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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "人間の手いま届け"(前)
Name: 686◆1f683b8f ID:e208e170 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/04/26 21:58
"人間の手いま届け"(前)







 七星重工製試作戦術機、模擬戦敗北。
 芝村舞及び速水厚志、抹殺失敗。

 だがしかし岩田は特に激怒するでもなく、落胆するでもなく、来る甲22号目標横浜ハイヴ攻略作戦発動に向けて、細々としたところまで精力的に指示を出し続けていた。
 模擬戦の敗北はそう痛手にはならない、また芝村舞と速水厚志の殺害も、あの場で成功する可能性自体が極めて低かったのだ。簡単に諦めがつく。……また青の厚志は、絶対に甲22号目標横浜ハイヴに現れるに違いなかった。そこが殺しの好機だ。

「私兵を入れる」

 東京府内に借り受けた雑居ビルの一室で、岩田は独自の通信網を通し、七星重工社員――セプテントリオンの工作員に指示を出してゆく。
 セプテントリオンが、私兵を横浜ハイヴ周辺へ展開させる目的は、ふたつある。
 ひとつは、攻略作戦中に必ず救援に駆けつけるであろう、青の厚志の抹殺。
 もうひとつは、本土防衛軍が横浜ハイヴ制圧した後、速やかに最深部に安置されている鑑純夏の脳髄を入手する為であった。出来れば鑑純夏の脳髄は、この世界の人間の眼に晒したくない。可能であれば本土防衛軍突入部隊の動きを見計らい、機先を制して反応炉を制圧し、鑑純夏を手に入れる、あるいは目撃者を始末することも視野に入れての行動だ。
 そして、切り札の準備も欠かさない。



「五次元効果爆弾(あれ)を準備しておけ」



 仮に通常手段による芝村舞、青の厚志の殺害が失敗するのであれば、以前に在日米軍横須賀基地から奪取した五次元効果爆弾を以て、両名を消し飛ばす。
 五次元効果爆弾(通称G弾)ならば、確実にふたりを殺せることは間違いない。
 炸裂の瞬間までラザフォード場を展開する五次元効果爆弾に対しては、如何なる迎撃も無効だ。地対空誘導弾や大出力レーザーでは、弾体周辺にて発生する重力偏差の為に、消滅あるいは捻じ曲げられ、迎撃は敵わない。制御解放、G元素反応開始後の爆発域に巻き込まれれば、防御も当然不可能。おそらく絶技、例えば"絶対物理防壁"等を展開させたとしても、反応境界面に触れたリューンは破壊されてしまうであろう。
 勿論、横浜ハイヴ周辺に居合わせた、全人類軍将兵を巻き添えにしての殺しとなる。だが岩田としては、芝村舞と青の厚志を殺す為ならば仕方がない、くらいにしか思っていなかった。

 そして事後は、在日米軍独断の凶行として処理されるであろう。

 常識的に考えれば、一企業がG弾を所持しているはずがない。
 "G弾は、米軍しか所持していない"のだから。
 疑いの眼は当然、在日米軍に向くであろうし、在日米軍はその容疑を晴らす術はない。オルタネイティヴ5予備計画の根幹に関わるG弾が奪取された件について、在日米軍はおそらく本土防衛軍には報告していまい。G弾炸裂後に、「実はG弾を一発紛失していました。使用されたのは、おそらく紛失したそのG弾です」などと言っても、本土防衛軍側としては信用出来るはずがない――。

