<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[38496] "異界の孤児"
Name: 686◆6617569d ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/17 14:25
"異界の孤児"



 7月14日0900時。
 HRを終えた教員達が戻った尚敬高等学校職員室には、久しぶりに戦時の雰囲気が戻ってきていた。
 今日明日には一握りの遺骨に、あるいは認識票一枚になるかもしれない生徒達と相対する職員達の悲痛な表情。齢14歳の少年少女に速成教育を施し、彼らを一人前の兵士として数えなければならない教官達の苦悩。「生徒達が生き残る可能性を少しでも上げる為に」――軍事教練を優先したい陸自出向者と、「生徒達に戦争以外にも生きる道があることを教える為に」――一般科目を履修させようとする本職教師の間で繰り広げられる、授業時間を巡っての抗争。
 子供による戦争が再開する時、大人の格闘もまた始まるのだった。

「いったいどういうことなんでしょうね……こりゃあ」

 髪の毛を紫に染色して逆立て、緋色のライダースーツに身を包む女性。
 自身も担任するクラスのHRを終えた、尚敬高等学校に出向中の陸上自衛軍二等陸尉本田節子は、職員室に持ち込んでいる自身の私物(!)の自動小銃を分解し、その部品のひとつひとつを卓上に並べながら同僚に話を振った。

 異世界転移、日本帝国、宇宙生物、絶滅戦争――。

 彼女が今日のHRで生徒達に話したのは、荒唐無稽な事象を取り扱ったものだった。
 九州軍司令部によれば、7月9日を以て日本国熊本県内に駐屯していた全部隊は、異世界となる日本帝国熊本県に転移。日本帝国は宇宙生物BETAと戦争状態にあり、我が九州軍も自衛を目的としてこのBETAなる敵性生物と交戦しこれを撃退した。……だいたいそんな内容を、彼女は、というよりも熊本県下全高等学校の職員達は生徒達に発表したのだった。

「考えるよりもまず備えるべきです。あなたらしくありませんね」

 対して本田の隣のクラスを受け持つ同僚である坂上久臣教諭は、異世界転移も宇宙生物も大して驚くべきことではない、とでも言いたいのか、平然と番茶を啜っている。いつもどおりの仏頂面、サングラスに隠された瞳、そこから感情はまったく読み取れない。
 元戦車随伴兵であり大陸帰りの猛者でもある坂上は、実際のところ異世界転移の原因や宇宙生物の正体などは心底どうでも良かった。それを考えるのは芝村や九州軍司令部の人間がすることであり、前線部隊の将兵が考えるべきことは、如何にして明日の戦闘に勝利するか、そして最終的に戦争を生き残り日本国の復興に尽力出来るか、であった。

「昨夜の戦闘で5121小隊は直接的損害こそなかったものの、20mm機関砲弾等の弾薬消費量が激しい。また92mmライフル砲やジャイアントバズーカといった重火器がほとんどありません。人型戦車の整備と再調整に生徒達が忙殺されている現在……これを確保するのは、我々の仕事です」

「オレだってこんな身なりをしてても自衛軍の人間ですよ、んなこたあ分かってます」

 実は既に手は打ってあった。
 本田は独自に芝村勝吏参謀長(幕僚長)との繋がりを持っており、また焼きそばパンから対戦車砲まで取り揃えるブラックマーケットにも顔が利く。僅か2、3日の内に、大抵の中型幻獣を撃破することが出来る重火器が、自身の担任する5121小隊宛に届く予定であった。
 驚くには値しない。
 九州軍前線部隊の将兵とその関係者はあらゆる手を使って、装備を整えるものだ。
 民間から機材を徴発することは当たり前にやるし、権力者に通じて補給品を陳情することもある。場合に応じては、物資集積場や軍需工場にまで出向き、「お話」することで目当ての代物を手に入れることもままあるほどだ(逆にこうした非合法な行動によって、計画通りの補給の実施が順調にいかなくなるのだが、これをやらなければこの5121小隊でさえ"無補給戦闘"を余儀なくされる)。

