とは一目見た学兵曰く「トリケラトプスの頭だけで走っているような」新型幻獣である。これは厄介であった。正面装甲が堅牢であり、40mm高射機関砲では歯が立たない。恐らく99式熱線砲でも射貫することは難しいだろう。つまり歩兵の携行火器では一切抜けないということだ。
 だが相手が兵器である以上、弱点は必ずあるもので後面ならば40mm機関砲弾でも貫徹する。現在では、動物兵器である89式隼の航空偵察によりケバいデカブツの接近が分かれば、前進した学兵が廃墟に隠れて突撃をやり過ごし、後面に機関砲弾をお見舞いする戦術が採用されている。

「くっそ添田のヤロー、俺にばっか貧乏くじを引かせやがる」

 来島は40mm高射機関砲の長大な砲身が、身を隠す廃墟より飛び出ないように細心の注意を払った。新型幻獣の対人索敵能力がどんなものかは分からないが、デカブツの突進を喰らえば間違いなくお陀仏だ、用心に越したことはない。

「出張班展開終えた。現在位置はデカブツの走行コース内に入ってないだろうな?」

『待て……はやぶさ131号の観測では大丈夫だ。5秒後、デカブツとすれ違うぞ』



(5……4……)

 5秒のカウントダウンを来島は開始した。
 近くでは突撃銃が12.7mm弾を吐き出す音が聞こえる。第4分隊が協同して、周囲の小型幻獣を排除してくれているに違いなかった。重火器を抱え、中型幻獣に伏撃を喰らわせようと息を潜める学兵は、小型幻獣にとって無防備で鈍重な、格好の獲物である。

 小型幻獣の恐怖に気をとらわれていた来島は、すぐ地震にも等しい揺れとバケモノがまき散らすコンクリの砂嵐に襲われる。慌てて眼を瞑り、残りのカウント。

(2、1ーー!)

 パッと横を見れば目の前を、4mはある大黒柱の如き脚に支えられた緑色の高層建築物が通り抜けていくところであった。生きた心地がしない。
 加えて2秒数え、あんなの反則だろ、と心の中で悪態をついてから、隠れ場所から飛び出した来島、そして仲間の大森は40mm高射機関砲をたっぷり1秒半、その背中にお見舞いしてやった。あんな化物の突進に巻き込まれれば、命などない。ただやはりデカすぎる! 最悪だが、地面に這えば下腹部と地面、あるいは下腹部と脚の合間の空間を通り抜けて助かるかもしれないな、と来島は思った。
 そのデカブツも後背に40mm機関砲弾を受ければ、ひとたまりもない。

「よっしゃあ!」

「敵撃破ぁ!」

 あまり射撃が得意ではなく、力自慢故に対中型幻獣班に配属された大森も、今回の戦いでは殆ど無駄弾を出していない。大森はずっと理由を考えていたが、やっと分かった。新型幻獣は軒並みデカいし当たりやすいのがひとつと、誘導弾や噴進弾を撃ってこないので、落ち着いて照準出来るのだ。

「こいつ脚デカいし、正面からでもいけんじゃねえかな?」

「……確かに待ち伏せてて、方向転換した奴に踏み潰されるのはゴメンだよ。いまも死ぬんじゃないかと思った」



 後々語り継がれる馬鹿馬鹿しい事態も発生した。
 40mm高射機関砲を運用するのは第2分隊のみであり、当然押し寄せる中型幻獣に手が回らなくなる。
 前線を支える第4分隊では、案外数の多い"タコ助""蠍型幻獣"に悩まされていた。12.7mm弾では、装甲された前腕は勿論、胴体部を貫いても効果が薄い。少なくとも20mm機関砲以上の威力がなければ、撃破は困難だという話になった。

