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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "火曜日は日曜日に始まる。"
Name: 686◆1f683b8f ID:e208e170 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/04/07 18:56
 11月上旬。

 甲22号目標横浜ハイヴの周辺に、BETAの姿は見受けられない。
 在るのは、赤い瞳を怒りに燃やす異形の姿。その数、軍団規模(約5万前後)は下らない。小・中型幻獣の大量運用と大型幻獣の本格投入により、BETA陣営を捻じ伏せた幻獣軍は、未だ地中に潜むBETAを殲滅すべく、横浜ハイヴ地表構造物を中心として地上に防御陣地を築いていた。
 横浜ハイヴ周囲に存在する地表と地下構造物を繋ぐ、所謂"門(ゲート)"は十数門。その全てに数千の中型幻獣が張り付き、湧き出すBETAを粉砕すべく包囲環を形成し、小型幻獣達は門の内外で哨戒任務についている。
 これはBETAが門を使用し、地上奪回に動くことを見越した対策であった。仮に万単位のBETAが、地中から地表へ、複数の門を用いて一斉に逆襲を掛けたとしても、生体弾と生体レーザーの猛射を浴びることとなる。……BETAによる地表への侵攻及び、奪回はまず不可能に近い。
 また横浜ハイヴ最外縁部――特に北側では、数多くの中型幻獣が厚い防御陣を敷いていた。足下の敵、BETAを時間を掛けて嬲り殺しにする上で、人類陣営の存在を忘れるほど、幻獣軍の詰めは甘くない。
 光砲科幻獣と対地・対空噴進弾を備えた中型幻獣ゴルゴーンの群れは、人類軍に多摩川渡河の動きがあれば、すぐさま激しい砲撃を喰らわせる腹積もりでいる。その幻獣軍砲兵陣地の前面には、本土防衛軍に"前衛(バンガード)級"と渾名された中型幻獣、ミノタウロスと小型幻獣の群れが厚い防御横陣を作り上げ、人類軍南進を警戒する。
 赤目をぎょろつかせ、BETAが喰らった旧川崎市街を睥睨する怪物の最中には、今まで人類軍が対峙したことのない、未知の幻獣がいた。
 2脚、細い腰――そんな華奢な下半身に、どこまでも不釣合いな甲殻種めいた上半身が載せられている。肩に相当する部位からは、四本の長い腕が伸び、その先端には如何にも白兵戦に有用そうな巨大な鋏。有する武装は勿論それだけでなく、両肩部には生体誘導弾として機能する幾百もの小型幻獣を寄生させている。

 中型幻獣グレーター・デーモン。

 カニを連想させる顔面には、威嚇的な赤い瞳が複数輝く。
 グレーター・デーモンは、戦術歩行戦闘機により甚大な被害を蒙った幻獣軍が急遽ロールアウトさせた新型機であり、対戦術機能力を有し、同時に対BETA戦においても活躍することを期待されている新鋭中型幻獣であった。
 特筆すべきは腕の鋏でもなく、両肩部の生体誘導弾でもない。
 グレーター・デーモンの背中には、生体噴進弾の尾部、つまりロケットモーターと同じ働きをする小型幻獣が群生しており、この寄生する小型幻獣こそが、彼を「対戦術歩行戦闘機用新型幻獣」たらしめている。戦闘の際には、この背面に寄生する小型幻獣が火を噴くことで、グレーター・デーモンに高速機動を可能とさせるのである。
 鹵獲した戦術機を分析し、「噴進装置により推進力を得る陸戦兵器」の概念を得た幻獣軍渾身の最新兵器。コスト高や継戦能力の低さ、薄過ぎる下半身装甲厚等、未だ欠点は多いものの、間違いなく"戦場の王"となるだけの能力を有している。……おそらく年内中に幻獣軍はグレーター・デーモンを万単位で就役させ、人類滅亡までに10億体近くを製造するであろうことは間違いなかった(第5世界における"史実"では、世界中で40億体が確認されている)。

 ハイヴ構造体に寄り添うように直立する大型幻獣オウルベアー、その周囲で立哨する小中型幻獣の群れ。その足下でつまらなそうに自身の手駒を指揮する少女は、グレーターデーモンを北辺防衛ラインに配備しながら、害虫駆除とはこうやるんです、とだけ呟いた。
 
