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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "人間の手いま届け"(後)
Name: 686◆1f683b8f ID:e208e170 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/04/26 21:57
"人間の手いま届け"(後)



 輸送機後部から飛び出した死霊を思わせる影は、一瞬の自由落下を経て、一直線にオウルベアーの頭部に覆い被さった。血塗られた四肢を以てその爬虫類めいた額に組み付いた、士魂号重装甲西洋型が凶器を振り上げる。血痕と錆に塗れた超硬度小太刀、その切っ先の延長線上には、オウルベアーの目蓋がある――!

 オウルベアーは、反応する暇もなかった。
 超震動する超硬度小太刀の切っ先は、オウルベアーの堅皮を分子単位で掻き分け、その奥に位置する左眼球を破砕した。
 鮮やかな手捌き、見事な一撃。
 だが絢爛舞踏、瀬戸口が駆る士魂号重装甲西洋型は、それに満足することなく、素早く小太刀を引き抜き、額を割る第二の刺突、上顎を破る第三の刺突と、執拗に攻撃を繰り出す。
 オウルベアーの頭部を鷲掴みにし、表皮を突き破り肉まで食む鋼鉄の足指。足場を確保した絢爛舞踏は、額の上で仁王立ちする。血塗られた漆黒の鉄兜、その庇の下、眼球のない眼窩は、ただ冷たく目の前の獲物を見下ろすだけ。士魂号重装甲西洋型の腕は、抉った箇所を更に斬り広げ、鋼鉄の拳を突き入れて内容物を引き出し、頭部の徹底破壊に動く。
 オウルベアーは堪らず首を振るい、あるいは上半身ごと身体を激しく揺さ振って、額の上に立つ士魂号重装甲西洋型を振り落とそうとするが、もうどうしようもなかった。絢爛舞踏の足回りは微動だにせず、オウルベアーの息の根を止めるべく、小太刀の切っ先と鋼鉄の拳を打ち落とし続ける。

 士魂号重装甲西洋型の激しい刺突に堪えかね、10000トンの自重を支える足が幾度も踏み鳴らされ、大地が抉られ、身動ぎする下半身はいとも容易くハイヴ地表構造物を削り取る。大型幻獣にとってはただの小運動に過ぎないが、足元では大破壊が巻き起こった。



『あっぶねえええええ!』

 士魂号重装甲西洋型と同じタイミングで輸送機後部より降下し、オウルベアーの背中で受身を取り、そのまま背中を滑降し地上へ着地するという大冒険を終えた5121小隊2番機(士魂号軽装甲仕様)パイロット滝川は、叫びながらオウルベアーから距離を取った。
 破壊をもたらすオウルベアーの足下から飛び退き、飛び退きながら、両手で保持するジャイアントアサルト2丁の引き金を弾く。高速で飛翔する20mm機関砲弾は、瞬く間にオウルベアー周辺に居合わせた、不幸な幻獣達を消し去ってゆく。
 振り回される銃口、地面を這う火線――。
 小型幻獣の群れは機関砲弾が擦過するだけで薙ぎ倒され、破片で以て吹き飛ばされ――そして逃げ惑う少女を追っていた。

(俺はもう――迷わない!)

 幻獣に殺されたBETA達の死骸を粉砕しながら、たまたま照準に収まった幻獣を吹き飛ばしながら、連射される20mm機関砲弾は第5世代クローンを執拗に追いかけた。だが僅かに相手の方が上手か、少女は幻獣やBETAの死骸の合間を駆け回り、物理法則を無視した回避機動によって、火線から逃れてみせる。
 5121小隊の殲滅対象は、大型幻獣のみに非ず。万単位、億単位の幻獣を統率する指揮能力をもつ、第5世代クローンも重要な目標に指定されていた。
 滝川はかつて抱いていた迷いを振り切り、ジャイアントアサルトの引き金を弾き続ける。
 幻獣はただの怪物ではなく、また人々の昏い想念そのものでもあり、そして幻獣共生派は、人類に絶望し裏切るべくして裏切った。かつては2番機パイロットとして戦い続けるべきか――ともすれば、ただの無職でいた方が良かったのではないか、とさえ思ったこともあった。
 だが結局のところ、誰かが戦わなければ、誰かが「エースパイロット」にならなければ、近しい存在が殺されてしまう。迷うごとに滝川の脳裏には、ミノタウロスに踏み潰されて戦死した女学生の笑顔がちらつくのだ。