 そうなると彼らIQ400以上(※但しこの知能指数、第7世界の算出方法とは異なる方法をとっていると考えられる)の頭脳が導き出した"タコ助"への対処法はひとつであり、やはり蹴りしかない。
 彼ら第6世代クローンは、原種(オリジナル)のおよそ10倍の身体能力と強化骨格を持ち、更に装甲戦闘服(ウォードレス)を着用することで対幻獣兵器としての能力を十全に発揮する。その身体から繰り出される蹴りは、非装甲の中型幻獣の脚を吹き飛ばし、小型幻獣を屠る。
 但し中型幻獣には、生体光砲や生体噴進弾といった攻撃手段を持たない種はおらず、小型幻獣ですら戦斧を投擲してくる以上、普段の戦闘では白兵戦は積極的に行われないのだが、目の前の新型幻獣は飛び道具を持たないらしい。
 つまりこの新型幻獣、割と与み易い相手なのである。
 対中型幻獣装備をもつ第2分隊の手が回らない際、第4分隊は平気で"タコ助"の脚を千切り飛ばし、前腕を付け根からもぐ等、やりたい放題であった。何しろ"タコ助"の武器は前腕を大振りに振り回す格闘くらいなもので、いったん懐には入ってしまえば後は小型幻獣に気をつけること、蹴り殺した後に"タコ助"に押し潰されないことに気をつけるだけで良かったのである。



「対中型幻獣戦闘! "タコ助"だッ!」

 そして伝説は生まれた。
 またもや40mm機関砲弾の雨を潜り抜けた"タコ助"は、第4分隊の前に突き進む。すると何をとちったか、ひとりの学兵が全力疾走でその"タコ助"に向かい突進しはじめた。

「まずい、奴を止めろ!」

 誰かが叫ぶ。この時既にもうその馬鹿がどうなるか、ビジョンが見えていたのかもしれなかった。
 比喩ではなく、風となったその馬鹿はそのまま路面を蹴り、飛び蹴りーー特撮ヒーローの如き、綺麗な飛び蹴りの姿勢を取り、"タコ助"に突っ込んでいったのである。
 そして幸か不幸か、前腕によってその蹴りを阻害されず、右足は"タコ助"の頭部(尾ではない)を捉えた。

 そして右足はその表皮を突き破り、肉を穿って拡げてゆき、その凄まじい初速故に下半身と折り曲げていた左脚までもが凶器となり、その傷を拡げて中の肉にまで達する。
 瞬間的にこれはヤバい、とその馬鹿も気づいたのであろう、腕を突っ張ったがその突っ張った手までもが、あまりにも付けすぎた助走故に、凶器と化して"タコ助"の表皮を破り、肩まで肉の中に埋没した。
 最初に右足が表皮に触れてからこの間、1秒ない。

 つまりこの馬鹿は助走というにはあまりにオーバーな全力疾走により、その身を巨大な砲弾(勿論比喩表現だ)にまで昇華させ、蹴りで"タコ助"を吹き飛ばすどころか、右足から下半身、上半身に至るまでその身を"タコ助"の体内に埋めてしまったのである。

「やっば、抜けねえ! 助けてくれ!」

「ばっかやろお! 顔までいかなかっただけマシだと思え」

 "タコ助"から生えている、馬鹿はそこで思い当たった。もう少し速度を上げて突っ込んでいれば、恐らく頭まで"タコ助"に埋没していたであろう。そうなれば頸椎が破壊されて昇天か、救出されるまで息がもたず窒息死かーー死ぬかもしれなかった。

「抜いてくれえ!」

「ちょっと待ってろ!」

 馬鹿の尻拭いも大変である。結局彼らは"タコ助"を掃討した後、馬鹿をふたり掛かりで引っこ抜いた。







ーーーーーーー







 "撃震"の電子の瞳を通じて網膜に投影される光景は、衛士達を苛立たせるのに足るものである。既に視界には人々が平穏な生活を営む空間は一切残っていなかった。今やBETAの蹂躙と砲弾の炸裂によってそれは根刮ぎ略奪され、かつての街はコンクリート製の荒野へと変貌しつつある。
 そして路上を埋め尽くすBETA群は、未だ満足せずに死の領域を広げようとしていた。



