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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "きぼうの速さはどれくらい"
Name: 686◆1f683b8f ID:e208e170 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/05/01 15:34
"きぼうの速さはどれくらい"







 横浜市某所。

 巨大な黒鷲――七星重工製試作戦術歩行戦闘機F-15SEPが、どこからともなく飛来し、降り立った。一個大隊(定数36機)。ある一点を取り囲むように、半包囲の布陣を敷き、あらゆる凶器を手に、それこそ戦術機用の突撃砲から、世界外で製造された武器、レーザーライフルまでをも手にして、目標を捉える。

 黒鷲どもが翳す兵器の銃口、その延長線上には、世界外で建造された物体が立っていた。



 一言で形容すれば、それは「青」だ。



 全身を覆うは、海の青を、空の青を流し込んだかのような、青く透き通る装甲板。兵器に似つかわしくない華奢で、優美な姿勢。だが同時に見る者を惹きつける、煌びやかな力強さもそこにはある。幾千幾億もの祈りを背負った背部装甲には、どこかの誰かがどこかの誰かにあてたメッセージが刻まれていた。その全ての文字が、黄金に輝き、その光輝は、まるで黄金の翼のように周囲を照らす。
 また美しい曲線を描く胸部装甲には、引っ掻き傷が走り、この世界の何者も読めない字が刻まれていた――「我は全ての悲しみと戦いの終結を希望する。O・V・E・R・S」、と。
 頭部に被さるは、突き上げた拳を連想させる兜。その下では、未来だけを見据える単眼はやはり青く輝き、口元には古拙の微笑を湛える。それは、一種の美術品にしか思えない。

 そして両手からは、銀色の火焔が迸る。



 左手に収まるは、火の国の宝剣「ヒノカグツチ」。
 右手に収まるは、武楽器――「青」の武楽器、剣鈴。



 豪華絢爛の光輝を纏ったこの人型機動兵器、その名は「希望号」。



 あらゆる世界の人々の祈りや願望の同一存在。
 ハッピーエンドを望む人々そのもの。


 
――「主人公とヒロインが、この地球で子供を育てていける未来を得たい」。

――「人類の将来の為に、散った人々が報われる未来を得たい」。

――「EX世界のような、平和な世界と、無限の可能性を人々に与えたい」。

――「オルタネイティヴ5発動による、地球の荒廃を回避したい」。





 そして「本来の主人公である白銀武に、少しでもマシな形でこの物語を引き継がせたい」!





――様々な願いを抱いた人々の、同一存在が、この希望号!





 世界移動存在が製作・出版した、ゲーム、小説、アニメ、あらゆる媒体でこの世界の惨状を知った人々の「希望への渇望」が、意識せずともOVERSと、希望号を構成している。別世界の願望が掻き集められた同一存在、希望号は、カタログスペック上はともかく攻守共に実質最強。本来ならば無力であるはずの世界外の人々が、危機に瀕する世界に介入すべく作り上げた、ひとつの形。

 ハッピーエンドを渇望する、希望号(デウス・エクス・マキナ)。
 搭乗者は、青の厚志・芝村舞ペア。








 さて。
 この希望号、最初から横浜ハイヴ攻略作戦に参加していれば、人類軍に一切の損害を出すことなく、単機突入によって反応炉を破壊出来ていただろう。
 だがそれをしない、それが出来ない理由が、勿論あった。

 中隊単位で緊密な戦闘隊形を取る黒鷲達が、希望号の行く手を遮っている。
 横浜市内に大規模展開する七星重工、セプテントリオンの私兵の存在。これを排除しないままに希望号が横浜ハイヴ攻略作戦に参加すれば、セプテントリオンは人類軍ごと希望号の抹殺に奔ることは間違いなかった。攻略部隊を大混乱させる愚を冒さない為にも、希望号は、戦域から僅かに外れた場所で、こうしてセプテントリオンの刺客と相対している。



