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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "霊長類東へ"
Name: 686◆6617569d ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/08 10:11
"霊長類東へ"



 本土防衛軍が接収し、中国戦線を支える一大物資集積所として利用されていた京都駅はいま、燃えていた。巨大な駅ビルと駅舎は崩れ落ち、京都駅地下街は瓦礫の山に埋まった。当然そこに集められ、鉄道網による輸送を待っていた補給物資は全滅し、火焔によって灰になる時を待つばかりであった。
 煤煙巻き上げる京都駅の上空を、2機の攻撃ヘリが遊弋している。
 胴体側面の兵器架からロケット弾を吐き出し、機首下に存在する30mm機関砲は立て続けに鉄の飛礫を撃ち出し続ける。光線級の存在しない戦場においては最強の存在として君臨し、BETA駆逐に絶大な威力を発揮するその兵器はいま――帝都へ攻撃を加えていた。
 白煙を曳きながら飛翔するロケット弾は、京都駅周辺に乱立するビル群へと吸い込まれ、殺到する30mm機関砲弾は1、2km圏内で逃げ惑う人々を一瞬で消失せしめる。撃たれた彼らは一体何が起きているかも分からないまま、絶命したであろう。警報を受けて避難民の誘導に駆り出されていた警官は、30mm機関砲弾が殺到する数秒前にヘリの機影を認めていたが、まさか帝国陸軍の攻撃ヘリが人々を攻撃しているとは夢にも思わなかった。

 続いて京都市上空へ、戦術歩兵戦闘機が進入する。

 F-4EJ撃震、82式戦術歩行戦闘機瑞鶴、94式戦術歩行戦闘機不知火――彼らは京都市内に分散して着陸するや否や、その巨大な突撃砲を京都市民へと指向した。撃ち出された120mmキャニスター弾は、空中で炸裂すると無数の破片を伴った爆風となって大通りを往く市民を文字通り一掃した。
 彼らにとってそれは戦争ではなく、単純な遊戯であった。
 如何に異種を殺せるか――子供が蟻を効率よく殺せるかを試す、そんな遊びに近い。
 まだ生きている自身のIFF(敵味方識別装置)を有効活用し、戦術歩行戦闘機と軍用ヘリの一部が、幻獣軍の手に陥ちていることを未だ把握していない本土防衛軍の哨戒網をいとも容易く突破した。そうして戦線の背後に回り込んだ彼らは、前線へ向かおうと集結していた部隊を奇襲し、各地の補給基地を潰滅させながら、遂に帝都上空にまで到達したのであった。

 抉られた胸部を褐色の生体組織で埋めた国連カラーの不知火ゾンビが、主腕と副腕で保持する突撃砲2門を以て、地表への掃射を開始する。既に突撃砲の弾倉に人類が製造した36mm機関砲弾はない。代わりに同口径の生体弾が発射され、事態を把握出来ないまま逃げ惑う人々へと襲い掛かった。
 主力戦車の側面装甲をもぶち抜く弾雨の中で、京都市民は為す術もなく砕けてゆく。どうしようもなかった。人間の足では戦術歩行戦闘機から逃げ切れるはずがないし、遮蔽物に隠れた避難民は、遮蔽物ごと吹き飛ばされる。

 撃震ゾンビが、市内を駆け抜ける。
 それだけでその跡には、屍山血河が出来ていた。戦術歩行戦闘機の鋼鉄の四肢は、簡単に人間をミンチにしてしまう。放置車輌をも押し潰し、蹴り飛ばし、道中で機動隊車輌を粉砕した撃震ゾンビは振り返り、自分の通過跡を見た。主腕に保持するは、ロングバレルを採用することで狙撃性能を高めた36mm支援突撃砲。その砲門は、まだ道路脇で僅かに生き残っていた人間に向けられていた。

 単発で撃ちだされる36mm砲弾――命中。

 撃震ゾンビの疾走に巻き込まれずに済んだ幸運な市民は、上半身が霧散し下半身がどこかに吹き飛ぶ。次弾――3発目――4発目――撃震ゾンビの狙撃は止まない。撃震を前に腰が抜けて動けない市民も、背を向けて走り出す市民も、等しく彼の狙撃を受けて絶命していく。