『ウォーベア・リーダーよりポーラーベア・リーダー。10時方向、距離1000。要撃級30と雑魚が南下中、それ以上進ませるな』

『ポーラーベア了解。見えるな? 楔で10秒、10秒で仕留めるぞ!』

『了解』

『ブラウンベアはポーラーベアの両側面を援護しろ』

『ブラウンベア・リーダー了解、A小隊は左翼、B小隊は右翼をカバー!』



 第3中隊(ポーラーベア)の撃震5機は、中隊長機を中心とした鋭い楔型陣形をとり、南下するBETA群との距離を詰めはじめる。遅れて第2中隊(ブラウンベア)が小隊単位に分かれ、駆け抜ける撃震に飛びかかろうとする第3中隊側面の小型種を掃討、そして第1中隊(ウォーベア)が後進しながら殿を務める。
 次々にFOX3、と突撃砲の使用を宣言する衛士達。軽口を叩く余裕はない。ひたすら敵を照準・捕捉して引き金を弾く。第3中隊前方の要撃級と小型種の群れは、左側面から鋼鉄の礫を雨霰と撃ちかけられ、5機の撃震へ方向転換する間もなく粉々となる。

 第46師団第59戦術機甲大隊は、機動防御で必死となっていた。突撃級や要撃級、戦車級の大群が突っ込んでくれば必要に応じて跳躍、引っかき回しながら迎撃する。大型種が自身らを無視し、前川・球磨川を渡河しようとすれば、それを優先的に狩る。

 だがこの作戦行動も、いつまでやれるか分からない。

 既に第59戦術機甲大隊は、定数36機の内17機を喪失している。なりたての衛士が多かった第3中隊(ポーラーベア)に至っては、12名中7名が愛機と共に運命を共にし、最早小隊単位としての働きしか出来ない。
 この衛士17名の犠牲は、敵中に吶喊する光線級狩りを、HQに請われるまま二度敢行した代償であった。それでも光線級は未だ狩り尽くせず、大隊各機は満足に空中機動を行えずにいる。

(とかくやりづらい!)

 第59戦術機甲大隊を率いる押蔵将人中佐は今更になって、市街戦の苦しさを痛感していた。
 彼は任官以来、戦術機畑を歩んできた生粋の衛士であり、大陸派遣軍には参加しなかったものの、南満州・朝鮮半島での戦闘を経験した同期から、市街地における機動と敵視認の困難さを聞いていた。だがやはりそれが実際に現実のものとなって眼前に現れると、否応なしに苦戦を強いられる。
 まず瓦礫の山、路上を埋め尽くすBETAの死骸、とにかく足場が悪い。また光線級に頭を抑えられている為に、高空に飛び上がることも出来ず、緊急回避や高速移動には低空を滑走する(サーフェイシング)他ないのだが、雑居ビル・病院・小中学校校舎・スーパーマーケット……崩落した後もそれなりの高さをもつ"障害物"が多く、機動の邪魔になる。
 人々が暮らしていた街は今やBETAに恭順し、残り17名の衛士を疲労させ、終いにはくびり殺してしまう罠としての機能を働かせはじめていた。



『おいっ、ブラウンベア! 至近に戦車級! 右手の校舎跡から病院裏まで湧き出してる……2時方向だッ! 距離30ない!』

 第2中隊(ブラウンベア)の2時方向、流れ弾によって倒壊した小学校校舎の影から、戦車級の群れが現れるのを視認した第1中隊4番機(ウォーベア4)が注意喚起した。

『なぁ゛っ』

『B小隊、跳べ! 退がれ! 近すぎる!』

 最右翼の第2中隊第2小隊(B小隊)は、現れた戦車級の群れと30mも離れておらず、36mm砲弾を浴びせかけても全てを殲滅することは難しい。このままサーフェイシングで駆け抜けても、恐らく取り付かれる。頭上を光線級に抑えられている以上、短噴射、後方へ水平跳躍することで距離をとる以外の選択肢は、第2小隊には残されていなかった。

『無理だッ! その場で撃て!』

 実際のところ、後方跳躍は出来ない。彼ら第2小隊の背面には、上階が崩れたビルや病院が建ち並び、それが跳躍の邪魔をしている。また機動出来そうな"道"も着地出来そうな場所も、それが限られている為に、小隊機同士が激突する可能性もある。これが何もない平野、あるいは木造建築物の建ち並ぶ地域ならば、何の躊躇もなく跳躍しただろうが、今回は駄目だ。一般家屋ならばともかくビルや病院の廃墟に接触すれば、脚部ユニットは間違いなく破損する。