『そこを退いてくれ。あしきゆめを赦し、希望を後に繋ぐ。その為に、ここに来た』



 豪華絢爛の光輝を纏う希望号は、その厭らしさを体現した漆黒を纏う戦術機に、告げた。

 希望号に搭乗する青の厚志の言葉。

 これは最後通牒。

 だが、対峙するセプテントリオンの返答は、決まっていた。



『――くそくらえ、だ。各機に告ぐ、ここで希望号を討つ――』



 黒鷲が、一斉に動き出す。手持ちの火器を撃ち放ちながら、散開する36機のF-15SEP。その動きは、洗練されている。素早く三次元的な包囲網を形成し、光速のスペシウムレーザーと超音速の36mm機関砲弾による火網を希望号に被せる。
 72本の火線が、廃墟を蒸発させ、地面を穿つ。
 だが希望号本体を傷つけるには、至らない。その背に生やした黄金の翼――空間姿勢制御装置VG翼をはためかせ、急上昇した希望号は、全周から押し寄せる飛翔体を回避する。そして希望号の頭上へ降り注いだ弾体は、虹の輝きを前にして、全て運動エネルギーを失った。



『超次元防御システム――!』



 希望号が掲げる左甲手。七色の光輝を帯びる円盾が、そこにある。あらゆる物理干渉を遮断するそれは、当然の如く全ての高速飛翔体から、希望号本体を守った。36mm機関砲弾のシャワーは、虹色の盾を傷つけることはおろか、音を立てることもなく、ただの鉄の塊として盾の表面を転がり落ちてゆく。



『うろたえるな――絶対物理防壁と同じだ、あの盾は一面しか守れない!』



 そこからは激しいドッグファイト。

 物理法則を無視した機動を取る希望号は、火網をするすると潜り抜けて、黒鷲を翻弄する。照準に目標を収めることさえ出来ず、苛立つ刺客達は、とにかく希望号を追うことに必死になる――。
 そこに、連携のほつれが生まれる。
 まず突出した黒鷲が、剣鈴に叩き斬られた。銀の火焔を纏い、清浄なる鈴音を響き鳴らすその武楽器は、何の抵抗もなく刃を頭部から股下まで通し、哀れな鷲を両断。地へ落とす。
 次の犠牲者は、僚機が剣鈴に捉えられた瞬間を見、援護に入ろうとした黒鷲であった。
 突撃砲をかなぐり捨て、超高周波刃に換装済の接近戦用長刀を手にした黒鷲が、脇から希望号に斬りかかる。袈裟懸けの一撃。しかも左甲手による超防御を念頭においた、希望号右側面に仕掛ける斬撃であった。斬りかかる黒鷲の刺客は、間違いなく殺った、と思っただろう。
 
 次の瞬間に解体されていたのは、斬りかかった黒鷲の接近戦用長刀であった。

『ちっ――』

 最初の黒鷲を斬り捨てた剣鈴は、返す刃で向かって来る接近戦用長刀を、空中で無害な物体に貶めたのである。具体的には、その長大な刀身を12分割した。そうして黒鷲の斬撃を無力化した後に、火焔の塊を掴む希望号の左拳が、胸部正面装甲を一撃で穿った。
 この間、一秒と掛からず、向かって来る砲弾は、僅かな動きで回避し、回避不可能なものは、左拳から吹き上がる白銀の火焔が呑み込む。すべての土を従える不定形の炎剣――火の国の宝剣を、金属で構成される砲弾が突破出来るはずがなかった。
 その不定形の銀剣は、飛来する砲弾を喰らい尽くすと、更に火焔を噴き上げ、その刃を更に長大なものとする。



 ……次の瞬間、一定範囲内に居合わせた数機の黒鷲は、空に散ることとなった。



 希望号が、空中で身を捩じらせて半回転すると同時に、その両手から火焔の刃が迸る。銀の剣を構成する火焔は不定形、故に、射程は無限。そして左手に収まる火の国の宝剣には、あらゆる土、鉱物、金属が従属する――故に、如何なる装甲板も容易に断ち斬ることが出来る。火焔の刃は、装甲板を溶断するのではなく、刃が通る軌道上から「退かせて」しまうのである。

 過去あるいは未来の事象として、惑星をも両断したこともある反則級の斬撃が、一瞬にして黒鷲どもを斬り捨てたのだった。



『ヒノカグツチかッ!』



 セプテントリオンの刺客達に、動揺が走る。

 希望号が左手に握る、火焔。火の国の宝剣、「ヒノカグツチ」。あるいは「マジックソード・オブ・ムルブスベイヘルム」「ドラグンバスター」。
 一切の物理防御無視、射程無限、攻守共に最強の宝剣の存在は、彼らもよく知っているつもりではあった。だが目前でその威力を見せ付けられれば、驚くなと言う方が無理というもの。しかも火の国の宝剣「ヒノカグツチ」は、絶技を超える破壊力をもつが、絶技ではない。絶技発動に必要となる詠唱を、「ヒノカグツチ」は必要としない。