 残忍だった。
 彼ら寄生型幻獣は、愉しんでいた。無力な非戦闘員を、本来彼らを守護する為に製造された兵器を以て、虐殺することに昏い喜びを覚えていた。
 ひとりの人間を殺すには、あまりにオーバーキルに過ぎるあらゆる手法を彼らは採用した。四肢により逃げ惑う人々の生命を刈り取り、接近戦用長刀を振り回し建造物を斬り崩すことで大多数の避難民を圧死せしめる。いま京都は、彼らの一大遊戯場と化していた。

 撃震ゾンビが、またもや36mm支援突撃砲の引き金を弾く。安定した弾道を描いて飛ぶ砲弾は、またもやひとりの人間を刎ね飛ばして霧散させてしまった。これで34発目、成績は全弾命中。彼はまだスコアを伸ばすつもりか、支援突撃砲を保持したまま次目標を探し始める。



 そのままの姿勢で撃震ゾンビは、上半身を粉砕された。
 後に開発された第2・3世代戦術機とは異なり、ある程度の装甲厚が確保されている第1世代戦術機撃震ではあるが、それでも36mm機関砲弾を機体背面に受ければひとたまりもない。兵装担架を貫徹し、背面装甲をも穿孔した機関砲弾はなおも止まらず、寄生幻獣によって形成された生体部位を打ち砕いてみせた。
 寄生していた幻獣が即死した以上、撃震ゾンビが立っていられる道理がない。
 僅かに残った上半身を載せた腰部、その腰部から生える主脚は力なく膝を折る――そうして撃震はようやく2度目の死を、今度こそ永遠の安息を手に入れた。

 突然の逆襲に驚き、虐殺行為に働く手を一旦止めた戦術機ゾンビ達は、高空に12の機影を認める。赤、黄、白――迷彩効果を投げ打ち、単色に染め抜かれた斯衛軍所属機がそこに居た。攻撃ヘリと戦術機に寄生する幻獣達は、それぞれ自機に備えられたデータバンクから必要な情報を引き出して、向かって来るそれが82式戦術歩行戦闘機瑞鶴と呼称されている戦術機であることを確認した。
 戦術機ゾンビが各々得物を構え、各所を侵食する褐色の生体組織に備えられた瞳が赤く輝く。発光信号による連携確認、不知火ゾンビと瑞鶴ゾンビが積極的にこれを迎え撃ち、機動性の上で両者に劣る撃震ゾンビと攻撃ヘリは支援する構えだ。
 対して12機の瑞鶴は、上空から京都を蹂躙する亡者の群れへ、逆落としの一撃を食らわせるべく急降下する――!



『嵐山中隊、全機兵装使用自由! ――掛かれ!』



 ほぼ同時に噴射装置を全開に、急上昇する不知火ゾンビ。
 両者の突撃砲が互いを指向し、36mm機関砲弾と36mm生体弾が交錯する。



『志摩子――!』

『なんで、なんで当たんないのよッ!』



 上空を占位した上に、此方が優速という好条件を生かせず、早くも2機の瑞鶴が36mm生体弾の直撃を受けて脱落した。36mm機関砲弾を全身に浴びて、空中で爆散する瑞鶴。そしてもう一機は機体を制御する衛士が絶命したのか、全力噴射のまま高層ビルに激突し、瓦礫と一緒くたにその身体を散乱させた。
 一方で不知火ゾンビ達は、華麗に射線を避けてみせた。36mm機関砲弾は敵を捉えることも出来ずに、虚しく地上の舗装路に突き刺さり、コンクリートの破片を撒き散らしただけに終わる。彼らはその高機動性を遺憾なく発揮し、瑞鶴達の未熟な照準をかわしてみせる。
 第1世代戦術機と準第3世代戦術機とでは、空力特性が違い過ぎる。
 ……その上、瑞鶴を駆る衛士達の錬度は、お世辞にも高くないときていた。嵐山補給基地に駐屯する彼ら嵐山戦術機甲予備中隊は、BETA日本上陸の一報を受けて繰り上げ任官した武家出身の少女から成る。ほんの少し前までは訓練生であった彼らに、対BETA戦どころか、実質対人戦となる戦闘は無謀というものであった。