 幻獣軍とて、理解していた。
 人類軍は間違いなく、多摩川を渡河し南進して来る。彼らにとって、BETAと幻獣の衝突はまさに好機。これを逃せば、関東圏の戦況挽回は不可能となる。必ずや人類軍は、全力を振り絞って、ここ横浜ハイヴに殺到する。
 故に第5世代クローンの少女は、引き篭もって出てこない足下の敵に対する備えよりも、横浜ハイヴ外縁部の防御陣地に注力した。博打ではあるが、逆に言えば幻獣軍にとっても好機なのだ。うまくいけば「幻獣対BETA」の構図に釣られ、堅固な防御陣地からのこのこと現れた人類軍に、大打撃を食らわせてやることが出来る。







"火曜日は日曜日に始まる。"







 1998年11月11日。生徒会連合義勇軍、帝国陸軍古河駐屯地到着。

 九州は熊本より慣れ親しんだ校舎と仲間達に別れを告げ、異界人類防衛の任に起った学兵達はようやく関東圏に腰を落ち着けた。その数、4559名。彼ら全員、義勇軍参加に進んで志願した義勇兵であり、この4559という数字は、元の世界から異世界転移を果たした生徒会連合九州軍全体の約4.5%に当たる。この数字は、義勇軍参加将兵は1000人ないし2000人程度しか集まらないのでは、と考えていた生徒会連合義勇軍司令、幾島佳苗の想像を遥かに上回るものであった。
 もちろん4559名の学兵から成る生徒会連合義勇軍に、大局を動かすだけの力はない。実際に前線で戦闘を繰り広げるのは、その内の約半数強程度であり、残り半数は本土防衛軍と共同で前線部隊の支援――つまり兵站の維持に忙殺されることになる。生徒会連合義勇軍の戦場における影響力は、微々たるものだろう。
 だがしかし本土防衛軍の生徒会連合義勇軍への評価は、低くはない。
 確かに純粋な戦力として考えるならば、義勇軍は一個師団規模にも相当しない。が、小部隊でBETAの大群を捌けるだけの装備、また本土防衛軍統合参謀本部が呼称するところの、BETA新属種(幻獣)に有効な戦術、新属種の情報をもっていることもまた事実。来る横浜ハイヴ攻略作戦では、義勇軍に突破口を拓いてもらう腹積もりであるが、彼らとの交流、共闘から得られるものもまた大きい、と本土防衛軍統合参謀本部は考えている。

 当の本人達、義勇軍に参加した学兵の士気もまた低くはなかった。
 これまでも何度か触れたように、実際のところ、この異世界における戦況がどうなろうと、元居た世界の戦況には何の関係もない。
 だが学兵達は思うのだ。無視していいものか――この日本列島にも、形質は違えども人々が生活しているという事実を、である。生徒会連合義勇軍に参加した学兵には、九州中部戦線にてBETAによる殺戮の痕を目撃した者が多い。これ以上宇宙生物にいいようにされてたまるか、大人の軍隊があてにならないのなら俺たちがやってやる――生徒会連合義勇軍に参加した学兵の多くは、大なり小なり義憤に駆られ、そういった関係から士気はそれなりにあった。

 そして生徒会連合義勇軍到着の翌日から、本土防衛軍統合参謀本部以下、関東圏に集った人類軍将兵は、横浜ハイヴ攻略戦に向けて忙殺されることとなった。
 作戦参謀達は如何に横浜ハイヴ地表面を占領するBETAと幻獣を駆逐し、ハイヴ地下への侵攻に利用する門を占領するか、思考に思考を重ねることを強いられ、またかつて人類が突入に成功した甲5号目標ミンスクハイヴ(70年代当時フェイズ3)、甲13号目標ボパールハイヴ(90年代当時フェイズ4)の戦訓を分析し、横浜ハイヴ突入戦の研究に余念がない。
 もはや横浜ハイヴ攻略作戦に、失敗は許されない。
 参謀達は身体、精神、あるいはその両方に不調を来たしながらも、それを無視し作戦立案に全力を挙げた。