 岩田にとって、甲22号目標横浜ハイヴ攻略作戦の主目標「反応炉の制圧・破壊」等、どうでもいい事柄であった。






――勝てない。

 それが甲22号目標横浜ハイヴ攻略作戦発動、1週間前を迎えた、国連軍太平洋方面軍司令部及び本土防衛軍統合参謀本部の共通認識であった。
 作戦発動1ヶ月前より幾度も繰り返された兵棋演習(シミュレーション)は、いずれも惨憺たる結末を迎えている。
 勝利に今一歩及ばない原因は、ただひとつ。
 彼我の戦力差が、あまりにも隔絶しているからに他ならない。横浜ハイヴ周辺に存在するBETA新属種(幻獣)の個体数は、少なく見積もっても30万。更におそらくハイヴ坑内には、軍団規模(約5万前後)のBETA従来種が潜んでいると考えられている。新属種の抵抗を粉砕しつつ、侵攻路に利用する門と坑内に確保した補給路を保持し続けることは、困難を極める。
 実際に兵棋演習では、坑内に侵入した戦術機甲部隊がBETA従来種の反撃に遭い、道中で足止めを食っている間に、BETA新属種の反撃により門及び補給路を維持出来なくなり、内外の部隊が全滅するケースが多発している。さりとてBETA新属種の殲滅に熱を上げ、地表面で数日に及ぶ会戦を展開すれば、今度はBETA従来種による地中侵攻が始まり、苦しい戦いを余儀なくされる。
 人類敗北の結果が出る毎に、幾度も計画は修正されてきた。
 仙台市内に駐屯する斯衛軍に作戦参加を要請し、帝国海軍連合艦隊は当然のこと、国連太平洋方面軍に参加する残存艦艇を、ありったけ掻き集めて作戦海域に配置、渋る生徒会連合九州軍からは、攻撃機"紅天"を借り受ける。
 国連軍と本土防衛軍は、恥も外聞もなく、勝利に全てを費やす姿勢を見せる。
 もはやこの機に横浜ハイヴを陥とす、と同時にBETA新属種(幻獣)に痛撃を与えなくてはならない。
 でなければ、結局物量に押し潰される。BETA従来種も、BETA新属種も、人類軍よりも早く戦力を補填し、増強する。時間を与えれば与えるほど、両者は――特に新属種(幻獣)の戦力は、手が付けられないほどに増大する。
 以前勃発した八代会戦(熊本県八代平野)においては、約1400万のBETA新属種が出現したという。仮に生徒会連合九州軍からの情報提供が真実だとすれば、BETA新属種はたった一局地に、1000万を超える兵力を注力出来るだけの動員力を有していることになる。個体数が10万単位で留まっているこの間に、橋頭堡を叩き潰すことが出来なければ日本帝国は滅びる!

 だがそれなのに、それなのに――兵棋演習でさえ、勝てない!

 甲22号目標横浜ハイヴ攻略作戦発動間際となっても、本土防衛軍統合参謀本部は、焦燥と悲観を拭い去ることは出来ずにいた。



 一方で生徒会連合義勇軍司令部は、勝利を確信していた。

 確かに通常兵器のみを並べた兵棋演習では、横浜ハイヴ攻略作戦は一回たりとも成功を収めることが出来ていない。だが生徒会連合義勇軍は、本土防衛軍統合参謀本部に申告していない反則級の"切り札"を、それも複数枚持っている。

――局地的に重力偏差を発生させ、防御無視の徹底的破壊を可能とする特殊兵器。
――時間遡行、現状改変、使いようによっては歴史さえ書き換えられる特殊兵器。

 世界中の人類国家を敵に回す可能性も生み出し得る武器を、いざとなれば生徒会連合義勇軍は全面運用し、勝利を掴む腹積もりでいた。

 そして同時に彼らは、誰しもが思考のどこかで奇跡を信じている。

 万策尽き圧倒的劣勢、赤目に埋め尽くされた地平線、全部隊組織全滅判定――仮にそういった状況に陥ったとしても、それでもなお彼らは、「夜闇が深ければ深いほど、燦然と輝く一条の光」を信じ、戦い続けることは間違いなかった。
 一戦場においてだけではない。
 先の見えない絶滅戦争、だが最後にはハッピーエンドを取り戻すことを信じて疑わない。

