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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "地上の戦士"
Name: 686◆1f683b8f ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/11 17:19
"地上の戦士"







 未だ十代の帝国軍人達は逃げ出したい衝動に駆られながらも、何とか持ち場について、多摩川に殺到するBETA達を迎え撃った。
 機械化歩兵装甲も、機械化歩兵強化装備も与えられず、生身の上に64式小銃といった小火器だけを与えられた彼らは、有体に言えば敵の衝撃力を和らげる盾であった。彼らはただひたすらに、申し訳程度に築かれた防御陣地に身を隠し、かなりいい加減な照準で撃ちまくっていた。川底を這い渡った兵士級や闘士級が、一度水面上に頭を出せば、過剰なまでの射撃が彼らに加えられる。
 彼らは遮二無二、恐怖の感情を振り払うかのように撃ち続けた。

 1998年9月現在、掛かる大小の橋のほとんど全てが破壊された多摩川は、横浜ハイヴから北上するBETA群に対する絶対防衛線となっていた。とはいえ多摩川は、到底天然の要害とは云い難い河川であり、小型種の進行を多少遅滞させる程度の役割しかもたない。突撃級や要撃級といった大型種や、突破力に優れる戦車級は、いとも容易く多摩川を渡河してしまう。
 本土防衛軍にとって幸いであったのは、横浜ハイヴから北上するBETAが従来種であった(幻獣ではなかった)ことと、横浜ハイヴの機能拡張に個体数が割かれているのか、BETA侵攻は、小規模かつ散発的なものに留まっていることだ。精々2週間に連隊規模(2000体前後)のBETAが北上する程度でしかなく、本土防衛軍は辛うじてこれを多摩川以南へと押し留めることが出来ていた。
 とはいえ多方面、東北や日本海方面にも敵を抱える帝国陸軍に、余裕はない。
 多摩川に張り付いている部隊は、僅かに2個師団――帝国陸軍第1師団と、新兵で戦力の回復を図った帝国陸軍第61師団のみ。仮に大規模侵攻があれば、本土防衛軍の苦戦は間違いない状況であった。

 義務教育終了後に徴兵された日本帝国の少年少女は前述の通り、僅か半年か1年程度の教練を施されてBETAと対戦することを余儀なくされていた。老練な下士官から離れ、蛸壺(個人・少人数用の壕)に配置された新兵達は、有効射程も考えずに渡河しようとする小型種に射弾を送る。下士官の指揮の下で戦う新兵も緊張からか、ほとんど命中弾を出せずにいた。

(くそっ、なんでなんだよ)

 心中呪詛を吐き続ける兵士は、激しい動悸と不規則な呼吸によって照準を定めることが出来ず、狙いとは大きくかけ離れた場所に鉛弾を送り続けていた。彼はただ幸運を期待し、生き延びたい、とだけ考えている。心臓が跳ね、咽喉が渇き、胃が重い。戦術機でも砲兵でも何でもいいから、目の前の敵を早く焼き払ってくれ、と彼は祈っていた。
 新兵達の放つ小銃弾は、地面を穿って土埃を上げ、水面を切り裂いて水柱を立たせ、幾らかのBETAを仕留める。それでも小型種の撃ち洩らしが出ないのは、熟練の下士官や射手が操る軽機関銃や重機関銃が、戦車級以下のBETAの群れをまとめて粉砕しているからに他ならない。

「何処狙って撃ってやがんだ!」

 幾らかの死線を潜り抜け、逞しくなった先任の兵士達が怒号を飛ばす。だがしかし恐怖に慄く新兵に、どの程度の効果が及んだかはわからない。日常では鬼より恐ろしい下士官達の叫びも、今の彼らの耳には届かず、そして永遠に届かないままに彼らは終わりを迎えた。