――「映(あきら)っていうの。男の子みたいな名前でしょ?」――「合格。笑わないなんてYES。友達になろ?」――「これでもう、ね。自分が守られているとか、自分の代わりにだれかが死んでいくってことから逃げられるのよ。食事の時ごとに、押し潰されることもないの。……この戦車徽章って、ちっぽけなやつだけで、そう考えると、価値、あるよね」――「……あ、その態度YESじゃない」――「嘘、ちょっとYES。君って本当に魔法使いだね。……今度はゆっくり見せてあげる」――。

「映? ああ、あの娘ね。……死んじゃったよ。ミノタウロスに戦車ごと潰されてね。……死体収容するのに苦労したわ。もともと整備員がパイロットの真似事なんかするから」





 殺戮は誇るべきことではないが。
 だがその殺戮を経て、帰属する集団を守る為に戦うことは、決して恥じるべきことではないはずだ。

『こなくそ!』

 士魂号が跳ぶ。
 跳びながら射界を確保し、逃げる少女の背中に照準を合わせる。発砲――僅かに少女の方が早い。少女は中型幻獣ゴルゴーンの合間に隠れ、20mm機関砲弾はその周囲の幻獣達を薙ぎ倒すだけに終わる。そして肝心の少女を、見失ってしまう。



『悪りいっ、見失った!』

『何をやっているのですか!』



 滝川機の後背を付いて駆け回り、押し寄せる幻獣の群れを斬り伏せ続ける士魂号重装甲仕様のパイロット、壬生屋が滝川を叱った。
 黒鉄の大鎧を纏った人型戦車は、増加装甲を展開しゴルゴーンの突進を受け止め、二振りの超硬度大太刀で叩き潰して、撫で斬りにする。滝川機が背後を気にせずに撃ちまくれるのも、壬生屋機が敵中に斬りかかり、幻獣達の憎悪と攻撃を一身に集めているからに他ならない。

(もって10分!)

 壬生屋は小型幻獣の群れを踏み潰し、足場を確保しながら必殺の斬撃を放つ。一閃、返して二閃。これで間合いの範囲内にいる中型幻獣は、ふたつないしみっつの肉塊と化し、そして闇に消えてゆく。
 この作戦には元々無理があった。敵中への空挺強襲。孤立無援、一個小隊による攻撃で、敵重要目標――オウルベアーと幻獣使いを狩る。壬生屋達は、事前のブリーフィングでは、最初の5分で勝負がつく、と説明されていた。初撃で敵の頭脳を潰した後に、追加装備されたロケットパックを用いて脱出。逆に最初の5分で大型幻獣の排除と、幻獣使いの殺害が成功しなければ、統制を取り戻した幻獣達に包囲殲滅される。



『ボクが追うッ!』



 BETAの死骸の合間へ逃げ隠れた第5世代クローンを追うは、士魂号と共に降下を果たした戦車随伴歩兵(スカウト)新井木勇美であった。
 高機動型ウォードレス「アーリィフォックス」を纏った彼女は、ひたすらに地を蹴り、幻獣使いの追跡を開始する。彼女の脚は、瞬く間に人型戦車どころか戦術機を超越する加速を実現する。アーリィフォックスの人工筋肉が悲鳴を上げるのを無視し、時速数百キロという常人離れした速度で追随する新井木は、瞬く間に幻獣使いの少女の背中を視界に収めた。

 第5世代クローンの少女は、背後から迫る膨大な殺意に気づき、逃げられないことを悟ったのだろう。潔く反転した。この時、既に第5世代クローンの彼女は、ただの少女から、全身を堅殻と赤目で覆う幻獣へと変貌を遂げている。ウォードレス兵の一個分隊が相手であろうと、いとも容易く殺せてしまうであろう怪物は、幾つもの生体光砲を準備して、追い縋って来る新井木に照準を合わせる。

 幻獣使いの少女が考えていることは、ただひとつ。



(こわい)



 恐怖。原初の感情。
 人間相手ならば絶対に殺せる、そんな自信がある第5世代クローンの少女は、数十メートルの距離まで迫るウォードレス兵――新井木に恐怖を抱いていた。

(人間じゃない――人、間、じゃ、ない)

 あれは、人間なんかじゃない。例えるならば、条理を超えた、無機質な、無感情な、いうなればひとつの機構(システム)。仇為す者を駆逐するシステムだ。
 喚び出された生体光砲が、人間じゃない何かに向かって、赤黒い閃光を放った。だが闇を引き裂き、疾走する新井木に殺到した7本の破壊光線は、目標を捉えることなく、その背後にたまたま居合わせた幻獣を蒸発させる。
 この照射、足止めの意味ももたなかった。首を傾け、上半身を反らし、最小限の軌道修正を以て、照射を簡単に避けてみせた新井木は、速度を全く落としていない。

(いま、見てから、避――?)