「ちっくしょお!」

 悪態。撃ち殺す他ないが、36mm機関砲弾を喰らわせるのでは間に合わないーー咄嗟に判断した第2小隊の中堅衛士、佐伯保少尉は虎の子を出さざるを得なかった。
 先頭の戦車級が跳ぼうとする直前に、炸裂した2発の120mm砲弾。弾種は発射後に分裂するキャニスター弾であり、その威力は十分に発揮された。肉塊となって一掃される戦車級の群れ。その一部は吹き飛ばされ、校舎の廃墟へと吸い込まれていく。硫黄臭を放つ肉塊は、ガラスの砕け散った窓枠から教室内にぶちまけられ、小学生たちの思い出を汚した。

「佐伯少尉……助かりました」

 佐伯少尉とエレメントを組む衛士が、礼を言う。昨年ウィングマークとったばかりの彼女は、突然の出来事に何も考えられなかった。妙な想定だが、恐らく小隊員が全員自分であったならば、戦車級に食らいつかれて全滅していただろう、とまで思った。

「今ので在庫切れだ」

 佐伯少尉は何とか余裕ぶることが出来た。市街地では機動が制限され遭遇戦が増える関係から、キャニスター弾に頼る場面も多く、佐伯少尉のみならず大隊各機の弾倉から、キャニスター弾のみならず120mm砲弾は尽きようとしていた。また前述の通り、既に大隊機は約半数にまで減っており、残存機1機1機の相手するBETAの数は単純に考えて2倍、弾薬の消費速度も2倍となっている。
 方向転換してこちらのケツに追い縋る要撃級と小型種に36mm機関砲弾をお見舞いしていた押蔵大隊長が、残弾量の表示をちらと見た時、福音がもたらされた。



『CPよりベアーズ、お待ちかねの補給コンテナが対岸にご到着だ』



 第59戦術機甲大隊は、補給コンテナを搭載したトレーラーを待たず、機体と最低限の兵装を載せた車輌のみで最速で現地に展開していた為、戦闘開始から現在まで"補給コンテナ待ち"の状態であった。が、やっとその補給コンテナが到着したらしい。

「ウォーベア・リーダーよりCP、了解した。早速中隊単位で補給を受けさせたい。許可を」

『こちらCP、了解した。国道42号線に沿って前川・球磨川を渡河、指定ポイントーー小学校校庭に補給コンテナが設置されている』

「こちらウォーベア・リーダー、了解した。聞いていたな? ポーラーベア(第3中隊)より交代で補給に向かえ」

『了解!』

 第3中隊の残存5機が、地を這うような低空飛行で南下を始める。勿論、建造物を盾とすることを意識しながら。二度の吶喊で狩り尽くせなかった光線級は専ら八代海沿岸に留まっているが、用心するに越したことはない。

 一方第3中隊が抜けたことで、残った第1・第2中隊計14機に対する圧力が増す結果になったが、堪えるしかない。少しでも迎撃が容易な地形を求め、両中隊は周囲に小・中学校の校庭や市立公園が集まり、平坦で視界が利く八代城跡公園に移動した。そこに方陣を組み、北西から雪崩混むBETA群に36mm弾を浴びせかけるのが、彼らの新しい仕事となる。
 機数自体は減ったが、廃墟から突然の奇襲を受けることはなくなった。迫る敵は多いが、それは目に見える範囲にしかいないーー精神的なつかえが取れたのか、第2中隊(ブラウンベア)の中隊長が大隊長に聞いた。

『ところで押蔵中佐、気づいてますか?』

「何がだ?」

『前川・球磨川以北に残ってるのは、どうも俺たち戦術機甲大隊だけじゃあないですよ』

「……確かに八代駅方面には、俺たちが倒した覚えのない突撃級・要撃級の死骸が転がっていたな」



 2回目の光線級に対する吶喊の後、一旦BETA群の圧力に抗しきれなくなった彼らが、東ーー八代駅方面に後退した際、確かに大型種の死骸が転がり小型種BETAの死骸の山が築かれていた。実際に押蔵大隊長が電子の眼を通して見たのは、それだけでない。廃墟の上からは火線ーー恐らくは機関砲の曳光弾が迸り、突撃級の側面や要撃級に突き刺さる光景も目にしていた。
 押蔵大隊長は、信じられない思いでそれを見た。生き残りの第123歩兵連隊かまた別の歩兵部隊が、廃墟を拠り所として大型種や小型種の大群に抵抗していたのである。