「突撃級、要撃級――多数!」

 突撃級と要撃級から成る大型種の群れが旧川崎市街を踏み潰し、そのままの勢いで多摩川防衛線の一角に殺到する。
 彼らを引き受けた前面の歩兵は、突撃級に小銃弾を浴びせながら、あるいは84mm無反動砲といった重火器を振り回している最中に、ろくすっぽ物を考えることも出来ないままに轢殺された。突撃級に踏み潰されることを免れた防御陣地も、要撃級の前腕の一振りで根こそぎ吹き飛ばされ、肉片となった歩兵達は宙に消える。絶命する瞬間まで彼らは、自身の武器を要撃級に指向していたが、それはあまりにも貧弱過ぎる代物だった。要撃級の表皮にめり込んだ小銃弾は、それ以上深く入り込むことをせず、大きなダメージを与えることは出来ない。

「ちくしょ――」

「隣の陣地が!」

「それどころじゃねえ、小型種来るぞ!」

 大型種が抉じ開けた穴に、戦車級を先頭とした小型種の群れが雪崩れ込む。突撃級と要撃級の奔流から外れた場所に防御陣地が位置していた関係で、命拾いした歩兵達は、自身の得物を構え直してこれに対処しなければならなかった。
 特に骨が折れるのが、戦車級の対処だ。小銃弾や拳銃弾では、到底破れない外殻を有する彼らを撃破するには、重機関銃や対物ライフルといった重火器が必要となる。だが戦車級は優速な上に的も大型種ほど巨大ではない為に、狙撃はどうしても困難となってしまうのだ。
 一発で成人男性の大腿を吹き飛ばす12,7mm重機関銃弾が飛び交い、戦車級の何体かを多摩川の一歩手前で粉砕するも、多くは他の兵士級や闘士級を引き連れて、水面下へと姿を消してしまう。焦った射手は水面へ盲目撃ちを始めたが、威力が大幅に減衰する水中の恩恵を受けた彼らは、遂に多摩川北岸への侵入に成功した。

「地雷は? 地雷はどうなってんだよ!」

「連中の突進でおじゃんだ! 撃て! 撃ちまくれ!」

 岸辺に仕掛けられた地雷は、大型種の突進で一掃されており、小型種の浸透を更に許す。
 こうなるともう彼らを阻むものは、小銃弾と機関銃弾によって形成された弾幕しかないが、時間の経過と共に鉛弾に倒れて積み重なる小型種の死骸が、遮蔽物となって歩兵達を苦しめる結果となる。先頭を進んでいた戦車級の死骸を盾として、後続の小型種達は小銃弾を恐れることなく、防御陣地との距離を狭めることが出来た。

「小隊長ォ、撤退を!」

「戦術機が来るまで持ち堪えろ! 2週間前と同じだ、あと10分耐えるんだ!」

 この段階に至ると歩兵達は火消し役とも言うべき、戦術機の来援を待つ他なくなる。
 中隊長・大隊長クラスの人間は、自身の部隊がおかれている惨憺たる現状を、どれだけ惨めに上級司令部へ伝えられるか、そしてどれだけの援護をもぎ取れるかが試され、兵卒達は神仏に祈るよりも、まず戦術機を駆る衛士の気まぐれを願った。
 死骸の影からいつ闘士級が飛び込んでくるか、死角からいつ兵士級が頭を出すか分からないこの最悪の状況を、戦術歩行戦闘機は一発の120mmキャニスター弾で解決してくれるのだから、鋼鉄の巨兵が歩兵の信仰を集めるのは、当然の成り行きだと言える。

「こちらアルファ! チャーリー、応答せよ!」

「分隊長、駄目です! 隣は食いつかれてます!」

 たった一匹の闘士級に飛び込まれた、塹壕や土嚢から成る防御陣地は瞬く間に潰滅した。
 闘士級の着地点に居合わせた、歩兵の首が2、3飛ぶ。気管と切り離され、声帯を引きちぎられた彼らは、悲鳴を上げて周囲に注意喚起することも出来ないままに、当然即死した。歩兵の首を容易く捻じ切った闘士級は、蝕腕の先で咥えた首を打ち棄て、音も立てずに静かに防御陣地内にて行動を開始する。
 そして前面に迫る小型種を狙撃することに必死となっている周囲の歩兵達は、後ろに忍び寄る闘士級に気づくこともないままに、次々とその首を捥ぎ取られていく。たとえにじり寄る影に気づいたとしても、出来ることは少ない。俊敏な動きを見せる闘士級を、至近の距離で撃ち抜くことは容易いことではない。