 少女がそう思った瞬間に、彼我の距離は零になった。
 新井木の拳が、少女の顔面を捉えた。鼻骨を圧し折り、上顎を叩き潰し、そのまま拳に載せられた全力が、少女の顔面を大きくひしゃげさせ、後頭部を最先頭とした少女の全身を、弾丸の如く後ろへ吹き飛ばしてしまう。
 宙を舞う少女の終着点は、うずくまる突撃級の死骸。堅牢な外殻に全身を叩きつけられた少女は、顔面を覆う熱さと背中を走った衝撃に悶えつつも、素早くやることをやった。
 何もない虚空に、透明な防壁の発生が始まる。
 大型幻獣オウルベアーと同等とはいかないが、ウォードレス兵の攻撃を遮断するには充分過ぎるだけの防御力をもつ物理障壁が――。







「おっそい」







――少女と新井木の後方に、出現した。

 防壁が完成する寸前には、新井木は既に少女の目前にいた。
 叫ぶ少女、無表情の新井木。少女は一秒と掛からず、自身の両腕を強化し、更に複数本幻獣の剛腕を全身に形成する。対する新井木は女子高校生が有する、ごく普通の両腕を振り被る。人類が生み出した異端「第5世代クローン」と、人類の危機に応じて現れた「決戦存在」の拳が、交錯する。



(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ――)



 対等な殴り合いは、2秒と掛からず少女の防戦に変わった。一撃を防御するだけで、2本ないし3本の腕が圧し折れて闇に消え失せる。すぐさま新たな腕を具現化させるが、それも実体化が終わった途端に粉砕される。もはや少女は攻撃などままならず、視認出来ない速度で突き出される拳を、防ぐことしか出来ない。
 殺される、と少女は思った。
 相手はずるい。高機動型ウォードレス「アーリィフォックス」の腕力増幅率は、大したことないはずなのに。怪物だ。到底、人間とは思えない。

 ふと、激しい打撃の応酬の中で、少女は気づく。

 既に相手が身に纏っているアーリィフォックスの腕部人工筋肉は、その運動量に耐え切れずに筋繊維がほつれ、断裂を起こしている。つまり、彼女はウォードレスの腕力増幅に頼ることなく、この大破壊力かつ高速を誇る拳撃を繰り出している――!

 人間じゃない――こいつは、人間じゃない。

「なんで……」

 なんで人間じゃないのに、人間じゃないのに――。



「ふざけるなあああああなんでわたしだけがぁぁぁぁぁなんで人間じゃないのに人間に組して戦うなんで人類に排斥されないでそこに立っているわたしもあなたと同じなのになのになんであなたは人類の側に立って戦うことが出来てわたしは人類の敵として殺されようとしていてあなたは――わたしと同じ怪物のはずなのになんでなんでなんでなんでえええええ」



 何故、排斥されずにそこにいる――!

 幻獣使いの少女は、吼えた。咆哮した。あしきゆめが弾け、同調能力が更に増幅する。喉から、脇から、脇腹から、へそから、股から、膝から、新たな腕が発生した。中型幻獣と同等の腕力を保持する、けばけばしい色合いをした醜悪な腕。それが、超高速で撃ち出される。
 だが、無駄であった。
 打撃戦は拮抗どころか、少女に不利になってゆく。醜悪な打撃は、繰り出される度に粉砕される。少女の拳は霧散する。新井木の拳に、否定されて少女の拳は消えてゆく。
 当然の結果だ。
 憧れの先輩を追う為に、人よりも僅かに速く動き、人よりも僅かに多く鍛えることを積み重ね、積み重ね、朝も昼も夜も授業も放課後も懸垂を続けることで手に入れた新井木の腕力に、殺意や憎悪、妬みが積み重なって実体化した、仮初の腕力が勝てるはずがなかった。

 ……出鱈目でもなんでもない。

 黒い月の影響下にて、憎悪を得て実体化する幻獣の肉体は、酷く脆弱だ。より強い意志の否定に晒されたとき、急速にその実体は、不安定なものになる。ましてやあしきゆめが、あいとゆうき、人類の決戦存在、世界の意志、そして新井木の意志に、勝てるはずがない。

 新井木は、じりじりと彼我の距離を詰める。
 両腕は疲れを知らずに、いっさい速度を落とすことなく叩き出され続け、一方で両脚は淡く光り始めた。青。青い燐光を帯びていることに、新井木は気づいていない。絶技ではない、だが絶技――精霊手、否、精霊脚と同等の働きを為す蹴撃が、繰り出されようとしている――。