(確かに大物は可能な限り我々が狩っている、また敵主力は南下を試みて球磨川南の第46師団各部隊と戦闘中だ。とはいえ、取りこぼした突撃級や要撃級、そして小型種の群れを相手に抗戦を続けるとはな)



『それだけじゃあないです、押蔵大隊長。戦闘中の機械化装甲歩兵も確認しました……よくやりますよ』

「バッタ(歩兵)に……俺たちもまだまだ負けられない、か!」



 殺すか喰われるかの戦闘中、視界の端で捉えたものであったから見間違いかとも思ったが、やはり味方だったかーーと、部下の言葉で自身が見た光景が現実のものであったことが証明され、大隊長の心中はやや明るくなった。確固たる活力の源を、彼と彼の部下は得た。
 そこで、前述の佐伯少尉とエレメントを組む衛士も、「私も見ました!」と興奮した、ちょっと早い口調で喋った。



「私なんか猫が連中を三枚卸しにするところを見ちゃいましたよ!」

『そういうのいいから』

『ヒヨっこは口動かす前に撃て!』

「ホントですって、ねえ! 小隊長ぉ!?」



 相方のあまりにぶっ飛んだ"目撃談"は、とても信じられなかったようで、仲間達はそれは流石に見間違いだ、と結論づけた。実を言うと相棒の佐伯少尉も、戦車級を解体する猫や犬を見ている。だがやはり自分も相方も、動物がBETAの犠牲になっている場面を見て、勘違いしてしまったのだろうと結論づけていた。

 増援が来るまであと1時間はある。
 だが第59戦術機甲大隊は、まだまだ戦えそうだ。







ーーーーーーー







「退くがいい、此処の者どもは未だ生きることを諦めておらぬ」



 猫が駆ける。愛玩動物としての姿は其処になく、古来より神として崇められてきた不可思議な存在として、彼らは駆け巡る。その跡には肉塊の他は残らない。装甲の厚さも、身体差も、膂力の差も問題にはならない。
 その猫に続いて、犬が、兎が、鳥がーーあらゆる動物達が駆けてゆく。彼らは、"よきゆめ"であった。百獣と人族が暮らす世界に、必ず現れる"あしきゆめ"。それは摂理であるが、増長して直接人に危害を加えるのであれば、それをおとぎ話の世界へ押し戻すのが"よきゆめ"の役目である。



「してどうであった」

 若い猫神族に問われた鳥神族がひとり、雀之児従四位下左衛門督は神族にはあるまじき昂奮した口調で叫んだ。

「ああ見たとも。終ぞ一言も巨人族は喋らず。だがな空を駈け、醜悪なる"あしきゆめ"を懲悪の火焔にくべていた。眼は青だ、巨人族はまた人族についたぞ!」

 若き猫神に空中偵察を任された雀之児従四位下左衛門督は、確かに見た。地面を這うように空を駈け、肉を喰らい死臭漂わせる"あしきゆめ"に引導を渡す巨人族の姿を。記憶にある巨人族とは、姿形が大分違うが、全身を鋼鉄の冑によって固め、"あしきゆめ"の合間を駆け回る姿は頼もしい限りであった。

「"あしきゆめ"はどれくらいいる」

「到底勘定出来ぬ。屠っても屠ってもまた足りんよ! だがな人族の営みの中に我らは在る、幾らでも"あしきゆめ"を屠ろうぞ!」



 ああ、と若き猫神族の後に続く神族は思った。
 鳥神族自体は決して人族との関係が密という訳ではなく、先の戦いでも人族に協力しない神族もいた。だがしかし彼ら雀神族は人族の営みの中で暮らし、信仰を集めてきた種族である。かの冬の神ハードボイルドペンギンがかつて人族に味方し続けたように、雀達も今回はそうするのだろう。いま灰燼に変貌しようとするこの人里も、雀神族にとっては、愛着あるふるさとなのである。
 雀神族だけでなく、人族を愛する、友とする神族は少なくない。