 子に明日を、人に愛を取り戻す日が――勝利の日が、絶対に来る、と。







―――――――







 1998年12月23日、払暁。
 地平線に暖色が僅かに滲み、朝日が顔を出さんとする直前。

 白み出そうとする空を仰ぎ、今日も、昨日一昨日と変わらぬ一日を過ごすことになろうと考えていた幻獣達は、次の瞬間には鋼鉄の暴風雨に呑み込まれ、火焔の中で揉まれた。異変を悟った亜人、小型幻獣ゴブリン達が頭蓋を震わして泣き叫び、遮蔽物目掛けて持ち場を離れようとする。そんな混乱の坩堝に、空対地ロケット弾が続けざまに撃ち込まれ、数十体のゴブリンをまとめて焼却する。
 事態を最も早く、正確に認識したのは、ゴブリン達を纏める下士官役、ゴブリン・リーダーであった。彼らは逃げ惑うゴブリン達を無理に制止しようとはせず、その限られた同調能力(テレパス)を用いて、周囲の小・中型幻獣に警報を出す――「敵空襲、対空防御」。
 だが対空噴進弾をもつ中型幻獣ゴルゴーンや、光砲科幻獣が多数配備された対空陣地に、その警報が行き渡るのには酷く時間が掛かった。

 混乱する地上を尻目に、帝国航空宇宙軍第1航空軍は横浜ハイヴ上空にまで達し、奇襲効果を十分に活かした航空爆撃を実施する。地表構造物と、それに寄り添う大型幻獣オウルベアー直上へ、高速侵入を果たした制空戦闘機F-104J"栄光"、攻撃機A-4J"大鷹"は、70mm/127mm空対地ロケット弾と500ポンド(約225kg)通常爆弾を、小・中型幻獣の密集団へ無慈悲に叩きつけた。
 大型幻獣オウルベアーは上体を反らし、腹部の光学・物理障壁を展開させ、襲い掛かる空対地ロケット弾からその身を防護する。だがその足下では直撃弾を受けた中型幻獣が斃れ、破片と猛火によって小型幻獣が急速にこの世との繋がりを絶たれてゆく。装甲や防御手段をもたない小型幻獣達は、ほとんど無防備に殺されてゆく他ない。

(うそ――)

 横浜ハイヴ周辺に展開した幻獣軍の指揮を執る、第5世代クローンの少女は、降り注ぐ鋼鉄と火焔から逃げ惑いながら思う。

(光線級出現以来、本土防衛軍は――帝国航空宇宙軍は固定翼機を、退役させていたんじゃ)

 幻獣が占領した帝国本土防衛軍基地や国連軍基地から得た情報に、本土防衛軍が超音速固定翼機を運用している旨は、一切記載されていなかった。光線級の出現により航空爆撃が無効化されて以来、従来の制空戦闘機や攻撃機、爆撃機はほとんど退役したはずなのだ。それなのにいま横浜の空を、超音速戦闘機と攻撃機が旋回している。
 策士策に溺れる、ではないが、人類陣営から得られた情報を絶対視し過ぎたが故、混乱も大きかった。
 少女はその身体を硬質化させ、あるいは障壁を張り巡らせて、宙を飛び交う破片を回避しつつ同調能力で状況把握に努める。すると、空爆を受ける後方のみならず、多摩川方面、最前線でも人類軍に動きがあることが分かった。



 多摩川南岸に布陣する前衛幻獣群は、人類軍地上部隊が動くのをいまか、いまかと待つ。遥か頭上から降り注ぐ轟音と、後方で響く爆発音を聞きながらも、一切の動揺を見せることはしない。小・中型幻獣達は、その赤い瞳で対岸を睥睨する。視界内には未だ敵影を認めることは出来ないでいるが、おそらく後方陣地が集中的な空爆を受けている以上は、人類軍地上部隊も渡河を試みるはずだ。
 光砲科幻獣達は即応射撃が可能なように光砲を構え、中型幻獣ミノタウロスも腹部の生体誘導弾を活性化させて、「その時」を待っていた。