 そして多摩川防衛線中央には、BETA陣営の強力な破城槌が迫っていた。
 体高60m強、歩兵が携行する対戦車榴弾や戦術機や戦車が運用する120mm砲弾をも撥ね返す怪物、要塞級とそれを直接援護する要撃級の群れが、じりじりと彼我の距離を詰め始めていた。

「要塞級4、大型種多数視認ッ!」

「敵主力のお出ましか――座標送れ!」

 観測役を果たす将兵が、後方へと敵の位置情報を送信。情報は適切に処理された後に、砲列を並べた砲兵連隊が155mm榴弾を雨霰と撃ち掛け、敵勢力を大きく漸減する――つい1ヶ月前までは、それが可能であった。
 だが現在は、せいぜい十数発の155mm榴弾が申し訳程度に撃ち込まれる程度で、それで砲兵連隊の突撃破砕砲撃は終了となる。

「……分かってはいましたが、寂しいものですね」

「光線級捜索を目的とした探り撃ち、それが砲兵連隊第一の任務だ」

 弱りきった日本帝国の屋台骨は、前線にも如実に影響を及ぼしていた。
 日本政府が推し進めていた対BETA戦線より離れた東南アジア、オーストラリア方面への工業力移転が完全に裏目に出、海上封鎖の影響により、大破壊力を有するMLRSの227mmロケット弾は勿論、一般的な155mm榴弾さえ今後の国内製造の目途がつかない為に、砲弾使用量は大きく制限が加えられている。
 現在、砲兵連隊が射撃を許されるのは、現状光線級の炙り出しを目的とした索敵射撃のみ。光線級の個体数を超える砲弾を撃ち込み、敵を殲滅するような物量任せの砲撃は許されていない。

 撃ち出された僅かな砲弾も虚空で光線級により蒸発させられ、結局要塞級を中心とする大型種の群れは一切の砲爆撃を受けることもなかった。当然要塞級や突撃級の正面装甲は、小銃弾や機関銃弾で破れる訳が無く、大型種の群れは容易に多摩川の渡河を果たし、歩兵達が詰める防御陣地に殺到する。
 たまたまそこに配置された部隊の人間は、ただただ不幸だとしか言いようが無かった。突撃級と要撃級の群れが通り過ぎたその跡には、土と肉が一緒くたになったものだけが残る。大型種の蹂躙を免れた歩兵達は何とかその場に踏み止まり、ありったけの火器を以てBETAの突撃を破砕せんとするが、虚しい努力だった。
 突撃級と要撃級が巻き上げた砂煙をぶち破り、青白い光線が一閃する。光線級の放ったそれは、後退しながら行進間射撃を試みていた74式戦車を溶解させ、また光線級と74式戦車の合間に居合わせた歩兵達を擦過と同時に蒸発させてしまう。レーザーと戦車砲の激しい応酬の中で、歩兵はその煽りを受けて死んでいく。

「ふざけんな! ちくしょうが!」

 頭上をいまこの瞬間にも通過するかもしれないレーザーに脅える歩兵は、塹壕の底で這い蹲り、無意識の内に悪態をつき続けていた。周囲をプラズマ化させながら大気中を奔る光線級のレーザーは、直撃せずとも生身や機械化強化装備の歩兵を焼き殺すことが出来てしまう。まったく以て公平ではなく、そして理不尽だ。