『うろたえるなッ! 第3小隊は支援ッ……打ち合わせた通りにいくぞ!』

『――了解!』

 戦術機ゾンビ達が放つ36mm機関砲弾と生体弾による射線を避けるように、緋色の高機動型瑞鶴が率いる第1小隊と、譜代武家の駆る黄色の瑞鶴が率いる第2小隊が二手に分かれる。両者とも孤を描くように火線を避けながら疾走し――その先に、たった一機の不知火ゾンビを捉えた。

『もらったあ!』

 彼らとて自身の練度不足は自覚している、単機対単機の戦闘では勝てないことは分かっていた。ならば、多数対単機を相手に強いるのみ。小隊で敵1機にあたるどころか、中隊一丸となって、敵1機を確実に仕留める――それが彼らが採用した戦術であった。
 吶喊する第1・2小隊が有する8門の突撃砲が火を噴き、濃密な火網が不知火ゾンビに被せられる。ニ方向から浴びせられる火線から逃れようと回避を試みた不知火ゾンビは、早々に噴射装置を射抜かれて失速し、そのまま爆散した。

『やった!』

『気を抜かないで! 来るよ!』

 同胞が撃破されるのを、戦術機ゾンビ達はただ黙って見ていた訳ではない。
 彼らは一旦散開するや否や、第1小隊と第2小隊を包囲に掛かる。後方に控える第3小隊が主腕と副腕に保持した突撃砲を連射して彼らの妨害を試みるが、戦術機ゾンビの巧妙な機動を取り止めさせるには至らなかった。

『垂直方向へ逃げろ――撃て!』

 噴射装置を全開に第1・第2小隊が急上昇し、一気に狭まる戦術機ゾンビの包囲環から逃れた。斯衛軍向けに強化された、噴射装置だからこそ出来る芸当か。そして未だ地表面を這うように機動している戦術機ゾンビへと突撃砲を指向し、36mm機関砲弾の雨を降らせる。
 だがそれを想定していたか、戦術機ゾンビ達は急に方向を翻して後方へ跳躍し、反撃するでもなくこれを避ける――。

 そして遮蔽物のない空中へと舞い上がり、無防備な姿を晒している瑞鶴目掛けて、それまで遠まきに戦闘を眺めているだけであった攻撃ヘリが、30mm機関砲弾とヘルファイア対戦車ミサイルを放った。

「これを狙っていたか!」

 自律誘導により一直線に突進して来た対戦車ミサイルへ、高機動型瑞鶴は左主腕で保持する追加装甲(盾)を突き出した。だがしかし主力戦車の正面装甲をも貫徹するそれに堪えられるほど、追加装甲は分厚くなかった。硬化処理が為された表面をぶち破り、ヘルファイア対戦車ミサイルは盾の内部――左掌に達する直前で炸裂した。
 空中に浮かび上がったその体高約18mの巨体は、あまりにも無防備に過ぎた。空中機動に不慣れであり回避運動が遅れた純白の瑞鶴が、30mm機関砲弾の直撃を受け、機体の自由を失って地面へと堕ちる。

『散開(ブレイク)しろ! 第3小隊は、敵ヘリの駆逐急げ!」

 ヘルファイア対戦車ミサイルの直撃を受け、左主腕を二の腕の半ばまで大破させた高機動型瑞鶴の主は、ワンテンポ遅れる形で指示を出す。
 だがその散開、回避の行動を戦術機ゾンビ達は待ちかねていた。回避機動を取る為に散開した瑞鶴へと、戦術機ゾンビが複数機で殺到する。先程とは打って変わっての、単機対複数の構図。猟犬の如く襲い掛かる不知火ゾンビと瑞鶴ゾンビは、純白の瑞鶴を手際よく撃墜してゆく。