 刺客達は、素早く思考を巡らす。
 如何にすれば、「ヒノカグツチ」を突破出来るか。
 
 ……出ない筈の答えを考えている合間に、不定形であることを活かして拡大を続ける火焔の壁は、貪欲に飛来する砲弾を呑み込みながら、希望号を中心とした巨大な旋風となり、そして渦巻く炎龍は、青の厚志の前に立ち塞がった愚か者どもを、一瞬で呑み込む。

 今度は、全ての黒鷲を食い尽くした。

 後には、何も残らなかった。
 セプテントリオンが放った刺客は、存在した痕跡を残すことさえも、許されなかった。





 だが、またひとつ、希望号に相対する影が現れる。





『終わり、じゃないみたいだね』

『わかりきったことを。連中は、諦めが悪い……』



 地上に降り立った、希望号の背後。



 東京湾から、新手の人型機動兵器が、現れる。

 希望号が願望の同一存在だとすれば、そこに現れたのは、悪意の体現者か。



 頭部前面と後面に張り付いた顔には、残忍さを帯びる古拙の笑みが浮かぶ。胴部前面に4本の腕、胴部後面に4本の腕。合計8本の腕を有する怪物が、そこにいる。
 後にハッピーエンドを信じて戦う世界移動存在(プレイヤー)を、いとも容易く全滅させることになる魔道兵器――エースキラー。この世界においては、国連太平洋方面第11軍横須賀基地(在日米軍横須賀基地)を強襲し、駐留部隊を鎧袖一触粉砕し、五次元効果爆弾を奪取する働きを見せている。
 カタログスペック上は、このエースキラーは如何なる兵器をも超越する能力をもつ。第7世界の芝村裕吏氏の言葉を借りるならば、戦力は希望号の100倍。かつて「あくまで戦力"が"100倍ということですよね」という旨の介入者(プレイヤー)の疑問に対して、「他の性能面では200倍あることもある」旨を、芝村氏は語っている。
 ……つまり全能力値において、エースキラーは最低でも100倍、希望号より強く、能力値によっては200倍の性能を誇るのだという。



 人々の「希望」の体現と、セプテントリオンの「悪意」の権化。

 希望号とエースキラーが、対峙する。





 先に動いたのは、希望号。

 希望号は火の国の宝剣「ヒノカグツチ」を振るい、長大な火焔の刃を放つ。
 だが強力な障壁の境界面に激突した至高の斬撃は、それ以上肉薄することも出来ず、到底本体に達しない。希望号の100倍以上の防御力、これは誇張でもなんでもないということだ――だが青の厚志もそれは承知の上。希望号は火の国の宝剣を振るいながら、地を蹴って一気にエースキラーとの距離を詰めにかかる。

 一方でエースキラーは、前腕4本を掲げて迎撃の構えを取りつつ、後腕4本を前面に廻し(腕関節は逆関節構造になっている)、そこに保持している火器を、希望号へ指向した。

 ……正確にはそれは、火器ではない。
 一応銃器の形を模したそれは、防御無視の光線を吐き出した。



『N・E・P――!』



 希望号に搭乗する芝村舞が、思わず声を上げた。

 迸る青白の光線。
 希望号は、素早くその効果範囲内から逃れる。

 全てを「なかったことにする」、時間軸を遡り、存在自体を抹消する馬鹿げた兵器が放った閃光は、希望号を捉えることが出来ないままに、かつての横浜市街を構成する、幾許かの廃墟を消し飛ばしていた。よく誤解されがちだが……あくまで世界外の異物を排除する「だけ」の「聖銃」の能力を拡大した、最終兵器N・E・Pは、「情報分解→世界移動→再構成」のサイクルを、「情報分解→世界移動」で終わらせることで、如何なる物体も消滅させることが出来る。