 そして、砲撃音が轟く。

 多摩川遥か北方――おそらく人類軍砲兵陣地から放たれ、こちらに落下軌道を取る金属塊を、幻獣達は優れた動体視力で見極める。人類軍の制圧射撃――間違いなく、敵前渡河を前にしての準備砲撃だ、と知性ある幻獣は誰もが思った。大攻勢前の準備砲撃となれば、万単位の砲弾が殺到することは間違いない。
 中型幻獣達は装甲が一番厚い部位を上空へ向け、小型幻獣達は廃墟や砲弾痕に隠れ、激しい砲撃をやり過ごそうとする。

 だが、上空から降り注いだ金属塊は、炸裂することなく彼らの足元に転がった。

 シュー。多摩川南岸全域で、そんな何かを吐き出す音が響き渡る。
 中型幻獣の背へ、小型幻獣達が隠れる廃墟の中へ、実体をもつ幻獣の体重を支える路上へ、多摩川南岸全域に落着した円筒状の金属塊は、その両端から白、黒、赤――多種多様な色彩を吐き出した。大気中に張り巡らされたそれは、その場に滞留し、濃霧に等しい視界状態を人工的に生み出してみせた。



 ……煙幕である。



 155mm榴弾、あるいは130mm噴進弾といった砲弾が、幾度にも渡って降り注ぐのでは、と身構えていた幻獣達を、一瞬で煙が飲み込んだ。その赤く輝く瞳も、これでは使い物にならない。帝国陸軍、国連軍、生徒会連合義勇軍――人類軍が撃ち込んだありったけの煙幕弾は、幻獣の足元で多彩な煙を吐き出し、予定通り目潰しの役割を果たしたのであった。
 この日、関東圏は無風。
 前衛を張る幻獣達は、この煙幕展開が人類軍の攻勢準備だということに気づいたが、だからといって何が出来る訳でもない。光砲科幻獣達は密集陣形を取り、渡河を試みるであろう敵部隊を照準に収めようとするが、視界はゼロ。ただでさえ視界に恵まれない払暁、しかも10m先も見通すことが出来ない煙幕に巻き込まれたのだ。視界が利かない状況でも同調能力で仲間を呼び合い、迎撃準備が整えたところで、とても目標を捕捉しての照射までには至らない。
 無駄撃ち覚悟で弾幕を形成するか――?
 光砲科幻獣達がそこまで思考を進めたあたりで、彼らは遥か前方から響き渡る爆音を聞き取った。



 多摩川以北数キロの範囲で、鋼鉄の巨兵が一斉に覚醒した。頭部センサーアイから光を迸らせ、主機に火を入れた彼らは偽装用の天幕や網を振り払い、振り払って立ち上がる。
 横浜ハイヴ攻略作戦に参加する全戦術機甲連隊内で、最も行動が早かったのは、国連太平洋方面第11軍隷下多国籍混成1個戦術機甲連隊であった。彼らは陽動として戦線を突き崩し、横浜ハイヴ西部を衝く任務を与えられており、故に作戦行動開始時刻は最も早い。

 東京府立園芸高等学校敷地内に擬装用の漁網を掛けられ、うずくまっていた戦術機が起動する。
 腕部、膝部、脚部に備えられた鋭利なスーパーカーボンブレードが、草木を思わせる装飾が施された網を切り裂き、攻撃的なフォルムをもつ戦術機――殲撃10型が立ち上がった。中華人民解放軍第339戦術機甲大隊(現稼動機26機)。

 玉川堤美術大学校、東亜産業能率大学ではキャンパス内に押し入った大型トレーラーが背負う戦術機達が、一斉に起立する。
 各部異常なし、衛士達はトレーラー側で操作を実施する整備士と共同で、戦術歩行戦闘機に火を入れた。一番最初に荷台から一歩踏み出した純白の戦術機――F-15Kは、たまたまその場にあったマンホールを踏み抜き、踏み抜きながら自重を支えて、二歩目以降を繰り出す。韓国陸軍第21戦術機甲大隊(現稼動機19機)。