「幾らなんでもBETAの浸透が早すぎるぞ! どうなっている!」

「多摩川流域が、BETAの死骸で埋め尽くされているんです! 大型種の死骸を伝って――死骸の上を歩いて、小型種が簡単に渡河をっ……!」

 後方に設けられた観測所からは、屍山血河と化した多摩川を見て取ることが出来た。
 主力戦車の戦車砲や歩兵の無反動砲の攻撃を受けて、多摩川を渡河する最中に絶命した要撃級の死骸。更に上流から流されてきた小型種の死骸が、要撃級の死骸に引っかかり折り重なるようにその場に滞留する。BETAの膨大な量の死骸は、多摩川のあらゆるところに沈み、重なる。……そうして積み重なった死骸の上を、小型種の群れが突き進んでいく。

 多摩川防衛戦は、著しく一方に不利な消耗戦になろうとしていた。
 






―――――――







 熊本県立開陽高等学校正門前には、熊本県警と帝国陸軍による警戒線が張られ、方々には機動隊車輌と機関砲を備えた歩兵戦闘車が屯ろしていた。その周辺では積み上げられた土嚢と重機関銃による即席の銃座が設営され、まるでBETA小型種の群れを待ち構えるかのような厳戒態勢が取られている。そして開陽高等学校の敷地、その一歩手前には、全高約18mの威容を誇る77式戦術歩行戦闘機"撃震"が、実弾を装填された87式突撃砲を携えて、そこにいる。

 対する開陽高等学校側も、この帝国陸軍のあからさまな恫喝に抗議するかのように、学兵達を出動させて防御体制を取らせていた。
 屋上には99式熱線砲を保持した狙撃手達を、前庭には重火器を携えたウォードレス兵を配置し、正門前や境界手前には、全高9mの人型戦車士魂号が仁王立ちして警官と歩兵達を見下ろしている。腰には超硬度大太刀を佩き、両肩に展開式増加装甲を括りつけた鋼鉄の武者は、時折首を廻らし、鉄兜の庇に隠した瞳で、目前の警官や歩兵だけでなく、遠方に見える戦術歩行戦闘機を睨みつけていた。

 たとえ何かの間違いでどちらかが発砲しても、恐らく大規模な戦闘には発展しないであろう。
 幻獣やBETAといった異種敵性勢力が存在する世界で、人類と人類が殺し合い、互いの戦力を漸減するほど愚かなことはない。最初の混乱で死傷者が出たとしても、後に続くのは個人間での遺恨のみであり、無益な戦闘は継続しないことは確定的であった。

 だがしかし、それでも両者は互いを恐れ、とにかく生徒会連合九州軍司令部と、本土防衛軍統合参謀本部による会談の成功をひたすらに祈っていた。

 学兵達は、直接的手段に出て高等学校を封鎖に掛かり、生徒会連合から譲歩を引き出そうとする帝国陸軍(大人の軍隊)に嫌悪感を覚え、戦うことに大した抵抗を持ってはいなかった。
 それに、戦えば勝つ、という確信が学兵達にはあった。
 正直に言って、帝国陸軍将兵の能力は、ハード・ソフト両面で自分達に劣っているのでは、と学兵達はそう、九州中部においての共闘を通して考えていた。
 だが完勝とはいかない。
 戦術歩行戦闘機と機械化装甲歩兵の機動性には、手が付けられない。ロケットブースターを持たない通常型の士魂号や装甲車輌は、戦術機によって瞬く間に撃破されてしまうであろうし、ウォードレス兵も機械化装甲歩兵とは相性が悪い。遠距離から中距離においての戦闘では、火力の面で有利なウォードレス兵が有利だが、近接戦闘では跳躍装置を有する機械化装甲歩兵に分がある。