「横浜ハイヴ攻略作戦、緒戦は生徒会連合義勇軍・帝国陸軍・帝国航空宇宙軍共同の陸空共同機動戦による、敵勢力漸減を提案します」



 白を基調とした学生服を纏った、生徒会連合義勇軍の若き作戦部幕僚は、居並ぶ本土防衛軍作戦参謀にも物怖じすることなく、自身の作戦案「茜プラン」を議場にて語り始める。

 彼の横浜ハイヴ攻略作戦第一段階は、快速部隊の浸透から始まる。

 リテルゴルロケットパックを装備した生徒会連合義勇軍ウォードレス兵・人型戦車士魂号、帝国陸軍戦術歩行戦闘機・攻撃ヘリが、横浜ハイヴ周辺を占領している幻獣群に殺到し、同時に帝国航空宇宙軍制空戦闘機F-104J栄光、攻撃機A-4J大鷹が対地攻撃を敢行する。
 幻獣の対空性能はたかが知れており、高速殺到する陸上・航空戦力を捌くことはまず不可能。奇襲効果を期待した高速突撃。密集陣形を取る敵陣を掻き乱し、敵の組織的反撃力を喪失させることを目的とした第一撃である。

 だがこれは従来のハイヴ攻略戦の定石からは、かけ離れている。
 案の定、本土防衛軍統合参謀本部の作戦参謀が、挙手とともに発言した。

「先の甲13号目標攻略作戦は、軌道爆撃と砲兵部隊の飽和攻撃から開始された。衛星軌道上の国連及び帝国航空宇宙軍は通信途絶状態ではあるが、我が帝国陸軍の有力なる砲兵部隊は健在。また横浜ハイヴは、帝国海軍連合艦隊の艦砲(て)が届く範囲にある。甲22号目標攻略作戦もまた、入念な準備砲撃から開始すべきと考えるが」

 従来のハイヴ攻略作戦は、まず地表面を活動する無数のBETAを砲爆撃によって、出来うる限り駆逐することから始まる。AL(対レーザー砲弾)を放ち、主戦域に重金属雲を発生させつつ、光線級の位置を探りながら通常弾を叩き込み、地上部隊が接近出来る状況を作り出す。これがハイヴ攻略作戦の、定石である。
 だがしかし生徒会連合義勇軍の作戦部幕僚が考えるハイヴ攻略作戦に、この準備砲撃は一切含まれていない。
 まさに武人、といった風貌を持つ強面の作戦参謀に対し、中性的な顔立ちをしたフランス系の生徒会連合作戦部幕僚は、苦笑を浮かべて答えを返した。

「生徒会連合義勇軍独立山岳中隊による航空偵察によれば、横浜ハイヴ地表面は既に貴方方の言うところのBETA新属種――幻獣に占領されています。従来の対BETA戦術は忘れて頂きたい……仮に作戦発動と同時に準備砲撃を実施すれば、それは幻獣に"これから攻撃します"と教えるようなもの」

 奇襲効果を最大限に望むならば、準備砲撃は行うべきではない。
 それが生徒会連合義勇軍の作戦部幕僚、茜大介が考えるところであった。
 彼は、更に続ける。

「また幻獣軍と比較した際、我々人類軍が有する砲戦力はあまりにも貧弱。中途半端な予備砲撃で、こちらの砲兵部隊の位置を暴露することは止めた方が宜しいかと。圧倒的反撃に予備砲撃開始最初の10分間で、帝国陸軍砲兵科の諸部隊は壊滅します」

「なるほど。……敵が優勢なる砲戦力を有していることを鑑みれば、電光石火、乾坤一擲。敵勢の懐に入り込み、彼我混濁の状況を生み出すことが最適、そういうことか」

 質疑を口にした作戦参謀は、一応納得した。
 居合わせる"大人の軍隊"の作戦参謀達も、頷いている。彼らとてBETA新属種が、圧倒的な砲撃力を有していることを理解している。相手は見た目10代半ばの少年ではあるが、なるほど、対BETA新属種戦闘に精通していることは間違いなさそうだ、と幾らかの大人達は、先入観による評価を改めた。

 その後も"茜プラン"の開陳は続く。



「まず多摩川絶対防衛線中央の敵前衛横陣を食い破るは、国道1号沿いを南進する生徒会連合義勇軍独立機動大隊及び帝国陸軍第27師団隷下第27戦術機甲連隊と、国道15号を進む帝国陸軍第16師団隷下2個戦術機甲連隊。また陽動兼助攻役としてその東側、第3京浜道路を国連軍太平洋方面第11軍隷下多国籍混成1個戦術機甲連隊が侵攻」