「幻獣に代わる新敵性勢力との戦闘は、学兵にとっては酷となりますが、なんとかやってもらう他ありません。私たちはそれを手助けすることしか出来ない」

 坂上自身も対BETA戦術の検討の為に、5121小隊の人型戦車が搭載するガンカメラの映像を何度も見直していた。5121小隊が損害を出すということは万が一も有り得ないことだが、それでも油断せずに教え子達が思い至らない隙を埋めてやることが大人である自身の役割だと、彼は考えているらしい。
 勿論そいつは分かっているつもりです、と本田が返事を返そうとした時、第三者が会話に割り込んできた。

「……みんなは、戦わなくてはならないのでしょうか」

 副担任を務める芳野春香教諭が、ふたりの背後に立っていた。
 芳野教諭の担当教科は国語。彼女は陸上自衛軍から出向している本田や大陸帰りの坂田とは異なり、純粋な民間出の本職の教師であり、以前から教え子を戦場へ出すことを極度に恐れ、またその恐れを頻繁に言動で表すタイプの人間であった。
 悪い言い方をすれば、現実を見ない理想主義者、といったところか。実際に幻獣共生派とは言わないまでも、反戦主義者として何らかの処罰を下されてもおかしくはない言葉を口にすることもままある。……だがしかしそういった言動をとる芳野を、同僚の本田は嫌な奴だとも悪い奴だとも思ってはいなかった。

「芳野センセイ。しょうがないんですよ、こればっかりは。敵ってのは思うように動いてくれないもんで、落ち着いたかと思えばまた湧き出して来る、そんなもんなんですよ」

 振り向いて俯き加減の芳野の顔を見つめ、本田は言い訳めいたことを言った。
 芳野春香が戦争を極度に恐れることには生まれもっての理由があり、その為に豪快な性格で知られる本田も、なかなか彼女に厳しいことを言うことが出来ないのだ。
 学兵達第6世代クローンが幻獣と戦うことを目的に生み出されたのだとすれば、彼女――芳野春香は教える為に生まれてきた。これは比喩ではない。芳野春香は成人の状態で製造された年齢固定型クローンであり、生まれながらの国語教師である。国語に関する知識しかない。彼女自身が自覚しているかは不明だが、何か物事を教えることのみが彼女の存在意義であり、彼女にとって戦争とは教える対象を奪う理不尽な事象だ。そして生体工場で生み出され、すぐさま教職に就いた彼女にとって生徒とは、肉親に等しい存在である。
 常人より輪をかけて、戦争を恐れる、嫌う、彼女の生い立ちを考えれば止むを得ないことだった。

「ですが本田先生、九州軍の発表が確かならば、この世界は私たちとは何ら関係がありませんし、今度の敵は宇宙生物なんですよ……何も生徒達が行って戦う必要なんてないじゃないですか……」

 何故わざわざ教え子を、対岸の火事へ飛び込ませなければならないのか。
 芳野の意見は、正直ほとんどの教職員が心中に抱える共通のものであった。異世界にて宇宙生物と戦争など、望んでやる必要などないではないか。BETAなる宇宙生物はこの世界の各国軍が相手にするべきであり、九州軍は元の世界へと帰還する方法の発見に全力を注ぐべきではないのか――?

「九州軍とて馬鹿ではありませんよ」

 その問いに答えたのは、坂上であった。

「基本的に戦力の温存に全力を挙げるでしょう。BETAとの戦闘で大損害を被っては元も子もありませんから、無理な戦争はしないはずです」

「そ、そうですか?」

「ええ」

 坂上の言葉を聞きあからさまに表情を明るくした芳野を見て、本田は(なんか納得いかねえ!)と思った。
 実を言えば坂上と芳野は相性が良い――この坂上クローンと芳野クローンの大本となったオリジナルの坂上と芳野は、結婚さえしているのだから当然であると言えた。