 しかし、間が悪かった。



『新井木、退けッ!』

「なにいまいいとこ……マジ……?」



 こちらに、未だ実体を得たままのオウルベアーが、倒れ込んで来る。既に頭部は無く、腹部に存在する眼球が全て潰された大型幻獣が、力尽き、急加速しながら倒れ込むのを見て、新井木は少女に一撃を喰らわせることが出来ないままに、後ろへ飛ばざるを得なかった。







―――――――







『超前衛(ちょう・バンガード)級・大型幻獣オウルベアーの沈黙、確認せり!』

 本土防衛軍統合参謀本部の将兵が、湧いた。首を喪い、全身を膾斬りにされた巨体が崩れ落ちる一瞬を、偵察機の映像によって彼らも確認することが出来た。「わかりやすい」人類の勝利には、厳しい作戦指導に臨む参謀達も、表情に喜色を浮かべる。5121小隊の作戦遂行能力を信じきっている生徒会連合義勇軍司令部の人間は、当然だとばかりに平然とした顔をしていたが、内心ではほっと一安心していた。

 ここまで作戦は、順調に推移している。

 国連太平洋方面第11軍隷下多国籍混成1個戦術機甲連隊は、横浜帝国大学(横浜市、横浜ハイヴ西側)まで進出。戦線中央を食い破った第27戦術機甲連隊及び、生徒会連合義勇軍独立機動大隊は横浜市神奈川区(横浜ハイヴ北側)へ。極東最強の戦術機甲師団、帝国陸軍第1師団は、横浜市鶴見区(横浜ハイヴ東側)にまで前進。
 いずれの戦術機甲連隊も、"砲撃級"(中型幻獣ゴルゴーン)の駆逐に、期待通りの成果を上げている。本土防衛軍がBETA新属種に苦戦を強いられた理由のひとつ、圧倒的な砲撃力の剥奪に、捨て身の戦術で挑んだ戦術機甲連隊は成功した。
 また「要塞砲」とも呼べる、"超前衛級"(大型幻獣オウルベアー)も排除にも成功。これはそれまで大口径光砲の睨みが効いていた東京湾が、帝国海軍連合艦隊に解放されたことを意味している。
 幾度か実施された本土防衛軍統合参謀本部の兵棋演習(シュミレーション)では、前衛突破した戦術機甲連隊が包囲殲滅され、5121小隊が"超前衛級"排除失敗に終わることもままあり、仮にこの第1段階が躓けば、その時点で横浜ハイヴ攻略作戦は中止となる手筈になっていた(多数の"砲撃級"、"超前衛級"の攻撃力の前では、如何なる海上戦力も陸上戦力も粉砕される為)。

 それ故に本土防衛軍作戦参謀の喜びは、大きい。



 数個戦術機甲連隊の前衛突破と砲戦力を有する後方集団の漸減、本土防衛軍呼称"超前衛(ちょう・バンガード)級"、生徒会連合呼称大型幻獣オウルベアーの無力化を経て、甲22号目標横浜ハイヴ攻略作戦は、第2段階へ移行する。

 それまで沈黙を保っていた帝国陸軍砲兵連隊が、これまでの鬱憤を晴らすかのように活動を開始した。
 雁首揃えて並べ立てられた155mm榴弾砲、203mm榴弾砲、130mm多連装噴進砲、120mm重迫撃砲――あらゆる火砲が、それまで細々と蓄えてきた砲弾を空中に弾き飛ばす。もはや陣地転換の必要もない。東京府内のあらゆる箇所に隠蔽されていた全ての火砲が、この一日で砲身寿命を使い尽くすかの勢いで火焔を噴いた。

 多摩川南岸から横浜ハイヴに至る範囲に、豪雨の如き火力投射。

 幻獣からすれば、たまったものではない。
 特に横浜ハイヴ周辺に居合わせた幻獣達は、悲惨であった。BETAによって平らに均された地表面では、弾けた砲弾の破片と爆風から逃れる場所がない。逆にBETAの手が及びきっていない旧川崎市街や多摩川南岸では、点在する建造物に滑り込んだ小型幻獣達が、辛うじて難を逃れた。中型幻獣は、為す術もなく打ち倒された。