 N・E・Pに対して有効な防御手段は、存在しない。

 それは希望号も、例外ではなかった。仮にN・E・Pの直撃を受ければ、希望号の存在さえも情報分解され、「なかったこと」にされてしまう。



 N・E・Pが放った閃光が消え失せた後は、彼我距離ゼロ。
 壮絶な白兵戦が始まった。



 地面を一蹴り跳躍し、エースキラーの懐に飛び込んだ希望号は、その頭部に剣鈴を振り下ろす。……刃は、エースキラーの頭部に届かない。主観で音速どころか光速に達するのではないかという速度で振り下ろされた剣鈴は、白刃取り、エースキラーの上部前腕2本で受け止められてしまっていた。
 そしてエースキラーの反撃は、下部前腕による殴打。握り締められた巨大な拳が、至近距離にいる希望号へ叩き付けられる――だが、これも希望号に達する前に停止した。剣鈴をあっさりと手放した希望号は、自由となった左手から虹色の盾を展開させ、この打撃を受け止めた。

 そこから、打撃の応酬は続く。

 エースキラーは上部前腕2本で掴んでいた剣鈴を投げ捨て、華奢な希望号を叩き潰そうと、その拳を振り下ろす。対する希望号は、それをまたもや左甲手の超次元防御システムで防ぎつつ、銀色の火焔を宿した右拳を叩きつける――物理障壁を、破れない。

 先に有効打撃を繰り出すことに成功したのは、エースキラーだった。

 下部左腕が繰り出した強烈な打撃が、希望号の腹部を捉える。

 蒼穹を思わせる追加装甲が、ひしゃげ、ひしゃげながらも何とか堪える。
 思わずたたらを踏む、希望号。

 そこに、暴虐が襲い掛かる。



 前面四本の腕が繰り出す猛烈な打撃を――希望号は、捌き、きれない――!



 希望号が、吹き飛ばされた。



 たった一瞬の攻防で、希望号が纏う装甲は、陥没し、砕け、崩壊した。部分部分で装甲板が剥がれ、内部構造が剥き出しになっている。内部構造へのダメージはない。だが、もう一撃、二撃喰らえば、恐らく全身が機械から成る希望号は、機能不全に陥ることは間違いなかった。
 自然回復も、間に合わない。



『装甲強度は数値にして、0になったぞ』

『うん。言われなくてもそれくらいわかるよ……舞、追加装甲のパージ、お願い』

『うむ』



 全身に纏わりついていた半損の追加装甲が、小気味いい爆音と共に希望号から脱落する。鏡の如く磨き上げられた、青い青い装甲板が、戦塵塗れる荒野に横たわる。一回り小さくなってから、希望号は、起き上がった。

 正直なところ、勝ち目は薄い。
 前述の通り、エースキラーの能力は、最低でも希望号の100倍。
 勿論このエースキラー、倒せないわけではない。将来の世界移動存在(プレイヤー)が、実際に撃破に成功している。……だがそれも100名近いプレイヤーが、エースキラーを完全に包囲した状態で、重火器を撃ちまくってようやく倒したのである。
 青の厚志と言えども、このエースキラーを単機で撃破することは、困難だと言わざるを得ない。



 それを承知で、希望号は、駈ける。

 ひとつしかない眼が、悪逆非道の魔道兵器を睥睨する。
 この先に、未来がある。



 戦塵を巻き上げ、荒野を踏み締め、最強の魔道兵器に挑む。四本腕が繰り出す打撃を避け、希望号は破ることが叶うか分からない障壁を殴りつける。両拳が纏う白銀の火焔が、吼える――貴様を倒す、それが世界の選択だ、と。地が揺れた。火の国の宝剣に従う、全ての土が、賛同の声を上げる。

 だがしかし、エースキラーは身動ぎもしない。
 どんな万感が篭った一撃も、現実として存在する障壁を破ることが出来ない。物語に触れたところで、その世界が辿る結末を変えることは出来ないように――とふたつの顔をもつ魔道兵器は嘲笑する――お前たちは、俺を止めることは出来ない。



 希望号が放った左腕の一撃と、エースキラーの放つ下部右腕の一撃が、交錯する。



 擦過する両腕。



 瞬間、希望号の左腕に残る外装の全てが衝撃波で弾け跳び、剥き出しになったインテチジェット・マテリアル・マッスルが解れ、綻び、内部構造が滅茶苦茶に大破し、みるみる内に圧壊し、肩関節から左腕部全てが脱落した。