「――我らを使え! 使って人を救え!」

 同調能力をもつ人間しか聞き取ることの出来ない、人型戦車士魂号達の怒号が飛び交う整備キャンプから出てきた青い髪の少女はため息をついた。太陽は燦々と輝き、その光線を以て容赦なく田辺真紀を貫く。薄暗い整備キャンプに篭っていたせいで眩しい思いをした田辺は、これが異世界だとは到底思えないな、とだけ思った。
 今日も取り止めになった授業の代わりに、人型戦車や指揮車の整備に取り組み、友人とお喋りして、母と弟が待つ自宅(公園)へと戻ってその日あったことを話す。

――その日常は、失われた。

 公園は、母と弟は、こちら側へ転移していない。
 田辺としては、恐ろしく不安だった。彼らの安全を考えてのこともあるが、何よりも田辺家の生活費は彼女が稼いでいたからだ。彼女が得るあまりにも少なすぎる学兵の給料(十翼長週給7500円)と、不定期でシフトを入れさせて貰っていた味のれんでのアルバイト代が一家の収入であった。

 田辺家のように前線部隊の学兵が家族の生活費を稼ぐ、そうした例はそう珍しくない。
 "コンビニアルバイトの方がよっぽどマシ"と評される学兵の給料、戦時中にも関わらず熊本市街に居残る商店でアルバイトして得た賃金、物資を闇市場で売りさばいて得た資金。これらを学兵達はせっせと家族の口座へ振り込んでいく。どうせ前線にいれば金を使う機会はあまりないし、戦友愛も働いて必要なものは大した出費もなくほとんど揃ってしまうのだから、手元に余る資金を持っていても仕方がない。そして彼ら学兵自身は決して認めないだろうが、まあ親孝行的な心情が働いていることは否定出来ないところだった。
 ……工場で製造された第6世代クローンである学兵達は、親の世代である第4世代クローンとは何の血の繋がりもないが(人類はごく僅かな例を除き、既に生殖機能を失っている)、それでも両者の間には肉親の情愛というか、年長者と年少者の絆というか、そういったものは確かにあったのだ。

 母と弟の前途を憂い、沈鬱な表情を浮かべる田辺。
 それを見かねてか、近づいてくる影があった。

「どうかされたのですか」

「あっ、と、遠坂さん……」

 遠坂圭吾。彼は田辺と同じく人型戦車の整備士を務める学兵であり、その長身と整った顔立ち、物静かで優雅な立ち振る舞いから女子高生から絶大な人気を集めている青年であり、田辺にとっても憧れの人物ではあった。

「なんでもないです、気にしないでください」

 だがいまは到底、遠坂と話す気にはなれなかった。
 田辺は遠坂が巨大商社の御曹司であることを知っている。謂わば住んでいる世界が違いすぎる、遠坂も家族は向こうの世界に置いてきたには違いないが、その家族が生活に困窮することはないであろう。相談したところで大した共感をしてはもらえまい、と勝手に思い込んでしまっていたのだ。
 実際には微笑を以て田辺の目の前に現れた遠坂も、内心では肉親のひとりを心配して気が気ではなかった。
 彼には、酷く病弱な妹がいた。化学物質過敏症である妹にとっては人類文明自体が油断ならない敵であり、彼女の病変と発作は急激に訪れる。彼は多少度を越して、妹思いであった。……それこそ妹の治癒の手がかりを見つける為に、あるいは人類文明を後退させて自然を取り戻す為に、幻獣共生派に参加する程度には。

 約10万の学兵達は平気な顔をしていても、やはり心中どこかで不安を抱えていた。元の世界から切り離され、戦友と教師を除けば全くといっていいほど知らない人間しかいないこの世界。

 自分達は、この世界でも戦わなければならないのか?