 国道1号・国道15号は、東京都内から神奈川県内旧横浜市街――横浜ハイヴまでを結ぶ幹線道路である。そこに突破力に優れる生徒会連合義勇軍と、戦術機甲連隊を主力とする帝国陸軍諸部隊を充て、一気呵成に横浜ハイヴ周辺の後方集団を叩く。

「東京湾沿いを走る国道6号及び首都高速湾岸線を、第1師団隷下3個機甲連隊及び第4対戦車ヘリコプター団が南進。各部隊は多摩川・鶴見川(多摩川の南を走る河川)間の幻獣群を突破し、横浜ハイヴ周辺に展開中の、本土防衛軍呼称"砲撃(ブラスト)級"、生徒会連合呼称"中型幻獣ゴルゴーン"を主力とする後方集団を蹂躙する」

 幻獣前衛を適当に相手しつつ、高速突破。
 そして砲兵役の中型幻獣へ高速吶喊。

「そして横浜ハイヴ攻略作戦第2段階――」



 そこで、本土防衛軍統合参謀本部所属の作戦参謀が思わず挙手をした。

「……本土防衛軍呼称"超前衛(ちょう・バンガード)級"、生徒会連合呼称"大型幻獣オウルベアー"。あれをどうするおつもりか」

 大型幻獣オウルベアー。
 西日本防衛戦の最中、第一帝都絶対防衛線前面(姫路)において出現したその怪物は、あらゆる通常兵器による攻撃を無効化し、姫路市街に立て篭もる帝国陸軍諸部隊を、まさに鎧袖一触粉砕した。怪物、怪獣といった表現をも通り越して、大災害とも形容したくなるその存在が、横浜ハイヴ地表構造物付近で確認されている。……本土防衛軍としては、悪夢以外の何物でもない。
 大型幻獣オウルベアーについては、発言した作戦参謀だけでなく、本土防衛軍統合参謀本部全体が悩まされていた。第一帝都絶対防衛線より、戦術歩行戦闘機が持ち帰ったガンカメラの映像には、あらゆる種別の砲弾が可視障壁に防御される様が映し出されており、これを如何なる兵器ならば貫徹せしめることが出来るかが、大きな課題となっていた。
 だが茜大介は、さしてオウルベアーの存在を問題視していなかった。

「あれですか」

「本土防衛軍(こちら)が準備出来得る最大火力は、戦艦紀伊の三連装50,8cm主砲、あるいは――」

 陸戦兵器では全く歯の立たなかった大型幻獣オウルベアーを撃破するには、超ド級戦艦の主砲や、海上艦艇がもつ対地巡航ミサイルが必要なのではないか、と作戦参謀は懸念する。
 だが、茜大介は手を振ってそれを遮った。

「大型幻獣オウルベアーは――生徒会連合義勇軍独立対中型幻獣小隊、5121小隊が撃破します」

「5121小隊? たかが一個小隊で、あれに対処するというのか……!」

 作戦参謀達は、そんな馬鹿な、と口々に呟いた。
 こちらの攻撃を完全無効化し、大口径レーザーと近接戦闘用対地爆弾をも有する怪物を、たった一個小隊で撃破出来るはずがない。統合参謀本部内では、S-11を装備した一個戦術機甲連隊(定数108機)を使い潰して、ようやく刺し違えることが出来るか、と考えられている怪物を、たかが一個小隊で殲滅出来るはずがない。それが本土防衛軍作戦参謀達の、偽らざる本心であった。
 だが、茜大介はその自信を一切揺るがすことなく、半ば宣言するように言った。



「甲22号目標攻略作戦発動と同時に、本土防衛軍呼称"超前衛級"、生徒会連合呼称"大型幻獣オウルベアー"を、生徒会連合義勇軍独立対中型幻獣小隊5121小隊が、空挺強襲を以て撃破する」



 言ってから、茜大介は苦笑した。

(5121小隊を買い被り過ぎている、かな)

 と自分自身を客観視しつつも、彼は半ば本気で5121小隊ならば可能だと思っている。
 大型幻獣オウルベアー単独撃破はもとより、「やれ」とさえ言えば横浜ハイヴ単独攻略をもやってみせるだろう、と。そう思わせるだけの何かが、あのくそったれなプレハブ校舎と、整備キャンプ"正義最後の砦"にはある。

(さっさと戻って来い。芝村、それと速水――いや、青の厚志)