「キョーキョキョキョ……」

 空を翔け抜ける航空機が頭上へ叩きつける爆音と、遠く近くで雷鳴の如く響き渡る激しい砲撃音に脅えながらも、ゴブリン・リーダーは小型幻獣の掌握に努める。敵弾が抉じ開けた弾着痕に身を潜めた彼は、戦斧を幾本か実体化させて手許に置いた。煙幕弾でなく実弾を、これだけの規模で撃ち込んで来る以上は、いよいよ本命が来るということだ。
 破片が飛び交う路上を駈け、多摩川南岸に集合する小型幻獣達。ある者は弾着痕に、ある者は地下道へ隠れ、砲弾を避けてその時を待つ。



 そして幻獣達は、多摩川に殺到する人類軍を目撃する。

 装甲車輌が渡河支援を目的として多摩川北岸に殺到し、南岸に動く物体目掛け、激しい弾幕を張り、その支援の下で在日米軍海兵隊が運用する水陸両用装甲車輌AAV7と、浮航能力を有する帝国陸軍の73式装甲車が緩慢とした速度ではあるが、渡河を開始する。
 水上を渡る水陸両用車輌や、対岸で架橋準備を進める91式戦車橋目掛けて、小型幻獣達は戦斧や小口径光砲を浴びせようとするが、あまりにも貧弱な抵抗であった。小型幻獣コボルトや、砲撃の下を辛うじて生き延びた中型幻獣ナーガは、生体光砲による反撃を行う前に対岸に布陣する74式戦車の集中射に制圧されてしまう。
 生体誘導弾をもつ中型幻獣ミノタウロスや、中型幻獣グレーター・デーモンは、渡河を試みる陸上戦力の前に、終ぞ姿を現すことはなかった。煙幕による混乱、戦術機甲連隊の蹂躙突破、砲兵連隊の全力火力投射。人類軍の激しい攻撃は、前衛幻獣群に組織的抵抗力を奪い去っており、また幾らかの中型幻獣は戦線縮小を目的としてか、既に多摩川の線からの後退を選択していた。

 渡河の前後こそ、敵が最も柔になる。
 それは知性ある幻獣の間では常識であったし、動物と変わらない幻獣達も本能でそれを知っていた。
 だがどうあがいても、水際防御に成功しそうにない。小型幻獣達の指揮を執るゴブリン・リーダー達の中には、さっさと戦線を放棄する者も現れた。ゴルゴーンによる支援砲撃も見込めず、対戦車能力を有する中型幻獣も存在しない以上、ここで粘ることは出来ない。
 多摩川南岸には装甲車輌の渡河を支援する為であろうか、82式戦術歩行戦闘機瑞鶴が出張り、数少ない中型幻獣の掃討を開始する。その巨体を見て、先程の着弾痕で人類軍を待ち構えていたゴブリン・リーダーも、後退を決断していた。



 甲22号目標横浜ハイヴ攻略作戦第2段階は、陸上・海上戦力の本格投入による門(ゲート)の確保及び侵攻路の確立である。
 横浜ハイヴ坑内への侵攻口となる門を、渡河を終えた機甲連隊が確保、またハイヴ攻略に利用しない門は、工兵連隊が充填剤を注入し、これを封鎖する。またオウルベアーが有する大口径光砲の脅威から解放された東京湾には、帝国海軍連合艦隊が展開し、水上対地打撃戦を準備。帝国航空宇宙軍は引き続き対地支援を実施しつつ、戦術輸送機により補給コンテナを確保した門周辺に落着させ、ハイヴ攻略の補給線確立に勤しむ。

 肝心のハイヴ坑内突入、及びハイヴ最深部反応炉停止は第3段階となる。



 また人類軍が一丸となってハイヴ攻略に動く中、戦域から若干外れた場所で、もうひとつの戦いが始まろうとしていた。












―――――――
 以下私見。

 マブラヴ世界の韓国と北朝鮮について。うろおぼえで申し訳ないのですが、ソビエト連邦の超ド級戦艦、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦は、大祖国戦争勃発に伴い建造停止、しかし朝鮮戦争勃発により日米海軍力に対抗する為に建造が再開。結局完成は間に合わなかったものの、BETA大戦でようやく活躍の場を与えられた、という話があったような気がします。ただ問題はこの朝鮮戦争が、我々が知っている朝鮮戦争のそれと同じかっていうことなんですよね。感想掲示板でご意見頂いたとおり、朝鮮には統一国家が生まれている状況が自然だとは思います。


 次回は青の厚志vsセプテントリオン、横浜ハイヴ攻略戦における人類軍最大の危機を描いていきます。
 それと5月に入って以降は、更新頻度が落ちるかもしれません。申し訳ないです。


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