 そして、擦れ違っただけで希望号の左腕を粉砕した、エースキラーの右拳は希望号の胴部を捉え、また再び空中へ吹き飛ばす。激しい衝撃に、希望号の全身が揺さぶられ、相当なダメージが蓄積していた四肢の内部構造が破損する。

『――ッ!』

 地に叩きつけられた希望号は、立ち上がろうとする。
 ……だが、その指は地を掴むばかりで、立ち上がれない。おそらく、脚部をやられた。先程の一撃で、操作系の一部が損壊したに違いなかった。












 完膚なきまでの、敗北であった。












 ただし、まったく無関係の他者から見れば、である。

 実際のところ、希望号に敗北は有り得ない。希望号は前述の通り、ハッピーエンドを渇望する人々の想念の体現である。故に、希望号は、エースキラーには敗北しない。我々が無限に抱くことが出来る願望が、この希望号の同一存在なのだから。

 第7世界の我々の、第6世界の知類の、第5世界のクローンの、第4世界の、第3世界の、第2世界の、第1世界の、そしてこの世界の人々の平和を渇望する想いの体現者。争いの調停者。

 それが、希望号。



 故に、希望号は、負けない。



 燃え盛る銀の剣「ヒノカグツチ」が、その姿を換える。

 水銀の如き流動体となって、希望号の全身を駆け巡り、瞬く間に損壊した内部構造の代替となって働き始め、喪った左腕を新たに形成する。



 希望号が立ち上がる。
 ……それが、世界の選択だった。



 希望号は、ここでエースキラーに勝つ!

 それが、世界の選択――否、我々の総意。



 希望号は、横浜ハイヴへ向かう。

 それが我々の総意。

 平和を渇望する我々の総意。

 あしきゆめを赦し、BETAを駆逐することを望む、我々の総意。







 全宇宙のBETAを駆逐する!

 末期戦染みた世界を、救済し、EX世界が如き世界へと還元せんとする!







 それが、我々の総意。





 希望号は、「ヒノカグツチ」によって再生した左掌を、何度か握り締め、開き、調子を確かめる。

 一方でエースキラーは、前腕四本を隙無く構え、また再び迎撃の姿勢を取った。
 悪意の権化たる彼自身に知性があれば、彼は言ったであろう――「剣鈴も、超次元防御システムも、火の国の宝剣もなしに、どうやって戦うつもりだ」、と。
 成る程、従来持っていた希望号の得物、剣鈴はエースキラーの足下にある。また最強火力の「ヒノカグツチ」は、希望号の内部構造と左腕の再生・維持に用いられており、いまはその刃としては利用出来ない。……最強の防具である超次元防御システムも、先程左腕を喪失した際に失われた。

 だが、誰かが言う。



「だからどうした」、と。



 希望号の全身を、青白い精霊が駆ける。

 掻き集められるリューン。

 青の厚志の下に集うリューン、その数は億に達した。
 超新星爆発が如き、眩い輝きが希望号を包み込み、その精霊回路を駆け巡って加速する。
 ……それを見れば、絶技を発動するつもりなのであろうことは、誰しもが予測のつくことだ。

 だがエースキラーは、桁外れの膨大なリューンを前にしても、別段平静を保ったまま動かない。青の厚志が放つであろう絶技は、間違いなく精霊手。そして計算上は、自身が纏う障壁と、こちらの絶技による防御を以てすれば、精霊手の直撃にも堪えられるはずだった。
 エースキラーを建造したセプテントリオンは、特に青の絶技に関しては全て想定済み、あらゆる対策を講じていたのである。



 絶技では――既知の絶技では、希望号は勝てない。



 膨大な光が、その左拳に集積される。
 それはまさしく精霊手。いまにも希望号の全自動決め台詞詠唱装置は、精霊手の完成を宣言し、光曳く拳は、その億単位のリューンを解き放たんとしている。……青の厚志とて、分かっている。精霊手では、魔道兵器エースキラーは倒せない。絶技では、第3世界や、第5世界、第6世界の技では、エースキラーは倒せない。

 だから――。







『我らは、この世界において最強の技を使わせてもらう!』
 




 
 
 全自動決め台詞詠唱装置を通して、青の厚志と芝村舞の叫びがエースキラーにぶつけられる。
 この世界における最強の技――どこか離れた場所で観戦している岩田は、目を剥いた。そんなものがあるはずがない。この世界の技術力は、たかが知れている。最強の武器と言えば、BETA由来の資源を用いて建造する電磁投射砲、あるいは荷電粒子砲がせいぜいであろう。当然、精霊回路の技術はなく、絶技もない。「この世界における最強の技」では、対希望号用に調整した、エースキラーの障壁と防御措置を貫くことは、まず不可能だ。……不可能なはずだ!