 東京府世田谷区駒沢公園では、既に展開を終えていた戦術機達が夜空を仰いでいた。
 待機する衛士達は思う、自分達の今後将来はどうなることやら、と。ソ連領に避難中の祖国に帰る時、この部隊はどういった処分を下されるのだろうか。帝国陸軍・在日米軍の全面協力により稼動状態を保っている戦術機達――MiG-23は、公園内でただただその時を待ち続ける。朝鮮人民解放軍第141親衛戦術機甲連隊(現稼動機11機)。

 そしてその遥か上空。高度300m。
 多国籍混成1個戦術機甲連隊の主力を為す、戦術歩行戦闘機達が翔る。ネイビーブルーに彩られた人類最強を自負する剣は、怒りと共に今宵集った。F-14トムキャット――F-18ホーネット――F-18E/Fスーパーホーネット――全56機が、雪辱を晴らさんと奔る。
 ここで、全戦全敗の人類の歴史を塗り替える!



『こちら<勝利>、貴隊に合流する!』

 まず彼ら米軍機に合流したのは、都市迷彩に身を包んだMiG-23の群れ。赤い星を肩口に輝かせる彼らは、在日米軍機の更に上空へ抜ける。他意はない。在日米軍機より性能の落ちる北朝鮮機は、少しでも空気の薄い高空を飛翔することで、速度を稼がなければ置いていかれてしまうのだ。



『こちらアメリカ・リーダー! 作戦中の不意撃ちだけは勘弁してくれよ――この戦いが終わったら、満足いくまで相手してやるからよ』

『そんな暇はない。これから平壌、ソウル、仁川の借りを返しに――そして横浜、佐渡島、鉄原と下等生物どもを駆除しにゆくのだからな』



 朝鮮人民解放軍第141親衛戦術機甲連隊<勝利>は、党がソ連領へ脱出した後も対BETA戦線を転戦してきた歴戦の部隊である。国際的孤立を避ける意図もあってか、指示を出し続ける本国政府の命令に従い、国連軍に身を置き続けて戦って来た。朝鮮民主主義人民共和国の首都でもあり、南朝鮮が実効支配するソウルでは多数の避難民を守るべく戦ったし、仁川、釜山でも、友軍撤退の為に死力を尽くした。
 連隊の戦闘記録は辛勝、あるいは惨敗。
 ソ連領に逃れた党から賜った、「親衛」の文字など要らない。

 <勝利>の連隊長はそろそろ、人類の決定的勝利を望んでいた。


 
『こちらイーグル、貴隊に合流する』

『こちらイレヴン、ブリーフィング通り先行する』

 続いて跳躍装置の火焔を浴びて溶解した舗装を後に、殲撃10型とF-15Kが合流する。
 米軍機を追い抜き、最前衛のポジションを得るは、中華人民解放軍第339戦術機甲大隊。彼らが運用する殲撃10型は、何より接近戦闘を得意とする。敵中一番に斬り込み、後続の血路を拓くは彼らの任務であった。

『北韓の連中が言う通りだ――ここで一勝、拾いにゆく!』

 F-15Kの群れはその下方、在日米軍機の直接援護に就いた。韓国軍衛士は、砲撃戦の錬度において、自身らが在日米軍の衛士に劣ることを自覚している。故に敵の反撃は自機が一身に引き受け、在日米軍機が砲撃戦に集中出来るよう、在日米軍機の下方についたのだった。

『仁川、広島、京都、随分と負けが続いたが――なるほど俺たちも横浜(ここ)で、負け犬の汚名を晴らす!』

 続いて米軍衛士が、気勢を上げた。名実共に人類最強の米軍は、世界中でBETAと戦い、そして惨敗を重ねてきた。敗北続きの米海兵隊。だがそれも、今日までだ――!