『なんで――なんで振り切れ――あっ!』

『安芸ッ!』

 また1機、通常型瑞鶴が墜とされる。
 進行方向を瑞鶴ゾンビに塞がれ、進路変更の為に減速した瞬間を、後背に迫っていた不知火ゾンビは見逃さなかった。彼が素早く送った射弾は瑞鶴の腰部と跳躍装置を粉砕し、これにより突如として推力を喪失した瑞鶴は、機体の制御を失って地表面へ叩きつけられる。舗装路に叩きつけられ大きく一回弾んだ後、放置車輌を跳ね飛ばしながら惰性で前進する機体に搭乗した衛士は、この時には既に絶命していた。
 小隊単位どころか分隊単位での行動も出来ず、単機で逃げ惑う瑞鶴達を追う戦術機ゾンビ達。彼らにとってもうこれは、戦闘ではなかった。先程まで非戦闘員を相手に行ってきた、ゲームの続き。生身の人間に比較すると、対象の速度が上がったために多少難易度が増した、その程度の感覚だ。

『くっ……駄目だ! 退け!』

 緋色の瑞鶴を駆る中隊長は、組織的な退却を指揮することさえ出来なかった。彼女自身も、正面の不知火ゾンビと背面の撃震ゾンビの相手取っている。とても満足に指揮が取れる状況ではなかった。
 通常型の瑞鶴に更に改良が為された緋色の――高機動型瑞鶴は、撃震を辛うじて振り切ると、抜刀して突進する構えを見せる不知火に対して射弾を送る。



 が、次の瞬間、緋色の瑞鶴に濃紺の影が覆い被さった。



『なんで……なんで……!』

 山吹色の瑞鶴を駆る少女は、なんとかまだ生き残っていた。
 そして生きて、その光景を見た。

『武御……雷……!』

 斯衛軍将兵の端くれにとって、それは衝撃的な光景であった。
 濃紺一色にその身を染めた武御雷が、緋色の瑞鶴を一刀の下に斬り捨てた。一刀両断、頭頂部から割り入った接近戦用長刀は胸部ユニット、腰部ユニット、股下までを縦一文字に両断せしめ、左右に分断された瑞鶴は地面に崩落した。

 そしてその武御雷が、次の目標に定めたのは比較的至近の距離に居る、山吹の瑞鶴――!

『うわあああああああ!』

 意味もなく叫ぶ衛士。
 山吹の瑞鶴は迷うことなく、照準に収まっている武御雷へ右主腕に保持した突撃砲を指向して全力射撃を実行する。だが武御雷は、すぐにその射線から僅かに外れ、外れながらその長刀を振りかぶる。時速800kmで猛進する武御雷に、瑞鶴は反応すら出来ない。







(あ――山城さん――)







 勝負あり。

 何故か同期を下した、模擬戦のことが思い返された。







 だが武御雷の長刀の一撃が、瑞鶴に届くことはなかった。

 武御雷と山吹の瑞鶴の合間に割って入った影がある――。



『大事ないか!?』



 同じく青藍の巨体が、そこに在った。
 接近戦用長刀で以て、山吹の瑞鶴に迫ったその凶刃を防いだのは。

――82式戦術歩行戦闘機瑞鶴、五摂家仕様。

 武御雷を駆る寄生幻獣に表情筋があれば、にやりと笑ったであろう。武御雷五摂家仕様と瑞鶴五摂家仕様の激突――本来ならば有り得ないカードだ。そして勝負にならないカードでもある。第1世代戦術機の改修機と第3世代戦術機の合間には、巨大過ぎる性能差がある。その性能差を衛士の腕で埋め、どこまで喰らいついていくるか――落胆させるなよ、と武御雷の頭部メインカメラに寄生する赤い瞳は、そう言っていた。
 そこから始まったのは、斬撃の応酬である。
 武御雷が繰り出す刺突を瑞鶴はいなし、返し刃で褐色の生体組織がこびりつく武御雷の胸部ユニットを狙う。閃く刃、下方から上方への斬り上げ。だがこれを武御雷は後方跳躍で避けてみせる。

 五摂家仕様の2機が剣戟をぶつけあうその周囲では、新たに京都市上空へと駆けつけた第16斯衛大隊機と、戦術機ゾンビによる乱戦が始まっていた。
 赤、黄、白の瑞鶴と、その身を褐色の生体組織の侵された戦術機の戦闘力は、五分五分と言ったところであった。繰り上げ任官した新人から成る嵐山中隊とは異なり、第16斯衛大隊は脂の乗り切った熟練、中堅衛士で固められている最精鋭大隊であり、また帝都防衛戦ということもあって士気も高い。乗機こそF-4ファントムの改修機である瑞鶴だが、それでも不知火ゾンビと互角の戦闘を繰り広げられるのにはそういった理由があった。