 だがはったりでもなく、希望号はこの世界の「最強」を発動しようとしている。

 希望号が、腰を沈める。
 青白く光る拳は、その光輝を弱めてまるで夢幻の如く儚く輝き、だがいまにも爆発しそうな勢いを内包したままそこにある。対するエースキラーは、魔道兵器としての能力を万全に果たし、あらゆる防御措置をとってこれに相対する。



『それは、とてもちいさな――』



 我々は、それを知っている。

 この世界における、「最強」を。

 故に我々の同一存在、希望号も、それを再現することが出来る。



『とてもおおきな――とてもたいせつな――』



 いとも容易く、大気圏外へ吹き飛ばす!



『あいとゆうきのおとぎばなし――!』







――白銀武を!

 いとも容易く大気圏外へ吹き飛ばす、最強の拳――!







『完成せよ――』



 希望号が、地を蹴る。
 速い。残光を曳く腰溜めの左拳だけが、僅かに視認出来る。
 1秒も掛からず彼我の距離を詰めた希望号は、その夢幻から現れた左拳を、放つ!











『どりるみるきぃいいい――ふぁんとぉおおおおおおおむ!』












 螺旋状に回転するリューンを纏った左拳が、爆発的に発光する。

 エースキラーの障壁は、瞬く間によじきられ、我々がよく知る鑑純夏の「幻の左」を再現したそれは、エースキラーの腹腔をぶち破り、そのまま上へ突き上げられる拳は、胸板を抉り、余波で四肢を粉砕し脱落せしめつつ、最後には嘲笑を浮かべるエースキラーの顔の底辺を捉えた。「幻の左」に顎を捉えられた以上、もはやその犠牲者の行く末はただひとつ。

 地球の重力を振り切る所謂、宇宙速度で、エースキラーは垂直に吹き飛ばされる。

 どりるみるきぃふぁんとむの直撃を受けた魔道兵器は、外装をぼろぼろと脱落させながら、対流圏、成層圏、中間圏、高度100kmのカーマンラインを超越して、大気圏外まで叩き出され、二度と地表に戻ることは出来なくなった。毎朝……とは言わないが、よくこの種の打撃を喰らう白銀武のように、地球上へ戻ってくることは出来ない。
 その反動たるや、凄まじい。
 希望号は空間姿勢制御装置VG翼を展開し、自身をその現空間に縛り付けていたから良かったものの、仮にそれをしていなければ希望号も対流圏(上空数km~十数km)にまで吹き飛ばされていてもおかしくはなかった。
 ……全身は、当然の如く大中破である。
 自立出来ているのが、不思議なほどだった。

 だが、とにかく、希望号は勝利を収めた。



 希望号の前途――横浜ハイヴへの道を塞ぐものは、もう何もない。
 














―――――――



 以下、言い訳。






※意図せず「マジックソード・オブ・ムルブスベイヘルム」(ドラグンバスター・ヒノカグツチ)の攻撃力弱体化。逆に性質強化("あらゆる火と土の主"という性質と、"不定形"という設定を活かした変化等)しました。

※エースキラーは「戦力100倍」仕様、滅茶苦茶強い設定にさせて頂きました。

※希望号(OVERS)の同一存在の範囲を広げました(イベントに参加した人間だけでない、また今回はマブラヴシリーズに触れた人間も含めます)。

※その世界における異物"しか"排除出来ないのは「聖銃」とします。NEPはその世界の物体でも排除可能(でなければ第6世界の宇宙戦争で、魔女艦隊に対して使用された理由がつかないから)です。

※最後のそれに関しては、OVERSの同一存在(=我々)が観測し得る、平行世界の中(アユマユオルタ含む)からの選択です。



 思ったよりも希望号vsエースキラーが長文と相成ったので、横浜ハイヴ攻略戦は次回以降で……申し訳ありません。

 次々回あたりで、【横浜編】を終了としたいです。


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