『こちらアヴェンジャーよりHQ! 攻撃を開始する!』



 まさしく壮観。

 十数機のF-14が、各自背負い込んだ長距離空対地誘導弾を解き放った。放射状に散開する数十発の不死鳥――フェニックスミサイルは、プリセットされた目標地点に向け、超音速で翔けてゆく。煙幕直下の前衛幻獣群、及びその後背に屯する幻獣達には、反応する時間さえ与えられない。フェニックスミサイルは直撃した中型幻獣を粉砕するに留まらず、火焔と爆風が一緒くたになったものを吐き出して、周囲の幻獣達を殺傷する。回避・迎撃共に不可能。完全なるアウトレンジ攻撃に、幻獣達は恐慌状態に陥る。
 そして人類勝利の旗の下に集った多国籍混成戦術機甲連隊は、全力噴射、加速に加速を重ね、分厚く滞留する煙幕により視界を奪われ、突如として到来した圧倒的破壊に慄く前衛幻獣群の上空を素通りし、中型幻獣ゴルゴーンを主力とする後方集団へ殺到する!

『応射来るぞッ!』

 対空噴進弾に換装済みの中型幻獣ゴルゴーンが、前脚を畳み、後脚を突っ張り、背中を持ち上げて発射体勢を取る。それを目撃した米軍衛士は、声を上げて僚機に注意喚起。当然、敵方が対空防御を巡らしているのは、想定済みである。
 空中に生体噴進弾が連続で吐き出され、凄まじい阻止弾幕が展開される一瞬前に、112機の戦術歩行戦闘機は、高度数百mの位置から地表面目掛けて急降下。対空防御を掻い潜り、一気に彼我の距離を詰める。

『殺った――!』

 その最先頭を往くは、漆黒の殲撃10型。
 低空進入を果たす戦術機の群れへ、照準修正を試みるゴルゴーンに36mm機関砲弾を食らわせながら、最高速で接近し、そして渾身の斬撃を、幻獣の海を駆け抜けながら振るう。片腕で振り抜かれる青龍刀。トップヘビーのその巨大な曲刀――77式近接戦用長刀は、ゴルゴーンを数体纏めて斬り倒して幻へ還す。
 懐に入られ自身の不利を悟ったゴルゴーンは、砲撃戦を諦めて肉弾戦を挑もうとするが、相手が悪過ぎた。目前の巨人を突き飛ばさんと急接近したゴルゴーンは、次の瞬間にはその草食竜めいた顔面を横一文字に抉られている。顔面を引き裂いたのは、膝部ユニットにマウントされた殲撃10型の固定武装、スーパーカーボンブレードの刃。全身を漆黒の鋼鉄と刃で武装した怪物は、単純な回避運動さえも必殺の斬撃に換える。
 幻獣を叩き斬ってゆく暗影の奔流を、誰も止められない。
 殲撃10型に対し、距離を取って砲撃戦を試みるゴルゴーンは、地上に降り立った米軍機の精密射撃によって撃ち抜かれてゆく。



 そして米軍機を攻撃しようと接近する幻獣達は、南北朝鮮機が引き受ける。

『6時方向ッ! 煙幕の切れ目から、来るぞ!』

 前衛幻獣群の中でも最も機動力のある中型幻獣グレーター・デーモンが、煙幕より飛翔突出し、後方集団に喰らいついた多国籍混成戦術機甲連隊を排除しようと現れる。
 長大なる四本腕に硬質な鋏、生体誘導弾・跳躍ユニットとしての役割を果たす小型幻獣を、全身に飼うグレーター・デーモンは、対戦術機戦闘を念頭において開発された新型幻獣だ。
 それに応じる歯第2世代戦術機の"成り損ない"、初の純ソ連製戦術歩行戦闘機MiG-23。
 グレーター・デーモンが、生体誘導弾として小型幻獣を解き放つ。対して人民解放軍衛士は、機体を直角方向へ急上昇させる。直上方向へ上昇するMiG-23に釣られ、グレーター・デーモンが放った生体誘導弾は、当然ながら全弾上昇傾向を辿る。