 人類勝利の為ならば戦えよう。戦友の為ならば戦えよう。守るべき熊本市民、見知らぬ日本国民の為でも戦える。
 だが……。

(連中、また監視しているな)

 遠坂は田辺と会話を続けるきっかけを探しながら、校庭外れ、裏門の方角に"連中"を発見していた。
 微笑ましい反戦ポエムの朗読から人類軍内部情報の横流し、軍事施設に対する爆弾テロまでやってのける幻獣共生派、風紀委員によって厳しく取り締まられる靴下の収集活動に精を出すソックスハンター(彼のコードネームはソックスタイガー)……汚点とも言えるそれらの経験は、非合法な活動やそれを追う警察・憲兵に対する鋭い嗅覚を与えていたのだ。
 ここ数日、校門や敷地周辺でそういった活動に従事する人影を見る。
 おそらくは日本帝国の息がかかった者だろう、と彼は考えていた。

(九州軍と日本帝国陸軍との関係がうまくいってくれればいいが)

 その非合法な活動に手を染めていた彼とて、直接人間を手に掛けたくはなかった。



「……待て、待て! 戻せッ! そうだ、そこだ、ズームでお願いします!」

「うわあああああ! これ絶対おかしくね? ちょっとトイレ行ってきます!」

「解像度を上げろ、解像度を上げるんだ……これエロ過ぎぃ!」

 さて。まったくの同時刻、熊本鉱業高等学校情報処理室では男子高校生達が凄まじい盛り上がりようを見せていた。異世界転移? そんなこたあどうでもいい! どこにいようと現在を生きる! そんなポリシーを持っている訳でもあるまいに、彼らがエキサイティングしている訳には、かなり不純な理由があった。
 彼らが食い入るように見つめるディスプレイには、人型戦車士魂号のガンカメラや89式隼が撮影した動画や画像が映し出されている。

 異世界国家の軍隊である帝国陸軍の装備、特に戦術歩行戦闘機と呼称される人型兵器の研究。

 そういったお題目の下で前線部隊から複製した映像を眺めていた男子高校生達は、とんでもないものを発見してしまったのである。



――戦術機に乗降する女性衛士の姿だ。



 遺伝子操作によって得られたIQ400という第6世代クローンの頭脳をフル回転させ、半年前から新兵器開発に没頭してきた熊本鉱業高等学校に在籍する高校生達にとって、その姿はあまりにも刺激的に過ぎた。
 戦術歩行戦闘機を駆る衛士達が身につける衛士専用強化服は、負傷部位を明らかにすることを目的に、また設備の整わない前線での羞恥心鈍化を狙った設計が為されている。衛士の身体に密着する構造、更に胸から腹部に掛けてはまるで色の付いたサランラップ、半透明色の保護皮膜で覆われており、強化服をまったく見たことのない彼らにとって、それは酷く劣情を催させる格好であったのだ。

「これやばすぎだろ、なんでこんなデザインしてんだよ」

「あれだろ、"協同する男性随伴歩兵の士気高揚を狙って"~とかじゃねえ?」

「あー納得。でもこれ胸部から腹部に掛けても、何かしらの装甲で覆った方がいいんじゃないか?」

「どうもこの上に"可憐"みたいな強化外骨格を纏うようだから、必要ないみたいだわ」

「うーん、でも納得いかねえ!」

 女性用ウォードレスはこの九州軍でも運用されているが、衛士専用強化服のように――悪い言い方をすれば、変態染みたデザインはしていない。対幻獣戦に特化した第6世代クローンとはいえ、内臓をやられれば学兵も原種(オリジナル)と同じく絶命する。少なくとも胸部は拳銃弾に抗堪する装甲板が採用されており、強化服のように皮膜で覆われていることは有り得ない。