 逆に帝国陸軍は、西部方面軍全戦力をぶつけても九州軍を撃破出来ないのではないか、と考えていた。
 九州中部戦線で目の当たりにした大火力は、彼らを驚愕させた。
 機械化装甲歩兵が戦車砲と同等か、それ以上の火砲(フルスケールリニアカノン)を携え、機械化歩兵強化装備を纏った歩兵が、戦術機と同口径の機関砲や、重機関銃を振り回す様は、彼らからすれば非常識的な光景であった。また戦車級程度ならば、徒手空拳で片付けてしまう程の格闘能力も、帝国陸軍の将兵を驚かせた。彼らがもつ機械化歩兵強化装備は、どれだけ軽量かつ効率的で、強力なのか、と――(こちらの世界の人間に、強化されたクローン人間という発想はなかなか出来ない)。
 一介の歩兵が装甲車輌と同等の火力を発揮し、戦術機に劣らない戦闘力を発揮する異世界軍を撃滅するには、西部方面軍と、四国地方に残る中部方面軍を磨り潰さなければならないのではないか、とさえ唱える参謀もいるほどだった。

 とにかく衝突すれば、最初期に発生する数十分の混乱だけで、多くの死傷者が出ることは間違いない。だがしかし互いに相手の存在に怯える彼らは、交渉が終わるまで部隊を退かせる訳にはいかなかった。

 開陽高等学校の直上、約40mの位置を分隊単位(エレメント)で94式戦術歩行戦闘機"不知火"が、巡航速度で通り過ぎる。その後を、少し遅れて日本国自衛軍即応部隊、「守護天女〈ガーディアンプリンセス〉」の戦闘攻撃機"紅天"が、ペアを組んで飛んでいく。
 両者共に手足のある航空機には違いないが、かなり毛色が異なる。
 不知火が人型をした形状に、申し訳程度の翼(跳躍装置)を取り付けた代物であるならば、正反対に紅天は戦闘機の下部に無理矢理、腕部と脚部をくっ付けたような形状をしている。低空を駆け、空を封じられれば地上に降りて戦う、彼らの基本戦術も似通っているところがあるのに、その形状が全く違うことは、不思議だと言えよう。



 両者が立てる轟音は、生徒会連合九州軍司令部がおかれている開陽高等学校生徒会室にまで響き、九州軍と本土防衛軍の人間は、一旦口を紡がざるを得なかった。両陣営の幾人かは、顔をしかめて相手を睨みつけ、騒音の中に居ることをいいことに早口で悪態をついてみせた。

 九州軍司令、林凛子はこの僅かな時間を使って、思考を一旦落ち着かせる。
 いま開陽高等学校生徒会室には、本土防衛軍統合参謀本部よりやって来た高官達が、自身の要求――幻獣(新種BETA群)の情報提供、日本国陸上自衛軍・生徒会連合が有する技術の開示、一部機材の提供、そして九州軍の関東圏出兵――を受け容れるよう押しかけている。
 まったく虫のいい話だとしか言いようがない、というのが、林凛子やその脇に座る肥満体の男、芝村勝吏幕僚長(参謀長)の共通の見解であった。九州軍がもつ情報、技術、機材を寄越せ、兵員も遣せ。これでは九州軍は、帝国軍に併合されるようなものではないか。
 日本国陸上自衛軍、日本帝国軍、両者は平等な立場のはずだ。生徒会連合九州軍は、確かに正規部隊(大人の軍隊)に比較すれば一等低い扱いを受けているが、日本帝国軍の指揮下にはないのだから、一方的に要求をされる謂われはない。九州軍司令部の人間としては、生徒会連合九州軍が本土防衛軍に手駒のように思われているようで、不快でならなかった。

 不知火と、紅天が、往き去った。



「やはり無条件で貴軍の要求を呑む訳にはいかない」

 初めに口を開いたのは、芝村勝吏であった。
 傲岸不遜の肥満男は、爬虫類面を歪めて嘲笑さえも、対面する本土防衛軍の参謀達に飛ばしていた。
 だがそれを受け止める参謀は、涼しい顔で云う。

「我々としては、人類間に在る時空を超えた友誼に期待するものである」

「我が生徒会連合九州軍司令部も、2つの要求をさせてもらう。生徒会連合に参加する高等学校、その生徒会執行部に各高等学校敷地内における自治権を認めろ。10万の人間が食っていけるだけの食糧を寄越せ。そうすれば幻獣に関する情報と、ある程度の技術はくれてやる」