『いまだ! 同胞ッ』

『任せろ――絶対に外さねえっ!』

 敵が放った全生体誘導弾を惹きつけ、上昇するMiG-23。
 一方でその後方、地表ではノーマークの韓国軍F-15Kが、突撃砲を構えていた。既にグレーター・デーモンを照準に収めた韓国軍衛士は、苦笑いしながら引き金を弾く――吐き出された36mm機関砲弾と120mm砲弾は、甲殻類が如きグレーター・デーモンの外殻に吸い込まれ、内部構造を滅茶苦茶に粉砕してしまった。
 だが鉄飛礫を浴びたグレーター・デーモンが消失する傍から、続々と新手が現れる。幻獣の真骨頂は、物量であり質ではない。

『まだ来る』

 急上昇急降下、幻獣の群れの中を駆け巡り、生体誘導弾を振り払った人民解放軍衛士は、煙幕の合間から次々と現れるグレーター・デーモンを見やり、うんざりといった感じで呟いた。

『こちら<勝利>。アメリカ・リーダー、後背から突っ込んで来る敵が多過ぎる』

『了解した。アメリカ・リーダーより各機へ、更に前進する! 目標は――横浜ハイヴ!』

 こうして多国籍混成戦術機甲連隊の逃避行が始まった。
 幻獣後方集団を蹂躙しつつ、前衛群から抜け出て追い縋るグレーター・デーモンから逃げ回る、奇妙な逃避行が。








(グレーター・デーモンは急速後退、入り込んだ戦術機の駆逐を急いで下さい)

(ゴルゴーンは目標を戦術機から航空機に切替)

(前衛群は密集陣形を保ったまま、後退を開始。煙幕から脱出し、敵渡河に備えて下さい)



 第5世代クローンの少女は、隷下の幻獣達に指示を下す。
 全線に渡って多摩川南岸に煙幕が展開され、前衛幻獣群は視界を潰された。その混乱の最中、戦術機甲連隊が上空を通過して砲兵役のゴルゴーンの駆逐に奔る。
 ――少女は、やられた、と認めざるを得ない。航空兵器と地上兵器の合間を往く、戦術機に対する認識が甘かった。地表面を攻撃ヘリ以上の速度で駆け巡る人類の剣は、単なる対空防御では簡単に阻止することは出来ない。
 また大火力をぶつけて解決ともいかないのが、もどかしい。
 少女は横浜ハイヴ構造体に寄り添う、大型幻獣オウルベアーの巨体を見上げながら、そう思った。敵が純粋な地上部隊であれば、多摩川を渡河、あるいは渡河し終えたところを大口径生体レーザーで薙ぎ払えば、それで全ての決着はつく。だがハイヴ地表構造物さえも傾がせる大火力も、友軍の最中に紛れ込んだ戦術機に対しては、何の役にも立たない。

(戦術機甲連隊による斬り込みだけで終わるはずがない――グレーター・デーモンに戦術機を排除させた後、オウルベアーの長距離砲撃で多摩川以北に集結する人類地上部隊を攻撃する)

 少女は、気がつかなかった。
 その時空中を乱舞するF-104JやA-4Jに紛れて、3機の大型輸送機が急接近を果たしていることを。オウルベアー直上に達した在日米軍C-17グローブマスター3は、既に後部ランプドアを開放し、中の"積荷"を落下させる準備を整えている。
 C-17の最大積載量は、約70トン。
 当然、人型戦車士魂号など容易に運搬出来る。



 少女が頭上の大怪鳥の存在に気づいた時には、既に5121小隊がオウルベアーの背中目掛け、決死の空挺強襲を仕掛けるところであった。











―――――――

以下後書き



F-15Kは設定上は存在しない戦術歩行戦闘機であり、また北朝鮮も公式では一切触れられていない存在です(キーコーの話では宇宙開発史・BETA大戦以外の歴史は、基本的に史実と変わりない――つまり私の解釈は南北朝鮮分割・朝鮮戦争も勃発したでは、というところです)。ただ単に一致団結感を出したかった、というのが本当のところですが。
青の厚志はもちろん規格外、べらぼうに強いですが本作では「お助けキャラ」的な位置づけでいきたいと思っています。


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