「あの皮膜の素材や採用に至った理由については、向こうの技術者に聞いてみなきゃ分からんさ」

「もしこちらが思いつかないような、合理的な判断に基づくものだったら?」

「戦車兵用にでも採用するか?」

「……止めといた方がいいだろうな、俺たち女子どもに殺されちまうよ」

 半透明の保護皮膜がどういった事情で採用されたのか、男子高校生達にはまったく思い至らない。だがしかし半透明の保護皮膜を用いたウォードレスを、女性用ウォードレスを開発すればどうなるかくらいは想像がついた。女子達には指弾されることは間違いなし、他校の男子からは圧倒的な軽蔑を受けるであろう(ちょっとは尊敬の念が集まるかもしれないが)。それでもデザイン性だけでなく、防護性の問題からも指摘が集まるのは間違いなさそうだ。
 戦術機に搭乗する衛士は戦闘中に脱出する場合は、前述の通り強化外骨格を身に纏っている為、衛士専用強化服自体の防護性は二の次にしてもよく、衛士の救命を第一に考えた構造が優先されることになる(故に保護皮膜が採用されている)。
 だがしかし一方で陸自主力戦車に搭乗する学兵達は、脱出後は身に着けているウォードレス姿のまま小型幻獣と戦わなければならない為に、ある程度の防護力を求められるのである。

「視察の許可とか下りないかな……?」

「下心有り過ぎだろ! とりあえず次だ、次、この人型兵器について――」



 異世界は新発見の宝庫か、熊本鉱業高等学校の学生達はああでもない、こうでもないとお喋り交じりの議論を開始する。
 幻獣を市街地へ引きずり込み、泥沼の戦闘を繰り広げた経験はただの中高生達をずいぶんと強くしていたのかもしれない。








―――――――







「東部方面軍第31・32師団の中国戦線投入は中止! 日本海戦線に廻せ!」

「中部方面軍司令部より報告、BETA群は豊岡市(兵庫県北東部)――明石市(兵庫県南部)を結ぶ線まで前進」

「遅滞作戦の効果が現れなければ、明日には舞鶴・神戸間、明々後日には小浜(福井県北部)・大阪間まで押し込まれてもおかしくないぞ……!」

 本土防衛軍統合参謀本部の作戦参謀達は、中国戦線・東北戦線・日本海戦線、三戦線への対応を迫られることになった。特に「BETA群師団規模、佐渡島上陸」、この一報は参謀本部に大きな衝撃をもたらした。兵力不足に喘ぐ中国戦線へと転用しようと、東部方面軍から引き抜かれることが決まっていた幾つかの師団は、据え置かれて日本海戦線にあてられることとなる。
 佐渡島の戦況は思わしくない。
 BETA群の上陸範囲は佐渡島北西部の海岸線の広範囲に渡り、その師団規模ということもあって、即応した戦術機甲部隊で押し止められるような状況ではなかった。既に戦線は内陸部へと入り込み、佐渡空港近郊では戦線を突破した戦車級と歩兵連隊の間で激しい攻防戦が始まっている有様だ。
 仮に佐渡島が陥落すればBETAは余勢を駆って更に渡海、対岸の新潟市に上陸する可能性もあり、それを考えると日本海戦線をおざなりにすることは許されなかった。

「中部方面軍司令部は、"現有兵力では、BETA東進阻止に算段は付かない"とまで言ってきています。また兵庫県内上空に遊弋するBETA新属種"爆撃(ドロップ)級"の空爆が激しく、日中は部隊移動が困難とのこと。高射教導隊が運用するような、高度な防空システムを求めています」

 作戦参謀達から、自然とため息が漏れた。
 中部方面軍は情けない、とはみじんも思わない。むしろ手持ちの戦力を考えれば、よくやっている方だと言える。
 中国戦線に現れた新種BETA群は師団規模(約2万前後)、軍団規模(約5万前後)どころか、軍集団規模(約100万)と考えられている。……中部方面軍司令部の参謀達からすれば、発狂してもおかしくない数字だ。野戦では有り得るはずのない、否、ハイヴ攻略戦でさえ有り得ない敵個体数(フェイズ4ハイヴのBETA収容個体数は、たったの20~30万前後である)。
 対する中部方面軍は既に戦力の多くを喪失していた。緒戦と姫路攻防戦により、投入していた第17師団、第53師団、第54師団、第118師団、第125師団――計5個師団を喪失しており、優良師団の第1師団や第16師団を手元に残しているもの、かなり苦しい状況に追い込まれている。