 芝村勝吏は相手の言葉を無視し、半ば強引に条件を突き出した。
 対して本土防衛軍の参謀の眼は、一瞬だけ輝き、表情もほんの一瞬だけ和らいだ。
 高等学校敷地内の自治権、10万ぽっちの人間が食べてゆくだけの食糧、それを与えるだけで情報と技術が手に入るのならば、安い買い物だと言えるであろう。
 だが彼らにとって一番重要であったのは、不利な戦況が続く関東圏への九州軍派兵である。七星重工(セプテントリオン)と名乗る新興企業のおかげで、物資面のやり繰りには目途が付きそうだが、企業からは人間を買うことは出来ない。とにかく彼らは、関東圏の人的資源の補充を急ぎたかった。

「では、関東圏への派兵についてはどう考えるか」

「却下だ。我々が血を流す必要性を感じない」

「我が日本帝国と貴軍は、一蓮托生だということを忘れている」

「勘違いするな。俺は日本国の防衛に勇気を奮う戦士を、日本帝国に使い潰されるのは御免だ、と言っているだけだ」

 本土防衛軍参謀本部よりやって来た参謀は、眼を細めた。顔面の筋肉を動かし、さも不快げな表情を作り出す。正対する芝村勝吏は、だからどうした、と不敵に笑ってみせる。これをたしなめるべき立場にあるはずの、九州軍司令林凛子は黙ったまま身動ぎもしない。

「――我々の立場も理解して頂きたい」

 こうした状況で仲裁の役回りをするのは、破天荒な人物と女傑を上司とする常識人、陸自第106師団師団長である。過度なストレスに苛まれ、上は偏頭痛、下は下痢に悩まされる貧相な男は、青白い顔に汗を浮かべながら言葉を続けた。

「現在、我々が転移した原因は突き止められていないのです。もしかすると次の瞬間、我々はまた元の世界に戻り、幻獣と戦わなければならなくなるかもしれない。我々が求めるのは、日本国と日本国民の――我が世界の人類の存亡を賭けた戦争に勝利すること。この世界でBETAなる宇宙生物との戦いで疲弊することは、決して許されないのです」

「では貴官は、この地に住まう日本民族を見殺しにするおつもりか」

「勿論、我々九州軍将兵にも、この異界で現在進行する惨劇を前に、義憤に駆られる者が少なからずおります。……我が隷下に広く義勇兵を募り、生徒会連合義勇軍を編成し、関東圏へ派兵する。そういった形を取ることを許して頂けるのならば、貴軍に協力することもやぶさかではありません」



 窓の外。
 撃震の肩に止まっていたカラス達が、一気に飛び立つ。彼らは笑って、鋼鉄の甲冑を纏った巨人族と、生身の肉体を持たないからくりの塊へと翼を振った。巨人族はカラスを一瞥すると鋼鉄の面頬の裏で唇を歪ませ、一方で全身を鋼で造られた巨人は、翼を振ったカラスを黙殺した。

「鳩神族も口にしていたがな、どうもあの天翔る巨人族とは仲良くなれそうもないわい」

「かの天翔る巨人と衝突する子らも多い。……だがその問題を解決するのは、この戦いが終わってからだ」

 人間と共生する鳩神族や鴉神族にとって、高速で空飛ぶ鋼鉄の塊は大変危険な存在であり、実際に多くの鳥神族の子が、鋼の胴体や発動機に巻き込まれて落命している。かつてあしきゆめたる幻獣との戦いにおいて、鳥神族が人族につくことを渋った理由がこれであった。決して棚上げにして良い問題ではない、だがしかしいまは人族と共闘すると決めた時分だ。鳥神族のみが光の軍勢から足抜けし、和を乱すことはあってはならない。
 鴉神族は、種子島を持って互いに睨みあう人族の頭上を越え、同じ熊本市内にある高等学校――尚敬高等学校敷地内に設けられた、臨時戦闘団光の軍勢の本拠へと降り立った。人族が整備テントと称する天幕が、それである。看板には猫神族の言葉で、「正義最後の砦」と刻まれており、天幕の周囲には光の軍勢として集った神族が、地面に描かれた絵図を囲んで軍議を開いている。