 
「鳥神族が一柱、雀之児従四位下左衛門督翁の思いは分からないでもない」

 人族が契った最古の盟友たる犬神族の出身、齢200歳余りのシロが人族に闘志級と呼ばれていた化生の鼻をもぎ、それを棄てながら呟いた。

 彼が異変に気がつき人里駈けたとき、野良としてこの人里で暮らす犬族の子らが、"あしきゆめ"に似た化生どもに食われていたのを見た。それは犬神族シロにとって、決して許される行為ではなかった。以前まで姿を現していたかの"あしきゆめ"は人族を滅ぼさんとしていたが、犬族を含む他族にまで危害を加えることはなかったというのに。

「此奴らは"あしきゆめ"ではないのかもしれぬ。もっと別の存在ーー"あしきゆめ"とは異なる、もっとあってはならぬものに思える」

「同感だ」



 太古の昔、この場に集った神族さえ未だ生まれていなかった時代、人族と神族の間で結ばれた"盟約"は、未だ生きている。……いやごく最近に蘇ったのである。
 この"盟約"は神族が危機に瀕すれば人族がこれを扶け、人族が滅びの道を辿ろうとする時には神族が助ける、相互扶助条約。例え相手が"あしきゆめ"であろうと、なかろうと問題はない。

 また人族だけでなく、他族まで殺し尽くす化生どもを脅威に思ったからこそ、すぐさま数十の神族は集まり、列を成して征伐にあたりはじめたのである。そして現在もあちらで一柱増え、こちらで二柱増え……神々とそしてその子らによる大行列が出来つつある。先の"あしきゆめ"、幻獣との闘争では人族に失望し、神族によっては"盟約"の無効までもを訴え、そう手助けはすまいと傍観を決め込んだ神族もいたが今回ばかりはそうはいくまい。



「人族と繋がりの薄い大神族も蜘蛛神族も、山を荒らされれば黙ってはおるまいて」

「かの蟲神族も己の身を護り山を鎮るがため、発つのではないか?」

「ところで宝剣の使徒にしてアルゴーナウタイ、そして猫神族の王ブータニアス卿はいずこに?」

「鳥神族の偵察では、遙か北でも此奴らは跳梁跋扈しているとのこと。恐らくそちらへあたられているのでは?」

「ならば我らは人族、巨人族と合流しこの"あしきゆめ"を鎮め、それよりブータニアス卿と合流しようではないか!」

「応ッ!」



 神族の士気は昂揚していた。

 日本国陸上自衛隊と帝国陸軍が互いの立場を理解しないまでも、協力し脅威にあたろうとするように、漸く神族も一丸となって事にあたる機会が来たのである。







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以下私見。







 神族の登場に関しては、リタガンの影響を強く受けています。ゲーム本編では、殆ど神族が助けてくれることはありませんでしたが。Muv-Luvの世界には神族は存在せず、今回幻獣との戦いの後も熊本県内に逗留していた神族が、そのまま転移してきたという設定です。現在も公式サイトで閲覧出来るWEB小説"Return to GunParadeMarch"ではブータが、神族を召集する為に書状を準備しており、また"光の軍勢"復活とのこともありで、5月上旬にはかなりの神族が集まったと考えられます。
 帝国軍人も同調能力が高い者は、神族と共同作戦がとれるかもしれません。それと神族が現れた際に、電子機器や銃火器等が使用不可能となる"物理域変動影響"については考えないということにします。正確には神族の概念に反する物が使用出来なくなるそうですが……具体的にどういった物がガラクタになるのか分からないので。

 第2313独立機動小隊は4個分隊から成ります。着用するウォードレスは"互尊"や"バーニィフォックス"のような汎用性のあるもので、重ウォードレス"可憐"は戦車小隊の随伴歩兵が着用している想定です。専ら第2分隊が対中型幻獣装備を運用しています。


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