 彼らの中でも古参にあたる参謀が立ち上がり、口をひらいた。

「弱気になるのも仕方がない、それは分かる。新種BETA群との緒戦で、中部方面軍が被った被害はあまりにも手痛すぎた。だがその後背には、未だ疎開を終えていない数百万の非戦闘員が控えていることを忘れているんじゃないか。……俺は斯衛軍に話を付けに行ってくる」

「斯衛軍に?」

「……戦力を帝都から抽出してもらう。彼らの正面戦力は是非とも欲しい、中部方面軍の歩兵連隊や砲兵連隊、補給連隊と合流してもらい臨時戦闘団を編成、中国戦線で活躍してもらおう」

 もはや面子を気にしている場合ではなかった。土下座してでも皇帝陛下、征夷大将軍を警護する一兵のことごとくまで借り受け、BETA東進阻止の為に使う――古参参謀は並々ならぬ覚悟を決めていた。



 その隣室では、ふたりの参謀が怒鳴りあっていた。エリート中のエリートである彼らとて人間であり、連日の睡眠不足と激務によって溜まり切った疲労が、彼らの理性を少々損ねることもある。多少感情的になるのは、仕方がないことだと言えた。

「いいか、今日明日中にでもやってくれ!」

「言っていることが無茶苦茶です! 分解状態で保管中の機体を組み立てて再整備、更に空対空兵装まで調整し、対空戦闘が可能な状態に持っていくどれくらいの時間が掛かると思っているのですか!」

「そんなこと俺が知るか! 間に合わせるのは、貴様ら航空畑の人間がやることだ!」

 激昂した参謀は帝国陸軍所属、そしてもう一方の参謀は帝国航空宇宙軍に所属している。
 帝国陸軍に関して今更の説明は必要ないであろうが、帝国航空宇宙軍は戦後創設された帝国空軍の流れを汲む組織であり、再突入駆逐艦や偵察衛星等の運用、近年になってからは国連軍と協力しての軌道爆撃も担当している。……正直なところ彼ら空軍・航空宇宙軍は航空機が無力化されてから向こう、対BETA戦では裏方に徹してきており、あまり思うような活躍は出来ずにいる組織であった。

「……いや、すまない。言い過ぎた、貴官や貴軍を侮辱するつもりはない。焦燥感ばかりが募ってしまって……。現状を考えてみてくれ、帝都に至る空中回廊を阻むものは何もないこの現状を」

「苛立つ気持ちも分かります。……ですがやはり即日の戦力化は難しいと思います。第一、現役の超音速戦闘機乗りがいません」

 ふたりが話し合っていたのは他でもない、現在退役状態にある純然たる制空戦闘機の再就役と航空隊の再編成についてである。
 中国戦線及び東北戦線に出現した新属種"爆撃(ドロップ)級"(中型幻獣スキュラ)の威力は凄まじく、これまで対空戦闘に備えてこなかった陸海軍に打撃を与え続けている。この爆撃級に対して、いまは運用されていない――部品の状態で全国各地に眠っている制空戦闘機を当てようという考え方が出てくるのは、ごく当たり前のことだと言えた。