「ただいま帰ったぞ! ブータニアス卿!」

「顎で使って申し訳ない。この埋め合わせは何かでしよう」

 天幕の天蓋に留まった鴉神族を、一柱の猫神族が見上げた。
 体長1mはあろうかという巨躯、赤い外套を纏い、神々の中心に居座る彼こそが、猫神族にして戦神と讃えられる大英雄、ブータニアス卿。1000年前のあしきゆめとの決戦にも、鳥神族にして冬の神たるハードボイルドペンギンや、神族の域にまで到った人族、菅原道真公、青白く光る神の拳をもつジョニー・サザーランドと共に参戦した百戦錬磨の猛者であり、此度の戦いでも戦闘団長として神族の指揮を執らんとここにいる。

「では後で猫缶でも寄越して貰おう……さて、どうやら人族も火の国(熊本)を出立し、坂東(関東地方)へ向かうようだぞ」

「海路はあしきゆめに、陸路はかの醜悪な化生(BETA)に押さえられているのではなかったか」

「九州・四国間、四国・上方間の海路は生きている。陸路は東山道を使えるそうだ」

 ほう、と幾柱かの神族が唸った。化生が佐渡を経、甲信越を蹂躙し東海地方へ到った以上は、東への交通は当然絶たれているものだと思っていたからだ。海路、陸路が生きているならば、どうやら血路を開きながら進む必要はなさそうだ。

「連中の巣穴は佐渡と相模に在り、雁神族の話では相模に化生は集中しているらしい。佐渡と相模間は一時的な通行があっただけで、連中に居座られている訳ではないそうだ」

「だが巣穴が巨大になり、彼らの頭数が増えればその陸路も封ぜられてしまうやも」

「海路は鯱(しゃち)神族が護りについていてくれているのかもしれん。ブータニアス卿、山地での戦いは我ら猿神族が得手とするところ。我らに辻の防御を命じてくれい」

「我ら犬神族も先発し、陸の化生を平らげて人族の道を作ろう」

 ブータニアス卿は、苦笑いしてその巨大な前脚で自身の顔を洗った。幾月か前、人族に見切りをつけ、自身があしきゆめと戦う最後の神、最後のよきゆめであると思い込んでいた頃には、想像だにしなかったであろう光景であった。神族は確かに、一旦は人族の前から去った。だが決して、古の盟約を――人族危うき時神族はこれを扶ける、神族窮する時、人族これを救う――忘却した訳ではなかったのだ。

「我ら神族は人族に先行し、坂東までの道を支えんとする!」

「応ッ!」

 返事を合わせた神々に、ブータニアス卿は更に言葉を継いだ。

「そして此度の戦は、彼の"最も新しき伝説"も参戦する予定となっている」

「夜明けを告げる騒々しき足音、――絢爛舞踏が来るか!」

 ああ、とブータニアス卿はうなずいた。
 小人神族が進軍喇叭を吹き鳴らし、鳥神族が弓を引き絞っては矢継ぎ早に撃ちかけて、馬神族に跨った人族が突撃を繰り返す時代は終わった。巨人族が槌や大剣を振るってあしきゆめを吹き飛ばし、その脚の合間で猫神族が魔術を編む時代はもう来ない。よきゆめの全盛はとうに去った。
 それでも猫神族の大英雄は、その身滅びるまで戦うことをやめるつもりはなかった。いつの時代もどこの世界も、知類の意地――「殴られたならば、殴り返せ」は変わらない。人族が滅びようとするこの世界に、いまあらゆる希望が集結せんとしていた。


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