『嵐山補給基地所属機は宇治へ撤退せよ、この戦は我ら第19斯衛大隊が引き受けた!』

 緋色の瑞鶴が疾駆する。
 その傍に居合わせた不幸な撃震ゾンビは、一刀の下で斬り捨てられていた。彼ら武家出身者は古流剣術を嗜んでいる関係か、伝統的に白兵戦を重視する関係か、接近戦闘における機体制御に秀でている。

『者共、恐れるな――死ねや! この都を守りて逝けい! この逆賊どもを討ち滅ぼせ!』

 青藍の瑞鶴が振るった74式接近戦用長刀が、武御雷ゾンビが保持する長刀を半ば強引に跳ね飛ばした。捻じ切れ、折れ曲がる武御雷ゾンビの指、宙を舞う長刀――得物を失った武御雷目掛け、瑞鶴は袈裟懸けに渾身の一撃を食らわす。勝利を確信する斬撃、右肩口から左腰へと抜ける刃は武御雷ゾンビを分かつ――ことはなかった。
 武御雷ゾンビの掲げた鋼鉄の篭手、そこから伸びる隠し刃が、瑞鶴の斬撃を空中に押し止めていた。そして手甲からだけでなく武御雷ゾンビの全身から、スーパーカーボン製の凶刃が突出し、そのフォルムは更に刺々しいものへと変貌する。

『固定武装か――!』

 ただの回避機動さえも、如何なる装甲をも易々と引き裂く斬撃に換えてしまう構造設計。密集するBETA群との対戦を想定したそれは、対人格闘戦においても絶大な威力を発揮する。何せ、手数が違う。
 武御雷が、乱舞する。
 右腕、右肩、左肩、左腕、それぞれの刃が瑞鶴を削り取らんと襲い掛かる。
 青藍の瑞鶴を駆る衛士は、自然と防戦に専念する他ない。瑞鶴は一振りの長刀しかないが、武御雷には全身に備えられた幾つもの刃が備えられている。単純な数的優位が、瑞鶴の衛士にそれを強いていた。



 その脇を撤退命令を受けた山吹の瑞鶴が、駆け抜けてゆく。
 ……嵐山中隊で生き残ったのは、その1機だけであった。







―――――――








 同時刻。前線もまた、崩壊を迎えていた。
 700万という未曾有の軍勢を前にして帝国陸軍各師団は文字通り消滅し、東部方面軍より抽出された増援は、敗走する前線部隊とそれに喰らいつく幻獣群に呑み込まれて何も為すことが出来なかった。
 実際のところ自身の目で敵を目撃し、攻撃出来た者は幸運であった。東から西へ向かう部隊は、前線に到着する前に爆撃級(中型幻獣スキュラ)の執拗な空爆に遭い、戦闘車輌から輸送車輌までの悉くを破壊された上、逃げ惑う歩兵ひとりひとりを狙い撃ちにしたからだ。本土防衛軍では超音速戦闘機の再就役が進められていたが、一朝一夕に完了するものではない。また高射教導隊のように高度な対空装備を有する部隊は、期待されたほど活躍することは出来なかった。対空兵装を有していることを、幻獣側は察知していたのであろう。高射教導隊は、スキュラの1000体編隊に袋叩きにされた。
 前線部隊は戦闘力を急速に喪失しはじめ、後方では補給基地や物資集積所、幹線道路を戦術機ゾンビに破壊されてしまっている。

 帝都防衛は、もはや諦める他なかった。







 自律誘導機能をもつ一発の巡航ミサイルが、兵庫県中部某所上空へ達した。
 幻獣達は流星の如く空を翔るそれを見ても、大した脅威には思わなかったであろう。
 そして彼らは、幻に消えた。