「それは衛士に機種変換訓練を受けさせる――精神主義は俺も嫌いだが、なんとかする」

「ならば戦術歩行戦闘機に対空誘導弾を積んでは?」

「駄目だ。だいたい戦術歩行戦闘機自体が、空対空戦闘がやれるような構造をしていない」

 戦術歩行戦闘機が空中を往く爆撃級に対して、攻撃を仕掛けることは不可能ではない。実際に中国地方に投入されている戦術機甲連隊では上空に舞い上がり、36mm機関砲弾を食らわす防空戦闘をやっている。
 ……だがしかし戦術歩行戦闘機という兵器が空対空戦闘に向いていないことは、あまりにも明らかであった。理由は単純に、「遅い」上に「手足が邪魔」だからである。水平方向への機動においては、撃震は時速400~500km、不知火は時速600km~700km程度がせいぜいであり、上昇速度は更に落ちる。これは大東亜戦争中のレシプロ戦闘機と、同程度の速度でしかない。そして飛ぶことに必要ない、寧ろ空力特性の上で最悪的に邪魔である四肢が存在するせいで、まともな空戦機動を取ることが出来る衛士はほんのひとにぎりとなってしまう。まるでミサイルのように、生体組織の一部を飛ばしてくる爆撃級に抗することは難しい。

「……ともかく一度考えてみてくれ。それにこれは航空戦力復権のまたのない好機だ。新種BETA群には、従来の光線級は確認されていない」

「本当ですか」

「ああ。レーザーを有する新属種"強襲(アサルト)級"、"重強襲級"(中型幻獣ナーガ、キメラ)が出現しているが、精度は著しく落ちている。戦術歩行戦闘機で高速飛翔すれば、彼らの火網を突破出来るほどだ。仮にこの状況で、かつての制空戦闘機F-104J"栄光"や攻撃機A-4J"大鷹"を復活させてみろ。航空戦力によるBETA駆逐は不可能ではない――」

「分かりました、善処します。具体的には3日……いえ、2日以内に一個制空飛行隊(定数12機)を再就役させてみせます」

 航空戦力復活。

 それは航空宇宙軍の人間ならば、一度は抱く夢であった。

 いいように乗せられたかな、と思いつつ航空宇宙軍所属の参謀はともかくやってみようと決意していた。かつて大空を支配していた「最後の有人戦闘機」を、その栄光を今一度復活させよう。参謀は音速の2倍速で駆け巡り、空対空誘導弾や空対地誘導弾を撃ちまくる超音速戦闘機の姿を虚空に幻視していた。








 某所。



「我が国の安全保障に関わる重要な機密の為に、具体的な位置を教えることは出来ません。ですが現在、我が在日米軍司令部では2隻のオハイオ級戦略ミサイル原子力潜水艦との通信を回復させることに成功しています」

「即時運用出来る核弾頭は何発ある?」

「貴国領中国地方に出現した、新種BETA群を殲滅出来る程度には。潜水艦発射弾道ミサイルのみならず、巡航ミサイルにも核弾頭が搭載されています。一発あたりの威力は、概ねベルリン投下型原爆の4倍から5倍程度でしょうか」

「……分かった」

「心中お察しいたします」

「中部方面軍、統合参謀本部は私がその方向でまとめる。内閣や関係省庁に話が回るのはそれ以降のことになるが――最悪間に合わなければ、私が全ての責任をとって貴軍にお願いする」

「了解です。私と貴方の名誉を引き換えにして、連中を葬ることが出来るならば本望ですよ。両国間では揉めるかもしれませんがね、言っては悪いですが政府の判断を待っていれば機を逃します――この国も、世界も終わります」

「そのとおりだ……国賊の名を背負ってでもやるしかないのだ」









―――――――
以下私見







 50年代に宇宙進出を遂げているのだから、航空兵器もこちらの世界より発展を遂げていてもおかしくないのでは(だからF-104Jが登場するのはおかしいんじゃない)? と考えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、その辺はなんとも……。大東亜戦争で繰り広げられた日米艦隊決戦は、戦艦大和と戦艦モンタナが活躍するような超ド級戦艦と超ド級戦艦の殴り合いであり、戦中・戦後、軍用機は急発展を遂げることなく、結果こちらの世界と同じペースで進歩したということにしておいてください。……正直な話、翼等が見当たらず、全身からゴツゴツした突起物が出ている戦術歩行戦闘機は、どうやって揚力を得ているのでしょうか。私は航空機の仕組みに詳しくないので、なんとも言えませんが。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02632999420166