 元5121小隊員として最大限、最高の舞台を整えてやる。








―――――――








食欲の秋、読書の秋とは、この世界では当てはまらないらしい、と生徒会連合義勇軍に参加する学兵達は思わざるを得ない。
 週刊マガデーやホラー小説といった、娯楽を目的とした印刷物は、ほとんど帝国陸軍駐屯地では販売されておらず、では新聞や週刊雑誌を読んでみるかと思えば、情勢のまったく分からないこの異世界日本の話、どうも興味が沸かない。そんな理由でまず後者、読書の秋は楽しめない。
 では前者、食欲の秋はどうか、と言えば――。

「食え食え食え! 午後からは、連中と共同訓練だ! 食わなきゃもたんぞ!」

「くっそ――駄目だ、水を寄越せ! 流し込めッ」

 やはり合成食品の不味さがネックとなり、食欲など沸くはずもない。
 帝国陸軍古河基地の食堂で昼食を摂る学兵達の食は、どうもいまいち進まなかった。当然、彼らは午前中、対BETA戦術の研究や横浜周辺の地理についての座学、あるいは戦闘訓練に勤しんでいる。だがしかし空腹に勝るソースはない、とは第5世界の何某かが言った言葉であるが、その空腹なる最強の調味料を以てしても、合成食品はどこまでも不味い。
 巨大食堂の長卓につく学兵達は、たまたま居合わせた帝国軍人の目など憚らず、「まずいまずい」と連呼しながら食事を掻き込んでゆく。
 その場で食事を摂る学兵達の合間で、さっさと食事を摂るように指示を出す先任下士官達も、正直内心では、こんなもの食えたものではないと思っている。食糧事情が最悪の状況で、1999年1月から半年間戦い抜いた猛者でさえ、合成食品を素直に歓迎することは出来ない。
 ひとりの学兵は、シチューをぶっ掛けた白飯を一掬いするも、そのまま硬直して口に運ぶことを躊躇った。

(熊本戦では物々交換もする余裕もないまま、ジャガイモばっかり食していたが……)

 手段を選ばず手に入れたジャガイモ60kgを、物々交換で他の物に換え、それを材料に炊き出しを行う。あるいは物々交換も出来ないままに、正真正銘の芋煮会を開催する。福岡県陥落と共に食糧事情が悪化した4月以降、熊本県内の高等学校で恒常化した風景であったが、そんな惨憺たる経験をした学兵でさえ、目の前の食事を忌避してやまない。
 匙で掬ったそれは、見た目は湯気を立てとても美味そうには見える。
 だがそれを口に含んでみれば、どうもルーが臭い。その臭いは発酵食品のそれと言ってもいいかもしれず、またそのシチューの下の白飯はやはりパサついている。絶望的にまで不味いそれに、学兵は苦しめられる。

(化学合成で生み出した牛乳に、化学合成で生み出した材料を混ぜて作ったルーだから不味い、そういうことなんだろうな)

 仮に元の世界に戻ることが出来れば、この世界で呼称されるところの自然食品、もっと噛み締めて食おうと決意する学兵であった。

「これなんとかならないっすかね」

 学兵達が食事を摂る卓の端の方では、思わず傍に居合わせた帝国軍人に"攻略法"を聞き出そうとする者も現れた。どんなに不味い携行糧食であっても、美味く食べる方法というものは、必ずひとつはあるもの。それを時空を超えた戦友の誼で、聞き出そうというのである。
 だが迷彩柄の戦闘服を纏った厳つい歩兵科の帝国軍人達は、「どうしようもねえよ」と相手にしてくれず、割と優しい部類に入るのであろう戦術機甲科の衛士達は、「俺達はかなり慣れちまってるからな」と正直なところを言った。三食合成食品の日本帝国の人間にとって、既に合成食品の不味さは当たり前のものであり、どれをどうやれば美味く食べられるか、など考えたこともないらしい。
 この不味さを誤魔化す為に、適当に調味料を掛けて食ってみるか、と考えた学兵は、すぐさま周囲の戦友に止められた。
 何せ調味料の味自体が、既知のそれとは違う。日本独特の調味料の筆頭、醤油は独特の酸味も甘味もなく、誇張表現ではあるが「塩味の油」と学兵に評されるような代物であった。化学合成した材料と材料を足し合わせる調味料は、基本的に壊滅的。ソースは何故か生臭く、マヨネーズからは硫黄の臭いがする。この二種は、挑戦することさえ憚られた。