 日本近海よりトマホーク巡航ミサイルが運んだその弾頭内部にて、核反応が起こり、万分の1秒の合間に莫大なエネルギーが発生した。閃光がまず弾頭直下の幻獣を襲い、続けて音速を超越する空気の圧力波が、地表面に存在するものを圧し潰す。放射能を帯びた塵と幻の如く消えてゆく幻獣の生体組織が、まるで大規模な雪崩か、津波か何かのように地表を呑み込んだ。また生み出された人工の太陽から放射された熱線は、幻獣達の生体組織を焼き尽くし、遥か遠方まで廃墟となった市街地に存在する可燃物に火を点けて、あらゆるものを焼却に掛かる。
 そしてやがて猛烈な上昇気流が発生し、旧市街地と幻獣を構成していた地表面の塵が巻き上げられ、高さ約10kmにも及ぶ巨大な雲がそこに立ち上っていた。それはかつてのドイツ、カナダ、ソ連、中国――いままさに、あるいはいずれ敗戦を迎える国家領内で見られる現象であった。

 続いて兵庫・鳥取両県内で、続けざまに複数個の核弾頭が炸裂した。
 それはかつての第二次世界大戦中、ベルリンに投下されたそれの数倍では済まされない破壊力をもっていた。

 市街地を蠢いていた中型幻獣達は、建造物の合間を廻り込み、反射する衝撃波に薙ぎ倒され、装甲をもたない小型幻獣達は砕け散ったガラス片を全身に浴びて、急速にこの世界との繋がりを絶たれていく。衝撃波の第一撃を辛うじて生き延びた幸運な幻獣も、その後に発生する暴風と、それに乗って弾丸の如く飛び交う金属や建材に貫かれて絶命させられてしまう。
 爆心地直下に居合わせた幻獣は、まず間違いなく幻に還った。
 大型幻獣でさえ少なからず重傷を負い、まだ行動可能な個体も、その場に伏して幻獣達を回復させる苗床になることを選んだ。だがしかしその巨体を朽ちさせてもなお、爆心地を緑化させるのには、相当な時間が掛かることは間違いなさそうであった。
 中型幻獣スキュラによる空中艦隊も、前線に出張っていた編隊を除けばほとんど潰滅した。空中核爆発、発せられた閃光は容赦なくスキュラの表皮と、そこに寄生する幻獣達を貫き、手痛い熱傷を負わせたし、衝撃波とその後の激しい気流の変化に巻き込まれた個体は、航行が不可能なまでの致命傷を負った。
 幻獣達が駐留していた山野は、一瞬にして灰になる。爆心地より放射された熱線は数キロ圏内に存在していた有機物の殆どに火を点して、巨大な火焔となって大地を呑み込んだ。閃光熱傷を負い、動けなくなった小型幻獣達は横たわったまま火葬され、猛火の中を中型幻獣達は逃げ場を求めて彷徨う。

 中国地方に出現した幻獣軍は、僅か1時間の内にその戦力の2割前後を喪失していた。
 約150万という数の幻獣が死の灰と共に塵となって虚空に消え、爆心地の傍で生きながらえた個体も大なり小なり負傷した。無事であった幻獣達も舞い上がった塵灰と、広範囲に広がる火焔によって身動きがとれなくなった。
 彼らとて核兵器の存在を知らないわけではない。
 だがまさか自身の生存領域が極端に狭まっている状況で、人類軍が戦術核の集中運用をやってのけるとは思わなかった。あれを使えば、戦術的勝利を手にするのは容易い。だがそれでは人間や動物が恩恵に預かる山河は焼き尽くされ、汚染されてしまうではないか。

 たまたま爆心地から遠く離れていたことで生き残ることが出来たスキュラは、その巨大な瞳を動かし、爆心地より舞い上がる雲を見ていた。
 高空では地表面よりも空気の流れは速い。
 スキュラは思った。大地と同胞とを焼いた灰は、じきに近海に降着するか、もう少し遠い地へと運ばれるであろう、と。












―――――――
 【京都編】は次回を以て完結とさせて頂きます。チラシの裏からの移転は、現時点ではあまり考えていないです。仮に移転するとすればMuv-Luv板かその他板のどちらかで連載を続けることになるかと思いますが……。


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