 とりあえずこの日、学兵達は工夫の術も思い浮かばないままに、酷くカルキ臭い水で目の前の固形物を胃へ流し込んだ。



 空挺強襲用として熊本鉱業高等学校が製造した、人型戦車用リテルゴルロケットパックを装備した士魂号が、大地を抉り、大量の土砂を飛沫のように巻き上げながら着陸。と同時に膝射姿勢となって、各々が所持する火器から模擬弾を吐き出し、仮想演習システムが投影する戦車級の群れを、瞬く間に肉片へと換えてゆく。
 死骸を盾として弾幕を掻い潜り、士魂号に取り付こうとする戦車級もごく少数現れたが、それが数体では到底脅威には成り得ない。純然な機械の戦術機と異なり、ナマモノである士魂号は反射的に人工筋肉を膨張させ、長大な凶器となる腕、あるいは脚を振るい、接近する戦車級をひき潰す。
 そして士魂号に遅れる形で、戦域に撃震や不知火といった戦術機が中隊単位で進入し、人型戦車士魂号の背後から激しい攻撃を仮想のBETAに浴びせてゆく。
 体高が低く、頑丈かつ白兵戦に優れる士魂号が前衛、体高が高く射線が幅広く取れ、また携行弾数が多く弾種も豊富な戦術機が後衛を務める戦闘隊形だ。人型戦車士魂号は92mmライフル砲を以て突撃級や要撃級を一撃で仕留め、戦術機は120mm砲弾の集中射により要塞級を沈め、また長砲身突撃砲による狙撃で手際良く、こちらに気づいた光線級を撃破する。

「よし、降りろ! 降りろ! 降りろ!」

「ふざけんなよ! 成功したからいいものを! 俺ぁ二度とやらん!」

「うるせえ! 右側面、戦車級の群れが迫ってきてるぞ!」

 着陸後すぐさま、正面の敵へと砲撃を開始した戦術機。その側面へ迫るBETA群に対処するのは、随伴歩兵の仕事である。ウォードレス兵達は、戦術機の脹脛部分に追加溶接された取手からその手を離して飛び降りると、側面に迫る戦車級の群れに12,7mm弾の射弾を絶え間なく送る。
 一般的に普及しているウォードレス兵用リテルゴルロケットパックは、基本的に使い捨てである為、戦術機を援護する随伴歩兵は、"戦術機にしがみついて移動する"ことが最適解。類人猿と同等の握力を持つ学兵だからこそ可能となる無茶なやり方だが、だがしかしこれならば随伴歩兵も戦術機と同等の速度で移動出来る。

「ちくしょおおお!」

 勿論、生きた心地はしない。
 戦術機から飛び降りた学兵達は、弾幕を張って小型種の群れを片付け、また衛士と連携を取りながら99式熱線砲や40mm高射機関砲といった重火器で、人型戦車と戦術機を援護してゆく。

『連中、人間じゃねえな』

『まったくだ……』

 戦術機を操る衛士からすれば、学兵はまさに人外にしか思えない、というのが偽らざるところだ。最初は学生か新兵の集まり、程度にしか考えていなかったが、戦術機に掴まって移動する、重機関銃や機関砲を2本の腕で振り回す、こういった光景を見せられれば、もう第一印象を捨てざるを得ない。

 学兵と帝国軍人の意識の摺り合わせ、両部隊の連携を確認する共同演習は、毎日のように実施された。人型戦車士魂号及びウォードレスに、本土防衛軍が利用している仮想演習システムを導入することで、本物に等しい挙動をする仮想BETAを相手とした戦闘訓練が実施出来るようになり、学兵達の戦闘経験は高まった。
 問題がひとつあるとすれば、本土防衛軍が採用している仮想演習システムには、BETA新属種、幻獣の情報が登録されていない。現在、熊本鉱業高等学校と国防省技術研究本部が共同し、急ピッチで準備を進めているが、横浜ハイヴ攻略作戦発動までに完成するかは微妙なところであった。

 甲22号目標攻略作戦発動までに残された時間を、本土防衛軍と生徒会連合義勇軍の全将兵は休む暇なく、連携強化に費した。













次回、次期主力戦術機選定作業
既存機の派生型となりますが、オリジナル戦術機を登場させて頂きます


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